2017-05

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

杭州国際マラソンの賞金、今年は男女同一に――女性たちの運動実る

杭州国際マラソン(杭州国际马拉松)は、1987年から始まった、中国では歴史あるマラソン大会の1つです。毎年11月におこなわれ、今年は11月3日におこなわれます。

昨年まで、杭州国際マラソンは、以下のように男女で賞金額に格差をつけていました(少なくとも2006年以降は、ずっと下の金額だったようです)(1)

1位―男子3万元、女子2万元
2位―男子1万5000元、女子1万元
3位―男子8000元、女子5000元
4位―男子5000元、女子4000元
5位―男子4000元、女子3000元
6位―男子3000元、女子2000元
7位―男子2000元、女子1000元
8位―男子1000元、女子800元

それに対して、昨年、この大会に参加した李双双さん(仮名)は、「なぜ、杭州国際マラソンの賞金には男女の別があるのか? 女子も男子と同じルートを走るのだし、男子と比べてけっして楽ではないのに……」と疑問を感じました。

李さんは、なぜこうした差別をするのかについて、浙江省体育局と杭州市体育局に対して、情報公開を申請しました。この問題はメディアでも取り上げられ、さまざまな議論がなされました。李さんには、杭州国際マラソン組織委員会から回答が返ってきたのですが、その回答は、「従来の慣例」「参加人数の違い」などを理由に、男女の賞金の格差を正当化するものだったので、李さんは有志と連名で国際陸上競技連盟にも手紙を書いて差別を是正するように訴えました。

これらは李さん一人の活動ではなく、杭州フェミニズムグループ(杭州女权小组)の活動でもありました。昨年11月には李さんらによって「FM非密杭州ジェンダー平等活動グループ(FM非密杭州性别平等工作小组)」が結成されます(以上については、昨年の本ブログの記事「杭州国際マラソンの賞金の男女差別に女子選手らが抗議、国際陸連へも訴え」参照)。

こうした彼女たちの運動が実ったのか、今年は、杭州国際マラソンの女子の賞金は男子と同額に引き上げられました。つまり、男子と同じく、女子にも、1位に3万元、2位に1万5000元、3位に8000元……というふうに賞金が与えられるようになったのです(2013杭州国际马拉松竞赛规程)。現地のメディアも、賞金の男女平等の問題には注目していたようで、地元の浙江在線(オンライン)というサイトも、今年の杭州国際マラソンについて、「初めて男女が同一賞金に」という見出しで報じました(2)

李双双さんは今、アメリカにいるようですが、このニュースを聞いて、「異国の他郷で、ものすごく感動中」と言って喜びました(3)

また、「フェミニズム(女権)の声」の微博(中国版ツイッター)は、この件について、「行動が変化を起こす!」と語り(4)、李さんも「やらないということは、成功するかどうか永遠にわからないということだ」と述べて、行動の重要性を強調しています(5)

さらに、「サッカーもバスケットボールも、どんな競技であっても、同じ競技は同じ賞金でなければならない」という声も上がりました(6)

もっとも、中国でも、2009年に上海マラソンが初めて男女に同額の賞金を出すなど、他の大会も賞金を男女同額にする流れはあるので、李双双さんらの抗議だけが杭州国際マラソンの賞金の男女平等化をもたらしたというわけではないと思います。ただし、少なくとも、彼女たちの運動が一つの要因だったことは確かだと思います。

それにしても、中国の若い女性たちが先頭に立ったフェミニズムの運動がさまざまな分野で成果を上げる(とくに大学入試の合格ラインの男女差別を大幅に改善したという点は、大きな成果だったと思います)という事態は、私も昨年彼女たちが運動を始めた当初は予想していなかったことなので、私自身が行動の重要さを教えられたような気がしています。

(1)2006杭州国际马拉松竞赛规程」浙江省体育局2006年9月13日、「07杭州马拉松帐户竞赛规程」捜狐体育2007年09月21日、「2009杭州国际马拉松竞赛规程」新浪体育2009年8月14日、「2012杭州国际马拉松竞赛规程」自由马运动网2009年9月12日。
(2)杭州马拉松比赛下周开始报名,首次男女同奖」浙江在线新闻网站2013年9月17日。
(3)李双双不拖延不迷糊的微博【杭州国际马拉松今年首度男女同跑同奖】【在异国他乡超级感动中】9月30日04:26
(4)女权之声的微博9月30日 10:18
(5)李双双不拖延不迷糊的微博9月30日 04:30
(6)不要为了小事暴动的微博9月30日 10:18
スポンサーサイト

杭州国際マラソンの賞金の男女差別に女子選手らが抗議、国際陸連へも訴え

来たる11月18日におこなわれる杭州国際マラソン(2012杭州国际马拉松)(主催:中国陸上競技協会、杭州市人民政府、浙江省体育局)の優勝賞金は、男子の部は3万元ですが、女子の部は2万元です。準優勝の賞金も、男子は1万5000元で、女子は1万元、3位の賞金は、男子は8000元で、女子は5000元、4位以下も同様に格差が付けられています(2012杭州国际马拉松竞赛规程)。

こうした賞金の格差に対して、出場を予定している女子選手の李双双さん(仮名)は、「なぜ、杭州国際マラソンの賞金には男女の別があるのか? 女子も男子と同じルートを走るのだし、男子と比べてけっして楽ではなく、むしろより多くの体力を使わなければならないのに」と疑問を呈しました。

10月24日、李双双さんは、なぜこうしたな差別があるのかについて、浙江省体育局と杭州市体育局に、それぞれ、情報公開申請表を提出しました。

新聞の取材に対して、杭州国際マラソンの組織委員長で、浙江省スポーツ競技センター主任である龍江さんは、その理由として、以下の2点を挙げました。
【1】「杭州国際マラソンは、男女で競争の激しさが異なる。今年の申し込み情況から見ると、参加する男子選手は、ハーフマラソンとフルマラソン合わせて3000人あまりいるが、女子選手は300人あまりしかいない」
【2】「杭州国際マラソンの例年の男女の成績も、一つの原因である。男子の最も良い成績はすでに2時間5分前後に達しているが、女子はまだ2時間30分あまりである。相対的に見て、男子の最高クラスの選手のほうが世界レベルに近づいているので、賞金が高いのである」(1)

私などは、「そうはいっても、マラソンに出場するまでの社会的ハードルは女子の方が高いのだから、男女の賞金は同一にするべきではないか」と大づかみに考えるのですが、上の龍江さんの議論に対して、中国では、以下のような反論が出ました。

まず、【1】の点については、柯倩婷さん(中山大学中文系副教授)が、「しかし、逆に、これまでの女性に対する賞金の額が低すぎたから、女子がおおぜい参加しなかったのだと考えられないだろうか?」(2)と反論しています。

【2】の点については、李昀さん(華南理工大学外語学院副教授)が、「これ[女子の記録のほうが世界レベルから遠いこと]は、主催者自身こそが反省しなければならないことではないか? 国際マラソン大会の女子の世界記録が2時間15分前後[で、杭州国際マラソンと15分あまり差があるの]ならば、なぜ、杭州マラソンの主催者は女性の参加を励ますためにもっと多くの措置を取って、記録を向上させずに、かえって差別的な競技制度を作って、女性が参加する積極性を挫かなければならないのか?」(3)と述べています。

中国でも、2009年に、上海マラソンが初めて男女に同額の賞金を出し、その後、厦門・広州などの国際マラソンも同額の賞金を出すようになっています(4)。たとえば、厦門国際マラソンでは、2004年の第1回から2008年の第5回までは、男子の賞金のほうが女子の賞金より高かったのですが、2009年の第6回からは同額にしました(5)

国際的に見ても、男のほうが女よりも賞金が多い競技がまだ多いようですが、テニスでは、2007年から4大国際大会すべてで、男女の賞金の額を同じにしました。

そうしたことから、李双双さんは、「女子の賞金が男子より低いという国際的慣例は、淘汰される時期だ」と述べているのですが、李さんが微博(中国版ツイッター)で賞金の男女差に疑問を発表すると、議論が巻き起こり、「男子のほうが体力があって、競技レベルが高く、競争も激しく、見る価値が高いのだから、賞金が高くても非難すべきではない」という意見を出す人もいました。

しかし、新華網も、武嶸嶸さん(北京益仁平センター)が「オリンピックを含めた各種のスポーツで、女性はすでに重要な位置を占めており、性別によって賞と賞金を分けるというやり方は女性選手を尊重しておらず、女子スポーツの向上にもマイナスである」「国際的に影響力のある大会はとくにこの面の平等に注意しなければならない」と言っていることを報じています(6)

龍江さんも、「今後は、男女の賞金を同じにすることを排除しない」とは述べました(7)

杭州国際マラソン組織委員会の回答

その後、李さんの情報公開申請に対して、杭州国際マラソン組織委員会から、以下のような回答が返ってきました。すでに新聞の取材に対して龍江さんが答えたことと大差ない内容ですが、以下、ご紹介します(8)

李双双(仮名):

こんにちは! あなたが郵送した政府情報公開申請表を拝見しました。出された問題について回答いたします。

杭州国際マラソンの賞金の設定に男女で差違がある理由は、以下のとおりです。

1、従来の慣例通りにしたこと:杭州国際マラソンはずっと過去の賞金設定の基準どおりにしてきています。初期も国際的な慣例にもとづいて設定しましたし、現在もまだ国際的に多くの競技で男女の賞金の設定が異なるという情況があります。

2、参加人数の区別:杭州国際マラソンは、ずっと男子の参加選手と女子の参加選手の比率に大きな違いがあり、去年を例にとると、フルマラソン・ハーフマラソン合わせて3000人あまりが参加しましたが、そのうち女子選手は300人あまりだけでした。男子種目の競争のほうが激しく、難度も高いのです。

3、競技レベルの違い:杭州国際マラソンはここ数年競技レベルが次第に高まり、絶えず世界各地から優秀な選手が参加してきていますが、その中では男子種目の全体的な競技水準の方が明らかに女子種目よりも高いのです。

ここ数年、組織委員会は競技レベルを向上させ、杭州国際マラソンがより良いブランドになるようにずっと努力しており、競技の賞金の金額をしだいに増額して、男女の賞金の差違をなくすことはすでに考えています。

(以下略)



国際陸上競技連盟への公開状

李双双さんは、当然、上の杭州国際マラソン組織委員会からの回答には納得できませんでした。そこで、国際陸上競技連盟に手紙を書くことに決め、1週間かけて、友だちにも助けてもらって、その手紙を英語に翻訳しました(9)

11月4日、李さんたちは、以下のような訴えを送りました(10)

尊敬する国際陸上競技連盟ならびにラミン・ディアック会長

私たちはマラソンの女子選手のグループです。謹んでこの手紙を国際陸上競技連盟にお送りして、杭州国際マラソンの賞金設定が男女を区別して対応する差別的行為であることを貴会に正視していただき、主催者の中国陸上競技連盟と2012杭州国際マラソンの組織者に対して、適切な措置を取っていただくようお願いします。

私たちは杭州国際マラソンの主催者側の性差別的行為に対して非常に怒っています。国連の「女性差別撤廃条約」にもとづけば、性差別の定義は、性に基づく区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、女性(婚姻をしているか否かを問わず)が男女の平等を基礎として人権および基本的自由を認識・享有または行使することを害し、または無効にする影響または目的を有するもののことです。杭州マラソンの組織者側が賞金を設定する際に、女子に男子よりも賞金を1万元少なくしたことは、女子選手のほうを低く、下に区別して扱うものであり、女子スポーツ選手の地位と能力を妨害し、否定するもので、赤裸々な性差別行為です。

(中略――ここで、上の杭州国際マラソン組織委員会の回答を要約して紹介)

私たちは、このような回答の内容に対して失望と不満を感じます。たしかに多くのスポーツ大会の賞金は男より女のほうが少ないという情況が依然として存在しており、それが国際的慣例でもあることは否定できません。しかし、現在の世界では、女性の地位は以前とは異なっており、ジェンダー平等が国際的に公認された価値です。私たちは、多くのスポーツ競技ですでに男女の同一労働同一報酬[同工同酬]が実現している(上海と厦門のマラソンなどの競技を含めて)ことを見ることができます。それゆえ、私たちは、国際的な慣例は平等で、公正な方向に改善されているところだと信じなければなりません。

次に、参加人数が多いから、賞金が多いということは、私たちには理解できません。賞金は参加申し込みの前に発表されるのですから、その時にはまだ申し込む人数はわかりません。もしも以前の年の申込人数を根拠にして女性の賞金を低くするのならば、まちがいなく不公正です。なぜなら、今年の男性の申込人数と女性の申込人数は不明だからです。もし本当に申込人数が原因ならば、組織委員会は、申込人数にもとづいて賞金を変動させるのが、より合理的なやり方です。根本的に言えば、ある程度は、これまでの毎回の女子に対する賞金が低すぎたから、女子の参加がじゅうぶん活発ではなかったのだと言えます。

最後に、男子種目の全体の競技レベルが女子種目より高いという点については、私たちはなおさら受け入れられません。世界のスポーツの歴史を見渡すと、女性はずっとスポーツ競技への参加を制限または排除されてきたために、男性に比べて、スポーツの主力選手が少なかったのです。その一方で、そのことを、女性の競技レベルが男性より低い証拠にするならば、これは、性差別の悪循環です! もしマラソンが国別や人種で区別して、異なった賞金を出さないのならば、なぜ性別によって賞金を区分する必要があるのでしょうか!

実際は、日の光と土壌を少し与えさえすれば、女性はすくすくと成長するのであり、女子スポーツの発展がその確かな証拠です。すなわち、女子のテニス・体操・水泳などの種目の興隆は、女子スポーツも素晴らしいものにできることを説明しています。マラソンも同じです。

それゆえ、私たちは、貴会が杭州国際マラソンの賞金の設定が男女で区別して対応する差別的行為であることを正視し、主催者の中国陸上競技連盟と2012杭州国際マラソンの組織者に対して、適切な措置を取っていただくことを希望します。それにもとづき、私たちは以下の提案をします。

・貴会の名義で声明を発表して、スポーツ競技において、あらゆる形態の女性選手を差別する行為と規程が出現することをを拒絶し、スポーツ競技の賞金の設定は、男女が同一労働同一報酬でなければならないことを承諾すること

・もしマラソンの賞金の設定と参加申込人数とを直接的に関連させるときは、申込人数にもとづいて賞金を変動させるよう組織委員会に提案すること。

(中略)

2012杭州国際マラソン女子選手
2012年11月4日(日曜日)



フェミニストグループが大きな役割――「FM非密杭州ジェンダー平等活動グループ」結成

新聞が初めてこの問題を取り上げた10月25日、すでに、「ジェンダー平等唱導・アクションネットワーク(「性别平等倡导行动网络、Gender Equality Advocacy and Action Network)」(本ブログの記事「若い行動派フェミニストたちの『ジェンダー平等唱導・アクションネットワーク』」参照)のフォーラムで、武嶸嶸さんは、「この杭州マラソンのアクションにおいて、私たちは一歩先を行っている。新聞記事が積極的に取り上げただけでなく、昨日[10月24日]新しく設立された『杭州フェミニズムグループ(杭州女权小组)』は非常にみごとなスタートを切った」(11)と語っています。

また、許小米さんという方のブログの10月25日付エントリにも、「ジェンダー平等アクショングループ[性别平等活动小组]はすでに始動した。その活動には、フルマラソンの賞金の男女不平等の現象に反対すること、およびそのフォローアップ活動が含まれる」と記されています(12)

つまり、この抗議活動は、当初からそうしたフェミニストグループの活動としておこなわれてきたということのようです(「杭州女权小组」と「性别平等活动小组」との関係は不明ですが、同一のグループを指している可能性も大きいと思います)。

また、国際陸上競技連盟への公開状の署名欄には、李双双さんをはじめとした14名の署名が記されていますが(13)、武嶸嶸さんや梁海媚さんなど、他の地区の「ジェンダー平等唱導・アクションネットワーク」の活動家のお名前も見えます。杭州国際マラソンには、フルマラソンやハーフマラソンのほか、13キロ、6.8キロや、カップルや家族で参加するもっと短いコースもありますし、彼女たちも実際に参加するのかもしれません。

そして、11月6日、「杭州ジェンダー平等アクショングループ(杭州性别平等行动组)」が、QQ群(中国のSNS)でその第1回大会をおこなったとのことです(この「杭州性别平等行动组」と前出の「杭州女权小组」や「性别平等活动小组」との関係もよくわかりませんが、やはり同一のグループを指している可能性もあります)。

その第1回大会では、11人のジェンダー平等に関心を持つ人々がさまざまな討論をおこなって、グループの名称を「FM非密杭州ジェンダー平等活動グループ(FM非密杭州性别平等工作小组)」に決めたそうです。「FM非密」という言葉に関しては、「F=Feminine、M=Masculine、FM=ジェンダー[性別]平等が電波のように早くオープンに伝わる=Female=もう秘密ではない。女性の声はもう秘密ではない!」という説明がなされています。ひょっとしたら、「非密」という言葉は、Feminismだけでなく、Fermiと掛けているのかもしれません(フェルミ粒子には電子も含まれますので……。ただし、少なくとも一般にはFermiは「費密」と訳されるようですが)

この「FM非密杭州ジェンダー平等活動グループ」の簡単な規約は、以下のようなものだそうです。
・組織の使命――女性の権益を擁護し、杭州およびその周辺の地区の性差別の撤廃に力を尽くす。
・長期的目標――女性および性的マイノリティに対する差別を撤廃し、女性の自己認知を高め、民間の公益人士と公益組織の間の経験交流・協力互助を促進する。
・実際の目標――社会的にホットな問題に対する迅速な反応と社会問題の調査研究を通じて、政府・メディア・NGOとの間の意思疎通を通じて、女性と性的マイノリティの権益を擁護する。

また、このグループの設立を伝えたメッセージの末尾に「報道人:李双双」とありますので、杭州国際マラソンに抗議した李さん自らが大きな役割を果たしているのでしょう(14)

なお、「FM非密杭州ジェンダー平等活動グループ」が設立させる以前に、許小米さんのブログの10月25日付エントリの中に、「フェミニズムアクショングループ『FM非密』が10月24日浙江大学で成立を宣言した。現在の活動は『杭州公共トイレ調査研究』である」という記述が出てきます(15)。このグループともメンバーが重なっていると、ないしは、このグループを一つの源流として「FM非密杭州ジェンダー平等活動グループ」が成立したのかもしれません。

いずれにせよ、以上から、北京や広州だけでなく、他の地方でも行動派のフェミニズムのグループが誕生しつつあること、そのグループが、ネットワークによって他の地方とも結びつきを持ちつつ、独自に積極的な活動をしている様子がうかがえます。

(1)以上は、「奖金设置男高女低是否合理? 杭州马拉松上演“秋菊打官司” 组委会回复:不排除今后实行男女同酬」『今日早報』2012年10月25日。
(2)柯倩婷「杭州马拉松奖金男人比女人多一万 凭啥」網易女人2012年10月30日。
(3)李昀「杭州马拉松奖金男人比女人多一万 凭啥(二)」網易女人2012年10月30日。
(4)奖金设置男高女低是否合理? 杭州马拉松上演“秋菊打官司” 组委会回复:不排除今后实行男女同酬」『今日早報』2012年10月25日。
(5)第1回のときは、1位が男子25000ドル、女子15000ドル、2位が男子15000ドル、女子8000ドル、3位が男子8000ドル、女子5000ドルだったとのことです(「厦门马拉松“男女平等” 2009年以前也是同工不同酬」厦门网2012年10月25日)。
(6)以上は、「杭州马拉松上演“秋菊打官司”」新華網2012年10月24日。なお、テニスの4大国際大会のうち、最後まで賞金の男女差があったウィンブルドン選手権での格差撤廃については「ウインブルドン選手権 賞金の男女差撤廃へ - 英国」(AFP2007年2月22日)参照。
(7)奖金设置男高女低是否合理? 杭州马拉松上演“秋菊打官司” 组委会回复:不排除今后实行男女同酬」『今日早報』2012年10月25日。
(8)杭州国际马拉松组委会对李双双政府信息公开的回应[word]」社会性別与発展在中国サイト。
(9)肝胆相照邮件组「女子选手就杭州国际马拉松组织方全程马拉松环节奖金设置性别歧视致信国际田径联合会」社会性別与発展在中国サイト2012年11月5日(来源:邮件组)。
(10)【致国际田径联合会的公开信】[word]」社会性別与発展在中国サイト
(11)嵘嵘「【杭马快报!】好给力呀!这么快收到正面的积极回复!」google group性别平等倡导计划2012年10月25日。
(12)Vera许小米「天下公――记方强的一次分享」纳米克星2012年10月25日。
(13)女子选手就杭州国际马拉松奖金设置性别歧视致信国际田径联合会」性別平等網2012年11月6日(内容は、(9)と同じですが、こちらの写真の方がやや見やすいようです)。
(14)以上は、吴靖怡「FM非密杭州性别平等行动组成立啦!」性别平等倡导计划2012年11月7日。
(15)Vera许小米「天下公――记方强的一次分享」纳米克星2012年10月25日。

オリンピック中国選手団の旗手が28年間男子バスケ選手であることに中国国内から批判相次ぐ

今回のロンドンオリンピックの中国選手団の旗手は、男子バスケットボールの易建聯選手(Wikipediaの説明)でした。身長2m12cmの長身の選手です。今回に限らず、1984年に中国がオリンピックに復帰してから今に至るまで、夏季オリンピックの中国選手団の旗手は、以下に示すように、ずっと男子バスケットボールの選手で、いずれも長身でした。

1984年 ロサンゼルス―王立彬(2m1cm)
1988年 ソウル――――宋濤(2m6cm)
1992年 バルセロナ――宋立剛(2m)
1996年 アトランタ――劉玉棟(1m98cm)
2000年 シドニー―――劉玉棟(1m98cm)
2004年 アテネ――――姚明(2m26cm)
2008年 北京―――――姚明(2m26cm)

国家体育総局副局長で選手団副団長の段世傑さんは、今回も旗手を男子バスケットボールの選手にしたことを、「過去の伝統に従った」(1)と述べました。また、やはり国家体育総局副局長・選手団副団長で、中国オリンピック委員会副主席でもある肖天さんは、「体格が大きい」という要素を考慮したと言いました(2)

さらに、肖天さんは、自分が一番気にかけているのは「三大球技(サッカー、バスケ、バレー)」であると言い、「もし団体競技が世界的大会の中で優れた成績を収めなければ、中国がスポーツ強国だとは言いにくい」とも述べました。『中国婦女報』の代剛記者は、この発言について、「スポーツ強国であるためは、男子の団体競技をもっと強くしなければならない、と言外に言っている」と捉えています(3)

もっとも、今回、中国オリンピック委員会が、男子バスケットボール選手などの球技選手以外を旗手として考えなかったのかというと、そうではなく、水泳の孫楊選手(Wikipediaの説明)にする案もあったようです。けれど、孫楊選手は開会式の翌日の競技に出なければならなかったので、選択肢から外されました(4)。しかし、孫楊選手も身長198cmであり、長身の男性であったことは同じです。

さまざまな批判

易建聯選手が旗手になることが発表されたのは7月25日でしたが、その日すぐ、女子バレーボールの趙蕊蕊選手(Wikipediaの説明)は、自分のミニブログ上で、「なぜ女性を旗手にすることを考えないのか」と発言しました。

中国が1984年にオリンピックに復帰してから前回の大会までに獲得した金メダル163個のうち、男子選手が獲得したのは71個で、女子選手が92個を獲得しています。また、今回のオリンピックに中国から参加した396選手のうち、男子選手は171人であるのに対し、女子選手は225人です。にもかかわらず、旗手がいつも男性であることに疑問が多くの人から上がっています(5)

7月27日には、新華網(単磊・黄傑の署名記事)が、「オリンピック中国選手団の旗手が男子バスケットボールの『専売特許』になっている。メンバーチェンジすべきだ」という評論を掲載しました。この評論は、「もし身長の高さと容姿が絶対的指標だとしても、男子バレーボールの若者は身長が足りないことはあるまい」「それに、オリンピックは張り出し舞台ではないのだから、身長と容姿は副次的な要素であり、競技場で収めた成績だけが本当の絶対的指標だ」と述べました。さらに、アメリカ・日本・ロシア・イギリス・フランスなどの「オリンピック強豪チームの旗手の大多数は、いわゆる身長と容姿の絶対的指標に合致しておらず、また女性選手が多数を占めている」とも指摘しています(6)

同じ7月27日、騰訊網(「冷雪」の署名あり)は、「中国はオリンピックの女性旗手が必要だ。スポーツのため、とりわけ国民のために」という特評を掲載しました(7)

この特評は、まず、今回のオリンピックでは、イスラム諸国も女性選手を派遣し、カタールは女性を旗手にするなど、「女権の解放」が「世界の潮流」だと言っています。次に、その女性解放のためには、「社会が女性を尊重する」ことと「女性の自己奮闘意識」の2つが必要だが、現在の中国では、後者が欠けていると言い、「その点、中国の女性スポーツ選手が示す奮闘精神・苦しみに耐える精神・進取の精神は、まさに社会が緊急に必要とするものであり(……)もし中国のオリンピック代表団が女性旗手を信任して、女性選手の影響力を高めれば(……)中国の女性の奮闘精神を呼び起こす上で大きな働きをするだろう」と主張します。

こうした騰訊網の評論は、女性に対する社会的差別の解消よりも、「女性自身が奮闘する」ことに力点が置かれています。そうした観点からの評論ですけれど、以下のように、同じスター選手でも、性別によって影響力が異なっている状況にも言及しているのは興味深く思います。

「中国のスポーツ界の精神的リーダーは、過去の李寧(体操、 Wikipediaの説明)から現在の姚明(バスケットボール、 Wikipediaの説明)・劉翔(110メートルハードル、 Wikipediaの説明)にいたるまで、いつも男性がなってきた。」「中国の歴史上、優秀で抜群の女性選手は非常に多いけれども、全社会・全階層の偶像となるトップクラスのスターは、いくらもいない。」「欧米のメディアは、『中国では、劉翔・姚明は、スポーツの偶像であるのみならず、全国民の偶像である』と論評しているが、女性選手の影響力は、大多数は競技スポーツの範疇を超えていない」

今回の件について、女性向けサイトでのネット投票では、投票数は50~150程度と少ないですが、8~9割の女性が、旗手を女性にすることに賛成しています(「中国奥运代表团应由女性作旗手?」『中国婦女』サイト、「中国奥运旗手28年来只选男性 女人有意见」網易女人サイト)(8月7日現在)。

中国でも、2006年のトリノの冬期オリンピックでは、スピードスケート(ショートトラック)の楊揚選手(Wikipediaの説明)が史上初めて女性で中国選手団の旗手になっています。

国家体育総局副局長である肖天さん(前述)も、「私たちも世界各国に女性旗手が少なくないことに気付いている。以後は十分考慮したい」(8)と述べました。

身長の高さを重視することと就職における身長差別

肖天さんらが言っている、旗手の身長の高さを重視するということと、中国では就職の際、ときに身長による差別があることとは繋がっているのではないかと思います。

たとえば、周偉『反歧视法研究 立法、理论与案例(反差別法研究 立法・理論・判例)』(法律出版社 2008年)(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本の書誌データ[購入ページ])の第二章第四節は、中国における「身長差別」について、以下のように詳しく述べています。
 ・1995年から2005年の上海市と成都市の新聞(上海では『人材市場報』と『中国貿易報』、成都では『成都商報』と『華西都市報』)の求人広告を分析したところ、身長について条件を付けている求人が、3.4%(上海)、11.6%(成都)あった。それらの広告のうち、男性への求人は32.3%(上海)、31.6%(成都)であったのに対して、女性への求人が53.9%(上海)、58.7%(成都)であり(残りは性別不問)、女性のほうが身長についての条件が付けられることが多い。身長について条件を課されるのは、サービスの職務(秘書・迎賓・顧客サービス・警備・販売など)が多い。具体的には、女性に対しては「160cm以上」、男性に対しては「170cm以上」という条件が付けられることが最も多い。性別不問の求人の場合、身長について「165cm以上」といった条件を付けているものは、法律の女性差別禁止規定を回避しつつ、女性を排斥する目的がある場合もある。
 ・国家の公務員採用においても、警察・裁判官・検察官・その他の公務員で身長差別がある。とくに2005年に、国家が統一した公務員の身体測定基準(《公务员录用体检通用标准(试行)》)を施行する以前は、「男性○○cm以上、女性○○cm以上」という身長差別が多かった。
 ・以上のような差別があるために、そうした職業を養成する全日制の高等教育機関が学生を募集する際、身長の制限を付けている場合がある。

また、周偉ほか『中国的劳动就业歧视:法律与现实(中国の雇用差別:法律と現実)』(法律出版社 2006年)(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本の書誌データ[購入ページ])の第一篇第五章「労働就業の身長条件」(蒋韜・王永清)も、身長差別について詳細に分析しています。

こうした本を読んでも、私には、なぜ身長が高いことがそれほど重視されるのかがよくわからなかったのですが、上の本の蒋・王両氏の調査によると、身長に条件を付けている企業の52%は「会社のイメージ」を理由にしており(p.127)、両氏によると「メディア・娯楽・芸能などの動向から見ると、社会の普遍的な審美傾向は、高いことを美しいとみなしている」(p.131)といいます。また、周偉氏によると、2006年に海軍が地方の大学生の入隊を受け入れた際、[軍隊の]指揮専攻の男子学生に対しては身長「170cm以上」、女子学生に対しては身長「165cm以上」という条件を付けたのですが、そのことについて、海軍の責任者は、「海軍は国家を代表して、友好訪問に行ったり、外国の軍艦を接待したりする任務が頻繁にあり、士官と兵士のイメージと風格は、国家と軍隊のイメージを代表するから」という理由を挙げたそうです(p.124)。

どうも中国には、何か、「背が高いとイメージがいい」という風潮があるようです。他の国にも若干あるとはいえ、とくに中国ではそういう風潮が強いようです。

今年の4~5月に女子大学生たちが各地でおこなった就職差別に反対するパフォーマンスアートにおいても、女子大学生たちが批判した差別の一つに、「身長1m65cm以上」などといった、身長による差別があり(「女性差別反対を訴える女子大学生のパフォーマンスアート続く」「各地で雇用における女性差別反対を訴える女子大学生らのパフォーマンスアート」)、現在でも無視できない問題です。

旗手の性別問題が論じられた背景に、オリンピックの性差別解消の流れがあることは確かだが……

ロンドンオリンピックは、競技に女子ボクシングが加わったことによって、史上初めて全競技で女子種目が実施されるとともに、すべての国・地域から女子選手が参加する大会になりました。国際オリンピック委員会(IOC)は、今大会を性差別を解消した初の五輪と位置づけています(9)。選手団の旗手も、ロシアがテニス選手のマリア・シャラポアを同国初の女性旗手にするなど、その4割が女性でした(10)

さらに、4年前の北京オリンピックの際には、身長や容姿で厳選され、厳しい訓練を受けたコンパニオンが社会の大きな注目を集めたのと対照的に、ロンドンオリンピックでは、授賞式に男性のコンパニオンが登場したことにも、中国のフェミニストは注目しています(11)

中国で旗手の性別問題が論じられた背景として、以上のような性差別解消の流れがあることは間違いないと思います。

といっても、今回のオリンピックも、もちろん完全に性差別を解消したわけではなく、中国のフェミニストも、以下のような点を指摘しています(12)
 ・参加した選手のうち女性は、44%にとどまる。
 ・種目(金メダルの数)は、男性は162で、女性は132である。
 ・国際オリンピック委員会の委員105名のうち、女性委員は20名で、20%に達していない。

また、ボクシングの階級は女性の方が7つ少ないのに、シンクロナイズドスイミングと新体操は女性だけの競技であることについても、ジェンダーによるステロタイプなイメージのせいではないかという疑問を呈していますし(13)、同性愛者がごく一部しかカミングアウトできていない問題も指摘しています(14)

日本の夏季オリンピック選手団は、1988年以降は、「選手団長や主将は男性、旗手は女性」という性別役割分担?

日本選手団の旗手について言えば、夏季オリンピックでは、1988年のソウルオリンピックで小谷実可子が初めて女性として旗手を務め、1992年のバルセロナでは中田久美、1996年のアトランタでは田村亮子、2000年のシドニーでは井上康生で男性でしたが、2004年のアテネでは浜口京子、2008年の北京では福原愛、2012年のロンドンでは吉田沙保里というふうに(「Wikipedia・オリンピック日本選手団」より)、近年は、旗手は女性が務めることが定着しています。

ただし、選手団長や主将はずっと男性であり、正確には「選手団長や主将は男性、旗手は女性」という役割分担が定着している、と言った方がいいかもしれません(冬季オリンピックは、若干状況が異なりますが(15))。

以上のように見てくると、世界でも、日本でも、旗手が女性になったからといって、それがストレートに性差別の解消に結びつくというわけではないようです。騰訊網の特評に見られるように、旗手を女性するという主張が、もともと性差別の解消のためではなく、女性の「自己の奮闘意識」を呼び起こすためである場合もあります。

もちろん旗手を男性が独占したり、身長に特別の価値を見出したりするような価値観は克服されるべきです。その意味で、中国の旗手をめぐる今回の議論は有意義だったと思います。また、当然のことながら、上述のように、中国のフェミニストの中では、旗手の性別の問題にとどまらず、オリンピックにおける性差別そのものの解消に照準を合わせた議論がされていることも確認しておきたいと思います。

(1)赵蕊蕊不满男篮连庄 质疑中国为何不选用女旗手」網易体育2012年7月26日。
(2)中国代表团正式宣布旗手 肖天:今后或考虑女旗手」新浪体育2012年7月26日。
(3)旗手该换换人了」『中国婦女報』2012年7月28日。
(4)赵蕊蕊质疑奥运代表团旗手决定:为什么不考虑女性?」鳳凰網2012年7月26日(来源:解放牛網)。
(5)特评:中国需要奥运女旗手 为体育更为国人」(冷雪)騰訊体育2012年7月27日、「伦敦奥运性别平等 一代须再激励」『女声』119号[word]、「中国奥运旗手28年来只选男性 女人有意见」網易女人2012年7月28日、「赵蕊蕊质疑奥运代表团旗手决定:为什么不考虑女性?」鳳凰網2012年7月26日(来源:解放牛網)。
(6)男篮成奥运中国代表团旗手“专利” 该换换人了」人民網2012年7月27日(来源:新華網)。
(7)特评:中国需要奥运女旗手 为体育更为国人」(冷雪)騰訊体育2012年7月27日。
(8)中国代表团正式宣布旗手 肖天:今后或考虑女旗手」新浪体育2012年7月26日。
(9)<ロンドン五輪>旗手に女性の姿目立ち 歴史的大会を象徴」『毎日新聞』2012年7月28日。
(10)シャラポワが五輪ロシア代表団の旗手に」AFP2012年7月11日、「五輪開会式、女性選手が誇らしげ 選手団の4割で旗手」共同通信社2012年7月28日。
(11)「伦敦奥运性别平等 一代须再激励」『女声』119号[word] p.4、「从铁拳红颜到礼仪先生」『中国婦女報』2012年8月6日。
(12)「伦敦奥运性别平等 一代须再激励」『女声』119号[word] p.2-3.
(13)呂頻「女人能拳击,男人能跳操吗」社会性別与発展在中国サイト2012年8月1日。
(14)「伦敦奥运性别平等 一代须再激励」『女声』119号[word] p.8、この件に関する日本語のまとめとしては、「ロンドン五輪に出場するゲイ、レズビアンをカミングアウトしている選手21人」NAVERまとめ。
(15)冬期オリンピックの場合は、つとに1960年のスコーバレーで上野純子(のち平松純子。フィギアスケート)が旗手を務めていますが、1988年のカルガリーで橋本聖子、2002年のソルトレイクシティで三宮恵利子、2010年のバンクーバーで岡崎朋美が旗手を務めるというふうに、やはり1988年以降に、夏季ほどではないですが、女性旗手が増えています。ただし、冬期の場合は、2006年のトリノで岡崎朋美が初めて女性で主将になり、2010年のバンクーバーでは、橋本聖子が初めて女性で選手団長になっています。ただ、橋本聖子の場合は、7回のオリンピック出場(冬期4回、夏季3回)という日本最多記録に加えて、参議院議員だったことも関係しているのかもしれません。

オリンピックでの女性選手活躍の陰で

 北京オリンピックでも、中国は女性選手の活躍が目だちました。中国選手が獲得した100個のメダルのうち、58個(金27、銀11、銅20)が女性選手によるものでした。しかし、その陰には、次のような問題があることが中華全国婦女連合会の機関紙『中国婦女報』でも指摘されています。

男女の選手の収入の格差
 まず、男女の選手の収入の格差です。国家が統一して授与する賞金以外の、年俸や試合の賞金、出場料などは、男女の選手の差が大きい(1)。その象徴として指摘されているのが、中国の男子サッカー選手と女子サッカー選手の収入の格差です。中国の男子サッカーは、北京オリンピックでは1勝もできずに予選落ちしましたが、女子サッカーは決勝トーナメントに進出しました。しかし、選手の収入はといえば、男子サッカー選手は、たとえば、中国のサッカークラブの一つである中超クラブの選手の年俸は3~40万元あるのに、女子サッカー選手は、収入が最高である大連実徳クラブでも、一カ月5000元に満たない(すなわち年間でも6万元に満たない)とのことです。もっとも女子バレーボール選手は、男子バレーボール選手の3倍の収入があるのですが、そうした事例はほんの一部にすぎず、女子サッカーや女子ソフトボール、女子ホッケーなどは企業からの賛助もわずかだそうです(2)

プライバシーを暴露したり、セクシーさにばかり注目する報道
 女性選手のプライバシーを暴露するような報道を問題にしている人もいます。たとえば、あるトランポリンの選手が幼い恋愛で駆け落ちしたとか、女子選手と男子選手との恋愛とか……(3)
 また、女性選手の容貌やスタイル、とくにセクシーさばかりを描写するような報道が多いことを問題にした記事もあります。たとえば、板飛込みの郭晶晶選手は、金メダルを取ることよりも、「くっきりした、あか抜けた顔だち」とか「セクシーな表情」とか「身体の曲線」ばかりが騒がれたということです(4)。「視覚効果」を狙って、女子選手にスカートをはかせるような国際的な競技団体の姿勢も問題にされています(5)

メダルを取れなかった女性選手たちの将来を憂える声
 「国を挙げてメダルを取る」という中国の「挙国体制」は、女性選手の育成に効果を発揮しており、メダルを取ればその後の生活の見通しも明るくなります。その一方で、何のメダルも取れなかった選手の未来を憂える声もあります。かつては世界記録を持っていたこともある女子重量挙げのチャンピオン・鄒春蘭選手が、退役後に公衆浴場の垢擦り労働者にならざるをえなかったという事例もあります(このことは中国でも問題になりました)(6)

スポーツの大衆的普及、女性間格差
 中国は、国民的なスポーツの面では遅れているという指摘も出ています。2006年の統計によると、中国の1人当たりのスポーツ用地の広さは1.03㎡にすぎず、1995年に0.65㎡だったのに比べれば広がったとはいえ、「本当のスポーツ大国とは比較にならない」とのことです(日本は中国の10倍だそうです)(7)。ですから、大衆的なスポーツ建設に対しても「投資と制度的保障が必要だという声も出ています。
 女性間の格差も指摘されています。上海では、20歳以上の女性のうち、3人に1人がフィットネスクラブのカードを持っていて、退勤後にバレーやヨガ、新体操の練習をしているのに、その一方で、ブルーカラーの女性は毎日、生きるために必死だという現実もあります(8)

 以上のような問題の中には、特殊中国的な問題もありますが、日本の女性スポーツ(選手)の境遇と共通する点も少なくないと思います。

(1)「我們関注体育場上的性別利益」『中国婦女報』2008年8月14日。
(2)「同工同酬,是対女運動員的尊重」『中国婦女報』2008年8月14日。
(3)「奥運賽場上的両性話題──人民網与情会商室訪談録(上)」『中国婦女報』2008年8月27日。
(4)佟吉清「競技場不是性感的秀場」『中国婦女報』2008年8月11日。
(5)「奥運賽場上的両性話題──人民網与情会商室訪談録(中)」『中国婦女報』2008年8月28日。
(6)「奥運賽場上的両性話題──人民網与情会商室訪談録(下)」『中国婦女報』2008年8月29日。
(7)李泓水「我們該享受体育的快楽」『中国婦女報』2008年8月13日。
(8)(6)に同じ。

「ジェンダーとスポーツ」シンポジウム

 さる3月12日、北京で、国連ジェンダー主題活動グループ[聯合国社会性別主題工作組]全国婦連との共催による「ジェンダーとスポーツ[社会性別与体育]」討論会がおこなわれました。

 この席で、全国婦連国際部長の鄒曉巧さんは「スポーツの領域においては、依然としてジェンダー不平等の問題が存在しています。男女の選手に対する資源の分配は不公平であり、女性コーチと女性は、指導と管理のポストで比率が低く、社会には女性のスポーツに対する各種の偏見があります」と指摘しました。

 2003年の時点で、中国の国家体育総局と直属単位において、局クラスの女性幹部は20人で、全体の人数の12%にすぎません。北京オリンピックの組織委員会で仕事をしている人のうち、女性は30%以上を占めていますが、執行委員会の19名の委員の中には、女性は3名しかいません。

 また、このシンポジウムでは、中国社会科学院の卜衛教授が、中国のメディアのスポーツ報道にも次のような問題があると指摘しました。
 1.スポーツのジェンダー化。スポーツは男性のものだとされる。国内のあるスポーツ新聞が2000年に創刊されたときに出した広告は、「男の新聞」というものだった。女性の参加は、しばしば「差異性」の記号を付される。
 2.スポーツ選手の報道のジェンダー化。女性選手に対する報道は、「性感化」「家庭化」される傾向がある。このような報道は、女性選手の社会的領域における成就をおとしめ、生物学的特徴や私的領域における役割を強調している。
 3.女性のスポーツ参加のジェンダー化。多くのメディアは、女性のフィットネスを、健康のためではなく、ダイエットによって、自分の身体を美女の基準に当てはまるようにするためのものであることを強調している。これは、ジェンダー文化による女性の身体への暴力である。こうした暴力は、女性がスポーツの中から楽しみや自信、自由を得させずに、基準に当てはまる体になれないことによって気力を喪失させる(以上、(1))。

 また、他の人からは、女児がスポーツを選択する際、ジェンダーの影響を受けて、競争性が強くない運動を選択する傾向があるなどの話が出ました(2)

 このシンポジウムでは、女性選手の具体的な状況などに関しては、どのような議論が交わされたかよくわかりません。しかし、北京オリンピックを迎えて、スポーツとジェンダーに関する議論が中国でもなされつつあることがうかがえます。

 もっとも、それは今に始まったことではなく、すでに2002年11月には、北京大学女性体育研究センター[婦女体育研究中心]というものが設立されています(3)。また、同センターが設立された際には、「北京オリンピック──女性の機会と挑戦」シンポジウムも開催されました。また、その後すぐに、スポーツ報道における女性の扱い方を問い直す記事も『中国婦女報』に掲載されたりしています(4)

 2005年11月には、北京大学女性体育研究センターは、第1回中国女性とスポーツ文化国際フォーラムも開催し、2006年10月には第2回目のフォーラムも開催しました。この2回のフォーラムをもとにして、董進霞・張鋭・王東敏主編『女性・文化・体育研究動態』(北京体育大学出版社 2007年)(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ)も出版しました。董進霞さんには、『她們撑起来大半辺天――当代中国女子競技体育透視』(九州出版社 2007年)(同上データベースの中のこの本のデータ)という著書もあります。

 北京大学女性体育研究センターが運営している「博雅女性体育」サイトは、それほど内容的に充実したサイトではありませんが、以上で述べたほかにもいくつか情報が掲載されていますので、よろしければご覧ください。

 また、日本の女性史総合研究会の会誌『女性史学』16号(2006年)には、張軼欧さんが「中国の女性とオリンピックの現況から」と題して、とくに選手の引退後の状況に焦点を当てた議論をしておられます。張さんは、中国の(とくに女子)オリンピック選手が置かれている問題点として、以下を指摘しています。
 1.素質のある選手が7、8歳ごろから入る体育学校では、教養教育が軽視されている(最近は、その点に中国でも批判が高まって、体育学校は減少しつつあるそうです)。
 2.金メダリスト以外の選手については、国は引退後の面倒をみず、自力で就職活動を余儀なくされる場合が多い
 3.1や2のために、引退後の選手は就職難であり(また、女性は中国でも男性より就職難)、医療費の負担もかかってくる
 4.ドーピングは、とくに女子選手にとって重大な問題である(ひげが生える、生理不順、子どもが産めないなど)
 張さんは、以上の問題点の根本原因として、中国の選手強化策である「挙国体制」があることを指摘し、その改善策などについてもいくつか提起しておられます。

(1)「聯合国社会性別主題工作組和全国婦聯聯合挙行“社会性別和体育”討論会 以社会性別視角審視体育発展」『中国婦女報』2008年3月25日
(2)「国際婦女説慶祝活動“社会性別和体育”」社会性別与中国HP2008年03月14日
(3)「首家婦女体育研究中心落戸北大」『中国婦女報』2002年10月31日。
(4)「体育報道中的女性」『中国婦女報』2002年11月26日。

«  | HOME |  »

プロフィール

遠山日出也

Author:遠山日出也
 検索から来られた方へ:このブログの記事を分類した一覧である「『中国女性・ジェンダーニュース+』記事総覧」を見ていただくか、下の「カテゴリー」欄を使われると、関連情報がご覧いただきやすいと思います。最近の行動派フェミニストについては、「中国の行動派フェミニスト年表、リンク集」をご覧ください。
 また、「中国女性・ジェンダー関係主要HPリスト」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。日本の問題の一部は、「ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の労働争議・まとめ」や「館長雇止め・バックラッシュ裁判」でまとめています。
 恐れ入りますが、スパム対策などのため、コメントは私が拝見した後で表示させていただきます。
 私への連絡はこちらまで

最近の記事

月別アーカイブ

カテゴリー

最近のトラックバック

最近のコメント

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。