2006-09

アステラス製薬・仙頭史子さんの男女差別裁判

 今日は午後から、アステラス製薬の仙頭史子さんの男女賃金差別裁判の傍聴に行ってきました。
 藤沢薬品(いまのアステラス製薬)では、男性は誰でもおおむね35歳で主任、45歳で主任研究員に昇格していました。けれど男女差別のために、仙頭さんがやっと主任になれたのは48歳でした。つまり、男性よりも13年も遅れたわけです。
 仙頭さんは研究活動で男性に劣らず成果をあげたり、女性初のMRとして男性と同じ営業活動に従事して同等以上の成績をあげたりしていらっしゃったのに、です。
 仙頭さんは「これからの女性には私のような思いをしてほしくない」と、裁判に踏み切りました。アステラス製薬・仙頭史子さんの男女差別裁判を支援する会も結成されています。

 今日の裁判は大阪地裁の大法廷でおこなわれたのですが、原告側の支援者だけで、大法廷の定員をはるかに上回る147人の方が詰めかけ、法廷に入れない人もたくさん出ました。
 手元のメモによっているので不正確な箇所もあると思いますが、以下、簡単に報告します。

 今日は、会社側の証人である、元人事部長の尋問がおこなわれました。
 証人は、仙頭さんの昇進が遅いのは、仙頭さんが1973年に入社した際、あくまでも「研究アシスタント」として雇われたからであると主張しようとして、当時の求人広告を持ち出しました。
 当時は「研究アシスタント」は、「高卒の男子」と「短大卒の女子」を採用していたのであり、仙頭さんは高専卒なので短大卒と同等であって、男性とは「採用区分」が違うのだというわけです。「高専卒の男子」は、「研究技術職」というより高いクラスで採用していたのに、です。

 これは、「昭和30年代や40年代の男女差別採用は、当時としては民法の『公序良俗』には反しないので、違法ではない」という判決があることに悪乗りした主張であり、聞き飽きた理屈ですが、「男女平等を謳った憲法はとっくに施行されていたのに」「当時から雇用の男女差別は問題になっていたのに」と思うと、何度聞いても不愉快です。
 また仙頭さんは、実際はけっして「アシスタント」ではなく、男性と同じような研究業務をおこない、成果も上げていたのですから、二重に間違っています。この裁判を支援する歌として「輝いて生きていきたいパート2」(仙頭史子作詞、豊田光雄作曲)という歌が最近できたのですが、その中に
 「同じ仕事をしていても、男がすれば研究職、女がすればアシスタント。もらう給料、男の半分」
 という一節があるのですが、そういった状況があったわけです。

 証人はさらに、近年は人事・賃金制度の文言から「性」や「学歴」による区別をなくしたことを延々と説明しました。
 しかし、人事・賃金制度の文言からそうした区分をなくしただけで男女差別をなくしたように言うのは、現実をまったく知らない主張のように感じました。女性差別にペナルティーを付けるなり、男女差別意識をなくす研修でもしたなら話は別ですが‥‥。

 こうした会社側の理屈に理論的に反論するのは簡単ですが、具体的な証拠によって反論するのはそれほど簡単ではありません。
 しかし、仙頭さんの弁護士さんらによる反対尋問では、就業規則などの文書には「研究アシスタント」などの区分が記されていないことや、当時の会社の求人広告にも、「男女社員一般事務」とか、性を限定しない「一般事務」の求人があることを追及して、「求人広告では採用区分は明らかにできない」と述べました。証人は、完全にしどろもどろになりました。
 こうした求人広告は、裁判を支援する会の事務局の人が、当時の新聞のマイクロフイルムを丹念に調べて見つけたとのこと、地道な努力に頭が下がりました。

 また、証人が人事制度から「性・学歴別の昇進の標準在任年限を廃止した」と主張したことに対しては、制度変更後の文書にも「現行の標準在任年限を尊重する」という文言があるのを見つけて追及しました。
 さらに性別・学歴別の賃金分布の表や、同期同学歴の人の昇格のしかたを示して、その後も事態は変わっていないことを証人に突きつけしまた。
 また、新しい人事制度では、営業職は最低「+5」という評価が付くと決めているのに、仙頭さんには「+3」しか付いてないことを追及しました。すると、証人は「まれには付く」と、「まれ(言葉は正確でないかもしれませんが)」であることを認めざるをえませんでした。

 裁判後の交流会では、会社側の証人は入念にリハーサルをしてきているけれども、反対尋問で自分が考えていないことを聞かれると、ピントはずれの応答しかできないことなどが話題になりました。

 次の裁判は、仙頭さんの元上司ら4人が証人です。
 これまで出ている陳述書によると、彼らは「昇進の遅れは、男女差別のせいではない」と主張しようとして、仙頭さんの昔のミス(といっても、誰でもやっているようなミスにすぎない)をほじくりだして、仙頭さんが「無能」だと主張しているそうです。
 そんなひどい主張をするしかないほど、彼らは追い詰められているのですが、仙頭さんは精神的に大変でいらっしゃると思います。
 私は行けないかもしれませんが、傍聴に行って、証人を監視して仙頭さんを見守っていただける方がいれば、と思います。

 次回:10月23日(月)10:00~16:30 大阪地裁大法廷
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中国でも「間接差別」概念が浮上

 日本の今年の男女雇用機会均等法の改正において、「間接差別」(「間接性差別」。直接「女性だから」差別するというのではなく、たとえば「契約(派遣)社員だから」という理由で多くの女性に、働きに見合わないひどい待遇を押し付けて結果的に女性差別をすること)が争点になりました。
 いま、改正均等法についての厚労省の省令や指針についても、間接差別の問題をどう扱うかが一つの焦点になっています。9月27日までパブリックコメントを募集中(省令案について指針案について)なので、出しましょう。雇用についてのパブコメについては、ワーキング・ウィメンズ・ネットワーク(WWN)の正路怜子さんがお考えになった参考例があり、セクハラについてのパブコメ例は、日本フェミニストカウンセリング学会HPにあります。でも結局は当然自分で考えないといけませんね‥‥。

 さて、9月6日付のこのブログでも紹介したように、8月25日付けの国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)の中国政府への勧告でも、中国の国内法に「間接(性)差別」の概念がないことが問題にされました。

 その直前の8月21日、中華女子学院が主催して「雇用の性差別およびその救済のメカニズム・国際シンポジウム」が開催されました。北京大学・中国人民大学・最高人民法院・ハーバード大学などから百人近い専門家が集まったとのことです。
 そのシンポジウムで中華女子学院助教授の劉明輝さん(法学部経済法研究室主任)は、「中国の法律の中にはずっと雇用の性差別の概念がなかった。雇用の性差別をなくすには、立法はまず性差別の内包と外延を正確に定義しなければならない」「性差別の形式には直接性差別と間接性差別がある」と言います。これは4日後に出るCEDAWの勧告と基本的に同じ内容です。
 劉明輝さんは次に「間接性差別」の定義を紹介したのち、以下の例を紹介しています。「ドイツのある企業の内部の規則は、パートタイマーは、ある社会保険を補充する待遇を受けられないと規定していたが、その企業のパートタイマーの99パーセントは女性だった。ECの裁判所はその規定を差別だとし、取り消して当事者に賠償しなければならないという判決を出した」(1)

 劉明輝さんは、すでに昨年の著書において、差別の定義に間接差別を含めるように主張し、さらに、その立証責任を雇い主に負わせるように求めていました(2)
 今回の発言は、『中国婦女報』の3面のトップで「立法は間接性差別を『忘れ』てはならない」という大きな見出しで報じられました。中国の新聞で「間接(性)差別」がこうした形で見出しになったのは、おそらく初めてではないでしょうか。

 そこには国際社会や国連の動向とともに、中国でも近年の市場経済化に伴う性別分業の拡大によって非正規の雇用形態が増大し、その多くが農村からの出稼ぎ労働者や女性だという現実があると考えられます。

 中国の非正規就労の問題は、日本同様いろいろあって簡単には述べられないのですが(3)、劉さんも例に挙げているパートタイマーの場合は、大多数が女性です。

 中国では、「間接差別」概念は、まだ研究者が提唱しているだけで、運動のスローガンなどにはなっていません(4)。しかし、こうした概念が、中国の現実とも関わって少しずつ浮上してきたことは注目に値すると思います。

(1)「“就業性別歧視及其救済機制国際研討会”在京挙辨,専家呼吁―立法不応“遺忘”間接性別歧視」『中国婦女報』2006年8月22日
(2)劉明輝『女性労動和社会保険権利研究』(中国労動社会保障出版社 2005年)(←書虫HP)108,112頁。
(3)非正規就労の問題に関しては文献が多いですが、特に女性の非正規就労の問題に注目した日本語の文献としては、ごく簡単なものですが、関西中国女性史研究会『中国女性史入門』(人文書院 2005)で私が執筆した「就労問題」「データと図版で見る現代中国の女性労働問題」の項目。
(4)なお、中国における雇用の性差別解消の困難については、このシンポジウムでも、卓澤淵教授(中国共産党中央党学校)は、「わが国のこの問題における主要な困難」として、以下の点をずばり指摘しています。
 ・差別の主体があまねく存在している。企業、結社団体の組織、事業機構があり、国家機関さえもある。
 ・差別を救済する組織が欠乏しており、雇用差別に反対する女性の自治組織もまだ誕生していない。
 ・差別紛争の司法が立ち遅れており、女性が雇用差別を受けないように保護する有効な司法上の措置がまだない。雇用の性差別に反対する訴訟は比較的少なく、女性の平等な就労権を擁護することに成功した司法上の採決はさらに少ない。

[訂正(2010.1.21)]
 当初、「短工」のことを、「パートタイマー」と理解した記述をしていましたが、誤りでしたので、お詫びならびに、関連箇所の削除・修正をおこないました(「短工」は、短期間の有期雇用のこと)。
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女性/ジェンダー学学科発展ネットワーク結成

 この8月、中国の大学の教師、科学研究所の研究員、「ジェンダーと発展」領域の活動家によって、「女性/ジェンダー学学科発展ネットワーク」が結成されました。
 2002年から機関誌『ネットワーク通訊』などを出して活動していたのですが、8月16日から19日まで大会を開き、正式に発足しました。
 女性/ジェンダー学の全国的ネットワークであり、規約によると、団体会員と個人会員があるようです。
 コーディネイトをする協調委員会の委員には王金玲さんら8人が名を連ねており、全員が女性です。
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香港でアイドル女性の盗撮に抗議運動

 今回は、アジア女性資料センターの「News」欄にあるadminさんからの情報です。

 それによると―
 「Twinsと言う2人組の女性歌手のうちの1人の着替えの様子が隠し撮りされ、8月21日発売の香港の雑誌『壹本便利』に掲載されました。」
 「AAF[=新婦女協進会のこと:遠山補足。以下同じ]や機会平等を目指す女性団体協力会[=平等機会婦女聯席]で抗議声明を出し、『壹本便利』の不買運動と、署名活動を開始しました。」
 8月29日には「300人の芸能人が集まり、抗議行動と、壹本便利の不買運動を呼びかけ」たそうです。

 ネット署名(「保障女性身體自主,罷買《壹本便利》行動!」というスローガンが掲げられています)では、9月7日午後11時過ぎに私が署名した時点で、5000名以上の署名が集まっていました。
 日本でもこうした盗撮事件は何度も起こったと思いますが、社会的な抗議運動はほとんど展開されなかったように思います。なぜだろうか? そうしたことを考えさせられます。

 詳しい情報は、ここをクリックしてください。
 「観光が大きな香港では、海外から関心が集まっていることは、大きな力になるそうです。よろしければご協力ください」とのこと、
 署名はこちらでお願いいたします(文字化けする場合は、右クリックしてエンコードを「繁体字中国語」にすると、中国語の部分も読めます)。


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国連の女性差別撤廃委員会、中国政府に最終コメント

 8月7日から25日まで、国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)の36回会期が開催されていましたが、その最終日の25日、女性差別撤廃委員会は、中国政府の第5次、第6次レポートに対して以下の最終コメント(勧告など)を出しました。

 ご存じの方も多いと思いますが、女性差別撤廃条約を批准した国は、条約の遂行状況を国連に定期的に報告しなければなりません。その報告に対して、どの国に対してもコメントが出されるわけです。
 日本に対しては2003年に出された最終コメントが、コース別雇用が男女差別の隠れみのになっていることや、一般職やパート・派遣などの賃金が低いところで女性が多く働いていることを問題として指摘し、是正を勧告したことは記憶に新しいと思います(詳しくは、日本女性差別撤廃条約NGOネットワークのHPの「第29会期女性差別撤廃委員会に関する活動(2002年~2004年)」の欄を参照してください)。

 今回の中国に対する最終コメントの全文は、ここをクリックしてください(pdfファイル。英語)。[追記]中国語版もupされました(うまく開けないときは、36回会期のページから開いてください)。前回の1999年の中国政府に対する最終コメントは、CEDAWのHPでは英語版しか掲載されていなかったのですが、今回は違うようです)。

 以下では、今回どういう点が問題にされたのか、大体の内容を紹介します(見出しは私が付けたものです)。ただし省略している部分がかなりありますし、翻訳も粗いものです。何かに使われる場合は、ナンバリングをもとにして直接原文に当たられるようお願いいたします(2011年6月28日、省略した部分を減らすとともに、翻訳を少し改善しましたが、なお省略している個所は残っています)。

肯定的側面

 5.女性差別撤廃委員会(以下、「委員会」と略す)は、2005年の婦女権益保障法改正、2001年の婚姻法改正(家庭内暴力禁止規定導入など含む)、2002年の農村土地請負法(結婚して家を出たり、離婚した女性の土地の割当ての規定など含む)の公布、2006年の義務教育法改正、中国女性発展要綱(2001-2010年)を歓迎する。
 6.(香港について)
 7.(マカオについて)

主要な関心事項と勧告([ ]内の見出しは、遠山による)

[女性差別の定義]
 9.委員会は、中国の国内法には、女性差別撤廃条約の第1条と合致した、直接差別と間接差別の両方を含む「女性に対する差別」の定義がまだ含まれていないことを引き続き懸念する。この点については既に前回の最終コメントでも述べたにもかかわらず、そうした定義は、2005年に改正された婦女権益保障法にも含まれていない。
 10.委員会は、上の点を改めるよう繰り返し勧告する。

[女性の権利の法的保障、女性差別撤廃条約の国内での活用]
 11.委員会は、中国政府が女性と子どもの権利の保護のための特別の法廷を設立したことを歓迎する一方、効果的な法的救済の規定がないために、女性が差別を受けた場合に司法へのアクセスが依然として限られていること―とくに農村では―を懸念をもって留意する。また、裁判所で女性差別撤廃条約がまだ活用されたことがないように思われることを留意する。
 12.委員会は、女性差別撤廃条約や一般的勧告や関連する国内法を、法学教育と司法職員(裁判官、弁護士、検察官を含む)の訓練の必修事項にするよう保障することを奨励する。委員会は、締約国に、女性が効果的な法的救済を受けられやすくし、また、そうした差別に対する救済策を女性自身が使えるように、意識を向上させ、敏感になる措置を取るように求める。

[統計]
 13.委員会は、中国政府の報告には、性と地域、民族別のデータ、女性の状況と男性の状況を比較したデータが十分に含まれておらず、そのため、条約がカバーするすべての領域と時代的変化という面で、女性の現在の状況を理解することができなくなっていることを懸念する。委員会は、さらに、そのような詳細なデータが欠けていたり、限られていたりすることによって、締約国自体が、政策や計画を設計・実施する上や、条約を広大な国土全体で執行した効果を監視する上でも障害になることを懸念する。
 14.上の点を改めるよう勧告する。

[経済の成長・改革と男女の格差の拡大]
 15.委員会は、中国が近年経済成長を達成して貧困率を減少させたことは評価するが、その利益配分は都市と農村で不均等であり、女性は男性より利益を得ていないことを懸念する。また、経済の再構成やサービスの脱中央集権化がジェンダー特定的な結果をもたらしていること、とくに女性の雇用や健康、教育に影響していることを懸念する。
 16.委員会は、中国政府が、経済の成長と変化が女性に与える影響の測定を強化し、社会的支出(social spending)の増額を含めた方策をとって、経済成長や貧困率の減少から女性が男性と同等に利益を得られるようにするよう勧告する。経済の再構築が女性、とくに農村や辺境に住んでいる人々や少数民族にマイナスの結果を与えない方策をとるように勧める。

[男女の役割のステレオタイプ]
 17.委員会は、家族と社会における男女の役割と責任に関するステレオタイプが根強く存続していることを懸念する。それは、性別の不均衡や性別に基づく中絶をもたらす男児選好に反映している。委員会は、そうした広く行き渡っている態度が女性の価値を下げ、彼女たちの人権を侵害し続けていることを懸念する。
 18.委員会は、中国政府が条約の第2条(f)と第5条(a)にもとづいて、社会における男女の役割に関する伝統的なステレオタイプを克服する包括的なアプローチを取るように求める。そうしたアプローチは、法的・政策的および意識向上の方法を含んで行われなければならず、公的機関と市民社会を包括し、全住民、とくに男性と少年たちをターゲットにしなければならない。それは、テレビやラジオ、出版物を含むさまざまなメディアを活用しておこなわれなければならない。委員会は、中国政府に、2000年以来おこなっているカリキュラムや教科書の改革をジェンダーに敏感な視点で評価し、女と男の平等の原則を明確に述べることを保証するよう求める。

[人身取引、売春]
 19.委員会は、中国政府が、地域間協力や国際的な協力を含めて、女性と子どものトラフィッキングに取り組んでいることを認めるけれども、「刑法」における女性と子どものトラフィッキングの定義が、売春による搾取を目的にしたものに限定されており、国際的な定義と一致していないことを懸念する。また売春を犯罪化し続けていることは、ひもやトラフィッカーの起訴と処罰よりも、むしろ売春する者に不釣り合いに打撃を与えることに懸念を表明する。また売春する者が法的な手続きなしに行政的に拘留される危険があることにも懸念を表明する。さらにトラフィッキング(とくに国内のトラフィッキング)の広がりについてのデータと統計的インフォメーションが不十分であることも懸念する。
 20.委員会は、締約国が、女性と女児のすべての形態のトラフィッキングと闘う努力を強めるように勧告する。委員会は、締約国に、国内法の定義と国際的な定義を一致させ、また、人身取引に反対する国家行動計画の草案を迅速に完成させ、採択し、履行するよう強く促す。また、委員会は、売春女性の社会復帰と社会への再統合のための措置をとり、売春から抜けられるように他の生活をする機会を増やし、そうするように彼女たちに援助をし、また、正当な法的手続きなしに女性を拘留することを防止するように強く促す。委員会は、締約国に、地域間および国内のトラフィッキングの詳細なデータを系統的に収集し、被害者の年齢と民族的背景を説明するよう呼びかける。

[女性に対する暴力]
 21.委員会は、締約国が2001年に改正された「婚姻法」で家庭内暴力を明文で禁止し、女性に対する暴力を禁止するその他の措置をとったことを賞賛する。委員会は、女性に対する暴力に関する包括的な全国的法律(被害者に司法に対するアクセスを与え、加害者を処罰するもの)がないことと、女性に対するあらゆる形態の暴力に関する統計的なデータがないことを引き続き懸念する。また、委員会は、収容所(とくにチベット)において女性に対する暴力事件が報告されていることも懸念する。
 22.委員会は、女性に対する暴力に関する包括的な法律(女性と女児に対する、公私の領域におけるあらゆる形態の暴力を、刑法によって処罰できる犯罪を構成することを保障するもの)を採択するよう強く促す。委員会は政府に、一般的勧告19にもとづいて、女性と女児の暴力の被害者に即時の救済と保護を与えるよう求める。委員会は、被害者の司法と救済へのアクセスを高める――たとえば、司法官僚(裁判官、弁護士、検察官を含む)がジェンダーに敏感な視点で女性に対する暴力に対処する能力を高めたり、収容所における女性に対する暴力事件を含めて、女性の要求を確実に迅速に調査したりすることを通じて――ことを奨励する。委員会は、また、女性に対するすべての形態の暴力に関するデータ収集のシステムを強化して、次回のレポートにそれを含めるよう求める。

[暫定的特別措置の活用]
 23.委員会は、締約国が、条約の第4条第1款と委員会の一般的勧告25にもとづいて、暫定的特別措置を十分活用して、現在の条約が規定しているすべての領域で、できるだけ早く女性が事実上の平等を獲得できるようにしていないことを懸念する。
 24.そうするように勧告する。

[女性の政治参加]
 25.委員会は、中国政府が採用した、すべての政治および公的生活への女性の代表を保障する条項を歓迎しつつも、女性の代表の低い水準(少数民族女性、公的・政治的レベル、政策決定をする職位、外交部を含む)が続いていることを懸念する。また委員会は、提案されている村民委員会組織法の改正が、村民委員会への女性の平等な参加を要求していない点も、懸念をもって留意する。
 26.委員会は、締約国が、暫定的特別措置を含めて、選挙で選ばれる機構と任命される機構に女性が迅速に平等かつ十分に選出されるように、地方的・全国的レベルで、また、外交部を含めた政府のすべての部局で、適切な数値的な目標・標的・タイムテーブルを作成するなど、持続的な措置をとるように奨励する。委員会は、締約国が、現在と未来の女性の指導者のために、指導力と交渉能力に関する研修プログラムをおこなうよう勧告する。

[農村女性]
 27.委員会は、農村女性の、教育や保健、雇用、リーダーシップへの参与や土地などの財産における不利な地位にひき続き懸念を持つ。また、委員会は、農村の少数民族女性(チベット女性を含む)の状況を懸念する。彼女たちは、性別・民族・文化的背景・社会的経済的地位などによる何重もの形態の差別に直面している。委員会は、農村の女児の文盲率と中途退学率が高いことを引き続き憂慮する。委員会は、農村地区の保健施設と医療人員の欠如、高い妊産婦死亡率、医療費の上昇にも懸念を表明する。委員会は、農村で土地がない人の70%は女性であること、農村地区における女性の自殺率の高さが続いていることも留意する。
 28.委員会は、締約国が「条約」の第14条の遂行のために、農村の発展のための政策と計画の設計・発展・遂行・監督に対して農村女性の積極的参加を強化するように、すべての必要な措置をとるよう勧告する。それには、すべての女児が9年制の義務教育(いかなる雑費も学費もない)を修了することを保証することが含まれなければならない。また、農村地区で、無料ヘルスケアとサービスに農村女性がアクセスできるようにすることも、緊急に求められている。委員会、締約国に、農村で土地を持たない者の中に女性が多い理由をさらに深く検証し、救済のための適切な行動――女性に対して差別になる農村の慣習を変革する手段と措置を含めて――をとるように促す。委員会は、農村地区において、女性の自殺率をいっそう下げるために、上質なメンタルヘルスとカウンセリングサービスが利用できるようにするよう勧告する。委員会は、締約国に、少数民族の女性が直面している何重もの差別を撤廃し、彼女たちの実質的な平等を促進するための総合的なアプローチをとるように強く促す。委員会は、締約国に、次回のレポートでは、少数民族の女性を含めた農村の女性の性別のデータ、とくに彼女たちの教育・雇用・健康・暴力被害に関する包括的な情報を提供するように求める。

[女性の雇用労働]
 29.委員会は、同一労働や同一価値労働に対する同一賃金を保障する法的規定の欠如、賃金格差が存続していること、インフォーマルセクターへの女性の高度な集中、一部の女性労働者がさらされがちな有毒で有害な環境、競争的な労働市場における収入の減少など、雇用部門で働く女性の状況を懸念する。レイオフされた女性の再雇用を促進するさまざまな努力は評価するが、ジェンダーがレイオフの第一の理由になっていることも懸念する。委員会は、また、労働法規の監督が限定的であることと、そうした規定の侵害を通報する女性が非常に少ないことも懸念する。委員会は、職場でのセクシュアル・ハラスメントも懸念する。
 30.委員会は、締約国が、垂直的・水平的職務分離を克服し、婦女権益保障法を含めた法的枠組みの監督と効果的執行を強化し、ジェンダーにもとづく女性の差別的レイオフを含めた労働法の侵害に対して女性の効果的救済を保障するために、より進んだ措置をとることを勧告する。委員会はまた、女性が同一労働と同一価値労働に対して同一の賃金と同一の社会保障とサービスを受け取ることを保障する措置を取るよう訴える。委員会はまた、締約国に、女性労働者が危険な作業環境から守られ、公的および私的部門の中の雇用の場での女性に対する差別(セクシュアル・ハラスメントを含む)をおこなった者が適切に制裁されることを保証するように奨励する。

[計画生育]
 31.委員会は、性別を選択する中絶や女児殺しなど禁止する法的手段や2006年に始まった「女児愛護」行動のような全国的運動に留意しつつも、性別を選択する不法な中絶や女児殺し、女児の不登記・遺棄が存続していることや強制的中絶について引き続き懸念している。また女性と女児のトラフィッキングの増加をもたらしかねない性別比の逆転について懸念する。
 32.委員会は、締約国に、選択的中絶と女児殺しに対する現存の法律の執行の監督を強化するとともに、権限を乱用する公務員を制裁する公正な法的手続きによって、それらの法律を執行するように強く促す。委員会はまた、少数民族の女性に対する地方の家族計画官僚の虐待と暴力(強制的不妊手術と強制的中絶を含む)の報告を調査して起訴するように締約国に強く促す。委員会は、締約国が家族計画官僚に、ジェンダーに敏感な研修を義務付けるよう勧告する。委員会は、締約国に、すべての女児(とくに農村地帯の)が出生時に登録されるよう保証する努力をひきつづき強化するよう奨励する。委員会は、さらに、締約国に、保険制度と老齢年金を住民全体(とくに農村地帯)に拡大し、農村でまだ強固な男児選好と一人っ子政策の否定的な結果としての生別比の逆転の原因を解決するように勧告する。

[脱北女性]
 33.委員会は、締約国が1951年の「難民の地位に関する条約」の締約国でもあるにもかかわらず、女性の亡命者や庇護申請者を保護する法律または規則がないことを懸念する。委員会は、北朝鮮から来た女性の状況、すなわち地位が不安定なままで、虐待やトラフィッキング、強制的な結婚と事実上の奴隷状態の犠牲者になっているか、なる危険が特にあるという状態にとくに懸念を表明する。
 34.委員会は、締約国に、女性の保護を保証するためにも、国際基準に合致した、難民と庇護申請者の地位に関する法律と規定を制定するよう訴える。委員会は、締約国が国連難民高等弁務官事務所と緊密に協力して、庇護申請者/難民の地位を認めるプロセスの中に、女性ジェンダーに敏感なアプローチを十分に統合するよう訴える。委員会は、締約国が国内における北朝鮮の女性難民/庇護申請者の状況を調査して、彼女たちが不法な居留外国人であるがために、トラフィッキングと奴隷的な結婚との犠牲にならないことを保証するよう奨励する。

 女性差別撤廃委員会は中国の政策に一定の評価を与えつつも、中国の女性差別問題を包括的に厳しく指摘し、改善を勧告したと言えるでしょう。中国国内では指摘しにくい問題もかなり含まれています。
 こうした国連からの指摘や勧告は、以前は中国国内では(私が日本で入手できるような文献を見るかぎり)活字になりませんでした。しかし、2004,5年頃からは中国国内でも、こうした指摘を受け止めた議論が散見されるようになりました。
 今度の勧告も、中国国内でも少しでも活用されることを願います。
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Author:遠山日出也
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 また、「中国女性・ジェンダー関係主要HPリスト」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。日本の問題の一部は、「ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の労働争議・まとめ」や「館長雇止め・バックラッシュ裁判」でまとめています。
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