2017-10

方剛『男性研究と男性運動』出版

 中国の男性学研究者である方剛さんが、この4月、『男性研究と男性運動(男性研究与男性運動)』(山東人民出版社 2008年)を出版なさいました(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ)。The Study on Masculinities and Men's Movementという英文名も付いています。

 方剛さんについては、すでにこのブログでも、一昨年に方剛・胡曉紅主編『男性要解放』(山東人民出版社 2006年)を出版なさったことや(その時の記事)、大浜慶子さんの訳で「中国の男性解放運動と男性学」という論文を『ジェンダー史学』第2号(2006年11月)(ジェンダー史学会発行)にお書きになったことを紹介しました。

 方剛『男性研究と男性運動』の構成は、以下のとおりです。
自序
西洋の男性性研究と男性運動
 男性性の性役割理論
 男性性の多様性の理論
 西洋の男性運動およびその流派
中国の男性性研究
 中国における男性性の研究および出版
 男性性の実践の多様な趨勢の分析
 陽剛(男らしい勇ましさ)と陰柔(女らしいやさしさ)の間──ある男性コンテストにおける男性性の実践についての分析
 両岸の男子大学生のジェンダー役割と内包の対比研究──北京と台北を例に
 中国内地の職場のセクシュアルハラスメントと立法から見た男性研究と配慮の欠落
 賈宝玉:階級とジェンダー役割に対する二重の反逆者
 エコロジカルフェミニズムに対する男性研究の視角からの回答
セックスと男性性の研究
 男性性の視点から見た男のセックス
 男性セックスワーカーと彼らの男性性
 精力剤の広告における男性像の分析
 「ベッドの上の平等」の背後──高収入の男性の性生活の叙述における男性性の分析
 中国のセクシュアリティ研究に男性研究を導入する展望
中国内地の男性運動
 中国内地の男性運動の萌芽
 男性の自覚とフェミニズム:反家父長制文化の同盟者
 「男性の自覚/解放」釈義
 支配的な男性性の改造から男性の参与の促進へ
 中国内地の男性運動備忘録
 中国の内地の男性研究/運動を推進する当面の構想
香港・台湾の男性運動
 香港の男性運動:観察と思考
 台湾の男性グループ
 台湾の学者と男性運動を討論
 「男性フェミニスト」王雅各の印象

 本書の「中国における男性性の研究および出版」「中国内地の男性運動の萌芽」「中国内地の男性運動備忘録」などの節では、中国の男性研究と男性運動の歴史がわかります。

 ただし、「男性運動」のほうは、グループとしては、2005年3月に方剛さんらが北京林業大学人文学院心理学系で発足させた「男性解放学術文化サロン」くらいしかないようです。他に、1998年に『からだ・私たち自身(我們的身体、我們自己)』が翻訳された際に「北京男性健康促進グループ」が結成されたり、2002年にDV反対のホワイトリボン運動の一環として、「女性に対する暴力に反対し、ジェンダー平等を促進する」男性ボランティアグループが結成されたりしたことはありましたが、それらは男性自身の要求に基づくものというよりも、フェミニズム主導のものであったことなどの理由で、長続きしていません。

 方剛さん自身も、中国の男性運動の困難として、以下の点を挙げています(「中国内地の男性運動の萌芽」)。
 ・西洋に比べて男性研究や男性運動の基礎になるフェミニズムが普及していない。
 ・男性自身が家父長制文化に抑圧されていることを意識していない。同性愛者はサブカルチャーにおいて家父長制に挑戦しているが、西洋に比べて、主流の文化に対する同性愛サブカルチャーの影響も弱い。
 ・フェミニズムも男性研究・運動に対して懐疑と警戒の念があり、男性研究・運動の中にもさまざまな争いがある。

 上のような点は、日本も程度の差こそあれ同じだと思いますが、方剛さんは今後の男性研究・男性運動の構想として、以下のようなことを考えているそうです(「中国の内地の男性研究/運動を推進する当面の構想」)。
 ・大学に男性研究の課程を開設したり、関心のある人向けの講座をする。
 ・男性研究のプロジェクトをおこなって、その成果をもとに社会の改良するための提案をする。また、その提案を実際におこなってみる。テーマとしては、男性の家事分担、男性によるDV、性産業における男性の顧客の態度など。
 ・ホワイトリボン運動や演劇をおこなう。たとえば『陰道独白(ヴァギナ・モノローグ)』のように、『陰茎道白』を制作して男性性を問いなおす。
 ・男性向けの電話相談をする。男性が直面するジェンダー問題に即した「男性成長グループ」を組織する。

 なお、方剛さんの基本的な視点はこれまでと同じであり、以下の「男性の自覚の二重性」ということを述べています。
 1.男性は、家父長制的な文化と体制が女性を傷つけていることを自覚し、女性が平等と自由の生存空間を獲得するのを支持し、助けなければならない。
2.男性は、家父長制的な文化と体制が男性を傷つけていることを自覚し、行動して反抗しなければならない。

 ただし、今回の本では、1の点に関して、「女性」だけでなく「セクシュアルマイノリティ」も傷つけていることを自覚しなければならないということを付け加えています。また、方剛さんは、「『男性解放』は、こうした『男性の自覚』の目標ではあるが、まだ多くの人が『男性の自覚』を持っていない今日の段階では、単純に『男性解放』という言葉を使うのは、若干先に進みすぎている」という趣旨のことを述べておられ、私にはその点も興味深かったです(「『男性の自覚/解放』釈義」)。

 もっと具体的に、ひとつ、「中国内地の職場のセクシュアルハラスメントと立法から見た男性研究と配慮の欠落」という論文を読んでみました。

 中国では、2005年8月に婦女権益保障法が改正された際に「女性に対するセクハラを禁止する」という条項が入りました。その際、「男性に対するセクハラが問題にされないのはおかしい」という意見と「現実には女性に対するセクハラのほうがはるかに多い」という意見が対立しました。

 方剛さんは、後者の意見に対しては、「少数だからといって法律が取り上げないのはおかしい」という立場です。方剛さんは、女性上司からセクハラを受けた2人の男性にインタビューしています。方剛さんはそのインタビューから、男性に対するセクハラも権力者がおこなうものであること、セクハラ被害を受けた男性も、女性同様、自尊の感情が損なわれ、抑鬱や倦怠、異性に対する態度の変化などが起きることを発見します。また、男性の被害者は、「男性の尊厳」(実際は支配者としての男性性)が損なわれるので、男性は被害を訴える勇気がないという状況――すなちわ男性性は、男性が女性にセクハラをする背景であるとともに、男性自身をも傷つけていると述べています。

 方剛さんは、多くの国のセクハラ禁止規定は男女両性に同等の権利を保障しており、また労働法などの中に置かれていて、職場の問題が重視されているのに対して、中国では、婦女権益保障法という強制性がない法律にセクハラ禁止条項が入っていることを問題として指摘し、以下のようなことを述べます。
 ・中国の政策決定をおこなう者たち――その多くは男性である――には、ジェンダー意識が乏しい。
 ・女性の人権意識が高まったからこそセクハラ禁止条項が婦女権益保障法に入ったのだけれども、男性研究や男性への配慮の推進も必要である。
 ・職場の中では多くの場合、男性が権力者であるから、男性の自己反省が必要であることを強調せねばならない。
 だからこそ方剛さんは、男性研究や男性運動が必要だと訴えるわけです。

 方剛さんは欧米の研究にも通暁しておられ、誠実かつ精力的にさまざまな問題を研究しておられます。また、個人の生活から考えることの重要性も指摘しておられますが、もう少し方剛さんご自身の経験なども書かれたらいっそう説得力が増すのではないかという気もしました。

第1回全国十佳「時代男性」の選出

 『中国婦女報』(北京)、『現代女報』(大連)など、中国の女性紙9紙による、第1回全国十佳「時代(現代的な)男性」選出活動が、昨年の12月から今年8月までおこなわれました。

 この活動は、中国と国連人口基金による「第六周期ジェンダー平等プロジェクト」(2006年~)の一環でもあります。「第六周期ジェンダー平等プロジェクト」は、「リプロダクティブ・ヘルス」「ジェンダー平等」という理念とともに、「男性参与」という理念を重視しています。この場合の「男性参与」とは、リプロダクティブ・ヘルスや家族の養育、家事労働への全面的な参加を意味します(1)

 「時代男性」の選出基準は、以下の点でした。
 1.男女平等意識を持ち、女性を尊重し、思いやっていること。
 2.家庭責任を平等に分担し、家族の発展・調和に重要な貢献をしていること。
 3.自分の職業に立脚して、男女平等と女性の発展の事業を推進していること(2)

 これまで中国では、家族の介護も仕事も頑張っているような「良い嫁(妻)」を表彰することはよくおこなわれてきました。しかし、男性の家庭役割を表彰することは少なかった(一部の地方で、少しおこなわれたことがあるだけ)。
 そのせいでしょう、西安市民の李さんは「こうした活動はなかなかいい。女性を評価して選出することが多すぎ、男性を評価することは本当に少ない。忙しくても、家に帰ったらいつもどおり家事をするような男性を表彰したら、男性中心主義の人に刺激になるだろう」と語っています(3)

 女性/ジェンダー研究者の栄維毅さんは、上記の1.の「女性を思いやる」という基準については、自分だったら、この基準を「女性の言うことに耳を傾ける」と定義すると言います。なぜなら、「愛しているから仕事をさせない」という男性もいるからです。
 けれど、栄さんも、2.の「家庭責任を平等に分担する」という基準は「非常に正しい」と言います。また、3.の「自分の職業に立脚する」という基準については、単に「妻の身の回りの世話をしたり、きちんと子どもの世話をすれば、いい男だ」というような考え方と違って、現代的で良い基準だと述べます(4)

 各地でさまざま形で選出活動が繰り広げられた末、最終的に次の10人の男性を全国の「時代男性」に選出しました(5)

郎景和(北京協和医院産婦人科主任)
 産婦人科医療に尽くし、すぐれた業績。また、一人ひとりの患者を平等に尊重した。(6)
李建華(雲南省薬物依存防止研究所副所長)
 ジェンダー視点でエイズや性病、薬物依存の防止をおこなう(7)
李中華(空軍某試験飛行団副団長、空軍大佐)
 危険な試験飛行の仕事を長年やりつつ、家にいるときは妻を思いやり、家庭の仕事も分担する。妻も夫に尽くす(8)
馬李(徐州市家庭内暴力庇護センター主任)
 DV被害者に食や住まいを提供し、心理相談や法律援助もおこなう「徐州モデル」を作る(9)
施崋山(江西省貴渓市公安局流口派出所政治指導員)
 誘拐されて売り飛ばされた女性や子どもを、危険を顧みず全国各地で180人救出。
韓偉(大連韓偉企業集団理事長)
 「中国の鶏王」と呼ばれる農民企業家。妻の許淑芬(世界のアワビ王)とお互いに支え合って、養殖業で成功。
劉日(山西潞鉱業集団常村炭鉱副隊長)
 23年間、妻とも協力して、妻の父母を介護しつつ、仕事でも優秀な成績を収める。
李明舜(中華女子学院副院長)
 婦女権益保障法の改正や家庭内暴力防止法の建議稿を作成にジェンダー視点で取り組む。中国初のホワイトリボン運動の発起人にも(10)
田輝(宝鶏市疾病予防制圧センター伝染病予防治療課長)
 PKOでハイチに行った妻の李華が任務を遂行できるよう、家庭と子どもを支える。
傅勝龍(娄底大漢集団理事長・総裁)
 会社内で「調和[和諧]家庭」構築の活動をすすめる(十佳和睦家庭や模範夫、良い嫁の表彰など)。家庭でも妻や家族を思いやり、大切にする。

 ただ、彼らを紹介した文を読むかぎりの話ですが、以下の点が気になります。
 (1)従来の男女を逆にしたにとどまる感が強いものもある(李中華、劉日、田輝)。その中には、国家や軍事への貢献が強調されている例もある(李中華、田輝)。
 (2)(1)の点とも関連するが、家族単位の調和を強調する傾向がある。選出基準自体にも「家庭の調和」という言葉が掲げられてており、「調和家庭」の構築活動も表彰の対象になっている(傅勝龍)。この意味で、現在の婦連の活動の枠内にとどまっている面もある。
 (3)仕事関係の表彰でも、『中国婦女報』の記事を読んだだけでは、いまひとつ男女平等やジェンダーの観点がよくわからないものもある。

 しかし、いずれにせよ、全国規模で男性の家庭役割や男女平等への貢献を表彰したのは恐らく初めてのことであり、新しい動きだと言えると思います。

(1)「男性参与是主題 性別平等是目標」『中国婦女報』2007年2月14日。
(2)「誰是我們尋找的“時代男性” 全国9家女性報媒聯手挙辨評選活動,推動広大男性参与性別平等事業」『中国婦女報』2006年12月1日。
(3)「“時代男性”尋找活動進入中期」『中国婦女報』2007年1月16日。
(4)栄維毅「什麼是好男人」『中国婦女報』2007年2月16日。
(5)「中国首届十佳“時代男性”評選進入公示階段」『中国婦女報』2007年8月8日「中国首届十佳“時代男性”当選人物公示」『中国婦女報』2007年8月8日「“時代男性”感言:真情流露那一刻」『中国婦女報』2007年8月21日
(6)「郎景和:給治婦女是善良表達」『中国婦女報』2007年3月20日。
(7)「李建華:一家防艾工作者性別視角」『中国婦女報』2007年3月12日。
(8)「李中華:試飛譲我更愛妻子」『中国婦女報』2007年3月15日。
(9)「馬李:我的工作就是為了消除家暴」『中国婦女報』2007年3月7日。
(10)「李明舜:性別意識給了他“第三只眼”」『中国婦女報』2007年3月17日。

本年の動向11―男性問題のシンポジウム

4月 香港の「両岸三地男性デー交流会」でシンポジウム
12月 北京で「男性とジェンダー平等:多元的対話と研究・討論」シンポジウム


 今年は、中国・台湾・香港の3つの地区の研究者などが集まる男性問題のシンポジウムが2回、開催されました。

 (1)まず4月8日と9日に香港で、香港明愛男士成長センターが「両岸三地男性デー交流会」(「両岸三地」とは、大陸と台湾、香港のこと)を開催します。
 香港明愛男士成長センターというのは、1998年3月に設立された団体で、その目標としては「男性の不断の成長を喚起し、彼らに家庭における役割を確立させ、調和的で打ち解けた家族関係を築くのを助けること」を掲げており、グループ活動や講座などをしているといいます。
 また、同センターは2003年から、4月10日を男性デーと定めて毎年行事をおこなっています。4月10日に決めたのは、『論語』の中の「四十にして惑わず」という言葉から取ったそうで、その趣旨としては「男性の自尊・自信を打ちたて、新しい時代がもたらすさまざまな挑戦を正面から積極的な態度で迎える」というものです。
 以上の説明を読むかぎりでは、一般的なメンズリブとはちょっと異なる感じです。

 しかし、この香港明愛男士成長センターは、今回、方剛さん(男性解放学術サロン)や藍懐恩さん(台湾中華21世紀男性成長協会の創設者。女性)と協力して、「両岸三地四都市・男子大学生のジェンダー自己認知調査」をやりました(四都市とは、北京、上海、台北、香港)。これは、かなりフェミニズム的ないしジェンダー論的問題意識が強い調査です。
 この調査は、このページからダウンロードできますが、全体として台北の男性が進歩的で、北京や上海の男性は保守的な傾向があるようです(香港は中間)。

 また交流会の中で、「第4回男性デー 三八から四十へ:男性の覚醒と更新『両岸三地』シンポジウム」が開催され、以下のような報告がされました。
 方剛:中国内地の男性運動の萌芽
 藍懐恩:台湾の男性関懐
 黎偉倫(香港明愛男士成長センター主任):香港の男性の成長
 楊明磊(台北銘傅大学):コメント
(このシンポジウムの写真は、上のページにも掲載されていますし、方剛さんのブログでも紹介されています。)

 (2)また、12月4日から6日まで、北京で「男性とジェンダー平等:多元的対話と研究・討論」というシンポジウムが開催されました。
 これは4月の香港のシンポよりはるかに大規模なものでした。男性とジェンダー平等の問題を論じたシンポジウムとしては、中国大陸はもちろん、台湾や香港でもかつてないものだったようです。

 このシンポジウムは、北京・天津「ジェンダーと発展」協力者グループ(京津社会性別与発展協作者小組)、男性解放学術サロン中国フェミニズム学術文化サロン女性メディアモニターネットワーク(婦女伝媒監測網絡)北京紀安徳相談センター(北京紀安徳諮詢中心)が共同で発起し、香港楽施会の資金援助を得ました。

 このシンポの模様は、「中国におけるジェンダーと発展」ネットワークのHPで詳しく報告されています。以下の報告がおこなわれました(クリックすると内容がわかります[中国語])。

12月4日
9:20-10:35:大会の主旨
 王雅各:新世紀の男性研究
 栄維毅:共に権力を持ち、責任を分担する──フェミニズムと男性がジェンダー平等を促進する行動との相互作用
 陳錦華:男性サービスの志向:ジェンダー本位の実践

11:00-12:30:男性とフェミニズム
 畢恒達:男がフェミニズムと出会うとき
 劉兵男性とフェミニズム研究
 黄海濤:どのようにフェミニズム団体の中で成長するか
 李麗華:高等教育における男性の全面参与
 石瀟純・陳智慧:男子学生と「フェミニズム」──湖南の三つの大学のアンケート調査

14:40-15:20:男性の気質の構築と男性の経験(1)
 陶咏白:画像に閉じ込められた男性精神──林剣峰の絵を解析する
 賈方舟:現代芸術の中の男性のテキストと男権の言葉
 李修建魏晋の男性気質から今日のジェンダー問題まで
 朱雪琴:男性のジェンダー役割のステロタイプなモデルの、男性心理に対する影響の事例の分析

15:20-18:10:男性の気質の構築と男性の経験(2)
 曹瓊:男性気質の解体と再建──現代中国映画のジェンダー権力関係の分析
 曹瑪麗:現代のコマーシャルにおける男性気質
 方剛・曽丹:ベッドの上の「平等」の背後──高収入の男性の性生活の叙述における男性の気概の分析
 李強:アメリカの両親がいる家族における父親の男性気質の家庭化
 陳国康:「変遷する社会、変遷する男性」:香港の男性の社会的境遇と家事参与

19:30-21:30:ジェンダーと芸術:林剣峰・李虹・斉鵬の美術作品の研究と討論
 李虹:永遠に跪いてる『女』人
 余迪:絵画の「鬼才」林剣峰取材ノート
 張君:画家・斉鵬女史訪問記

12月5日
9:00-10:00:クイアとジェンダー平等
 Leslie Cao:私のトランスジェンダリズムあるいは反ジェンダー主義の精神史
 崔子恩クイアの「見る」と「見られる」
 童戈:ジェンダーを越えて構築された「易装MB[女装したmoney boy=売春する男の子]」およびその活動状態
 王海生:中国の「性転換した人(変性人)」の透視と思考
 李強対立と融合──中国の男性同性愛の主流文化における身分の構築
 郭雅:中国大陸の男性同性愛コミュニティ組織の発展

11:00-12:30:男性研究と男性運動(1)
 楊明磊両岸の男子大学生のジェンダー役割の内包の対比研究──北京と台北を例に
 侯書芸・王海生・張君・余迪:ここでの変革はひっそりと──首都師範大学男子学生のジェンダー観念の調査
 張京メディアと男性研究

14:00-15:20:男性研究と男性運動(2)
 荒林フェミニズムと男性研究の方法──『中国のフェミニズム』と『男性批判』を例に
 梁麗清:女性運動が男性運動と出会うとき
 方剛:「男性の自覚/解放」釈義
 藍懐恩:『紳士生活サロン』による男性の人文生活のモデルを構築する試み

16:35-18:00:男性研究と男性運動(3)
 黎偉倫:香港の男性運動:ソーシャルワーク主導から男の参与まで
 梁展慶:香港の男性運動──フェミニズムの観点への支持の欠如
 馬毓鴻・楊明磊:男性の幼稚園教師の職業選択と適応経験の研究
 洪文龍:台湾の男性成長団体のジェンダー・ポリティックス

19:30-21:30:映像作品の展示とシンポ
19:30-20:30:中山大学ジェンダー教育フォーラム記録映画『ホワイトリボン』の簡単な紹介
20:30-21:30:雲南の少数民族男性の生存状況(DV)
 金曉敏:東洋の神秘の女児の国・瀘沽湖畔のモソ(摩梭)人の男性の生活と権益
 鄭新民:ハニ(哈尼)部落の青年男性の結婚難の状況の調査と訪問インタビュー

12月6日
9:00-12:00「ジェンダー平等の行動への男性参与の促進」参与式討論と計画

 以上、男性とジェンダー平等について、実に多面的に検討されていることがわかります。ぎっしり詰まった日程にも驚かされます。

 栄維毅さんは、このシンポは「多元的な対話と研究・討論」という点で成功だったとまとめています。男性と女性だけでなく、男性と男性、女性と女性、さまざまな性志向の人が対話と交流をし、内容が豊かで、雰囲気は民主的で平等だったと。 

 栄さんは、反省点としては、会議で発言者が多くて討論が十分できなかったこと、多元的なのはよいが「政治的に正しくない」発言(女性に対して暴力的、被害者を責める)が十分正されなかったこと、男性団体の関心がまだセクシュアリティに集中していることなどを挙げています(栄維毅「《男性与性別平等:多元対話与研討》研討会綜述」)。

 いずれにせよ、まだま小さいとはいえ、中国でも地区を越えて男性団体や男性問題への関心は急速に発展しつつあるように思えます。

[追記]
 報告の内容についてのリンクが切れていますが、下のページですべて見ることができます。
 男性与性别平等:多元対話与研討

方剛さんの論文が『ジェンダー史学』に掲載

中国の男性学研究者・男性運動家である方剛さんの論文「中国の男性解放運動と男性学」がジェンダー史学会(私は会員ではない)の機関誌『ジェンダー史学』第2号(2006年11月)に掲載されているようです。
中華女子学院の教員で、関西中国女性史研究会の会員でもある大浜慶子さんの訳です。

資料:方剛学術論文摘要:中国的男性解放運動与男性学(日文発表)(方剛さんのブログより)

本年の動向4―『男性要解放』出版

 6月 方剛・胡曉紅主編『男性要解放』(山東人民出版社 2006年)出版。

 方剛さんは、北京林業大学人文学院の心理学部の先生です。すでに『男人解放』(華僑出版社 1998年 未見)、『性別的革命』(花城出版社 2002年)などの著作があります(個人でブログも作っておられます)。
 ただ、今回の本はそうした個人的著作とは違って、方剛さんたちが2005年3月から開いている「男性解放サロン」という集まりがもとになってできたものです。「男性解放サロン」とは、学者や学生、各界の人々が集まって、お互い自分の経歴や成長の中からジェンダーの問題を考える集まりであり、まだサイトは持っていませんが、サロンの掲示板(BBS)があります
 もう一人の編者である胡曉紅さんも大学の先生ですが、女性です。このように、この本は女性も加わって作られています(胡曉紅さん自身は「モダニティと男性精神」という、理論的な論文を寄稿しています)。

 さて、方剛さんは以前すでに「男性解放主義者宣言」という宣言を出しています(1)。そこで、次のように言っています。
 「男に関するあらゆる固有の教条、とくに男は強くなければならないという教条を放棄しなければならない。どこでも男の寿命が女より短いのは、この、我々の骨髄に深く入った『男=強者』という観念が男を屠殺するからである。
 彼らは‥‥疲れていても、疲れたとは言わない。なぜなら他の男や女に『彼は男らしくない』と言われるのを恐れるからである。」
 まさにメンズリブの宣言と言えると思います。

 『男性要解放』のほうは、届いたばかりで私もまだ十分読めていないのですが、ざっと見た感じで内容を章ごとに簡単に報告してみます。

 「序 男性解放は逃げることのできない使命である」では、男性解放の定義などが述べられているのですが、ここで注目されるのは、その定義が当初とは少し変わってきたことが述べられていることです。当初はなかった「家父長制文化の女性に対する傷害を自覚的に反省し」という文言が加わっています。これは、「男性解放サロン」が成立した当初、フェミニストから歓迎の声とともに、加害者としての自覚を求める声があがったこと(2)と関係があるのかもしれません。
 かくして方剛さんは、次のような「男性の自覚の二重性」を提唱しています。
 「第一に、男性は、家父長制的な文化と体制が女性を傷つけていることを自覚し、女性が平等と自由の生存空間を獲得するのを援助しなければならない。
 第二に、男性は、家父長制的な文化と体制が、男性を傷つけていることを自覚し、反抗する行動をしなければならない。」

 「第1章 背景と理論:私たちは何のために」の中で、方剛さんは、上の第一の点とも関連する事項として、「男性の自覚日」というものを提起しています(3)
 これは、3月8日の「国際女性デー(婦女節)」と対応しているのですが、単純に「女性の祝日があるから、男性の祝日(男人節)も作れ」というのではなくて(そういう主張をする人もいます)、男性が自らの解放だけでなく、女性に対する圧力を軽減するように社会的責任や家庭責任をもっと引き受けるのを励ますという趣旨を含めたものだそうです。

 「第2章 回顧と自己批判:私たちは自覚している」には、男性解放サロンの活動の一環として、メンバーが自分が子どものころから成長してきたありさまを語り合い、議論した記録が収められています。
 一つのテーマは「家族関係の中のジェンダー問題」であり、「男尊女卑」「両性の気質」「男女の役割」「父親の権威」が話題になっています。
 もう一つのテーマは「異性の衝突の中のジェンダー問題」であり、「男は女より『成功』しなければ、恋愛・結婚に差し支えるのか?」「男が女を守ることは、我々に何をもたらすのか?」「両性のゲームとジェンダーの差異」を話題にしています。

 「第3章 傾聴と思考:私たちは成長している」は、メンズリブをめぐる代表的論者(方剛、栄維毅、藍懐恩[この方は女性ですが、台湾の21男性協会の創始者で、やはりブログを持っておられます])の講演と討論の記録です。

 「第4章 唱導と参与:私たちは行動している」では、たとえば男性解放サロンのメンバーが「女権中国(フェミニズム中国)」というサイトが提唱した「公衆トイレ行動」(女性トイレの少なさを是正する行動)に協力して、調査研究をした記録が収められています。
 ただしこの章の他の文章は直接的な実践の記録でありません(メディアにおけるメンズリブ理解に対する反論や、上で述べた「男人節」に関する論争の記録などです。これらも広義における実践ではありますが)。また日本のメンズリブがやっているような、たとえば男性の暴力の問題に対して男性として実践的に取り組むようなことはまだやっていないようです。
 けれど、この点はサロンが生まれたばかりであることとも関係しているのでしょうし、「行動」に関して独立した章を設けたということは、今後より実践的な行動をしていく用意があることを意味しているのかもしれません。

 なお、全体として感じるのは、中国のメンズリブは活動が学者や学生、文化人中心で広がりに乏しいということです。ただし、この点についても、中国のメンズリブはまだ始まったばかりだからかもしれません。また、中国においては政治的自由が乏しいために、学問的な探求が中心にならざるをえない面もあるのかもしれません。

 いずれにせよ、中国でもメンズリブのグループが結成され、声をあげているということは注目に値することだと思います。

(1)方剛「男性解放主義者宣言」荒林主編『男性批判』広西師範大学出版社、2004年。
(2)呂頻「対男性解放運動的質疑」、栄維毅「性別平等中的男性責任」(ともに『中国婦女報』2005年5月17日)。
(3)方剛「男性運動与女性主義:反父権運動的同盟者」(『中国女性主義』5[2005年秋冬号]ですでに発表したものの再録)。

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 また、「中国女性・ジェンダー関係リンク集」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。
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