2007-04

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大学生の女性学の社団のサイト

 最近、湖南理工学院大学生女性学学会のサイトができました(「湖南理工学院大学生女性学学会」)。学生の女性学の社団としては、初めてのサイトのように思います。

 この学会は、2004年9月に設立され、万瓊華教授と鄭美琴博士を指導教官としています。学会の主旨は「ジェンダー意識を啓発し、ジェンダー公平を唱導する」ことであり、その目的は「女性の独立・自主・自尊・自信・自強の精神を養成する」こと、そのスローガンは「女性の視点で世界を見る」ことだそうです。
 「啓発」とか、「~の精神を養成する」とかという文言を見ると、おとなしくて行儀がよい感じですが(社会変革的な感じではない)、恐らくその点は現在の中国の条件ゆえのことであって、女性解放の視点は明確な感じです。
 また、詳しい状況はわかりませんが、指導教官がいるとはいえ、なにより学生が主体である点に意義があると思います。

 具体的には、以下のような活動に取り組んだとのことです。
 ・読書会(『第二の性』『女性の神秘』などの古典)。
 ・女性を題材とした進歩的映画の上演(『陰道独白(サイトでは『*独白』と表記されているが)』など)。
 ・女性学やジェンダー論に関する講演・講座(万瓊華・藍懐恩駱曉戈劉秀麗ら)
 ・「反DV・ホワイトリボン」運動への参加(『中国婦女報』でも、2004年11月29日付で「請你戴上白絲帯 広東湖南大学校園開展消除性別暴力活動」として報道されている)
 ・機関紙『女性之音(Voice of Women)』の刊行

 また、会員の学生の声を掲載したサイトを別に作っています(「性別和諧倶楽部」

 会員は、当初の70名あまりから、現在では250名にまでなったということです。
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中国におけるDVに対する取り組みの紹介

 先月末に発行された『中国21』(愛知大学現代中国学会)27号(目次)に、下の私の文章が掲載されています。「論文」ではありません。「研究ノート」となっていますが、「紹介」に近いものです。
 関西中国女性史研究会編『中国女性史入門』(人文書院 2005年)で私が担当した「ドメスティック・バイオレンス」の項目(14-15頁)と併せて読んでいただくと、うれしく思います。その項目の「副読本」兼「文献案内」のようなつもりで書いた面もありますので‥‥。

遠山日出也「中国におけるドメスティック・バイオレンスに対する取り組み」『中国21』27号(2007年3月)229-246頁。
 〈構成〉
はじめに
一 DVに対する取り組みの開始と婚姻法へのDV禁止規定の導入
二 婚姻法改正後も残る問題点
三 DV反対ネットワークの活動とその特徴
四 行政の取り組みとその限界
五 各レベルにおける取り組みの発展
おわりに─今後の課題─

 なお、DVシェルターについては、拙稿「中国のDVシェルターの歴史と現状」(『中国女性史研究』16号 2007年1月 45-64頁)を参照してください。

 なお、現在、中国女性史研究会では、『中国女性史研究』第1号~第12号までを会員は無料、非会員は半額にしております。この機会に購入、または入会なさるとお得です。
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女性権益公益弁護士ネットワークの挑戦

 女性権益公益弁護士ネットワーク(2007年1月~)のサイトが、この3月に開設されました(「婦女権益公益律師網絡」)。
 このネットワークは、Open Society Instituteの資金援助を受け、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターが具体的に管理・実施するプログラムです。2007年1月に開始され、長期的におこなわれるもののようです。

 「公益訴訟」の定義は論者によってさまざまのようですが、このサイトではおおむね、個人の利害だけにかかわるのでなく、ある集団全体(あるいは社会全体)にとって意義のある訴訟という、広い意味で用いられているようです。
 たとえば、「世界の著名なジェンダー公益訴訟の事例」として挙げられているものを見ると(「世界著名性別公益訴訟案例選」)、日本の訴訟では、住友セメント事件(結婚退職制)と日産自動車事件(差別定年制)の2つが挙げられています。
 ただし将来的には、「公益訴訟制度」として、個人でなく団体が訴訟を起こせるような制度も視野に入れているようです。

 さて、このネットワークは、次の3つの機能を持つとのことです(「婦女権益公益律師網絡介紹」)。
 1.公益訴訟の実践。具体的には、ある領域(たとえば農村の女性の土地権益)について、全国各地で同一の類型の訴訟をすることによって、社会的な(立法部門と法律執行部門を含めて)関心を集め、立法と政策の改革を推進する。
 2.公益弁護士の隊伍の養成。訓練・訴訟の実践・シンポジウムなどを通じておこなうようです。
 3.公益訴訟の理論的探求と研究。そのための学習と交流の場になる。

 具体的には、以下の活動をするとのことです。
 1.サイトの開設。
 2.『女性権益公益弁護士ネットワーク月報』の発行。
 3.公益法と公益訴訟の研修。
 4.女性の権益の5つの重点領域(女性労働者の権益、農村女性の土地権益、家庭内暴力、職場の性差別、職場のセクハラ)で25の公益訴訟事件を取り扱う。
 5.「中国女性権益公益訴訟年次フォーラム」を今年終わりか来年初めに開催する。
 6.「女性権益公益弁護士年次人物」の選出

 このサイトには、『女性権益公益弁護士ネットワーク月報』もすでに3期収録されています(「網絡月報」)。
 第1期は、発刊の言葉などを収めています。
 第2期は、職場でのセクハラ事件についての特集です。
 第3期は、公益訴訟に関する、さまざまな専門家の見解が収められています。「公益訴訟とは何か?」「なぜ公益訴訟が必要なのか?」「誰が公益訴訟を起こすのか?」「どのようにして公益訴訟をおこなうのか?」などの点について論じたあと、「結語」で、公益訴訟の意義は単に裁判に勝つことだけでなく、弱者層が声をあげ、人々を立ち上がらせ、教育し、長期的に社会を変えていくことにあることが強調されています。
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女性差別撤廃条約と婦女権益保障法の研修プロジェクト

 今年1月から12月までの間、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターが、中国女性裁判官協会と河北省婦連と雲南省婦連の協力を得て、「政策制定者と法律執行者に対する『女性差別撤廃条約』および『婦女権益保障法』研修」プロジェクトをおこなっています。同センターのサイト内には、このプロジェクトの専用のページも設置されています(「《消除対婦女一切形式歧視公約》《婦女権益保障法》培訓項目」)。
 このプロジェクトは、EUの小型人権プロジェクトの事務局との契約にもとづき、資金援助を受けておこなわれるもののようです(「進行了項目執行的前期準備工作」)。

 上で言う「政策制定者」とは、具体的には、人民代表大会、婦女連合会、労働と社会保障、労働組合、教育などの部門の関係者を指しています。また、「法律執行者」とは、各クラスの裁判所、労働仲裁委員会などの関係者を指しています。
 そうした政策制定者や法律執行者の、女性差別撤廃条約と婦女権益保障法に対する認識と理解を高め、同条約と同法の運用を促進することが、このプロジェクトの目標です。
 具体的には、1.アンケート調査をして、統計と分析をおこなう、2.上で述べた関係者の研修をする、3.シンポジウムを開催する、4.関係メディアで宣伝・報道、5.執行および研修の状況の研究報告の作成を目標にしています。

 このプロジェクトをおこなう理由としては、中国は女性差別撤廃条約を批准し、婦女権益保障法を制定したとはいえ、立法の面でも、法律執行の面でも問題点が多いこと、「とくに法律の執行と司法実践において、法律の執行をする者が婦女権益保障法を法律的に運用することがきわめて少なく、国内法のいささかの不足と空白に対しても、法律の執行をする者が女性差別撤廃条約の原則と精神の運用を試みることがきわめて少ない」ことが挙げられています。
 また、現在、各省・市で婦女権益保障法の施行規則が制定ないし修正中であることや、婦女権益保障法に対する最高人民法院の司法解釈の起草が進行中であることも、このプロジェクトをおこなう一つの理由として挙げられています。

 このプロジェクトはそれほど大規模なものではありません。研修は9回(北京2回、河北の石家荘で4回、雲南の昆明で3回)おこなわれる予定ですが、毎回2日間で40人に対して研修をおこなうとのことであり、合計しても360人が研修を受けるにとどまります(以上は、「《消除対婦女一切形式視公約》及《婦女権益保障法》培訓項目介紹」より)。

 けれども、上のプロジェクトは、昨年8月に国連の女性差別撤廃委員会が、中国では「女性差別撤廃条約は裁判所でまだ援用されたことがない」と指摘し、「女性差別撤廃条約や一般的勧告や関連する国内法を、裁判官・弁護士・検察官などの司法人員の法制教育と研修の内容にする」ように勧告した最終コメント(英語[Concluding comments of the Committee on the Elimination of Discrimination against Women]中国語[消除対婦女歧視委員会的結論意見]。それぞれ11.と12.の箇所参照)に対応した、たいへん意義のあるものだと思います。

 また、婦女権益保障法についても、李秀華さんが調査したところ、裁判官の80%は、婦女権益保障法の内容をよく理解しておらず、たとえば離婚事件の際、判決や調停で使う法律的文献は、婚姻法と民法と最高人民法院の司法解釈だけだったそうです(李秀華「特殊婦女群体婚姻家庭権利之実証研究」劉伯紅主編『女性権利-聚焦《労動法》和《婚姻法》』当代中国出版社、2002年、276頁)。こうした状況を見ると、婦女権益保障法についての研修も、立法者のみならず、法律執行者に対しても重要だと思います。

 さて、具体的に、今年1月の河北省石家荘での研修を見ると、以下のような内容でした。
1)「女性差別撤廃条約」の原則・精神・主な内容、署名の背景と意義
2)「婦女権益保障法」の主な内容、関係部門の「婦女法」執行における職責と任務
3)「河北省『婦女法』施行規則」の修正意見の討論
「在河北省石家荘市挙辨了CEDAW和婦女法的省級培訓班」
 1)~3)からは、中国ではあまりなじみがない女性差別撤廃条約についての話を聞いたというだけでなく、実践的・主体的な研修だったことがうかがえます。
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反就労差別の国際協力プロジェクト

 2005年5月、中国政法大学憲政研究所とオランダの駐華大使館やユトレヒト大学法学院との協力により、「反就労差別協力プロジェクト」が開始されました。同研究所のサイト内に、このプロジェクトのためのコーナーも設置されています(「反就業歧視中荷法治合作項目」)。
 就労(就業。「雇用」と訳したほうがいいかもしれませんが)の差別、とくに募集・採用の際のさまざまな差別をなくすためのプロジェクトです。
 このプロジェクトを主宰しているのは、蔡定剣教授(中国政法大学憲政研究所所長)です。

 このプロジェクトを紹介した文章(「反就業歧視法律合作項目簡介」)がありますので、それを見てみましょう。
 この文章は、まず、「一、プロジェクトの背景」として、以下のような実態を述べています。
 「現在の就労差別の問題はかなり深刻であり、ほとんどいたるところに存在している。たとえば国家や企業・事業単位が募集や採用をする過程で、性別・年齢・身長・容姿・身体の健康・経験・学歴などの差別が広く存在している。多くの募集広告において一般に公然と規定されている採用の条件は、ある年齢以下である、男性である、身長は何センチ以上である、容姿が端正である、身体が健康である、などがある。いささかの地方の公務員の採用条例は、『身体が健康であること』を必須条件として規定しており、B型肝炎のウイルスを持つ者と障害者は、身体が不健康で不合格な者だと考えている。‥‥これらの差別的行為は、いささかの国家機関と司法機関の採用条件の中にもしばしば見られ、珍しくない。たとえば地方の国家機関が公務員を採用するとき、男性が必要で女性はいらないとはっきりと言うなどである。裁判所の募集広告にさえ、男性は身長175センチ以上、女性は身長165センチ以上で、かつ容姿が端正であることを要求するものがある。」

 つづいて、現在の就労差別は次の4つの面で存在しているとまとめています(太字は遠山)。
 1.立法の中に就労差別がある。多くの地方で公布している法規と規則の中に、採用の条件に関して、少なくない差別的な規定がある。
 2.政府の政策に比較的重大な差別が大量にある。たとえば、採用者に対して本市の戸籍であることを規定するなどである。
 3.政府・企業・社会組織の、具体的な募集の通知・広告と採用の行為において、各種の差別的なやり方が存在している。
 4.裁判所も就労差別に関する認識を欠いており、公民が提起した反就労差別訴訟を多く情況で受理しないか、または受理した後に、訴えた側に不利な判決を出す。

 また、後述の林燕玲さんによると、「就労・職業差別は労働争議の処理の受理の範囲に属さないので、労働者は就労の過程で就労・職業差別に遭ったら、主に各級の労働監察部門に訴える。けれども、労働監察人員は少なくて力が弱いのに、扱う面は広くて任務が重いという矛盾が非常にはなはだしい。たとえば北京海淀区には合計7万あまりの企業があるが、第一線で仕事をしている労働監察員は23名しかいない。このような状況の下では、就労・職業差別の訴えが議事日程にのぼるのは難しい」とのことです。

 もちろん、こういう深刻な実態があるというだけでなく、「近年、公民の権利意識と法律意識の高まりにともなって、就労の機会の平等な権利を保障するように要求する声が高まっており、反就労差別の権利のための活動が絶え間なしにおこなわれている」ことも、このプロジェクト開始の大きな背景です。具体的に言えば、「2003年と2004年、全国で多くの反差別訴訟と就労差別条項に対する違憲審査の提案が出された。いくらかの人民代表大会の代表も、次々に反差別立法の制定を提案した」のです(1)

「二、このプロジェクトをどのようにしておこなうか」では、以下の5点を挙げています。

 1.反就労差別の理論研究と社会調査をする。具体的には、翻訳、資料の研究、社会調査をおこなう。
 2.国外の反就労差別の状況を理解する。国外視察をしたり、外国の専門家を招いたりする。
 3.反就労差別の法律の宣伝をする。公民の法律意識と権利意識の増強する。とくに政府機関・企業・事業の雇用単位に対して就労の平等権と反就労差別の教育をおこなう。具体的には、シンポジウムをする、メディアと協力して特集を組んでもらう、報告書を出版する、雇用する側に対して研修をする。
 4.反就労差別の立法を推進し、現行の法律・法規の中の差別規定を除去する。反就労差別の法律の草案を起草して、それを人民代表大会の常務委員会に専門家の建議稿ととして提供するか、人民代表大会の代表を通して法律制定の議案として提出する。差別的な法律の条文を取り消す審査も提案する。
 5.就労機会の平等を保護する機構の設立を推進し、民間の反差別・平等な就労権擁護の活動を促進する。具体的には、就労機会平等委員会の設立を推進し、法律相談や法律援助をおこなう。

「三、段階的な実施計画」では、このプロジェクトは、以下の3段階に分けてすすめると述べています。

・第一歩(2005年5月-2006年5月)‥‥調査・研究
・第二歩(2006年5月-2007年5月)‥‥宣伝、関係人員に対する研修
・第三歩(2007年5月-2008年5月)‥‥反就労差別に関する法律の起草・提案

女性差別や間接差別にも注目

 今までの記述からもわかるように、当然、女性差別の問題も取り上げられています。
 サイトの中の蔡定剣さんのページ(蔡定剣)を見ると、女性やジェンダーに関する差別を扱った論文もいくつかあります。
 たとえば蔡定剣さんは、「立法の中の就労差別」として、男女の定年差別の問題を取り上げています。蔡さんは、女性の定年が男性より早いのは、従来政府が主張してきたような「保護」ではなく、「差別」であると指摘しています。「女性に配慮するのならば、『女性は50歳定年を選択できる権利がある』と規定すればよく、強制的に早く退職させるべきではない」と言うのです。
 また、蔡さんは、差別を「直接差別」と「間接差別」に分け、間接差別の問題にも目を向けています。ただし、蔡さんが明確に挙げているのは、「身長○○センチ以上」という比較的単純な例ですが‥‥(2)。 

 さて、このプロジェクトは、今日までに既に以下のような取り組みをしています。 

1.就労差別に関するアンケート調査

 このプロジェクトは、2006年、北京・上海を含む国内の10の大都市で、就労差別に関するアンケート調査をおこないました。アンケートを3424部おこなうとともに、訪問調査もしました。
 その結果、85.5%の人が就労差別の存在すると思っており、58%の人は就労差別が深刻か、わりあい深刻であると考えているなどの結果が示されました(2)
 また、身分差別と性差別は意識されるようになったけれど、健康差別や同性愛差別に反対する人は少ないことも明らかになりました(3)

2.就職活動の場で差別反対の宣伝

 このプロジェクトは、2006年12月には、二万名あまりの求職者が集まった冬季人材招聘大会(於:北京国際展示センター)で、「就労差別解消」公益サービスステーションを設置しました。
 会場で2万枚近い反就労差別の宣伝ビラなどをまいて就労差別反対の宣伝をするとともに、求職者の相談にも応じました。
 この試みは、多くの新聞やテレビも取り上げました。たとえば、ある報道では、ある招聘広告に「北京の戸籍を要求、男、35歳以下、(大学の)本科以上、党員優先。附:四川の人お断り」とあったことや、この広告に対して蔡定剣さんが「ここにある、ほとんどすべての言葉は差別である。これが中国の現在の就労差別の一つの現状だ」と指摘したことを紹介しています(4)

3.反就労差別国際シンポジウム

 2007年3月、中国・オランダ反就労差別国際シンポジウムを開催しました。
 このシンポジウムに関しては、サイトの別のページ(「中荷反就業歧視国際研討会」)にすべて収録されていますし、「中国網」も写真入りでなかなか詳しく報道されています(「"促進就業機会平等"国際研討会」)。

 その内容を列挙すると(「中」-中国側の報告、「オ」-オランダ側の報告)、ECの反就労差別法の歴史的発展(オ)、反就労差別の中国での発展(中)、中国の反就労差別課題研究グループ「反就労差別総合研究報告」紹介(中)(以上を一に収録)、直接差別と間接差別(オ)、現行の法律の積極面と欠陥(オ)、国際社会の反就労差別の新しい発展(ILO)(以上を二に収録)、反差別の組織機構(オ)(三に収録)、就労差別の法律的判断(中)、イギリスの反差別法の法律執行メカニズム(イギリス)、法規・規則の差別的規定の清算(中)。
 上の「中荷反就業歧視国際研討会」のページには、コメンテイターのコメントや質疑応答を含めて収録されているので興味深いです。

4.ILO111号条約の活用を探求

 2005年8月、全人代常務委員会はILO111号条約を批准しました。2006年1月には、批准書をILOに提出し、正式に批准したことになりました。
 このことをどう活用するのかについても研究されています。たとえば、林燕玲さん(中国労働関係学院)は、このプロジェクトの一環として、ILO111号条約の批准が中国社会にどのような影響を与えるかについて論文を書きました。
 林さんは、たとえば、批准によって国家が二つの義務を負うことを指摘しています。すなわち、対内的には国家はこの条約を履行し実現する義務を負い、対外的にはILOに報告を提出し、ILOの監督を受ける義務を負うことです。
 もちろん林さんは、差別をなくするための「法律制度」「メカニズム」「公民の権利意識と平等概念」についても、ILO111号条約が中国に求めるものについてもいろいろ論じています(5)

 最初に紹介した「反就業歧視中荷法治合作項目」のコーナーには、
Chistine M.Bulger “Fighting Gender Discrimination in the Chinese Workplace"などの英語文献も収録されており、研究の役にも立つと思います。

(1)このプログでも昨年8月18日の記事で、男女の定年差別に関する違憲審査請求については紹介しました。
 また、反就労差別法の提案は、全人代では、2003年、鄭功成代表(中国人民大学労働人事学院副院長)が、年齢や性別、学歴、戸籍、地域、身体などによる差別を禁止する「反就労差別法」を制定する議案を提出し、2004年には、周洪宇代表(華中師範大学教授)が、「『反就労差別法』をすみやかに制定することに関する提案」を提出しています。
 今年も周洪宇代表は、「反就労・職業差別法」の制定を提案していますが、そのポイントは以下の2点のようです。
 1.「差別」の範囲‥‥「人種・民族・皮膚の色・地域・戸籍・年齢・性別・性志向・婚姻状況・懐妊・分娩・育児・身長・容貌・言語・宗教と政治信仰・財産状況・家庭の出身・障害または病気・基因などの面のさまざまな、直接または間接に平等な労働権を損なうこと」
 2.差別の責任がある単位・個人に処罰をする。‥‥1万元から10万元以上の罰金、行政処罰から刑事責任。
 ただし、周洪宇代表によると、昨年までの提案に対する労働と社会保障部(日本で言えば厚労省)の回答は、「『就労促進法』の立法工作は現在着実に前進しており、すでに反差別の内容を含んでいる」というものだったそうです(中国の場合、一般の代表が提出した提案はその場で審議・採決されるというより、省庁などから回答が来る場合が多い)。けれども、周代表が言うとおり、「就労の促進と反就労差別とは異なった概念であり、交わる部分はあるが、差異が大きい」のであり、まだ前途は遠いと思います「人大代表建議制定反就業歧視法」(『新聞晨報』2007年3月7日)
(2)「85.5%国人認為存在就業歧視 対歧視集体無意識」
(3)「北大清華聯手反就業歧視 国家機関被指歧視厳重」
(4)「政法大学聯合北大・清華・人大四校進行消除就業歧視・建設和諧社会」「北大清華聯手反就業歧視 国家機関被指歧視厳重」
(5)林燕玲「批准和実施《1958年消除就業和職業歧視公約》対中国社会的影響」
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「すてっぷ」の役員と研究者の社会的責任

 バックラッシュ勢力に屈した豊中市によって女性センターの館長の座を追われた三井マリ子さんの裁判の件ですが(事件の概要この裁判を支援する会のHP)、三井さんを直接雇い止めしたのは、その女性センター、「とよなか男女共同参画推進センター・すてっぷ」の理事会です。

 先日、その理事会の理事や評議員の名簿を見て、私はいささか驚きました。
 伊藤公雄氏や藤枝澪子氏といった女性学やジェンダー論の著名な研究者が、理事の一員だったからです。伊藤公雄氏は、バックラッシュ反対の立場で論陣も張っておられます。また、理事と違って決定権はありませんが、評議員の中にも著名な研究者がおられるようです。
 これはどうしたことでしょうか? 私は、「研究者の社会的責任」という観点から見て問題でないかと思うのです。ご承知のように、研究者の社会的責任は、核兵器や公害・薬害などの問題をめぐってたびたび社会的にも問題になってきました。私はいちおう歴史学が専門なのですが、学生時代は「何のための歴史学か、誰のための歴史学か」という議論をいろいろした覚えがあります。まして女性学やジェンダー論は、当初から女性解放やジェンダー関係変革のための学問として登場してきました。

 最近は大学の先生は多忙化していて、なかなか社会的活動の時間が取れないということをよく聞きます。だから、三井さんの雇止め事件についても、十分調べる時間がないのかもしれません。あるいは、いろいろ文献を読んだけれども、三井さんの言い分には納得できないという方もいらっしゃるかもしれません。また、理事会のようなところは私にとっては雲の上の世界なので、私などには分からない事情ももちろんあるでしょう。
 しかし、いずれにせよ黙っているだけでは、研究者の社会的責任を果たしているとは見られないように思うのですが、どうでしょうか? 著名な研究者の権威を隠れ蓑にして、行政が悪いことをするのを助けることにもなりかねないと思います。へたをすると、女性学やジェンダー論自体に対しても不信感を持たれてしまうのではないでしょうか?

 「理事」といっても、何もそれで生計を立てているわけではなく、ボランティア的なもののようです。でも、だからこそ自由な立場で発言できるのだと思います。もちろん内部ではあれこれ意見を言っておられることと思いますが、公に意見を言っていただけると良いと思います。
 実際、女性学研究者である評議員の小松満貴子氏は、この事件について公に意見を発表しておられます。しかも、三井さんを支持する立場からの意見です(「『館長雇い止めバックラッシュ裁判―原告・三井マリ子さんのお話を聞く』に参加して」)。

 この事件がバックラッシュ勢力による雇止めならば、きわめて重大な歴史的事件であることは論をまちません。他の理事や評議員の皆様も、ぜひこの事件を十分研究し、できればご意見を発表してほしいと思います。
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鄒城市で「現代の孟母」を表彰する「中華母親文化節」

 今年4月27日から30日まで、鄒城市で「2007'孟子の故郷・中華母親文化節」がおこなわれます。その準備委員会は、ホームページも設置しています(中華母親文化節HP

 この「母親文化節」を主催するのは、中華民族文化促進会・中華母親節促進会・山東省文化庁・済南市人民政府です。陳慕華が組織委員会の名誉主任で、中華民族文化促進会主席の高占祥が組織委員会の主任です(1)
 「中華母親節促進会」というのは、2006年12月13日に成立大会を開催した団体で(2)、「中華母親節」の活動を促進し、それを全国的なものにすることを目指しています。発起人は李漢秋教授です(3)

 「2007'孟子の故郷・中華母親文化節」の主旨はというと、「孟母に代表される優秀な伝統的な母の教えの文化を発揚し、科学を尊び、徳を以て人を育て、国のために子を教える新しい母親像を打ち立て、母を愛し、母を尊び、母を敬い、母に孝である良好な社会的気風を全社会的に唱導し、社会主義調和社会の建設を促進する」というものだそうです(1)

 「孟母」(孟子の母親)といえば、とくに有名なのは「孟母三遷」です。「孟母三遷」とは、孟子が幼いときに墓地のそばに住んでいたら、孟子が葬式のまねをして遊ぶのを見た母親が、市場のそばに引っ越したら商売のまねをするので、学校のそばに引っ越したというものです。要するに、子供の教育に母親が果たすべき役割を説いたエピソードで、「孟母」は、母親のあるべき姿を示す模範として影響力を持ってきました(4)

 「中華母親文化節」では、具体的には以下のようなことをするそうです(5)
 1.「孟子の故郷で現代の孟母を探す」審査選定活動。
 2.開幕式で「現代の孟母」の表彰や「母親宣言」の読み上げ。「母親頌」の文芸公演。
 3.「母親の恩に感謝し、真心を明るく照らす」大行動。「母親を祝福する」一万人署名、母親に対して愛の心をささげる活動など。

 1の活動がメインなのですが、この「現代の孟母」の審査選定基準は次の5つです(6)
 (1)本人も子どもも、法規を守り、品行方正である。
 (2)母と子の関係が仲むつまじく打ち解けており、母親は子どもを愛護し、子どもは親に孝行である。
 (3)母親自身の品格が中華民族の伝統的美徳を体現していなければならず、子どもの人としての処世に直接積極的な影響を与えている。
 (4)母親の教育方法が科学的で当を得ており、科学的な家庭教育の理念を体現しえていて、直接子どもが才をなすのを促進している。
 (5)子どもが何らかの面で国家と社会が公認した功績があるか、何らかの面で国家と社会に顕著な貢献をした。

 「中華母親文化節」の目的と意義としては、以下のような点が挙げられています(7)
 1.中華民族の優秀な伝統的文化を発揚する。「中華母親文化」は、中華民族の優秀な文化の主要な構成部分になっている。
 2.社会主義の先進的文化を建設する。家庭は社会の細胞であり、家族の調和は社会の調和の基礎であり、「母親文化」は家庭の調和に対して重要な働きをする。

 以上からも見て取れるように、上の行事には、伝統的なものだけでなく、近代的な性別(ジェンダー)分業、ナショナリズム、家庭教育、「調和社会」論‥‥さまざまなものが混じり合っているようです(「孟子の故郷」としての地域振興という面もあるかもしれませんが)。
 婦連は近年、女性の母親役割を強調する傾向があります。婦連は、母親役割を絶賛する王東華さんに賛同して、彼の著書『発現母親』(書虫HPのデータ)を「母教文庫・孟母系列(シリーズ)」として出版し、「新世紀両親読書活動」の推薦図書にしたこともあります(8)
 どんな女性が「現代の孟母」に選ばれるのでしょうか? また、当日の「母親宣言」などの内容にも注目したいと思います。

(1)「2007孟子故里中華母親文化節全面啓動」(中華母親文化節HP)「2007孟子故里中華母親文化節四月挙辨」『中国婦女報』2007年3月10日
(2)「多位学者倡議設立中華母親節」『中国婦女報』2006年12月19日。
(3)「母親節促進会章程」「李漢秋在母親節促進会第一次会議上的講話提綱」「母親節発起人――李漢秋教授簡介」(いずれも中華母親文化節HPより)。
(4)橋本草子「『列女伝』」(関西中国女性史研究会編『中国女性史入門』人文書院 2005年)が簡潔にまとめています。
(5)「活動安排」(中華母親文化節HP)
(6)「“孟子故里尋探現代孟母”活動候選人徴集啓事」『中国婦女報』2007年3月9日。
(7)「目的意義」(中華母親文化節HP)
(8)杉本雅子「『女は家に帰れ』」関西中国女性史研究会編『中国女性史入門』(人文書院 2005年)99頁。
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就労促進法(草案)の差別禁止規定の不十分さに批判あいつぐ

 今年2月、国務院は全国人民代表大会(全人代)の常務委員会に、「就労促進法(原語は「就業促進法」)」の草案を提出しました。常務委員会はそれを審議・修正した後、全文を公表し、いま全国的に意見を求めているところです。
 この「就労促進法」は、雇用の拡大などを政策的に推進するための法律です。今回、この法律が制定される背景には、中国における雇用問題の深刻化があります。すなわち、労働力の需要と供給のアンバランス、国有企業のリストラ、労働市場の規範の不十分さ、農村からの労働力の流入などの問題です(1)
 就労促進法を制定する議案は、2003年ごろ、多くの人々によって全人代に提出され、それが今回の草案に結びつきました。

 雇用問題の中には、もちろん性や年齢による差別の問題もあります。しかし、就労におけるそうした差別の問題は、まだ政策的にはあまり重視されているとは言えません。
 たとえば、2003年に全人代に就労促進法を制定する議案を提出した一人に鄭功成代表(男性。中国人民大学労働人事学院副院長)がいるのですが、彼はそれと同時に、年齢や性別、学歴、戸籍、地域、身体などによる差別を禁止する「反就労差別法」を制定する議案も出していました(2)。また、今年の全人代にも、周洪宇代表(男性)が、「反就労・職業差別法」の制定を提案しました(3)
 しかし、「反就労(・職業)差別法」のほうは、まだ全人代に提出されるに至っていません。

 ただし、今年提出された「就労促進法」の草案も就労差別の問題をまったく無視しているのではなく、その第26条には、以下のような規定があります。
 「人を雇う単位が人員を募集採用したり、職業仲介機構が職業仲介活動をおこなう際、民族・人種・性別・宗教信仰・年齢・身体障害などの要素によって労働者を差別してはならない」

 しかし、この規定については、全人代の常務委員会で審議された際にも、以下のように、不十分であるという指摘が出ました。
 「法律的責任が明確でない。草案を修正する過程で、就労差別の法律的責任をもっと明確にすべきだ」(林強委員)
 「多くの単位では、男性を採用したがり、女性を採用したがらない。他の国家や地区の経験も参考にすべきであり、たとえばアメリカでは、少数民族を一定の比率採用することや、一定の性別の比率を保障することを義務づけている」(袁漢民委員)(4)

 また、上の鄭功成さんなどは、この規定について以下のように厳しく批判しています。
 「まったく不十分だ。実際上は具体的内容がなく、活用することは難しい。何が就労差別で、誰が監察するのか、労働者が差別を受けたら誰に訴えるのか、差別した者はどのような法律的責任を負うのかなどについてすべて規定する必要がある。それに、もっと強力なものでなければならない。反就労差別に一章を当てるべきだ。」(5)

中国女性研究会と全国婦連女性研究所が開催したシンポにおける提案

 さらに3月9日には、中国女性研究会と全国婦連女性研究所が「公平な就労と『就労促進法』」というシンポジウムを開催して、「就労促進法」の草案に対して具体的な提案をおこないました(「中国女性(婦女)研究会」というのは、1999年12月に全国婦連がイニシアを取りつつも、幅広い女性研究者が集まって設立された研究会です)。
 提案の内容は、だいたい以下のようなものです(6)

一、「就労促進法(草案)」に対する全体的な意見と提案

1.可操作性(実際に活用できること)と制約性を増す
 全体的に言って、この草案は原則を述べるにとどまっており、実際に活用できたり、企業などを拘束したりする力が弱い。政策的文書としての色合いが強く、法律が持つべき制約力と強制力が不十分である。

2.総則において公平・公正という原則を明確にし、「就労の公平」という章を増やす
 この草案は、就労の機会を増やす面では大きな努力をしているが、就労の中の差別をなくし、公平な就労を促進する面では不十分である。

3.就労差別の定義を明確に提起する
 この草案は、「就労差別に反対する」と述べているが、就労差別の定義が明確でないので、差別を受けた多くの労働者の権益を擁護しようがない。ILO111号条約(雇用及び職業についての差別待遇に関する条約。日本未批准)を参照して、わが国の国情に基づいて、就労差別の定義を明確にすべきである。
 差別の形態に関する規定は、労働法と比べれば拡大しており、「年齢」と「身体の障害」が入っているが、まだ狭すぎる。

4.執行のメカニズムと政府の責任を明確にする
(1)執行のメカニズムをより明確にし、実体化する必要がある。草案には「国務院に全国的な就労促進工作調整メカニズムを打ち立てる」としか規定しておらず、メカニズムの名称・職能などは規定していない。
(2)政府自身の職責を明確にすべきであり、また有効な監督・評価制度を築くべきである。
(3)「市場の秩序の規範化」の章では、招聘の手続きを規制する規定が不十分である。
(4)司法による救済と救助の内容が乏しい。政府の不作為に対する行政訴訟、企業の差別行為に対する訴訟なども包括すべき。また、訴訟手続きを簡便・廉価にすべき。
(5)「法律的責任」の章では、犯罪に関する規定が多いが、行政的措置に関する規定を充実すべき。

二、具体的な条文の修正意見
 いろいろありますが、以下に主な点を挙げます。

法の目的などについて
 法の目的に「労働者の平等な就労の権利を保障する」という文言を入れる。
 草案の「就労条件を作り出し、就労機会を拡大する」を、「ディーセントな(体面)就労条件を作り出し、公平な就労機会を拡大する」に改める、など。

差別の定義について
 「差別」の定義を以下のように明確にする。
 「この法律で指す差別とは、民族・人種・性別・宗教信仰・社会的出身または身分・地域・年齢・身体の状況・結婚や出産の状況などの要素にもとづいて、労働者に対して、就労または職業の機会均等または待遇の平等を破りまたは害する働きをするすべての差別・排斥・優先」
 これは、ほぼILO111号条約に沿った定義です。ただし「政治的見解」が入っておらず、かわりに「民族」「地域」「年齢」「身体の状況」「結婚や出産の状況」が入っています。

実効性の確保の措置
 ・罰則‥‥26条違反に関して、具体的な処罰規定を置く。
 ・ポジティブアクションなど‥‥女性や障害者などに対して「傾斜的(サポート的、ポジティブ)な措置を取る」、「採用する人員の性別構造と求職者の性別構造とを一致させなければならない」という規定を入れる。
 ・監督機関‥‥草案の「労働保障部門がこの法律の施行状況の監督・検査をする」という規定について、意見として、「『労働部門』ではなく、機構の名称・職責・人員・経費の源などをはっきり書くべきだ」と指摘しています。草案の「通報制度を設ける」という規定については、「訴えを受理する専門の機構を設立し、できけば行政処罰権を与える」としています。
 また、国務院に「全国就業促進委員会」を設立するとしています。また、公平な就労を保障するための機関として、「平等機会委員会」を設立するとしています。

(1)「関于《中華人民共和国就業促進法(草案)》的説明」「中華人民共和国就業促進法(草案)」「関于公布《中華人民共和国就業促進法(草案)》徴求意見的通知」
(2)「鄭功成:応尽快制定《就業促進法》和《反就業歧視法》」
(3)「関于制定《反就業与職業歧視法》的再建議」(周洪宇的博客)
(4)「全国人大常委会委員:禁止就業歧視需明確法律責任」『中国婦女報』2007年2月28日。
(5)「反就業歧視規定単薄,専家建議加厚」『中国婦女報』2007年3月12日。
(6)「《就業促進法(草案)》修改建議」全国婦聯婦女研究所編『研究信息簡報』2007年3期(2007年3月27日)(PDF)(このファイルに「就労促進法」の草案の全文やその説明など、注(1)に挙げている文献も収録されています)。
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「お妾さんの権利ネット」をめぐる議論

 2006年6月、鄭百春さん(北京君祥弁護士事務所・業務主任)が「お妾さん権利擁護ネット(二奶維権網)」を開設しました。

 このことは、本プログ1月13日付記事「2006年の女性をめぐる話題」で既に簡単に述べました。けれど、当時は上のサイトが極めてつながりにくい状態で、ほとんど見ることができませんでした。
 現在は正常に見られますので、今回、簡単に紹介します。

 まず、このサイトの一番上を見ると、「お妾さんも人であり、人権があるべきだ」「お妾さんの合法的権益をまもって、調和のとれた公正な社会を築こう」「法律の前には人間は平等である」「道徳は法律に取って代わることはできない。法律は道徳と同じではない」というフラッシュが飛び込んできます。

 「私たちの声明」には、以下のようにあります。
 「お妾さんの合法的権益を守ることは、男が『お妾さん』を持つことを支持することではなく、娘たちに『お妾さん』になるよう呼びかけることでもない」。けれど「彼女たちは人であり、中国の公民、中国の女性であり、人としての基本的な権利があるべきだ」
 「権利の擁護が必要な『お妾さん』は、大多数は困難な境遇におり、弱者層に属している。私たちは、彼女たちに客観的に対処すべきで、分析もせずに、すべての責任を彼女たちに押し付けるべきではない」

 「なぜお妾さんが弱者層だと言うのか」として、以下の点を挙げています。
 「家庭的には、貧しい家の女児で、社会的地位がなく、父母は権力も金もない」
 「彼女たちは、女性で、年若く、世の中の経験が浅い」
 「彼女たちの権利要求の多くは、精神的に傷つけられた、生理的・身体的に傷を負ったというものである」
 「経済的に非常に困難で、また、しばしば幼い子どもを抱えている」
 「現実においては、少なくなからぬ『お妾さん』である女性が、そのことを社会に責められるのを恐れるために、彼女たちの権益が侵害されたときに、しばしば泣き声をのんで耐え忍び、怒っても何も言わない」
 「道徳的評価が法律的判断を上回っている──すなわち社会の『お妾さん』に対する評価、お妾さん自身の自分の権利意識に対する軽視、司法実務界におけるお妾さんに関係する事件に対して適用する法律の曖昧さ。」

 「なぜ権利の擁護をするか」では、以下のようなことを述べています。
 世間の偏見のため、「すべての汚水をみな『お妾さん』にかける」とか、「『お妾さん』と言えば、踏みつけにせずにはすまない」とか状況がある。
 そのため、「お妾さん」の「人格権」「プライバシー権」「財産権」「人身権」が守られなかったり、「『お妾さん』は、その権利がいかなる侵害にあっても、声をあげられずにがまんするしかない」。
 お妾さんの中には、自分に誤りがあったのではなく、だまされた人もいる(ただし、このサイトは、たとえ誤りや罪があっても、その人の権利は侵害されてはならないという見地も表明しています)。

 「私たちはお妾さんのどのような権利を擁護するのか。どのようなサービスを提供するのか」では、以下の点を述べています。
 1.法律に明確に規定された権利(お妾さんという身分から派生した特有の権利ではない)。
 2.公平・正義・合理にもとづく、非法律的な権利と義務。
 3.心理的輔導。お妾さんは、社会・親戚・友人などからの圧力によって、心理的にも精神的にも障害を持っている。性病・婦人病・鬱病も少なくない。自殺や殺人を考える人もいる。

 鄭百春さんがお妾さんの権利について関心を持ったのは、以下の事件からです。献身的に愛人の介護をしたあるお妾さんが、「自分は金銭目当てではない」ことを示すために、「彼女に家を贈与する」という愛人の遺言を破り捨てました。鄭さんは、彼女がお妾さんでなかったら当然遺産を受け取れたと思いました。
 また、次のようなこともありました。安徽から広州に出稼ぎに行ったある娘が、ある企業主と知り合いました。その企業主は「自分はまだ結婚していない」と嘘をついて、彼女と同棲し、1年後に子どもも生まれました。けれど企業主には妻がいました。彼は、彼女に20万元を渡して、子どもをつれて家に帰るよう言いました。しかし彼女は受け取らず、怒りのあまり、子どもを抱えて飛び降り自殺を試みました。

 鄭百春さんには「二奶維権」というブログもあって、いま扱っている事件などについて書いています。

 この問題は昨年、『中国婦女報』でも取り上げられました。たとえば、(「為“二奶”討説法深陥倫理与法的悖論」(『中国婦女報』2006年10月17日)は、鄭百春さんを取材するとともに、批判的な意見も掲載しています。この記事はまた、「お妾さん」の財産権について2005年に民主同盟が提案を出すなど、すでにいくつもの意見が出ていることも紹介しています。
 また、「該不該為“二奶”維権?」(『中国婦女報』2006年12月23日)は、争点としてて次の4点を挙げるとともに、各争点についてさまざまな論者の意見を掲載しています。
1.「お妾さん」は弱者層か否か
 「彼女たちの二重に助けを求めている」(鄭百春)、「妻の精神的傷害は誰が賠償するのか」(王朱)
2.道徳的な問題があれば、正当な権益を放棄すべきか
 「道徳的な瑕疵は、正当な権利を擁護する障害ではない」(韓雪)、「権利の擁護には、積極的な法律的意義がある」(宋長青)
3.法律が彼女たちを保護できるか否か
 「婚外子の子どもは法律の保護を受ける」(李銀河)、「彼女たちには民事的権利もある」(孫健)、「法律は同棲(同居)関係を保護しない」(陳雲生)
4.「お妾さん」を持ったり、「お妾さん」になったりすることを助長するか
 「良くない社会的心理を暗示しかねない」(夏学◇)、「権利の擁護は婚姻外の恋愛を助長する」(張玉芬)、「『お妾さん』を持つ男を問いただすべきである」(何向東)

 ジェンダーの視点から考察としては、郭慧敏さんが「社会性別視角下的“二奶維権”」(『中国婦女報』2006年10月17日)で、「お妾さん権利擁護ネット」が引き起こした論争について自らの意見を述べています。以下で大ざっぱな内容を紹介します。

 郭さんは、まず「『お妾さん』は複雑な社会的現象だが、一つの社会的集団を構成しうるかどうか、および一つの社会的な女性の特殊な権利擁護問題を構成しうるかどうかは、きちんとした議論が必要ある。そうしなければ、一つの『虚偽の社会問題』を作り出すかもしれず、討論の結果によって意識的・制度的なジェンダー不平等が再構築されかねない」と述べます。

 こうした前置きをしたうえで、郭さんは「現段階における『正妻・妾‥‥』という提起のしかたは、男性中心の婚姻の等級秩序の復活である」と言います。郭さんは、人々は、「お妾さん」に「誤った行為があったかどうか」や「最初から男に妻がいることを知っていたかどうか」に関心を集中させすぎており、「男の誤りや二重の責任を追及することをおろそかにしている」と述べます。
 郭さんは、「婚姻は、一つの制度・一つの秩序としては、男性中心文化の産物である。」「男は婚姻という方式で女を占有するだけでなく、婚姻という方式で女を禁固するのであって、婚姻は、性と財産の秩序であるという面が大きい。」「一夫一婦制は、基本的には女性に対してのものであり、男に対しては正妻・妾・妓という等級・名分を乱さないように要求するだけである」と指摘します。
 郭さんは言います。「もしも法律的な関係を作り上げることによって『お妾さん』の問題を調整すれば、伝統的な男性中心の婚姻等級秩序を強化し、一夫一婦制を否定することになるかもしれない。この点は十分注意すべきである」。つまり「婚姻の中の夫婦は法律的関係であり、婚姻の外の男性といわゆる『お妾さん』との関係は非法律的な関係である。もしこの関係を法律の範囲に組み入れて調整すれば、この関係の正当性を承認するに等しい」というのです。

 郭さんは「人々が常に、合法と非合法の二人の女が一人の男を争奪する戦争に注目していることは、このシステムの中枢にいて、初めに悪例を開いた者である男を見過ごすことになる」、「『良い女』と『悪い女』とが大いに戦って、この戦争を作り出した男は、何事もなく漁夫の利を得る」、「男性にコストを払わせてこそ、婚姻の中の妻の利益と婚姻の外の女性の利益を保証することができる」と述べています。

 郭さんは「かつて男性に婚姻外で養われていた女性の法的な権利は、かつての『お妾さん』という身分の喪失に依拠すべきではなく、人身権と正当な財産権、婚外子の権益に依拠すべきである」、「妻の共同の財産とは区別した男性の個人財産から賠償すべきだ」と言います。

 郭さんは、最後にこうまとめています。「要するに、『お妾さん』という提起のしかたは、社会的にかなりマイナスの効果があり、非法律的な関係を無理に法律の中に組み込んで調整することは、一定の問題がある。婚姻の中であるか外であるかにかかわりなく、女性の人身権も財産権も、必ず具体的な事例にもとづいて区別して対処しなければならない。間違った行為と正当な権益とはいっそう区別して、それぞれ白黒をつけるべきであって、正当な権益は、いわゆる身分によって失われてはならない。この問題を解決する制度的に新しい空間を創り出すには、男性という過ちを犯した者の権利侵害のコストを増加させ、それによって家庭の調和と男女の関係の平等を維持すべきである」。

 郭慧敏さんの議論は、鄭百春さんの議論と重なる部分もありますが、やはりいささか異なった角度からの考察だといえそうです。ただし、婚姻制度そのものに対しては、若干はっきりしない態度のようにも思えますが‥‥。
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女子大学生、国際シングルペアレントデーの設立を提唱

 3月26日、河南省鄭州で、ひとり親家庭の子どもである女子大学生・張迎梅さん(24歳)が自転車で駆け回って、ビラをまき、毎年11月1日を「国際シングルペアレントデー」にすることを提唱したそうです。
 「11」は、父母それぞれに家があることを象徴し、「1」は、シングルペアレントの子どもを象徴しているとのことです。

資料:「女大学生倡議設立国際単親節」『中国婦女報』2007年3月29日(写真入り)。
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 また、「中国女性・ジェンダー関係主要HPリスト」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。日本の問題の一部は、「ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の労働争議・まとめ」や「館長雇止め・バックラッシュ裁判」でまとめています。
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