2007-05

「館長雇止め・バックラッシュ裁判」まもなく結審――桂館長証人尋問とその後

 このブログでたびたびお伝えしている、「館長雇止め・バックラッシュ裁判」(大阪府豊中市の男女共同参画推進センター「すてっぷ」の館長だった三井マリ子さんが、バックラッシュ勢力の圧力に屈した豊中市によって2004年3月に雇い止めされたことを訴えた裁判。|事件の概要|この裁判を支援する「ファイトバックの会」のHP)ですが、さる2月21日、桂容子現館長の証人尋問がおこなわれました。

 被告(豊中市と「すてっぷ」財団)側は「2004年2月、三井さんと桂さんに対して公正な試験をおこなった結果、新館長として桂さんを決定した」と主張していました。
 それに対して、原告(三井さん)側は「面接が実施されるまでもなく、桂さんが新館長に選任されることはとっくに決まっていた」と主張していました。さらに、「その点は、桂さんに対する館長就任要請の説得活動などの実態を明らかにすることによって証明できる」とも主張してきました。
 裁判長も、桂さんの証人尋問の必要性を認めたため、桂さんに対する証人尋問がおこなわれることが、昨年、決まりました。
 それだけに、この日の桂さんの証言は注目されました。

 ただし、桂さんは「原告側の証人」として法廷に立ったわけではありません。それどころか、被告側の「すてっぷ」財団の職員という立場にありました。
 しかし、私は、にもかかわらず、彼女の証言によって、原告の三井さん側の主張の正しさはいっそう裏付けれらたように思いました。

〈目次〉
1.桂さんを何と言って説得したか?
2.一村市議の「陳述書」について
3.採用選考委員会は公正だったか?
4.三井さんを排除した組織変更は「体制強化」になったか?
5.桂証言全体として言えること
6.桂館長辞任――その意味するもの
7.バックラッシュ派の北川悟司氏が落選
8.結審は6月6日(水)

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大学非常勤講師の実態報告書に反響続々

 先日ご紹介した『大学非常勤講師の実態と声 2007』ですが、あちこちのブログなどで取り上げられているようです。
 この報告書自体が発刊されたのは4月ですが、関西圏大学非常勤講師組合のサイトで読むことができるようになったのは今月の25日です。それからまだ5日も経っていないのに、私が確認しただけでも、すでに10近いブログなどで取り上げられています。

 そのすべてはご紹介できませんが、個人ブログだけでなく、「館長雇止め・バックラッシュ裁判を支援する会(略称「ファイトバックの会」。原告:三井マリ子さん)」のブログでも取り上げられています。ごく短い記事ですが、「どんどん買って、どんどん読んで、どんどん広めよう!」と力強い激励をくださっています。
 「大学非常勤の実態報告書、発刊」

 また、さとうしゅういちさんは、すぐさまインターネット新聞「JANJAN」に詳細な記事を書いてくださいました。述べられているコメントも鋭い。
 「『放っておいたら大変』 大学非常勤講師の惨状」

 さらに、このパンフへの直接の反響というわけではありませんが、山口ともみさんは自らのブログ「フェミニストの論考」で、アメリカの非常勤講師問題について論考を書いてくださっています。アメリカでのこの問題が、日本でこのようにまとまった形で紹介されるのは初めてではないでしょうか?
 「アメリカの大学における院生労働者・非常勤問題」

 これらの記事も、ぜひご参照ください。
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陳敏『吶喊:中国女性反家庭暴力報告』

 陳敏『吶喊:中国女性反家庭暴力報告』(人民出版社 2007年)が、この5月に出版されました(ネット書店「書虫」のサイトの中のこの本のデータ)。

 構成は以下のとおりです。
第1章 何が家庭内暴力か
第2章 家庭内暴力についてのよくある誤解
第3章 加害者
第4章 被害者
第5章 家庭の暴力的関係の中の子ども
第6章 あなたはどうすべきか

 これは、中国で初めて出版された、家庭内暴力についてのきちんとした啓蒙書だと思います。
 中国では、2000年に研究者などが、家庭内暴力反対ネットワーク(反対家庭暴力網絡)というNGOを結成するなど、近年、家庭内暴力に対する取り組みがすすめられています。家庭内暴力反対ネットワークは、家庭内暴力に関する調査研究、関係者への研修、家庭内暴力防止法の建議稿の作成などをしており、それらは、ジェンダーの視点も取り入れておこなわれています。
 ただし、これまで彼女(彼)らが出版してきた書物は、どちらかと言えば専門家向けのものでした。
 けれど、この本は、一般の人々に家庭内暴力に関する正しい理解を深めてもらうために出版されています。たとえば、この本の第2章は、家庭内暴力に対するさまざまな俗論を批判しています。また第4章は、被害者や本当に自分を変えたい加害者、支援者などに対する実践的な助言を掲載しています。

 著者の陳敏さんは、中国で初めて「バタードウーマンシンドローム」の理論を紹介した人として有名です。陳さんは、その理論を生かして、弁護士としても、家庭内暴力の被害者の女性が夫を殺してしまった事件の弁護などに活躍してきました。「家庭内暴力には調停は適用すべきではない」ということを最初に主張した人でもあります。
 また、被害女性のサポートグループ(受虐婦女支持小組)の顧問やグループ長を8年間、担当してきました。
 この本を出版したのは、陳さんが、家庭内暴力の被害者から「私たち被害者が読む本も書いてほしい」と言われたことや、裁判官が家庭内暴力について理解しているか否かが、被害者の夫殺しの量刑を大きく左右するという経験をしてきたことなどによるものです。

 一般向けの啓蒙書ですから、すでに家庭内暴力についてよく知っている人にとっては、あまり面白い書物ではないかもしれません。
 けれど、挙げられている事例の多くは、サポートグループのメンバーの体験などであり、けっしてどこかの外国の事例の借物ではありません。
 また、こうしたわかりやすい一般向けの書物が出版されたこと自体が、中国の家庭内暴力反対活動の一里塚だと言えるのではないかと思います。

 追記:栄維毅さんの綿密な書評「受暴女性自我救助指南及所有相関人群的必読書――読《吶喊:中国女性反家庭暴力報告》」が家庭内暴力反対ネットワークのサイトに出ています。
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仙頭史子さんから三井マリ子さんにエール

 この3月に勝利和解を勝ち取られた、アステラス製薬男女差別裁判・元原告の仙頭史子さんから、館長雇止め・バックラッシュ裁判原告の三井マリ子さんへ、以下のメッセージがこのたび寄せられました。


 三井さん。アステラス製薬男女差別裁判・元原告の仙頭です。私は同じ裁判長,共通の弁護士の下で,4度にわたる大法廷での証人尋問を満席にして男女差別裁判をたたかった結果,「原告の処遇と,原告と同時期入社同学歴である他の男性従業員の処遇との間に格差が存したことが認められ」(*)と,当方の主張がほとんど認められたことから判決を待つことなく3月27日に和解しました。
 元原告として,正社員の差別裁判はある程度流れができたように感じました。しかし,社会における差別が解消したわけではなく,派遣社員や契約社員と名を変えて差別はますます増えています。三井さんのように館長職に就くような人材でも非常勤という枠に押し込められれば,都合のよいように使い捨てにされ得る時代です。このような流れに釘を刺し,真に人格が尊重され,働きやすい社会にするために,立ち上がられた三井さんの元気にエール! 是非勝訴して多くの女性に三井さんからのエールを送って下さい。(裁判傍聴にも参加できず,何のお役にも立てなくて申し訳ありませんが)私も心から応援しています。
 最後に,私の裁判で証人尋問を大法廷で開くことができたのは,直前に三井さん裁判の「大法廷を使用させよ」事件が話題になったおかげなのです。ありがとうございました。
 仙頭史子

(*)和解条項の前文の一節にこのように明確に書かれています。


「アステラス製薬・仙頭史子さんの男女差別裁判を支援する会」のサイト
http://www003.upp.so-net.ne.jp/sentou/
「館長雇止め・バックラッシュ裁判を支援する会」のサイト
http://fightback.fem.jp/
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(日本)大学非常勤講師の実態調査報告書

 昨年から一昨年にかけて、関西圏大学非常勤講師組合・首都圏大学非常勤講師組合・ゼネラルユニオンなどは、大学非常勤講師実態調査アンケートにとりくみました。
 このたび、その報告書である『大学非常勤講師の実態と声 2007』が完成しました。

 関西圏大学非常勤講師組合のホームページで、全文を読むことができます(英文でも読めます)。
 http://www.hijokin.org/en2007/index.html
 冊子版も、1冊1000円(非常勤講師には500円)で頒布中です(送料は1冊の場合、210円です)。

 合計1011名の大学非常勤講師から回答が得られました。
 アンケートが明らかにした専業非常勤講師(主に大学の非常勤講師を職業にしている人)の実態は、以下のようなものです。
 ・55%が女性、45%が男性。
 ・76%が日本国籍、24%が日本以外の国籍。
 ・平均年齢は45.3歳。
 ・平均年収は、306万円で、44%の人が250万円未満。
 ・授業・研究関連の支出の平均は27万円で、ほとんど公費は出ていない。
 ・平均経験年数は、11年。
 ・平均勤務校数は、3.1校、平均担当コマ数は、週9.2コマ。
 ・専業非常勤講師の96%が、職場の社会保険に未加入で、75%が国民健康保険、15%が扶養家族として家族の保険に入っている。国民健康保険料は、平均26.4万円(平均年収の8.6%)と高額で、国民年金保険料(年16.6万)とあわせると、年収の13%。非常勤先で社会保険加入を希望する人は、79%。
 ・雇い止め経験のある専業非常勤講師は、50%。
 ・専業非常勤講師のうち、非常勤講師に労災保険が適用されることを知っているのは27%、年次有給休暇の制度がある大学もあることを知っているのは24%。
 ・大学非常勤講師の労働・教学条件について不満のある専業非常勤講師は95%で、特に、雇用の不安定さ、低賃金、社会保険未加入、研究者として扱われないことなどに不満を持つ人が多い。

 詳しくは報告書の本文を参照してください。
この報告書は、「自由記述欄」もきわめて充実しています。ぜひご覧ください。
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家族・仕事・家計に関する国際比較研究の中国パネル調査報告書

 お茶の水女子大学21世紀COEプログラム「ジェンダー研究のフロンティア(F-GENS)」プロジェクトB編『家族・仕事・家計に関する国際比較研究:中国パネル調査第2年度報告書』が、この3月に刊行されました。
 この調査報告書は、現在の中国(具体的には北京市の中心八区)の家族や労働、家計などの問題を、ジェンダーの視点から理解する上で非常に貴重な資料です。分厚い冊子にデータと分析がぎっしり詰まっています。各章の内容は以下のとおりです。
 序章 第2年度追跡調査の実施状況(永瀬伸子)
 第1章 男女の地位(永瀬伸子)
 第2章 家族観とジェンダー意識(山谷真名)
 第3章 情報通信技術化とジェンダー(石塚浩美)
 第4章 世代間の居住関係(辺静)
 第5章 生活ストレス(李秀眞)
 第6章 家事の外部化・金銭評価と資産管理(御船美智子)
 第7章 両親の学歴と職業(長町理恵子)
 第8章 育児観念(竹沢純子)
 第9章 結婚・出産タイミングの変化および夫・親族の家庭役割(永瀬伸子)
 第10章 住まいと通勤の変化(水野勲)
 第11章 家族、家庭・生活満足度の変化(鄭躍軍)
 第12章 世帯類型別にみた北京夫婦の働き方(篠塚英子)
 第13章 消費の変化(竹沢純子)
 第14章 所得の変化(水落正明)
 第15章 職と労働時間の変化(永瀬伸子)
 第16章 生活時間の変化(李秀眞)

 第1年度の報告書である『家族・仕事・家計に関する国際比較研究:中国パネル調査第1年度報告書』は2005年に刊行されており、以下の内容です。
 第1章 調査の目的・調査方法及び調査結果(永瀬伸子・鄭躍軍)
 第2章 教育・学歴(村尾祐美子)
 第3章 現在の就業(石塚浩美)
 第4章 配偶関係別に見た現在の北京就業者(篠塚英子)
 第5章 就業履歴(永瀬伸子・村尾祐美子)
 第6章 住まいと通勤(水野勲)
 第7章 婚姻、子どもと家庭生活満足度(鄭躍軍)
 第8章 家族と保育(永瀬伸子・長町理恵子)
 第9章 家事分担(山谷真名)
 第10章 女性の就業に対する考え方(長町理恵子・金子憲)
 第11章 家庭内意思決定と家庭の社会階層帰属意識(辺静)
 第12章 家計管理(御船美智子)
 第13章 家計の支出(竹沢純子)
 第14章 家計の収入(杉橋やよい)
 第15章 生活時間(大竹美登利・李秀眞)

 初めに挙げた第2年度の調査は、この第1年度の調査の追跡調査なのですが、第2年度の特別テーマとして「ジェンダー平等・ジェンダー観」「情報利用」「親子・夫婦関係」などを設定したそうです。また、これらの調査項目はソウルと比較できる設計となっているとのことです。
 ソウル調査については、すでに第3年度調査の報告書『家族・仕事・家計に関する国際比較研究:韓国パネル調査第3年度報告書』が、この1月に刊行されています。

 お茶の水女子大学のこのプログラム、「ジェンダー研究のフロンティア(F-GENS)」はアジアを重視しているようで、その刊行物では、中国・台湾・香港のジェンダーの問題もしばしば取り上げられています(刊行物の紹介)。ご参照ください。
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近年の中国女性学を論じた3つの論文

 昨年から今年初めにかけて、近年の中国の女性学を論じた以下の三本の論文や報告が相次いで発表されました。

大浜慶子「中国における女性学制度化の歩み─北京世界女性会議以後の新動向─」日本女子大学教育学科の会『人間研究』第43号(2007年)89-99頁。
 〈構成〉
一、中国の女性学・ジェンダー研究推進の新体制
 1.女性学vsマルクス主義女性論
 2.北京女性会議以後、女性政策におけるジェンダー視点の導入
二、大学における女性学制度化の二つの経験と戦略
 1.共学大学の戦略
 2.女子学院・女子大学の戦略
三、独立学科をめざして―北京大学と中華女子学院のケース
 1.北京大学のケース
 2.中華女子学院のケース
おわりに─中国女性学の課題

秋山洋子「〈北京+10〉中国女性学のいま」『女性学』14号(2007年)90-95頁。
 〈構成〉
北京会議+10年
「近二十年華人社会ジェンダー研究」シンポジウム
女性学の再編成と過去の消去
女性学における新しい動き、そして今後……

李小江(秋山洋子訳)「グローバル化のもとでの中国女性学と国際開発プロジェクト─あわせて本土の資源と『本土化』の問題を語る─」『季刊ピープルズ・プラン』34号(2006年春号)20-34頁。
 〈構成〉
グローバル化のもとでの中国女性学
女性と国際開発プロジェクト
 (1)「開発」の由来
 (2)女性が国際開発プロジェクトに入ったいきさつ
 (3)中国女性の発展問題
 (4)中国女性はいかに世界と軌道を接するか
 (5)国際社会の援助はどのように中国(と中国女性)に「進入」してきたか
グローバル化の動きの中での「本土」問題

 大浜慶子さんは、1995年から北京を拠点にして研究活動をしてこられました。今回の論文「中国における女性学制度化の歩み─北京世界女性会議以後の新動向─」は、そうした自らの実体験や観察を生かして書いておられます。
 この論文は、中国の女性学研究者たちがネットワークを作り、女性学を制度化してきた状況を非常に丁寧にあとづけ、分析しています。
 大学に関して、共学大学についてだけでなく、これまで研究されてこなかった女子学院・女子大学における女性学推進の流れを考察していることも大きな特色です。北京大学の魏国英氏や中華女子学院の韓賀南氏ら、女性学関係者への取材もなさっていて、貴重です。大量の情報を整理しており、北京会議以後の中国女性学の発展(とくに制度化)を知るうえでの必読文献であるように思いました。
 大浜さんは、最後に、中国の女子大学における女性学発展の経験は、女子大学の存在意義という世界共通の問いへの一つの回答にもなっていると述べておられます。また、中国女性学の固有の課題として、中国の女性学は、社会運動によらず最初から研究として導入されたために、社会一般には受容されておらず、大学の研究者が、中国社会の格差や現実の女性問題に対してつながる必要性を説いています(なお、こうした課題は、日本の女性学にも共通の部分はあるので、この点に関する日中の比較なども可能なように思いました)。

 秋山洋子さんの報告「〈北京+10〉中国女性学のいま」は、短いものですが、北京会議十周年にあたる2005年における、中国の女性学事情全般を論じておられます。秋山さんは、中国の女性学の現状を、大浜さんより少し否定的に捉えておられます(もちろん大浜さんも秋山さんも、全面肯定でも全面否定でもないのですが)。とくに、李小江らによる1980年代の自主的な女性学創設の歴史が、現在、消去されかねない状況になっていることを危惧しておられます。秋山さんは、李小江らのネットワークが創ろうとした自由な討論の空間は、現在は、荒林主催の「中国女性主義文化サロン」などが提供していると論じています。
 大浜さんと同じ事実や資料を論じながら、異なった評価をしている箇所もあります(1999年設立の中国婦女研究会、魏国英論文)。研究者のネットワークについての捉え方も異なるようです。もちろんお2人は、対立しているというよりも、それぞれ異なった側面に注目しておられるのだと思います。しかし、2つの論文を併せて読むと、読者は、中国婦女研究会や魏国英論文、研究者のネットワークなどについて自分自身でも調べてみたいという気になるのではないでしょうか? そうした点でも興味深いです。

 秋山さんが翻訳なさった李小江さんの論文「グローバル化のもとでの中国女性学と国際開発プロジェクト」は、国際開発プロジェクトの中国への流入が中国の女性学に与えた影響について批判的に論じています。
 中国国内でも、日本でも、こうした点について論じたものはほとんどなく、これも非常に貴重な論文だと思いました。

 以上の簡単な紹介からだけでも、どの論文も、とおりいっぺんの現状報告ではなく、それぞれが異なった独自の視点から、近年の中国女性学を論じていることがおわかりいただけると思います。
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「近年の中国における離婚女性の諸問題に対する女性たちの動向」

 次の原稿を発表しました。
 不十分なものですが、ご関心のある方はご覧になってみてください。

 遠山日出也「近年の中国における離婚女性の諸問題に対する女性たちの動向」『女性歴史文化研究所紀要』(京都橘大学女性歴史文化研究所)第15号(2007年3月)43-59頁。
  〈構成〉
はじめに
一 単親母親をめぐる女性たちの活動の歴史的展開
 1 1980年代末~90年代前半──一部地区の婦連とNGOが活動を開始
 2 1990年代後半──NGOの単親母親グループ、『中国婦女』の「単親家庭」欄
 3 2000年頃以降──婦連の変化
 4 2003年頃以降──貧困な単親母親への援助、婦連とNGOの共同の単親母親グループ
二 単親母親をめぐる活動の主体──婦連とNGO
 1 調査研究・政策提案におけるジェンダー視点
 2 貧困単親母親(家庭)援助と単親母親の互助・交流グループ
 3 近年の婦連とNGOとの共同の進展について
おわりに
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女性差別撤廃委員会と中国のNGO

 2006年8月に開催された女性差別撤廃委員会第36会期には、中国の女性NGOなども参加しました。その報告が最近相次いで掲載されましたので、その内容を簡単にお伝えします。

中国大陸の女性NGO

 まず、中国のNGOである家庭内暴力反対ネットワークの張祺さんの報告が、同ネットワークのホームページ掲載されています(張祺「消歧委員会第36届会議非政府組織監察員総結報告」)。

 今回、中国からこの会議に参加した女性・ジェンダー関連のNGOは、中国女性研究会(中国婦女研究会)、家庭内暴力反対ネットワーク(家庭暴力反対網絡)、女性メディアウォッチネットワーク(婦女伝媒監測網絡)、ジェンダー資源グループ(社会性別資源小組)、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター(北京大学法学院婦女法律研究与服務中心)、農家女百事通雑誌社の6つです。

 上の6つのNGOは、ニューヨークに行く前に準備会をしています。そこで、女性差別撤廃委員会とNGOとの会談における発言テーマも相談したそうです。その結果、劉伯紅さんと蔡勝さんがNGOを代表して、女性の政治参加の問題と農村女性・移住労働者の問題について発言することになったとのことです。
 今回は、中国大陸の女性NGOは、カウンターレポートは出しませんでした。しかし、中国女性研究会と北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターが、それぞれ座談会をやって、女性差別撤廃条約の執行情況に対する国内のNGOの評価について意見交換をしたとのことです。

 張祺さんは、今回、女性差別撤廃委員会の会議に参加して、だいたい以下のようなことを感じたそうです。
 ・実際に参加したことによって、女性差別撤廃条約の審議の過程やNGOの果たす役割がわかった。
 ・国内では女性差別撤廃条約への理解がまだ少なすぎる。女性の組織や活動家は、女性差別撤廃条約を直接活用することは少ない。女性差別撤廃条約は、女性の人権の基準を提供するだけでなく、全世界の女性組織の交流と協力の場を提供し、女性の人権状況に対する全世界的な世論の空間を作り出しているのだ。
 ・女性差別撤廃条約は政府間の取り決めだけれども、条約を現地の女性運動に利用するためには、民間の女性団体が積極的な行動主体にならなければならない。実際、香港の女性団体は、法律や政策を条約に適合させたり、政府や司法機関を監督したりしている。
 ・今回、中国は、政府の代表団も、NGOのウオッチャーも、参加人数がこれまでの記録を破った。このことは、政府が女性の権利に対して重視の度合いを強めつつあり、女性のNGO組織の力も強まりつつあることを示している。

アメリカの「中国人権」

 また、アメリカの人権団体、「中国人権」(Human Rights in China:HRIC。中国大陸出身の人々が1989年、中国における人権擁護のために設立した組織)は、事前にカウンターレポートを出しました(Implementation of the Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination against Women (CEDAW) in the People’s Republic of China)。
 その執行主任の譚竟嫦(Sharon Hom)さんは、女性差別撤廃委員会の会議で、同レポートについて簡単に紹介しました。

 譚さんは、その際、カウンターレポートで指摘した「核心の問題」として、以下の2点を述べました。
1.情報が封鎖されていて、透明度と情報へのアクセス権が欠乏している。この点は、女性差別撤廃委員会が中国の条約の履行情況を審議する上で不利である。たとえば、女性や女児の誘拐・人身売買、人工中絶や幼児殺に関する統計数字も不明である。情報を得るルートが欠乏していることは、政府の信頼性を根本的に弱めており、また、民間の活動家や一般民衆、メディアが女性の地位向上に貢献するためにも不利である。
2.国内法と国際法の間にギャップがある。たとえば、「差別」の概念の明確な定義がない、「人身売買」の定義が国際規準に比べて弱い(売春との関係だけしか規定しておらず、強制的な労働・サービスが含まれていない)、「家庭内暴力」の定義が北京女性会議の「行動綱領」に比べても狭い、中国の法律体系には適切な履行のメカニズムがないなど。
 (以上、譚竟嫦「中国人権対中国政府第五和第六合併定期報告所作的評估和建議──在聯合国“消除対婦女一切形式歧視委員会”第36届会議上的発言」2006年8月7日[英語中国語])

 こうした内外の力は、現在ではまだ小さなものですが、中国でも女性差別撤廃条約が生かされることにつながっていくと思います。
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「中国における企業の社会的責任(CSR)」報告書

 海外事業活動関連協議会(Council for Better Corporate Citizenship:CBCC)は、このところ、毎年、「中国における企業の社会的責任(CSR)」についての報告書を以下のように出しています。
 海外事業活動関連協議会とは、「海外で事業活動をおこなう日系企業が、進出先社会から『良き企業市民』として受けいられれるよう、ステークホルダーズとの良好な関係作りを支援するため、経団連(現 日本経団連)により1989年に設立された団体」だとのことです(ホームページ)。

・『CBCC対話ミッション「中国における企業の社会的責任(CSR)」報告書』(2005年1月)
・『CBCC中国シンポジウム代表団報告書』(2006年4月)
・『CBCC対話ミッション「中国における企業の社会的責任(CSR)」報告書』(2007年3月)

 (詳しくはホームページの「報告書」のコーナー参照。「団長所見」もPDFファイルで読めます。)

 いずれの報告書も、以下の2点がテーマです。
(1)中国におけるCSRについて
(2)日系企業や海外事業活動関連協議会の今後の課題について

 (1)の点も興味深いのですが、私はとくに(2)の点に注目しました。
 なぜなら、中国の農村からの出稼ぎの女性労働者は、低賃金・長時間労働という劣悪な労働条件で働いているのですが、そうした女性労働者はしばしば外資系の企業やそのサプライヤー(下請け)の生産ラインの労働者だからです。すなわち、その労働条件に関しては、日本を含めた外資系の企業も責任を負っているのです。
 実際、このブログでも取り上げた、ユニデンの中国工場における若い女性の出稼ぎ労働者ら1万数千人のストライキ(2004年12月発生。詳細)に関しては、日本総研の創発戦略センターによる「CSR Archves」のニュースレターでも、「中国における日系企業のCSRリスク」として取り上げられています。

 さて、上記の海外事業活動関連協議会の2005年の報告書では、以下のように、サプライ・チェーン・マネジメントの取り組みを急ぐ必要性を提起しています。
 「欧米企業では‥‥各社が世界共通の行動規範に基づき、関連会社及びサプライヤーへの‥‥定期的監査を実施している。監査の方法は業種により異なるが、各社のプログラムに基づき、社内外の監査チームが自社の定める行動規範に即して、サプライヤーにおける職場環境、労働基準などについて監査を行っている。‥‥これに対し、日本企業は、サプライ・チェーン・マネジメントへの取り組みはまだ始まったばかりであり、体制の整備やCSR担当者の任命などが急がれる」

 また、今年3月の報告書では、NGOとの協力の必要性について触れています。
 「欧米系企業は、欧米系NGOや中国の草の根NGOとの間に良好な協力関係を築き、社会貢献活動の推進に活用している。‥‥日系企業も‥‥長期的な視野から中国におけるNGOへの支援や協力を検討すべき時期に来ている」

 欧米系企業のサプライ・チェーン・マネジメントやNGOとの協力は、極めて不十分とはいえ、出稼ぎの女性労働者の労働条件改善に若干の成果を挙げています。ですから、日本の財界系の団体も、そうした取り組みの必要性を指摘したことは重要だと考えます。

 ただし、上で挙げた3つの報告書は、基本的には、海外事業活動関連協議会の代表団が、各地で中国や欧米のCSR関係団体や日本企業と意見交換をした記録にすぎません。けっして日本企業の取り組みについて詳しく述べた報告書ではないのです。出稼ぎの女性労働者の話もほとんど出てきません。
 また、2年前に指摘された「サプライ・チェーン・マネジメントへの取り組み」も、まだ具体化されたという話は聞きません。

 日系企業が中国におけるCSR活動に本気で取り組むためには、市民団体や労働組合がこうした問題に対する取り組みを強めて、企業を監視することが必要なのではないかと思います。
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中国人「慰安婦」訴訟、最高裁が上告棄却。海南島訴訟、高裁へ。

 4月27日、最高裁は、中国人「慰安婦」第一次訴訟(1995年8月提訴)、第二次訴訟(1996年2月提訴)において、上告を棄却しました。
 「中国人戦争被害者の要求を支える会」のHP(http://www.suopei.org/index-j.html)には、第二次訴訟に関する以下の弁護団声明などが掲載されています。このHPには、この訴訟に関する他の資料も掲載されていますし(各裁判の紹介→「慰安婦」訴訟の箇所を見てください)、間もなく第一次訴訟に関する声明なども掲載されると思いますので、ぜひご覧ください。

弁護団声明
1 本日、最高裁判所第一小法廷(才口千晴裁判長)は、日本軍によって「慰安婦」とされた中国人被害者らが、1996年、日本政府に対して損害賠償を請求した訴訟(中国人「慰安婦」第二次訴訟)において、上告人らの請求を棄却する判決を下した。

2 本件は、中国山西省において、旧日本軍が当時13歳と15歳の中国人の少女を強制的に拉致・監禁し、継続的かつ組織的に性的暴力を加えた事案である。
 本判決は、上告人らの損害賠償請求権について、日中共同声明により個人の請求権は「裁判上訴求する権能」が失われたものであると判示した。
 しかし、日中共同声明の解釈は、本来二国間の一致した解釈によるべきであるところ、日本国側にのみ立った不公正な判断である。また個人の賠償請求権の放棄を明記していない条約の文言解釈にも反するもので、到底受け入れることはできず、極めて不当なものであり断固抗議するものである。

3 もっとも本判決は、本日判決された西松強制連行事件と同様、個人の賠償請求権につき、その権利は実体的には消滅しないと判示した。これは、個人の賠償請求権につき、裁判上訴求する機能のみが失われたとするものであり、個別具体的な請求権について、債務者側において任意の自発的な対応をすることは何ら妨げられないものである。

4 この点、日本政府も、二国間条約で損害賠償問題は解決済みであるとの主張しながらも、「慰安婦」の問題について解決されていない問題があると認め、1993年、河野洋平官房長官の談話(以下「河野談話」という)において、被害者に対して事実を認め謝罪をし、適切な措置をとることを表明した。
 そして、日本政府は、「慰安婦」問題につき「女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性基金)」を設置したが、同基金によってすら中国人被害者に関しては何らの措置もとられていない。
 したがって、本判決で損害賠償請求権が裁判上訴求できないからといって問題が解決されたわけではなく、未だ河野談話の見地にたって解決されなければならないことにかわりはない。
 しかも、それは過去の戦後処理の問題ではなく、被害者らが今なお苦しみの中で生きており、まさに現代において速やかに解決すべき課題である。

5 近時、アメリカ連邦下院における対日謝罪要求決議に現れているように、国際社会は、被害を受けた女性の尊厳と人権の回復のための真の措置をとるよう日本政府に強く迫っている。
 これに対して、安倍晋三内閣総理大臣は「河野談話」を承継すると表明し、また訪米前には、いわゆる「慰安婦」問題は女性達の人権を侵害した問題であり、日本にその責任があると述べた。
 しかし、今、日本政府に問われているのは言葉ではなく行動である。真に河野談話を承継し、また女性達の人権を侵害した問題であると理解しているのであれば、なによりもまずそのことを行動で示すべきである。

6 本件判決は、それぞれ上告人らが旧日本軍により強制的に拉致・監禁され継続的に性的暴力を受けたという中国人被害者らの被害の事実を明確に認めている。
 日本政府が真に河野談話を承継するのであれば、まず上記加害と被害の事実及び責任を認めるべきである。そして、被害者ら一人一人が納得するように謝罪をし、その謝罪の証として適切な措置をとるべきである。
 私たちは、日本政府に対してこれら被害者らの要求の実現を求めるとともに、これらの要求が実現されるまで戦い続ける決意を表明するものである。

 2007年4月27日
中国人「慰安婦」事件弁護団
中国人戦争被害賠償請求事件弁護団


中国海南島戦時性暴力被害訴訟、高裁での口頭弁論まもなく

 先日の最高裁の一連の上告棄却で、「戦時賠償裁判はもう終わった」という論調もあります。
 けれど、「中国海南島戦時性暴力被害者への謝罪と賠償を求めるネットワーク(ハイナンNET)」の皆さんは、負けずにたたかいを続けていらっしゃいます。
 ハイナンNETから、中国海南島戦時性暴力被害訴訟の高裁での期日が決まったという、以下の連絡が入りました。

 高裁 第1回 口頭弁論
 日時:2007年5月15日(火)14:00~
 場所:東京高等裁判所 818号法廷
 所在地:ここをクリック
 
 今回原告の方が来日する予定はありませんが、この問題の重要性を司法に訴え、慰安婦問題に関する私たちの関心の高さを示すためにも、是非とも傍聴席をいっぱいにしたいと考えています。
 平日の午後ですのでお忙しいとは思いますが、ぜひ傍聴に足を運んでください!
 また裁判終了後に、隣の弁護士会館で報告集会を行います。そちらもぜひご参加ください。

 ハイナンNET
 HP  http://hainannet.org/
 ブログ http://blog.goo.ne.jp/hainan-net
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『中国家庭研究』第1巻出版

 上海社会科学院家庭研究中心編『中国家庭研究』第1巻が、2006年12月に出版されました(書虫ウェブサイトの中の、この本のデータ)。

 といっても、この本は、すでに発表された代表的な論文を集めたもので、第1巻は、1980―2000年に発表された、社会学と人口科学領域における、中国の家族を研究した論文を収録しています。ですから、読んだことのある論文もかなりありました。
 『社会学研究』から13本、『中国社会科学』から6本、『北京大学学報』『中国社会学』『清華社会学評論』『中国人口科学』から1本づつ、収録されています。
 女性やジェンダーの問題を直接扱った論文も、張翼「中国人口出生性別比的失衡・原因与対策」、李銀河・陳俊傑「個人本位・家本位与生育観念」、佟新「不平等的性別関係的生産与再生産――対中国家庭暴力的分析」など、いろいろ収められています。

 ところで、「序に代えて」で、鄭杭生氏(中国社会学会会長、中国人民大学教授)は、近年、家族研究の学界における地位が低下していることに強い危機感を表明しています。
 鄭氏は、その原因として、以下のような点を挙げています。
 ・「わが国の経済・社会構造の急激な転換」。「この過程で、客観的に、都市化や労働力の移転、階層のアイデンティティ、社会の公平、人口の高齢化、社会保険・保障などの問題が突出し、主観的にも、以前の家族研究の主力が、自らの主な注意をその他の専門領域に移した。」
 ・「1980年と2001年の2度の『婚姻法』の改正と社会的な大討論が終わり、また基層の単位と社区などの公共領域の、個人の私生活に対する関与がしだいに歴史となり、離婚率の上昇がもう道徳の崩壊や社会の不安定の警戒の指標にならなくなった。」
 ・「国内の家族研究の学科の隔離が、以前からの問題である。家族研究は学科を超えた交流や浸透、融合に欠けており、この点が理論的な革新や、複雑で多元的な社会の難題を有効に解決する障害になっている。」

 けれど、現実にはさまざまな重要な家族問題が起こっているのであるから、家族研究を復興しなければならないと鄭氏は説いています。

 しかし、鄭氏の文の題名は「調和[和諧]社会建設の中で家族研究を重視しよう」となっています。この題名は、最近の政権のスローガンをタテマエ的に借用しただけという面もあるでしょうが、婦連などは、「調和社会の建設→その一部として調和家族の建設」という議論をしがちで、女性個人の権利を副次的なものとして扱う傾向もあります。それだけに、研究までもがそうした傾向には陥ってほしくないとは思いました。
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