2017-04

8都市の女子大学生、教育部長に小中学教科書の性差別的内容の是正求める建議の手紙

今年3月8日の国際女性デーの前日の3月7日、全国8市(桂林、蘭州、広州、鄭州、昆明、深圳、南京、珠海)の女子大学生9人(10人と報じている新聞もある)が、袁貴仁 教育部長に対して、パンとカーネーションと教科書を添えて、小中学校の教科書の中の性差別を是正するよう求める建議の手紙を送りました(「小中学校の教科書のジェンダー不平等な現状を改善することに関する教育部長への建議の手紙」)。

建議の手紙を送った女子大学生たちは、「1908年3月8日、1万5000人の女性がニューヨークで男女平等の権利を勝ち取るためにデモをしましたが、女性たちのスローガンは『パンとカーネーション』でした。パンは経済的保障の象徴で、カーネーションは生活の質の象徴でした。私たちに幼い時からジェンダー平等な環境を保障し、教科書や先生のお話から、生徒たちが女性の価値を理解できるように希望します」と語っています(1)

女子大学生たちはお互い会ったことはなく、インターネットで知り合ったそうですが、みな女性の権利の問題に関心を持っていたので、何かやろうということになったそうです。

女子大学生たちは、現在の教科書に対する不満を語り合ううちに、それが個人の問題ではないとこがわかりました。彼女たちが多くの国語や歴史、思想・道徳などの教科書を分担して調べたところ、以下のような問題があることがわかりました(2)

【1】女性は、本文と挿絵に出てくる頻度が男性よりはるかに低い。女子学生たちが言うには、ある学者の報告によると、小学校の教材の12冊の中で、図版に男性が出くるのは198回だが、女性は130回である。物語の文中には、男性は152回出てくるが、女性は42回しか出てこない。また、高学年になるにつれて、主役として男性のほうが女性より多く出てくるようになる。

【2】女性の姿は、往々にして母親、お婆さんのような従属的な家庭役割、あるいは教師・看護師のような職業に限定されている。

【3】女性は、往々にして、無知であり、しっかりした考えがなく、能力が低く、同情され保護されるべき存在に描かれている。逆に、男性は、往々にして、知識が深く広く、独立自主で、志が大きく、能力が高い。

【4】歴史の教科書の内容の大部分は、男性の戦争の歴史についての学習であり、歴史の発展に対する女性の貢献は無視されている。傑出した女性も完全に教科書から姿を消しているか、十分な紹介がされていない。たとえば、中国同盟会の最初の女性会員である唐群英にも言及されておらず、近代民主革命の志士であり『中国女報』を創刊した秋瑾も、「革命家」としか記述されず、彼女の理想は書かれていない(3)

彼女たちは、教育部に対して、こうした小中学校の教科書の中のジェンダー不平等な状況についてきちんと再検討して、文の選定や編集・執筆、原稿審査の過程で、ジェンダー平等の原則を守って、性差別的な、小中学生がジェンダー平等意識を形成する妨げになる内容を審査・削除するように求めました(4)

もちろん、すでに中国でも、教科書の中の性差別に関する研究は以前からなされています。1992年の『中国婦女報』にも、北京外語学院女性学研討会による、「男とは何をすべきで、女は何をすべきか――伝統的性別役割の小学国語教科書の挿絵の中への浸透」という記事が掲載されています(5)。同年には、閔冬潮・杜芳琴「中国の歴史教科書における性別問題の分析」(遠藤祐子・丹野美穂・遠山日出也訳、『中国女性史研究』4号)も発表されています。2001年には「ジェンダーと教材文化研究」シンポジウムが開催され(6)、2004年には、史静寰『教材と教学のジェンダー世界に歩み入る(走进教材与教学的性别世界)』(教育科学出版社)という単行本も出版されました。この本では教科書についてだけでなく、授業のやり方や教室内でのコミュニケーションにおけるジェンダーの問題も明らかにされています(本ブログの記事「小中学校の教材と授業のジェンダー分析」参照)。その後も、王宏維「小学校の教科書の中の性差別」(2005年)(7)、喬暉「小学国語教材のジェンダー的偏見――フェミニズムの視点から」(2008年)(8)といった論文が新聞や雑誌に掲載されています。

しかし、女子学生たちが(小規模とはいえ)組織的に教育部にこの問題を訴えたのは、今回が初めだと思います。

マスメディアでも、今回の女子学生の行動は報道されました。この問題に対する各方面の意見や、国外(韓国・アメリカなど)では教科書から性差別的内容を削除したことを報じた記事ありました(9)

また、「私は性差別にあった(我遭遇了性别歧视)」という微博(中国版ツイッター)のアカウントは、さまざまな性差別を報じている微博ですが、この微博は、今回の女子学生たちの行動に関連して、@宝儿DIANAさんが、中学2年の『思想道徳』の教科書を批判していることを伝えています(10)

中学2年の『思想道徳』には、「異性と交際するときは、自分を保護することを習得しなければならない」ということを説いた個所があるのですが、そこに、以下のことが書かれていました。

日常生活の中で、女の子はどのようにして自分を守らなければならないだろうか? たとえば、次のようにである。慎重にして、警戒心を失わず、自分の言行・振る舞いをつつしみ、乗ずる隙を与えない。危ない場所を避けて、できるだけ、一人で夜間にへんぴな場所を歩かないようにする。一人だけで、男性と人目につかない場所にいることを避ける。透けた、露出した服装をせず、男性に対して軽薄な言行・振る舞いをしない。男性の誘い(映画、食事、お茶など)には警戒をする。

また、落ち着いて対応し、慌てて、どうしてよいかわからないことにならないようにする。性的侵害を受けたときは、拒絶する態度で(……)必要なときは、大声で叫び、機知を働かせて助けを求めなければならない。


上の記述に対して、@宝儿DIANAさんは、「まさか私たちの社会は、女性だけが教育を受けなければならないというのではあるまい? なぜ同じ年齢の男子生徒に対して、いかにして女性を尊重するかを教えないのか。社会の安全・秩序を維持するのに、女性だけに努力させるのは不十分だ」と批判しています。

この教科書には、以下のような記述もありました。

私たちは(……)性別によって異なる社会の要求に対してどのように適応するのかを学んで、自らの性別意識を増進することよって、男子生徒は男らしくなり、女子生徒は良い娘に成長することができる。


@宝儿DIANAさんは、上の「性別によって異なる社会の要求に対してどのように適応するのかを学ぶ」という個所について、「勉強している女の子が世俗の侵害を受ける」ことになることを懸念しています。

また、今回の建議の手紙は教科書の内容が中心だったようですが、今回の建議を出した女子大学生たちは、教師に対する批判も語っています。いま南方医科大学で臨床医学専攻している李南さん(仮名)は、理科の教科書の中で紹介されていた科学者の大多数は男だったうえに、教師が「女子生徒はたとえ成績がよくても、科学者にはなれない」と言ったことを批判しています(11)。また、李さんという女性は、ある数学の教師が「女子生徒にはあまり高い学歴は必要ではなく、30歳になる前に結婚することが一番重要だ」と言ったことにより、何人もの女子生徒が勉強をする自信をなくしたと語りました(12)

このように女子学生自身が声を上げるようになってきたことが、現在の特徴だと思います。

(1)以上は、「九名女大学生向教育部长邮寄面包和玫瑰」Redio Free Asia2014年3月7日、女权行动派很好吃的微博3月7日 16:03、「9女生给教育部长"送礼" 呼吁教科书编写注重性别平等」『羊城晚报』2014年3月8日、「教科书不爱巾帼只爱须眉?」『信息时报』2014年3月12日。Redio Free Asiaと『羊城晚报』は、教育部に手紙を送った女子学生を「9人」と記述しているが、『信息时报』は「10人」と記述している。
(2)以上は、「9女生给教育部长"送礼" 呼吁教科书编写注重性别平等」『羊城晚报』2014年3月8日。
(3)以上は、同上および「九名女大学生向教育部长邮寄面包和玫瑰」Redio Free Asia2014年3月7日。
(4)女权行动派很好吃的微博3月7日 16:03以外の、(1)の文献にはすべて記述されている。
(5)北京外語学院婦女学研討会(謝致紅執筆)「男人该做什么 女人该做什么――析传统性别角色在小学语文插图中的渗透」『中国妇女报』1992年1月3日。
(6)卜卫「女孩子读一读,男孩子想一想?」、赵萍「教材中的性别文化透析」(いずれも『中国妇女报』2001年8月14日)。
(7)王宏维「小学课本中的性别歧视」『南方日报』2005年3月3日→王宏维「时评:男尊女卑处处可见 小学课本中的性别歧视」新浪教育2005年3月3日。
(8)乔晖「小学语文教材的性别偏见——―从女性主义视角出发」『教育学术月刊』2008年7期→乔晖「小学语文教材的性别偏见—— 从女性主义视角出发」麓山楓2009年4月23日。
(9)9女生给教育部长"送礼" 呼吁教科书编写注重性别平等」『羊城晚报』2014年3月8日。
(10)我遭遇了性别歧视的微博【教材也在传播性别歧视观念?】2014年3月21日 15:40
(11)9女生给教育部长"送礼" 呼吁教科书编写注重性别平等」『羊城晚报』2014年3月8日。
(12)九名女大学生向教育部长邮寄面包和玫瑰」Redio Free Asia2014年3月7日。

大学入試における男女差別の現状とそれに対する批判・抗議

昨年夏以来、本ブログでは、一部の大学の一部専攻が、大学入試において男女別に採用人数を決めて、女子学生の合格ラインを男子学生よりも高くするという男女差別をおこなってきたことが明るみに出たこと、教育部もそうした男女別採用を「国家の利益」などの名の下に擁護したために、女子大学生らが坊主頭になって抗議するなど、さまざまな抗議活動がおこなわれてきたこと、それによって「小語種(英語以外の外国語)」専攻の男女差別は大幅に改善されたけれども、まだ問題が残っていることをお伝えしてきました(本ブログの記事「一部大学・専攻の入試合格ラインの男女差別に対する批判高まる」、「大学入試の男女差別に対する抗議活動つづく――差別を正当化する教育部を批判して、坊主頭になるパフォーマンスアートも」、「教育部、大学入試の男女差別について、外国語専攻などの専攻名を挙げつつ正当化――女性団体はすぐ反論」、「大学入試の外国語専攻の合格ラインの男女差別は撤廃、残る警察・航海専攻などの差別に女性たちが抗議」参照)。

その件に関して、今年8月15日、NGOの「女性メディアウォッチネットワーク」は、大学入試における男女差別の現状とそれに対する批判を述べた詳細な報告書を発表しました。さらに、新しい年度の講義が始まった9月1日には、昨年坊主頭になって教育部に抗議した5人の若い女性が、教育部が出した規定にさえ反して男女差別をしている大学を教育部に通報しました。同日、11人の女性弁護士は、大学を監督すべき教育部に対して、それらの大学の差別を是正するように求めました。今回は、そうした動きについてご紹介いたします。

一、「2013年『211』プロジェクト大学学生募集性差別報告」

8月15日、「女性メディアウォッチネットワーク(妇女传媒监测网络)」という女性の権利のため活動をしている民間団体が、「女子学生に平等を返せ――2013年『211』プロジェクト大学学生募集性差別報告(还女生平等――2013年“211”工程学校招生性别歧视报告[女声网2013年8月15日])」という報告を発表しました。このネットワークは、昨年来、大学入試の性差別を撤廃させるために、先頭に立ってさまざまな活動をしてきた団体です。

なお、この報告書の末尾にある教育部に対する建議の手紙は、昨年教育部の性差別に対して抗議の意思を示すために率先して坊主頭になった呂頻、李婷婷[=李麦子]、鄢溢夢、小鉄(仮名)、熊婧、肖月[=肖美麗、肖美腻]、梁暁雯[=梁小門]の7人の連名です。

以下、この報告の要旨をご紹介します(文中の中国語の新聞記事などは、原文にはリンクの形で示されているものです)。

一、背景の情報

(この章の内容については、すでに上記の本ブログの諸記事にも詳しく書いていますので、簡単要旨だけを紹介します)

1、2005:性差別が初めて明らかになり、教育部が許可をする規則を設けた

2005年、メディアが、北京大学の小語種(=英語以外の外国語)専攻が長い間、女子学生の合格ラインを引き上げる「隠れたルール」を設けていたことを明らかにし、世間を騒がせた。同年、教育部は、「大学は教育部の許可なく、勝手に男女の採用比率を規定してはならない」という通知を出した。

しかし、このことは、大学が学生募集で男女の比率を決めて、女子学生を制限するというやり方が食い止められたことを意味しなかった。逆に隠れたルールが、教育部の許可を得ることをつうじて、合法化されたのだった。

しかし、そのことについては、それらの専攻の受験生や保護者は知っていたが、大多数の人々はよく知らなかった。

2、2012:繰上げ採用の性別による点数の差が抗議を巻き起こした

2012年7月、メディアが、一部の大学が、繰上げ採用(*)において、男女の比率を決め、それによって女子の合格ラインを男子の合格ラインよりも高くしているという差別を報道した(「高校招生提前批投档线出炉 北大小语种文科又夺魁 香港中大理科再居首 提前批“女高男低”有高校男女生相差40多分」『南方都市报』2012年7月8日など)。(*)繰り上げ採用(提前录取)……少数の大学と専攻がその年の大学入試が終わった後、大規模な学生募集の前に受験生を前もって採用すること。軍事など、特定の専攻に多い。

3、教育部が「国家利益」と「特殊な職業」を説明したが、多くの人は納得しなかった

7月、女性メディアウォッチネットワーク代表の呂頻と弁護士の黄溢智が、それぞれ教育部に対して、「2012年の大学入試の学生募集で、教育部は、どの大学のどの専攻に男女の採用の比率を制限してもいいと許可したのか? その根拠は何か?」という点について情報公開を申請した。8月下旬、2人は、それぞれ、教育部から「国家の利益を考慮して、一部の特殊な職業またはポストの特殊な専門人材の養成については、特定の手続きをへて、少数の学校の一部の専攻は、男女の学生募集の比率を適当に調整することができる」という回答を受け取った。

それに対して、8月30日、4名の若い女性が広州で坊主頭になって、教育部に抗議した(坊主頭は「教育部の回答はゼロに等しい」という意味)。翌日には、3名のNGO関係者が北京で坊主頭になって抗議し、他の人々もそれに続いた。

その後も、この問題について、さまざまな活動がおこなわれた。
 ・北京衆沢女性法律相談サービスセンター(NGO)が、教育部に対して、「どんな国家利益にもとづいて考慮したのか」、「『少数の学校の一部の専攻』とはどの学校のどの専攻なのか」という点について情報公開申請をした(「2012年10月16日」北京众泽妇女法律中心的博客2012年10月16日)。
 ・李麦子が、「教育部はどの大学のどの専攻を、性別のバランスのニーズにもとづいて、男子学生の合格ラインを上げて、女子学生の採用比率を増やして、男子学生が多い専攻の中で、女性が教育を受ける機会を保障したのか」という情報公開申請をした(「“光头姐”再问:哪些专业可限招男生?」『羊城晩報』2012年10月19日)。
 ・北京衆沢女性法律相談サービスセンターが、教育部に法律的意見書を出した(「众泽妇女法律咨询中心致教育部意见书」网易女人2012年9月2日)。
 ・大学入試性差別弁護団を組織して、性別が原因で教育の機会を失った女子学生に法律的援助を提供するという声明を出した(「高考性别歧视女律师团得到12省20律师加盟」新浪教育2012年8月9日[来源:法制网])。
 ・国内8大学の法学院の10名の女子大学生が、全国人民代表大会の代表と全国政治協商会議の委員に手紙を出して、男女の合格ラインの差別をなくすよう訴えた(「多位全国人大代表吁关注高考录取性别歧视」搜狐新闻2013年3月9日[来源:南方都市报、原标题「同一专业录取线 凭什么女生比男生高几十分」)(1)
 ・6人の大学生らが、広州市の学生募集試験委員会の前で、公然と「サツマイモを売って」性別による合格ラインの区別の撤廃を訴えた(「大学生“烤番薯”抗议招生歧视 6人到市招考办门口反对高考录取男女有别」『南方都市报』2013年3月1日)(2)

4、2013:教育部が政策を改め、性別を制限する範囲を縮小した

2012年10月15日、教育部は、北京衆沢女性法律相談サービスセンターに回答をし、以下の3つの類型では、大学が男女の学生募集の比率を決めることが許されるとした。
 1.特定の職業上の必要と密接に関連しており、かつ職業に男女の比率に対して要求がある専攻、たとえば軍事、国防、公共安全(≒警察)などの専攻
 2.女性を保護する視点から、適当に女性の出願を制限する、たとえば航海・採鉱などの専攻
 3.一部の専門の、教育のリソースに限りがあって募集する学生の数に限りがあり、かつ社会的ニーズに一定の性別のバランスがある専攻、もし男女の比率を制限しなければ、重大な男女の比率のアンバランスが生じる可能性があって、実質的に教育の効果と社会の利益に影響して、国家の関係部門のニーズにも影響があるものがある専攻、たとえば、一部のあまねく通用しない言語の種類[=「小語種(英語以外の外国語)」]、アナウンス・司会[播音主持]専攻など

2013年5月、教育部は「2013年普通大学学生募集工作規定(2013年普通高等学校招生工作规定)」を出して、その中で「軍事・国防・公共安全などの一部の大学(専攻)以外では、大学は男女の採用比率を規定してはならない」と規定した。

2013年7月初め、メディアが、北京語言大学・人民大学・北京外国語大学が小語種の学生募集の性別の比率を取り消し、男子学生の採用人数が減少したと報じた。

二 報告の説明

・2013年、大学の学生募集のジェンダー平等の状況はもう楽観できるのか? これが、本報告が証拠を挙げて回答しようとする第一の問題である。

・もし性差別を徹底的になくしたいなら、教育部と各大学は何をするべきか?  大学入試の性別政策に対する全面的検討によって、この第二の問題に回答する。

1、統計の範囲は、2013年の「211」大学の本科生の学生募集に限定している

「211プロジェクト」大学(1995年に教育部が、21世紀に向けて重点的に投資すると決めた約100大学のこと。現在112大学ある。wikipediaによる説明[中国語日本語])の中国の大学における地位にかんがみ、この報告は、その112大学の2013年の本科生の学生募集政策・募集計画だけを統計的に分析した。

2、情報源はみな公開されているインターネットである

この報告の情報源は、教育部が指定した、大学の学生募集情報発表の場である「陽光高考網」や各大学の公式サイト、マスコミ報道などである。

3、三つの面の内容

・「211」プロジェクト大学の大学入試の性差別の現状の総括的記述と分析
・教育部と各大学の学生募集の性別政策の合法性の分析
・大学入試の性差別の現実を分類、是正するための現実に即した提案

三、「211」および「985」大学の本科の学生募集計画の性別の制限の統計

112校の「211」大学のうち、性別の制限をしていないのは31校であり、総数の約28%である。そのうち「985」大学(教育部が1998年5月に定めた、「211」の中でもさらに重点的に投資する大学で、39校ある。wikipediaによる説明[中国語日本語])では8校であり、総数の約21%である。

すなわち、性別の制限が存在する「211」大学は81校で、総数の約72%を占めており、性別の制限が存在する「985」大学は31校であり、総数の約79%を占めている

それらの学校の制限の状況は以下のとおりである。

きつい職業類(艰苦行业类)
・航海類――大連海事大学、武漢理工大学→「女子学生は募集しない」
・飛行技術――北京航空航天大学、南京航空航天大学→「男子学生のみ募集」
・採鉱――吉林大学、中国鉱業大学→「男子学生が適している」、太原理工大学、貴州大学(定向生[卒業後の進路が定められた学生])→「男子学生のみ募集」
・地質とトンネル工程――長安大学→「女子学生は出願を慎むようすすめる」
・地下資源探査、測量、地質――青海大学→「女子学生は10%を超えない」

軍事類→「女子学生は10%を超えない」。一部の大学は女子学生を募集していない。
・軍事大学――国防科学技術大学、第四軍医大学、第二軍医大学
・国防生[大学教育と同時に軍事教育・軍事訓練を受ける。将来は軍隊の幹部になれる]――北京大学、清華大学、北京理工大学、中国政法大学、河北工業大学、内蒙古大学、大連理工大学、東北大学、吉林大学、ハルピン工程大学、華東理工大学、南京大学、南京理工大学、河海大学、安徽大学、合肥工業大学、山東大学、武漢大学、中南財経政法大学、中南大学、中山大学、華南理工大学、四川大学、西南交通大学、西南財経大学、雲南大学、中国人民大学、北京交通大学、北京航空航天大学、北京科技大学、北京林業大学、天津大学、太原理工大学、遼寧大学、ハルピン工業大学、復旦大学、上海交通大学、南京航空航天大学、浙江大学、中国科学技術大学、南昌大学、中国海洋大学、華中科技大学、武漢理工大学、湖南大学、湖南師範大学、広西大学、重慶大学、電子科技大学、西南大学、貴州大学、西北大学、西北工業大学、長安大学、新疆大学、西安交通大学、西安電子科技大学、蘭州大学、寧夏大学、石河子大学、中国石油大学、中国地質大学
・公安類――中国政法大学、中南財経政法大学→「女子学生の比率は15%を超えない」

芸術類
・その他――内蒙古大学→芸術類の一部の専攻は男女に分けて学生募集
・ダンス――四川大学、延辺大学、西藏大学、武漢大学→男女に分けて学生募集
・演技――中国メディア大学、四川大学→男女の学生は別々に順番をつけて、採用比率を1∶1にする。
・アナウンス・司会――中国メディア大学、東北師範大学、華東師範大学→男女の学生は別々に順番をつけて、採用比率を1∶1にする。西藏大学→男女に分けて学生を採用する。
・ファッションショー実演――海南大学、江南大学→女子学生のみ募集
・演劇・映画・テレビ監督(演出家)――中国メディア大学→男女の学生は別々に順番をつけて、採用比率を1∶1にする。
・声楽――中央音楽学院、四川大学、鄭州大学→男女を1:1の比率で別々に募集する

外国語類
・小語種――北京外国语大学→繰上げ募集の一部の専攻は男女に分けて学生を募集

体育類
・ハイレベルのスポーツ選手――新疆大学→「国防性とハイレベルのスポーツ選手以外の専攻は、原則的に男女の比率を制限しない」とある
・その他――雲南大学→男女に分けて学生を募集

看護――天津医科大学、山東大学、北京中医薬大学、湖南師範大学、青海大学→男子学生を制限(女子学生のみ、志願している男子学生のみ、一部の省の第一志望の男子学生のみ)、吉林大学→「女子学生が適している」、華中科技大学→「女子学生の出願をすすめる」

その他
・電子科学と技術――遼寧大学→四川では「男子学生のみ募集」

以上の統計から、以下のことがわかる。

●大学が性別を制限する現象は広範に存在しており、多種多様である。

●性別の制限は、基本的には、教育部が昨年説明した3種類にまとめられる。・国家安全類(軍事・警察・国防)65大学、特殊なニーズ類(芸術・体育・小語種・看護)24大学、きつい職業類(航海・飛行・採鉱・地質)10大学。その他1大学。

●きつい職業類の女子学生排除が最も強く、次が国家安全類である。ファッションショーの実演を除く芸術類の専攻は男女を1:1で募集している。男子学生に対する制限は、看護とファッションショー実演に集中している。

●学生募集の人数から言えば、国家安全類の学生募集の規模は、他の2種類よりはるかに上回っており、関係している大学の数も最も多い。

●教育部の「2013年普通大学学生募集工作規定」によれば、「軍事・国防・公共安全などの一部の特殊な大学(専攻)を除いて、大学は男女の学生の採用比率を規定してはならない」。この規定によれば、34の「211」大学が直接規定に違反している。

●しかし、その中の大多数の大学の学生募集規則と学生募集計画は「陽光高考網」で発表されており、教育部が認可していることを示している。それゆえ、教育部は監督不行き届きという責任がある。

●また、一部で性別の制限をなくしたと報道されている大学にも、実際は依然としてこうした現象がある。すなわち、北京外国語大学のアラビア語・ペルシャ語・インドネシア語専攻の学生募集がそれである。

しかしながら、教育部の同意を得ているか否かや「2013年普通大学学生募集工作規定」に符合しているか否かに関係なく、この81カ所の「211」大学の学生募集の性別の制限が差別であるか否かは、差別撤廃のための国際条約や国家の法律にもとづいてのみ判断できるのであり、教育部の規定自体も、法律的な検証をする必要がある。

四、「211」大学の本科の学生募集の性差別の分析

「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の第1条は、「女性に対する差別」という言葉は、「性に基づく区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、女性(婚姻をしているかいないかを問わない)が男女の平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする効果又は目的を有するもの」を指している。

同条約の精神にもとづけば、性差別には三つの要素がある。第一に性別にもとづいていること、第二に、区別して扱っていること、第三に、不利な結果である。

性差別に反対することは、合理的および必要な取り扱いの区別を拒否することを意味しない。しかし、教育領域における合理的および必要な取り扱いの区別については、必ず具体的に、教学、学習、未来の就業の内在的要求と性別とが関係があるかを考察しなければならない。

1、きつい職業に関連した専攻の「善意の保護」? 根拠はなく、実は差別

きつい職業と関連した専攻には、航海・飛行・地質・採鉱などの専攻が含まれる。これらの専攻が女子学生の募集を制限することは、就職する仕事がきつくて、女性には適さないと考えられていることと直接的な関係がある。

まず、航海・飛行・地質は、「女性労働者保護特別規定」の中の女性労働者の禁忌労働保護の範囲に入っていない。これらの領域で、「保護」の名の下に女性の就業を制限することは、実際には女性の就業の機会を剥奪することになる。

たとえば、船員は伝統的に男性の就業領域であり、統計によると、全世界の船員の中で女性が占める割合は2%しかない。しかし、ある研究(赵碧倩「性别视角下我国高考招生政策分析之保护性政策:航海类专业」2013年7月4日[来源: 妇女观察网])は、中国では、早くも前世紀の50年代に最初の世代の女性船員が出現しており、「改革開放」以後になってはじめて海運業に従事することに対する制限が設けられ始め、「船員訓練システムの性別の制限がしだいに確立してきた」ことを指摘している(この趙碧倩論文については本ブログの記事「大学入試の外国語専攻の合格ラインの男女差別は撤廃、残る警察・航海専攻などの差別に女性たちが抗議」の中で詳しく紹介しています)。しかし、今に至るまで、公表されている航海の就業政策は依然として女性を受け入れている。

国際海事機関[国際連合の専門機関の一つ]が今年4月に発表したある情報には、「海運は古来ずっと男性が仕事をするのに適した職業であるというイメージが世間の人に深く刻まれてきた。しかし、女性が海運に参与するグローバルな計画の実施を通じて、国際海事組織は水上運輸業が伝統から離脱して、女性が海運業の中できちんとした地位を築くことを全力で援助している」(3)とある。

2001年から、上海海事大学は、航海技術専攻が上海・江蘇・浙江の3地で、一部に女性を採用するように規定している。

次に、女性の坑内労働を禁止することは、女性が鉱業の企業で働くことを禁止することや女性が採鉱専攻で学ぶことを禁止することと同じではない。「女性労働者保護特別規定(女职工劳动保护特别规定)」は、女性は「鉱山の坑内作業」に従事してはならないと規定しており、これは女性に対する保護措置である。しかし、採鉱を専攻することは、卒業後、必然的に坑内作業をすることを意味しない。鉱業の企業には女性が従事することができる坑外のポストがたくさんあり、ある石炭企業では、女性労働者の人数が総数の36%前後を占めている。

さらに、航海と採鉱という業界では、今に至るまで依然として普遍的にタブーが存在しており、女性が船に乗ったり坑内に入ったりすることは不吉だと考えているが、これらは、業界が一掃すべき迷信である。

最後に、けっしてすべての、きつい職業と関連した専攻が女子学生を制限しているのではない。たとえば、中国地質大学や中国石油大学は性別の制限をしていない。このことも、ある面から、女子学生の採用を制限することが不合理であることを示している。

空軍にはずっと女性の非戦闘機のパイロットがおり、近年は女性も戦闘機を操縦し始めた。空軍に女性パイロットが存在していることは、民間航空のパイロットが女性に門戸を閉ざす必要があるのかどうかを考えさせる。

以上、きつい職業と関連した専攻が女子学生の募集を制限していることについての本報告の観点は、以下のものである。

●多くのきつい仕事は、法律が規定した女性の禁忌労働の範囲ではないので、女性が従事するのが不適当だという理由で女性が専攻することを禁止する法律的根拠はない。

●あるいくらかの作業のポストが禁忌労働の範囲であることは、女性が関連する専攻に進学することを全面的に禁止することが合理的であることと同じではない。

●大学は、関係する業界がタブーや迷信によって女性を排斥していることを制止すべきである。

●けっして、きつい職業と関係する専攻を設けている大学のすべてが女子学生の募集を制限しているわけでないことは、まさに募集の制限が不必要であることを示している。

●空軍の女性パイロットの存在も、民間航空の飛行専攻が女性を募集していないことが必ずしも合理的ではないことを説明している。

2、国家の安全と関連した専攻は「国家の利益」? 女性も任に堪える

軍事大学と国防生が女子学生を制限したり、軍隊と関連する職種が女性を制限したりすることに、法律的根拠はあるのだろうか?

「中華人民共和国兵役法」・「中華人民共和国国防法」には、女性が兵役に服することや国防に参与することについての制限はない。

教育部と総政治部が2002年6月に公布した「普通大学国防生募集暫定規定」には、国防生の募集の際の性別の条件は書かれていない。

2008年6月に下達した「軍事大学の普通中学・高校卒業生の募集工作実施細則」第39条は「投档(合格ラインに達した受験生の身上調書を受験先に送付すること)時には、男子学生と女子学生、指揮類と非指揮類の区分をしなければならない」と規定しているけれども、その比率までは述べていない。

2008年1月1日に正式に施行された「中国人民解放軍軍事大学学生募集工作条例」にも性別に関する規定はない。

軍事大学と国防生の学生募集は、指揮専攻と非指揮専攻とに分かれるが、指揮専攻について言えば、一線の戦闘のポストにいる女性はますます増えつつある。非指揮専攻について言えば、その役割は、部隊のために専門的技術者を養成することであるが、その専門の幅は非常に広く、臨床・法学・国際貿易・コンピュータ・外国語……などなどが含まれており、その学習と将来の職責から見て、けっして男性だけが任に堪えるようなものではない。

国家が軍事大学と国防生に手厚い保障を与えているので、多くの学生が出願している。湖北省の解放軍学生募集事務局の責任者は、メディアに対して、「現在、大学卒業生が就職難であるという状況の下では、軍事大学や大学の国防生に出願する利点ははっきりしている。第一に、卒業後、士官になって従軍する夢が実現できる。第二に、軍事大学と普通の大学の国防生はどちらも繰上げ採用なので、もし何らかの原因で採用されなくても、第1回の本科とその後の志望の採用に影響しないので、採用の機会が1回多いのとほぼ同じことである」と述べている(「湖北省今年招1023名军校国防生 不招文科女」捜狐教育2013年5月31日[来源:汉网-武汉晚报])。女子学生の数を制限することは、採用・学習・就職という段階における利益を男性のほうに多く保障していることを意味している。

要するに、教育部の政策は募集制限を明確に許可しているけれども、軍事大学と国防生が女子学生の募集を制限していることはやはり差別的である。

●法律や政策の根拠がない。

●軍隊が女性に門戸を開いているという発展の趨勢に合致しない。

●軍隊に関連する職務、とくに専門技術の職務はけっして男性だけが任に堪えるのではない。

●採用・学習・就職の段階の各種の保障が男性に偏向しており、直接的な利益の不公平を作り出している。

中国政法大学・中南財経政法大学の公安類専攻は、明確に女子学生が15%を超えないことを規定している。教育部の大学学生局と司法部の法規教育局が2003年3月11日に公布した「中国政法大学・西南政法大学・中南財経政法大学・華東政法学院・西北政法学院・中央司法警察学院繰上げ採用専攻学生募集規則」の中で、前5カ所の大学の捜査学・治安学・国境警備管理・刑事科学技術専攻と中央司法警察学院の各専攻の繰上げ採用時には、「6大学の繰上げ採用の専攻で採用する女子学生の比率は、各校とも学生募集の15%以下とする」と規定している。それゆえ、中国政法大学・中南財経政法大学の公安類専攻の性別の制限は教育部の政策に合致している。

しかし、軍事大学や国防生の場合と同様、公安専攻が女子学生を制限することは、十分な根拠が欠けている。ジェンダー問題の専門家の栄維毅は「公安大学の女子学生の比率についての問題のジェンダー視点からの討論(「扩大公安院校招生女生比例问题讨论」荣维毅的博客2013年6月7日)という一文において、2011年の中国の女性警察官の比率は13.7%だけであり、女性警察官が少なすぎるのは「観念・体制・警察文化の中に普遍的に存在する性差別」によって引き起こされたのであり、また、こうした業界の状況が、関連する専攻の女子学生に対する制限を決定していると指摘している。

もし公安専攻が女子学生の募集を制限することが合理的かどうかを確めようとするなら、いわゆる警察業務の中の「国家利益」と「職業的要求」をはっきりさせなければならない。栄維毅は、もっと客観的に女性警察官の資質・働き・能力を評価しなければならないと述べる。「女性警察官が各種の犯罪を取り締まり、社会の治安と世界の平和を維持する働きは国家利益に合致している。現在中国でさまざまな社会矛盾が激化し、社会的安定を維持するニーズが増大しているという条件の下では、もっと多くの女性警察官が必要である。現在頻発している女性と女児に対する性暴力も、もっと多くの女性警察官を必要としている。……何が真の『職業的要求』なのかは、どのような観念、どのような立場を基準にするかによりけりである。伝統的性別規範と職業の性別分離を固守するならば、当然、女性は、警察官の職業的要求に合致しないということになる。もし女性が能力を持っていることを承認し、就業機会の平等を承認するならば、警察官という職業には、女性を排除すべきだという『職業的要求』は存在しない。また、女性警察官は配慮が必要だから警察機構に負担になったり、資源を浪費したりするのだろうか? もし伝統的性別規範とステロタイプな印象を放棄するならば、女性警察官は警察によって正当に処遇され、用いられるであろう。」

また、栄維毅は、伝統的な男性的警察文化を変えなければならないと言う。「警察官という職業は、従来男性が主体になって、公共の暴力によって犯罪を取り締まることを主な内容としており、それによって形成された伝統的警察文化の特徴は、ジェンダー観念においては、男を至上として、女性を差別し、被害女性を信じないものだった。また、警察官のイメージを構築する際には、『男らしさ』を崇め尊んだ。また、法律執行の理念においては、重大事件を重視し、逮捕を重視して、サービスを軽視した。警察業務の仕事と手法においては、攻撃性が強く、ジェンダーと関係がある事件を処理するときには、被害者に二次被害を与えやすい、などなど。以上はすべて、警察官の職責である人権の保障と犯罪行為の防止を実現する上で不利である。」

栄維毅の論述は、「国家の利益」を理由として女子学生が公安専攻に進学することを制限することは、不合理であるだけでなく、有害であることを示している。すなわち――

●女性の資質と能力は、完全に公安の仕事の任に堪えるし、男性ができない働きもする。

●特定の類型の事件は、もっと多くの女性警察官が扱うことが必要である。

●公安という職業において男性が優勢であること自体が、人権の全面的保障にとって不利である。

3、「性別のバランス」は必要か? 専攻と職業の内在的ニーズを見る

17カ所の「211」大学は、芸術・体育(高いレベルのスポーツ選手)、小語種専攻の学生募集において性別を制限している。これらの専攻は「社会的ニーズに一定の性別のバランスの要求がある専攻」に分類できる。男女の学生の比率は一般に1:1である。

これらの専攻とドッキングしている職業のニーズは、性別のバランスが必要なのだろうか? 実際はけっして必ずしもそうではない。たとえば、アナウンサーや司会者は必ずしも1人の男と1人の女がコンビになる必要はないし、同じドラマの俳優も、男女が半々でなくともよい。監督の協力?[协作]は、もっと性別とは無関係である。「社会」が「性別のバランス」を必要としているということでは、これらの専攻の性別の比率は十分には説明できない。

しかし、その一方、スポーツ、ファッションショーの実演、ダンス、演技専攻の学習においては、たしかに男女がコンビになる、あるいは男女が別々にやるというニーズがある。スポーツ、ファッションショーの実演は、一般に男女別々に仕事をする。

これらの性別の分化のニーズが合理的で必要かどうかは、慎重にもっと考察する必要があるため、この報告では結論を出さなかったので、性差別だとはしていない。

しかし、私たちの相談の中で、ある受験生と教師が、男女比を1:1にして学生募集をしているダンス・声楽・演技専攻では、女子学生の成績の方が良いので、男子学生に対する要求を下げているという現象を指摘した。また、他のいささかの国の演技専攻の学生募集は、性別の比率を決めていない。

ただし、芸術専攻の中のアナウンス・司会、監督(演出家)専攻の性別の制限は性差別であり、これらの専攻の女子学生の合格ラインは、男子学生よりもどこでも高い。

●スポーツ、ファッションショー実演、ダンス、演技専攻の中の性別の制限が性差別になるのか否かについては、なおいっそうの考察が必要である。

●アナウンス・司会、監督(演出家)、小語種専攻の性別の制限は、差別である。

4、看護専攻が男子学生を制限していることも、差別である

看護職に従事しているのは女性が主であることは、ケアを女性の責任/能力だと見なす伝統的性別規範を反映している。しかし、情況はいま変わりつつあり、実践は、男性も看護職に従事できるし、歓迎もされている(「男护士有望成为中国职场“香饽饽”」『中国妇女报』2013年5月13日)ことを証明している。

多くの「211」大学の看護専攻の学生募集が性別を制限していないことも、この専攻に性別の制限をする必要がないことを証明している。

五、「211」および「985」大学の本科の学生募集計画の性差別の統計

(略)

六、その他の重視すべき問題

性別の比率を制限するという直接的で顕著な差別以外にも、「211」大学の2013年の本科の学生募集の中には、重視すべき差別の問題が存在する。

1、「男子学生の出願を勧めた」後

(略)

2、性別に関連した差別

直接性別を制限してはいないが、性別と関連する差別的規定をしている場合も、性差別になる。

たとえば「北京体育大学2013年本科学生募集規則」には「5 スポーツ人体科学、スポーツリハビリテーション、応用心理学、ニュース学、広告学、英語、公共事業管理、スポーツ経済・管理専攻の身長の条件は、男子学生は1m68cm未満であってはならず、女子学生は1m 55cm未満であってはならない」とある。「西南交通大学2013年普通大学入試学生募集規則」には「外国語類専攻の受験生は、どもりでないことが条件であり、同等の条件の下では、外観や気質が優れている受験生を優先する。障害者や身長が低い受験生は慎重に考えることを勧める」とある。

3、投档後のブラックボックスの中の違法行為

大学の学生募集には一定の投档比率(一般的には120%、高ければ140%、低ければ105%)があり、その後の採用の際に、女子学生比率を抑制する「ブラックボックスの中での操作」が存在する。『新民週刊』は、かつて上海社会科学院研究員の徐安琪が以下のような発見をしたことを報じている。

「多くの女子学生の試験の点数が高い専攻(主に文科)では、男子学生に入学基準を低める優待をおこなっている。すなわち、120%(最高で140%)の投档範囲内の男子学生は、たとえ点数が比較的低くても優先的に採用する。いささかの大学は、女子学生の比率が50%以上ならジェンダー平等に到達したと思ったり(しかし、実際は、その専攻の女子学生の60-90%は、試験の点数が男子学生よりも高い)、女性は本を丸暗記するだけで、創造的な思考ができないとか、入学後の頑張りが足りないとか、卒業しても就職難だとかいうことを口実にしたり、はなはだしきは学生寮のトイレなどの設備が足りないから女子学生をもう入居させられない、などさまざまな理由を付けて、女子学生を制限したり募集を少なくしたりする。……『男に恩恵を与えて、女を抑える』、これがこの業界の人々の多くが知っている『道理に合った』隠れたルールであり、公衆には監督されていない教育上の不公正である客観的事実である」(「男孩危机是个伪命题」新民周刊2012年1月2日)。

4、工科大学での同等の条件下での女子学生優先

「211」学校の中には見られなかったけれども、あるメディアは、広東工業大学の学長が「現在広東工業大学の男女の比率は7:3だが、われわれは女子学生が工科専攻を受験するよう励ますために、同等の条件下では、女子学生を優先的に採用したい」と述べたと報じている。

工科大学と工科専攻は、どこでも男子学生数の方が多いけれども、成績から見ると女子学生はけっして男子学生に劣っていない。たとえば、電子科技大学の入試事務局の責任者は、2013年の大学入試のインタビューで、同大学の女子学生の比率は25%だが、奨学金の獲得人数は30%近いと答えていた(「[权威访谈]电子科技大学招办主任解读2013高招政策」新华教育2013年5月8日)。すなわち、成績から見ると、けっして女子学生を優待する必要はない。

それゆえ、女子学生を優先して採用する理由は何であるかを明確にする必要がある。女性の発展を促進するためなのか? それとも「性別構造を改善する」ためなのか? もし前者であれば「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の中で規定されている「暫定的特別措置」であり、実質的な平等を達成するために採る臨時の対応策だということになる。もし後者であれば、小語種専攻が男子学生を優待するのと同様に、大学が人為的措置をとることによって学生の性別の比率を維持する必要や権力があるのかどうかを議論したり、考えたりしなければならない。

教育領域における性別隔離は真剣に対処する必要があるけれども、一つの性別を優先的に採用するのは重大な政策なので、真剣な論証・公開・監督を経る必要がある。

七、建議と結論

この報告は、「211」大学の2013年の本科の学生募集政策と学生募集計画しか分析していない。以下の理由により、この報告は、中国の大学の性別の制限と性差別の全貌をまだまだ反映できていない。

・学生募集政策には公には示されていないものもある可能性があるので、「211」大学には、この報告が収集できていない性別の制限と性差別がある可能性もある。
・この報告は211大学の普通全日制本科の学生募集をついてのみであり、それらの大学の専科[短期高等教育]、高等職業学校、専昇本[専科から本科への進学]、自主募集、少数民族予科クラスなど、その他の類型に中に、さらに多くの性別の制限や性差別が存在している可能性もある。
・さらに多くの大学の学生募集の性別の制限と性差別については、私たちはいま全面的に追跡する能力がまだない。

大学の性差別に対する私たちの基本的観点は、以下のとおりである。

●大学と教育の主管部門には、教育の差別を制止する責任がある。また、教育を受けることは特定の専門の就職と必然的にリンクするものではなく、就職差別が教育差別につながることには反対であり、就職の困難が学生の教育機会を制限することに反対する。

●保護の名目で女性の教育を受ける権利と就業権を制限することに反対する。法律が規定している女性禁忌労働範囲はどの専門の学校教育とも直接的な対応関係はないのであり、きつい職業と関連する専攻も女子学生に開放するべきである。

●伝統的性別規範の就職と教育に対する不合理な影響を反省して、時代の変化に従って、学生募集の中の、内在的必要がない性別のバランスの設定と一方の性別の制限(たとえば芸術類専攻や看護専攻)を一掃するべきである。

●一部の就学と就業の待遇が良い専攻(たとえば国防生や飛行技術)の性別の制限は、とくに警戒するべきである。

2013年7月14日、教育部に対する公開書簡の中で、7名のかつて大学の性差別に抗議した「光頭姐(坊主頭の若い女性)」が、以下の建議をした。

●「女性に対するあらゆる形態の差別撤廃条約」・「婦女権益保障法」・「教育法」などの条約・法律の中の関連規定に照らして、軍事・国防・公共安全関係の大学や専攻が性別の比率を設け続けることの合法性を検討し、社会公衆に対して十分で丁寧な説明をし、「特殊」という2文字だけで曖昧に済ませないこと。もし現在それらの大学の専攻で性別の比率を設ける合法的な根拠がないことがわかったら、きっぱりと取り消すこと。

●各大学の軍事・国防・公共安全の以外の専攻の学生募集で、勝手に性別の比率を決めている違法行為の監察をし、直ちに取り消すようにきちんと促すこと。

●大学入試の性差別問題について、NGOや法律界の人々、広範な大学生・保護者と対話して、公衆の意見や専門的な反差別の政策設計の提案に対して耳を傾けること。

2012年から2013年にかけて、教育部の学生募集の性別政策には、人々が驚き喜ぶような進歩があったけれども、まだ盲点や特区が残っている。短期間に大学の学生募集の中の性差別を完全になくすことは現実的ではなく、教育部だけで決定できることでさえない。しかし、少なくとも、その過程においては、民間社会の監督や督促がきわめて重要である。この報告は、政策決定者と公衆に、差別は、見慣れていて珍しくないからといって合理化してはならず、政策と法律は差別を裏書きしてはならず、平等原則の検証は例外があってはならないということを訴えるものである。


この報告は、きめ細かな調査と論証をおこなっており、たとえば、小語種についても、完全に差別がなくなったわけではなく、北京外国語大学も、アラビア語・ペルシャ語・インドネシア語については、男女別に採用するとしていることを指摘しています。また、ごく一部の大学とはいえ、身長、吃音、障害、容姿などによる差別を指摘していることも重要でしょう。

ただし、この報告には、軍隊への女性の進出について疑問を示すような視点はありません。もちろんその原因は、この報告のテーマが性差別だからでしょう。しかし、警察に関しては、その男性的文化の問題が指摘されているのに対して、軍隊に関してはそうした視点がないのは、中国では軍隊の体質に対する批判が難しいことを示している可能性もあるように思います。

二、教育部の規定にさえ違反している大学について、若い女性5人(昨年坊主頭で教育部に抗議した女性たち)が教育部に通報、11人の女性弁護士は教育部に情報公開申請

9月、各大学で新しい年度が始まりました。しかし、上記の「2013年『211』プロジェクト大学学生募集性差別報告」で指摘された性差別を、どの大学もなくそうとせず(3)、教育部も見て見ぬふりをしたままでした。

1、教育部の規定にさえ違反している11大学について、昨年坊主頭で教育部に抗議した5人の若い女性が連名で教育部に通報する手紙

そこで、昨年大学入試の男女差別に抗議して坊主頭になった5人の女性が、教育部が5月に出した「2013年普通大学学生募集工作規定」にさえ違反している大学――すなわち、「男女の採用比率を規定してはならない」とされた、「軍事・国防・公共安全[≒警察]などの一部の大学(専攻)以外」の大学で、男女の採用比率を規定している大学を教育部に通報する書簡を出しました。

それらの大学は、大連海事大学、武漢理工大学、北京航空航天大学、南京航空航天大学、中国鉱業大学、太原理工大学、貴州大学、青海大学、中国メディア大学、東北師範大学、華東師範大学の11大学です。

2、女性弁護士11人は、教育部に情報公開申請

また、黄溢智弁護士をはじめとした全国(北京、広東、江蘇、浙江、河南、陝西、黒龍江)の11人の女性弁護士は、教育部に対して、「女子学生を差別するこれらの大学の学生募集規定を承認したのか否か。もしそうならばその根拠を出さなければならない。もしそうでないならば、教育部は相応の処罰をするべきである」という点について情報公開を申請しました(5)

3、教育部の回答――昨年と変わらず、3つの類型の専攻では男女別採用(男女の合格ラインの格差)が許されるとする

9月25日、教育部の責任者は、以下のような回答をしました(6)(以下の1~4のナンバリングは私によるものです)。

1.大学の学生募集の全体的状況から見ると、現在の男女の学生募集の比率は基本的にバランスが取れている。2013年の大学入試では、出願者と合格者に占める女子学生の比率は、それぞれ50.3%と51.9%である。

2.国務院が決定し公布した行政審査・許可項目にもとづけば、教育部には大学の学生募集における男女の比率を審査する権限がない。

3.しかし、教育部は、男女が平等に教育を受ける権利を一貫して非常に重視するとともに、断固として法によって擁護しており、今年出した大学学生募集工作規定の中で、明確に「軍事・国防・公共安全などの一部の大学(専攻)以外では、大学は男女の採用比率を規定してはならない」と規定している。

4.現在、関係する法律に違反しないという原則の下、大学の学生募集で男女の比率を決める、あるいは女子学生の出願を制限することを許している特殊な専攻には主に3種類ある。第一に(……)第二に(……)第三に(……)(というふうに、2012年10月15日の回答とほぼ同じ、3つの類型を答えている)。

以上の回答を分析してみると、まず、上記の1は、女子学生の大学進出を物語る数字ではあっても、情報公開申請の内容とは関係がありません。

2で、教育部には「審査する権限がない」と言っていることは、3や4で「してはならない」とか「許している」とか述べていることと論理的に矛盾しています。しかし、実は、女性弁護士らが教育部に情報公開申請をする以前に、『女声』(女性メディアウォッチネットワーク)の編集部が、「教育部統一監督通報電話」に、教育部が許可した専攻以外の専攻が女子学生の募集を制限していること(具体的には、大連海事大学が女子学生を募集していないこと)ことを通報しているのですが、その際、電話で応対した人は、「教育部のこの通知は、指導的意見である。航海のような仕事は、一般に男性が従事するものであり……」と答えており(7)、この回答と符合しています。つまりたとえこの規定で禁止したとしても、少なくとも教育部の認識においては、それは強制的なものではないということです。

それはともかく、教育部は、3で、軍事関係など以外は男女の採用比率を制限してはならないと言いつつも、4では、相変わらず、3つの類型では男女の採用比率の設定が許されると述べています。つまり、2012年10月15日の教育部の回答は、けっして撤回されたわけではないということです。他の2つの類型については、「軍事・国防・公共安全など」のうちの、「など」に含まれるということなのでしょうか?

ただし、厳密に見ると、今回の教育部の回答で男女比率の制限が許される3番目の類型として挙げられているのは、「アナウンス・司会」と「演技」であり、昨年は「アナウンス・司会」と「小語種」が挙げられていたのとは異なります。この点は、今年は「小語種」については、男女比率の制限が大幅に減少したことと関係があると考えられます。

以上から見ると、教育部は、大学入試における女性差別を維持する大きな政策的枠組みはまったく変えておらず、小手先の運用を変えたにすぎないと言えそうです。

しかし、女性たちの運動が実質的に大きな成果を上げたことには変わりはありません。たとえば、上記の報告書の最初のほうでも触れられていることですが、今年「小語種」の合格ラインを男女平等にした北京外国語大学では、以前は合格者の男女比率が1:1だったのが、今年は1:3になりました。また、北京語言大学では、以前は30人中18人が男子学生だったのが、今年は、34人中(合格者数を増やした)、男子学生は13人だけになりました(8)

その成果の上に立って、残る性差別について詳細な分析をした報告書を作成し、その報告書にもとづく運動を開始したのが現段階だということだと思います。

(1)詳しく述べると、3月1日から、華南理工大学法学院3年生の梁暁雯さんや北京大学法学院の学生である何緑寧さんら、国内8大学の法学院の10名の女子大学生が、200名あまりの全国人民代表大会の代表と全国政治協商会議の委員に対して、教育部が入試で女子学生を差別している大学を調査・処分するように訴えました。北京衆沢女性法律相談サービスセンター・副主任の呂孝権さんも2月26日に、知り合いの5名の全人代の代表や全国政協の委員に同様の訴えをしました。その結果、2、3名の代表や委員が彼女たちの訴えを取り上げた提案などをしました。
(2)他にも、「女大学生当街“烤番薯”追问高考分数线为何“重男轻女”」(新华网广东频道2013年3月2日)という報道があります。また、プレスリリースとして、「不满高考提前批分数女高男低 广州女学生上街卖烤番薯 “分数划线男女不同,番薯面前人人平等”」社会性别与发展在中国2013年2月28日(来源:邮件组)があります。これらの報道によると、このパフォーマンスアートは、以下のようなものだったようです。
 2月28日、広東省入試委員会の前で、中学生の制服を着た女子学生数人が、大学入試の合格ラインの男女差別に抗議して、こんなことなら、教科書を焼いて焼き芋を作った方がましと訴えるパフォーマンスアートをおこなった。
 彼女たちは、「教育部が何もしないのなら、家に帰ってサツマイモを売った方がましだ」、「点数(分数)のラインが男女で異なる。サツマイモ(番薯)の前には誰もが平等だ」(「分数」と「番薯」は、広東語の諧音[=字音が近いこと]です)、「いにしえは焚書坑儒があり、今は(女子学生による)焚書烤番薯[=焼き芋を作る]がある」というプラカードを掲げた。また、彼女たちは、高校の教科書を(パネルに描いた)火の中に投げ捨てるパフォーマンスもした。
 発起人の一人である大学の新入生の郭青さんは、入試の際、合格ラインの男女格差のために、繰上げ採用のチャンスを逃したという(ただし、『南方都市報』の報道では、郭青さんのクラスメイトの一人が国際関係学院に出願したが、614点で、男子学生の合格ラインには達したが、女子学生の合格ラインには14点足りなかったために落第したと書かれている)。
(3)Women in the maritime industry”International Maritime Organization (IMO)のことと思われる。
(4)この9月1日の抗議活動を受けて、大学に取材したメディアもあったのですが、それに対しても、中国メディア大学は「第一に、ここ数年、アナウンサー専攻は女子学生が多すぎるし、第二に、社会ではおしなべて男性アナウンサーに対するニーズが多いので、就職と社会のニーズを考えて、男女を1:1の比率で採用する。来年・再来年の学生募集計画も今年の学生募集要項を基準にする」、華東師範大学は「わが校には性差別の状況はないので、それについてはよくわからない」、武漢理工大学「女子学生は船に乗ったり、海に出たりという環境にけっして適していない」と言って、それぞれ開き直っています(「大学招生男女有别涉嫌性别歧视 女律师申请政府信息公开讨说法」『中国青年报』2013年9月11日)。
(5)以上の1、2に関しては、「女律师申请信息公开“求解释” “光头姐”联合举报高校违规」女声网2013年9月2日(来源: 邮件)、「开学日,5名女生联名向教育部举报――多所高校招生涉嫌性别歧视」『羊城晚报』2013年9月4日、「大学招生男女有别涉嫌性别歧视 女律师申请政府信息公开讨说法」『中国青年报』2013年9月11日。
(6)教育部回应高考歧视质疑:男女招生比例基本均衡」新华网2013年9月26日。
(7)女权之声的微博【举报高招性别歧视 教育部规定是“指导性意见”?】8月27日 21:21
(8)三高校小语种专业分数线划定」『新京报』2013年7月7日。

大学入試の外国語専攻の合格ラインの男女差別は撤廃、残る警察・航海専攻などの差別に女性たちが抗議

中国では、一部の大学の一部の専攻(小語種[=英語以外の外国語専攻]や軍・警察関係、芸術系など)では、女子学生の人数を抑制するために、男女別に合格者数を決めており、そうした専攻では、女性の入試合格ラインが男性より高くなっていました。昨2012年、このような男女差別に対して批判が高まり、弁護士やNGO関係者が教育部に質問状や意見書を出したり、女子大学生らが街頭で抗議活動をしたりしました。とくに8月、広州や北京で、若い女性たちが頭を丸坊主にして教育部(日本で言う文科省)に抗議したことは、大きな反響を呼びました(本ブログの記事「一部大学・専攻の入試合格ラインの男女差別に対する批判高まる」「大学入試の男女差別に対する抗議活動つづく――差別を正当化する教育部を批判して、坊主頭になるパフォーマンスアートも」参照)。

しかし、教育部は、同年10月、以下の3つの類型の専攻では、男女の合格者比率を決めることができると表明しました。

1.特定の職業上の必要と密接に関連しており、かつ職業に男女の比率に対して要求がある専攻、たとえば軍事、国防、公共の安全などの専攻

2.女性を保護する視点から、適当に女性の出願を制限する専攻、たとえば航海・採鉱など

3.一部の専門教育のリソースに限りがあって、学生募集の数に限りがあり、かつ社会的ニーズに一定の性別のバランスがある専攻、もし男女の比率を制限しなければ、重大な男女の比率のアンバランスが生じる可能性があって、実質的に教育の効果と社会の利益に影響して、国家の関係部門のニーズにも影響がある専攻、たとえば、一部のあまねく通用しない言語の種類[=「小語種(英語以外の外国語)」]、播音主持[キャスター、アナウンサーといった仕事のようです]の専攻など。


(この件については、本ブログの記事「教育部、大学入試の男女差別について、外国語専攻などの専攻名を挙げつつ正当化――女性団体はすぐ反論」参照)

教育部政策法規局長「今後は女性に対する制限の縮小も考える」

ただし、2013年1月、教育部政策法規局局長の孫霄兵さんは、新浪微博のインタビューに対して、上記の1~3を繰り返しつつも、「今後教育部は女性の学生募集に対する制限をいっそう縮小することも考える」と述べました(1)

北京の3つの言語系大学が男女の合格者ラインを同一に――「小語種」専攻では、多くの大学も同様に

4月には、北京外国語大学、北京語言大学、北京第二外国語学院が合格者を男女別に決めるのをやめて合格ラインを同一にしました(2)。その結果、北京外国語大学では、以前は合格者の男女比率が1:1だったのが、今年は1:3になりました。また、北京語言大学では、以前は30人中18人が男子学生だったのが、今年は、34人中(合格者数を増やした)、13人だけが男子学生になるといった変化がありました(3)。他にも多くの「小語種」専攻が男女別に合格者を決めるやり方を廃止したようです。

教育部:「軍事・国防と公共安全など一部の特殊な学院・大学以外は、大学は男女の採用の比率を規定してはならない」

さらに、教育部が4月18日に発表した「2013年普通高等学校[=大学と高等専門学校の総称]学生募集工作規定」では、43「軍事・国防と公共安全(警察などを指していると思います)など一部の特殊な学院・大学以外は、大学は男女の採用の比率を規定してはならない」と規定されました(4)

しかし、実際には、航海・航空・芸術系など専攻の男女差別も残る

ただし、「女性メディアウォッチネットワーク」というNGOのまとめによると、大学が発表した規定の中に以下のような文言があるとのことです(5)(アンダーラインを付けた分類は、私によるものです)。これを見ると、軍事・国防・警察以外の専攻でも、合格者の男女の比率の限定や受験からの女性の排除がおこなわれていることがわかります。

警察
・中南財経政法大学――「警察[公安]類専攻の女子学生の比率は、学生募集計画全体の15%を超えない」
・中国刑事警察学院――「男女の学生の比率は、10:1とする」
・中国人民公安大学――「女子学生の定員は、学生募集の総数の10-15%とする」
・北京警察学院――「未婚」(遠山注:男女を問わない条件)

海洋
・大連海事大学――「男子学生のみを募集する専攻:航海技術・タービン工程(海上方向)・船舶電子電気工程・海事管理・救助とサルベージ工程」
・広東海洋大学――「航海技術・タービン工程専攻(タービン工程[陸上]専攻は含まない)は、男子学生のみ募集」
・上海海事大学――「タービン工程・船舶電子電気工程は、男子学生のみ募集」
・上海海洋大学――「遠洋漁業科学と技術専攻は、採用する職場に対応して一般に男子学生のみを募集する」
・広東海洋大学――「航海技術・タービン工程専攻(タービン工程[陸上]専攻は含まない)は、男子学生のみ募集」

航空・宇宙飛行
・北京航空宇宙飛行大学――「女子学生の定員は、学生募集の総数の10-15%とする」
・中国民航大学――「飛行物体動力工程・飛行物体製造工程・電気工程およびそのオートメーション化・交通運輸・電子情報工程・航空機械電力設備メンテナンス・航空電子設備メンテナンス専攻は、男子学生のみ募集」
・瀋陽航空宇宙飛行大学――「飛行技術専攻は、男子学生のみ募集。国防生専攻は、男子学生のみ募集」

採鉱、資源の実地調査
・中国鉱業大学(北京)――「採鉱工程専攻は、女子学生を入学させてはならない」
・遼寧石油化工大学――「採鉱専攻は、男子学生のみ募集」
・西南石油大学――「石油工程・海洋オイルガス工程・資源実地調査工程・実地調査技術と工程・都市地下空間など職業的背景のある専攻は、男子学生の占める比率を比較的高くする」

芸術系
・中国メディア大学――「放送と芸術司会、演劇・映画・テレビの監督、演技などの専攻の採用時は、男女の学生で別々に順番をつけ、男女の学生の採用比率を1:1にする」
・星海音楽学院――「条件が同じときは、男子学生を優先して採用する」
・北京映画大学――「1.映画テレビ撮影と制作方向は、A類とB類の試験・採用方法を設ける。B類を採用するときは、女子学生の総数は2名を超えないこと。2.録音芸術専攻の各方向の学生募集計画は、男・女がそれぞれ50%を占めること。3.文化産業管理専攻映画(テレビ)管理方向の学生募集計画は、男18名、女17名とする。4..動画専攻の各方向の学生募集計画は、みな、男・女それぞれ50%とする」
・遼寧師範大学――「舞踏専攻は女子学生のみを募集する」

その他
 以下は、教育部の言う1~3の専攻のどれに位置づけられるのか(それともどこにも位置づけられないのか)も不明です。
・遼寧師範大学――「水文と水資源工程専攻は男子学生のみを募集する」(これは、2の「女性保護」という観点によるものかもしれませんが)
・外交学院――「本院の男女の学生の採用の比率は原則上1:1とする」
・国際関係学院――「合格させる女子学生の比率は学生募集計画の30%を超えない」
・上海税関学院――「教育部と税関総署の関連規定にもとづいて、税関管理専攻で採用する女子学生の比率は30%を超えないこととする」

昨年坊主頭になった女性たちが教育部の前で抗議、男女差別の是正を求める手紙を出す

こうした状況に対して、7月16日、光頭姐(坊主頭の女性)の図案がプリントされたTシャツを着た5人の若い女性が、北京の教育部の門前で、「女子学生を平等に扱え」というプラカードを掲げつつ、教育部に対して、大学が勝手に合格者の男女比率を決めている問題を是正するように求める手紙を投函しました。この5人の女性たちは、昨年8月、坊主頭になることによって大学入試の男女の合格ラインの差別に抗議した人々でした。

NGOの女性メディアウォッチネットワークに勤務する熊婧さんは、「小語種専攻が公平な競争に戻ったのを見て、非常に喜び、安心し、私が頭を剃ったのは無駄ではなかったと思いました」と語りました。しかし、多くの軍事・国防・公共安全などに関する大学・専攻、一部の芸術系の大学の演技・監督・撮影などの専攻で男女別に合格者を決めていることや、中国鉱業大学・広東海洋大学などの大学の採鉱・航海などの専攻では男性のみを募集していることについて、異議を申し立てたということです。

彼女たちは、教育部に対して、以下のような意見を出しました。

・「女性に対するあらゆる形態の差別撤廃条約」・「婦女権益保障法」・「教育法」などの条約・法律の中の関連規定と照らし合わせて、軍事・国防・公共安全関係の大学と専攻が性別の比率を設け続けることの合法性を検討し、社会公衆に十分で丁寧な説明をし、「特殊」という2文字で曖昧に済ませないこと。もし現在これらの大学の専攻で性別の比率を設ける合法的な根拠がないことがわかったら、きっぱりと取り消すこと。

・各大学の演技・監督・撮影・航海・採鉱などの専攻や高等専門学校、高等職業学校が勝手に性別の比率を決めている状況の監察をし、そうした大学などに直ちに性別の比率を取り消すようにきちんと促すこと。

・大学入試の性差別問題について、公益界・法律界の人々や広範な大学生・保護者と対話して、公衆の意見及び専門の反差別の政策設計の提案を聴取すること。


母校に対しても、入試の男女差別を撤廃するように求める手紙を出す

また、同じ日に、3人の女性が、自分が卒業した大学の入試の男女差別を撤廃するように求める手紙をそれぞれの母校に出しました。

中国メディア大学広告学院を卒業した肖美麗さんは、教育部に手紙を出すとともに、母校に対しても、放送と芸術司会、演劇・映画・テレビの監督、演技などの専攻での性別の比率の制限を取り消すことを求める手紙を出しました。肖さんは、「受験する女性が多いからと言って、性別の比率を限定して、女性受験生の利益を犠牲にする方法によって、いわゆる『性別のバランス』を取ることは、不公平です」と語りました。

遼寧師範大学を卒業した猪西西さんは、母校の「水文と水資源工程専攻」が男子のみ募集だったのを見つけ、その専攻は、教育部が5月に発表した「2013年普通高等学校学生募集工作規定」が規定している「特殊な専攻」にも入っていない以上、女子学生の受験を制限する理由はない、と大学への手紙に書きました。猪西西さんは「『水資源工程は非常にきつい仕事だから、女子学生には適していないので、男子学生しか募集しないのだ』と言う人がいるかもしれないけど、私は、この意見はとてもおかしいと思います。女子学生が学ぶのに適しているのかどうかは、彼女たち自身が決めるべきであり、大学が学生募集のときに予め女子学生を排除するべきではありません。平等と公正を追求することは大学の精神の一つであるべきであり、大学自身が背くべきではありません」と話しました。

中南財経政法大学を卒業した小鉄さんも、母校に手紙を出しました(「警察[公安]類専攻の女子学生の比率は、学生募集計画全体の15%を超えない」という規定に対してだと思います)(6)

警察官への女性の採用制限についての批判

警察や航海のような専攻は、一般的に男性向けの専攻というイメージが強いと思います。だから、大学や教育部も、女性の募集人数を制限することを変えようとしないのでしょうが、専門家からは、そのことについて、かなり詳しい反論が出されています。

中国人民公安大学・元教授の栄維毅さんは、「警察学院(大学)の女子学生比率に関する問題のジェンダー視点からの討論」(7)という文を執筆しました。以下は、そのごく簡単な要約です。

一 現状及び問題

2012年、中国人民公安大学の本科は1840人を募集し、そのうち女子学生は214人で、11.63%だった。公安部の2011年の統計によると、中国の警察官の総数は200万人であり、女性警察官はその13.65%である。

警察系の大学の女子学生の比率が低いことによって生じる問題には、少なくとも以下の3点がある。1.女子学生のニーズを満たすことができない。公安大学の入試では、女子学生間の競争が男子学生より激しく、女子学生が合格できる点数は、男子学生よりも高い。2.警察業務の女性警察官に対するニーズを満たすことができない(後述)。3.女子学生が少ないと、女子学生は「別種」になってしまい、女子学生の職業的心理と専門能力の発展に不利である。

二 警察官と警察業務におけるジェンダー問題に対する国際社会の関心

現在、世界の多くの国々では、女性警察官の数は絶えず増大し、女性警察官の勤務範囲も絶えず拡大している。それは、警察官と警察業務におけるジェンダー問題に対する国会社会の関心が絶えず強まっていることと密接な関係がある。その関心は、一つは、警察の業務において、どのようにして女性の人権を保障するかということであり、もう一つは、女性警察官の権利の問題である。

中国の女性警察官の比率は、アジアでは日本(6.8%)[遠山注:2013年には7.3%になっている]よりも高いけれども、リベリア(16.7%)よりも低い。日本も2023年には10%に増やそうしている。中国の女性警察官の比率はヨーロッパやオセアニアの国々より低い(オーストラリア20%、ニュージーランド18%、スウェーデン18.5%、イギリスは1/4近く)。

三 女性警察官の資質・能力・役割

1.女性警察官の資質の全体的評価

多くの調査研究によって、女性警察官が突発事態に対処する能力や胆力・識見、勇気、事件処理能力などは、男性警察官より優れているわけではないが、男性警察官よりけっして劣ってもいないことが明らかになっている。中国ではそうした研究がないことが、女性警察官の数に影響を与えている。

2.犯罪の取り締まりと防止、社会の治安維持における女性警察官の重要な働き

地域の警察業務において、女性警察官は公衆に受けいれられやすく、信頼されやすく、公衆と密接な関係を築きやすい。女性警察官はパトロール中の紛争処理や当事者の説得、関係者に対する調査・証拠集めなどの面で、当事者に受け入れられやすい、など。

3.ジェンダー暴力犯罪における女性警察官の代替できない役割

女性警察官は自分の経験や知識によって、強姦やDV、セクハラなどの被害女性の心理や行動パターンを理解しやすく、交流・理解・情緒的サポートなどの面で、男性警察官よりもすぐれていることが多い。

4.世界平和を維持する上での女性警察官の重要な役割

国連の平和維持活動において、女性警察官には、女性と女児を送還し、落ち着かせ、社会に復帰させ、衝突後の社会を再建する上で特殊なニーズがある。国連は2014年までに平和維持活動に従事する女性警察官の比率を20%に増やす目標を立てた。

5.新しい警察文化を創建する上での女性警察官の役割

警察官という職業は、従来、男性が主体になって、公共の暴力によって犯罪を取り締まることが主な内容であった。そのため、伝統的な警察文化は、ジェンダー観念において、男が至上で、女性を差別し、被害者の女性を信じないものだった。また、警察のイメージを構築する上で、「男らしさ」をあがめ尊んだ。また、法律執行の理念においては、重大事件を重視し、逮捕を重視して、サービスを軽視した。警察業務の仕事と方法の上では、攻撃性が強く、ジェンダーと関係が強い事件を処理するときには、被害者に二次被害を与えやすい。以上はすべて、警察官の職責である人権の保障と違法犯罪行為の防止を実現する上で不利である。

四 女性の警察業務従事を促進し、女性警察官の比率を拡大しよう

(略)


船員への女性の採用制限への批判

趙碧倩さんは、「わが国の大学入試の学生募集政策の保護的政策のジェンダー視点からの分析:航海などの専攻について」(8)という文を執筆しています。以下は、そのごく簡単な要旨です。

一 背景

教育部は、航海専攻における女性の制限は、女性を保護する視点からのものだとしているが、そうだろうか。以下、検討する。

二 大学入試における航海類専攻についての性別規定

全体として、航海類の専攻では、女性を完全に制限して、男性のみを募集している。全国5カ所の海事学院と若干の船員学校には、いずれもそうした規定があり、わが国の航海類の専門教育の普遍的な規定となっている。

三 歴史的分析:海上にも女性の英雄がいた

中華人民共和国成立以前は、女性が船に乗ることはタブーだった。それは、女性には生理があるから不浄だとか、生理の女性は龍王を怒らせるとかいう理由からだった。しかし、1953年に孔慶芬が新中国最初の女性船員になり、「女性が船に乗ると、船は必ず転覆する」という論調を打ち破った。その後、最初の女性機関長の王亜夫や遠洋船舶の政治委員・焦湘蘭などが登場した。改革開放後、第一世代の女性船員が歴史の舞台から退場する一方、海運業は激烈な競争の中でやや地位が低下し、女性の海運事業への進出は中断した。それだけでなく、女性が海運業に従事することに対する制限も始まった。

以上の歴史からは、航海類の専攻の女性に対する制限は、その背景に文化的根源があることがわかるし、また、女性には、航海技術を学習する能力があることもわかる。

四 大学入試で航海類の専攻で女性を制限する政策を自由化する可能性と現実性

科学技術の進歩によって人力への依存が減ったことは、女性に対する制限をいっそう取り除いた。また、近年海事についての大学は、新入生不足に悩んでいる。また、船員は昔から男性が大多数で、性別のバランスが欠けていたために、多くの船員が心理的失調や憂鬱に陥っていた。こうした点からも、女性船員が求められている。

2000年、上海海事大学では、全国で初めて航海専攻の女子学生クラスを上海に試験的につくり、2001年には、航海技術専攻で、上海・江蘇・浙江の3地で女子学生を一部採用した。

五 政策の提案

1.大学入試の学生募集政策の中の航海類専攻の女性に対して制限する政策規定を取り消す。

2.新入生供給源の職業教育を強化し、自由に選択できる知識の蓄えを増加させる。高校でも学生に対する職業教育・研修を強化し、船員に対する女性の理解を深めて、より良い自由な選択ができるようにする。

3.訓練を受けた女性が海運業に参与するために必要な措置を整備する。大学入試の学生募集を自由化すると同時に、就業の調整や船室の設計など、総合的な政策と施設が必要である。

六 小括

教育部は、大学入試において航海専攻の女性を制限するのは「保護」という視点によるものだと言っているが、そのような論法は成り立たない。歴史的な分析から見ると、海運業での女性の地位は、差別的な文化の影響を受けていたのである。しかし、1950年代から80年代にかけて、伝統を打ち破る傑出した女性の人材が出現した。この2つの証拠は、女性が航海技術を学ぶことを制限する政策は、合理性がないことを示している。現実の角度から分析しても、科学技術の進歩や海運業の現在の情勢、船員にも性別のバランスが必要であることは、女性を制限する政策を打破すべきことを示している。上海海事大学は、実際の経験を提供している。それゆえ、航海類の専攻で女性を制限する政策を撤廃することは必要であり、かつ実現可能である。


かつての日本の国家公務員採用における特定の職種(大学校)の女性排除問題とも接点がある?

日本では、中国と違って、戦後の男女共学の実現後は、大学の外国語専攻の募集などで女性の比率を制限するようなことはなかったと思います。

ただし、中国で船員や警察官、航空、軍事・国防関係の人員を養成する大学などで、女性の採用が禁止ないし限定されている点に関しては、かつての日本でおこなわれていた国家公務員採用における特定の職種(大学校)からの女性排除と少し重なる点があるように思いました。

そうした国家公務員の職種(学校)の受験資格が女性にも開かれるようになったのは、1975年の国際婦人年や1980年の女性差別撤廃条約署名がきっかけでした。1980年に航空管制官・航空保安大学校、海上保安官大学校・海上保安学校・気象大学校が女性に門戸を開き、1981年には税務・刑務官が、最後に自衛隊生徒(中学卒を対象にした特別職公務員)が、女性にも門戸を開きました(9)。こうした意味では、現在の中国が直面している問題は、1980年ごろの日本が直面した問題に似ている面があるかもしれないと思います。この点は、労働法における女子保護規定の存在も関係してきます。

もちろん今日の日本でも、そうした職種における女性の問題がきちんと解決しているわけでは全然ありません。

上でも少し触れたように、日本では、女性警察官は2013年4月現在、警察官全体の7.3%で、これは中国よりも低い比率です。2012年度の警察白書で、2023年までに女性警察官を全警察官の10%程度に引き上げる計画が発表されたとはいえ(10)、今年、警察庁がすべての女性警察官・職員3万人にアンケートをしたところ、回答者の82%が女性の採用拡大を求めており、その理由は「ストーカーなど女性が関係する事件の増加」、「勤務環境の改善につながる」、「国民のニーズに応えるため女性の視点が必要」などだったといいます(11)。これらは、栄維毅さんも指摘している状況です。

船員についても、今の日本では「海の世界は、まだまだ男社会だ。国内の船員は8万2953人(08年10月現在)で、そのうち女性は1301人。航海士や機関士になると248人しかいない」、「不景気で船会社の採用も厳しい。女性を採用する船会社は船の設備面からもさらに狭き門だ」(12)という状況です。近年では、円高で日本人船員の人件費が国際水準に比べて高くなったことや、きつい仕事とのイメージから志願者が減り、日本人船員の数が激減していることから、女性船員を活用するプランが立てられているそうですが(13)、このように人手不足を理由にして女性の活用が考えられている点も中国と似ているかもしれません。

日本と中国との比較は難しいですが、こうした問題における共通点や相違点からも見えてくる問題はありそうです。

(1)教育部将考虑缩小 对女生招生限制」『北京青年报』2013年1月18日。
(2)小语种提前招生 今年男女分数线合一」『北京青年报』2013年4月5日。
(3)三高校小语种专业分数线划定」『新京报』2013年7月7日。
(4)教育部关于做好2013年普通高校招生工作的通知」(教学[2013]2号)2013年4月24日。
(5)女权之声的微博【晒晒那些限招女生的专业们】7月17日 18:09。
(6)以上は、「七名“光头姐”致信教育部 呼吁取消高考招生性别限制 三名女毕业生建议母校平等招生」社会性别与发展在中国2013年7月16日。
(7)荣维毅「社会性别视角下的公安院校女生比例相关问题讨论」社会性别与发展在中国2013年7月11日。
(8)赵碧倩「性别视角下我国高考招生政策分析之保护性政策:航海类专业」社会性别与发展在中国2013年7月4日(来源:妇女观察网http://www.womenwatch-china.org/newsdetail.aspx?id=8511)。
(9)「女性もなれます 空や海の保安官 三職種”禁制”とく 運輸省が採用試験 新年度から」『読売新聞』1979年1月12日夕刊、「女性への門戸開放を正式決定 運輸省五試験」『読売新聞』1979年3月6日朝刊、「門戸開放一段と 女性税務・刑務官など」『朝日新聞』1981年3月6日東京朝刊、「自衛隊生徒に女性受験OK 防衛庁が方針」『朝日新聞』1993年6月25日朝刊。
(10)「警官 女性を1割に 警察白書 2023年目標、採用増へ」『読売新聞』2012年7月24日。
(11)「女性警官の8割『採用増やして』 警察庁、3万人に『本音アンケート』」『朝日新聞』2013年7月3日夕刊。
(12)「船乗り目指す乙女 宮古海上技術短期大学校2年20歳/岩手県」『朝日新聞』2010年1月3日朝刊岩手全県。
(13)「日本人船員増やせ 運航技術継承へ海自OB・女性活用/国交省」『読売新聞』2007年8月20日東京朝刊。

大学入試の男女差別に対する抗議活動つづく――差別を正当化する教育部を批判して、坊主頭になるパフォーマンスアートも

私は先日、このブログで、今年7月、中国の大学入試において、一部の大学・専攻で、定員を男女別にして、男性より女性の合格ラインを高くしていることが問題になったことをご紹介しました(「一部大学・専攻の入試合格ラインの男女差別に対する批判高まる」)。この件に関しては、以下述べるように教育部がそれを正当化したこともあり、その後もさまざまな抗議活動おこなわれています。

女性弁護士ら、被害者の女性に無償で法律的援助をおこなうと声明

8月1日、郭建梅(北京千千弁護士事務所。北京衆沢女性法律相談サービスセンター主任)・黄溢智(北京瑞鳳弁護士事務所)・黄雪濤(北京地平線[深圳]弁護士事務所)・温麗華(江蘇聖典弁護士事務所)・李曉均(北京漢衡弁護士事務所)の5人の女性弁護士が、大学入試における性差別が原因で平等な教育の機会を失った女子学生に対して、無償で法律的援助をして、受験生が訴訟を起こすならば援助するという声明を出しました(1)

この声明には、8月8日までに、新たに12の省・市から20名の弁護士(女性弁護士十数名と男性弁護士数名)が加わり、計25名の弁護士による声明になりました(2)

ただ、相談は何人かからあったようですが、少なくとも今ところ、訴訟は起こされていません。この問題に関してアクションを起こした受験生の卡楽潼さん(後述)も、「私はいま進学の準備をしているところなので、自分の進学に悪い影響があるかもしれないことが少し心配だ」し、大学入学後も、「社会に対して非常に反抗的な」態度をとる「憤青」のように見られるのは嫌なので訴訟は起こしていない(3)とのことです。やはり大学入学前の学生には、訴訟は難しいのでしょう。

広州で、男女で高さの異なるハードルを書いたパネルをを叩き壊すパフォーマンスアート

8月19日には、12名の女子学生らが、広州の文塔(合格祈願などをする場)の前の広場で、パフォーマンスアートをおこないました。それは、「女子学生の合格ライン」を書かれた高いハードルと「男子学生の合格ライン」と書かれた低いハードルが描かれているパネルを、「公平」という文字が書かれた斧の模型で叩き壊すまねをしたり、ハサミで突き破ったり、みんなで蹴ったり踏みつけたりするものでした。

下が、このパフォーマンスアートのビデオです(最初にしばらく広告が出てきます)。
http://player.youku.com/player.php/sid/XNDQxMDQ1MTIw/v.swf

このパフォーマンスアートを主催したのは、高級中学(日本で言う高校)を卒業したばかりの黄靖さんです。黄さんは、外国文学の翻訳の仕事をしたくて、ある大学のドイツ語専攻を受験したのですが、男女で合格ラインに60点もの差があったために、落第してしまいました。

黄さんは、女性弁護士らが無償で訴訟を援助するという上記のニュースを聞いて励まされ、このパフォーマンスアートをすることを決めたそうです(4)

教育部から無内容な回答。しかも、「国家の利益」の名の下に、「一部専攻」での「男女比率の調整」を正当化

先日のエントリでも触れましたが、8月9日、女性活動家の呂頻さんと黄溢智弁護士が、教育部(日本で言う文科省)に対して、「政府情報公開条例」にもとづいて、「2012年の大学入試において、教育部は、どの大学のどの専攻に男女の採用比率の制限を批准(承認)したのか? その根拠は何か?」という点を情報公開するよう申請しました。

それに対して、8月23日付けで教育部から、黄溢智弁護士に対して、以下のような回答が来ました(5)(呂頻さんに対しても同様の回答が来た)。

黄溢智同志:

本機関は、あなたが手紙で提出した、「2012年の大学入試の学生募集において男女の採用比率を制限する」情報を公開する申請を受け取った。ここに下のように回答する。

男女が法に基づいて平等な教育の機会を享有することは、「教育法」が定めた基本原則である。教育部は、一貫して男女の平等な教育権を擁護し、大学入試においては、公平な競争・公平な選抜・公開で透明という原則を堅持し、全面的な審査・総合的な評価をし、優秀な者を選んで、新入生を採用しており、法によって受験生の合法的な権益を擁護している。教育部は、新入生募集に関する文書の中で、大学が勝手に男女の学生の採用比率を規定してはならないと明確に要求している。

国家の利益を考慮して、一部の特殊な職業またはポストの特殊な専門的人材を養成するために、特定の手続きを経て、少数の学校は一部の専攻で男女の学生募集の比率を適当に調整することができる(注:下線は遠山による)。ただし、学校は学生募集要項の中で明示しなければならず、また、募集する学生の数を厳格に規制しなければならない。これは、「婦女権益保障法」第16条第2項の「学校が学生を採用する時、特殊な専攻以外では、性別を理由として女子学生を拒絶したり、女性の合格基準を上げたりしてはならない」という規定と合致している。

以上、お知らせする。

あなたが教育部の政府の情報公開活動を支持したことを感謝する!

教育部政務公開事務局
2012年8月23日。


黄溢智弁護士は、「教育部の回答は、私の問題に答えていない」と指摘しました。つまり、「私が問うたのは、どの学校、どの専攻(の男女の採用比率の制限)を批准したのかということである。けれども、教育部は一部の専攻を批准したと言っているだけで、どの学校・どの専攻を批准したかを言っていない」のです。8月24日、黄弁護士は、再度教育部に手紙を出して、批准した大学と「一部の特殊な職業あるいはポスト」の具体的名簿を尋ねました(6)(しかし、回答が返ってきたという報道はありません)。

『女声』誌なども、教育部の回答について、「特殊」とはいかなる基準に基づくのか? 女子学生を制限することと「国家の利益」とは一体どんな関係があるのか? と批判しました(7)

もちろん「ジェンダー平等こそ国家の利益である」という主張も出ました。その人は、「世界経済フォーラムが発表した2011年のジェンダー平等の順位では、中国は61位である。女性の地位が比較的高い国家は、みな『世界の弱国』なのか? まったく逆に、大多数の中国人が認める『世界の強国』は、みな順位が上である」と述べています。その人は、また、「抽象的な『国家の利益』の名によって具体的な個体の権利を奪うことは、中国には苦い教訓をがある」とも述べています(8)

なお、教育部の回答が「婦女権益保障法」を引き合いに出している点について言えば、前回ご紹介した、李思磐さんの言う「わが国の反差別立法には原則があるだけで、細則がない」という弱点がまたもや露呈したのだと思います。

広州で4人の女性が坊主頭になるパフォーマンスアートをして教育部に抗議。北京でも呼応して3人が坊主頭に

8月30日、4人の若い女性が、広州の文塔の前の広場で、多くの人が見ている前で、自らの頭髪を剃ってもらって丸坊主になって、教育部に抗議する手紙を読み上げるというパフォーマンスアートをしました。

丸坊主[光頭]になったことには、2つの意味が込められていました。
・一つは、黄溢智弁護士も指摘しているように、「教育部の回答はゼロに等しい」という意味です。
・もう一つは、「『特殊な』専攻とは何かを明らかに[亮出]せよ」という意味です(9)

今回、剃髪をしたのは次の4人です(以下、名前[いずれも仮名]、年齢、本籍、これまでに参加したパフォーマンスアート歴の順に書いてあります)。
 ・梁小門さん――20歳、広州籍、華南理工大学の3年生、セクハラ反対・「男性トイレ占拠」・職場の女性差別撤廃などのパフォーマンスアート歴
 ・李麦子さん――23歳、北京籍、NGO組織で仕事、「血染めのウェディングドレス」「男性トイレ占拠」などのパフォーマンスアート歴
 ・太陽さん――21歳、西安籍、商業事務、西安で「花木蘭」の扮装で就職差別撤廃を訴えるパフォーマンスアート歴
 ・肖美麗さん――23歳、四川籍、自由業、「血染めのウェディングドレス」「男性トイレ占拠」などのパフォーマンスアート歴

そのほか、今年大学受験をした@卡楽潼さんという人も来ました(剃髪はしなかった)。

下の画面の中に、広州でのアクションのビデオが入っています。
http://lady.163.com/special/sense/nvrenxingdong04.html

今回のパフォーマンスアートの発起人は、梁小門さんです。しかし、きっかけになったのは、@卡楽潼さんでした(10)

卡さんは、今年、北京の国際関係学院を受験し、試験で614点を取りました。ところが、国際関係学院は、今回の募集では、広東省からは男子12名、女子3名という定員を決めて採用しました。そのため、男子の合格ラインは609点だったのに、女子の合格ラインは628点に跳ね上がったため、卡さんは不合格になりました。

卡さんは、「国際関係学院が広東で募集した専攻は、国際経済と貿易、法学、英語、日本語などの専攻です。私はこれらの専攻には何の特殊性もないと思う。なぜ男子学生は学べて、女子学生には学べないのか? なぜ男子学生は学びやすく、女子学生はもっと努力しなければ学べないのか?」と言っています(11)

8月19日に卡さんは、上のことを述べた上で、以下の訴えをインターネットに発表しました(12)

一、“大学入試の性差別はいまに始まったことではない。けれども、多くの被害者は沈黙を選択した”。私はずっと、このような、点数が男は低く女は高いという現象を知っていた。けれども、多くの人は沈黙することに慣れてきた。(いったん差別に慣れると)私たちは、潜在意識として、あたかも女子学生は本当に男子学生より劣っていると思い、さらに大きな範囲で知らず知らずのうちにこうした偏見が不断に強化され、私たちは自分を疑うようになるであろう。

二、“より大きな不公平があるからといって、このことの討論をしないのはいけない。”(略)

三、“学生自身がこの制度に対して、もう犬儒の態度[シニシズム]を取ってはならない!” 私が寛容であることは、彼らが性別に基づく合格ラインの区別という現象の危険性を正視することには役立たず、今後もっと多くの人が差別によって倒れることになる。魯迅は「[ある民族は]苦痛を訴えることが役に立たないからといって、苦痛を訴えもしなくなる。彼らは沈黙の民族になって、だんだん衰退していく」と言った。私の見るところ、私的な悲しみの声を公然とした怒号に変えて、力を蓄えた社会こそが不断に前進できるのだ。


この卡さんの訴えに梁小門さんたちが関心を持ち、今回のパフォーマンスアートをすることになりました。

今回のパフォーマンスアートの発起人である梁小門さんは、高級中学(高校)のときから、「坊主頭にしたい」という気持ちがあったそうですが、ずっと家族や友人に反対されてきました。梁さんは、当時から同性愛者の権利を守る公益組織に加入しており、そうした活動には両親のある程度の理解が得られたのですが、頭髪の件に関してはそうはいかず、今回も、家族の前でかぶるためのカツラを用意したそうです(13)

肖美麗さんの場合は、「坊主頭にすることを決めたときの心情は複雑でした。けれども、ちょっと考え方を変えると、なぜ男子学生が坊主頭になっても、へんてこだと思わないのに、女子学生が坊主頭になるとへんてこだと思うのでしょうか? この行為は常軌を逸していますが、みんなに教育部の回答に注目させて、女性の平等な教育権を推進できるなら、坊主頭になる価値はあります」と述べています(14)

翌8月31日には、北京でも、この広州でのアクションに呼応して、「新浪@女権の声」が3人のNGO活動家(熊婧、小鉄、呂頻)が坊主頭の写真を公表しました(15)

下が北京でのアクションのビデオです(最初にしばらく広告が出てきます)。
http://player.youku.com/player.php/sid/XNDQ2MDA4OTYw/v.swf

また、9月6日には、広州で坊主頭になるパフォーマンスアートをした女性たちが、設立されたばかりの国務院教育督導委員会と同委員会主任で国務委員の劉延東さんに宛てて、教育部と大学に性差別を改めるように手紙を出しました(16)

Sinner-Bフェミニズムレズビアングループ(Sinner-B女権拉拉小組)らによる、坊主頭の若い女性(光頭姐)が話をする企画が各地を巡回

その後、坊主頭になった女性たちの一部(李麦子さん、鄭楚然さん、梁小門さん)は各地を巡回して、講演や対話をするイベントをやっています。そのイベントの呼びかけには、以下のようにあります(17)

なぜ彼女たちはハイヒールとブラジャーを拒絶したのか?
なぜ彼女たちは男子トイレを占拠したのか?
なぜ彼女たちは坊主頭にしなければならなかったのか?
なぜ彼女たちはジェンダー平等を擁護するのか?
この週末、私たちパフォーマンスアートの常習犯が、あなたと一緒におしゃべりする。けれど、最終的にはあなたに「私たちの身体のイメージは、まちがいなく文化の創作である」ことを発見してほしい


上記の肖美麗さんの発言にも、「なぜ男子学生が坊主頭になっても、へんてこだと思わないのに~」という個所がありましたが、坊主頭になることを、身体とジェンダーの問題とも結びつけているようです。

以下、各地の企画について、ネットでわかった情報をメモしておきます(18)。ほぼ連日おこわれていることから見ると、こうしたテーマに関心を持っている人々がごく少数であるとは言えないように思います。

第1講
 9月8日 杭州市西湖区 保定路150号 堅果珈琲
 スピーカー:李麦子、鄭楚然、梁小門
 【主催】Sinner-B女権拉拉小組、性别平等網
 【友情宣伝】向陽花開・杭州LGBT

第2講
 9月10日 杭州市西湖区 浙江大学紫金港校区後街湾家園M
 スピーカー:李麦子、鄭楚然、梁小門
 【主催】性别平等網、Sinner-B女権拉拉小組

第4講
 9月12日 上海市楊浦区 壁虎餐庁

第5講
 9月13日 上海社会科学院 2号楼929会議室(友情支持・陳亜亜)

第6講
 9月14日 南京暁荘学院

第7講?
 9月15日 合肥瑶海区 鳳陽路と全椒路の交叉点の実験小学巷内鳳陽路新村1棟304
 スピーカー:李麦子、鄭楚然、梁小門

第8講?
 9月16日 武漢武昌区 水果湖路舒心苑49号 痕迹水吧
 スピーカー:李麦子、鄭楚然、梁小門

「Sinner-B女権拉拉小組」は、同小組の微博(Sinner-B女权拉拉小组)の説明では、「フェミニズムと多元的なジェンダーの知識を普及させ、女性および女性のマイノリティ集団の生存状態とエンパワメントの行動に関心を持つ」「政策的唱導と公衆教育に力を注ぎ、問責とエンパワメントを強調する」と書かれています。

性差別的な事件が起きるとパフォーマンスアートをするということは、この半年の間にすっかり恒例になったようです。パフォーマンスアートやその周辺には、さまざまな個性ある女性たちがいて、ネットワークを作っています(19)。それらの人々は、男女の平等だけでなく、レズビアン・セクマイに対する関心も高かったり、自らがそうであったりする場合も目立ちます。

こうした新しい運動の広がりについては、今後とも注目していきたいと思います。

(1)声明:为在高考中遭受性别歧视的女考生提供义务法律援助」北京众泽妇女法律中心ブログ2012年8月1日、「高考招生分性别投档被指性别歧视 五位女律师发声明为考生提供反性别歧视法律援助」法制網2012年8月2日。
(2)高考性别歧视问题志愿法律服务工作简报」北京众泽妇女法律中心ブログ2012年8月10日、「高考性别歧视女律师团得到12省20律师加盟」法制網2012年8月8日。
(3)高考录取遭性别歧视女考生:怕起诉教育部影响上学」網易2012年8月30日(来源: 中国新闻周刊)。
(4)以上は、「大学生街头行为艺术:公平大斧砍向高考性别歧视」金羊網2012年8月20日(来源:羊城晩報)、「广州女高中生抗议高考录取线男女差别待遇」網易女人2012年8月19日、「“招男招女都一样!”――抗议高校招生歧视」『女声』122期(2012.8.13-8.19)[word]。
(5)教育部关于高考分数线男低女高信息公开申请的回复」婦女観察網2012年8月27日。
(6)教育部:基于国家利益 特殊专业可调男女招生比例」中国新聞網2012年8月26日(来源:中国青年報)。
(7)「限招女生原是为“国家利益”? 教育部解释强词夺理」『女声』123期(2012.8.20-8.26)[word]。
(8)克佐「性別平等就是国家利益」鳳凰網2012年9月7日(来源:南方周末)。
(9)「“光头”闪瞎教育部」『女声』124期(2012.8.27-9.2)[word]。
(10)以上は、「文塔边剃光头 反性别歧视光头妹抗议高校招生男女投档有别,细说女权运动那些事儿」(『南方都市報』2012年9月4日)によっており、この記事がこのパフォーマンスアートに関して最も詳しく報道しています。他に、「四名女生当街剃头抗议高考性别歧视」天津網2012年9月2日、「女生剃头质疑部分高校“性别分数线”」北青網2012年9月2日、「广州4女生剃光头抗议高招性别歧视」網易教育2012年8月31日(来源:国際在線[北京])も、このパフォーマンスアートを報道しています。
(11)文塔边剃光头 反性别歧视光头妹抗议高校招生男女投档有别,细说女权运动那些事儿」『南方都市報』2012年9月4日。ただし、8月19日に以上のような訴えをしていたことについては、「“招男招女都一样!”――抗议高校招生歧视」『女声』122期(2012.8.13-8.19)[word]によっています。また、「高考录取遭性别歧视女考生:怕起诉教育部影响上学」網易2012年8月30日(来源: 中国新闻周刊)には、卡さんに対する詳しいインタビューがあります。
(12)『“光头”行动』各地女青年剃光光头反对高招性别歧视」女人行動第4期(網易女人)。
(13)文塔边剃光头 反性别歧视光头妹抗议高校招生男女投档有别,细说女权运动那些事儿」『南方都市報』2012年9月4日。
(14)女青年齐剃光头 请教育部解决招生歧视」網易女人2012年8月30日。
(15)「“光头”闪瞎教育部」『女声』124期(2012.8.27-9.2)[word]。
(16)「“基于国家利益”?招生歧视还有更好的理由吗」『女声』126期(2012.9.10-9.16)[word]。
(17)Sinner-B女权拉拉小组「光头姐华东巡讲第四讲:女人突破•性•行动」女声網(原刊時間・発布時間2012年9月11日)。
(18)以下、それぞれ、第1講第2講第4講第5講についての情報。第5講以降は、Sinner-B女権拉拉小組の豆瓣(sinner-B的同城)を参照しました。
(19)“娘子军”游击战」(中国財富2012年7月29日)という記事に、さまざまな個性ある人々とそのネットワークが描かれています。

一部大学・専攻の入試合格ラインの男女差別に対する批判高まる

中国の大学入試は、原則的には大学や専攻ごとの入試はなく、「全国大学統一入試」としておこなわれます。もちろん難関校ほど合格ラインが高くなるのですが、それだけでなく、受験生の戸籍がある省ごとに合格ラインが異なることが特徴です。

それはともかく、「全国大学統一入試」としておこなわれるといっても、例外的に一部の大学や専攻では、「繰り上げ採用(提前录取)」と言って、その年の大学入試が終わった後、各校が学生を採用する以前に、時期を繰り上げて学生を採用しています。私はこの「繰り上げ採用」について詳しくは知りませんが、芸術系・体育系の大学、軍関係の大学のほか、外国語のうちの「小語種」と呼ばれる、英語以外の語学(ロシア語・ドイツ語・フランス語・日本語など)専攻などが、そうした方法をとっているようです(1)

この7月、この繰り上げ採用をしている大学や専攻の一部で、入試の点数が高い方から合格させるのではなく、定員を男女別にして、男性よりも女性の合格ライン(*)を高くしていることが、問題になりました。

(*)原文は「投档線」。「投档」とは、「(合格ラインに達した)受験生の身上調書を受験先に送付すること」だそうです。私は「投档」についてもよく知りませんが、最終的な「録取(試験合格者を採用する)」とは少し異なるようです。

男女の合格ラインの格差、男女別の募集――語学系など中心に、芸術・警察・税関関係の専攻でも

最初にこの問題を報じたのは、広東省の『南方都市報』です。7月8日、同紙は、以下のように、さまざまな大学の繰り上げ採用の広東省の合格ラインが、女性の方が男性より高いことを報じました(2)
・北京外国語大学・文科―男:629点、女:643点(14点差)
・北京外国語大学・理科―男:632点、女:647点(15点差)
・中国政法大学・文科―男:589点、女:608点(19点差)
・中国政法大学・理科―男:588点、女:632点(44点差)
・華南理工大学・理科―男:585点、女:622点(37点差)
・国際関係学院・理科―男:609点、女:628点(19点差)
・国際関係学院・文科―男:601点、女:624点(23点差)

中国政法大学や華南理工大学の場合は、専攻が国防で、以前は「男子のみ」採用であり、現在も女性を少数しか採らないのでこうした差別をしているということですが(それで良いかどうかは話が別)、北京外国語大学や国際関係学院の場合は、もともと男女の区別なしに採用できるはずの、外国語専攻のうちの「小語種(英語以外の語学)」専攻で、こうした差別をしていました。このような男女の合格ラインの格差は、他の省についても同じでした(3)

このような合格ラインの格差は、当然、多くの女性の人生に影響します。たとえば、海南省の張さんは、将来、外交の仕事をすることや外資系企業で働くことを目指していたため、志望大学は、北京の国際関係学院でした。張さんの全国統一入試の出来は、彼女にしてはあまり良くなかったのですが、それでも702点を獲得しました。彼女は英会話が得意で、面接試験まで行けば、必ず合格する自信がありました。ところが、国際関係学院の海南省での合格ラインは、女子は715点でした。男子の合格ラインは668点だったので、もし張さんが男子だったら、ゆうゆう面接に進めたことになります。張さんは、志望とは異なる、北京体育大学に進学せざるを得ませんでした(4)

また、中国人民大学と上海外国語大学は、今年初めて小語種の採用を男女別におこない、そのため合格ラインに男女差ができたと報じられました。

中国人民大学の場合は、理科は合格ラインが男女同じでしたが、文科の場合は、次のような男女差がありました(5)
 北京・文科―男:601点、女:614点(13点差)

上海外国語大学の場合は、省ごとの合格最低点が発表されており、20省のうち、12省で男女差がありました(6)
 天津・文科―男:607点、女:630点(23点差)
 天津・理科―男:574点、女:632点(58点差)
 遼寧・文科―男:615点、女:625点(10点差)
 遼寧・理科―男:562点、女:619点(57点差)
 吉林・文科―男:573点、女:602点(29点差)
 吉林・理科―男:553点、女:603点(50点差)
 黒龍江・文科―男:588点、女:607点(19点差)
 黒龍江・理科―男:594点、女:592点(-2点差) (ここだけ女子有利)
 福建・文科―男:617点、女:624点(7点差)
 福建・理科―男:627点、女:634点(7点差)
 山東・文科―男:629点、女:634点(15点差)
 山東・理科―男:643点、女:658点(24点差)
 広西・文科―男:551点、女:616点(65点差)
 広西・理科―男:553点、女:603点(50点差)
 甘粛・文科―男:583点、女:594点(11点差)
 甘粛・理科―男:581点、女:614点(33点差)

上海税関学院の場合も、北京・天津・上海・重慶・広東・河南・江蘇・江西・遼寧など多くの省・市で女性の合格ラインが高くなっています。たとえば重慶の文科では、男:596点、女:629点(35点差)、上海の文科でも、男:471点、女:476点(5点差)でした(7)

対外経済貿易大学は、小語種では、北京の学生を男女とも5名ずつ合格させたのですが、合格者の点数は以下のようでした(8)
 文科 男:最高点604点―最低点577点、女:最高点622点―最低点589点(最低点が12点差)。
 理科 男:最高点629点―最低点614点、女:最高点633点―最低点620点(最低点が6点差)。

対外経済貿易大学の事例もそうですが、小語種や芸術専攻の場合などは、志望者は女性が多いのに、男女の学生募集の比率を1:1に定めたために、女性の合格ラインが上がった場合が多いようです。呂頻さん(フリージャーナリスト、社会運動家)が調べたところ、北京外国語大学の2012年の繰り上げ学生募集では、小語種は、どの専攻も男女が1:1になっていました(http://zhaosheng.bfsu.edu.cn/wp-content/uploads/2012/05/2012年提前批次分省市专业计划.xls)。また、中国メディア大学の2012年の芸術類の本科の学生募集要項には、「放送、芸術・演出・監督専攻を採用するときは、男女別に順番をつけて、男女の採用比率が1:1になるようにする」(http://zhaosheng.cuc.edu.cn/wsm/shownews.aspx?id=1096)と書かれていました(9)

国防関係の専攻のようにも思われないのに、「女子学生の比率を30%以下にする」ことを目的に、女性の合格ラインを高くした大学もあります。たとえば、上海税関学院の学生募集の責任者は、「専門の特殊性ゆえ、女子学生の合格者は30%を超えないようにしている」と述べました(10)。また、国際関係学院の学生募集の責任者も、「私たちの学校の性質は比較的特殊であり、女子学生の人数は全体の30%を超えないように規定している」と述べています。

ジャーナリストの李思磐さんは、「学生募集計画で、堂々と『主に男子学生を募集する』と規定しているのは、国防などの特殊な状況以外に、警察・税関などの専攻もある。これらを募集している学校と将来の雇用単位は同じ系統に属しているから、学生募集の要求は、実は雇用単位の意思を体現していると推定できる。『捜査学』『税関管理』のような専攻がどのような理由で男子学生しか募集しないのかを説明できる人がいるのだろうか?」と言っています(11)

しかも、国際関係学院の学生募集の責任者が言うには、学校の学生募集の要項と計画はすでに教育部に知らせて承認を得ているというのです。上海外国語大学の責任者も「このたびの学生募集計画は、教育部の承認を得ている」と述べています(12)

呂頻さんは教育部に情報公開請求、北京衆沢女性法律相談サービスセンターは意見書を提出

2005年にも、北京大学の小語種専攻が、女性の合格ラインを高くしていたことが報じられ、問題になったことがありました(13)。そのため、2006年、教育部は「2006年普通大学学生募集活動規定[2006年普通高等学校招生工作规定]」の中で、「教育部の許可なしに、大学が勝手に男女の合格比率を規定してはならない」と定めました。呂頻さんは、「当時はこの問題はもう全国的な法律のレールに乗せられて、ある程度の効果があったとみんな考えたし、今年は北京大学はこのような政策を実行していない」と述べています(14)

今回も、呂頻さんらによる民間団体である「女性メディアウォッチネットワーク(妇女传媒监测网络)」は、以上のような経過を含めて、「成績が良いことが間違っているのか?――大学の性別の合格ラインから男権の構造を見る」という長い論説を機関誌の『女声』の特集号で発表しました(15)

もともと呂頻さんは、7月8日に『南方都市報』の報道を目にすると、その翌日の9日には、教育部(日本で言う文科省)に対して、「政府情報公開条例」にもとづいて、「2012年の大学入試において、教育部は、どの大学のどの専攻に男女の採用比率の制限を許可したのか? その根拠は何か?」という点を情報公開するよう申請しました。呂頻さんは、「教育部は情報を公開して、受験生に説明し、それが合法であるのか、合理的であるのかを社会全体に監督してもらうように希望する」と述べています(16)

7月13日には、民間団体である「北京衆沢女性法律相談サービスセンター(北京众泽妇女法律咨询服务中心。もと北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター)」は、教育部に、「一部の大学の一部の専攻が大学入試において性別で区分して合格させ、合格ラインが明らかに女が高く男が低い現象を監督是正することに関する法律的意見書」を郵送しました。

北京衆沢女性法律相談サービスセンターの意見書は、さまざまな大学の合格ラインの男女差について、女性差別撤廃条約や憲法、婦女権益保障法、教育法、普通高等学校招生工作規定に違反していることを指摘して、教育部に、こうした違法な男女差別について調査・是正・処分するよう求めるものです(17)

世論も、合格ラインに男女格差をつけることには批判的意見が多数派ではあるが……

『工人日報』の記者が取材したところ、大多数の人が「男女の合格点を区別するのは、性差別で、不公平だ」という意見でした(18)。また、新聞報道は、「ネットユーザーの多くが反対である」というふうに報じています。

インターネット上での投票でも、男女で合格ラインの格差をつけることに反対する意見のほうが、多数派です。けれども、以下の調査を見ると、けっして圧倒的多数派ではありません。

「大学の合格ラインを男女で別にすることを、どう思うか?」(新浪調査「高考录取划分男女线你怎么看?」)(下は7月23日現在のデータ)。

○「あなたは、男女で合格ラインを区別すべきだと思うか?」
 ・「区別すべきでない」:68.1%
 ・「区別すべき」:31.9%

○「男女で合格ラインを区別することは『公平』か?」
 ・「不公平」:65.5%
 ・「不公平に見えるが、実は公平。女性は試験技能が男性より優れているので、男性の合格ラインを下げることによって人材の損失を減らすことができる」:21.2%
 ・「公平」:13.3%

すなわち、男女で合格ラインに格差をつけることに反対する人は、7割未満にとどまっています。また、3つしかない選択肢の中に、「不公平に見えるが、実は公平。女性は試験技能が男性より優れているので~」という奇妙なものがあり、それが2割程度の支持を集めていることも特徴です。

もちろん、この結果には、インターネットの匿名投票ゆえの歪みのようなものがある可能性もあると思います。

しかし、ある記者が、20名の生徒に尋ねても、70%は男女で合格ラインを区別することに反対でしたが、30%の人は「ある程度の合理性がある」という考えだったとのことです(もっとも「ある程度の合理性がある」と答えた95%は男子生徒だったそうですから、性別による差異が大きいのだとは思いますが)(19)

合格ラインの男女格差を正当化する議論、それに対する反論

大学の入試関係の責任者が公然と合格ラインの男女格差を正当化する主張をしたり、新聞紙上に男女格差を正当化する論説が掲載されたりもしているという状況もあります。そうした主張や議論には、以下のようなものがあります。

(a)男女の学生数のバランスをとるため

北京語言大学の学生募集の責任者である林方さんは、次のように言います。「女子学生の比率が87%である語学系の大学では、『男女で合格ラインを分けて、特殊な類型の学生募集をする』という政策によってはじめて、数が多くない男子学生を集めることができる。このような政策は、教学の質を保証するために必要である。」「私たちには、男女が対話するシーンが必要だという問題がある。多くの場合、女の子が男子学生の役割をせざるをえない。また、クラスの男女の比率がアンバランスだと、総合的な発展もアンバランスだ」(20)

上海外国語大学の責任者も、「多くの外国語系の大学では、男女の学生数の落差が非常に明らかで、女の子が多すぎ、男の子が少ない。これが、男女の学生の合格ラインを別に定めている理由だ。つまり、男女の学生数の比率をもっと合理的にしたいのである」と述べています(21)

(b)就職率を良くするため

小語種専攻の男女の合格ラインに差をつけていた四川大学の責任者は、その理由について、一番肝心な問題は「就職」だと言い、「就職する企業が、男子学生を希望している。渉外や外交、出張などの仕事のときに、企業は男子学生のほうが便利だと思っている」と述べています。企業は「男子生徒を多く合格させろ」とは言わないけれども、採用の時は「男子学生しかいらない」と言うので、クラスの中の男女比を1:1にしているというのです。(22)

「女子学生の比率を30%以下に規定している」と言っている国際関係学院の学生募集の責任者も、「専攻に合った就職口は、男性が主だから」ということを理由にしています(23)

(c)女子学生ばかりだと、将来の教員養成にマイナスになる

「学科の持続的発展を保障するためである。これらの専攻の男子学生の数が少なすぎると、修士・博士も男女の学生の比率がアンバランスになるという問題が出てきて、教師の隊列の養成にマイナスになる」というような意見もあるそうです(24)

(d)女子は試験で高い点を取る能力があるだけで、男子は総合的能力がある

復旦大学の学生募集の責任者は、「一般に男子生徒は興味や知識が広いのに対し、女子生徒は往々にして試験で高い点数を取る能力がある」という理由で、女子学生が多い学科には、理科の学生が転入する機会を与えていると言います(25)。中国教育科学研究所の儲朝暉研究員も、「男女の天性から言って、女性は『専制的教育』の一元的基準を受け入れやすいが、男性は本能的に抵抗するので、試験では、女子学生は良い成績を取りやすい」ということを根拠にして、小語種の学生募集の合格ラインを男女で区別することを擁護しています(26)。『燕趙都市報』の評論員の燕子山さんも、「われわれの現在の受験教育体制と評価基準は、女子学生が勝利するのに有利である。」「一人の受験生の成績は、その生徒の総合的で全体的な資質を正確に反映しにくい。」「男子生徒と女子生徒で合格ラインを区別するのは、現在の受験教育体制とその結果に対して偏向を正すことになる」と述べています(27)

先に述べたように、ネット投票の選択肢にも、「女性は試験技能が男性より優れているので、男性の合格ラインを下げることによって人材の損失を減らすことができる」というものがありましたが、現在の中国では、この種の論説がかなりあるようです。

以上のような、男女の合格ラインの差別を正当化する言説は、どれもこれも、子どもだましだったり、露骨な女性蔑視だったりで、こうしたことを堂々と言えるというのは、社会における性差別の深刻さを示しているように思います。李思磐さんは、「大学がこのような違法行為をしているのに、ぬけぬけと大きなことを言っている」のは、「わが国の反差別立法には原則があるだけで、細則がなく、違法行為に対して具体的な懲罰の措置がない(……)からである」とも指摘しています(28)

当然のことながら、以上のような言説に対しては、以下のような反論がなされています。

(a´)「女子学生が多すぎる」という理由はダブルスタンダード――なぜ男子学生が多い専攻では女子学生を優待しないのか?

『女声』誌は、「歴史的にかなり長い間、高等教育の機会は男子生徒に多かったし、現在もいくらかの理工系の専攻ではまだ男子学生が多いにもかかわらず、『男子学生が多すぎる』という言い方はされない。いかなる歴史的時期にも、男子学生が優勢ないかなる専攻でも、『男子学生が多すぎる』ことを理由に女子学生を優待する政策がおこなわれたこともない」「女子学生が多いのは問題で、男子学生が多いのは問題ではないというのは、明らかに性別にもとづくダブルスタンダードである」と指摘しています(29)

華南理工大学教授の周雲さんも、「私の経験から言って、理工系の大学の多くの専攻では、男女比のアンバランスは外国語系よりもはなはだしく、私は『和尚クラス』(クラスの中に1人も女子学生がいない)・『お姫様クラス』(クラスの中に女子学生が1人しかいない)を教えたことも少なくないのであって、男が多くて女が少ないのは、普通のことである。けれど、私は、誰かがそのことに周章狼狽して、『男女の学生の数の格差が大きい』とか『不合理だ』とか騒いで、女子学生の合格ラインを6~70点下げて男女のバランスをとろうなどと言っているのを聞いたことがない」「これが女子学生に対する赤裸々な差別ではなくて、何であるというのか?」と述べています(30)

李思磐さんも、「1970年代、北京大学と南京大学の物理専攻の本科の女子学生の比率は、42%と37%に到達していた。しかし、1990年代になると、この比率は、それぞれ9%と8%に低下した。けれども、私たちは、『男女の比率のバランス』を取るために、女子生徒に、これらの専攻の敷居を低くしたという話は聞いたことがない」と述べています(31)

(b´)「就職する企業が歓迎しない」という理由は、就職差別に迎合するもの

この点に関しては、『女声』誌は、「いかなるポストに女性は採用できないかに関しては、国家の法律(女性労働者保護規定)がすでに範囲を明確にしており、かつ、それらは、女性を保護する目的である。外交の仕事をする人や翻訳者など、小語種専攻の人が就職するのに適したポストは、女性は完全に任に堪えるのであって、このようなポストから女性を排斥することは差別である。差別的な就業のニーズに対しては、大学は学生と一緒に食い止めるべきであり、自ら受け入れるべきではなく、まして、就職差別を教育の領域に前倒しすることによって、就職差別に迎合し、差別を助長するべきではない」と指摘しています(32)

(c´)女子学生が多すぎると学科の発展に影響すると考えるのは、女性の能力に対する偏見と中傷

ある論説は、「女子学生が多すぎると学科の発展に影響すると考えるのは、明らかに女性の知恵と能力に対する偏見と中傷である。ハーバード大学の学長のローレンス・サマーズも、『男女の先天的差異が、女性の理数領域における功績の少なさの原因である可能性がある』ということを述べて、大学内外の大きな批判にされされて、辞職せざるをえなくなった」と指摘しています(33)

(d´)「男の子の危機」論、教育における「陰盛陽衰(女が男より強くなった)」論に対する反論

「女子は試験で高い点を取るだけなのに対して、男子には総合的能力があるのに、現在の受験教育や入試のあり方は、男子の能力を評価していない、抑圧している」という議論の背景には、「男の子の危機(男孩危机)」論という、現在の中国で一定の影響力を持っている考え方があるようです。

2010年、孫雲曉の『男の子を救え (拯救男孩)』(ネット書店「書虫」のデータペースの中のこの本の書誌データ)が、中国の男の子は「学業の危機」「体質の危機」「心理的危機」「社会的危機」にさらされているから、男の子を救わなければならぬ、と説いて、ベストセラーになりました(34)。それをきっかけにして、「男の子の危機」ということが叫ばれるようになりました。

「男の子の危機」論は多岐にわたっていますが、その「学業の危機」のあらわれの一つとして問題にされたのが、教育における「陰盛陽衰(女が男より強い)」という現象であり、大学に関して言えば、1999年から2008年までの間に、大学入試で成績が最も良かった者に占める男子の比率が66.2%から39.7%に低下したこと、全国の大学の女子学生の比率が35.4%から45.7%に上昇し、2007年には新入生の中の女子学生の比率が52.9%になり、初めて男性を超えたことなどが挙げられています(35)

もちろん、教育に従事している李曙明さんという方が述べているように、まず、「かりに現在の教育体制や入試の方法に問題があるとしても、その解決の道は、より科学的な教育体制や入試の方法を探究・推進することにしかなく、採用の際に女子生徒を特別視することではない。努力して他の人よりも高い点数を取ったのに、女子であるという理由だけで合格にしないというのが、差別でないと言うのか?」と言えます(36)

また、徐安琪さんは、教育における「陰盛陽衰(女が男より強くなった)」という捉え方そのものを、以下のように批判しています(37)
 ・ユネスコの2009年の統計では、148の国家と地区の中で、女子学生が高等教育の学生全体の50%を超えているのが104(70.3%)あり、そのうち60%以上のところが27ある。しかし、中国では、大学、高級中学[日本で言う高校]、初級中学[日本で言う中学]、小学における女子学生の比率は、みな47%前後である。すなわち、義務教育から高等教育に至るまで、中国の女児の全体的な教育の機会は、まだ男児より少なく、農村地区ではもっと少ない。
 ・女性の入学率は急速に上昇しているけれども、教育レベルが高くなるにつれて女子学生の比率が低くなる現象は依然として変わっていない。2009年の高等専門学校・(大学の)本科・修士課程・博士課程に占める女子学生の比率は、それぞれ52.4%、48.9%、49.3%、34.9%である。
 ・名門大学への進学者数も、一概に女性が優勢とまでは言えない。たとえば2009年の上海から進学した人のうち、復旦大学に入ったのが男子422人、女子488人、上海交通大学が男子632人、女子407人、精華大学が男子48人、女子32人。北京大学が男子29人、女子36人であった。十数年前・二十数年前は、名門大学、とくに理工系の名門は、絶対的な男子学生の天下だったのが、現在は全体の趨勢としては、男女半々になったのであり、これは、社会の進歩であり、教育の公平さの結果である。
 ・女性は、たとえ学業上は完全に男子学生を超えたとしても、いったん伝統的に男性が権力を持っている職場に踏み入れたら、いわゆる「学業の優勢」は、ほとんどなくなってしまう。

また、北京師範大学教育学院教授の鄭新蓉さんは、「精華大学・北京大学のような、売れ行きがよくて、社会的報酬が高い専攻に、どれほど女性がいるというのか? 女性が得意な言語専攻だけで、ある程度優勢であるにすぎない」「現在、男性は社会的報酬がより高い専攻を選択するようになって、小語種専攻への関心は、もともと弱い」と語っています(38)

「女子は、専制的(=詰め込み式の)教育の試験で得点を取るのが得意なだけだ」という議論に対しても、徐さんは、「近年は、大学入試は、しだいに学生の総合的な資質と能力を見るようになっており、丸暗記だけでは高得点を取ることは難しくなっている。ところが女子生徒の成績は下降するどころか、日を追って上昇している」と反論しています。

実は1990年代から、女子生徒が大学入試で成績が良いことに対して「それは、女子は暗記が得意で、入試が上手だからにすぎない。現在の教育体制や受験制度は男子の能力を生かしていない」という議論が起こって、それに対して反論が出るという状況はあったようで(39)、その頃から同じような議論を繰り返している面もあると思います。それにもかかわらず、女性の高等教育への進出は進んできたわけです。

徐さんは、女性が大学に進学する比率が上昇した原因については、「計画出産の国策が全面的に推進されたこと」による部分が大きい、と述べています。すなわち「一人っ子がだんだん多くなって、女の子の価値が上がった。保護者は男の子と女の子に同じような期待を抱くようになり、養育・教育の面で同等のリソースを与え、サポートをするようになった」というのです。

とはいっても、単純に楽観はできないようです。『女声』誌は、最近、女性の高等教育への進出を抑え込む潮流が生じているのではないか、と危惧しています(40)
 ・2007年には大学の新入生の中の女子学生の比率が52.9%になり、2010年には大学の中の女子学生数が男子学生数を上回ると予測されたにもかかわらず、そうなっていない。
 ・最近、「全国大学統一入試」以外の、大学ごとの「自主学生募集」が拡大しているが(41)、その中で男子が優遇されている。「多くの学校が、女子生徒の点数が高い専攻では、通常20~40%の自主選択の中で『男に恩恵を与えて女を抑える』。これはすでに同業者ならば誰でも知っている『情理に合った』隠れたルールであり、まだ公衆に監督されていない不公正な客観的事実である」(42)

 先に述べたように、中国人民大学と上海外国語大学が、今年初めて小語種の採用を男女別におこなったことも、憂うべきことのように思います。

日本の場合とも比較可能な現象として捉えることもできるのでは?

日本でも、1960年代、大学に女子学生が増大すると、「女子大生亡国論」が一世を風靡したことがありました。

1980年代終わりから1990年代初めにかけては、東京の都立高校、とくに旧制府立中学の流れをくむ「名門校」で、男子よりも女子の方が募集定員枠が少ないために、女子の合格ラインが男子よりも高くなっていることが問題になったこともありました(43)。当時、いわゆる「名門校」の側は、「女子が入学すると学力が落ちて男子に影響する。受験競争に勝ち抜けない」「旧制中学時代からの男子校の伝統を守るのが大切」「女子は浪人を嫌い、4年生大学への進学率が落ちる」「トイレや更衣室など施設面で女子の増員に対応できない」といったことを女子を制限する理由として述べていたそうです(44)

以上のようなことは、女性の高等教育への進出に対する抑圧と見ることができると思います。

また、日本は、現在でも、欧米と異なって、中国同様に、女性の高等教育の在学率が男性より低いという特徴があります。たとえば、平成22年版『男女共同参画白書』は、女性の高等教育在学率について、「日本と欧米等諸国,韓国の高等教育の在学率を男女別に比較した」図を示して、「[日本の]女性の在学率は54.1%と,9割を超えている米国や北欧諸国と比較してかなり低いものになっている。また,韓国を除き,他の国では男性より女性の方が在学率が高くなっているが,日本では逆に女性の方が在学率が低いという状況にある」と指摘しています(「特集編女性の活躍と経済・社会の活性化」[pdf]p.21)。

今回の問題は、中国の高等教育への女性の進出と、それに伴う深刻な反動を明るみに出しましたが、日本と比較可能な現象と捉えることによっても、さまざまなものが読み取れる可能性があるように思います。

この記事の続報:「大学入試の男女差別に対する抗議活動つづく――差別を正当化する教育部を批判して、坊主頭になるパフォーマンスアートも」[2012年9月25日追記]

(1)大塚豊『中国大学入試研究』(東信堂 2007年)にも、芸術系大学、体育大学、軍関係の大学が「繰り上げ学生募集」をしてきたことが書かれています(p.120-121)。
(2)高校招生提前批投档线出炉 北大小语种文科又夺魁 香港中大理科再居首 提前批“女高男低”有高校男女生相差40多分」『南方都市報』2012年7月8日。
(3)たとえば、『南方都市報』が取り上げた北京外国語大学の浙江省での繰り上げ募集でも、以下のような男女の格差がありました。
・文科―男:661点、女:671点(10点差)
・理科―男:669点、女:674点(5点差)
(「多所高校招生面试性别歧视 海南高分女生未获面试资格」鳳凰網2012年7月18日[来源:時報])。
(4)多所高校招生面试性别歧视 海南高分女生未获面试资格」鳳凰網2012年7月18日(来源:時報)。
(5)人民大学小语种招生分数线“男女有别”」網易新聞中心2012年7月8日(来源:京華時報)。中国人民大学の小語種の場合、福建省の合格ラインも報道されていますが、文科は、男:634点、女:630点で、女子有利なのですが、理科は、男:645点、女:650点で男子有利でした(「上外提前批次分数线首次“男女有别” 广西文科录取线女比男高65分,网友认为有歧视之嫌」『青年報』2012年7月17日)。
(6)上外提前批次分数线首次“男女有别” 广西文科录取线女比男高65分,网友认为有歧视之嫌」『青年報』2012年7月17日。
(7)同上。
(8)北大小语种在京提档线公布」『新京報』2012年7月9日。
(9)公益人士就高校男女录取比例及录取专业申请信息公开」法制網2012年7月9日。
(10)上外提前批次分数线首次“男女有别” 广西文科录取线女比男高65分,网友认为有歧视之嫌」『青年報』2012年7月17日。
(11)李思磐「高校招生分数“女高男低”有待立法解决」『東方早報』2012年7月23日。
(12)法律NGO上书教育部:高校招生存性别歧视」新浪網2012年7月17日(来源:南方都市報)、「追求“性别平衡”引来“教育不公”?」金融界2012年7月21日(来源:天津日報)。
(13)もっとも、入試の合格ラインの不平等の問題自体は、それ以前から存在しています。1990年におこなわれた第1回中国女性の社会的地位調査でも、「あなたの周囲に、次のような不平等な現象がありますか(感じ方の強いものを、2項目選択してください)」という質問に対して、「入試で男女の合格点が不平等なこと」という項目を、都市部では27.6%の人が選択しており、女性の第一選択では「雇用機会の不平等」とほとんど肩を並べた高い比率を示していました(中国全国婦女連合会[山下威士、山下泰子訳]『中国の女性―社会的地位の調査報告』(尚学社 1995年 本文p.336-339,付録p.15-16)。ただし、当時は、メディアを見るかぎりでは、合格ラインの不平等は、中等専門学校や技術学校、職業高級中学について言われることが特に多かったです(遠山日出也「近代家族と民主主義──今日の日本と中国の家族を手がかりに」『女性学年報』第17号[1996年]p.82)。
(14)是性别歧视,还是合理平衡?」人民網2012年7月13日(来源:検察日報)。
(15)「好反是错?——从高校分性别划线看男权布局」『女声』118号(2012.7.2-7.8)[word]。
(16)公益人士就高校男女录取比例及录取专业申请信息公开」法制網2012年7月9日、「公益人士发问教育部:高校招生凭什么限制性别比例?」『羊城晩報』2012年7月11日、「高校分数线男低女高为缓解男女比例失调?」EOL2012年7月11日(来源:新京報)。
(17)中心递交督请纠正高校部分专业高考录取性别歧视意见书」北京众泽妇女法律咨询服务中心サイト2012年7月13日、「关于督请纠正部分高校部分专业高考性别歧视的法律意见书」北京众泽妇女法律咨询服务中心サイト2012年7月16日、「法律NGO上书教育部:高校招生存性别歧视」新浪網2012年7月17日(来源:南方都市報)。
(18)高招分数“女高男低”性别歧视还是弱势补偿?」2012年7月13日(来源:工人日報)。
(19)高考招生男女有别 投档线最高相差44分」名城新闻网2012年7月15日。
(20)部分院校招生“男女有别”被疑性别歧视 教育部未回应」中国網2012年7月12日(来源:中国广播網)。
(21)追求“性别平衡”引来“教育不公”?」金融界2012年7月21日(来源:天津日報)。
(22)教育平等前的性别歧视从何而来――部分高校专业提高女生录取要求调查」『中国婦女報』2012年7月13日。
(23)法律NGO上书教育部:高校招生存性别歧视」新浪網2012年7月17日(来源:南方都市報)。
(24)"阴盛阳衰"只怪男生自己不争气 女生"躺着中枪"很无辜」新民網2012年7月18日(来源:紅網)。「多所高校部分专业分性别投档 被质疑涉嫌性别歧视」鳳凰網2012年7月11日(来源:新京報)にも、(a)~(c)のような主張が書かれていますが、「大学合格最低点 男性より女性高く 性差別に当たるとの指摘」(中国網日本語版2012年7月13日)も、『新京報』がソースであるこの記事を翻訳したもののようです。
(25)人大小语种录取分数线分男女 女生高男生13分」鳳凰網2012年7月14日(来源:中国青年报)。
(26)储朝晖:招生分数线“男女有别”公平吗?」財新網2012年7月19日。
(27)燕子山(評論員)「“男女区别划线”在招生上的实质公正」新浪網2012年7月12日(来源:燕趙都市報)。
(28)李思磐「高校招生分数“女高男低”有待立法解决」『東方早報』2012年7月23日。
(29)「好反是错?——从高校分性别划线看男权布局」『女声』118号(2012.7.2-7.8)[word] 、p.4。
(30)换了马甲还是性别歧视」『羊城晩報』2012年7月21日。
(31)李思磐「高校招生分数“女高男低”有待立法解决」『東方早報』2012年7月23日。
(32)「好反是错?——从高校分性别划线看男权布局」『女声』118号(2012.7.2-7.8)[word]、 p.4-5。
(33)"阴盛阳衰"只怪男生自己不争气 女生"躺着中枪"很无辜」新民網2012年7月18日(来源:紅網)。
(34)ここでは詳しくは述べられませんが、この本に対しては、『女声』や『中国婦女報』が強烈な批判を展開しました(「男孩真的需要被“拯救”么」『女声』75期[2011.3.28-4.3][word])、(「女权主义导致了男孩危机?——“拯救男孩”讨论之一」『中国婦女報』2010年6月2日、荒林「父权危机感之下的拯救男孩宣言」『中国婦女報』2010年6月2日、方剛「“拯救”男孩?荒唐!」『中国婦女報』2010年6月2日、「现代教育制度男孩成长的最凶猛杀手?——“拯救男孩”讨论之二」『中国婦女報』2010年6月3日、「“拯救男孩”,我不认为需要特别的关注」『中国婦女報』2010年6月3日、徐安琪「男孩危机:一个危言耸听的伪命题」『中国婦女報』2010年6月2日)。
(35)人大小语种录取分数线分男女 女生高男生13分」鳳凰網2012年7月14日(来源:中国青年报)。
(36)高校擅自规定男女生录取比例不妥」和訊網2012年7月13日(来源:重庆晨报)。
(37)男孩危机是个伪命题」新浪網2011年12月28日(来源:新民周刊)。徐安琪さんのこの観点は、すでに、徐安琪「男孩危机:一个危言从听的伪命题」(『青年研究』2010年1期)で詳述されています。
(38)教育平等前的性别歧视从何而来――部分高校专业提高女生录取要求调查」『中国婦女報』2012年7月13日。
(39)劉海峰・一見真理子・赤木愛和「中国における大学入試と女性の高等教育機会に関する研究[PDF]」(『創大教育研究』第10号)は、2「『女状元』の増大と入試改革に関する論争」参照。
(40)「好反是错?——从高校分性别划线看男权布局」『女声』118号(2012.7.2-7.8)[word] 、p.7-8。
(41)大塚豊『中国大学入試研究』(東信堂 2007年)も、第6章「市場経済移行期の大学入学者選抜――経済に揺り動かされる教育――」の第6節「市場経済化に依拠しない多様化・自由化措置」の3「受験機会の複数化」のなかで、「とくに一流大学が積極的に取り組んでいるのは個別大学が独自に実施する学生募集(原語は「自主招生」)である」として、2000年ごろから「自主招生」が拡大しつつあることを述べています(p.229-230)。
(42)徐安琪「男孩危机:一个危言从听的伪命题」(『青年研究』2010年1期)p.40。
(43)「『都立高、男女枠の撤廃を』 選抜検討委が報告書」『朝日新聞』1988年10月14日(東京)、「東京都立校の募集定員 『女子少数は差別だ』 東京弁護士会が報告書」『読売新聞』1988年10月14日(東京朝刊 都民2)、「都立高入試の男女別定員を見直しへ 父母の批判受け検討委」『毎日新聞』1988年12月9日(東京朝刊)など。また、これらの記事には、公立高校の生徒募集で男女別枠を設けているのは、東京都のほか、男女ほぼ半々になっている福井県などごくわずかだが、共学枠で募集していても、高校側が事実上、女子の入学者を制限しているところもあること、中学の進路指導で女子の合格基準を男子より高くしている場合もあることも伝えているものもあります(「公立高定員で男女別枠はなぜあるのか」『朝日新聞』1990年3月1日朝刊)。
 また、大阪府でも男女別の合格枠があり、そのことに対する疑問の声も出ているという記事が2001年に掲載されているなど(「公立校入試で男女別合格枠、不公平では(どうなってるの?)/大阪」『朝日新聞』2001年6月3日大阪1)、単純に1990年ごろの東京の問題とも言えなさそうです。
(44)上記「『都立高、男女枠の撤廃を』 選抜検討委が報告書」、および「公立高定員で男女別枠はなぜあるのか」『朝日新聞』1990年3月1日朝刊)。

台湾のジェンダー平等教育法公布5周年目に民間団体が現状を検証

 2004年の6月23日、台湾で「ジェンダー平等教育法(性別平等教育法その英訳立法説明[いずれもワードファイル])」(1)が公布されました。その5周年に当たる今年の6月24日、同法の制定に尽力した台湾性別平等教育協会台湾女性学学会(女学会)台湾同志諮詢熱綫協会婦女新知基金会台北市女性権益促進会の5団体が、共同で記者会見をおこない、同法の施行状況を点検した結果を発表しました。その大まかな内容を紹介します(正確には原文をご覧ください(2))。

 上の5団体も、ジェンダー平等教育法ができたことによって、妊娠した学生の権益保護、セクハラの訴えや調査、大学のジェンダー課程の増加などの面で成果があったことは喜んでいます。けれども、同法の理念と台湾の教育の現状との間にはまだ大きな落差があることを示すために、以下のような統計を示しました。

○校長の女性比率
・小学校 教員68.51%→校長27.20%
・中学校 教員67.76%→校長28.38%
・高校  教員60.01%→校長19.31%
・職業高 教員51.05%→校長10.90%
・大学  教員34.34%→学長 8.64%(大学・学院・専科の3つを含む)
 (日本とは学制が違うので[Wikipedia「台湾の教育」]、一概に比較できませんが、日本よりは、教員・校長ともに、女性比率は高いです……日本:「本務教員総数に占める女性の割合(初等中等教育,高等教育)」『男女共同参画白書(平成20年版)』)

○高級職業学校(職業高校)の学生の男女比
・農業……男:47.4%、女:52.6%
・工業……男:84.7%、女:12.6%
・商業……男:38.1%、女:61.9%
・家事……男:10.0%、女:90.0%

○高校の教科書の文の中では、多元的性別(同性愛者、トランスジェンダー、多元的家庭)は、ごく少ない比率しか占めておらず、教科書によってはまったく言及していない。

 次に、以下の9つのテーマについて報告がなされました。

①制服
 昨年10月、教育部は、女子学生に対する(特に夏季の)スカートの強制は、ジェンダー平等教育法の精神の合致しないと述べて、改めるように指示した(本ブログの記事参照)。しかし、ここ数カ月、すでに夏季になったが、民間団体には、多くの学生から「スカート以外の選択肢がない」という訴えが寄せられている。

②ジェンダーによるいじめ(性別覇凌)
 ジェンダーによるいじめ(女っぽくて繊細な男性、男っぽくて勇ましい女性、トランスジェンダーの学生などに対するいじめ)は、ジェンダー平等教育法によっても変わっていない(例:「学生被譏『娘炮』欲軽生,師冷漠」『蘋果日報』2009年4月29日)。(3)
 生物学的性別によって規定された制服(男が青で、女がピンク)、教師が教育の場で伝達するジェンダーステロタイプ(女子は女らしく、男子は泣いてはいけない)、誰もが異性愛者であるというジェンダーブラインドネスが、多元的な性別の展開を妨げ続けている。その最大の被害者は、男女の二分法を越えた学生である。大多数の学生たちは、ジェンダーの多元性を尊重することを学ぶ機会がないので、彼らに言語的・身体的な暴力をふるっている。

③セクシュアルハラスメント
 ジェンダー平等教育法は、学校はセクハラ防止の準則を制定しなければならないこと(20条)や学校でセクハラ事件があった場合、通報したり、設置したジェンダー平等教育委員会によって調査・処理したりすべきこと(21条)を規定している。
 しかし、学校の中では、インターネットの利用が広がるにつれ、加害者がネット上で、被害者に対して「公用車、いつでも(公車、随便)」「乱れた女(爛女人)」などの悪口を言うといったセクハラも広がっている。けれど、調査や処分をしていない学校がある。
 また、学校は教育が本質であり、ジェンダー平等教育法25条は、学校は、加害者に対して、被害者にお詫びさせる、8時間のジェンダー平等関係の課程を受けさせるなどの処置をすることを規定している。しかし、ある学校は、セクシュアルハラスメントの処罰は必ず「過失として記録する(過記)」という処分でなければならないと誤解しており、教育的な意義を弱めているだけでなく、通報・調査などに消極的になっている。

④性教育
 性教育の専門的訓練を受けていない教師が担当したり、教材や教案などが見当たらないために、女子学生が身体の自主権を保護できない情況を招いている。

⑤同性愛
 性的指向にかかわらず、少なくとも30%の人は小学生のときに初恋をする。しかし、小学校では同性愛情報がまったく封殺されているために、同性愛者の生徒にとってはモデルがなく、社会のあらゆるところで同性愛は汚名を着せられている中で、彼らは成長に困惑する。

⑥大学のジェンダー課程
 全体的には各大学のジェンダー関連の課程は増加しているが、その分布にはかなり不均衡がある。若干の国立大学では15─20にも達してしているが、一般の大学、私立大学、技術系では、ふつう1─2しかない。

⑦高等教育
 ジェンダー研究に関しては、修士クラスはあるが、博士クラスはまだない。過去数年、多くの大学が設置を申請したが、まだ通過していない。ジェンダー研究は新興の領域であり、教育部が具体的な特別措置をとって発展を援助するべきである。

⑧移民女性の多元的文化(この項目は発言稿が詳しいので、長くなりました)
 台湾には、2008年2月の時点で、外国籍の配偶者(大陸の配偶者を含む)が計40万1623人おり,その大多数の女性である。こうした新移民(4)について、大部分の教材は、新移民とその子どもを教育することにだけ焦点を当てていて、国際結婚の家庭は「補導」し「助力」すべき多くの「問題」に満ちているという先入観を持っており、台湾の民衆がいかにしてステロタイプなイメージを打破すべきなのかについては、少ししか言及していない。要するに「新移民には問題があるから、教育が必要だ」ということにとどまってる。けれど、実際は、彼女たちも大多数は母国で教育を受けており、彼女たちに必要なのは、中国語を学んで、現地の生活に適応することだけだということを認識すべきである。

 教材には、新移民の家庭について、「父親は結婚相手を見つけられないから、外国籍の配偶者を求め、母親は経済のために嫁いできた」というふうに書かれている。しかし、国際結婚で生まれた子どもが、このような父母を辱めている教材で学習することは耐えがたいだろう。

 新移民の女性は、社会的な注目を集めて以来、「助力される者」として見られてきた。教材にもそのように書かれている。しかし、教科書の教育対象はすべての未来の台湾公民なのだから、政府が新移民に対して配慮していることや新移民が台湾の風土や民情を学ぶことだけでなく、台湾が、新移民やその母国に対する理解を深めることも強調しなければ、多元的とは言えない。

 まして新移民の女性は、台湾に来て以後、子どもを産み育て、一家の衣食住のケアをしており、しばしば夫家の家業を担うなどして一家の経済も支えてきた。新移民の女性は、台湾の多くの家族の「無償労働者」である。政府の福利制度が貧弱なために、下層の家庭は、やむなく結婚によって嫁を労働力にしている。

 真の社会問題は、政府がケアの仕事を私領域化して、女性に担わせていることである。社会構造におけるこうしたジェンダー抑圧や民族差別こそを正視すべきである。私たちは、「国際結婚」自体は個人と家族の選択として尊重しなければならず、彼らを社会問題の根源であるかのように言ってはいけない。

⑨スポーツ
 学生のスポーツ参加、選手のリソース、試合の機会、スポーツのモデル(教師、コーチなど)の各面で重大な性別の偏りが見られ、その結果、男女の運動能力についてのステロタイプなイメージが強化されるという悪循環が生じている。
 ・小学校から大学に至るまで、学校のチーム(校隊)の男女比は、男性が女性よりも30%以上多い(女性が占める比率は、小学校で39%、中学校で34%、高校で32%、大学で34%)。
 ・そのため、国光賞金(5)も、男子学生が57%を獲得し、女子学生は43%しか獲得していない。とくにコーチに関しては、男性コーチが83%の賞金を獲得している。
 ・専任の体育教師は、小学校を除いて、男性が女性より30~50%多い(女性の体育教師の比率は、小学校53.42%、中学校36.18%、高校33.07%、大学27.74%)。
 ・学校のスポーツのコーチの男女比は、小学校から大学まで、男性が女性よりも50%以上多い(女性コーチの比率は、小学校23.18%、中学校26.85%、高校23.85%、大学23.14%)。

(1)台湾女性史入門編纂委員会編『台湾女性史入門』(人文書院 2008年)のⅡ-7「ジェンダー・イクォリティ教育法」も参照してください。
(2)性別教育戳戳不樂!?──性別平等教育法五週年總體檢」婦女新知基金會部落格(2009年6月25日)←各項目の発言稿も添付されています、「性別教育戳戳不樂!?──性別平等教育法五週年總體檢」台湾性別平等教育協会HPなど。
(3)『台湾女性史入門』の「ジェンダー・イクォリティ教育法」についての説明(邱淑芬著、横山政子訳)にも、同法の制定のときに、「屏東県の高樹国民中学の生徒でもある葉永君が学校のトイレで死亡するという事件が発生した。彼は女性的な一面を持つ男子生徒で、長期間にわたって他の生徒からいじめを受けていた。事件の真相がどこにあったかはさておき、彼の死は性同一障害の生徒を尊重し、その学習環境を保障しなければならないことを研究計画グループに知らしめた。これにより法律の名称も『両性(両性)』を改め『性別(ジェンダー)』へと変更されることになったのである」(52-53頁)と書かれています。
(4)2007年に台湾に帰化した外国人の比率は、ベトナム女性76.4%、インドネシア12%、カンボジア7.7%とのことです。詳しくは、台湾女性史入門編纂委員会編『台湾女性史入門』(人文書院 2008年)のⅠ-8「国際結婚と新移民女性」、Ⅱ-8「新移民女性と教育」の項目など参照。
(5)國光體育獎章及獎助學金頒發辦法」という法規により、各種のスポーツ大会での優勝者や成績優秀者に支給されるもののようです。

台湾で女子生徒に対するスカート強制が問題に

 昨年の話で恐縮ですが、台湾で、女子学生が制服としてスカートを強制されていることが問題になりました。

 台北市女子第一高級中学(日本の高校に当たる)は、学生が体操服のショートパンツ姿で校門を出入りしていることに対して、「体裁が良くない」言って、その学生たちを処罰してきました。昨年秋、学生たちがそれに対して「不便だ」と抗議をしたことから、女子学生の制服が問題になりました(1)

 民間団体である「台湾ジェンダー平等教育協会(台湾性別平等教育協会)」が調査したところ、台北市の多くの国民中学(日本の中学校に当たる)と高級中学が、校則によって、夏季の制服として、女子学生にスカートをはくよう強制していることが明らかになりました(以下参照)。もしも守らなければ、さまざまな処罰をされます。

《夏季の制服の規定についての調査》
・国・私立の高級中学と高級職業学校……スカート:69.30%、スカートだがズボンも可:2.53%
・台北市立・私立の高級中学……スカート:95.56%、スカートだが、ズボンも可:13.95%。
・台北私立・私立の国民中学……スカート:62.50%、スカートだが、ズボンも可:15%。(2)

 ジェンダー平等教育協会には、女子学生からさまざまな訴えが寄せられました。「のびのびできない」「心地よくない」「スカートをはくのが嫌な女子学生もいる」「ジェンダー平等教育法が施行されているのに、なぜ女子学生にはスカートを強制するのか」「男子学生は自由にズボンをはけるのに、女子学生ははけないのは何故か?」「スカートだと、風が強いと、覆い隠さないといけない」「階段を登るときに、押さえていなければならない」「腰を下ろして授業を受けたり、靴紐を結んだりするときに、注意しなければならない」「男子学生が足をじっと見るのがいや」(3)

 また、台北市立・私立の高級中学の3割近くは、冬服にもスカートを採用しており、「寒くてたまらない」という声も出ました(4)

 小学生にとっても、女子は学校帰りに球技場を駆け回ったり、滑り台を滑ったり、鉄棒をしたりできないこと、スカートめくりをされることを指摘する声があります(5)

 ジェンダー平等教育協会は、10月9日、記者会見を開いて、女子学生にスカートを強制するのは、なんの必要性も合理性もないことを強調しました。民進党の立法委員の黄淑英さんは、女子学生に対してスカート着用を強制するのは、上述の「ジェンダー平等教育法(性別平等教育法)」(ワードファイル)(2004年6月公布)(6)違反だと指摘しました。同法は「性別の差異が不公平な対応をもたらす」ことを避けるためのものであり、第12条には「学校はジェンダー平等の学習環境を提供しなければならない」とあるからです(7)

 台湾の教育部(日本で言う文科省)のジェンダー平等教育委員会は、この問題を受けて討論をおこない、10月13日、以下のような発表をしました(大要)。

 一、多元的選択を尊重し、ステロタイプなイメージを取り除くこと。一部の学校が女子学生にスカートをはくことを強制しているのは、ジェンダーのステロタイプなイメージとジェンダーによる偏見が潜んでいるようで、ジェンダー平等教育法の「多元性を尊重し、性による差別と偏見を取り除く」という立法の精神に背いている。

 二、学生が個別の選択によって処罰を受けてはならない。校則は、ジェンダー平等教育の精神に合致し、学生の個別の選択を尊重したものでなければならない。学校は、学生の服装・風采に対する個別の選択によって処罰をしてはならず、学生に民主的精神とジェンダー平等意識を身につけさせるようにすべきである(7)

 その後の経過はフォローしていませんが、日本の文科省には、こうした声明は発表できないと思います。

(1)進出禁穿短褲不雅観? 北一女争褲権」『聯合報』2008年10月5日。
(2)制服譲女孩真『囧』?!──女学生要有選択権 廃除強制裙装校規 記者会」(2008.10.09)台湾性別平等教育協会HP、「立委痛批/9成高中強制裙装 違性平法」『自由時報』2008年10月10日。
(3)附件 学生申訴内容」(ワードファイル)
(4)『穿裙子很囧』高中妹争褲装権」『中国時報』2008年10月10日。
(5)破除刻板印象 性別平等」台湾読報教育資源網
(6)「ジェンダー平等教育法」については、台湾女性史入門編纂委員会編『台湾女性史入門』(人文書院 2008年)52-53頁の「ジェンダー・イクォリティ教育法」の項目も参照。
(7)(2)に同じ。
(8)教育部性別平等教育委員會籲請學校尊重學生服儀之多元選擇」(2008/10/17)教育部性別平等教育委員会HP、「裙装褲装 学校不得強制規定」『台湾立報』2008年10月14日。

[お断り]
 4月8日、上記の記事を書いた際に、冒頭で「最近、スカートとジェンダーの関係が台湾と大陸で話題になりました。2回に分けて書きます」と述べました。しかし、私が当初、大陸での話題として取り上げようと思った事件は、「ニュース」としての性格が薄いため、予定を変更して、今回は扱うのを中止して、またの機会に取り上げさせていただきます。冒頭の文も削除させていただきました。

小中学校の教材と授業のジェンダー分析

 3年前に出版された本ですが、史静寰『教材と教学のジェンダー世界に歩み入る(走進教材与教学的性別世界)』(教育科学出版社 2004年)(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ)を中国から取り寄せて読んでみました。
 この本は、ジェンダーの視点から中国の基礎教育の教材と教室での授業の状況を分析した論文集です。

 中国でも、教科書をジェンダー視点から分析すること自体は、以前からおこなわれており、早くも1992年の『中国婦女報』には、北京外語学院女性学研究討論会が小学校の国語教科書の挿絵を分析した記事が掲載されています(1)
 同年の日本の『中国女性史研究』にも、遠藤祐子さんや丹野美穂さんと私がいっしょに翻訳した、閔冬潮・杜芳琴「中国の中学歴史教科書における性別問題の分析」が掲載されています(2)
 けれども、こうした問題を研究した単行本は、これが最初だと思います。
 
 上の本を執筆した北京師範大学教授の史静寰さんたちは、2000年から「中国の幼稚園・小中学校・成人識字教育の教材のジェンダー分析の研究」プロジェクトを始めました。
 メンバーは、北京師範大学、中央教育科学研究所、陝西師範大学、西南師範大学、全国婦連女性研究所などの20名余りの研究者です。

この研究プロジェクトのの基本目標は次の4つでした。
 1.現行の小中学校の教科書に依然として存在するジェンダーの旧いステロタイプに対して記述・分析することによって、教育業務従事者がジェンダー問題に対する関心を持ち、議論をして、ジェンダーの角度から教学の材料と教学の行為を再認識し、ジェンダー平等の原則を教育・教学業務を評価する一つの要素にする。
 2.ジェンダーの平等と公平の基礎の上に、教学計画と参考資料の作成を設計することを通じて、教師がジェンダー平等意識を獲得するというエンパワメントをすることを助け、ジェンダーの平等と公平の理念を教室の教学の実践に入れる。
 3.関係部門に報告や提案をすることによって、ジェンダー視点をカリキュラムや教材の編集・執筆の主流の業務に組み入れることを推進する。
 4.研究協力を通じて、ジェンダー教育の領域における国際的・国内的協力を強める。

 この研究においては、教材に出てくる人物などについての定量研究だけでなく、教材を使用している教師や学生にインタビューしたり、教室での授業を観察したりするなどの質的研究の方法や、異なった時期の教材を比較する歴史研究の方法なども用いられました。

 2001年7月には、この研究グループは「ジェンダーと教材文化研究」学術シンポジウムを開催しました。このシンポは、こうした問題に関する初めてのものでしたので、『中国婦女報』にも大きく報道されました(3)

 プロジェクトの研究結果とそれに基づく提言は、全国婦連を通じて国務院にも送られ、国務院から教育部に転送されました。
 その後の2002年7月に、教育部の基礎教育局と基礎教育課程教材発展センターが北京で開催した「全国小中学教材建設シンポジウム」における討論では、「教材の編集・執筆の過程におけるジェンダーの平等と公平という理念が共通認識になった」とのことであり(4)、この研究プロジェクトは、関係者にはある程度の影響を与えたようです。
 
 さて、この本の構成は、以下の通りです。

序言 教材と教室の教学のジェンダー世界に歩み入る(史静寰)

上篇:教材・読物のテキストのジェンダー文化の研究
『宝宝家庭課堂』から見たジェンダー役割の社会化(劉雅琴)
ジェンダーの差異がどれほどあるか――『父母必読』のジェンダー分析(何夢燚)
現実生活と童話世界の対話(羅佩珍)
ジェンダー視角から見た小学『社会』教材の改革(易進)
まだ開くことが必要な窓格子――『総合実践活動・生活』教材のジェンダー分析(卓挺亜)
姿を隠し、声を失った女性――小学国語教材のジェンダー文化のテキスト分析(郭葆玲)
ジェンダーステロタイプの反映――小学国語教材のテキストの人物に対するジェンダー分析(楊潔・呂改蓮)
科学のジェンダー化の構築――香港版小学国語教材に対するジェンダー分析(黄河)
女性の無視――初級中学の国語教材の女性像の分析研究(馬国義)
初級中学の歴史教材における武則天像に対する分析(郭楠)
女性と政治の記述:歴史教材におけるジェンダーポリティックスのイデオロギー解読――中国前近代史の部分を例に(余艶)
お母さんと私――初級中学の英語教材における両世代の女性のジェンダー役割の分析(趙萍)
マカオの中学一年の中国語教科書におけるジェンダーイデオロギーの内容の分析研究(蘆立濤)
香港・マカオ地区の初級中学の国語教科書におけるジェンダー問題研究(黄俏梅)
良妻賢母から平等な労働者へ――中国近代の初級小学の国語教材における女性像と女性役割の分析(王毅)
識字教材におけるジェンダー役割のステロタイプ化(頼立)
女性識字、および識字後の教材のジェンダー分析(王素)
成人識字教材における職業役割のジェンダー分析(曲雯)
少数民族の識字教材の中のジェンダー研究(任市明)

下篇:教学のプロセス、教師と生徒の相互作用のジェンダー文化研究
分析学の原理を運用した、幼児読み物に対するジェンダー分析(布朗・戴維斯)
オーストラリアと日本の子どもが読む『紙袋のプリンセス[The Paper Bag Princess]』に関する研究(布朗・戴維斯)
児童の遊戯におけるジェンダー文化の分析(張咏)
児童 ジェンダー 国語教材(郭力立・趙張洲)
紙一枚を隔てて――小学校の数学の教室におけるジェンダー役割の透視(陳萍・陳偉玲)
誰が良い学生か――初級中学の理科教師のジェンダーステロタイプの分析(宋輝)
初級中学の国語教学におけるジェンダー問題研究(張莉莉)
打工妹と生活技能教育(李慶)

 以下、史静寰さんの序言の中で、教材と授業に関してジェンダー分析をしている箇所について、だいたいのところ、どんなことが書いてあるのかを紹介してみます(正確には、原文を見てくださいませ)。

一 教材のテキストの中の性別のアンバランスとステロタイプ

1.男女の比率がバランスを欠いており、女性の出現の比率は、児童読み物で最も高く、年齢が上がるにつれて、教材の中の女性の比率は下がる。
 女性が最も多く出てくるのが児童向けの読み物だということは、家庭生活では母親が主役であるという性別分業の反映である。
 また、出てくる男の子は知的に高いものを要求されている一方、生活習慣で誤りを犯す存在として描かれている。このことは、男の子は聡明かつ腕白な存在で、その誤りに対しては社会が寛容であることを示している。

2.小学校以後の教材においては女性が少なすぎ、とくに独立した身分の女性の主役が欠けている。
 小学校の国語教科書において、女性が主役である話は、19.2%だけである。
 社会科では、出てくる人数は男女で基本的に同じだが、独立した身分として名前が出てくる者の中では、女性は5%だけである。
 また、数学の挿絵には、男性が女性の倍近く出てくるうえ、男性の方が思考が深い存在として描かれている場合が多い。

3.男女の職業における分業や活動領域・性格・行動などの面における伝統的なジェンダーのステロタイプが重大である。
 「総合実践活動・生活」という斬新な科目の教科書でも、その挿絵のジェンダーのステロタイプはほとんど変わっていない。たとえば「自然と環境」というテーマにおいて、「なぜ」という問いは、ほとんどすべて男子生徒が出している。女性は、生活の小さな環境や小動物を愛護する役割を担い、「大気汚染」のような大きなテーマについては、男子生徒が解決方法を提起している。
 小学校の国語の教科書では、女性の挿絵は、家庭という私領域に登場する場合が多い。穎超のような党と国家の指導者でさえ、周恩来の衣服を繕ったり、警備員に傘を届ける女性として登場している。

4.時代感覚が豊かで、生徒の現実生活にとって身近で、生き生きとした具体的な女性という性別の手本が欠けている。
 教科書に出てくる女性は、数が少ないだけでなく、生徒の現実の生活に身近な、模範になるような女性像となると、さらに少ない。テキストに出てくる女性は、古人(花木蘭)や老人(母親)、有名人(謝冰心)であり、現実の生活との距離が遠く、子供たちが共鳴しにくい。
 また、テキストでは、女性は、善良で優しく、辛抱強い存在として描かれ、男性は、高尚で偉大な存在として描かれている。また、欠点を描写する際には、男性は、傲慢でずる賢く、女性は、幼稚で無知な存在として描かれる。つまり、女性は原始的で本能的、男性は主体的で知能的な特徴を持つものとして描かれる傾向がある。

二 教学活動におけるジェンダー文化の衝突と構築

1.ジェンダーの視角から見た、教師の観念と教学におけるその現れ
 幼稚園での遊戯のとき、教師は、女の子に、母親としての役割や規範を教え込んでいる。
 また、中学校の理科の教師に、ある子どもの行動を述べた文章を読んでもらって、その子の評価させると、全く同じ文章なのに、その子の名前を「王蕾(女性名)」とするか、「王健(男性名)」とするかで評価が異なってくる。たとえば「授業以外の本をよく読んでいる」子どもは、男の子なら「知識の範囲が広い」子どもとして、高く評価されるが、女の子だと、「学習をサボっている」子どもとして低く評価される。

2.ジェンダーの視角から見た、教室での教学における教師と生徒のコミュニケーションモデル
 教師と男子生徒との相互作用は、集中していて、親切で、自然で、「自然焦点型コミュニケーション」である。
 それに対して、教師と女子生徒との相互作用は、「礼儀正しい忌避型のコミュニケーション」であり、表面的に見ると、教師も生徒も礼儀正しく、親切だけれども、双方とも内心では小心翼翼としている。

3.ジェンダーの視角から見た、クラス内の男子生徒と女子生徒の相互作用
 女子生徒は、教室で問題に答える時、反応が遅く、声が小さい。その原因は、女子生徒は小さいときから「お上品」であるべきだと教えられているために、間違いをするのを恐れるからであるが、彼女たちはとくに男子生徒に責められ、嘲笑されることを恐れている。
 私たちは、女子生徒が教室で活発でないことを批判するけれど、男子生徒と女子生徒との間に潜むこうしたジェンダーの問題にも目を向けなければならない。

 私はこの本で扱われているような問題について十分知りません(ですから、訳語などが適切でない箇所もあると思います)。また、この本で述べられていることの中には、欧米や日本では既に明らかになっている点も多いかもしれません。
 けれど、中国の教科書と教育に即して、こうした問題を解明したこの本の意義は大きいと思いました。

(1)北京外語学院婦女学研討会(謝致紅執筆)「男人該做什麼 女人該做什麼――析伝統性別角色在小学語文挿図中的滲透」『中国婦女報』1992年1月3日。
(2)閔冬潮・杜芳琴「中国の中学歴史教科書における性別問題の分析」『中国女性史研究』(中国女性史研究会)第4号(1992年)。
(3)卜衛「女孩子読一読,男孩子想一想?」、趙萍「教材中的性別文化透析」いずれも『中国婦女報』2001年8月14日。
(4)王金玲主編『中国婦女発展報告 No.1(´95+10)』(婦女発展藍皮書)(社会科学文献出版社 2006年)126,250頁。
*注記してある以外の記述は、史静寰主編『走進教材与教学的性別世界』(教育科学出版社 2004年)によっています。

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遠山日出也

Author:遠山日出也
 検索から来られた方へ:このブログの記事を分類した一覧である「『中国女性・ジェンダーニュース+』記事総覧」を見ていただくか、下の「カテゴリー」欄を使われると、関連情報がご覧いただきやすいと思います。最近の行動派フェミニストについては、「中国の行動派フェミニスト年表、リンク集」をご覧ください。
 また、「中国女性・ジェンダー関係主要HPリスト」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。日本の問題の一部は、「ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の労働争議・まとめ」や「館長雇止め・バックラッシュ裁判」でまとめています。
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