2008-08

セクハラで初の刑事処罰

 成都市のある会社の人事担当者の男が、新しく会社に入ってきた女性従業員に交際を申し込みましたが、断られました。すると、その男は、女性を抱き締めて、無理やりキスしようとしました。女性は大声で助けを呼んだため、隣の部屋の同僚が警察に通報し、その男は逮捕されました。今年6月、裁判所は、その男に対し、「人事を管理する権限を利用し、女性を侮辱した行為は刑事処分に値する」として、女性に対する強制わいせつの罪(刑法237条)で、拘留5ヶ月の判決を下しました。

 中国では、2005年に「婦女権益保障法」が改正された際、セクハラを禁止する規定が入りました。この事件について、多くの中国のメディアは、「国内で初めて『セクハラ』によって刑罰に処せられた事件である」と報じました。

 四川省婦連の法律顧問の江敏弁護士は、「この事件は、『セクハラ』は犯罪にならないと思っている人に対する警告である」と述べています(以上は(1))。

 ただし、判決の中には、「セクハラ(性騒擾)」という言葉はまったく出てきません。というのは、婦女権益保障法の中には「女性に対してセクハラをすることを禁止する」といった文言しかなく、これは、刑事処分の根拠になるようなものではないからだそうです。というか、民事でも、判決文の中にはまだ出てきていないかもしれません。

 また、警察や検察の中には、「男の行為は違法行為ではあるが、犯罪とはまではいえない」という意見もありました。けれど、女性が抵抗したため、男が女性の首を絞めた際に、喉に傷を負わせていて、悪質であるため、「一般の人が理解するセクハラを越えて、犯罪を構成する」から、検察が刑事責任を追及したという事情もあるようです(以上は(2))。

(1)「国内首例性騒擾獲刑案成都判決」『中国婦女報』2008年7月16日。日本でも「中国:セクハラ裁判で有罪判決 法施行以来初めて」(『毎日新聞』2008年7月16日)と報じられています。
(2)「“首例性騒擾判刑案”曝盲区」『青年周末』2008年7月24日(「“首例性騒擾判刑案”曝盲区 判決書没提性騒擾」「社会性別与発展」サイトへ転載された同じ記事[リンク切れの場合に参照])。
*その他、『検察日報』もかなり詳しく報じています(「解読国内首例性騒擾獲刑案:界定盲区還需要多久」2008年7月16日)。

中国の男女賃金格差や性別職業分離に関する実証研究

 最近、中国の男女賃金格差や性別職業分離に関する研究が日本でも続々と発表されています。馬欣欣氏や石塚浩美氏によるもので、いずれも実証的なものです。手法としては、近代経済学の手法を使っています。また、日中比較に重点が置かれたものが目立ちます。

 以下、メモしたことを簡単にご紹介します(2007年以降の論文にかぎる)。

1.馬欣欣「日中における男女間賃金格差の差異に関する要因分解」『日本労働研究雑誌』560号(2007年)

 この論文は、男女間賃金格差に、以下の2つがいかに影響しているかに注目している。
 (1)人的資本……学歴および勤続年数、経験年数。
 (2)賃金決定制度……「マクロレベルの賃金決定制度」(法規制、国家の介入、労働組合の団体交渉)と「企業における個別レベルの賃金決定制度」のどちらが優位か?→集権型か分権型か

 データは、中国については1999年中国家計調査の個票、日本については2004年慶応大学家計パネル調査の個票を利用している。

 計量分析の結果、以下の点が明らかされている。
 第一に、中国より、日本のほうが男女間賃金格差が大きい。
 第二に、人的資本と賃金決定制度の両方が、男女賃金格差の日中の差異に寄与している。
 第三に、賃金決定制度に比べて、人的資本のほうが日中の男女賃金格差の差異に与える影響が大きい。具体的に言えば、男女間の勤続年数の相違(←結婚出産の際に退職する女性が多いか否か)が、日中の差異の最も主要な要因である。
 第四に、低労働所得層に比べ、高労働所得層のほうが日中の差異が大きい。

 以上の結果から、以下のことが提示されている。
 第一に、日本では、出産育児期の就労継続を促進することが重要な課題である。
 第二に、中国でも、経済改革によって賃金決定制度が集権型から分権型に変化したことによって男女間賃金格差が拡大した。それゆえ、男女平等の労働政策や労働組合の機能向上が必要である。

2.馬欣欣「性別職業分離と男女間賃金格差の日中比較──日本と中国の家計調査のミクロデータを用いた実証分析──」『中国経済研究』4巻1/2号(2007年9月)

 この論文は、職業性別分離が日本と中国の男女間賃金格差にそれぞれどのような影響を与えているかについて、数量的に明らかにしたものであり、以下の特徴を持つ。
 ・男女間格差を職業内格差と職業間格差に分けた。
 ・職業分類については、国際基準における職業の大分類にしたがって分類した。
 ・年齢変数および勤続年数変数を設定し、両者の効果を考察した。
(データは、上の2の論文と同じ。)

 研究の結果、以下の結論を得ている。
 第一に、両国とも、男女間の職業分布の相違が存在し、これが男女間賃金格差に寄与している。
 第二に、日中とも、職業内格差が男女間賃金格差全体に占める割合は、職業間格差よりも大きい。この問題は中国よりも日本において深刻である。

 その他、以下のような知見も示されている。
 ・中国では勤続年数が男女の賃金に有意な影響を与えないのに対して、日本では、勤続年数が長いほど賃金が高い(製造職の男性、事務職の女性)。その理由は、中国と違って、日本では企業内職業訓練が重視されていることにある。
 ・家族構成の影響については、既婚であることは中国における男女の賃金に有意な影響を与えない。しかし、日本の場合は、技術職とサービス職において既婚であることは女性の賃金にマイナスの影響を与える。

3.馬欣欣「中国における雇用調整と再就職後の賃金の男女格差──2002年中国都市家計調査を利用した実証分析」『日本労働研究雑誌』571号(2008年)

 この論文は、2002年中国都市家計調査の個票を利用し、中国都市部における雇用調整と再就職後の賃金の男女格差に関する実証分析をおこなっている。

 その結果、以下の点を明らかにしている。
 第一に、男女とも、教育水準が低いほど、失業者になる可能性が大きくなるが、人的資本を含む他の条件が同じでも、失業者になる確率は、女性のほうが男性より高くなる。
 第二に、男女とも、年齢の上昇とともに、失業期間が高くなるが、人的資本を含む他の条件が一定であれば、失業期間は、女性の方が男性より長い。また、政府・企業の斡旋を通じた再就職の場合、失業期間が短くなる。
 第三に、人的資本が大きいほど、再就職後の賃金が高くなる。しかし、人的資本を含む他の条件が同じでも、再就職後の賃金は、女性の方が男性より低くなり、つまり、再就職後の賃金の男女格差が存在する。

4.石塚浩美「中国における男女間職業分離仮説の実証分析──お茶の水女子大学F−GENS中国(北京)パネル調査2004の小分類職種データを用いて──」『F-GENS Journal』No.9(2007年)

 石塚氏には、すでに「中国・北京の男女間賃金格差とジェンダー──F−GENS中国(北京)調査を用いた要因分解分析」(『F-GENS Journal』No.5[2006年])という論文がある。

 今回の論文は、F−GENS中国(北京)パネル調査2004の回答を丁寧に整理することによって利用可能になった、中分類職種データや小分類職種データを使っている点に特徴がある(たとえば看護師は、大分類では「専門的・技術的職業従事者」、中分類では「衛生技術者」であり、小分類ではじめて「看護師」と分類される)。

 分析の結果、以下の知見を得ている(abstractより)。
 ・中国全体の性別職業分離の特徴は、「生産・運輸設備操作作業者」に女性就業者比率が高い職種が多いことが特徴である。ただし、軽工業が中心である。
 ・北京市中央8区の中分類職種における男女の職業分離は、統計的有意に認められた。
 ・北京市中央8区の小分類職種における男女差を評価し実証分析したところ、女性多数の3つの職種のうち、「公共の社会サービス従事者」を除いて、「会計・事務」および「ホテルの接客従業員」のいずれも、女性は男性に比べて有意に賃金が低い。限定的ながら、中国男女間における同一職種内の職業分離仮説が認められた。

5.石塚浩美「なぜ中国で女性の管理職が少ないのか」お茶の水女子大学21世紀COEプログラム「ジェンダー研究のフロンティア」(F−GENS)プロジェクトB編『家族・仕事・家計に関する国際比較研究:中国パネル調査第3年度報告書』(2007年)

 この論文は、F−GENS中国(北京)パネル調査2006にもとづくものであり、以下の点を明らかにしている。

 ・管理職比率は女性24.6%、男性32.0%であり、日本と比べて女性管理職が多い(日本は女性9.1%、男性22.5%[課長補佐・係長相当以上])。ただし、上級の管理職には女性は少ない。
 ・女性が「職位なし」である比率が高いのは、非国有企業、国有企業、党・政府機関の順である。すなわち市場経済化の影響が強い企業ほど、企業管理職の割合が男性優位になっている。ただし、女性の上級の管理職は、党・政府機関や国有企業にはいない一方で、非国有企業には、人数は少ないが、女性の上級の管理職がいる。
 ・正規従業員のうち、男女とも7割程度が、女性の管理職は男性に比べて少ないと考えている。
 ・女性に管理職が少ない理由を尋ねると、全体としては、男女ともに「男性は責任ある仕事をするチャンスを与えられるから」「人事決定権のあるポストに男性が多いから」という回答が多い。順位は下がるが、「男性には妊娠・出産がない」「男性には家事・育児介護の負担がない」という回答は、女性の方が男性より多い。順位は下位だが、「女性は男性よりも能力が劣るから」という回答に同意した人も、男性で44.6%(女性で35.3%)いた。

6.石塚浩美「北京・ソウル・日本における労働市場の変化とジェンダー」篠塚英子・永瀬伸子編著『少子化とエコノミー』(作品社 2008年)

 この論文は、F−GENSの北京とソウルのパネル調査のデータに、日本に家計経済研究所のデータなども加えて、北京・ソウル・日本の比較をおこなっている。

 その結果、以下の点を明らかにしている。
 ・政府統計を見ると、女性の就業中断傾向は、韓国や日本と違って、中国では認められない。しかし、中国では労働力率は40代後半から急落しており、韓国や日本と比べて早く退職している。
 ・パネル調査のデータで見ると、ソウルや日本に比べて、北京は就業状態の男女差が、さまざまな面で少ない。しかし、女性のほうが就業率が低く、第三次産業従事者が多く、臨時社員の割合が高く、上位の管理職が少ないなどの点自体は、ソウルや日本とも共通である。
 ・2004年から2006年までの変化を見ると、北京の労働市場はソウルや日本よりも流動しており、非国有セクターの正規社員や臨時社員が増えている。
 ・なぜ女性の管理職が少ないかを尋ねると、日本やソウルでは「男性には妊娠・出産がない」「男性には家事・育児介護の負担がない」ということを挙げる人が多い。しかし、北京では「男性は責任ある仕事をするチャンスを与えられるから」「人事決定権のあるポストに男性が多いから」ということを挙げる人が多い(ソウルでも、女性はそう答える傾向がある)。

 いずれの研究も、べつにあっと驚くような結果が示されているわけではありません。しかし、地道な基礎的データにもとづくもので、貴重な研究だと思います。とくに、日中(韓)の性別分業のあり方の相違を明らかにしている点は興味深いです。

「看護師条例」公布

 1月23日、国務院の常務会議で「看護師条例(護士条例)」が採択され、同月31日に公布されました。5月12日から施行されます。

 この条例は、以下の6つの章からなっており、全部で35条です(1)
 第一章 総則
 第二章 業務登録
 第三章 権利と義務
 第四章 医療衛生機構の職責
 第五章 法律上の責任
 第六章 附則

深刻な中国の看護師問題

 この条例が制定された背景には、いまの中国の看護師が抱えている深刻な状況があるようです。国務院法制弁公室の責任者は、この条例を制定した理由として、以下の3つの点を挙げています(ゴシックは遠山による)(2)

 一、看護師の合法的権益の法律的保障が不足している。看護職には充分な魅力がなく、看護師の隊伍は人民大衆の看護サービスに対するニーズを満たすことができていない。現在、人事制度の改革の中で新旧の体制が併存している情況の下で、一部の医療機構には正式の編制人員と編制外で招聘した契約制人員との複線的管理が存在しており、看護師の人的コストを減らすために、正式の編制の看護師を大きく減らし、編制外で招聘した契約制看護師を増やしている。一部の医療機構が招聘した契約制看護師は、継続的教育に参加したり職称が昇進したりする権利がなく、国家が規定した祝日・休日の待遇がなされていない。これらの問題は看護師の労働上の権益を侵犯しているだけでなく、看護師の隊伍の安定を大きく損なっており、看護の専門業務の発展に不利で、患者に優れた質の看護サービスを提供するうえで不利である。

 二、一部の看護師は全面的・厳格に看護の職責を履行することできず、基礎的な看護業務を軽視し、主体的にサービスする意識が強くないために、患者との関係が緊張し、医療の質を損ない、医療事故さえ起こしている。少数の看護師は完全には「患者を中心にする」というサービスの理念によって行動せず、患者に対する態度が温かくない。若干の病院は看護業務を単純化し、看護師は医者の指示をを執行して、注射をやりとげ、薬を出すことだけを重んじ、主体的に患者の病状の変化を観察することや病室を見回ることや基礎的な看護業務を軽んじて、患者に対する生活の世話や心理的な看護、リハビリの指導を軽視し、患者との気持ちを通わせ、交流することを軽視している。

 三、一部の医療衛生機構は医療を重んじて、看護を軽んじ、ほしいままに看護職の数を減らして、医者と看護師との比率のバランスを大きく崩している。とくに一部の病院は、看護師は病院にあまり大きな経済的効果をもたらさないと考えているため、看護師の隊伍の建設と看護業務の発展を、病院の全体的な発展計画の中に組み込んでいない。病室の看護師が少ないために、患者が必要な生活面の世話が十分できず、基礎的看護業務が水準に達していない。病院は、患者に金を払わせてヘルパー[護工]を雇わせるので、患者の生活の世話のニーズは満たせても、重体の患者に対する看護については、隠れた災禍をもたらしている。とくにヘルパーが一部の治療的性格をもった看護業務をすることは、看護師がおこなうべき患者の病状の変化を観察する職務を形ばかりのものにするので、医療の安全に多大の隠れた災禍をもたらしている。

 したがって、この条例の狙いとしても、次の3つの点が挙げられています。
 一、看護師の合法的権益を充分に保障すること
 二、看護師の業務執行行為を厳格に規範化すること
 三、医療衛生機構の責務を強化すること

この条例では、看護師自身の権益はあまり重視されていない?

 上の一、の「看護師の合法的権益」に関する条文を見てみると、以下のとおりです。

 第12条 看護師業務は、国家の関係規定にしたがって賃金報酬を得て、福利待遇を享受し、社会保険に参加する権利がある。いかなる単位または個人も、看護師の賃金をピンはねしたり、看護師の福利待遇を取り消したり、低下させてたりしてはならない。

 第13条 看護師業務は、その看護業務に適応した衛生防護、医療保険サービスの権利を持つ。直接有害有毒物質に接触し、伝染病に感染する危険がある仕事をする看護師は、関係する法律・行政法規の規定にもとづいて職業健康監護を受ける権利を持つ。職業病にかかった者は、関係する法律・行政法規の規定にもとづいて、賠償をする権利を持つ。

 第14条 看護師は、国家の関係規定と本人の業務能力と学術水準に応じた専門的技術職務・職掌を得る権利を持つ。また、専門的訓練に参加し、学術的な研究と交流に従事し、職業協会と専門の学術団体に参加する権利を持つ。

 第15条 看護師は、疾病の診療・看護に関係した情報を得る権利と看護の職責の履行に関するその他の権利を持ち、医療衛生機構と衛生主管部門の工作に意見と提案を出すことができる。

 第12条〜第14条については、それぞれについて、ほぼ対応する形で「医療衛生機構の職責」も定められており(第22条〜第24条)、法律上の責任も定められています(第29条、第30条)。

 しかし、全体として、一般的なことしか書かれていない感じがします。また、第12条と第13条には、「国家の関係規定にしたがって…」「関係する法律・行政法規の規定もとづいて…」と書かれていますが、それらの点に関しては、言い換えれば、この条例では、従来からある規定で述べられている以上のことは定めていないということになります。医療衛生機構の「法律上の責任」も、この2つの条文に関しては「(守らなければ)関係する法律・行政法規の規定もとづいて」処罰するという書き方なので、新しく罰則を設けたというわけではないです。

 ただし、第14条のうち、看護師の職業訓練に関する規定だけは、少しだけ厳しくなっています。すなわち、第24条で「医療衛生機構は、その機構の看護師の在職訓練計画を制定・実施し、看護師に訓練を受けることを保障しなければならない」と規定されているのですが、この点は、やらなければ地方人民政府から「警告」が下されます(第30条)。この点は直接医療の質にかかわる問題だから、少し厳しくしたのでしょうか?

看護師の配備基準の達成については、やや力点が置かれている?

 比較的重視されていると思うのは、第20条の「医療衛生機構の看護師の配備数は、国務院の衛生主管部門が規定した看護師の配備基準を下回ってはならない」という規定です。

 この条項も、「国務院の衛生主管部門が規定した配備基準」を確認しているだけですが、この条項に関しては、「法律上の責任」が、「地方人民政府が期限までに改めるように警告する」→「改めなければ診療科目の削減or6ヶ月以上1年以下の営業停止」(第28条)というふうにやや厳しくなっています。また、経過措置として、「この条例が施行される前にまだ看護師の配備基準を達成していない医療衛生機構は、国務院の衛生主管部門が規定した施行の段取りに従って、この条例が施行された日から3年以内に看護師の配備基準に到達しなければならない」(第34条)ということも定めているので、ある程度本気で現状を改めようとしている感じがします。

 看護師の配備基準の達成がわりあい重視されている背景には、この問題がとりわけ深刻だということがあるように思います。たとえば、2006年の看護管理工作会議において、衛生部医政局看護部長の郭燕紅さんは「衛生部統計センターの統計データによると、1952年のわが国の医者と看護師の比率は1:2.28だったのが、2001年には1:1.09に下降し、2003年には1:0.68になった。全国400ヶ所あまりの病院に対する衛生部の調査によると、医療機構の病室の看護師とベッドの比率の平均は0.33:1であり、最低は0.26:1しかなく、まだ衛生部が1978年に出した要求である0.4:1に達していない。95%以上の病院では入院患者の生活看護の仕事は、家族かヘルパーが請け負っている。」「1978年から現在までにもう30年が経とうとしており、医学技術は飛躍的に前進し、人民大衆の健康のニーズは高まっているのに、看護師のベッド比率は高まっていないだけでなく、下降している」(3)と述べています。

 看護師の配備基準を達成するか否かは、もちろん看護師の労働条件にも関わってきます。今後、この条例によって、現状がどれほど変わるかに注目したいと思います。

 その他の条文に関しても、最初に述べた一〜三の点を解消する上で果たしてどれほど有効かを検討してみたいと思います。

(1)「中華人民共和国国務院令第517号 護士条例」(中華人民共和国中央人民政府サイトより)。中国の看護師が抱えている深刻な状況については、文中にも挙げた中華首席医学ネットの特集ページ「天使之憂」をご覧ください。
(2)「国務院法制辨負責人就《護士条例》答記者問」(中国法制信息網より)
(3)余運西「失衡的護士床位比」『健康報』2006年3月22日。なお、国際比較については、中国語ですが、胡雁「護理学専業的現状与前景」中国護士網2005-9-20参照。

セクハラの司法解釈について民間で専門家が建議稿を発表

 2月29日、中国法学会「DV反対ネットワーク」中国社会科学院法学研究所「ジェンダーと法律研究センター」と「職場でのセクハラ反対課題グループ」が共催した「職場でのセクハラ反対の課題の成果発表会および司法解釈(1)研究討論会」が、「人民法院がセクハラ事件を審理する若干の規定」という司法解釈の専門家建議稿を発表しました。

 中国では、2001年に初めてセクハラ訴訟が起きました。また、2005年に婦女権益保障法が改正された際、セクハラ禁止規定が設けられました。

 しかし、セクハラ訴訟の数は多くなく、また、その半分以上は原告の敗訴に終わっています。それは、セクハラ訴訟には、「立件が難しい」「証拠を取るのが難しい」「賠償が難しい」などの問題があるからだといいます。建議稿を起草したメンバーの一員である薛寧蘭さん(中国社会科学院法学研究所研究員)は、「婦女権益保障法の規定は、原則しか述べておらず、使いにくいのです。多くのセクハラ事件の原告は、証拠が足りないために敗訴します」と言っています。

 ですから、この建議稿は、セクハラに対して境界線を定め、セクハラに対する民事賠償の範囲を明確にするとともに、その審理と執行の手続きに関しても、セクハラ事件の特殊性に符合した規定を設けたそうです。また、セクハラに対する使用者[用人単位]の義務と責任も規定しました。

 この建議稿を作成するにあたっては、2005年から2007年までの3年間にわたって、全国の女性の被害者やその同僚、親族、弁護士、裁判官などを訪問・取材したうえで検討を重ねたそうです。

 この建議稿は、一部の人民代表や政協委員にも渡されました(2)

 こうした提案が人民代表や政協委員の手に渡ったからといって、それがそのまま実現するわけでは全然ありません。けれども、長い目で見ると、きちんとした調査研究をおこなって提案を作成したということは、意義を持ってくると思います。

 つい先日の『中国婦女報』にも、ある女性がホテルのトイレで盗撮にあって110番したところ、警察もホテルもなかなか動こうとしなかったという話が書かれていました(3)。その紙面で、宋美婭さんは、セクハラという人権問題に対する警察やホテルの冷淡さを厳しく指摘するととに、「DVも以前は私事・家庭内のことであるとして警察も放置していたけれども、数年来の各方面の宣伝などによって、警察や検察、裁判所もDVを重視するようになった」と述べて、セクハラに関しても、法律業務に従事する人々が努力するように訴えていました(4)。上のような法律関係者の努力が実ることを期待したいと思います。

(1)木間正道・鈴木賢・高見沢磨『現代中国法入門[第3版]』(有斐閣 2003年)は、「司法解釈」について、以下のように述べています。
 「人民法院の裁判例には一般に法的拘束力はないが,最高人民法院が正式に公布した裁判例は下級法院が類似の事件を処理する際の参考に供されている。しかし,それよりも重要な法源としては,最高人民法院と最高人民検察院が発する[司法解釈]とよばれる文書である。下級の法院・検察院からの問い合わせ,照会[請示]に対する回答という形をとる[批復],[答復],[復函],[通知]などと,主要な制定法の細則を条文形式で体系的に示す[意見]とがある」(97頁)。
(2)「性騒擾司法解釈有了専家建議稿」『中国婦女報』2008年3月3日。なお、昨年の全国政治協商会議でも、中国社会科学雑誌社の哲学編集室主任の柯錦華委員が、セクハラの司法解釈について6つの面(1.基本原則、2.セクハラの定義、3.賠償責任、4.使用者の責任、5.審理の手続きと執行の手続き、6.証拠原則)から提案をおこなっています(「“性騒擾”応做六方面的司法解釈」『中国婦女報』2007年3月9日)。
(3)湯計・張麗娜「“遭到性騒擾還没地児説理了?”」『中国婦女報』2008年2月28日。
(4)宋美婭「事関人権,豈可冷淡」『中国婦女報』2008年2月28日。もちろんDVに関しても、中国では全国的なDV防止法がないなど、まだまだ課題はありますが。

中国で派遣社員への強制転換ひろがる

百貨店が店員を強制的に派遣社員に転換。女性たち、裁判を起こす。(1)

 中国では、近年、全国の大型小売店やスーパーマーケットは、その店員をメーカーの派遣社員(「メーカー情報員(廠方信息員)」「ショッピングガイド(導購員)」などと称する)に強制的に転換させ、店との雇用関係を断ち切っています。それによって彼女たちの社会保険費の支払いを免れ、賃金の遅配欠配などにも責任を取らないようにするわけです。
 彼女たち派遣社員は、賃金は500〜600元、それに数百元の奨励金をプラスしても、月収は1000元ほどです。ほとんど休日はなく、医療保険や養老保険などの福利待遇もないといいます。
 ある女性労働者は、「農民労働者(農民工)の権益は国家と全社会が重視するようになったけれど、私たち商業に従事している女性労働者の権益は、誰が守ってくれるの?」と言っています。

 たとえば、重慶百貨店株式会社の場合はこうです。
 重慶百貨店は、2001年、従業員を数名解雇しましたが、そのとき、彼女たちに要求されて賠償金を払わなければなりませんでした。こうした事態を避けようと重慶百貨店は、2002年から多くの店員に、メーカー(の派遣社員)へ転籍を強要しはじめました。彼女たちはメーカーの人など全然知りませんでしたし、転籍させられた後も、百貨店の指示によって売り場も、売る物も決められていました。

 2005年に重慶百貨店が食品部にスーパーマーケットを設立した際には、そこの店員はすべてメーカーと労働契約を結ばせて、派遣社員にしました。

 昨年(2007年)4月にも、多くの女性店員たちが、重慶百貨店に「あなたはここの人ではない」と言われて、メーカーの派遣社員であることを確認する書類にサインするよう強要されました。

 彼女たちはみな重慶百貨店で十数年働いてきました。そこで、女性労働者14名が、昨年12月21日、労働紛争仲裁委員会にそのことを訴えました。結ばされた労働契約にも、多くの法律・法規違反があったようです。署名が従業員の直筆でないこと、一つのメーカーとの契約期間が終了していないのに、別のメーカーとの契約していること、賃金が現地の最低賃金に達していないこと……。

 しかし、昨年12月25日の労働紛争仲裁委員会の判決は、「女性労働者と重慶百貨店が労働契約をしていた証拠がない」という理由で、原告敗訴でした。判決の後、重慶百貨店はメーカーにも圧力をかけて、彼女たちを雇い止めさせました。
 そこで、女性労働者らは、今年1月2日、裁判を起こしました。

 全国弁護士協会の労働法専門委員会秘書長の王傑さんは、「今年1月1日から施行された労働契約法は、臨時の仕事、補助的または代替的な仕事だけを派遣にできるとしており(66条)、店員は比較的安定した仕事なので、派遣にはできない。労働契約法の施行細則において、国家はもっと労働派遣に対して、きめ細かで厳格な制限をすべきだ」と言っています。

 王傑さんは、「現在、労務派遣を規制する法律の規定はきわめて少なく、基本的には立法上の空白点である」とも述べており、だから、今回の労働契約法では、次の3点を規定したのだと言います。
 1.労務派遣単位と派遣労働者は、2年以上の期限が規定された労働契約を結ばなければならない(58条)。
 2.派遣労働者は、使用者の単位の労働者と同一労働同一賃金を享受する(63条)。
 3.労務派遣は、一般に、臨時の仕事、補助的または代替的な仕事で実施する(66条)。
 王傑さんは、こうした規定ができた以上、「使用者が派遣労働者を使うことで見込める利益は以前より少なくなるから、労務派遣の市場の市場規模は縮小するだろう」と言っています。
 
 ただし、この労働契約法が施行される直前、むしろ企業は社員の派遣労働への転換をすすめました(重慶百貨店が2007年に店員を派遣社員にしたのも、その一つの例でしょう)。なぜなら、労働契約法には、不安定雇用の安定化につながる条項や解雇のための経費の増大につながる条項があるため、企業がそうした義務を回避しようとしたからです。そのことを、日本のメールマガジン「China Now!」が、以下のように報じています(この記事は、中国のサイト「民生観察」の記事を「China Now!」の編集委員会が翻訳なさったものです)。

中国の郵便局で労働契約法の施行を前に500人の労働者を派遣会社に強制転籍(2)

◆四川省の郵便局で「自主退職」を強要した大量雇い止め

 四川省凉山州郵便局で雇い止めにあった労働者500名の代表は何度もわれわれと連絡を取り、彼女たちの境遇を訴えてきた。本日、労働者代表から、完成したばかりの訴えが送られてきた。

 この労働者代表によると、2008年から新しい「労働契約法」が実施され、この法律によると、ひとつの事業所で10年以上働いている労働者は、雇用主に対して期間の定めのない雇用契約を要求することができる(14条:遠山注)。

 2007年11月、四川省の凉山郵便局の500名の臨時職員は期待に胸膨らませ2008年の到来を待ち望んでいた。しかし凉山郵便局は、派遣労働を実施するとして、彼女たちを派遣会社に転籍させ、雇用関係を解除し、500名の臨時職員の正社員への道を閉ざした。多数の人が派遣会社への転籍に仕方なく同意して、再び同じ職場に派遣されているが、あくまで派遣会社から郵便局への派遣であり、つねに解雇の危険にさらされている。

 500人の労働者の多くが10年以上の職歴をもっており、一番長い者で23年にもなる。新たに雇用契約をした場合、それまでの雇用年数と労働条件は考慮されなくなる(正社員化を要求する権利を喪失する:訳注)。再契約を拒否した少数の労働者も、わずかばかりの補償金のみで解雇された。解雇された労働者代表は、この間何度も陳情で問題を訴えてきたが、何ら成果がなかったと語っている。

 この労働者代表によると、四川省では凉山州郵便局以外でも同様の問題が発生しているという。

 「民生観察」は、これまでに湖北省武漢市の遠大製薬株式会社や中国銀行四川省支店などが、(社員7000人に「自主退職→再雇用」を強要した)華為公司にならって、「労働契約法」のしばりを回避しようとした事件を報道した。今回、四川省の郵便局で発生した労働者の権利を侵害する行為もまた、中国の企業が深圳の華為公司による7000人の「偽装解雇」を見習っている一例である。

 四川省の中国銀行のケースがメディアで報道された後、四川省労働庁は、その解雇は無効であるという判断を下したが、いままた四川省の郵便局で同様の事件が発生していることは、極めて遺憾であるといわざるを得ない。われわれは四川省政府と四川省郵政局が適切な措置をとり、多数の労働者の権利を守るよう訴える。

民生観察工作室
2007年12月14日

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◆四川省凉山州郵便局で解雇された500人の職員の訴え

 私たちは四川省凉山州郵便局で働く労働者です。私たちはそれぞれ3年〜23年にわたって働いてきました。私たちは青春をこの仕事にささげてきました。昔180元だった賃金は今でも500元ほどにしかならず、年金、医療保険、住宅積立金、雇用保険にも加入させてもらえず、享受できるはずの権利も保障されておらず、祝日の休みもなく、人格的にも軽視され、さまざまな格差をつけて分断されています。

 わたしたちは、これまで何度も、同一労働同一賃金などが含まれる雇用契約を求めてきましたが、当局は私たちの要求を無視してきました。私たちは真面目に仕事をしており、真心込めてサービスを提供し、お客さんや局の管理者や同僚からも信頼されてきました。だからこそ、私たちは10年、20年と、この仕事に従事し、非常勤だからといって、あるいは待遇が不公平だからといって、郵便業務を投げ出したりすることもなく、青年から「おじさん」になるまで、少女から「おばさん」になるまで、郵便事業に最も貴重な青年時代をささげてきました。

 1994年、中華人民共和国労働法が公布され、1995年1月1日から労働者の権利と義務が明記された同法が施行されました。私たちはこの十数年の間、期間の定めのない雇用契約を結ぶよう要求してきましたが、まったく受け入れられませんでした。

 この労働法の定める権利と義務では、私たちは公平な待遇を受けてきませんでしたが、来年2008年から施行される新しい労働契約法は、私たちにわずかな希望を与えるものであり、まさに命綱のようでした。しかし、当局は今年9月中旬から、希望あふれる私たちの心に冷水を浴びせるようになりました。

 9月末から面接や試験が行われ始め、当局側に言いくるめられた職員が「請負契約」に同意し、11月には派遣会社に移籍させられてしまいました。これまでの職歴や待遇などに対する保障は一切なく、雇用が確保されただけでした。補償を要求したものは強制的に解雇されることから、凉山州郵便局の500人は、仕事がほしい一心で、派遣会社との雇用契約を選択し、補償を放棄しました。また解雇された人も訴えても勝つ見込みがないとのことから、ごくわずかの補償金を受け取って自らの権利を放棄してしまいました。

 これで勢いづいた当局は、たった何人かの臨時職員でなにができる、夢でも見てるんじゃないか、などと公言しています。私たちは、共産党17回大会での公約や新しい労働契約法が滞りなく実行されるのだろうかと不安を抱かずにはおられません。

 今年10月、私たちは凉山州郵便局人事部門に対して、私たちを平等に扱ってほしい、10年以上働いている労働者と期間の定めのない雇用契約を締結してほしい、という要求を出しました。しかし担当者は私たちの要求を拒否しました。

 10月末、私たちは別なルートで、期間の定めのない雇用の締結を申請しました。二日後、再び申請を拒否する回答が示されました。11月、当局は逆に、私たちが派遣会社(泰宇公司)と労務派遣契約を締結するよう要求してきました。この雇用契約を締結すれば、これまでと同じ部署で働くことができると言われました。これはおかしい、と思いました。それまでのところで働くのに、どうして郵便局とではなく、派遣会社と雇用契約を結ぶ必要があるのか、と。

 この雇用契約のどこに、本来有するべき平等な待遇や平等な権利、平等な福利厚生などが反映されているのでしょうか。いまのところ、わたしたち十数人が派遣会社との雇用契約にサインをしていません。昨日、当局は無理やり引継ぎを行おうとしました。私たちは今日も出勤しましたが、当局からはもう来なくてもいい、といわれました。

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 日本の労働者の状況と共通している点もたくさんありそうです。上の二つの記事は、ともにサービス業の女性労働者の話ですから(郵便局は女性だけではないですが)、ジェンダーとも関係があるかもしれません。

(1)「重慶百貨渉嫌“転派遣”違法用工」『法制日報』2007年12月23日(写真あり)、「重慶百貨渉嫌“転派遣”案:女工仲裁敗訴」『法制日報』2008年1月6日。なお、一応中華全国総工会も、労働契約法上の義務を回避するために、労働者をいったん辞めさせて新しい労務契約を結ばせるような行為には警告を発しているようです(「全総:堅決制止用人単位“勧辞”職工」『中国婦女報』2007年12月3日)。
(2)「China Now!」38号(2007年12月28日)より。「China Now!」のアドレスは、新ブログがhttp://chinanow.blog28.fc2.com/、旧サイトがhttp://www5f.biglobe.ne.jp/~chinanow/です。また、この記事の原文は、「四川郵政局効傚“華為”非法解聘大批員工」(民生観察2007/12/14)です。メールマガジンは、申し込めば送ってもらえます。
 ※なお、ニュースサイト「捜狐」も、労働契約法上の義務を回避するために雇い止めをおこなったり、派遣労働者を使用したりしている問題について、特集を組んでいます(「労務派遣“三岔口” 労働合同法之労働派遣専題」)。

台湾の両性工作平等法が改正、性別工作平等法に

 日本の男女雇用機会均等法に相当する台湾の「両性工作平等法」(2001年12月成立、2002年3月施行)が、2007年12月に改正され、名称も「性別工作平等法」になりました(「性別工作平等法完成修法三讀通過」行政院勞工委員会HPより)。施行日は行政院で定めるとのことです。

 主な改正点は、以下の7点です。さまざまな点で強化されています。
 1.「両性」という語を「性別」に変えて、性指向(性傾向)による差別も禁止した。
 2.育児休暇(子どもが3歳になるまでの2年を超えない期間。無給。育嬰留職停薪)の適用の対象を、「30人以上を雇用している使用者に雇われている労働者」から、「全労働者」に拡大した。
 3.家族成員の予防接種や重大な病気・事故のときに取れる休暇(家庭照顧假)の適用の対象を、「30人以上を雇用している使用者に雇われている労働者」から、「5人以上を雇用している使用者に雇われている労働者」に拡大した。
 4.配偶者の出産に付き添う休暇(陪産假)を2日から3日に増やした。
 5.子どもの養育のために勤務時間を減らすor調整することについて、使用者に正当な理由があれば拒絶できるとしていた条文を削除した。
 6.労働者が生理休暇、産休、出産付き添い休暇、育児休業、授乳時間、勤務時間の減少・調整、介護休暇を請求したことを拒絶した使用者に対する罰則などを設けた。
 7.性差別に対する罰金を「1〜10万元」から、「10〜50万元」に引き上げた。

 *条文対照表(「兩性工作平等法修正草案 立法院96年12月19日三讀通過條文與現行規定條文對照表」ワードファイル)
 *改正点一覧(「兩性工作平等法修正草案 立法院96年12月19日三讀通過條文修正重點」ワードファイル)

 台湾性別人権協会(Gender/Sexuality Rights Association Taiwan)のHPには、今回の法改正に関するメディアの報道が多数、掲載されています(「育嬰假半年有薪 上班族通通有份!」「違者重罰 育嬰假 全体勞工適用」「育嬰假拡大 中小企:害惨了」「*婦団:休假與津貼給付応配合」「四成二賛同 三成五説NO」「両年後位子都没了…金融業不敢請育嬰假」「美意変調 臨時工納勞基法 反而丟飯碗」「*育嬰有假没津貼 修法口惠実不至」「育嬰留停拡大 小企業員工難受惠」「性平法三讀通過 陪産假増加 育嬰假全適用」「*育嬰留職津貼未過関 婦女空歓喜」「全面実施育嬰假 違規雇主最高罰10萬」「*有育嬰假没津貼 婦団批:修法只修半套!」「*黄昭順:育嬰假未臻完善 将再修法」「*要給就給完善的育嬰権!」「育嬰申請留職停薪可獲半年津貼月領1萬5 将衝撃中小企業」「性傾向 列法保障」「初審過性別工作平等法 育嬰留職停薪全面適用」「家庭照顧假 五人公司就可申請 陪産假二天増為三天」「性平法三讀通過 陪産假多一天」「育嬰假 中小企業実施日未定」「適婚婦女 找工作更難」「育嬰假 314萬勞工受惠」「性平法三讀通過 陪産假増加 育嬰假全体適用」「*半年有薪育嬰假 月領一萬五 藍緑争執闖関未過」「育嬰假全体適用 陪産假多一天」「育嬰假増大 中小企協:勞資両敗倶傷 影響企業雇用年軽女性」)。

 今回の改正では特に出産や育児関係の条項が強化されており、その背景には、台湾でも少子化が問題になっていることがあるようです。
 しかし、上の*を付けた見出しにあるように、当初提案されていた育児手当が実現せず、育児休暇が無給のままにされたことに多くの女性や女性団体は失望しています(「就業保険法」の改正が実現しなかった)。婦女新知基金会は、この点を強く批判する声明を出しました(「給我們完整育嬰假及津貼配套措施:婦女新知緊急聲明」婦女新知基金会HPより)。
 その一方、中小企業は今回の改正が負担になると言っており、政府も若干の対策をするようです。

中国でも注目されつつある同一価値労働同一賃金原則

 先日来、新聞で、同一価値労働同一賃金原則がたびたび取り上げられています(「同一価値労働に同一賃金を」『朝日新聞』10月24日大阪本社版、「男と女 賃金格差大国 日本」『朝日新聞』10月26日全国版、「パートや事務職は低賃金でも当たり前?」『毎日新聞』10月29日東京本社版)。
 また、2000年に日本で初めて同一価値労働同一賃金原則を認めた判決を勝ちとった屋嘉比ふみ子さんの『なめたらあかんで! 女の労働』(←会社の中で二十年以上もの間、さまざまな困難に屈せず、ほぼ一人で闘い続けた方のすばらしい記録です。明石書店 2007年)も、最近出版されました。

 近年は、中国の女性問題研究者たちも、従来の同一労働同一賃金(中国語では、同工同酬)原則だけでは解決できない女性が多い職種の低賃金問題を解決するために、同一価値労働同一賃金(中国語では、等値同酬)原則を提唱しはじめています。

 この原則は、カナダ国際開発庁が資金を提供して1998年から始められた「中国−カナダ婦女法プロジェクト」(婦女権益保障法など、中国の女性の権利を保障する法律の施行の推進を目的とする)をきっかけに、中国でも語られるようになりました(1)
 2002年に出版されたこのプロジェクトの報告集では、中国側の各論者が同一価値労働同一賃金原則に言及していますが、とくに重視しているのは、蒋永萍さん(現在、全国婦連婦女研究所政策研究室主任)です。蒋さんは、この報告集で、同一価値労働同一賃金原則の内容について、労働の「価値」を、技能、強度、責任、労働条件の四つの要素を性的に中立な基準(女性に仕事に対するバイアスを排除した基準)で測定するものであることを紹介て、この原則を法律化したカナダのオンタリオ州やマニトバ州のペイ・エクイティ法についても詳しく述べています。
 蒋さんは、中国でも職業が性によって分割されていて、女性の仕事に対しては低い評価しかされていないことに注意を促します。すなわち蒋さんは、中国でも、看護師や小学校・幼稚園の教師、商業における販売員、家事サービス員、紡織・アパレル・電子電器の組み立てラインの労働者などは、女性の比率が70%以上であること、北京・珠海・無錫の三都市の調査では、教育や職業の等級、単位の類型などの要素を差し引いても、女性は一時間当たりの賃金が、男性よりも10-15%低いことを指摘して、今後は、法律の規範の重点を、「同一労働同一賃金」から「同一価値労働同一賃金」に移行すべきだと主張しました(2)

 蒋さんは、翌年の論文でも、2000年に行われた「中国女性の社会的地位調査」の結果を統計的に分析して、女性の賃金が低い重要な原因は、女性が多い職業の賃金の低さであること明らかにすることによって、同一価値労働同一賃金原則の重要性を強調しています(3)

 2005年に婦女権益保障法が改正された際には、改正内容を提案した「建議稿」を作成したグループが民間でいくつか現れましたが、中華女子学院(婦連傘下の大学だが、近年、フェミニズムが一定の力を持っている)の研究者グループの建議稿は、従来の「同一労働同一賃金」原則にかえて「同一価値労働同一賃金」原則を提案しました(4)
 同年に中華女子学院の教員が集団で執筆した書籍も同一価値労働同一賃金原則を採用しており(5)、中華女子学院法律系経済法教研室主任の劉明輝さんも、同一価値労働同一賃金原則をめぐる論争を紹介して、「どのようにして職業を越えた異なった職種の同一価値基準を設定するかについては、まだ深い研究が必要である」と述べつつも、ILO100号条約やカナダのペイエクイティ法に加えて、ノルウェーやフランス、イギリス、アメリカの法規定を紹介しすることによって、「『同一労働同一賃金』制度を『同一価値労働同一賃金』制度に拡充することは、大勢の赴くところである」と指摘しました(6)

 しかし、2005年の婦女権益保障法の改正では、「同一価値労働同一賃金」原則は採用されませんでした。
 それに対して、劉明輝さんは、国際的に「立ち遅れている」と述べて批判しました(7)

 中国では、「同一価値労働同一賃金」原則は、欧米や日本と異なって、まだ一部の女性労働問題研究者が提唱しているだけの段階だと言えます。しかし、近年は中国も国際基準を意識するようになってきていることは、こうした動きの追い風になりうると思います。

(1)そうした関係で、中国で同一価値労働同一賃金原則が比較的メジャーな形で最初にメディアに掲載されたのは、私の見るかぎり、「中国−カナダ婦女法プロジェクト」のシンポジウムにおいて、カナダの実践について同国のウイニペグ(マニトバ州)人権委員会の委員長が発言したことが、2001年に『中国婦女報』で報道されたのが最初のようです(加拿大魁北克人権委員会主席 米謝楽・瑞范特「同工同酬与就業平等不応只是画餅」『中国婦女報』2001年2月22日)。
(2)丁娟「中国−加拿大男女平等就業権相関問題比較及其対我国法治改革的建議」67-68頁、牛麗華「対健全婦女平等就業法律与機制的思考――中国−加拿大促進婦女平等就業比較研究」101頁、蒋永萍「中国−加拿大両性工資平等立法的比較研究」(いずれも、劉伯紅主編『女性権利−聚焦《労動法》和《婚姻法》』当代中国出版社 2002年)
(3)蒋永萍「中国城鎮男女両性的収入差距及其原因分析」蒋永萍主編『世紀之交的中国婦女社会地位』(当代中国出版社 2003年)55-58頁
(4)「昨天,衆多専家雲集中華女子学院,就《婦女権益保障法》修改立法建議達共識 応強化立法実施機制」『中国婦女報』2005年2月21日。
(5)李明舜・林建軍主編『婦女人権的理論与実践』(吉林人民出版社 2005年)194-197頁。
(6)劉明輝『女性労働和社会保険権利研究』(中国労動社会保障出版社 2005年)118-122頁。李明舜
(7)「婦女労働権益保護,還有多少難題待解?」『中国労働保障報』2005年9月13日。

「体制外従業員」と同一労働同一賃金問題

 劉明輝さん(中華女子学院教授)の論文「雇用の性差別の問題に関する立法の思考」の中にこういう一節があります。
 「長い間、わが国は計画経済の下での労働力の分類基準、すなわち『人事編制』を踏襲してきた。同じ持ち場で仕事をしている人が、編制が異なるために、長い間、待遇がまったく異なってきた。[1995年に]『労働法』が施行された後は、あらゆる使用者と労働者は、労働契約制度を全面的に実行し、職場の各種の労働者が享受する権利は同じになたった。このため、以前の意味での、正式労働者に対する臨時労働者はもう存在しなくなった。……しかし、現実には依然として編制外の臨時労働者が存在しており、待遇は一般に正式労働者の1/3であり、その中には女性が多い」(1)

 実際、2000年におこなわれた第2回中国女性の社会的地位調査によると、女性は正規就業の中では全就業者の39.8%を占めるにすぎませんが、非正規就業の中では47.1%を占めています(2)。詳しくは調べていませんが、おそらく、ほぼ「正式労働者」=「正規就業」だと思います。
 日本ほど男女の比率がかけ離れていないのは、中国では、農村からの出稼ぎの労働者にとくに非正規就業が多く、かつ出稼ぎの労働者は男性が多いからです。
 ただし、以前も述べたように、同じ出稼ぎの中で比べると、男性の場合は、非正規就業が男性全体の約40%なのに、女性の場合は、非正規就業が女性全体の約50%であり、ここにも男女差があります。

 さて、中国の体制(編制)外の従業員には二種類あって、一つは、行政や国有企業の中の「体制(編制)」外の従業員であり、もう一つは、外資企業や民営企業の従業員です(3)
 後者の場合は、一部には能力を発揮して高い賃金を得ている人々もいます(ただし彼らも、生活の安定や社会保障の点では「体制内」の労働者ほど恵まれていません。また、多数の農村からの出稼ぎの労働者は、ひどい差別を受けていますが)。
 けれど、前者の場合は、差別が、一つの企業の中での「体制(編制)の内と外との差別」という形ではっきりと目に見える形で現れます。

 前者の場合、すなわち行政や国有企業における体制外の従業員の情況をリアルに記述した記事が、今年8月7日付けの『中国青年報』に掲載されていました。「体制外従業員:同一労働で同一報酬でないのは雇用差別である。同じ職場で同じ仕事をしても、収入は10対1」という記事です(4)
 この記事も、最初に、中国の「政府機構・事業単位、国有企業のなかでは、『編制』『正式労働者』などの名詞がまだ使われており、多くの企業・事業単位は、工員を『正式労働者』と『臨時労働者』に分けて」いること、それによって「同一労働非同一賃金」という現象が引き起こされていることを指摘しています。

 この記事は、さまざまな体制(編制)外従業員と体制内の正式労働者との大きな賃金格差を、次のように明らかにしています。
○あるテレビ局
 ・体制外(臨時工):映画チャンネルのプロデューサーなのに、月収2500元で、三険一金(養老保険・医療保険・失業保険、住宅公積金)がない。
 ・体制内:月収5〜6000元で、三険一金のほか、住宅も分配される。
○安慶市のある中学校
 ・体制外(聘任制):毎月48時限の授業をして、一時限あたり12元で、576元だけが月収。
 ・体制内:一時限あたりの賃金だけでなく、「基本賃金」と「国家補助」があり、初級教師でも月収1000元余り、高級教師ならば3000元余り。そのほか、年末のボーナスが1〜2000元など。
○あるタバコ会社
 ・体制外(聘用工):月収1000元。ボーナスは1000元。
 ・体制内:月収3000〜4000元。年末にボーナス10000元余り。
○広東省恵州市電供(電気供給)局のある兄弟
 ・弟=体制外(外聘):月収10000元余り
 ・兄=体制内:月収1000元 

 体制外従業員は、けっして「臨時」の「お手伝い」の仕事をしているわけではないのです。
 むしろ、あるテレビ局の臨時労働者は「本当に番組を制作している人は、みな編制外だ」と言います。彼らのチャンネルの中核的な制作者は、みな臨時労働者であり、編制内の労働者は、事務室の行政人員だけだそうです。その人は、「彼ら[=正式労働者]は10人で1つの仕事をする。我々は1人で10の仕事をする」と言います。
 ある中学校の臨時教師は、「面倒なことはみんな私たちにやらせるのだ」と言います。たとえば、臨時教師には、腹がすく3,4時限目の授業や、学生たちが居眠りをする午後の1時間目の授業が割り当てられるとのことです。
 また、電供局では、体制外従業員は、どんなに技術が優れていても、中核的な技術的仕事はやらせてもらえないそうです。
 彼らは、昇進の見込みもなく、いつ辞めさせられるのかびくびくしているということです。

 中国人民大学労働学院副院長の劉爾鋒教授は、「改革開放の前夜、体制内の従業員は8〜9割を占めていました。けれど、現在、国有の大企業や事業単位では、体制内従業員は約4割を占めるにすぎません」と言います。つまり、体制外従業員の問題は、以前からあった問題ではあるけれども、大きく広がったのは、改革開放後なのです。
 中国人民大学法学院教授で、労働・社会保障法研究所の所長の林嘉さんは、「同一労働非同一賃金も、一種の雇用差別です。最低賃金は法律で決められていますが、国家は最低基準を規定しているだけで、その他の面は規制していません」と指摘しています。

 この記事によると、労働・社会保障部の賃金局局長の邱小平さんは、同局では関係部門と一緒に賃金立法の起草を研究しており、すでに同一労働同一賃金問題をその重点的内容にしているとのことですが、前途は険しそうです。

 また、中国労働関係学院教授の林燕玲さんは、体制外の臨時労働者の中に農民戸籍を持った人が多いことに注目して、論文「農民労働者の就労差別の状況報告──一種の身分に基づく差別」(5)の中で、「臨時労働者は、農民労働者に対する『間接差別』の一形態である」と述べています。

 林さんは言います。「同じ職場で、同様の技術的水準の、同様の強度の労働をしても、正式労働者と臨時労働者の区別があるために、正式労働者は、臨時労働者の2倍、はなはだしきは何倍も賃金を得る。汚い仕事、疲れる仕事、苦しい仕事、危険な仕事はみな臨時労働者がする。正式労働者は、指導者のように、臨時労働者に対して上に立って命令を出し、指図することさえできる」。
 林さんは、臨時/正式の労働者の月収の違いについて、ある職場の次のような例を挙げています。
 ・臨時労働者:一日あたりの賃金の基準37元×22日+医療補助10元=824元
 ・正式労働者:賃金1899元+手当1720元+交通費補助520元+一回性のボーナス(一次性奨金)115.5元+双節(中秋節と国慶節)手当41.67元+年末のボーナス(年奨金)16.67元+防暑費20元+住宅公積金=4586.84元

 林さんによると、「こうしたケースは、国家機関・事業単位、社会団体の中ではわりあい普遍的な現象である。臨時労働者の大部分は農業戸籍であり、一部は、よその土地の非農業戸籍や当地の非農業戸籍である。(……)若干の人々は、機関や事業単位に入った時にすでに良い労働者としての資質を持っているが、臨時労働者であるということだけのために、いくらよく働いても正式の人員と同じ賃金と福利の待遇を受けられない。ある人は、正式労働者になるために、ごちそうをしたり物を贈ったり、賄賂さえ贈るが、いったん目的を達すると、『金持ちになると、態度が変わって』正式労働者の資質は、ますます悪くなる」とのことです。

 農村から出稼ぎに出てきた農民労働者([農]民工)の場合は、建築の仕事や家政婦、外資系(の下請け)の生産ラインの仕事をやっていることが多く、都市の人とは別の職場、別の職種で仕事をしているケースも多いです(6)
 しかし、上で挙げられた具体例は、同じ職場で働きながら差別されている事例です。
 また、農村出身者ばかりではなく、林さんも言っているように、都市の人の場合もあるようです。臨時教師の事例などは、たまたま大学を卒業した時が「よい時期」でなかったために、臨時教師になったとのことであり、日本にも同じような話があると思います。

(1)「関于就業性別歧視問題立法思考」北京大学法学院婦女法律研究与服務中心編『中国婦女労動権益保護理論与実践──从法律援助和公益訴訟的視角』(北京人民公安大学出版社 2006年。同書の紹介)234-235頁。
(2)全国婦聯婦女研究所課題組『社会転型中的中国婦女社会地位』(中国婦女出版社 2006年。同書の紹介)139頁。
(3)「体制内外待遇有別 体制外員工是二等公民嗎?」人民論壇2007年5月19日
(4)「体制外員工:同工不同酬是就業歧視 在同一単位做同様工作,収入却是10:1」『中国青年報』2007年8月28日
(5)林燕玲「農民工就業歧視状況報告――一種身份性歧視」蔡定剣主編『中国就業歧視現状及反歧視対策』(中国社会科学出版社 2007年)253-255頁。
(6)彼らの状況について日本語で読めるものとしては、最近出た、秦尭禹(田中忠仁・永井麻生子・王蓉美訳)『大地の慟哭 中国民工調査』(PHP 2007年6月)があります。
 もちろん、職場や職種が違う場合でも(すなわち「同一労働」でなくても)、「同一価値労働同一賃金(中国語では「等値同酬」。なお「同一労働同一賃金」は「同工同酬」)」は問題にすることはできます。こちらの問題はまた項目を改めて書きたいと思います。

就労促進法の成立、雇用差別研究の発展

 8月25日、全国人民代表大会(全人代)常務委員会で「就労促進法」草案の第3回目の審議がおこなわれ、同月30日、同草案は採択され成立しました(施行は2008年8月。「中華人民共和国就業促進法」)。
 (中国で法律の制定をするのは全人代ですが、特に重要な法律でないかぎり、その常務委員会で審議・採択するだけで成立する場合が多いです。)

 この就労促進法については、全人代常務委員会が草案を公表して社会各界から意見を求めたこともあって、このブログでも以前、2回取り上げました(「就労促進法(草案)の差別禁止規定の不十分さに批判あいつぐ」「就労促進法、労働契約法その後」)。
 前回までの審議の結果、「公平な就労」という章が新設されるという修正がすでにおこなわれていますが、今回の常務委員会の審議でも幾つかの修正がなされたようです。
 たとえば男女平等に関しては、常務委員会の楊偉程委員から、採用の際の女性差別の禁止にくわえて「『すでに就労している女性に対して、使用者は出産を理由にして解雇や契約解除、労働契約の終了をすることはできない』という規定を入れるべきだ」という意見が出ました。
 この意見と関係があるかどうかわかりませんが、採択された法案には、「使用者は女性を採用する際、労働契約において女性労働者の結婚・出産を制限する内容の規定をしてはならない」(27条)という規定が入りました。

 しかし、今回の審議で出された意見には、取り入れられなかったものも多かったです。
 たとえば、「公平な就労」の章には、性差別や伝染病差別、障害者差別を禁止する規定があるのですが、王祖訓委員や王学萍委員は「身体や戸籍、地域による差別も禁止すべきだ」という意見を出しました。さらに李明豫委員は「職務能力と関係のない付加条件は、みな就労差別と見なすべきだ」と述べました。
 また、この法律の31条は「農村労働者は、都市に行って就労する際、都市の労働者と平等な労働の権利を有しており、農村労働者の都市での就労に対して差別的な制限を設けてはならない」と規定しています。
 しかし、路明委員は、このような規定は「具体的でなく、不十分だ」と批判し、「同一労働同一賃金」という規定を入れるべきだと主張していました(以上は(1))。
 以上のような意見は取り入れられませんでした。

 もちろん、この就労促進法を評価する意見もあります。
 たとえば、上の「農村労働者の都市での就労に対して差別的な制限を設けてはならない」という規定に関しても、これまでにない規定であるとして評価する意見もあります。
 また、今回の審議では、多くの委員から、「『使用者が差別したらどのようにして、どんな法律的な責任を負わなければならないか』ということを明確にしなければならない」という意見が出ました。
 この点については、法案の修正の過程で、「本法の規定に違反して就労差別をした場合、労働者は人民法院に訴訟を提起できる」(62条)という規定が追加されました。この条項について、「今までは女性が雇用差別されても訴訟を起こすことができなかったけれども(筆者注:たしかに女性の雇用差別訴訟は、裁判所が受理しない場合が多いというふうに言われています)、この条項によって訴訟を起こすことができるようになった」という見解もあります(2)
 ただし、すでに婦女権益保障法の52条にも「女性の合法的権益が侵害されたら‥‥人民法院に訴訟を提起できる」という規定はあるので、この規定とどう効力が異なるのか、私にはよくわかりません。

 いずれにしろ、結局のところ、この法律の評価は今後の実際の運用しだい、という面があるでしょう。

 上でも書いたように、今年3月、全人代常務委員会は、就労促進法の草案に対して社会公衆から意見を求めたのですが、寄せられた意見の2/3は、「公平な就労」に対するものだったとのことです(3)。それが、「公平な就労」の章の新設にもつながったのでしょう。マスコミの報道が最も多いのも「公平な就労」という点です。
 就労の公平さの問題に関しては、研究も急速に盛んになり、昨年、李薇薇・Lisa Stearns主編『就労差別の禁止:国際基準と国内の実践(禁止就業歧視:国際標準和国内実践)』(法律出版社 2006年)出版されたことはすでにこのブログでもお伝えしました(「国際基準を踏まえて中国のさまざまな雇用差別を論じた書」)。
 さらにこの8月末には、蔡定剣主編『中国の就労差別の現状と反差別の対策(中国就業歧視現状及反歧視対策)』(中国社会科学出版社 2007年)ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ)という本が、この8月に出版されました。
 この本は、このブログの4月15日付記事でお伝えした中国政法大学憲政研究所とオランダのユトレヒト大学による「反就労差別協力プロジェクト」の成果の報告であり、550ページあまりある分厚い本です。
 中国の雇用差別に関する調査研究としては、おそらく最もまとまったものだと思います。

第一部分 反就労差別の総合的研究報告(蔡定剣)
第二部分 女性就労差別の現状調査報告(王新宇)
第三部分 就労における健康差別の研究報告(劉揚)
第四部分 障害者差別の研究報告(馬玉娥)
第五部分 就労における身分差別の研究報告──戸籍と地域の視点に基づいて(姚国建)
第六部分 農民労働者の就労差別の状況報告──一種の身分に基づく差別(林燕玲)
第七部分 就労の年齢差別の研究報告(薜小建)
第八部分 労働者の就労における若干の差別問題の研究(馮同慶)
第九部分 教育領域の反差別の研究(張呂好)
第十部分 政治領域の反差別の研究報告(焦洪昌)
第十一部分 社会公共領域の差別の研究報告(于明瀟)
第十二部分 就労差別に対する行政法規・規則[規章]の整理[清理]報告(劉辛)
第十三部分 就労差別に対する地方的法規の整理報告(武増)

(1)「就業促進法草案拡大反就業歧視範疇」中国性別与法律網2007-8-28
(2)「《就業促進法》:平等就業的法律保障」中国性別与法律網2007-9-24
(3)「消除就業歧視還是要靠法律来解決」中国性別与法律網2007-9-17

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