2017-05

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『中国婦女報』になぜ「軍旗飄飄」面?

 今年から『中国婦女報』の毎週木曜の第7面が「軍旗飄飄」面になりました(今年だけの可能性もありますが)。

 『中国婦女報』は、官製的色彩が強い女性団体である「中華全国婦女連合会」の機関紙であることもあり、従来から、人民解放軍の建軍記念日である8月1日前後は、毎年、軍隊関係の記事が多かったです。
 しかし、毎週、特定のページを軍隊関係の特集にしたのは、『中国婦女報』が1984年に創刊されて以来、初めてです。

 記事の内容も、なにも軍隊における女性差別や女性兵士の人権について論ずるようなものではまったくなく、軍隊での女性の活躍、軍事に対する女性の貢献について報じるものです。
 この「軍旗飄飄」面の各コーナーの内容は、以下のようなものです(当初の計画。実際にはこのとおりにコーナーが設けられているわけではないが)。
 ・「深度報道」「軍界女星」「美麗女兵」……これらは、みな軍隊での先進的な事績・英雄的な人物を報じるコーナーです。
 「深度報道」は、全軍の重要な模範を報道する。
 「軍界女星」は、軍事科学領域で成果を収めた女性の軍事理論家や科学者を報道する。
 「美麗女兵」は女性兵士の先進的事績を報道する。
 ・「我是軍嫂」……軍人の妻の生活などを報じるコーナー。
 ・「両地書」……軍人や軍人の妻などのためのコーナー。
 ・「巾幗史鑑」……古今・国内国外の女性軍人の感動的な事跡をつづる。
 ・「軍地在線」……軍人の就職や転業、軍人の妻の就業、子どもの入学など、注目されている話題について、党や政府の探索や実践を報じる。
 (以上は、「新年致読者」[1月3日]より)

 毎回のトップ記事の内容は、以下のとおりです。見出しを見てもわかるように、みな軍隊や軍隊での女性の活躍をたたえるものです。
 1月3日「“我們是中国最好的女飛行員”──空軍第八批女飛行員成長剪影」
 1月10日「西部百姓的生命保護神──第四軍医大学医療扶貧恵及西部群衆紀実」
 1月17日「博士曲磊:演繹現代版軍嫂」
 1月24日「音楽響起,我們就忘了年齢──軍隊文工団一批退休舞踏演員自組舞踏団為観衆免費演出」
 1月31日「千里辺関軍中歌声正酣」
 2月14日「救災 大写火熱情懐」

 『中国婦女報』に「軍旗飄飄」面が設けられたということは、軍隊への女性の進出の反映なのでしょうか? それとも、北京オリンピックに向けた国内の思想的引き締めの一環なのでしょうか?
 べつに深い意味はないのかもしれません。また、『中国婦女報』は8ページ建てであり、週6日発行されており、そのうちの1ページが「軍旗飄飄」面になったただけですから、紙面全体から見れば、1/48、すなわち2%ほどにすぎませんので、そのこと自体の影響はわずかでしょう。
 しかし、木曜日の第6面は、それまでは「文化・読書」という、女性の著作などを紹介するページだったこともあり、少し気になります。
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好軍嫂・陳巧雲さん

 8月1日は、中国人民解放軍の建軍記念日です。毎年この日の前後は、『中国婦女報』でも「好軍嫂(良い軍人の妻)」を称える話が掲載されます。

 今年は、陳巧雲さんの話が3日間にわたって掲載されました(1)。地元紙のサイトでは、陳さんについての特集ページも設けられています(今日揚州網揚州晩報)。
 のちに彼女に夫になる、閻紹田さんは1982年に軍隊に入ります。けれど1984年、訓練中に地雷に両足と左手を吹き飛ばされました。陳さんは、障害者になった彼と結婚しようとして親の反対にあい、村の人々からも「馬鹿だ」と言われます。けれど、彼女は「彼は国を守るためにケガをしたのに、もし誰も関心を寄せなければ、今後は誰も兵隊になろうとせず、祖国に報いることはなくなるでしょう」と言って、反対を押し切り、1986年に彼と結婚しました。
 生活が苦しかったので、陳さんは村の工場に働きに出るとともに、父母を助けて農作業と家事にいそしみます。
 陳さんはそのかたわら、夫の体を3時間ごとに洗うなど、毎日、夫の身の回りの世話をし続けます。さらに、彼が義肢と松葉杖を使って歩く訓練の手助けもしました。夫にとって訓練はとても辛いものでしたが、彼女は粘り強く夫を励ましました。そのかいあって、夫は2年後には自分で歩けるようになり、今では身の回りのこともできるようになり、地域の共産党の支部の書記もしています。
 また、陳さんは子育てにも頑張り、子どもは今では南京芸術学院の大学生です。

 1993年には陳さんは、江蘇省婦連から「擁軍女模範」に選ばれ、2005年には「情繋国防」好家庭に選出されました。2006年には「揚州を感動させた十佳母親」にも選ばれました。
 今年、江蘇省の婦連は、全省の女性は陳さんに学ぼうという決定をしました。その決定では、陳さんを「自らのすべてを、国防建設と結びつけ、国家と人民の利益と結びつけ、社会の安定や経済発展と結びつけた」と述べて称えています(2)

 「好軍嫂」としてこれまで最も大々的に宣伝されたのは、1995年に全国婦連が模範として表彰した韓素雲さんだと思います。
 韓さんの婚約者の家は、祖母は寝たきり、父母や姉は病弱、弟は目がほとんど見えず、幼い二人の妹はまだ学校でした。婚約者は広西の国境地帯で兵士になっていましたが、そこでは当時紛争が絶えず、しばしば戦死者が出ていたので、韓さんに結婚を考え直すよう言う人も少なくありませんでした。けれども、韓さんは、結婚を考え直すどころか、婚約者が安心して国境の守りにつけるよう、結婚前から彼の家に住みこました。
 韓さんは、夫の祖母の看病をしつつ、彼の一家九人の生活のため、一人で農作業を担って金をため、一家に二間の新しい家まで増やしてあげました。祖母の病状が悪化すると、韓さんは妊娠8,9月だったにもかかわらず、夫には知らせず、一人で看病に献身しました。祖母が亡くなっても夫には帰ってこさせず、かわって葬儀をしました。
 子どもが産まれると数日もたたないうちに、弱った身体で姑の看病をしながら子どもの世話をし、さらに一家全員の食事を作りました。それでも夫には帰ってこさせませんでした。
 こうして夫は、仕事に全力をあげることができて、軍隊で優秀な成績をあげて数々の表彰を受けました。
 しかし、韓さんはとうとう足腰の骨の病気になました。病気がだんだん重くなっても、軍隊にいる夫や姑に心配させまいとそれを隠し続けました。畑では働けなくなっても、家の足手まといになるまいと親戚の店で働いて、病が重くなって働けなくなるまで送金し続けました(3)

 当時の全国婦連の決定は、「彼女は国家を愛することと軍を愛すること、家族を愛することをみごとに統一し、自強してやまない、無私の奉献をする女性の模範である。韓素雲同志の崇高な愛国主義の精神、勤労倹僕・尊老愛幼の伝統的美徳に学ぼう」というふうに言っているのですが(4)、「夫のため」「家族のため」ということ自体よりも、「軍隊のため」「国防のため」ということを強く感じます。

 韓素雲さんが大々的に宣伝されたのは、当時「愛国主義教育」がひときわ強く唱えられていたことと関係があると思います。
 現在は、メディアを見るかぎり、その頃ほど大々的には「好軍嫂」の宣伝はされていないようです。けれど、それでも各地で表彰がおこなわれています(5)

 軍人の妻にかぎらず、農村部などでは、献身的に介護などをしたうえに、本人も農作業などでよく働き、育児にも頑張っているお嫁さんを、「好媳婦」として表彰することはよく見られます。これは、日本の「模範嫁」表彰とも共通点があるようです(6)
 もちろんこうしたお嫁さんを表彰する背景には、農村における社会保障の貧困の問題もあります(7)。人口の高齢化や夫が出稼ぎに行っていることとも関係があるでしょう。

 けれど、「好軍嫂」がとくに大々的に宣伝されること、軍人の妻に対しては夫や家族への献身がとくに求められるということは、国家・ナショナリズムと家族やジェンダーとの関係を象徴しているように思います。

(1)「我願做你的手和脚──記情係国防好軍嫂陳巧雲(上)」『中国婦女報』2007年7月24日、「她帯給丈夫“第三次生命”──記情係国防好軍嫂陳巧雲(中)」『中国婦女報』2007年7月25日、「用愛心点亮周囲毎個人──記情係国防好軍嫂陳巧雲(下)」『中国婦女報』2007年7月26日。
(2)江蘇省婦女聯合会「関于全省広大婦女中開展向陳巧雲同志学習的決定」(2007-06-15)(江蘇婦女網)
(3)「愛心融進辺防緑」『中国婦女報』1994年8月1日。
(4)「中華全国婦女聯合会発出関于向好軍嫂韓素雲学習的通知」『中国婦女報』1995年1月13日。
(5)「黒竜江省首届“優秀女官兵・優秀兵媽媽・好軍嫂”評選結果掲曉」『中国婦女報』2007年7月26日、「内蒙古・山東・河南・南京表彰“好軍嫂・兵媽媽”」『中国婦女報』2007年7月30日。
(6)熊沢知子「“模範嫁”表彰にみる『介護』と『嫁意識』」『お茶の水女子大学女性文化研究センター年報』第7号(1993年)。
(7)中国の農村の社会保障の問題を鋭く訴えた王文亮『中国農民はなぜ貧しいのか』(光文社 2003年)247-261頁あたりに、「好媳婦」などの孝敬モデルの表彰について詳しく書いてあります。

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遠山日出也

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