2017-06

DV防止法をめぐる議論と運動――2015年を中心に――

<目次>

一 2014年11月の草案をめぐる議論と運動
 1.同居・恋愛関係・同性愛なども法の対象に入れるよう求める活動 2. DV被害者の加害者に対する犯罪への処罰軽減を規定することを求める建議 3.人身安全保護裁定の執行機関を警察にすること、および民事訴訟の過程や直前でなくとも、また本人でなくとも申請が可能にするよう求めるDV被害者による建議 4.障害者の視点からの意見と建議 5.家庭内での性暴力が隠蔽されていることを訴えるパフォーマンスアート

二 2015年7月の草案をめぐる議論と運動
 A 「反DV民間唱導グループ」による検討と建議など
 B さまざまなアクション
 1.ネット上のアンケート調査 2. BCome小組、2015年も北京の地下鉄の車内で《女の歌》を歌い、チラシをまいて、女性に対する暴力反対を訴える 3.養育権が妻にある子どもを奪った中国中央テレビのキャスターを批判し、精神的暴力や元の配偶者からの暴力、職場の責任を法に入れることを訴えるパフォーマンスアートなど 4. 中華女子学院のWoMen小組、少数民族の衣装や赤ずきんをまとった被害女性の扮装で反DVを宣伝 5. 女性に対する暴力反対をテーマにした展覧会、中止させられる
 C 27人の弁護士の連名の建議の書簡

三 2015年12月の草案と成立した法律をめぐって
 A 前進面の指摘
 B 問題点の指摘
 C 当初から基本的に変わらなかった根本的問題点
 1.各部門のDV防止の責任についての規定の不備 2.目的における「家庭の調和、社会の安定の促進」

2015年12月27日、中国のDV防止法――正式名称は、中華人民共和国反家庭内暴力法(中华人民共和国反家庭暴力法)なので、以下、反DV法と略す――が成立した(施行は2016年3月1日)。

このエントリでは、主に2015年の中国での同法をめぐる議論と運動を見ていきたい。法律や草案の文言自体については、別エントリで、成立した法律と2014年11月・2015年7月の草案とを全文翻訳して対照させたので、そちらをご参照いただきたい(中華人民共和国反家庭内暴力法――草案を含めた全訳、草案との対照)。

一 2014年11月の草案をめぐる議論と運動

2014年11月25日、国務院法制事務局が草案(意見募集稿)を発表し、12月20日までの間、広く社会から意見を求めた。パブリックコメントである。その後一週間ほどの運動についてはすでに一昨年、ご紹介しているので(「家庭内暴力防止法の草案発表、草案に対するさまざまな意見と活動」 2014年12月2日)、今回はそれ以後の動きをご紹介する。

一昨年ご紹介したとおり、2014年11月の草案については、以下のような意義と問題点が指摘されていた。
<意義>
・「人身安全保護裁定」(諸外国の「保護命令」に似たもの)が導入された。
・関係機関に対してDVに関する研修・統計を義務付けた。
・社会福祉機構や医療機関にDVについての報告を義務付けた。
・シェルターの設置を義務付けた。
<問題点>
・家庭内暴力の定義が狭く、法律上の家族成員間の暴力に限定されている。
・人身安全保護裁定について警察が何をするのかが書かれていない。
・シェルターが、その役割を果たせるだけの質を持ちうるかについて保証されてない。
・貧困者に対する法律扶助の規定がない。
・DV教育についての規定になぜか「小中学校」しか書かれていない。
・多くの機関の協力についての規定がなく、専門の反家庭内暴力機構(家庭内暴力防止委員会のような)が設置されない。
・民間団体の役割についても明確に規定されていない。

この草案に対しては、以下のような運動がおこなわれた。

1.同居・恋愛関係・同性愛なども法の対象に入れるよう求める運動

まず、一昨年も触れたが、2014年12月初め、レズビアングループ「同語」やネットマガジン「酷拉時報(Queer Lala Times)」が、反DV法が同居・恋愛・パートナーなどの親密な関係も対象にするよう署名を開始した(1)

また、12月4日は、中国の憲法記念日(2014年に定められた)であるとともに、法制宣伝日(2001年に定められた)でもある。この日、7都市(北京・広州・深圳・武漢・長沙・泉州・杭州)の女性たちが、それぞれの都市の婦女連合会(婦連)と公安局とに対して、2013年に「非婚の同居関係の暴力によって助けを何度求められたか? そのうちの異性愛の暴力と同性愛の暴力はそれぞれいくらか?」という点について情報公開を申請した。

この活動を呼びかけた韋洋さんは、「自分の身の回りにも、恋愛関係や同居の期間にパートナーから脅されたり、殴られたりした事例は多いので、反DV法が出来ると聞いたときは、非常に感激した。しかし、まさか意見稿には同居・恋愛中の暴力を扱っていないとは。私は非常にがっかりしたし、理解できない」と述べた(2)

さらに、12月24日には、北京の街頭で、2人のサンタクロースの扮装をした人がこづき合い、どなり合うパフォーマンスアートをした。2人の傍らでは、別の2人が「同性愛はどこにでもあるのに、立法部門の目には入らない」、「反DVには、あなたと私とta[他(彼)と她(彼女)の共通の音]の区別はない、DV被害に遭うことに性的指向の区別はない」というプラカードを掲げて、反DV法が同性間の暴力を視野に入れるよう訴えた(3)

2.DV被害者の加害者に対する犯罪への処罰軽減を規定することを求める建議

12月12日、全国12省の女性弁護士30人が、DVの被害者が加害者を死傷させた場合にDV被害を情状に入れることを求める建議を出した。具体的には、以下の2点を求めた。
 1.DV被害を刑事裁判の法定の量刑の情状に入れること。
 2.長期にわたる持続的なDVの被害女性が「暴力によって暴力を制して」加害者を死亡させたような事件には原則として死刑を適用しないこと(4)

3.人身安全保護裁定の執行機関を警察にすること、および民事訴訟の過程や直前でなくとも、また本人でなくとも申請が可能にするよう求めるDV被害者による建議

12月17日には、DV被害者60名が「人身保護安全裁定の適用範囲を拡大し、執行機関を明確することについての建議の手紙」を国務院法制事務局と公安部に送った。

発起人の陸蔓蔓さん(のちに李麦子さんと同性婚をした人である)によると、この建議は、四川省でDV被害者の李彦が夫を殺した事件がきっかけになった。李彦さんは、警察や婦女連合会に何度も助けを求めたが、助けを得られず、夫と争っているときに、過失によって夫を殺した。陸さんは、「もし李彦さんが暴力をふるわれていたときに人身保護命令制度があったら、夫を殺す惨劇は起きなかったかもしれない」と思ったが、意見募集稿には不十分な点があった。

陸さんは、12月15日、意見募集稿の「人身保護命令」について連署した建議の手紙を出すことを呼びかけたところ、2日間で60名の被害者の署名が集まった。

この建議では、以下の4点を求めた。

1. 人身保護裁定を執行する行政機関は、公安部門(警察)であることを明確にすること。
 意見募集稿では、裁判所を、人身保護裁定を出す権力を持つとともに、その裁定を執行する責任を持つと規定している。しかし、裁判所はあくまで裁判をする機関であって、財産ではないものの保護命令については、執行する警察力を持っていない。

2. 人身保護裁定の適用範囲を拡大すること。
 意見募集稿では、裁判所が人身保護手裁定を出すことができる範囲は、「離婚・扶養・養育・相続などの民事事件の過程中」と「訴訟を起こす前」だけである。すなわち訴訟を前提としており、かつ、訴訟が可能な主体は家庭内暴力の被害者だけである。しかし、被害者は、感情・家庭・経済などの原因により、そうした訴訟を起こせない場合も多い。だから、被害者が訴訟を起こしていなかったり、あるいは他の問題についての訴訟を起こしている過程であったりしても、裁判所に人身保護裁定を申請できるようにすること。

3. 人身保護裁定の有効期間を延長すること。
 クレイジーイングリッシュ(英語学習法の一つ)の創始者の李陽が妻のKimに対して暴力をふるった事件では、裁判所の人身安全保護裁定の有効期間は3カ月だったが、3カ月経ったら、Kimはすぐに李陽の悪意のハラスメントを始め、いかなる賠償金の支払いも拒絶した。このように裁定の有効期間が短すぎると、加害者に対する威嚇にならないし、有効期間が過ぎたら、加害者が言葉で脅すだけだと再度裁定を申請することも難しい。

4.強制的な司法関与制度を確立して、人身安全保護裁定の申請者の範囲を公安部門にも拡大すること。
 DV被害者は長期にわたる恐怖と脅しによって、自ら人身保護裁定を申請できないこともあるので、通報を受けた公安機関が被害者の代わりに申請できるようにすること(5)

4.障害者の視点からの意見と建議

12月24日には、多くの障害者団体や女性団体などが、障害者の視点から、意見と建議を出した。その建議は、主に以下の4つの点についてのものだった。
 1.家庭内暴力の定義を広げて、性暴力や経済・財産の剥奪・支配にも広げること。また、別れたパートナー、離婚した配偶者、後見人と被後見人、生活を共にしている非親族、関係が密接な介護者による侵害も家庭内暴力行為と見なすこと。
 2.家庭内暴力の予防・関与における障害者連合会の役割と責任を明確にすること。
 3.家庭内暴力の予防と処罰、被害者の人権保障など面で、障害者に対して合理的で便利な特別措置をとること。具体的には、「委託代理人」による訴えなどの手続きの主体を増やすことや、障害者に質問するときはソーシャルワークなどの専門の人々のサポートを提供するなど。
 4.人身安全保護裁定の申請は、訴訟手続きに付属したものでなくすこと。公安機関がその執行機構になるべきこと(6)

また、12月10日、深圳の東門歩行街で、1人のソーシャルワーカーが「傷ついた新婦」の扮装をして、DV防止立法への関心を持つよう訴えた。このパフォーマンスアートを呼びかけたのは深圳安瀾ソーシャルワークサービス社の黄さんだが、傍らで宣伝物を撒いたのは、障害者で、長年夫に暴力をふるわれてきた朱さんだった(7)。このように、障害者の被害者がこの問題についての活動において登場したことも特徴だろう。

5.家庭内の性暴力が隠蔽されていることを訴えるパフォーマンスアート

12月15日には、「赤ずきん」の扮装をした2人の若い女性(小猫さんと児玉さん[いずれも仮名])が、北京の後海の銀錠橋のそばで、「家族が円満ならば、何事もうまくいく(家和万事興)」と書かれた大きな扁額を背中に背負って、石畳に水で字を書くパフォーマンスアートをおこなった。水で字を書いても、時間が経つにつれて消えていく。そのことによって、彼女たちは、子どもが家庭内で性暴力に遭っても隠蔽される現状を示したのである。

中国でも、未成年者の性暴力被害の多くが家族によるものであることが明らかになっている。たとえば、北京青少年法律援助・研究センターの報告では、2006年~2008年にメディアで報道された未成年の性暴力被害は、知っている人によるものが68%であり、父親(実の父親だけではないが)によるものが61パーセントだった(この点については(8))。

小猫さんと児玉さんは、ネット上で知り合った人と議論していたとき、多くの人が未成年のときに親族による性暴力被害に遭った話をした。その中の多くは、家族や隣人に助けを求めても、拒否されたり、信じてもらえなかったりしたという(9)

2人のパフォーマンスアートは、とくに反DV法に向けてのものではないようだが、このアクションを報じた女声網の記事では、医者や教師など、未成年者と日常的に接触している人間の通報義務などにも触れており、反DV法とも関係するものだった。

二 2015年7月の草案をめぐる議論と運動

2015年7月28日、国務院常務会議が反DV法の草案を採択した。

8月24日には、この草案は全国人民代表大会常務委員会に提出され、同月27日におこなわれた全人代常務委員会での初の審議では、さまざまな委員から、精神的暴力や性暴力、同居の関係についても反DV法に入れるべきだという意見が出た(10)

9月8日には、中国人民代表大会ネットが、この草案を広く公表し、再び広く社会から意見(パブリックコメント)を求めた(反家庭暴力法(草案)全文中国人大网)。

A 「反DV民間唱導グループ」による検討と建議など

9月20日、「反家庭内暴力民間唱導グループ(反家暴立法民间倡导小组)」(広州ニューメディア女性ネットワーク、北京源衆ジェンダー発展センター[北京源众性别发展中心]、同語、北京為平、雲南明心ソーシャルワークサービスセンターなど)は中国社会科学院法学研究所公益研究センターと共同でこの草案についての研究討論会を開催した。

北京源衆ジェンダー発展センター主任の李瑩弁護士は、今回の草案が前年の草案と比べて進歩した点として、以下の3点を挙げた。

(1)最大の進歩は、人身安全保護命令が、独立した保護手続きとして出現し、他の何の訴訟の手続きに付属したものでなくなったことである。

2014年11月草案:
 第27条「人民法院が離婚・扶養・養育・他人の子の養育・相続などの民事事件を審理する過程において、家庭内暴力の被害者は人民法院に人身保護裁定を申請することができる。家庭内暴力の被害者は、訴訟を起こす前でも、人民法院に人身保護裁定を申請することができる。」
 ↓
2015年7月草案:
 第27条「当事者が家庭内暴力に遭う、または家庭内暴力に遭う現実の危険に直面したために、人民法院に人身安全保護命令を申請した場合は、人民法院は受理しなければならない。」

(2)「社会組織」を規定に入れたこと。

2015年7月草案:
 第3条「政府の関係部門、司法機関、人民団体、社会組織、都市・農村の基層の大衆的自治組織、企業・事業単位は、本法と関係する法律の規定にもとづいて、反家庭内暴力の活動をしなければならない」
 第9条「各レベルの人民政府は、社会組織が心理健康相談、家族関係の指導、家庭内暴力防護知識教育などのサービスをするのを支持しなければならない」
 なお、第6条にも「国家は社会の力が反家庭暴力の宣伝活動をするのを奨励しなければならない」とある。)

(3)告誡制度がきちんとした詳細なものになったこと。

2014年11月草案:
 第19条「家庭内暴力が治安管理行為違反や犯罪にまではならないとき、公安機関は加害者に二度と暴力をふるわないよう書面で告誡し、告誡書の副本を被害者の住所あるいはふだんの居住地の基層の大衆的自治組織・婦女連合会に送ることができる。」
 ↓
2015年7月草案:
 第16条「家庭内暴力の情状が比較的軽く、法によって治安管理処罰をしないときは、公安機関は加害者に対して批判教育、あるいは告誡書を出す。
 告誡書は、加害者の身分情報、家庭内暴力の事実の陳述、加害者が家庭内暴力をすることを禁止するなどの内容を含めなければならない。」、
 第17条「公安機関は告誡書を加害者、被害者、現地の都市・農村の基層の大衆的自治組織に渡さなければならない。
 都市・農村の基層の大衆的自治組織の工作人員あるいは社区(地域コミュニティ組織)の警官は、告誡書を受け取った加害者・被害者のところに行って調べ、加害者にもう暴力をふるわないよう促さなければならない。」

ただし、中華女子学院副教授の張栄麗さんは、告誡書の詳細な規定がなされたことは非常に良いと述べつつも、草案には告誡書に違反した場合の規定がないことを批判した。

その他にも、以下の点で進歩があったことが指摘されている。

(4)人身安全保護裁定違反に対する罰則が明確に記された。

2014年11月草案:
 第39条「加害者が人身安全保護裁定に違反した場合は、人民法院は民事訴訟法111条、115条、116条の規定によって処罰する。犯罪を構成する場合は、法によって刑事責任を追究する」
 ↓
2015年7月草案:
 第32条「被申請人が人身安全保護命令に違反した場合は、人民法院は訓戒をしなければならず、情状の軽重にもとづいて、1000元以下の罰金、15日以下の拘留に処す」

しかし、その一方で、この草案は、意見募集稿と比べてかえって退歩した点もあることも指摘されている。

(1)この草案は、DVの定義が身体的暴力だけで、精神的暴力・性暴力が含まれていない。2014年11月草案には精神的暴力は含まれていた。また、対象が「家庭構成員の間」に限られており。恋愛・同棲・元配偶者の間の暴力行為は対象にしていないが、2015年7月草案には里子の関係は含まれていた(李瑩弁護士の指摘)。

2014年11月草案:
 第2条「家庭内暴力とは、家族の成員の間で身体・精神などの面の侵害をすることを指す。
 本法で言う家族の構成員とは、配偶者・父母・子どもおよびその他の生活を共にしている近親族である。
 家族の里子の関係の人の間の暴力行為は、家庭内暴力と見なす。」
 ↓
2015年7月草案:
 第2条「本法で言う家庭内暴力とは、殴る、縄で縛る、傷つける、強制的に人身の自由を制限する、家庭の構成員に対しておこなう侵害行為である。」

(2)意見募集稿では、警察が通報を受けた後、どのように家庭内暴力を処置するかについての詳細な規定があったが、この草案では削除されている(ある基層の裁判所の院長の指摘) (11)

2014年11月草案:
 第15条「公安機関は家庭内暴力の通報を受けた後は、ただちに現場に出動し、状況にもとづいて、以下の相応の措置をとらなければならない
 (一)いま現在発生している家庭内暴力を制止する。
 (二)ただちに被害者・加害者・証人に質問して、録音・録画・撮影などの方法で関連する証拠を固めるとともに、書面の記録を作成する。
 (三)被害者がただちに医者にかかる必要がある場合は、医療機関と連絡をして処置や治療に協力し、必要に応じて傷の程度の鑑定をしなければならない。被害者が未成年の場合は、ただちに傷の程度の鑑定をし、きちんと処置をしなければならない。」
 ↓
2015年7月草案:
 第15条「公安機関は家庭内暴力の通報を受けた後は、ただちに現場に出動し、家庭内暴力を制止し、関係規定にもとづいて調査して証拠を集め、医者にかかるのを助け、傷の程度の鑑定しなければならない」

(3) 2014年11月草案稿にはあった、未成年者に対してどのように質問するかについて詳細な規定や、業務研修や統計を義務づける規定、監獄・留置所・拘置所などでの加害者に対する教育の規定が削除されている(馮媛さんによる指摘(12))。

すなわち、2014年11月草案にあった以下の規定が削除されている。
 第16条「公安機関は質問をするとき、被害者と加害者を別々にして質問しなければならない。 
 公安機関は未成年者に質問するときは、未成年者の心身の特徴を考慮し、さらなる傷害を与えることを防がなければならない。
 未成年の被害者を公安機関に連れて行って質問するときは、法的代理人に通知して現場に来させなければならない。通知できず、法的代理人が来られない、来ることを拒絶する、あるいは法定代理人が加害者である場合は、未成年の被害者の成人の近い親族に通知してもよく、学校あるいは基層の大衆的自治組織の代表に通知してもよく、その状況の記録を残さなければならない。」
 第9条「人民法院・人民検察院・公安機関・民政部門・婦女連合会は反家庭内暴力活動をその系統の業務研修と統計の中に入れなければならない。」
 第12条「監獄・留置所・拘置所などの場所は、刑罰を科せられている、あるいは法によって拘留・逮捕されている加害者に対して法にもとづいて法制教育・心理カウンセリング・行為矯正をおこなわなければならない」

このように、以前の草案に比べても大幅な削除がおこなわれたため、王曦影さん(北京師範大学社会発展と公共政策学院副教授)は、次のように言っている。
 「[2014年11月の草案は]あるネット上の友人の論評によると、『非常に粗末な草案』だった。けれども、全国のフェミニズムの研究者と活動家たちは気落ちせずに、いっそう頑張って立法部門に対して大量の意見を出した。(……)しかし、今年8月に出た反家庭内暴力法の新しい草案には驚くべきものだった。民間の大量の意見と建議を取り入れてないだけでなく、さらに粗末で、1/3を縮めた内容だったからである。その修正の方法は、削れるところは削り、簡単にできるところは簡単にするという、『立法は大雑把なのがよく、細かいのはよくない』という原則に従ったかのようだった。」

王曦影さんは、とくに「加害者の男性に対する強制的矯正に口をつぐんでいる」ことを問題視した(13)

さらに、さまざまな不十分点も指摘された。

たとえば、馮媛さん(女性の権益とジェンダー平等のための民間組織「北京為平」の共同発起人で、元DV反対ネットワーク/北京帆葆理事会主席)は、上で述べたような問題を指摘するとともに、以下の(1)(2)の点で、草案の規定を原則的なものにとどめず、もっと具体的で、実効性があるものにすべきであることを指摘した。

(1)第7条に「医療機構は家庭内暴力の被害者の診療記録をきちんとつけ、反家庭内暴力を業務研修に入れなければならない」とあるが、日本の「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」は、「医師その他の医療関係者は、その業務を行うに当たり、配偶者からの暴力によって負傷し又は疾病にかかったと認められる者を発見したときは、その者に対し、配偶者暴力相談支援センター等の利用について、その有する情報を提供するよう努めなければならない」(第6条2)としており、このようにすれば、もっと予防のために役に立つ。

(2)第6条に「小中学校は、反家庭内暴力教育をしなければならない」とあるが、ベトナムの「家庭内暴力予防・制圧法」は、「教育・訓練省は、家庭内暴力の予防・制圧について、レベル別の教育機構の課程の要求、課程の設置に合わせて、指導する措置を提示しなければならない。国家教育システムの中の学校とその他の教育機構は、家庭内暴力防止・制圧の知識をその課程の中に取り入れる義務を負う」と規定していることが参考にできる。

また、馮媛さんは、以下の点において、社会をエンパワメントし、女性をエンパワメントする規定にすべきことを指摘している。

(3)第22条に「都市の農村の基層の大衆的自治組織、労働組合、共産主義青年団、婦女連合会などの単位は、家庭内暴力の加害者に対して法制教育と心理補導をおこなわなければならない」とあるが、法律執行機関と司法機関だけが、加害者に関連する措置を受けさせる権力がある。(14)

「反家庭内暴力民間唱導グループ」は、以上の議論を踏まえて、以下のような内容の全国人民代表大会に建議を提出した。そのポイントは、以下のようにまとめられる。

1.家庭内暴力の定義を完全にものにせよ
 精神的暴力と性暴力、恋愛・同居・元の配偶関係、養子関係の人の間の暴力も入れよ。

2.多くの機構が協力して家庭内暴力に関与せよ
 国家機関・司法部門・社会団体・企事業単位・基層の大衆的自治組織、婦女連合会・労働組合・共産主義青年団・障害者連合会・社会組織の役割と責任を明確にするとともに、力を持った反家庭内暴力の牽引機構を設立せよ。反家庭内暴力は、一つの系統・一つの部門だけでできるものではなく、警察への通報、助けを求める、医者にかかる、傷の程度の鑑定、庇護(シェルターなど)、人身安全保護、法律援助などの面で、多くの部門の統一的案配・調整・協力が必要である。

10月5日までの期間、同意する人々の署名もネットで集めたうえで、上の建議は提出された(15)

B さまざまなアクション

学者・専門家以外の人々も、さまざまな行動をした。

1.ネット上のアンケート調査

たとえば、草案では家庭内暴力の定義が法定の家族成員間の暴力だけに限定されているので、レズビアン団体「同語」は、9月11日から、「親密な関係に関する調査」を開始し、性的指向、親密な関係の状況、パートナーに対する暴力などについて尋ねるアンケートをおこなった(16)

とくに女性に対する暴力をなくす国際デーである11月25日前後には、以下の2~5のようなアクションがおこなわれた。

2. BCome小組、2015年も北京の地下鉄の車内で《女の歌》を歌い、チラシをまいて、女性に対する暴力反対を訴える

BCome小組(《ヴァギナ・モノローグス》の中国語版を上演しているフェミニストの劇団)は、2012年から毎年、11月24日か25日に、北京の地下鉄内で女性に対する暴力反対を訴える活動をおこなってきた。2012年は、ヴァギナ・モノローグスの中から「ミニスカートは誘惑じゃない」という一節を演じ、2013年と2014年は、《あなたは女が歌っているのが聞こえるか?(女の歌)》(レ・ミゼラブルの劇中歌《民衆の歌》の替歌)を歌いつつ、チラシをまいて女性に対する暴力反対を訴えてきた。

BCome小組は、2015年も、11月25日に、7人ほどで、北京の地下鉄の車内で《あなたは女が歌っているのが聞こえるか?(女の歌)》を歌いつつ、ピンクのチラシをまいて女性に対する暴力反対を訴える活動をおこなった(17)。2015年は、国際女性デー前日の3月7日にバスの中で痴漢防止措置を訴えるための宣伝活動をする計画をしたことにより、5人のフェミニスト女性が刑事拘留された事件があったので、「今年はやるのは無理ではないか?」と私は思ったのだが、彼女たちは敢行した。ただし、この活動は、BCome小組の微博が掲載しただけで、前年までに比べて、活動の宣伝はずっと少ないようだ。

3.養育権が妻にある子どもを奪った中国中央テレビのキャスターを批判し、精神的暴力や元の配偶者からの暴力、職場の責任を法に入れることを訴えるパフォーマンスアートなど

中国中央テレビの柴華北キャスターは、妻に対して暴力をふるってきた。2012年、それに対して、妻の葉果さん(仮名)が離婚訴訟を起こした。2013年8月、北京市朝陽区人民法院は、柴キャスターのDVを認定し、離婚を認めるとともに、子どもの養育権を葉果さんに与えた。柴キャスターは控訴したが、2013年11月、北京市中級人民法院は、柴キャスターの控訴を棄却した。

けれども、その後19カ月経っても、柴キャスターは子どもを葉果さんに渡さなかった。

(1) 「人を雇う単位の反DVへの参与」シンポジウム

11月23日、「北京為平」などのNGOが、「人を雇う単位の反DVへの参与」というシンポジウムを開催した。このシンポジウムで、葉果さんのケースが討論の焦点になった。

「北京為平」の発起人の馮媛さんは、家庭内暴力の定義に、別れた後の関係や精神的暴力(子どもを利用した相手に対するコントロールやいじめを含む)を入れるべきことを主張した。

また、北京衆沢女性法律相談サービスセンターの林麗華弁護士は、DV事件において、離婚後の養育権について裁判所の判決の執行が困難なことはよくあり、中国では単位を通じて介入することが有効な手段になると述べた。林弁護士だけでなく、多くの女性の権利についての専門家が、人を雇う単位の反DVの責任を法律の条文の中に入れるべきことを主張した(18)

(2)裁判所前での「血染めのウェディングドレス」や署名によるパフォーマンスアート

12月24日は、子どもの養育権の問題について、北京市朝陽区法院が、柴華北キャスターとその前妻との調停を通知した日だった。

当日、裁判所の入り口で、2人の若い女性が、血で染まったかのように見えるウェデングドレスを着て、「婚姻は終わったのに、DVは終わらない 元の配偶者によるDVを速やかに法に入れよ」「子どもを奪うことは法を犯すこと 精神的暴力を法に入れるべき」と書いたプラカードを持って、柴キャスターに抗議した。2人は、百人近い母親の名前を連ねた「柴華北に子どもの養育権を返すように訴える」と書いた大きな紙(布?)も広げた。

活動に参加した2人は、柴華北キャスターのDVや子どもを渡さないことを批判するとともに、精神的暴力や元の配偶者からの暴力の問題の重要さを訴え、反DV法が、それらも対象にするよう主張した(19)

(3)職場である中国中央テレビ(CCTV)の前でのパフォーマンスアート

翌11月25日には、2人の若い女性が、中国中央テレビ(CCTV)の前で、「DVはゼロトレランス、中国中央テレビは手本を示せ」、「中国中央テレビの人気キャスター柴華北よ、あなたの子どもは母親を恋しがっている」というプラカードを掲げ、中国中央テレビが職員である柴華北キャスターに対する管理・監督をおこなうように訴えた。

馮媛さんは、「反DVについての職場の使用者の責任は、国際的にはすでに共通認識になっており、多くの国外の法律では、明確に職場の使用者の責任が規定されている。国内の多くの地方法規でも、職場の使用者の責任は強調されている。『反家庭内暴力法』の草案も、職場の使用者が職員に対して家庭内暴力反対の宣伝教育活動をしなければならないと述べているが、職場の使用者の責任は、明確で具体的なものにはなっていない。従業員のニーズに積極的に応えて援助をするだけでなく、加害者に対して批判・教育し、事情を斟酌しつつ処分をしなければならない」と述べた(20)

(4)馬戸さんら、中国中央テレビに数十名の母親が連署した建議の手紙

12月9日には、馬戸さん(北京郵政に女性であるために宅配便配達員採用を拒否されたことを裁判に訴えている女性)が、中国中央テレビ局の局長と同局の監察室に宛てて、従業員の柴華北さんに子どもの養育権を返させるよう、職場として責任を持って命じることを求める数十名の母親が連署した建議の手紙を送った(21)

4.中華女子学院のWoMen小組、少数民族の衣装や赤ずきんをまとった被害女性の扮装で反DVを宣伝

11月25日には、中華女子学院のWoMen小組の9人(写真に写っている人数)も、少数民族の衣装や赤ずきんをまとった被害女性の扮装でDV反対を宣伝した(22)

これは法律的な要求とは直接関係ないように見えるし、学院やその周辺での活動にとどまっているようだが、2015年5月に微博を開始した新しいグループの活動であり、パフォーマンスアートの新たな広がりを示すものとしてご紹介した。

5.女性に対する暴力反対をテーマにした展覧会、中止させられる

11月25日には、「姦:ジェンダー暴力の傷害の文化的符牒――2015中国当代芸術招待展」も北京の今格芸術クラブで開催される予定だった。この展覧会の趣旨は、「女性を支え、暴力傷害に反対する」というもので、芸術家60人余りが参加することになっていた。

ところが、前日の24日の午後、政府当局側の人間が展覧の段取りをしている現場に現れ、中止を命じた。主催者は、展覧会のテーマと背景はけっして不適切なものはなく、そのことは、さまざまなメディアが報道していることによっても証されていると説明した。しかし、政府当局側の人間の回答は、「参与している人数が多く、手続きを経た許可を得ていないので、展覧会をすることは許可しない」というものだった。

25日の午後、芸術家たちが展覧の段取りをしてようとして今格芸術クラブに現れたときは、クラブの正門にはかたく鍵がかけられていた。

それにもめげず、肖魯、慶慶などの芸術家は、建物の外で自らの作品を使ってアピールをした。

この展覧会に出展する予定だった64人の芸術家の作品は、女性に対するDVをテーマにしたものだった。64人は男女半々だったということだが、これほどの人数が集まって、これほどの規模で行われることは、これまであまりなかった。(23)

実際、従来、女性に対する暴力やDVというテーマの作品展がこれほどの人数と規模でおこなわれたことはなかったように思う。だからこそ、当局は「参与している人数が多い」ことに、体制にとって不穏なものを感じたかもしれない。

C 27人の弁護士の連名の建議の書簡

12月21日、第12期全人代常務委員会第18回会議が開催されて、反DV法草案の二回目の審議がおこなわれたのだが、その前日の20日、全国10余りの都市の27人の弁護士が全人代法制工作委員会に対して連名の建議の書簡を出した(24)

この書簡は、12月16日、女性の権利に関心を持つ弁護士たちに対して連署が呼びかけられたもので、以下の点を要求するものだった(25)

1.立法の目的において、被害者に対する保護をはっきりと浮かび上がらせること。

2.家庭内暴力の定義を完全なものすること:身体的暴力だけでなく、精神的暴力と性暴力を家庭内暴力の類型に入れること。家庭内暴力の行為の説明は例示式のものと概括式のものを結びつけて、法律をより活用しやすくすること。恋愛、同居、里子の関係の人々の間の暴力も家庭内暴力と見なすこと。

3.総則の中で、「多くの機構が協力して家庭内暴力に関与する」原則と具体的な規定を明確にし、もっと有力な反家庭内暴力を牽引する機構を設立するべきである。

4.国務院法制事務局の「反家庭暴力法(意見募集稿)」[=2014年11月の草案]の関連原則を復活させること。すなわち、家庭内暴力事件を処理する際には、被害者の安全とプライバシーを保護し、被害者の意思を尊重しなければならないという原則や、家庭内暴力にあった未成年・高齢者・障害者・重病患者に対しては特別な保護をしなければならないという原則を復活させる。

5.未成年者・高齢者などの弱者の人々の特別な保護については、詳細で完全な規定をしなければならない。すなわち、総則でそうした弱者に対する保護を明確にする、家庭内暴力の定義の中に、「幼い、老いた、知的障害の、病気にかかっているなど、独立して生活する能力がない家族の構成員を遺棄またはネグレクトする」、「未成年者を十分世話していない、後見をきちんとしていない、暴力的なしつけをしている」などを具体的行為として列記する、被害に遭った児童に対して国家の後見制度を増やす、強制的通報の属地管理を増やす、貧しくて弱い被害者、たとえば高齢者・障害者・未成年者の緊急の生活と医療救助制度を増やす、家庭内暴力を目の当たりにした児童に対する保護を増やすなど。

6.小中学校だけでなく、大学でも反家庭内暴力の教育をし、政治・法律の学院・大学やソーシャルワーク専攻の正式なカリキュラムの中にも入れなければならない。

7.家庭内暴力の処置の体制を完全なものにすること、具体的に言えば、家庭内暴力の処置として、首問負責制(最初の担当者が最後まで責任を持って対応する)を増やし、家庭内暴力についての危険性評価、加害者に対する心理的関与、地域コミュニティ矯正などの内容を増やすこと、強制通報制度と庇護措置を結び付けること、国務院法制事務局の「反家庭内暴力法(意見募集稿)」の強制通報の責任者についての関連規定を復活させ、救助管理機構、社会福利機構、大衆的自治組織、小中学教育の研修機構を強制通報の責任者として加えること、国務院法制事務局の「反家庭内暴力法(意見募集稿)」第15条の公安機関が通報を受けた後に現場へ出動した際の措置を復活させること、国務院法制事務局の「反家庭内暴力法(意見募集稿)」第16条の未成年の被害者の具体的質問についての措置を復活させること。

8.家庭内暴力の被害者に対する庇護制度を明確に打ち立てること。すなわち、庇護をする義務を持つ人を明確にし、関連原則などについて詳細に規定すること、社会組織・単位・企業などがシェルターを設立することを奨励することを明確にすること。

9.家庭内暴力の特色に配慮して、証明責任や証拠の基準について詳細な規定をする。その中には、一定の条件の下では挙証責任の転換をおこなうことや未成年者の証言の効力を明確にすることなどを含む。

10.人身安全保護命令の制度について、もっと詳細で完全な規定をする:緊急保護命令と通常保護命令など、人身安全保護命令の類型を増やす。申請人の範囲を拡大して、基層の大衆自治組織、婦連、救助管理機構、人を雇う単位も申請人になれるようにする。裁定の内容をもっと詳細で完全なものにし、共有財産の処理の制限、被害者に対する経済的補償・救助などの内容を含めなければならない。保護命令の期限を1年に延長し、また、延期を申請できることを明確にする。また、保護命令の執行機関を明確にする。たとえば公安機関にする。

11.法律上の責任をもっと詳細にする:各機構・各部門の責任と義務は、一つ一つ対応していなければならない(?)。告誡令違反の法律的責任を増やす。保護命令違反の懲戒を強化する。暴力によって暴力を制した被告の罪の決定と量刑の原則を増やす。具体的には、長期にわたって家庭内暴力に遭ってきた被害者が加害者に対して損害を与えて、犯罪になった場合は、処罰を免除、軽減、あるいは処罰を軽くする(25)

以上の1~11は、草案に対するそれまでの様々な要求を包括していると言えるだろう。

署名した弁護士は、梁晨、林麗霞、陳静、苟占芳、呂孝権、李桂梅、単薇、楊彦萍、秦懋雲、金剣南、趙麗娜、潘海帆、蒙瑞蓉、陳素芳、李小非、余華坤、余華押、唐為、黄溢智、辛鈞輝、彭勃、田咚、王慧、周清和、方鵬飛、塔拉、宋琳の各氏だった(26)


三 2015年12月の第2回審議稿と成立した法律をめぐって

12月21日の全人代常務委員会の第2回目の審議に際に、新たな草案が提出された。この第2審議稿は同月27日に採択され、成立した(「中华人民共和国反家庭暴力法」新华社2015年12月27日)。ほぼ原案のまま可決されたようだ。

A 前進面の指摘

成立した法律には、以下の点で前進があったことが指摘されている。

(1)家庭内暴力の定義に精神的暴力が入った。

2015年7月草案:
第2条「本法で言う家庭内暴力とは、殴る、縄で縛る、傷つける、強制的に人身の自由を制限する、家庭の構成員に対しておこなう侵害行為である」
 ↓
成立した法律:
 第2条「家庭内暴力とは、家庭の構成員間で、殴る、縄で縛る、傷つける、強制的に人身の自由を制限する、日常的に侮り罵る、脅迫するなどの方法で身体や精神などに対する侵害行為をおこなうことを指す」

(2)同居している人の間の暴力も入った。

具体的に言えば、成立した法律では、「附則」の第37条に「家庭の構成員以外に、生活を共にする人の間の暴力行為も、本法を参照して執行する」という規定が入った。

(3)人身安全保護命令を代わって申請する人を、親族から、公安機関、婦連、救助管理機構などに広げた。

2015年7月草案:
 第23条「当事者が強制・威嚇を受けているなどの原因で人身安全保護命令を申請できないときは、その近い親族が代わって申請することができる」
 ↓
成立した法律:
 第23条「当事者が民事行為能力のない人や民事行為能力が制限されている人、あるいは強制・威嚇を受けているなどの原因で人身安全保護命令を申請できないときは、その近い親族、公安機関、婦女連合会、居民委員会、村民委員会、救助管理機構が代わって申請することができる」

(4)強制報告義務が拡大した。

2015年7月草案:
第14条「小中学校、幼稚園、医療機構とその職員は、仕事中に、民事行為能力がない人、民事行為能力を制限されている人で、家庭内暴力に遭っているか、遭っている疑いがある人を見つけたら、直ちに公安機関に通報しなければならない」
 ↓
成立した法律:
 第14条「学校、幼稚園、医療機構、居民委員会、村民委員会、ソーシャルワークサービス機構、救助管理機構、福利機構とその職員は、仕事中に、民事行為能力がない人、民事行為能力を制限されている人で、家庭内暴力に遭っているか、遭っている疑いがある人を見つけたら、直ちに公安機関に通報しなければならない」

(5)小中学校という限定が外れた。

2015年7月草案:
 第7条「小中学校の反家庭内暴力教育をおこなわなければならない。」
 ↓
成立した法律:
 第6条「学校・幼稚園は、家庭の美徳と反家庭内暴力の教育をしなければならない」

(7)総則に国家の責任が明記された。

2015年7月草案:
 第3条「反家庭内暴力は全社会と一つ一つの家庭の共同責任である」
 ↓
成立した法律:
 第3条「反家庭内暴力は国家・社会・一つ一つの家庭の共同責任である」

(8)緊急時の公安機関の役割が拡大した。

2015年7月草案:
 第15条「公安機関は家庭内暴力の通報を受けた後は、ただちに現場に出動し、家庭内暴力を制止し、関係規定にもとづいて調査して証拠を集め、医者にかかるのを助け、傷の程度の鑑定をしなければならない。
 民事行為能力のない人、民事行為能力が制限されている人が家庭内暴力によって身体に重大な傷害を受ける、人身の安全が脅かされている、あるいは誰も世話をしないために危険な状態になっているときは、公安機関は臨時の庇護場所か救助管理機構、福利機構に落ち着かせるよう民政部門に通知・協力しなければならない」
 ↓
成立した法律:
 第15条「民事行為能力のない人、民事行為能力が制限されている人が家庭内暴力によって身体に重大な傷害を受ける、人身の安全が脅かされている、あるいは誰も世話をしないために危険な状態になっているときは、公安機関は臨時の庇護場所か救助管理機構、福利機構に落ち着かせるよう民政部門に通知・協力しなければならない」

(9)草案でいったん削除されていた箇所の一部が復活した。

2014年11月草案:
 第6条「家庭内暴力事件の処理は、当事者の安全とプライバシーを保護し、被害者の意思を尊重しなければならない。
 家庭内暴力に遭った未成年者・高齢者・障害者、重病患者には、特別な保護をしなければならない。」
 ↓
2015年7月草案:
 (なし)
 ↓
成立した法律:
 第5条「家庭内暴力工作は被害者の本当の意思を尊重し、当事者のプライバシーを保護しなければならない。
 未成年者・高齢者・障害者・妊娠期・哺乳期の女性、重病患者が家庭内暴力に遭った場合は、特別な保護をしなければならない。」(27)


全人代常務委員会の刊行物『全国人大』の公式微信によると、意見募集の期間に8792人が4万通あまり意見を出した。この数字は、食品安全法や環境保護法より多く、そのうち多くの意見が反家庭内暴力法の細部を完全にするよう求めるもので、家庭内暴力の定義に精神的暴力が入っていないこと、恋愛や同居、元の配偶者など家族の構成員でない者の間の暴力行為の発生率の高さを無視していること、通報制度の責任の区分がはっきりしないこと、人身安全保護命令の執行主体の規定が不明であることなどだった。そのため第二審議稿は、修正をおこなったという(28)

B 問題点の指摘

その一方、以下のような問題点があることが多くの人に指摘された。

(1)家庭内暴力の定義に性暴力(婚姻内強姦を含め)と経済的支配は入らなかった。

この点については、陳敏さん(中国応用法学研究所研究員)が、「性暴力は身体的暴力と精神的暴力に簡単に分けられない。精神的暴力はいかなる形態の暴力にも付随する結果であり、性暴力はまして身体的暴力と同一視はできない」と批判している(29)

(2)恋愛中、別れた後、離婚後などの暴力は入らなかった。

(3)第37条の「家族成員以外の生活を共にする人がおこなった暴力」という条文についても、不十分さが指摘されている。

この規定についても、夏吟蘭さん(中国政法大学教授)は、「元の配偶者が含まれない点が不十分である。元の配偶者との間に起きる家庭内暴力と同居している関係の間の暴力は性質的に同じであり、家庭内暴力特有の隠蔽性・頻発性・周期性という特徴を持っている」と批判した。また、「生活を共にしている」という限定があるために、「直系の姻戚関係の間の暴力行為も家庭内暴力に含まれなくなる」ことも批判した(30)

(4)「生活を共にする人」には、同性愛者どうしには適用されないという解釈が、法案成立当日、全人代常務委員会法制工作委員会社会法室主任によってなされた。

すなわち、AP通信の記者が、第37条に関して、「この定義には、同性愛の居住者が含まれるのかどうか?」と質問したところ、全人代常務委員会法制工作委員会社会法室主任の郭林茂氏は、「37条の意味は、第一に、家族の構成員以外、第二に、共同生活、第三に、本法を参照して執行するであり、本法を適用する、ではない。先ほど述べたように、家族の構成員以外の生活を共にする人には、後見、養子、同居生活が含まれるけれども、同性愛については現在のわれわれの法律には規定がなく、そういうこともない」と答えた(31)

ペンネーム「性愛大権」さんは、この回答について、「彼の『そういうこともない』という言葉には、とても驚いた。中国で同性愛・バイセクシュアル・トランスジェンダーなどの人々が広範に存在していることをまったく無視している」、「『反家庭内暴力法』はまだ異性愛覇権法だ」と述べた(32)

「北京為平」の共同発起人で、元DV反対ネットワーク/北京帆葆理事会主席の馮媛さんのこの法律に対する評価も見てみよう。

馮媛さんは、「反家庭内暴力法は、中国の歴史上初めて女性が提出し、女性NGOが初めて唱え、女性たちが協力して促進した法律である」とその意義を述べつつも、「しかし、この法律は強さが足りず、周到さが足りず、いささかの保護すべき人を排除している」として、中国中央テレビの柴華北キャスターのような、離婚後の子どもを不当に渡さないケースが、精神的暴力に当たるかどうかはっきりしないことや、生活を共にしておらず、家族の構成員でもない人からのストーカー的行為を挙げている。

馮媛さんは、さらに以下のような問題点を列挙している(33)。上で挙げた4点に続けて列挙しておこう。

(5)多くの機構の協力の規定が欠けている。「関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作」をするのは、事務局が婦連に置かれた政府の女性児童工作委員会であるが、この機構には、この重い任務を担うために必要な権威・メカニズム・人力が欠けている。多くの機構の協力の枠組みがなければ、各自がそれぞれやるだけであり、多くの部門や側面と関係する家庭内暴力問題に統一的に取り組むことができない。

(6)家庭内暴力の被害者に必要な、いささかのカギになるサポートとサービスが欠けている。たとえば臨時の生活援助以外の、被害者の住宅・就業・子どもの就学などの面の差し迫ったニーズは、この法律の中には書かれていない。証拠の面では、採択された文面は、その前の国務院法制事務局の意見募集稿[=2004年11月の草案]の中の挙証責任の合理的分配という内容と、法廷が代わりに調べて明らかにする職責とを削除した。被害者が多くの面で弱い立場であるために証拠を提供できないとき、協力や援助が得られるか否か問題である。

挙証責任の点ついては、夏吟蘭さんも、家庭内暴力は隠蔽性が強いので、一般の民事事件のように「主張するものが立証する」という原則では、被害者の主張はとおりにくいから、「人民法院は、家庭内暴力に関わる民事事件を審理する際は、挙証責任を合理的に分配しなければならない。被害者が客観的原因により自ら証拠の収集をおこなえないときは、人民法院が調査・収集しなければならない」という規定を加えるべきだと述べている(34)。この点は、すでに20日に27人の弁護士が主張していた、「一定の条件の下では挙証責任の転換をおこなう」ということである。

(7)カギになる機構であるのに、反家庭内暴力のための役割が与えられていないものがある。たとえば、検察機関・司法行政部門の職責が抜けており、郷・鎮政府は明文では予防の任務しか規定されていない。人を雇う単位(企業・事業単位)の役割は、批判と教育だけであり、明らかに不十分である。ほんとうは、人を雇う単位には、単位内の家庭内暴力の被害者に対して必要な便宜と援助を提供し、加害者に対しては処罰・処分をする義務と必要がある。

(8)草案の中の医療機構の業務研修の内容を落としている。多くの場合、医療業務従事者が家庭内暴力の被害者の最初の、悪い場合は接触する唯一の第三者なのでで、医療機構は必ず報告をしなければならない法律的責任がある。しかし、もし業務研修がなければ、多くの医療業務従事者には、家庭内暴力の被害者や被害者である疑いがある人を識別できない。研修をしていなければ、たとえば、頻繁に妊娠中絶をする女性に対して、それが家庭内暴力の結果であり、女性の性・身体・精神の各面の自主権が脅かされ、コントロールされ、侵害されている可能性があることに気づく医療関係者は少ないだろう。

(9)比較的曖昧な個所がある。たとえば、公安機関は保護命令の「執行に協力する」とある。公安機関が登場した点は、この条文はその前の草案よりも進歩している。しかし、執行に協力するという言い方は、不作為や責任逃れの理由になるかもしれず、裁判所が出した保護命令の影響力を損ない、保護命令制度の家庭内暴力を予防・抑制する実際の効力を損なって、被害者の権利の保障を難しくするかもしれない。

その他、以下のような箇所にも不十分さが指摘されている。

(10)第35条「学校、幼稚園、医療機構、都市・農村の基層の大衆的自治組織[成立した法律では、「居民委員会・村民委員会」となっている]、ソーシャルワークサービス機構、救助管理機構、福利機構とその職員は、本法第14条の規定にもとづいて公安機関に通報せず、重大な結果を引き起こした場合は、上級主管部門あるいはその単位によって、直接責任を負う主管人と他の直接責任を持つ人を法によって処分する」というのは、「明確さが欠けているので、明確にし、法律的責任を細分化すべきだ」と張雪梅さん(北京青少年法律援助・研究センター執行主任)は指摘する。なぜなら「反家庭暴力法草案は、強制的報告義務を規定した最初の法律であり、他の法律には規定がないので、『法によって処分する』という規定は、実践では使えない。だから、批判、教育、警告、過失として記録、除名、一定期間の職業活動停止、関連の職業資格剥奪などの処分をするべきだ。そうしないと報告義務が強制的なものにならない」からである(35)

他にも、27人の弁護士が主張していた点で、成立した法律には取り入れられていない事項は多い。

C 当初から基本的に変わらなかった根本的問題点

1.各部門のDV防止の責任についての規定の不備

呂頻さんは、すでに2014年12月、その前月に出た草案(意見募集稿)に対して、「責任がDV法の最大の問題である」を発表している。

呂頻さんは、「反DV法が解答すべき問題は、第一が、何がDVであるかで、第二が、各部門のDV防止の責任であるが、第一の意義は、第二によって決まる」という。「なぜなら、もし強力な防止規範がなければ、性暴力やパートナー間の暴力がDVの範囲に入るかどうかは、どうでもいいことになる」からだ。呂頻さんは、「第二の問題は、さらに3つの問題に分けられる」とし、「第一に、ある問題にはどの部門が責任を持つべきか、第二に、その部門がどのように責任を持つか、第三に、どのようにしてその部門が本当に責任を持つことを保証するか」ということだと述べた。

呂頻さんは、第一の「ある問題にはどの部門が責任を持つべきか」という点から見て、第4条の「県レベル以上の人民政府は、女性・児童工作の機構に責任を持ち、関係部門がきちんと反家庭内暴力活動をするよう組織し、協調させ、指導し、督促しなければならない」という規定について、こう述べる。

「女性・児童工作の機構」とは女性児童工作委員会を指しているが、同委員会は「議事を調整する機構」にすぎず、人力・財力も乏しい。女性児童工作委員会に対しては、国連の女性差別撤廃委員会も「政策を遂行するための権限または財源がない単なる調整機関であり、法律や政策のジェンダー評価をする権限を持っていない」と批判している(この点については、本ブログの記事「国連女性差別撤廃委員会の中国政府第7次、第8次合併レポート審議・総括所見とNGO」の「三、女性差別撤廃委員会の総括所見」の「女性の地位向上のための機構とデータ収集」参照。厳密には、「持っていないというレポートがあることに懸念を有する」という言い方であるが)。

また、呂頻さんは、第二の「その部門がどのように責任を持つか」という観点からシェルターについての規定を問題した。呂頻さんは、現在の中国のシェルターは「救助ステーション」にもう一つの看板を付けただけにすぎない場合が少なくないが、「救助ステーション」は流浪して住まいがない人のために短期的な生活救助をする施設であり、DVシェルターの機能やニーズとはほど遠いものであることを指摘している。被害者とその子どもは、緊急の避難所だけでなく、リハビリやサポートが必要なのだが、看板だけのシェルターは、婦連の紹介状が必要だったり、その土地に新関がいない場合でないと受け入れなかったり、長くて7日しか居られなかったりするので、シェルターの利用者は少ないという。だから、救助ステーションをシェルターに指定すれば、量的指標は容易に達成できるが、質的指標こそがボトルネックなのであり、そうでなければ、紙の上に書いたことは絵に描いた餅になるが、遺憾なことに、意見募集稿には質的指標についての規定が全くないと指摘している。

呂頻さんは、実際は、民政部門が直接シェルターを設置・運営する必要はなく、政府が政策とリソースを出して、民間団体にシェルターを運営させて、政府が評価・監督すればよいと述べている。実際、中国のシェルターは、初期には民間によって設立されたが、サポートや政策がなかったために夭折したので、政府が政策を出し、リソースを供給すれば、きちんとした評価と監督があれば、シェルターのボトルネックは突破できると呂頻さんは言う。

さらに、呂頻さんは、第三に「どのようにしてその部門が本当に責任を持つことを保証するか」という観点から、第33条の「人民法院は(……)被害者と加害者の住所あるいは通常の居住地の公安機関・基層の大衆的自治組織・婦女連合会に人身安全保護裁定の副本を送らなければならない」という規定を取り上げた。

呂頻さんは、「『副本を送る』という言葉は、気がかりだ。なぜなら、『副本を送った』後の話がないからである。すなわち、副本を送った後、もし加害者が人身安全保護裁定に違反したら、誰が最初の肝心のときに現場に行って制止するのか? 裁判官・地域コミュニティ組織・婦連は24時間当番をしているわけではなく、強制力もなく、それが可能なのは警察だけである。しかし、意見募集稿は公安機関が人身保護裁定の執行に責任を持つとは明記していない」と述べた。

呂頻さんは「権力部門には、責任の受け持ちを減らそうとする傾向がどうしてもある。家庭内暴力防止に対する大きな抵抗力の一つは、権力部門がそれを自分の職責だと見なさず、受け持とうとしないことである。『公正な裁判官でも、家庭内部のもめごとは裁きにくい』という類の言い方は、実際は関わりたくない口実である。」と指摘している(36)

呂頻さんが上の3つの点から問題にした各条文は、成立した法律でもほとんど変化しなかった。むしろ第二の点、つまりシェルターに関しては、「設置または指定(……)しなければならない」が、成立した法律では、「できる」となっており、後退している。第三の人身安全保護裁定(人身安全保護命令)の点に関しては、成立した法律では、公安機関は保護命令の「執行に協力する」と記され、若干の進歩があったが、「協力する」という言い方では「不作為や責任逃れの理由になる」ことは、馮媛さんが指摘しているとおりである。

呂頻さんが指摘した、それぞれの点に関する条文の変遷は、以下のとおりである。

<第一の点>
2014年11月草案:
 第4条「県レベル以上の人民政府は、女性児童工作の機構に責任を負い、関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作をおこなわせる責任を負う。」
 ↓
2015年7月草案:
 第4条「県レベル以上の人民政府は、女性児童工作の機構に責任を負い、関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作をおこなわせる責任を負う。」
 ↓
成立した法律:
 第4条「県レベル以上の人民政府は、女性児童工作の機構に責任を負い、関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作をおこなわせる責任を負う。」

<第二の点>
2014年11月草案:
 第18条「県レベルあるいは区を設けている市レベルの人民政府は、シェルターを設立あるいは指定して、家庭内暴力のためにしばらく家に帰れない被害者に緊急の庇護と短期の生活救助をしなければならない。」
 ↓
2015年7月草案:
 第18条「県レベルあるいは区を設けている市レベルの人民政府は、単独あるいは救助管理機構に委託して臨時の住まいを設立して、家庭内暴力の被害者のために援助をすることができる。」
 ↓
成立した法律:
 第18条「県レベルあるいは区を設けている市レベルの人民政府は、単独あるいは救助管理機構に委託して臨時のシェルターを設立して、家庭内暴力の被害者のために臨時の生活の援助を提供することができる。」

<第三の点>
2014年11月草案:
 第33条「人民法院は人身安全保護裁定を出した24時間以内に、申請人、被害者、加害者に送達し、あわせて人身安全保護裁定の副本を被害者と加害者の住所あるいは平常の居住地の公安機関と基層の大衆的自治組織と婦女連合会に送らなればならない。」
 ↓
2015年7月草案:
 (規定なし)
 ↓
成立した法律:
 第32条「人民法院は人身安全保護命令を出した後、申請人、被申請人、公安機関、居民委員会、村民委員会などの関係組織に送達しなればならない。人身安全保護命令は、人民法院が執行し、公安機関、居民委員会、村民委員会などが執行に協力しなければならない」

2.法の目的における「家庭の調和、社会の安定の促進」

@千千和風さんは、「反DV立法は、暴力を引き起こす根本的な場としての『家庭』という存在を回避している」が、「こうした婚姻と親密な関係の制度は、当事者(ジェンダーと性的指向にかかわらず)が自分たちで相談して、お互いに自らが望む生活の方法を作り出す可能性を排除し、人々の生活の唯一の方法にする」、「反DV法は婚姻家庭の正統性を擁護しているが、それ自身が暴力である」と述べている(37)

千千和風さんのような観点から見て、ひとつ問題になるのは、立法の目的自体に「家庭の調和、社会の安定の促進」が入っていることだろう。

この点と関連して、2015年12月、27人の弁護士が、建議の「1」として、「立法の目的において、被害者に対する保護をはっきりと浮かび上がらせること」を求めていた。そのためか、成立した法律では、「家庭の構成員の合法的権益を保護する」ことが、最初に書かれるようになった。

しかし、以下の条文の変遷を見てもわかるように、立法の目的に書かれている内容自体は、ずっと変化していない。

2014年11月草案:
 第1条「家庭内暴力を予防・制止し、家庭の構成員の合法的権益を保護し、平等で、むつまじい、文明的な家族関係を守り、家庭と社会の安定を促進するために、憲法にもとづいて、本法を制定する。」
 ↓
 第1条「平等で、むつまじい、文明的な家族関係を守り、家庭の調和、社会の安定を促進し、家庭内暴力を予防・制止し、被害者の合法的権益を保護するために、本法を制定する。」
 ↓
成立した法律:
 第1条「家庭内暴力を予防・制止し、家庭の構成員の合法的権益を保護し、平等で、仲睦まじい、文明的な家庭関係を守り、家庭の調和、社会の安定を促進するために、本法を制定する」

以上、長々とご紹介してきたが、中国の反DV法には、さまざまな民間の議論や運動の成果が反映しているし、草案に対する要求もいくつかの点で実現した重要であろう。ここまで述べてきたように、家庭内暴力の中に(法律な家族ではない)同居者からの暴力も入ったこと、人身安全保護命令を裁判中でなくても申請できるようになったこと、公安部門なども人身安全保護命令の申請者になることができるようになったこと、「小中学校」という限定が外れて「学校」になったことなどである。

また、2015年7月の草案は、前年11月のものよりむしろ後退した点が多かったが、成立した法律では、かなり回復したことも重要だと思う。2015年7月に後退した原因は不明だが、3~4月のフェミニスト5女性の刑事拘留のような流れとも関係があるのかもしれない。ただ、法律が成立した同年12月も、広東省での女性労働者支援のNGOが弾圧されるなど、政治的締め付けは変わっていないにもかかわらず、一定の変化を実現したことは確かである。

しかし、その一方、上記のような根本的な点での修正がわずかにとどまったという面も見なければならないだろう。

この点はやはり女性運動の大衆的な広がりが作りえなかったことと関係していよう。そのことは、60人ほどの芸術家による展覧会が中止させられるなど、多くの人が集まるような運動に対する抑圧の厳しさと関係していることは間違いない。

また、この2月には、DV事件にも多く取り組んできた北京衆沢女性法律相談サービスセンター(もと北京大学女性法律研究・サービスセンター)が当局の圧力で解散に追い込まれたことなどは(38)、法律を実際に活用する上でも暗い影を落としている。

(1)联署呼吁:《中华人民共和国反家庭暴力法》纳入同居、恋爱、伴侣等亲密关系的保护」、「联名呼吁:中国反家暴法纳入同居恋爱暴力」同语2014年12月1日、「【请关注】改变,从现在开始:中国《反家暴法》意见征集」酷拉时报 Queer Lala Times 2014年12月4日。
(2)以上は、@兔子走丢了「七城公益人法制日”叫板“反家暴法」NGOCN 2014年12月5日。
(3)女权之声的微博【“圣诞老人”当众“互殴”,同性家暴法律管不管?】2014年12月25日 18:20
(4)女律师联名呼吁将“受家暴”纳入法定减刑情节」新浪新闻中心2014年12月15日(来源:法制日报)。
(5)以上は、「反家暴法意见征集:60名家暴受害者呼吁扩大人身保护令适用范围」女声网(ソース:女权之声[原刊时间:2014-12-18 発表時間:2014-12-18])。
(6)@何小婷「残障权利视角下 《反家庭暴力法(草案)》 的意见和建议」NGOCN2014年12月26日。
(7)女子装扮受伤新娘 身着染红婚纱街头反家暴」腾讯新闻(南方都市报 [微博]) 2014年12月11日。
(8)花季泪——来自北京青少年法律援助与研究中心的未成年人遭受性侵害案件分析报告」中青在线(中国青年报    2009年4月13日)。
(9)以上は、小猫,儿玉「她们用清水写下受害者故事,呼吁重视家庭内性侵害」女声网(原刊时间:2014-12-16 发布时间:2014-12-22)。
(10)全国人大常委会委员建议:性暴力、同居关系也应纳入反家暴法」澎湃新闻2015年8月27日(来源:法治中国)。
(11)以上については、「中国首部反家暴法草案有进步有退步」女权之声的微博2015年9月21日 17:40、「中国首部反家暴法草案有进步有退步 精神暴力、恋爱同居关系应入法」新媒体女性的微博2015年9月22日 13:17。
(12)冯媛「反家暴法能否不负众望,给时代一个交代?」NGOCN2015年9月2日。
(13)以上は、王曦影「反家暴法新草案:为何不强制矫治施暴男性?」荷兰在线2015年9月29日。
(14)(12)に同じ。
(15)以上は、反家暴立法民间倡导工作组「最后一天!反家暴立法修改建议需要你的联署」。
(16)关于亲密关系的调查」。この調査の呼びかけは、「关于亲密关系的调查」同語2015年9月11日→「为反家暴出力,填写亲密关系暴力在线调查」新媒体女性的微博2015年9月16日(原文来源:同语)。
(17) BCome小组的微博2015年11月26日 16:41
(18)民间组织呼吁用人单位承担更多反家暴责任」财经网2015年11月25日(出所『财经』)、苏惟楚「女权组织:在反家暴中用人单位应尽责」界面新闻2015年11月25日。
(19)以上は、「 “染血的新娘”拦路喊话央视名嘴柴华北 呼吁前配偶家暴入反家暴法」女权之声的微博2015年12月24日 15:14。
(20)以上は、「女青年行为艺术促CCTV监管“名嘴”家暴行为」女权之声的微博2015年11月25日 17:08。馮媛さんは『中国婦女報』でも、DVがもたらす各方面への経済的損失、DVと職場との関係、各国の企業のDV問題に対する対処について書いている(冯媛「反家暴,公司参与很重要」『中国妇女报』2015年12月8日)。
(21)妈妈联名撑家暴受暴妇女, 督促用人单位央视行使责任」女权之声的微博2015年12月9日 14:07。
(22) WoMen小组的微博 2015年11月25日 17:12
(23)以上は、「一个女权主义展流产之后,留下了什么?」女权之声的微博2015年12月2日 15:37。
(24)十余城市律师联名致人大,呼吁完善反家暴法草案」公益服务网2015年12月22日。
(25)以上は、「关于完善反家庭暴力法立法的律师联名建议信 」问道网2015年12月16日、「律师喊话人大:我们要一部完善的反家暴法!」女权行动派更好吃的微博2015年12月17日 12:17。
(26)以上は、「律师喊话人大,呼吁完善反家暴法草案」麦子家的博客2015年12月21日 15:57、「律师喊话人大:我们要一部完善的反家暴法!」麦子家的微博2015年12月21日 15:57。
(27)以上については、「反家暴法草案二审增加“精神暴力” 同居也适用 性暴力和前配偶依然未被纳入」新媒体女性的微博2015年12月21日 14:47、「二审都出了,我们要一部什么样的反家暴法?」女权之声的微博2015年12月22日 10:46、「反家暴法草案二审,专家:性暴力不可简单分化为身体和精神暴力」『中国妇女报』2015年12月25日、「反家暴法保护“共同生活的人”成一大亮点 性暴力未入法让人遗憾」新媒体女性的微博2015年12月28日 12:03。
(28)反家暴法草案增加“精神暴力” 同居也适用」『南方都市报』2015年12月21日。
(29)反家暴法草案二审,专家:性暴力不可简单分化为身体和精神暴力」『中国妇女报』2015年12月25日。
(30)同上。
(31)全国人大常委会办公厅12月27日新闻发布会」中国人大网2015年12月27日、「反家暴法中“共同生活人”不包括同性恋」法制晚报 2015年12月27日。
(32)性爱大权「《反家暴法》仍是一部异性恋霸权法吗?」荷兰在线2016年1月5日。
(33)冯媛「反家暴法之思:中国妇女还想要什么?」澎湃新闻2015年12月30日 15:47。
(34)反家暴法草案二审,专家:性暴力不可简单分化为身体和精神暴力」『中国妇女报』2015年12月25日。
(35)同上。
(36)吕频「责任是反家暴法的最大问题」网易女人2014年12月7日、吕频「中国首部反家暴法,草草的“草案”」网易女人 女人写时评vol.142。なお、中国のDVシェルターに関しては、呂頻さんの文章のすぐ後に、栄維毅「关注反家暴法:中国大陆家庭暴力受害妇女庇护现状与分析」(荣维毅的博客2014年12月18日)、李芙蕊「庇护所能成为中国受家暴妇女的港湾吗」(女权之声的微博2014年12月24日 18:50)も発表されている。拙稿「中国のDVシェルターの歴史と現状」『中国女性史研究』第16号(2007年1月)も参照のこと。
(37)千千和风「反家暴法维护婚姻家庭正统制,这本身就是一种暴力」荷兰在线2015年12月30日。
(38)反家暴法通过了,但做反家暴法律援助的机构被关了」新媒体女性的微博20161年1月29日 19:21:20。

中華人民共和国反家庭内暴力法――草案を含めた全訳、草案との対照

昨年12月、中国でもDV防止法(中華人民共和国反家庭内暴力法)が成立し、今年3月から施行される。同法をめぐる議論や運動については別のエントリで扱うが、その前に、同法の全文を、成立前に2回発表された草案を含めて翻訳し、それぞれの条文の対照をおこなってみた。翻訳して対照したのは、以下の3つである。

 (1) 2014年11月25日、国務院法制事務局が初めて全文を公表し、広く社会から意見を求めた草案。
(「国务院法制办公室关于《中华人民共和国反家庭暴力法(征求意见稿)》公开征求意见的通知」国务院法制办公室2014年11月25日←草案もこのページからダウンロードできる)

 (2) 2015年7月28日、国務院常務会議は新しい草案を採択した。それは、8月24日、全国人民代表大会常務委員会に提出され、27日に審議され、9月8日には、中国人民代表大会網がその全文を公表し、再び意見を募集した。その草案。
(「反家庭暴力法(草案)全文」中国人大网)

 (3) 2015年12月21日、2回目の全国人民代表大会常務委員会での審議のために新しい草案が発表された。その草案は、同月27日に審議した上で、採択されて成立し、公布された(施行は2016年3月1日)。
(「中华人民共和国反家庭暴力法」新华网2015年12月27日)

以上の(1)(2)(3)の条文の対照を、以下でおこなう。

<凡例>
・とくに説明がないものは、上から(1)→(2)→(3)の順に並べてある。(3)は成立した法律なので、ゴシック体にした。
・条文の順番は、成立した法律(3)の条文の順に沿って並べた。条文が分割されたり、移動したりしている場合も、できるだけ(3)の条文を軸にして、(1)と(2)の草案の条文を並べた。
・中国語の「家庭暴力」は「DV」と訳す方法もあろうが、原義を尊重して一応「家庭内暴力」と訳した。

なお、注目される変化や残された問題点などについて、ポイントを先にごく簡単に述べておく。
★家庭内暴力の定義については、1回目の草案では精神的暴力も含まれていたが、2回目の草案で身体的暴力のみになった。しかし、成立した法律で精神的暴力が復活した。また、草案段階では、法律的な家族の構成員間の暴力だけが対象だったが、成立した法律では、生活を共にしている人の間の暴力についても、この法律を参照して執行されることになった。しかし、性暴力については明記されていない。また、恋人や元配偶者からの暴力は入らなかった。同性愛者間については、法案成立当日、全人代常務委員会法制工作委員会の社会法室主任が適用を否定した。
★多くの機構の協力の規定が欠けている。女性児童工作委員会が重要な役割を果たすことになっているが、同委員会は、権限や予算、人員の面で弱い。
★保護命令(1回目の草案では「人身安全保護裁定」、2回目の草案以降は「人身安全保護命令」)については、1回目の草案では、「離婚・扶養・養育・他人の子の養育・相続など」の裁判中か、裁判を起こす30日前以内にしか申請できなかった。しかし、2回目の草案以後は、家庭内暴力の被害にあうか、被害にあう現実の危険があれば、申請できるようになった。
★草案段階では、保護命令の執行機関が不明だったが、成立した法律では、「人民法院が執行し、公安機関(警察)、居民委員会、村民委員会が執行に協力する」と規定された。しかし、最も重要な役割を果たすはずの警察の責任が「執行に協力する」という規定にとどまっていることは、責任逃れの原因になりうることが指摘されている。
★全体として、1回目の草案が最も詳細で、2回目の草案は簡略になり、成立した法律はまた少し詳細になっている傾向がある(条文の数の推移は、全41条→全35条→全38条である)。個別にみると、2回目の草案や成立した法律のほうが、規定が詳細になっている箇所もあるが、1回目の草案にはあった、警察の対応についての詳細な規定やDVについての立証責任の合理的分配に関する規定が、それ以後はなくなっていることは問題として指摘されている。
★シェルターに関しては、規定はあるが、成立した法律では設立が義務付けられておらず、質的な保障をする規定、被害者の就労や子どものケアなどの規定もない。
★立法の目的の一つに「家庭の調和、社会の安定の促進」があることも、限界として考えられよう。

第一章 総則

第1条

 家庭内暴力を予防・制止し、家庭の構成員の合法的権益を保護し、平等で、むつまじい、文明的な家族関係を守り、家庭と社会の安定を促進するために、憲法にもとづいて、本法を制定する。
 ↓
 平等で、むつまじい、文明的な家族関係を守り、家庭の調和、社会の安定を促進し、家庭内暴力を予防・制止し、被害者の合法的権益を保護するために、本法を制定する。
 ↓
 家庭内暴力を予防・制止し、家庭の構成員の合法的権益を保護し、平等で、むつまじい、文明的な家族関係を守り、家庭の調和、社会の安定を促進するために、本法を制定する。

コメント:法律の目的である。ほぼ同じであり、家族の調和や社会の安定が一つの目的として謳われていることに特徴がある。ただし、語順は少し変化している。

第2条
 本法で言う家庭内暴力とは、家族の構成員間で身体・精神などの面の侵害をすることを指す。
 本法で言う家族の構成員とは、配偶者・父母・子どもおよび、その他の共に生活をしている近親族である。
 家族で他人の子を預かっている関係の人の間の暴力行為は、家庭内暴力と見なす。
 ↓
 本法で言う家庭内暴力とは、殴る、縄で縛る、傷つける、強制的に人身の自由を制限する、家庭の構成員に対しておこなう侵害行為である。
 ↓
 本法で言う家庭内暴力とは、家庭の構成員間で、殴る、縄で縛る、傷つける、人身の自由を制限する、日常的に侮り罵る、脅迫するなどの方法でおこなう身体・精神などに対する侵害行為を指す。

コメント:(1)では精神的暴力が入っていたのが、(2)で削除され、(3)で復活した。また、成立した法案(3)には、最後に記すように第六章「附則」の中の第37条として、(1)(2)にはない「家庭の構成員以外の、共に生活している人の間の暴力行為は、本法を参照して執行する」という条文が入った。

第3条(1文目)
 反家庭内暴力は全社会の共同の責任である。
 ↓
第3条(1文目)
 反家庭内暴力は全社会と一つ一つの家庭の共同の責任である。
 ↓
第3条
 家族の構成員は、お互いに助け合い、お互いに思いやり、睦まじくつきあって、家庭の義務を履行しなければならない。
 反家庭内暴力は、国家・社会・一つ一つの家庭の共同の責任である。
 国家はいかなる形態の家庭内暴力も禁止する。


コメント:(3)では国家の役割が比較的強調されている。その一方で、家族道徳を規定した条文も加わっている。

第3条(第2文)
 国家機関・社会団体・企事業単位・基層の大衆的自治組織は、本法と関係する法律の規定にもとづいて、反家庭内暴力工作をしなければならない。
第4条
 各レベルの人民政府は、反家庭暴力工作を強化し、経費を保障しなければならない。
 県レベル以上の人民政府は、女性児童工作の機構に責任を負い、関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作をおこなわせる責任を負う。
 県レベル以上の人民政府の関係部門は、各自の職責の範囲内で反家庭内暴力工作をおこなわなければならない。
 ↓
第3条(第2文)
 政府の関係部門、司法機関、人民団体、社会組織、都市・農村の基層の大衆的自治組織、企業・事業単位は、本法および関係する法律の規定にもとづいて、反家庭内暴力工作をしなければならない。
第4条
 県レベル以上の人民政府は、女性児童工作の機構に責任を負い、関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作をおこなわせる責任を負う。
 各レベルの人民政府は、反家庭暴力工作について必要な経費を保障しなければならない。
 ↓
第4条
 県レベル以上の人民政府は、女性児童工作の機構に責任を負い、関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作をおこなわせる責任を負う。
 県レベル以上の人民政府の関係部門、司法機関、人民団体、社会組織、居民委員会、村民委員会、企業事業単位は、本法と関係する法律の規定にもとづいて、反家庭暴力工作をおこなわなければならない。
 各レベルの人民政府は、反家庭暴力工作について必要な経費を保障しなければならない。


コメント:女性児童工作の機構である女性児童工作委員会の人力・財力・権限などが弱いことは広く指摘されている。

第6条
 反家庭内暴力工作は予防を主とし、教育、懲罰を結びつける原則にしたがう。
 家庭内暴力事件の処理は、当事者の安全とプライバシーを保護し、被害者の意思を尊重しなければならない。
 家庭内暴力に遭った未成年者・高齢者・障害者、重病患者には、特別な保護をしなければならない。
 ↓
第5条
 反家庭内暴力工作は予防を主とし、教育、懲罰と結びつける原則にしたがう。
 ↓
第5条
 反家庭内暴力工作は予防を主とし、教育、強制、懲罰と結びつける原則にしたがう。
 反家庭内暴力工作は被害者の本当の意思を尊重し、当事者のプライバシーを保護しなければならない。
 未成年者・高齢者・障害者・妊娠期・哺乳期の女性、重病患者が家庭内暴力に遭った場合は、特別な保護をしなければならない。


コメント:(2)で削除された箇所が、(3)で復活(し若干強化され)している。この条文に限らず、そうした条文がかなりある。

第二章 家庭内暴力の予防

第5条
 各レベルの婦女連合会、労働組合、共産主義青年団は各自の工作の範囲内で、反家庭内暴力工作をしなければならない。
第7条(第1項、第2項、第4項)
 国家は反家庭内暴力の宣伝活動をおこない、社会組織と公民が公益的な反家庭内暴力の宣伝活動をすることを奨励しなければならない。
 メディアは、反家庭内暴力の世論の宣伝をしなければならない。
 司法行政機関は、反家庭内暴力の法律・法規を法制宣伝教育の内容に入れなければならない。
 婚姻登記機関は、婚姻登記の当事者に対して、反家庭内暴力の知識と関連の法律・法規を宣伝しなければならない。
第8条(第2項)
 小中学校は、反家庭内暴力の知識および関連する法律・法規の教育をしなければならない。
 ↓
第6条
 国家は反家庭内暴力の宣伝活動をおこない、反家庭内暴力の知識を普及し、公民の反家庭内暴力意識を増強する。
 国家は社会の力が反家庭内暴力の宣伝活動をすることを奨励する。
 労働組合、共産主義青年団、婦女連合会、各自の活動の範囲内で、反家庭内暴力の宣伝教育をおこなう。
第7条(第3項)
 小中学校の反家庭内暴力教育をおこなわなければならない。
 ↓
第6条
 国家は家庭美徳宣伝教育をおこない、反家庭内暴力の知識を普及し、公民の反家庭内暴力意識を増強する。
 労働組合、共産主義青年団、婦女連合会、障害者連合会は、各自の活動の範囲内で、家庭美徳と反家庭内暴力の宣伝教育をおこなう。
 ラジオ、テレビ、新聞・雑誌、インターネットなどは、家庭美徳と反家庭内暴力の宣伝教育をおこなわなければならない。
 学校、幼稚園は、家庭の美徳と反家庭内暴力の教育をしなければならない。


コメント:
・婚姻登記機関を明記しているのは(1)だけである。
・(1)に記されていたメディアは、(2)でなくなり、(3)で詳しくなって復活。
・(3)では、「小中学校」に限定せず、「学校、幼稚園」全体に広げた。ただし、「家庭の美徳」という文言が新たに入っている。
・(3)では、障害者連合会についても言及した。

第9条
 人民法院・人民検察院・公安機関・民政部門・婦女連合会は、反家庭内暴力活動をその系統の業務研修と統計の中に入れなければならない。
 医療機構は、職員に対して、家庭内暴力の被害者の診療・処置の要求やよくある心理・行為の問題の識別・紹介などの面の研修と指導をしなければならない。
第17条
 医療機構は、家庭内暴力の被害者をただちに応急処置し、診療の記録を付けなければならない。
 ↓
第7条(第1項、第2項)
 政府の関係部門、司法機関、婦女連合会は反家庭内暴力を業務研修と統計の中に入れなければならない。
 医療機構は家庭内暴力の被害者の診療記録をつけ、反家庭内暴力を業務研修に入れなければならない。
 ↓
第7条
 県レベル以上の人民政府の関係部門、司法機関、婦女連合会は家庭内暴力予防と制止を業務研修と統計工作に入れなければならない。
 医療機構は家庭内暴力の被害者の診療記録をきちんとつけなければならない。


コメント:(3)では、医療機関の研修が消えている。

第10条(前半)
 郷・鎮の人民政府、街道事務所は、基層の大衆的自治組織が反家庭内暴力の予防活動をするよう指導し(‥‥)なければならない。
 ↓
第8条
 郷・鎮の人民政府、街道事務所は、家庭内暴力予防活動をしなければならならず、郷・鎮の基層の大衆的自治組織は、協力し助けなければならない。
 ↓
第8条
 郷・鎮の人民政府、街道事務所は、家庭内暴力予防活動を展開しなければならならず、居民委員会、村民委員会、ソーシャルワークサービス機構は、協力・援助しなければならない。


第10条(後半)
 (郷・鎮の人民政府、街道事務所は)ソーシャルワーク機構などの社会組織が心理的健康、家族関係の指導などのサービスを提供することを組織し、サポートしなければならない。
 ↓
第9条
 各レベルの人民政府は、社会組織が心理健康相談・家族関係の指導・家庭内暴力の防護知識教育などのサービスをするのをサポートしなければならない。
 ↓
第9条
 各レベルの人民政府は、ソーシャルワークサービス機構などの社会組織が心理健康相談・家族関係の指導・家庭内暴力の防護知識教育などのサービスをするのをサポートしなければならない。


第11条
 さまざまな調停組織は適時に家庭内紛争の調停をおこなって、家庭内暴力の発生を予防・減少させなければならない。
 ↓
第10条
 人民調停組織は法により家庭内紛争の調停をおこなって、家庭内暴力の発生を予防・減少させなければならない。
 ↓
第10条
 人民調停組織は法により家庭内紛争の調停をおこなって、家庭内暴力の発生を予防・減少させなければならない。


第7条(第2項)
 人を雇う単位は、その単位の従業員の(?に対して)反家庭内暴力の宣伝教育活動をしなければならない。
 ↓
第11条
 人を雇う単位は、その単位の従業員に対して反家庭内暴力の教育をおこない、その単位の従業員に家庭内暴力がある状況を発見したら、ただちに忠告して止め、批判・教育をし、あわせて従業員の家庭内の矛盾を調停し、取り除かなければならない。
 ↓
第11条
 人を雇う単位は、その単位の従業員に家庭内暴力がある状況を発見したら、ただちに忠告して止め、批判・教育をし、あわせて従業員の家庭内の矛盾を調停し、取り除かなければならない。


第8条(第1項)
 未成年者の後見人は、法によって職責を履行しなければならず、未成年に対して家庭内暴力をおこなってはならない。
 ↓
第12条
 未成年者の後見人は、法によって職責を履行しなければならず、未成年に対して家庭内暴力をおこなってはならない。
 ↓
第12条
 未成年者の後見人は、文明的な方式で家庭教育をし、法にもとづいて後見と教育の職責を履行しなければならず、家庭内暴力をおこなってはならない。


第12条
 監獄・留置所・拘置所などの施設は、刑罰を科せられている、あるいは法によって拘留・逮捕されている加害者に対して、法にもとづいた法制教育・心理カウンセリング・行為矯正をおこなわなければならない。
 ↓
(2)・(3)には、なし。

第三章 家庭内暴力の処罰

第13条
 家庭内暴力の被害者およびその法定代理人、近い親族は、加害者あるいは被害者がいる単位、基層の大衆的自治組織、婦女連合会などの関係組織に訴え出たり、助けを求めたりすることができる。関係する単位・組織は、家庭内暴力の訴えや助けの求めを受けた後は、ただちに忠告して制止したり、調停したり、加害者に対して批判・教育をしなければならない。
 家庭内暴力の被害者およびその法定代理人、近い親族は、公安機関に直接通報することもできる。
 家庭内暴力の行為に対しては、いかなる組織・公民も、忠告して止めさせたり、制止したり、公安機関に通報する権利がある。
 ↓
 家庭内暴力の被害者およびその法定代理人、近い親族は、加害者あるいは被害者がいる単位、都市・農村の基層の大衆的自治組織、婦女連合会などの単位に訴え出たり、意見を言ったり、助けを求めたりすることができる。関係する単位・組織は、家庭内暴力の訴えや意見、助けの求めを受けた後は、援助・処理をしなければならない。
 家庭内暴力の被害者およびその法定代理人、近い親族は、公安機関に直接通報することもできる。
 ↓
 家庭内暴力の被害者およびその法定代理人、近い親族は、加害者あるいは被害者がいる単位、居民委員会、村民委員会、婦女連合会などの単位に訴え出たり、意見を言ったり、助けを求めたりすることができる。関係する単位は、家庭内暴力の訴え、意見、助けの求めを受けた後は、援助・処理をしなければならない。
 家庭内暴力の被害者およびその法定代理人、近い親族は、公安機関に通報する、あるいは人民法院に訴訟を起こすこともできる。
 単位、個人が家庭内暴力の行為がおこなわれていることを発見した場合は、ただちに制止する権利がある。


第14条
 以下の機構は、仕事の中で、民事行為能力がない人、民事行為能力を制限されている人、あるいは年老いている、障害がある、重病などの原因で通報できない人が家庭内暴力に遭っていることを発見したときは、ただちに公安機関に通報しなければならない。
 (一)救助管理機構・社会福利機構
 (二)小中学校、幼稚園
 (三)医療機構
 ↓
 小中学校、幼稚園、医療機構およびその職員は、仕事の中で、民事行為能力がない人、民事行為能力を制限されている人が家庭内暴力に遭っているか、遭っている疑いがあることを発見したときは、直ちに公安機関に通報しなければならない。
 ↓
 学校、幼稚園、医療機構、居民委員会、村民委員会、ソーシャルワークサービス機構、救助管理機構、福利機構とその職員は、仕事の中で、民事行為能力がない人、民事行為能力を制限されている人が家庭内暴力に遭っているか、遭っている疑いがあることを発見したときは、直ちに公安機関に通報しなければならない。公安機関は、事件を通報した人の情報について秘密を守らなければならない。

コメント:成立した法律は、草案段階での「小中学校」が、「学校」全般になっている。

第15条
 公安機関は家庭内暴力の通報を受けた後は、ただちに現場に出動し、情況にもとづいて、以下のふさわしい措置をとらなければならない
 (一)いま現在発生している家庭内暴力を制止する。
 (二)ただちに被害者・加害者・証人に質問して、録音・録画・撮影などの方法で関連する証拠を固めるとともに、書面の記録を作成する。
 (三)被害者がただちに医者にかかる必要がある場合は、医療機関に連絡して応急処置をするのに協力し、必要に応じて傷の程度の鑑定を委託しなければならない。被害者が未成年のときは、ただちに傷の程度の鑑定の手配をし、きちんとした処置をしなければならない。
 ↓
 公安機関は家庭内暴力の通報を受けた後は、ただちに現場に出動し、家庭内暴力を制止し、関係規定にもとづいて調査して証拠を集め、医者にかかるのを助け、傷の程度の鑑定をしなければならない
 ↓
 公安機関は家庭内暴力の通報を受けた後は、ただちに現場に出動し、家庭内暴力を制止し、関係規定にもとづいて調査して証拠を集め、医者にかかるのを助け、傷の程度を鑑定しなければならない。
 民事行為能力のない人、民事行為能力が制限されている人が家庭内暴力によって身体に重大な傷害を受ける、人身の安全が脅かされている、あるいは誰も世話をしないことなどのために危険な状態になっているときは、公安機関は、臨時の庇護場所か救助管理機構、福利機構に落ち着かせるよう民政部門に通知・協力しなければならない。


コメント:証拠の収集について、(1)では直接条文に詳しく書かれていたが、(2)(3)では「関係規定にもとづいて」となっている。
 (3)では、「民事行為能力のない人、民事行為能力が制限されている人」についての規定が増えている。

第16条
 公安機関は質問をするとき、被害者と加害者を別々にして質問しなければならない。
 公安機関は未成年者に質問するときは、未成年者の心身の特徴を考慮し、さらなる傷害を与えることを防がなければならない。
 未成年の被害者を公安機関に連れて行って質問する必要があるときは、その法的代理人に通知して現場に来させなければならない。通知できず、法的代理人が来られないとか、来ることを拒絶するとか、あるいは法定代理人が加害者である場合は、未成年の被害者の成人の近い親族に通知してもよく、所属する学校あるいは基層の大衆的自治組織の代表に通知してもよく、その状況の記録を残さなければならない。
 ↓
(2)(3)には、なし。

第19条
家庭内暴力が治安管理の違反行為や犯罪にまではならないときは、公安機関は、書面で加害者に二度と暴力をふるわないように訓戒を与え、告誡書の副本を被害者の住所あるいはふだんの居住地の基層の大衆的自治組織・婦女連合会に送ることができる。
 ↓
第16条
 家庭内暴力の情状が比較的軽く、法による治安管理処罰をしないときは、公安機関は加害者に対して批判・教育、あるいは告誡書を出す。
 告誡書は、加害者の身分情報、家庭内暴力の事実の陳述、加害者に家庭内暴力を禁止するなどの内容を含めなければならない。
 ↓
第16条
 家庭内暴力の情状が比較的軽く、法による治安管理処罰をしないときは、公安機関は加害者に対して批判・教育、あるいは告誡書を出す。
 告誡書は、加害者の身分情報、家庭内暴力の事実の陳述、加害者に家庭内暴力を禁止するなどの内容を含めなければならない。


コメント:(2)(3)では、やや詳細になっている。

第17条
 (なし)
 ↓
 公安機関は告誡書を加害者、被害者、現地の都市・農村の基層の大衆的自治組織に渡さなければならない。
 都市・農村の基層の大衆的自治組織の工作人員あるいは社区(地域コミュニティ組織)の警官は、告誡書を受け取った加害者・被害者のところに行って調べ、加害者にもう家庭内暴力をおこなわないよう督促しなければならない。
 ↓
 公安機関は告誡書を加害者、被害者に渡し、あわせて居民委員会、村民委員会に通知しなければならない。
 居民委員会、村民委員会、公安派出所は、告誡書を受け取った加害者・被害者のところに行って調べ、加害者にもう家庭内暴力をおこなわないよう監督しなければならない。


コメント:(2)(3)で新設された条文。

第18条
 県レベルあるいは区を設けている市レベルの人民政府は、シェルターを設立あるいは指定して、家庭内暴力のためにしばらく家に帰れない被害者に緊急の庇護と短期の生活救助をしなければならない。
 ↓
 県レベルあるいは区を設けている市レベルの人民政府は、単独あるいは救助管理機構に委託して臨時の住まいを設立して、家庭内暴力の被害者のために援助をすることができる。
 ↓
 県レベルあるいは区を設けている市レベルの人民政府は、単独あるいは救助管理機構に委託して臨時のシェルターを設立して、家庭内暴力の被害者のために臨時の生活の援助を提供することができる。

コメント:(1)では、「しなければならない(応当)」だったが、(2)・(3)では、「できる(可以)」に変わっている。

第21条
 法律援助機構は、条件に合致した家庭内暴力の被害者に法律援助を提供しなければならない。法律サービス機構が、経済的に確かに困難ではあるが、法律援助の条件には達していない被害者に対して法律サービス費用の減免をすることを奨励・サポートする。
 法律援助の条件に合致した委託人が司法鑑定を申請した場合は、司法鑑定機構は関係する規定に照らして司法鑑定の費用を減免しなければならない。
 人民法院は、条件に合致した家庭内暴力の被害者に対して、訴訟費用の減免または猶予をしなければならない。
 ↓
第19条
 法律援助機構は法により家庭内暴力の被害者に法律援助を提供しなければならない。
 人民法院は法により家庭内暴力の被害者に、訴訟費用の猶予または減免をしなければならない。
 ↓
第19条
 法律援助機構は法によって家庭内暴力の被害者に法律的援助を提供しなければならない。
 人民法院は法により家庭内暴力の被害者に、訴訟費用の猶予または減免をしなければならない。


コメント:(2)(3)では、法律サービス機構と司法鑑定機構に関する規定が消えている。

第20条
 自訴によって加害者の家庭内暴力行為の刑事責任を追及することに対しては、公安機関は被害者、その法定代理人、近い親族に、直接人民法院に起訴できると知らせなければならない。
 被害者が民事行為能力のない人、民事行為能力を制限されている人で、その法定代理人、近い親族が代わって告訴しない場合は、人民検察院が告訴できる。
 ↓
(2)(3)には、なし。

第22条 人民法院は家庭内暴力に関わる民事事件と刑事事件を法により速やかに受理し、審理しなければならない。
 ↓
(2)(3)には、なし。

第23条
 人民法院は家庭内暴力に関わる民事事件を審理するときは、挙証責任を合理的に分配しなければならない。
 被害者が客観的な原因によって自ら証拠を収集できないときは、人民法院が調査収集しなければならない。
 ↓
(2)(3)には、なし。

第24条
 家庭内暴力による離婚訴訟では、人民法院は財産分割・子どもの養育・住居などの面で被害者の利益を保護しなければならない。
 ↓
(2)(3)には、なし。

(1)には、なし。
 ↓
第20条
 人民法院は家庭内暴力に関わる事件を審理するときは、公安機関の現場出動記録、告誡書、傷の程度の鑑定意見などの証拠にもとづいて、家庭内暴力の事実を認定できる。
 ↓
 人民法院は家庭内暴力に関わる事件を審理するときは、公安機関の現場出動記録、告誡書、傷の程度の鑑定意見などの証拠にもとづいて、家庭内暴力の事実を認定できる。

第25条
 後見人が家庭内暴力によって被後見人の合法的権益に対する重大な侵害をしたときは、人民法院は、関係者あるいは単位の申請により、その後見人の資格を取り消し、別の後見人を指定することができる。
 法により扶養・養育の義務があるが、後見の資格を取り消された後見人は、継続して相応の扶養・養育の費用を負担しなければならない。
 後見の資格が取消された日から3カ月後から、当事者は人民法院に書面で後見人の資格を回復する申請をすることができる。
 ↓
第21条
 後見人が家庭内暴力によって被後見人の合法的権益に対する重大な侵害をしたときは、人民法院は、関係者あるいは単位の申請により、その後見人の資格を取り消し、別の後見人を指定することができる。
 後見の資格を取り消された加害者は、継続して相応の扶養・養育の費用を負担しなければならない。
 ↓
第21条
 後見人が家庭内暴力によって被後見人の合法的権益に対する重大な侵害をしたときは、人民法院は、被後見人の近い親族、居民委員会、村民委員会、県レベルの人民政府の民政部門などの関係者あるいは単位の申請により、その後見人の資格を取り消し、別の後見人を指定することができる。


コメント:(1)→(2) で第三段の規定を省略し、(2) →(3)で第二段の規定を省略している。

(なし)
 ↓
第22条
 都市・農村の基層の大衆的自治組織、労働組合、共産主義青年団、婦女連合会などの単位は、家庭内暴力の加害者に対して、法制教育と心理指導をしなければならない。
 ↓
第22条
 労働組合、共産主義青年団、婦女連合会、障害者連合会、居民委員会、村民委員会は、家庭内暴力の加害者に対して法治教育をし、必要なときは加害者、被害者に対して心理補導をしなければならない。


コメント:(2)で、具体的に加害者に対する法制教育と心理指導が規定され、(3)で被害者の心理補導も規定。加害者に対する法制教育(法治教育)は義務。

第26条
 人民検察院は法により公安機関と人民法院が家庭内暴力事件を扱う業務に対して法律的監督をおこなう。
 ↓
(2)(3)には、なし。

第四章 人身安全保護裁定
 ↓
第四章 人身安全保護命令
 ↓
第四章 人身安全保護命令

第27条
 人民法院が離婚・扶養・養育・他人の子の養育・相続などの民事事件を審理する過程の中で、家庭内暴力の被害者は、人民法院に人身安全保護裁定を申請することができる。
 家庭内暴力の被害者は、訴訟を起こす前でも、人民法院に人身保護裁定を申請することができる。被害者が人民法院に裁定後30日以内に訴訟を起こさないときは、人民法院は裁定を撤回しなければならない。
 被害者が人民法院に人身安全保護裁定を申請できないときは、その法定代理人や近い親族が人民法院に人身安全保護裁定を申請することができる。
 ↓
第23条
 当事者が家庭内暴力に遭う、または家庭内暴力に遭う現実の危険に直面したために、人民法院に人身安全保護命令を申請したときは、人民法院は受理しなければならない。
 当事者が強制・威嚇を受けているなどの原因で人身安全保護命令を申請できないときは、その近い親族が代わって申請することができる。
 ↓
第23条
 当事者が家庭内暴力に遭う、または家庭内暴力に遭う現実の危険に直面したために、人民法院に人身安全保護命令を申請したときは、人民法院は受理しなければならない。
 当事者が民事行為能力のない人や民事行為能力が制限されている人、あるいは強制・威嚇を受けているなどの原因で人身安全保護命令を申請できない場合は、その近い親族、公安機関、婦女連合会、居民委員会、村民委員会、救助管理機構が代わって申請することができる。


コメント:(1)では「離婚・扶養・養育・他人の子の養育・相続など」の裁判中か、裁判を起こす30日前以内にしか申請できなかったのが、(2)では、そうした条件が外れているという大きな違いがある。また、当事者が申請できない場合、(1)と(2)では、親族しか申請できなかったのが、(3)では、公安機関、婦女連合会、居民委員会、村民委員会、救助管理機構が代わって申請することができるようになった。

第28条
 人身安全保護裁定の申請は、書面によって提出しなければならない。
 ↓
第24条
 人身安全保護命令の申請は、書面によって提出しなければならない。書面の申請がたしかに困難な場合は、口頭で申請し、人民法院によって文書で記録することもできる。
 ↓
第24条
 人身安全保護命令の申請は、書面によって提出しなければならない。書面の申請がたしかに困難な場合は、口頭で申請し、人民法院によって文書で記録することもできる。


コメント:(2)(3)では、口頭による申請も可能になった。

第30条
 被害者が訴訟を起こす前に人身安全保護裁定を申請する場合は、被害者・加害者の住所、平常済んでいる地域、あるいは事件に対する管轄権がある人民法院が管轄する。
 ↓
第25条
 人身安全保護命令事件は、申請人あるいは被申請人の居住地、家庭内暴力の発生地の基層人民法院が管轄する。
 ↓
第25条
 人身安全保護命令事件は、申請人あるいは被申請人の居住地、家庭内暴力の発生地の基層人民法院が管轄する。


(1)(2)にはなし。
 ↓
第26条
 人身安全保護命令は、人民法院によって裁定の形式で出す


第29条
 人身安全保護裁定の申請は、以下の条件に合致していなければならない:
 (一)明確な被申請人がいる。
 (二)具体的な請求がある。
 (三)具体的な事実と理由がある。
 ↓
第26条
 人身安全保護命令を出すには、以下の条件を具備していなければならない:
 (一)明確な被申請人がいる。
 (二)具体的な請求がある。
 (三)家庭内暴力に遭っている、または家庭内暴力に遭う現実の危険に直面している。
 ↓
第27条
 人身安全保護命令を出すには、以下の条件を具備していなければならない:
 (一)明確な被申請人がいる。
 (二)具体的な要求がある。
 (三)家庭内暴力に遭っている、または家庭内暴力に遭う現実の危険に直面している状況がある。


第31条
 人民法院は申請を受けつけた後、48時間以内に人身安全保護命令を出さなければならない。
 第29条の規定に合致しない申請や、申請人が証拠を提出しない場合や、加害者の加害行為を証明するには足りない証拠しか提出しない場合は、人民法院は申請を却下する。
 ↓
第27条
 人民法院は申請を受理した後、48時間以内に人身安全保護命令を出すか、却下しなければならない。
 ↓
第28条
 人民法院は申請を受理した後、72時間以内に人身安全保護命令を出すか、申請を却下しなければならない。状況が緊急である場合は、24時間以内に出さなければならない。


第32条
 人身安全保護裁定は、以下の1つあるいは複数の項目を含む。
 (一)加害者が被害者に再び加害することを禁止する。
 (二)加害者が被害者の住まいから出ていくよう命じる。
 (三)加害者が被害者に接近することを禁止する。
 (四)加害者が被害者の住まいおよび他の共同で所有している不動産を処分することを禁止する。
 ↓
第28条
人身安全保護命令は、以下の措置を含むことができる。
 (一)被申請人が家庭内暴力をすることを禁止する。
 (二)被申請人が申請人にハラスメント、つきまといをすることを禁止する。
 (三)被院生人に申請人の住まいから引っ越すことを命じる。
 (四)申請人の人身の安全を保護するその他の措置。
 ↓
第29条
 人身安全保護命令は、以下の措置を含むことができる。
 (一)被申請人が申請人に家庭内暴力をすることを禁止する。
 (二)被申請人が申請人およびその近い親族にハラスメント、つきまとい、接触をすることを禁止する。
 (三)被院生人に申請人の住まいから引っ越すことを命じる。
 (四)申請人の人身の安全を保護するその他の措置。


コメント:(2)と(3)では、(4)が包括的な規定になり、(3)では、「ハラスメント、尾行、接触」の禁止が「近い親族」にも広がった。

第34条
 人身安全保護裁定は、出した日から効力を生じる。有効期間は1カ月から6カ月である。
 人身安全保護裁定の有効期間内は、申請者、被害者、加害者は人民法院に裁定の撤回を申請できる。
 人身安全保護裁定の期限が来た後は、申請者は人民法院に対して再度の裁定を申請できる。
 ↓
第30条
 人身安全保護命令の有効期間は、6カ月を超えず、出した日から効力を生じる。
 ↓
第30条
 人身安全保護命令の有効期間は、6カ月を超えず、出した日から効力を生じる。人身安全保護命令の失効前に、人民法院は申請人の申請にもとづいて撤回や変更、延長ができる。


第31条
 申請人が申請を却下されたことに不服である、あるいは被申請人が人身安全保護命令に不服である場合は、裁定発効の日から5日以内に、裁定について人民法院に一度再議を申請することができる。人民法院は法により人身保護命令を出した場合は、再議期間は人身安全保護命令の執行を停止しない。


第33条
 人民法院は人身安全保護裁定を出した24時間以内に、申請人、被害者、加害者に送達し、あわせて人身安全保護裁定の副本を被害者と加害者の住所あるいは平常の居住地の公安機関と基層の大衆的自治組織と婦女連合会に送らなればならない。
 申請者、被害者あるいは加害者が人身安全保護裁定に対して不服である場合は、裁定を受け取った日から5日以内に、裁定を出した人民法院に再議を申請することができる。再議期間は裁定の執行を停止しない。
 ↓
第29条
 申請人、被申請人が人身安全保護命令あるいはその却下に不服である場合は、一度再議を申請することができる。再議の期間は人身安全保護命令の執行を停止しない。
 ↓
第32条
 人民法院は人身安全保護命令を出した後、申請人、被申請人、公安機関、居民委員会、村民委員会などの関係組織に送達しなればならない。人身安全保護命令は、人民法院が執行し、公安機関、居民委員会、村民委員会などが執行に協力しなければならない。


コメント:(1)では、人身安全保護裁定の執行機関が不明確であるうえ、「人身安全保護裁定の副本を被害者と加害者の住所あるいは平常の居住地公安機関と基層の大衆的自治組織と婦女連合会に送らなればならない」と述べるだけだった。(3)では「人身安全保護命令は、人民法院が執行し、公安機関と居民委員会、村民委員会などが執行に協力しなければならない」といちおう執行機関が明確になった。しかし、それ以外の機関の関わりについては、「公安機関と居民委員会、村民委員会などが執行に協力しなければならない」という曖昧なものにとどまった。

第35条
 家庭内暴力犯罪をおこなった犯罪の容疑者、被告人に対して公安機関、人民検察院、人民法院が取保候審を決定した場合は、取保候審の決定の中に、第32条の一つまたは多くの項目の内容を増やすことができる。
 ↓
(2)(3)には、なし。

第36条
 家庭内暴力犯罪をおこなったことに対して、執行猶予あるいは管制に処せられた犯罪人に対しては、判決の中に第32条の一つまたは多くの項目の内容を増やすことができる。
 ↓
(2)(3)には、なし。

第五章 法律上の責任

第37条
 家庭内暴力が治安管理の違反行為になる場合は、公安機関が法により治安管理処罰をする。犯罪を構成した場合は、司法機関が法により刑事責任を追究する。
 ↓
第31条
 加害者がおこなった家庭内暴力が、人身の損害や財産の損失を引き起こした場合は、法により民事責任を負う。治安管理に違反する行為を構成した場合は、法により治安管理処罰をする。犯罪を構成した場合は、法により刑事責任を追究する。
 ↓
第33条
 加害者が家庭内暴力をおこない、治安管理に違反する行為をおこなった場合は、治安管理処罰をする。犯罪を構成した場合は、法により刑事責任を追究する。


第38条
 加害者が人身安全保護裁定に違反した場合は、人民法院は民事訴訟法111条、115条、116条の規定によって処罰する。犯罪を構成する場合は、法によって刑事責任を追究する。
 ↓
第32条
 被申請人が人身安全保護命令に違反した場合は、人民法院は訓戒をしなければならず、情状の軽重にもとづいて、1000元以下の罰金、15日以下の拘留に処す。
 ↓
第34条
 被申請人が人身安全保護命令に違反し、犯罪を構成した場合は、法により刑事責任を追及する。犯罪を構成しない場合は、人民法院は訓戒をしなければならず、情状の軽重にもとづいて、1000元以下の罰金、15日以下の拘留に処すことができる。


第39条
 救助管理機構、社会福利機構、小中学校、幼稚園、医療機関が本法第14条の規定にもとづいて公安機関に通報せず、重大な結果を引き起こした場合は、上級主管部門あるいはその単位によって、直接責任を負う主管者と他の直接の責任者を法によって処分する。
 ↓
第33条
 小中学校、幼稚園、医療機関およびその職員が本法第14条の規定にもとづいて公安機関に通報せず、重大な結果を引き起こした場合は、直接責任を負う主管人と他の直接責任を持つ人に対して法によって処分する。
 ↓
第35条
 学校、幼稚園、医療機構、居民委員会、村民委員会、ソーシャルワークサービス機構、救助管理機構、福利機構およびその職員が本法第14条の規定にもとづいて公安機関に通報せず、重大な結果を引き起こした場合は、上級主管部門あるいはその単位によって、直接責任を負う主管人とその他の直接責任を持つ人を法によって処分する。


第40条
 反家庭内暴力の職責を負う国家職員が職務をおろそかにしたり、職権を乱用したり、私情にとらわれ不正を働いたり、プライバシーを漏らしたりした場合は、法によって処分する。犯罪を構成した場合は、法により刑事責任を追究する。
 ↓
第34条
 反家庭内暴力の職責を負う国家の職員が職務をおろそかにしたり、職権を乱用したり、私情にとらわれ不正を働いたりした場合は、法によって処分する。犯罪を構成した場合は、法により刑事責任を追究する。
 ↓
第36条
 反家庭内暴力の職責を負う国家の職員が職務をおろそかにしたり、職権を乱用したり、私情にとらわれ不正を働いたりした場合は、法によって処分する。犯罪を構成した場合は、法により刑事責任を追究する。


第六章 附則

第37条
 家庭の構成員以外の、生活を共にする人の間の暴力行為は、本法を参照して執行する。


コメント: 上記のように、この条文は(3)で新設。

第41条
 本法は、 年 月 日から施行する。
 ↓
第35条
 本法は、 年 月 日から施行する。
 ↓
第38条
 本法は2016年3月1日から施行する。

家庭内暴力防止法の草案発表、草案に対するさまざまな意見と活動

<目次>
 1.国務院法制事務局、家庭内暴力防止法の草案を発表し、意見を募集
 2.人身安全保護裁定など、これまでの経験を生かした規定がある点はDV問題の専門家も評価
 3.さまざまな問題点・不十分点の指摘
 4.呂頻さん、広範な問題を明るみに出すために、すべての人による討論を呼びかけ
 5.ニューメディア女性ネットワーク、草案公表前から建議稿を作成するためのアンケート調査や論点の呈示をおこなう
 6.女子大学生ら、白雪姫やマリリン・モンローらが暴力の被害にあったかのようなコスプレをして、北京の地下鉄でDV反対を訴える
 7.LGBT平等権益促進会の建議
 8.レズビアングループ「同語」、同棲・恋愛・パートナーなどの関係も対象にすることを求める署名開始

1.国務院法制事務局、家庭内暴力防止法の草案を発表し、意見を募集

女性に対する暴力撤廃の国際デーである11月25日、国務院法制事務局は、「中華人民共和国反家庭内暴力法(草案)」とその「説明」を発表した。この草案は、「意見募集稿」であり、12月25日までの間に、メールや郵便で意見を出すように求めている(「国务院法制办公室关于《中华人民共和国反家庭暴力法(征求意见稿)》公开征求意见的通知」国务院法制办公室2014年11月25日←草案もこのページからダウンロードできる)。

この草案は、「総則」「家庭内暴力の予防」「家庭内暴力の処置」「人身安全保護裁定」「法律上の責任」「附則」の6の章からなっており、全部で41条ある。

この草案は、第1条に、法の目的として、「家庭内暴力を予防・制止し、家族の成員の合法的権益を保護し、平等で仲睦まじく、文明的な家族関係を守り、社会の調和と安定を促進するために、憲法にもとづいて、本法を制定する」とあるように、家族関係や社会の調和・安定が最終目的になっていることに限界があるように思う。

2.人身安全保護裁定など、これまでの経験を生かした規定がある点はDV問題の専門家も評価

とはいえ、DV問題に取り組んできた専門家も、この草案について、ある程度の評価をしている。

DV反対ネットワークで活動してきた呂頻さんは、この草案について「少なくない条項が実際の経験にもとづいている。たとえば、公安機関(≒警察)が家庭内暴力のために出動したとき、証拠を固め、書面の記録を作成しなければならないとしている[第15条(遠山注。以下同じ)]。また、成功した試験的施行を総括した条項もある。たとえば公安機関は加害者に対して書面で訓戒を与えることができるとしており[第19条]、また、章を設けて、法院が家庭内暴力に関わる訴訟について人身安全保護裁定を出すことができるとしている[第四章]」と述べている(1)

呂頻さんが指している条項は、具体的には、以下のものである。

第15条 公安機関は家庭内暴力の通報があったら、ただちに現場に出動し、状況にもとづいて、以下の相応の措置をとらなければならない
 (一)いま現在発生している家庭内暴力を制止する。
 (二)ただちに被害者・加害者・証人に質問して、録音・録画・撮影などの方法で関連する証拠を固めるとともに、書面の記録を作成する。
 (三)被害者がただちに医者にかかる必要がある場合は、医療機関と連絡をして処置や治療に協力し、必要に応じて傷の程度の鑑定をしなければならない。被害者が未成年の場合は、ただちに傷の程度の鑑定をし、きちんと処置をしなければならない。

第19条 家庭内暴力が治安管理行為違反や犯罪にまではならないとき、公安機関は加害者に二度と暴力をふるわないように書面で訓告し、訓告書の副本を被害者の住所あるいはふだんの居住地の基層の大衆的自治組織・婦女連合会に送ることができる。


第四章で規定されている「人身安全保護裁定」は、諸外国の「保護命令」と似ているが、以下のような条項によって規定されている。

第27条 人民法院が離婚・扶養・養育・他人の子の養育・相続などの民事事件を審理する過程において、家庭内暴力の被害者は人民法院に人身保護裁定を申請することができる。
 家庭内暴力の被害者は、訴訟を起こす前でも、人民法院に人身保護裁定を申請することができる。被害者が人民法院に裁定後30日以内に訴訟を起こさないときは、人民法院は裁定を撤回しなければならない。

第32条 人身安全保護裁定は、以下の1つあるいは複数の項目を含む。
 (一)加害者が被害者に再び加害することを禁止する。
 (二)加害者が被害者の住まいから出ていくよう命じる。
 (三)加害者が被害者に接近することを禁止する。
 (四)加害者が被害者の住まいおよび他の共同で所有している不動産を処分することを禁止する。

第34条 人身安全保護裁定は、それが出された日から効力を発し、有効期間は、1カ月から6か月である。


この人身安全保護裁定は、離婚訴訟などの訴訟が前提になっている点で諸外国の保護命令とは異なっているように思う。けれども、一つの章を立て、10条にわたって書かれている点は画期的だと言えよう。

また、北京源衆ジェンダー発展センター主任(もと北京大学女性法律研究・サービスセンター主任)の李瑩さんも、「この意見募集稿の関連規定は、国外の立法の経験を参考にしているだけでなく、わが国の各地の家庭内暴力防止の実践の経験を総括して法律にしており、人々に喜ばれるものであることは疑いがない」と述べ、以下のような規定が入ったことを評価している(2)

・関係機関のDVに関する研修・統計の義務付け

第9条 人民法院・人民検察院・公安機関・民政部門・婦女連合会は反家庭内暴力活動をその系統の業務研修と統計の中に入れなければならない。


・関係機関の強制報告制度

第14条 以下の機構は活動の中で民事行為能力がない人、民事行為能力を制限されている人、年老いている、障害がある、重病などの原因で通報できない人が家庭内暴力に遭っている場合は、ただちに公安機関に通報しなければならない。
 (一)救助管理機構・社会福利機構
 (二)小中学校、幼稚園
 (三)医療機構。


・シェルターの設置

第18条 県クラスあるいは区を設けている市クラスの人民政府は、シェルターを設立または指定して、家庭内暴力にあってしばらく家に帰れない被害者のために応急の庇護と短期の生活の救助をおこなわなければならない。


3.さまざまな問題点・不十分点の指摘

その一方、草案については、さまざまな限界も指摘されている。

家庭内暴力の定義が狭く、法律上の家族成員間の暴力に限定されている

第2条 家庭内暴力とは、家族の成員の間で身体・精神などの面の侵害をすることを指す。本法で言う家族の成員とは、配偶者・父母・子どもおよびその他の生活をともにしている近い親族を含む。


この点は、後述する。

人身安全保護裁定が出されたら、警察が何をするのかが書かれていない

第33条 人民法院は、人身安全保護裁定を出した後、24時間以内に、申請者・加害者・被害者に送達し、人身安全保護裁定の副本を被害者と加害者の住所あるいはふだんの居住地の公安機関、基層の大衆的自治組織、婦女連合会に送らなければならない。


呂頻さんは、上の条文について、「人身安全保護裁定の執行には警察の監督が必要であることは実践的に証明されているにもかかわらず、法院が裁定の副本を公安部門に送ると書いてあるだけで、公安が受け取った後に何をするのかが書かれていないので、裁定が全面的に実施されるか否かが不安である」と述べている。

シェルターが、その役割を果たせるだけの質を持ちうるかについて保障がない

また、呂頻さんは、「各県にシェルターを建設するか指定することを要求しているが、質の良いサービスを提供できるか否かが、シェルターが本当に役割を発揮できるか否かのボトルネットになっている。今後のシェルターは、量ではなく、もっと質を重視すべきである」と述べている。

貧困者に対する法律扶助の規定がない

さらに、呂頻さんは、「家庭内暴力の被害者のために法律的援助の敷居を低くすることという規定がないが、これは現在の法律的援助が得られないほど貧困な被害者が援助を得られない可能性があることを意味している」と述べている。

DV教育についての規定になぜか「小中学校」しか書かれていない

第9条 小中学校は家庭内暴力防止の知識と関連する法律・法規の教育をしなければならない。


呂頻さんは、上の条文について、「小中学校で家庭内暴力の教育をすることを規定しているけれども、まさか大学を含めた各学校がみな提供すべきことを否定しているのだろうか?」と述べている(3)

諸部門・諸機関の相互協力についての規定がない

李瑩さんは、「多くの機構の協力による家庭内暴力の防止ということを明確に規定するべきである。家庭内暴力の防止は系統的なプロジェクトであって、一つの部門だけによってできるものではない。一つの家庭内暴力事件も、しばしば、警察への通報、助けを求める、医者にかかる、負傷の程度の鑑定、シェルターによる保護、人身安全保護裁定、法律援助などの面で、多くの部門の統一的な計画案配、調整、協力などが必要だから、多くの機構の協力の活動メカニズムを打ち立てる必要がある。」「意見募集稿は、各部門の具体的職責については細分化して、各部門がそれぞれその責任を負うことは強化しているけれども、協同・協力のメカニズムは明確でない」と指摘している。

家庭内暴力防止委員会のような、専門の反家庭内暴力機構を設立すべきだ。それができなくとも、女性児童工作委員会の権限を強化すべきだ。

第4条 各クラスの人民政府は、反家庭内暴力活動を強化し、経費を保障しなければならない。
 県クラス以上の人民政府は、女性・児童工作の機構に責任を持ち、関係部門がきちんと反家庭内暴力活動をするよう組織し、協調させ、指導し、督促しなければならない。


李瑩さんは、上の規定では不十分で、「たとえば反家庭内暴力委員会のような、専門の反家庭暴力機構を設立すべきだ。多くの国や地区は、立法によって専門の反家庭内暴力機構を設立している」と言う。李さんは、「家庭内暴力の被害者は女性と子どもだけでなく、男性、高齢者、障害者もいるのだから、家庭内暴力の問題は、女性と子どもだけの問題ではなく、社会問題である。にもかかわらず、もし統括する機構を各クラスの女性児童工作委員会に置くならば、家庭内暴力の問題は女性問題だという定型的な観念を強化するし、女性問題であるために軽視あるいは周縁化されかねないので、家庭内暴力の被害者の全面的な保護にとって不利である」と指摘している。

専門の反家庭暴力機構については、中国社会科学院法学研究所研究員で、中国婚姻家庭法学研究会副会長でもある薛寧蘭さんも、「県クラス以上の政府には、専門委員会を設置し、郷・鎮の一級政府には、専門員を配置する。これが多機構協力の組織的措置である。専門委員会と専門員は、多機構が協力する議事を調整する部門であり、専門の条項によって、専門委員会と専門員の職責を明確にするべきである」と言っている。

その一方、中国社会科学院法学研究所研究員の陳明侠さんは、「わが国の現有の条件から見て、もし国家から地方に至るまでの専門の反家庭内暴力機構を設置できないなら、必ず、国の女性児童工作委員会(各クラスの女性児童工作委員会を含む)の法律執行の権限を強化し、力を強め、専任・専門のポストを設けることによって、指導を強化し、全国の反家庭内暴力の活動の実行可能性を評価しなければならない」と言う。

民間団体の役割についても明確に規定すべきだ

薛寧蘭さんは、「公衆や世論、各機構の家庭内暴力についての伝統的認識を変え、家庭内暴力のサバイバーに有効で十分な社会的救助を与え、加害者に対して必要な矯正と処罰などをするためには、政府が主導して、公安・検察・司法などの国家機関がそれぞれその職務をつかさどるほかに、民間団体(原文は「社会组织」)が広範に参与することも非常に重要であり、民間団体が積極的な働きをすることも肯定し明確にしなければならない。意見募集稿では、『民間団体と公民が公益的な反家庭内暴力宣伝活動をおこなうのを励ます』(第7条)としか書かれていない。実際は、民間団体の働きはそれにとどまらない。家庭内暴力の予防と制止の活動の中で、民間団体は、ソーシャルワーク、心理・法律サービスなどの面で、積極的な働きをしており、政府機構、社会団体、基層の大衆的自治組織などの反家庭内暴力の力の重要な補充であり、民間団体をその中に組み入れるべきである」と述べている(4)

4.呂頻さん、広範な問題やニーズを明確にするために、すべての人による討論を呼びかけ

呂頻さんは上のように専門家としてメディアに登場する一方で、11月27日、「公にものを言うことは、専門家の専売特許ではない。家庭内暴力は一人一人の身近に起きているのだから、誰もが口をはさむことができる。サバイバーと彼女たちと共に活動している人には、もちろん最も発言権があるし、その他の人も、自分の身に起きたこととして考えることができる。もし自分が暴力の被害にあったり、暴力を目撃したりしたら、どんな援助が欲しいだろうか? そう考えて条文を見てみると、保障が十分でない点が探し出せて、意見を出せるかもしれない。だから、意見を募集することはまったく正しいし、かつ、すべての人による大きな討論にするべきである」と述べた。

呂頻さんはさらに、「討論の目的は2つある。一つは、これから1カ月の意見募集期間内に、その中の力のある条項を確保・強化し、欠けている点や不十分な点の修正を勝ち取ることである。しかし、目的は、それだけでない。もっと広範に問題を指摘し、さまざまな家庭内暴力防止のニーズを探求すること、たとえば、暴力を振るわれていたために夫を殺した者に対しては死刑の適用を慎重にするべきではないだろうか? 被害者のための専門の救済基金を作れないだろうか? こうしたニーズも、十分な典型的な事件でその必要性を証明できれば、たとえこの法律に入らなくても、討論を通じて、今後の活動の方向を確認できる」と主張した(5)

5.ニューメディア女性ネットワーク、草案公表前から建議稿を作成するためのアンケート調査や論点の呈示をおこなう

広州のニューメディア女性ネットワークは、もうすぐ草案が出ることを見越して、家庭内防止法について民間の建議稿を作成する計画を立てていた。その助けにするために、ちょうど草案が発表された日の朝から、意識調査を開始していた。

また、ニューメディア女性ネットワークは、家庭内暴力防止法の立法のポイントとして、以下のような点を提示していた。
 ・恋愛関係・同棲関係における暴力
 ・親密な関係を解消しようとする際に起きる暴力
 ・レズビアンの恋人の暴力(6)

6.女子大学生ら、白雪姫やマリリン・モンローらが暴力の被害にあったかのようなコスプレをして、北京の地下鉄でDV反対を訴える

11月25日には、北京の地下鉄の車両の中で、「BCome小組」の女子大学生らがコスプレで「フラッシュモブ」をおこなって、DV反対を訴えた。

《女子大学生が地下鉄でコスプレをして歌う「フラッシュモブ」》(7)


3人は、あたかも殴られて顔に傷がついたり、あざになったりしているかのような化粧をして、それぞれ白雪姫、白娘子、マリリン・モンローのコスプレをした姿で登場した。3人は、「レ・ミゼラブル」の劇中歌である《民衆の歌(A La Volonte du Peuple?、Do You Hear the People Sing?)》の替え歌である《女の歌(女人之歌)》という歌の「DV反対バージョン」を歌って、DV反対を訴えた。その歌詞は、「家に帰るのに怖い思いをしたくない。親密であることに犠牲はいらない。私を尊重して。支配はしないで。なぜ私が自由を失うのか? 早く止めて。反省して。愛は暴力の言い訳にはならない」といったものであり、傍らでは、別の人が、DV反対のパンフレットを配布した。

この活動に参加した人は、「今回コスプレをした3人の姿は、完璧な愛情の童話の主人公だったり、セクシーさ・美しさの象徴だったりするけれども、たとえそうした女性でも、実際はジェンダー暴力の被害にあっている。白雪姫の物語は、女性は救われるというイメージで、王子と「それから幸せに一緒に暮らしました」となっているが、もし白雪姫が王子に暴力を振るわれたとしても、白雪姫は殴り返す力をまったく持っていない。現実においても、暴力を振るわれている女性の多くは、経済的に支配されているので、逃げ出せない。モンローには、前の夫に暴力を振るわれたという記録があり、表むきは華やかだったが、心の中は辛く苦しかったのだ。私たちがこのような姿でDV反対の歌を歌ったのは、親密な関係の暴力はいかなる女性の身にも起きる可能性があることであり、遅れた地区や知識水準が低い家庭の中にだけ暴力があるのではなく、都市やインテリの家庭の中にも暴力が存在することを皆さんに知ってほしかったからだ」と語った。

彼女たちは、みんなに家庭内暴力防止法に関心を持つように呼びかけるとともに、公表されている草案では、婚姻関係の外の親密な関係の暴力からの保護がなされていないことを訴えた(8)

BCome小組は、《陰道之道》(ヴァギナ・モノローグ)の上演活動をおこなっているグループで、2012年から11月25日(2013年は11月24日)に北京の地下鉄の車両の中で歌を歌って女性の人権を訴えてきた団体だが(動画:2012年「视频: 阴DAO独白 北京地铁”快闪“」、2013年「视频: 反暴力“快闪“: 女权之歌唱响北京地铁」)、今年はとくに女性に対する暴力に焦点を当てたわけである。(この点に関しては、下のコメント欄のご指摘を併せてお読みください[2015年3月18日補足])

7.LGBT平等権益促進会の建議

また、民間団体であるLGBT平等権益促進会(同志平等权益促进会、LGBT权促会)は、11月26日、LGBTの視点から見て改善できる点として、以下の3カ所を指摘した。

1.草案は第2条で「本法で言う家族の成員とは、配偶者・父母・子どもおよびその他の生活をともにしている近い親族を含む」としている。この草案で言う家庭内暴力とは、恋愛・同棲・以前の配偶者などの関係の人の間で発生した暴力行為を含んでいない。ますます多くのパートナーがさまざまな段階で同棲という方法で共同生活をしている――すなわち恋愛中であるとか、結婚しないとか、同性パートナーであるなどの場合に同棲しているが、《Journal of Sex marital Therapy》誌に発表された最新の研究は、25%~75%の同性愛・バイセクシュアルの者が家庭内暴力、あるいは親密なパートナーの暴力と言えるものを受けている。

2.草案の第8条に「未成年者の保護者は、法によって保護の職責を履行しなければならず、未成年者に対して、暴力をふるってはならない」とある。問題は、私たちは、未成年者のジェンダーの表明や性的指向によって引き起こされる暴力がとくに深刻であり、人身の自由を制限するとか、精神的暴力をふるうとか、殴るといった手段で未成年者にジェンダーの表明を変えるように強制する、あるいは性的指向の改変を試みることがなされていることがわかっている。この点を、未成年者を家庭内暴力から保護する条例の中では、とくに説明する必要がある。

3.草案の第27条、第20条、第16条で法定代理人について触れられているが、法定代理人あるいは近い親戚は、実際の訴訟の事例では、ふつう家庭内暴力の加害者の利益と重要な関係を持っているので、当事者のための法律の委託を提供できず、往々にして当事者が指定し信任した委託者が権利の保護のために介入する必要がある。「法定代理人」ではなく、「委託代理人」を選択肢に入れる必要がある(9)

8.レズビアングループ「同語」、同棲・恋愛・パートナーなどの関係も対象にすることを求める署名開始

12月2日、レズビアンやバイセクシュアル女性のグループ「同語」は、家庭内暴力防止法に同棲・恋愛・パートナーなどの親密な関係の保護も入れることを求める署名を開始した。12月20日までに1万筆の署名を集めることを目標にしている(10)
―――――――――――――――――――――――――
今回の発表された家庭内暴力防止法の草案は、きわめて不十分なものである。しかし、最初に指摘されていたように、この草案は、これまでのさまざまな実践をいくらか反映している面も見なければならない。また、草案発表の前後から、すぐに民間で草案の修正を求めるさまざまな活動が始まったことも、近年の民間の運動の発展を反映しているだろう。その中では、とくに、同棲・恋愛・同性パートナーなどの親密な関係の家庭内暴力防止法の対象にするよう求める動きが顕著だ。

(1)吕频「防家暴立法,还有哪些未被保障盲点」『新京报』2014年11月27日、吕频「家暴力防治法需要一场全民大讨论」女声网2014年11月27日。
(2)反家暴法征求意见稿明确多机构合作机制专家建议 建立更有力反家暴牵头机构」『法制日报』2014年11月27日。
(3)以上は、(1)に同じ。
(4)以上は、(2)に同じ。
(5)吕频「家暴力防治法需要一场全民大讨论」女声网2014年11月27日。
(6)新媒体女性的微博【网络调查:反家暴立法要不要管恋爱、同居和分手?】11月25日 10:10
(7)女权之声的微博【视频:女大学生Cosplay地铁歌唱“快闪”】11月30日 17:36
(8)女权之声的微博【女大学生地铁cosplay 呼吁关注反家暴立法】2014年11月26日 15:02→「女大学生地铁cosplay 呼吁关注反家暴立法」女声网2014年12月2日。
(9)同志平等权益促进会的微博反家暴立法,你至少可以提的3点建议(2014年11月26日10:13) 2014年11月26日10:21
(10)同语拉拉资讯的微博12月2日 11:10

李陽の離婚裁判の判決について

「クレイジー・イングリッシュ」という英語学習法の創始者の李陽さんが妻のキム・リー(李金)さんに暴力をふるってきたことやキムさんが2011年10月に離婚裁判を起こしたこと、中国のフェミニストたちが李陽さんを批判するとともに、キムさんの離婚裁判を支援してきたことについては、以前、このブログで書きました(「クレイジー・イングリッシュの李陽のDVと離婚裁判、フェミニズム運動」)。

今年2月3日、その離婚裁判の判決が出ましたので、今回は遅ればせながら、その判決について簡単にご紹介させていただきます(以下、敬称略)。

一 判決の内容(1)

キム・リー(今回の報道には、なぜか「李金」という表記が多いので、以下「李金」と書きます)が李陽に対して起こした離婚裁判は、これまで4回の口頭弁論を経てきましたが(2011年12月15日、2012年3月22日、8月10日、2013年1月29日)、2013年2月3日、北京の朝陽区法院は、以下のような判決を下しました。

1.離婚について――原告の李金と被告の李陽との離婚を認める(この点についてはすでに李陽も同意していた)。

2.子どもの養育権について――3人の子どもは李金が養育する。

3.養育費について――本判決の効力が生じた日から7日以内に、3人の子どもの2013年12月までの養育費をそれぞれ5万元支払う。2014年からは被告の李陽は毎年1月31日より前に、3人の子どもが満18歳になるまで、一人あたり毎年10万元、養育費を支払う。

4.財産分割について――被告の李陽は、本判決の効力が生じた日から3か月以内に、李金に対して、財産を現金化した金額1200万元を支払う。

5.DVの認定と精神的損害賠償について――李陽の家庭内暴力を認定する。李陽は李金に精神的損害賠償5万元を支払う。


そのほか、裁判所は、李金の申請にもとづいて、以下の人身保護命令を下しました。

李陽が李金を殴打・脅迫することを禁止する。もし李陽がこの禁止命令に違反したならば、裁判所は情状の軽重にもとづいて、罰金・拘留に処し、犯罪を構成するときは、法によって刑事責任を追及する。裁定の有効期間は3ヶ月である。


二 判決に対する評価

呂頻(女性メディアウオッチネットワーク代表、DV反対ネットワーク)は、この判決の注目点として、以下の3点を挙げました(2)

1.李陽がDVをしたと認定したこと。統計によると、離婚訴訟の中でDVの存在を主張しても、大多数は認定されない。そのため、賠償なども不可能だった。

2.法院(裁判所)が李金のために人身安全保護命令を出したこと。被害者の人身安全保護命令は近年公に認められた反DVの重要な実務上の進展であり、2008年から全国の試験法院(人身安全保護命令を試験的に出す裁判所)はすでに合計約200件の保護命令を出している。

3.法院が3人の女児の養育権をすべて李金に与えたこと。婚姻法の「子供の成長の有利になるようにする」という原則の精神によって養育権についての判決を見ると、DV加害者は明らかに子供を養育するのに適していないが、現在の法律にはこの点に関する明文の規定はない。子どもが多い場合、よくあるやり方は、両方がそれぞれ養育権を持つということであり、兄弟姉妹が共同で生活するという人倫のニーズは重視されていない。

その一方、呂頻は、「遺憾と懸念」として、「李陽がDVのために支払った精神的損害賠償金はわずか5万元だったこと」を挙げ、「これは李陽にとっては、本当に小銭でしかなく、加害者の懲戒や被害者の慰めに効果があるとは信じがたい」と述べています(3)。もっとも、同時に、呂頻は、「DVが絡んだ離婚判決の中では、これは従来にない高額の賠償である」とも言っています。

郭建梅(元北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター主任)も、この判決は「3勝1敗」だとしています。ただし、その内容は少しだけ違います(4)

郭も、呂と同じく、判決が李陽のDVを認定したことと人身保護命令を出したことは、成果として挙げています。また、DVに対する精神的損害賠償を認めたことについて、「金額は少ないけれども、非常に重要」だとしています。この点も呂と力点の差こそあれ、それほど、大きな違いはありません。

郭が、「1敗」として挙げているのは、財産分割についてで、「裁判所は李陽の真実の財産の状況を調べることができず、彼女が得られるべき補償を与えることができなかった」という点です。

裁判中、李陽が財産を譲渡・転売したため、財産の状況が複雑になったために、李金は、李陽がすでに譲渡した不動産や銀行口座の資金に対する権利を主張しなかったというような妥協をせざるをえなかったようです(5)

三 改正民事訴訟法にもとづく人身保護命令

なお、裁判所は、今回の人身保護裁定に関して、民事訴訟法第100条の行為保全に関する規定を適用したとしています。

中国の民事訴訟法(1982年制定)は、その改正案が、2012年8月の第11期全人代常務委員会第28回会議で採択され、同日の公布を経て、今年1月に施行されました(中华人民共和国民事诉讼法)。その改正点のポイントの一つが、民事保全制度が整備されたことだそうで(6)、第100条で「人民法院は、当事者の一方の行為あるいはその他の原因により、判決を執行するのが難しい、あるいは当事者のその他の損害を引き起こす可能性がある事件について、当事者の申請にもとづいて(……)一定の行為を命令を下しておこなわせ[→確保型行為保全]、または一定の行為を禁止する裁定をすることができる[→制止型行為保全。人身保護命令はこちらに入る]。当事者の申請がなくとも、人民法院は必要なときは保全措置を取る裁定ができる」と規定されました。

今回の人身保護命令は、この新民事訴訟法で定められた保全制度を初めて適用したものだということです(7)

四 裁判所前での支援運動は、判決当日までおこなわれた

この裁判に対しては、李陽の講演会やクレイジー・イングリッシュ総本部に対する抗議活動、裁判所前でのパフォーマンスアート、妻のキムを支援する1200余筆の署名運動など、これまでにない裁判支援運動が若い女性たちによって繰り広げられました(この点については、本ブログの記事「クレイジー・イングリッシュの李陽のDVと離婚裁判、フェミニズム運動」参照)。

判決の寸前の1月29日の法廷でも、数人の若い女性が、怪我をしたかのような化粧をし、血痕があるかのように赤色で染めたウェディングドレスを着て、「恥を知れ、加害者の李陽」、「DVは容認できない 加害者は制裁すべき」、「保護命令」といったプラカードを掲げて、キムに声援を送りました(8)

2月3日の判決の日にも、雪が舞う寒い中、血染めのウェディングドレス姿の若い女性(李麦子)が両手にプラカードを掲げて声援を送り、キムと抱き合って喜びました(9)

1月29日時点では、すでに判決もおおむね書き終わっていただろうと思いますが、ささやかながら、最後まで裁判支援のアピールは続けられたわけです(もちろん二審にもつれ込む可能性もありました。実際、李陽はいったん控訴したのですが、その後、控訴を取り下げました)。

今回、DVによる離婚裁判では従来あまり出なかったような判決が出たのは、こうした粘り強い裁判支援運動の力もあると考えられます。

(1)李阳离婚案落判 Kim几度落泪获赔1200万」正义网2013年2月3日。
(2)吕频「离婚判决让李阳为家暴付出了代价」『新京报』2013年2月4日。
(3)この点に関しては、李清も「李陽がDV行為のために支払ったのは5万元だけである。わずか5万元が、一人の女が数多いDVの中で受けた傷を本当に癒しうるだろうか?」と述べています(李清「李阳案判决远非反家暴胜利」陕西传媒网2012年2月4日[来源:嘉兴日报])。
(4)In China’s Most-Watched Divorce Case, 3 Victories, 1 DefeatThe New York Times February 4, 2013→「李阳家暴离婚案中的三胜一败」2013年2月7 日(来源:纽约时报中文网、翻译:梁英、谷菁璐)。
(5)李阳离婚 被发“人身保护令”」『北京晩報』2013年2月3日。
(6)宮尾恵美「中国 民事訴訟法の改正[PDF]」『外国の立法』2012年10月号。
(7)李阳离婚 被发“人身保护令”」『北京晩報』2013年2月3日。
(8)【李阳离婚案今日再开庭 志愿者声援Kim高喊"家暴可耻"】」女权之声的微博1月29日10:53。
(9)李阳离婚案判决 Kim:想尽快开始新生活」网易女人2013年2月3日、「【当历史发生,反家暴志愿者与KIM同在。】」麦子家的微博2013年2月3日23:51。

DV被害者の夫殺しに対する死刑に反対する中国国内の運動

長い間夫からひどい暴力を振るわれていた四川省の資陽市安岳県の李彦さんは、ある日、夫に殴られたり蹴られたりしたとき、夫を銃身で殴って殺してしまい、その結果、死刑の判決を受けました。最近、最高人民法院が李彦に対する死刑を許可したため(中国では、死刑に関しては、最高人民法院の再審査・許可が必要)、いつでも李さんを処刑できるようになりました。

この件について、現在、アムネスティ・インターナショナルが李彦さんの死刑執行を停止するように中国政府に訴える署名を集めています(「中国:死刑の危機にある、DV被害者の女性を救え」アムネスティ日本)。ぜひご協力ください。

今回は、主にこの件に関する中国国内の動きをご紹介します。

[目次]
1.事件の経緯
2.近年、中国でもDV被害者の夫殺しの刑は軽くする傾向はあるが、李彦はDV被害者であることが認定されなかった
3.現地の住民348人が請願書
4.最高人民法院に対するNGOの働きかけ
5.全国の弁護士ら136人(のち数百人)が緊急の呼びかけの手紙
6.フェミニストらが、200余筆の署名を四川省高級人民法院に届ける
7.八都市の裁判所前で若い女性が白い布で縛られてもがくパフォーマンスアート
8.国外のメディアも注目

1.事件の経緯

李彦さんは、1972年生まれの42歳です。2009年に譚勇さんと結婚しましたが(以下、敬称略)、譚勇はしょっちゅう李彦を殴ったり蹴ったりし、李彦が他の人とふつうに交流することも許しませんでした。李彦をベランダに追い出して、眠らせなかったこともあります。ある日、2人が喧嘩をしたときに、譚勇は、斧で李彦の左手の指を叩き切ったため、李彦の1本の指の半分は失われてしまいました。

2010年11月3日、李彦が台所で食器を洗っていた時、譚勇は酒を飲んで、その近くで空気銃で落花生を撃って遊んでいたので、李彦が危ないから止めるように言ったことから喧嘩になり、譚勇は、李彦の尻を空気銃で撃とうともしました。譚勇が李彦を足で蹴ったとき、李彦は、譚勇を空気銃の銃身で殴って、譚勇を死なせてしましました。

李彦が夫を殺してしまう以前、彼女は、病院に行って、「左足・胸部の多くの箇所に傷がある」という診断書をもらったこともありました。李彦は、派出所や婦女連合会(婦連)に助けを求めました。しかし、派出所は「婦連に言いなさい」「もしどうしても一緒に生活できないなら、裁判所に離婚裁判を起こしなさい」と言うだけでした。婦連は、「地域の幹部か親戚友人に調停してもらいなさい」と言うだけでした。

李彦は、譚勇の死体を包丁で解体し、頭部は高圧鍋で煮て、叩き切り、袋に詰めて捨てていきました。けれど、譚勇が死んだ翌日の11月4日には、李彦は電話で友人に、夫を殺したことを告げて、友人が「私が警察に届ける」と言うと、李彦は「行ってくれ」と言っていますから、ずっと夫殺しを隠そうとしたわけではありません。

2011年、資陽市中級人民法院は、李彦に死刑の判決を下しました。2012年、四川省高級人民法院も、李彦の控訴を棄却しました(1)

2.近年、中国でもDV被害者の夫殺しの刑は軽くする傾向はあるが、李彦はDV被害者であることが認定されなかった

中国でも、2000年ごろから、DV被害者による夫殺しについて、刑を軽くする試みが女性弁護士などによって始まりました(2)。それでも、2005年以前は、DV被害者による夫殺しも、「故意殺人罪」「故意傷害致死罪」として一律に裁かれて、刑期もほとんど15年以上でした。しかし、2005年に長沙で起きた事件が、一審では懲役12年だったのが、二審で懲役3年・執行猶予3年になったことをきっかけに、刑を軽くする動きが強まったようです(3)。NGOの「DV反対ネットワーク」が、2009年以後、公に報道されたDV被害者の夫殺し48件について調べたところ、処罰はまだ重すぎるけれども、軽い刑や執行猶予になるケースも増え、死刑になったのは1件だけだったそうです。

しかし、李彦の裁判では、以下のような理由で、李彦がDVの被害を受けていたこと自体が認められませんでした。
・李彦の診断書や写真、訴えの記録は、彼女が傷を負ったことしか証明していない(譚勇がやったという証明がない)。
・派出所・婦連には、李彦に応対した記録はあるが、調停はしておらず、譚勇の側の証明がない。

また、李彦が譚勇の死体を解体した点を、「手段が残忍」だとして、死刑の理由にしました。

しかし、上のような理由は、後でも述べるように、いずれも批判されています。たとえば、派出所や婦連の問題について言えば、李彦の弟の李徳准も、派出所や婦連などが、単に李彦の話を聞くだけで、李彦を助けなかった(=譚勇を呼び出して問い質すこともしなかったので、譚勇の側については記録はないのは当然)という不作為こそが、悲劇を引き起こした原因であると指摘しています(4)

李彦の死刑判決に対しては、中国国内でも減刑を求める運動が幾つもおこなわれています。

3.現地の住民348人が請願書

まず、事件が発生した後、四川テレビ局が李彦に取材した番組を放映したところ、その番組を見た現地の348名の一般住民(彼らは譚勇が李彦に暴力をふるっていたことをよく知っていた)が、李彦の処罰をできるだけ軽くするようお願いする請願書への署名おこない、それを資陽市中級人民法院に提出しています(5)

4.最高人民法院に対するNGOの働きかけ

最高人民法院が死刑の再審査をした段階では、NGOの北京衆沢女性法律相談サービスセンター(もと北京大学法学院女性法律研究とサービスセンター)とDV反対ネットワークとは、最高人民法院に対して、李彦を死刑に処すことに反対する法律的な論証を提出しました。この2つのNGOの働きかけによって、全国婦連権益部や四川省婦連、何人かの全人代の代表や最高人民法院特約監督員も、最高人民法院に働きかけをしたようです。

死刑判決の15%は最高人民法院によって否決されるそうですが(2008年のある報道)、李彦の死刑判決は、許可されてしまいました(6)

5.全国の弁護士ら136人(のち数百人)が緊急の呼びかけの手紙

最高人民法院が李彦に対する死刑を許可すると、まず、2013年1月25日に全国各地の136人の弁護士・学者・NGO活動家などが、緊急の呼びかけの手紙を公表しました(7)。以下に、見出しと一部の内容だけをご紹介します。

四川の女性がDVに反抗したために死刑に直面している 各界の人々が緊急に死刑の執行をストップするように訴える

2013年1月25日、北京衆沢女性法律相談サービスセンター(もと北京大学法学院女性法律研究とサービスセンター)主任の郭建梅弁護士、艾暁明教授、全国人民大会代表・遅夙生弁護士、北京興善研究所・滕彪博士、郝建教授、張賛寧教授など全国各地の数百名の弁護士・学者・NGO活動家・社会各界の人々が、共同で連署した訴えの手紙を公開する:李彦がDVに反抗して人を殺した事件について、最高人民法院に死刑の執行をストップするように訴える。

事件のリプレイ:長期にわたってDVの被害に遭った妻が怒って夫を殺した

(略)

一般庶民が情に訴えた:340名の現地の一般庶民が李彦のために心から人情に訴えた

(上記のように、現地の住民348人が請願書を出したことが述べてあります)

弁護士の見解:死者に誤ちがあるので、李彦は死刑にすべきではない

李彦の死刑の再審理の段階の弁護士で、著名な女性権益保護弁護士で、北京千千弁護士事務所主任の郭建梅弁護士は、死者が長い間李彦に対して暴力を振るってきたので、李彦は長い間屈辱に耐え、負担を負ってきたために、「バタード・ウーマン・シンドローム」になっていたと考えている。李彦は、またも暴力を振るわれたとき、一時の怒りの中で、譚勇を殴って死なせたのであり、譚勇の死亡については、譚勇本人に明らかに過ちがあった。一審・二審の裁判所は、譚勇の李彦に対するDVについて、証拠不十分という理由で完全に否定したので、この事件の判決を不公正なものになった。

ずっと中国の死刑問題に関心を持って研究してきた北京興善研究所所長の滕彪は、以下のように考えている:この事件の一審でも、二審でも、譚勇が李彦に、ひどいDVをおこなってきたことを証明する大量の証拠が提示された。すなわち、婦連への訴えの記録、李彦が暴力を振るわれた後の警察への通報の記録、隣近所の人たちの証言といった、さまざまな証拠であり、これらの証拠は、完全に証拠として繋がっており、譚勇が李彦にひどい暴力をふるっていたと完全に認定できる。(……)李彦の行為について、もし原因や動機を問わず、被告人に有利な証拠と事実を考慮せず、死体を解体したという情状だけで量刑を考えるならば、刑事訴訟法の関連規定と「家庭紛争と被害者に明らかに過ちがあった場合は、一般に死刑にしない」という刑事政策に反しているのみならず、わが国の「死刑は少なく慎重にする」という原則にも反しており、さらに、国際条約の「まだ死刑を廃止していない国では、死刑判決は、最も重大な犯罪行為のみに対する懲罰にしなければならない」という規定にも反している。

各界は呼びかける:厳格に譚勇のDVの歴史を調べて明らかにし、量刑の上で十分考慮しなければならず、司法は生命権を尊重しなければならない

(……)これ[今回の事件]は、社会と法律に、弱者に対するDVについて有効な救済の手段が欠けていることの悲劇であり、司法が、法律の精神と公民の生命権を尊重していないことが引き起こした悲劇である。(……)

私たちは、連名で、最高人民法院は死刑執行をストップして、李彦の死刑判決を許可せずに、差し戻し審をおこなうに裁定し、李彦が長い間暴力を振るわれたことによって、心身と精神が歪められた事実を調べて明らかにするように訴える。この事件の処理が、真相や法律の精神、生命権の尊重を真に体現することを希望する。


この書簡に署名した人の中には、冒頭で名前を挙げた人々のほかに、弁護士としては、呂孝権、黄溢智、NGO活動家としては、陸軍、牛玉亮、郭瑞花、武嶸嶸といった人の名前が見えますし、女性人権活動家の王荔蕻の名前もあります。

6.フェミニストらが、200余筆の署名を四川省高級人民法院に届ける

1月28日には、肖美麗さんと清風さん(ハンドルネーム)が、以下のようなフェミニズム的内容の、200筆余りの署名を、二審の裁判所である四川省高級法院に届けました(8)。なぜなら、文中にあるように、最高人民法院が死刑を許可した後であっても、原審の裁判所は、法律的に死刑をストップできる可能性があるからです。

暴力を振るわれた女性・李彦は死刑にしてはならない 法律の尊厳と公正さを示すようにお願いする――女性の権利に関心を持つ者たちからの訴え

私たちは女性の権利に関心を持つ公民である。李彦は、結婚した後ずっと続き、だんだん激しくなったDVに耐えきれず、あちこちに助けを求めても効果がなかったので、最終的には暴力によって暴力を制して、人を殺して死体を解体して死刑になった。この事件とその判決は、最近国内外の大きな関心を集めている。

「刑事訴訟法」第251条およびその第1款によると、下級人民法院が最高人民法院の死刑執行命令を受け取った後、執行前に判決に誤りがあることを発見したときは、執行を停止し、ただちに最高人民法院に報告して、最高人民法院が裁定を下さなければならない。

ここに私たちは、四川省人民法院が死刑の執行を停止して(……)法律の適用の誤りを正し(……)この事件を私たちの社会の法治建設と女性の権利保障の道の一里塚にするようお願いする。

判決と証拠の研究、および女性の権益団体と専門家の視点にもとづいて、私たちは、以下のように考える。

一、被告人の李彦がDVの恐怖に耐えきれず、夫を死に至らしめて、死体を解体したという情状は悪い。けれども、「被害者に重大な誤りがあったときは、処罰をできるだけ軽くする」という法定の斟酌すべき情状があるので、直ちに執行する死刑という極刑を適用すべきではない

この事件の被告人の李彦には、被害者を殺害しようという故意はなく、何らの準備もなかった。また、被害者は人命を奪う武器を持っており、暴力行為と暴力的脅迫をしているという状況の下で、被告人は恐怖と自己保護のために、被害者を傷つけたのであり、事前の計画はなく、被害者の生命を奪う動機もなかった。もし彼女が被害者を殺害しようとすれば、双方の力の差がかけ離れている状況の下では、最も容易で最も簡単な方法である「直接銃撃して被害者を撃ち殺す」という方法を取るはずである。

(中略)

判決はDVの存在を認定していない。これは、事実認定が誤っている。というのは、DVの認定は民事訴訟の「優勢な証拠」の規則を適用しなければならず、合理的な証拠のつながりが形成されてさえいれば、DVを認定しなければならないからである。しかるに、一審と二審の裁判所は、刑事訴訟の証拠規則を用いて、DVの存在を厳格に判断しており、警察と婦連のDV処理の記録の中に被害者がDVをしたことを認めた記録がなかったという理由で、DVの存在を認めなかった。実際は、この事件では、多くの証人が、被害者が被告人に対して暴力を振るっている過程と暴力を振るわれた後の被告人の状況を直接目撃しており、これらは直接証拠である。また、最高人民法院応用法学研究所が発表した「家庭内暴力に関わる婚姻事件の審理指南」を参照すると、DVの認定は、立証責任の面では、「一定の条件の下で立証責任を転移」させなければならない。これは普通の民事案件の証拠規則より緩いのであって、被害者の証言の効力は加害者のそれよりも高いのである。

二、この事件の被告人は、長い間DVの被害を受けており、心理的に、きわめて恐れおじけており、脆弱な状態であり、犯罪時は「バタード・ウーマン・シンドローム」の特徴に合致している

(中略)

表面的には、被告人が夫を殺した後に、死体を解体し、死体を煮た行為は非常に悪辣で、社会的影響も悪いように見える。けれども、いったん被告人が暴力を振るわれ、助けを求めても無駄だったという悲惨な運命を理解し、バタード・ウーマン・シンドロームという特殊な心理的メカニズムを理解するならば、被告人が死体を解体して煮た行為は、長期にわたって振るわれてきた暴力がもたらした苦痛を晴らしたものだと判断できる。なぜなら、相手が反抗する能力と可能性がなくなった状況の下でだけ、長い間抑圧されてきた苦痛と憤怒は、被告人が死亡した一瞬の間に解き放たれるのであり、これが、その後の理性を失った行為なのである。これは、私たちの主管部門と公衆を教育し、DVを認識させ、DVを重視させ、機を逸せずに関与し、有効な救助をすることによって、この事件のような悪性の犯罪を防ぐということの、格好の反面教材にもなる。

(中略)

三、DVの被害に遭ってきた女性を極刑に処しても、このような犯罪に対して威嚇・教育する効果は僅かであり、かえってマイナスの社会的効果を引き起こしやすい

国連が1988年と1996年におこなった2回の死刑と殺人罪との関係についての調査では、死刑が終身刑よりも大きな威嚇力を持っていることを支持する証拠はないという結論が出ている。また、死刑の犯罪に対する威嚇力が僅かだからこそ、国際的には死刑廃止と軽罪化の趨勢が出現しているのである。

(中略)多くの、どうしようもなくて夫を殺した被害女性は、暴力の中で生きるよりも死んだ方がましだと考えている。暴力をふるう夫と離婚するために、北京の女性がわざとタクシー強盗をして監獄に入ることによって暴力的な婚姻から逃れようとしたという事例さえあった。(中略)

中華女子学院の教師の邢紅枚の研究によると、四川の某女子監獄の故意殺人と故意傷害犯の中で、夫を殺したり傷つけたりした者は計233人だったが、そのうち、DVが原因で夫を殺したり傷つけたりした者は計128人であり、54.9%を占めている。(……)邢紅枚が、虐待を受けて夫を殺した121名の受刑者の女性を調査したところ、もとの判決が死刑執行猶予や無期だった者が71人で、58.7%を占めており、10年以上の有期懲役が28人で、23.1%、5―10年以下が7人で、5.8%、5年以下が1人で、0.8%、14人が不詳であった。すなわち、80%以上が10年以上の刑罰に処せられており、故意殺人罪・故意傷害罪という最も重刑の範囲内であった。

その一方、2005年以来、内蒙古・湖南・北京・雲南などの省で、虐待された女性の夫殺し事件に対して、相次いで、「懲役3年、執行猶予3年」、「懲役3年、執行猶予4年」「懲役3年、執行猶予5年」といった判決が多く下されている。(中略)

この事件の被害者の譚勇は自分の暴力的行為によってすでに生命を失った。私たちは、李彦の生命もが死刑によって終わることのないように、わが国の法律の厳粛さと公正さに期待している。私たちは、法によって、李彦の刑罰をできるだけ軽くすることによって、李彦が公正さを獲得できるだけでなく、DVによって虐待された女性が「暴力によって暴力を制する」事件をわが国が公正に審理する一里塚的な事例になることを信じている。

(中略)暴力を振るわれた女性である李彦の処罰は、死刑ではなく、できるだけ軽くするように情状を考慮して、法律の公正な正義の光を、李彦と多くの女性の生活を照らすようにお願いする。

2013年1月28日


こちらの署名者の中には、フェミニズムのNGOやネットワークで活躍してきた馮媛、呂頻、熊婧、李軍といった人のお名前が見えます(9)

7.八都市の裁判所前で若い女性が白い布で縛られてもがくパフォーマンスアート(10)

2月3日には、8都市(北京・上海・広州・武漢・西安・成都・南寧・杭州など)の人民法院(裁判所)の前で、若い女性がいっせいに、「私は次の李彦になりたくない」というスローガンを一字ずつ書いた紙(「我」「不」「要」「成」「为」「下」「一」「个」「李」「彦」)を並べた傍らで、白い布で何重にも包まれて、蛹のようになって、力一杯もがいているのに逃れられない様子を示すパフォーマンスアートをおこないました。これは、DV被害者を象徴するパフォーマンスアートでした(写真)。

武漢でこのパフォーマンスアートをした鄧小南は、「李彦の長い間DVに遭っていたのに、警察も婦連も取り合わず、彼女の夫を出頭させて教育することさえしなかった。彼女は長い間夫に殴られ罵られており、夫が自分に空気銃を向けたとき、きっとひどくビックリして、夫を殺してしまったのだろう。私は彼女が罪を犯していないとは思わないが、もし彼女が生活で暴力を振るわれていた環境を考慮するならば、死刑は重すぎる。李彦の境遇は、彼女一人の境遇ではなく、暴力を振るわれている多くの女性の境遇でもある」と語りました。広州でこのパフォーマンスアートをした花木(仮名)は、「李彦が死刑判決を受けたのは、すべてのDV被害者の悲劇であり、また、関係する法律がない中国全体の悲劇である」と語りました。

このパフォーマンスアートは、『都市女報』が報道しましたが、その記事の中で、呂頻(女性メディアウォッチネットワーク)は「DVに対する放任とDV被害者の夫殺しに対する厳罰は、社会の二重の暴力だ」と語っています。

8.国外のメディアも注目

以上の署名やパフォーマンスアートなどは、彼女たち自身のメディアには詳しく掲載されていますが、中国国内のマスコミでは、それほど多く報道されていないように思います(11)(従来は、政府当局を批判する行動でもあっても、かなり多く報道されているのに、今回の報道がやや少ないのはなぜかはわかりません)。

この件に関しては、海外のマスコミの注目が高いように思います。1月28日には、イギリスのガーディアンが報道し(Chinese officials urged not to execute domestic violence victim)、1月29日には、同じイギリスのデイリーメールが報道し(Chinese woman faces execution for killing abusive husband who had stubbed out cigarettes on her face and cut off part of her hand)、1月30日には、ニューヨークタイムスが報道しました(Chinese Courts Turn a Blind Eye to Abuse)。ニューヨークタイムスの記事は、中国国内でも紹介されました(「美报:遭家暴妇女杀夫被判死刑引争议」新華網2013年1月31日)。国内の関係者が積極的に国外にも発信をしたのかもしれませんし、アムネスティの運動のせいかもしれませんし、不当さがわかりやすい事件だからかもしれません。

しかし、いずれにせよ、中国国内でも、ちゃんと運動はおこなわれているし、そうした運動は、これまでもDV被害者の夫殺しに対する刑を軽くする上で一定の成果を上げてきているということは、以上で述べたとおりです。

(1)以上は、「李彦杀夫案始末――紧急拯救受暴妇女免死」『女声』132期[word](2013.1.28)。
(2)遠山日出也「中国におけるドメスティック・バイオレンスに対する取り組み」『中国21』第27号(2007年)237頁。
(3)刀下留人 李彦因家暴杀夫罪不至死-网易访谈实录」網易女人2013年2月5日。
(4)以上は、(1)および「不要为暴力付生命的代价――挽救李彦紧急行动播报」『女声』133期[word] (2013.2.4)。
(5)八城市女生行为艺术呼吁 我不要成为下一个李彦」社会性别与发展在中国2013年2月4日(来源:新浪微博[作者:@大兔纸啦啦啦])。
(6)「李彦杀夫案始末――紧急拯救受暴妇女免死」『女声』132期[word](2013.1.28)。
(7)紧急呼吁枪下留人 反对对受暴杀夫妇女执行死刑」社会性别与发展在中国2013年1月26日(来源:女行邮件组)。
(8)枪下留人!志愿者赴四川高法请愿 反对对受暴杀夫妇女执行死刑」社会性别与发展在中国2013年1月30日(来源:新浪微博[作者:@女权之声])。また、北京衆沢女性法律相談サービスセンターは、すでに1月24日に、これと比較的似た書簡を最高人民法院に出しています(「关于建议最高人民法院对李彦以暴制暴杀夫案不予核准死刑的公函」北京众泽妇女法律中心ブログ2013年1月24日)。
(9)紧急征集签名,仅今天一天:反对对受暴反抗妇女执行死刑」Google Groups広州新媒体女性網絡2013年1月28日。
(10)八城市女生行为艺术呼吁 我不要成为下一个李彦」社会性别与发展在中国2013年2月4日(来源:新浪微博[作者:@大兔纸啦啦啦])、「八城市女生法院门前“快闪”上演行为艺术抗议家暴 “李彦因家暴犯罪不应判死”」『都市女報』2013年2月4日。
(11)弁護士らの声明を財新網が掲載したり(「因家暴杀夫被核准死刑 学界联名呼吁“刀下留人”」財新網2013年1月25日)、死刑廃止の立場に立つ弁護士が執筆した判決批判が『東方早報』に掲載されたり(张培鸿「从一起杀夫案检讨死刑」『東方早報』2013年1月29日)、(10)の『都市女報』の記事がパフォーマンスアートを報道したり、それから、「刀下留人 李彦因家暴杀夫罪不至死-网易访谈实录」(網易女人2013年2月5日)がDV問題の専門家(馮媛、呂孝権、呂頻)の話を非常に詳しく伝えている、というあたりが主な報道でしょうか。

DV防止法制定に関する署名1万2000筆に達し、全人代などに提出

すでに本ブログでもご紹介したように、現在中国で立法作業が進められているDV防止法の制定プロセスやその内容に民間の声を反映させることなどを求める署名が、昨年11月5日に開始されました。この署名は、以下の3点を要求したものでした。

[1] 立法の過程において、広範に民間の意見を聴取し、民間の参与と監督を奨励すること。
[2] 法律の中に、責任部門の問責のメカニズムを明記すること。
[3] 法律の中に、国家は民間の家庭内暴力反対活動にリソースを与えて、サポートしなければならないことを明記すること。


この署名は、「1万人」という、中国における署名としては大きな目標を掲げたことが特徴でした(以上については、本ブログの記事「DV防止法の制定プロセスと内容に民間の関与など求める1万人署名運動」参照)。従来も、多くの民間団体が連名でアピールするというやり方は、しばしばおこなわれてきたのですが(1)(たとえば、本ブログの記事「24の民間団体が共同で被災地の女性の権利を訴える建議を発表」「民間諸団体、映画やテレビでの同性愛描写禁止規定の削除を訴え」)、今回は個人としての署名です。

<目次>
1.さまざまなグループの協力と多様な方法によって、民間女性団体によるものとしては史上最高の署名数に
2.自らの裸の写真でDV反対を訴えた活動について
3.署名を全人代や婦連に直接手渡すことはできず、郵送で提出

1.さまざまなグループの協力と多様な方法によって、民間女性団体によるものとしては史上最高の署名数に(2)

この署名は、最終的には1万2000筆余り集まったのですが、すでに昨年12月18日の時点で8600筆を超えており、「民間の女性の権利の提唱の参与のレコードはすでに作った。1万人は中国ではけっして多いとは言えないが、政府と婦女連合会ではなく、民間の女性組織の初めての試みがこのような規模に達したのは、人々を驚喜させる」(『女声』誌[民間団体「女性メディアウォッチネットワーク」のネット雑誌])と述べられるに至っています(3)

さまざまなグループの協力

この署名運動には、以下のグループの協力がありました。

・ジェンダー平等活動グループ(性别平等工作组)
・女性メディアウォッチネットワーク(妇女传媒监测网络)
・一元公社(一元公社)
・反DVネットワーク/北京帆葆(反家暴网络/北京帆葆)
・北京レズビアンセンター(北京女同志中心)
・中山大学ジェンダー教育フォーラム(中山大学性别教育论坛)
・ニューメディア女性ネットワーク(新媒体女性网络[广州])
・広州Sinner-B フェミニズムレズビアングループ(广州Sinner-B女权拉拉小组)
・深圳「手と手をつなぐ」労働者活動室(深圳手牵手工友活动室)
・武漢レインボー公益グループ(武汉Rainbow公益小组)
・河南レズビアンワークショップ(豫同女性工作坊)
・北京鉄営病院(北京铁营医院)
・東莞市普恵ソーシャルワークサービスセンター(东莞市普惠社会工作服务中心)
・広東石油化学工学院文法学院学生ニューメディアセンター(广东石油化工学院文法学院学生新媒体中心)
・網易女性チャンネル(网易女人频道)
・河北体育学院武術系学生会(河北体育学院武术系学生会)
・石家荘鉄道大学人文学院学生会および思想政治部(石家庄铁道大学人文学院学生会及思政部)

冒頭に「ジェンダー平等活動グループ」(詳しくは本ブログの記事「若い行動派フェミニストたちの『ジェンダー平等唱導・アクションネットワーク』」参照)の名前が挙げられているのは、同グループが中心になったということでしょう。また、女性団体や反DV団体のほか、レズビアン・LGBT団体、学生団体などの協力を得られていることも特徴だと思います。

オンラインで集めるととともに、オフラインでも――「国際女性に対する暴力防止16日行動期間」などに

「宣伝と動員の効果について言えば、オンラインとオフラインの比重は、あるいはほぼ同じだったかもしれない。オンラインでは、メーリングリスト、QQ群、微博(マイクロブログ、中国版ツイッター)などによって、オフラインでは、講座、フォーラム、街頭活動、教室で……。2つの方法にはそれぞれ良さがあって、オンラインの呼びかけは拡散しやすいけれども、ネットユーザーの実際の署名率は必ずしも高くなかった。それに対して、成功したオフラインの活動では、一度に数十、ときには数百名の署名が直接得られた」(『女声』誌)。

毎年そうですが、11月25日~12月10日の「国際女性に対する暴力防止16日行動期間」には、さまざまなDV反対の活動が取り組まれました。昨年は、北京では、DV反対ネットワーク、北京LGBTセンター、同語(レズビアンと女性バイセクシュアル中心の団体)などの組織が協力して、多くの大学で「『16日』キャンパス活動」をおこない(4)、女性メディアウォッチネットワークは上海と北京の多くの大学で講座を開催したのですが、そうした場を活用して署名を集めたようです。

以下は「国際女性に対する暴力防止16日行動期間」の活動の写真入り記事ですが、上の協力団体が関わっている活動が多いことに気づきます。

 ・北京林業大学でのジェンダー暴力に反対する署名活動(「北京林业大学开展反对性别暴力签名活动」社会性別与発展在中国サイト2012年12月11日)。
 ・鉄道大学でのジェンダー暴力反対の16日間の活動(「铁道大学成功举办消除性别暴力十六日活动」(2012年12月13日)。
 ・鉄営病院の反DV「16日」の活動(「铁营医院成功举办反家暴“十六日”活动」2012年12月13日)。
 ・広東石油化学工業学院の16日反ジェンダー暴力活動の写真集(「广东石油化工学院16日反性别暴力活动照片集」2012年12月17日)。
 ・東莞反ジェンダー暴力16日アクションの写真集(「东莞反性别暴力16日行动照片集」2012年12月17日)。
 ・蘭州西北師範大学反ジェンダー暴力燭光幸福祈念の夕べの写真集(「兰州西北师大反性别暴力烛光祈福晚会照片集2012年12月17日」。
 ・広西師範大学ソーシャルワーク協会の反ジェンダー暴力16日活動の写真展(「广西师范大学社会工作协会16日反性别暴力活动照片展」2012年12月17日)。
 ・山東女子学院16日反ジェンダー暴力活動の写真集(「山东女子学院16日反性别暴力活动照片集」2012年12月19日)。
 ・河北体育学院16日反ジェンダー暴力活動の写真集(「河北体育学院16日反性别暴力活动照片集」2012年12月20日)。

とくに、河南省鄭州市の豫同女性工作坊が、12月9日にAmor[艾檬]レズバーの協力の下、反ジェンダー暴力サロンを開催して(28人参加)、「レズビアンの間の親密な関係の暴力」についても話し合ったことを伝えている記事には、「家庭暴力防治法督促1万人署名」の署名簿が写っています(「豫同女性工作坊反性别暴力16日活动」2012年12月26日)。

以上から見ても、今回の署名運動は、一般的な「女性に対する暴力反対」ではなく、セクシュアル・マイノリティの視点も含んだものであることがわかります。

署名した人の階層、地域

署名した人は学生とホワイトカラーが多く、4253名が学生でした。地域別では、広東省が3497名で最多でした(5)。学生が多いのは、運動の参加者の若さ、大学での運動の広がりを示していると思います。ブルーカラーへの広がりはまだ乏しいのでしょう。広東省が多いのは、「男子トイレ占拠」が広州で始まったことに見られるように、女子大学生たちのネットワークが広州を一つの拠点にしているからでしょうか?

2.自らの裸の写真でDV反対を訴えた活動について(6)

すでに本ブログの記事「DV防止法の制定プロセスと内容に民間の関与など求める1万人署名運動」でも、自らの裸(主に上半身)の写真を公表してDV反対を訴えた活動についても述べましたが、結局、11月7日以来、合計15人(組)が裸の写真を新浪微博(中国版ツイッター)で公表してDV反対を訴えました。その15人は、「けっしてみんながお互いに知り合いではなく、また彼らに公然と呼びかけた人もいない。これは微博上でフェミニズムに関心がある者が自発的に呼応して形成した、中心のない活動である」とのことです(15人[組]の写真が全部見られるのは、「万人签名促反家暴立法裸胸行动专题报道」[社会性別与発展在中国サイト2012年11月28日更新]です)。

裸の写真で訴えた目的

「署名活動に『目』を引き付け続けるためというのが、ネット上で裸の写真を発表した初志だった」ようです。

ただし、単に人目を引く目的ではなく、それぞれの裸の写真に意味があったことは、すでに前回の記事(「DV防止法の制定プロセスと内容に民間の関与など求める1万人署名運動」)でも述べたところですが、その点について、前回とできるだけ重複しない形で、もう少しご紹介します。

たとえば、肖美麗(肖美膩、いずれもハンドルネーム)さんは、裸の上半身に、「平らな胸は光栄だ」「DVは恥ずべきだ」(「平胸光荣」「家暴可耻」)と書いた写真を公表しました。

この写真を支持する「@反瓶閑逛」さんは、「DVと平らな胸を差別するロジックとは一致しており、どちらも男性の女性の身体に対する支配権を示すものであり、前者は赤裸々であるのに対して、後者は隠蔽されているにすぎない。また、女性が暴力を振るわれる対象・客体から、身体が支配されることを内面化した『主体的意識』になるプロセスを完成させているのである。女性の身体は戦場であり、身体の自主権はDV反対の上に体現されているだけでなく、平らな胸を自ら誇ることにも体現されている」と述べました。きっと肖さん自身の意図もそうしたものでしょう。

肖美麗さんは、上の写真を公表したことを通じて、「私は私の身体を徹底的に受け入れた」、「タブーを犯すことは、自分のタブーを犯すことでもあり、自分の姿形に対するさまざまな恥ずかしさは、あとかたもなく消えていった」と述べています。

また、別のある人は、鮮血を模した赤い染料を使って、顔じゅう、体じゅうに赤い色の手形を付けて、苦痛が爆発したかのように叫びをあげている写真を公表しました。この写真は、わかりやすいからか、ネットメディアでもよく使われました。

二人組で裸の写真を公表した人たちもいました。その2人の体には、それぞれ、「経血は恥ずべきでない」「DVこそ恥ずべきである」と書かれています。さらに、血の色を付けた大きなサイズのナプキンを肩や腰に貼りつけ、口には血の色がついたタンポンを咥えています。これも、女性の羞恥と関係している月経のタブーを暴き、誤った幻想から解放したものだと評されています。

また、ある男性が、無精ひげを生やしつつも、ブラジャーとミニスカートを身に着け、赤い口紅を塗って、身体には、「私は少女になれるけれども、あなたは殴ってはいけない」というスローガンを書いて、ジェンダーにもとづく暴力を告発しつつ、トランスジェンダーの権利を訴えている写真もあります。

ネット上での非難・批判

裸の写真をインターネットに発表すると、すぐさまネット上で多くの非難が浴びせられました。「俺の女房がこんなことをしたら、殴り殺してやる」、「こんな恥知らずなことをすれば、殴られるのは無理もない」といった具合にです。

反対の声は、大きく2つに分けられました。

一つは、DV反対の意見については何も言わず[または上のように反発して]、裸の写真を発表したことに対する批判でした。

もう一つは、DV反対は支持するが、裸で訴えたことには反対するというものでした。この批判にも2つの立場があって、1つは、裸を使うというやり方が、大衆を騒がして、人気を得ようとするものだと考えて、反感を抱くもの。もう1つは、こうしたやり方は、実際はやはり男性の欲望に迎合するものであり、男性が「凝視する」ことからは逃れようがない、というものでした(7)

ただし、『女声』誌の評論が、肖美麗さんの「平胸光栄、家暴可恥」の写真について、「注視する視線を平然と迎え、自分が見られているとがわかりつつも、同時にまた抵抗して、その視線を跳ね返そうとしている」と述べているように、肖さんあたりには、男性からの視線は織り込みずみだったかもしれません(8)

また、典典さんは、「裸でDV反対」に対する反対意見について、たしかに活動の効果はとくに良くはなかったかもしれないけれど、別の偏見を打ち破る良い機会ではなかったと言えなくもないのではないか、すなわち、「なぜ女性の身体は、人に見られてはならない『神聖なもの』であるか、広告の中で他者を喜ばせる『玩弄物』であって、自主権を持つことはできず、それを、権利を訴え、権利を勝ち取る戦場として用いてはならないのか?」と問うたことに意義を見出しています(9)

典典さんの場合

実は、典典さんは、最初「裸でDV反対する」写真を見たときは、それに参加するつもりはありませんでした。しかし、友だちからかかってきた電話が、彼女の考えを変えました。

その女性は、非常に伝統的な考え方をしている人で、婚約者の男とも一線を越えることはありませんでした。ただ、遊びに行ったとき、きちんと服を着ていない写真を撮られたことがあっただけでした。のちにその男が信用できない人だとわかって、彼とは別れる決心をしたのですが、その写真があるために、彼に付きまとわれることを恐れて、別れるのを1年半も引き延ばしている、という電話でした。

典典さんは、その友だちを慰めるとともに、今回のアクションに加わることを決めました。典典さんは、その友だちに、身体は自分のもので、人に見られることも、殴られることも、過ちではなく、まして罪ではなく、恐れる必要はなく、他人からの暴力に耐える必要もないと言いました(10)

彼女たちが望んだほどには、写真は広がらなかったが……

ただし、上記の写真は彼女たちが狙ったほどには広がりませんでした。12月23日に広州でおこなわれた討論で、彼女たちがその点について話し合ったところ、以下のような原因が指摘されたということです(11)

 1.女性の裸自体は現在ではインターネットではけっして珍しくない。また、恥ずかしげで、性のプライバシーと関係するような実際の生活の中の写真ならば、ネットユーザーが拡散するが、生活の場面から切り離され、かつ正面からの訴えをしている写真は、大多数の人を興奮させない。
 2.裸の写真を発表したことには2つの目的があった。第一は、DV反対の署名の推進で、第二に、女性の身体の自主を主張することだった。しかし、多くの人から見れば、その2つは、まだ別々のものであって、裸の写真を公表した目的がはっきりわからなかった。
 3.全体的に見れば、写真の形式が比較的単一で、見る者が関心を持ち伝達するような興味を持つのが難しかった。
 4.国内の伝統的なメディアはこの活動を伝えなかった。インターネットの「網易」と「鳳凰網」は報道したけれども(12)、ネットよりも影響力を持っている新聞は、この活動を報道しなかった。新聞は、言論の審査と自己規制が最もきついメディアであり、裸の写真は、スキャンダルとして報道する可能性はあっても、DVに反対するという硬い話題の中では、載せるのは難しい。

しかし、ここでも、「けれども、裸の写真の活動は、署名を推進する以外に、参加者が自己解放の過程を体験したという価値をすでに持っている。それは、以前より『過激』に男権文化にぶち当たっていったという創意の実践であり、また、関心を持ったすべての者が共有した思想的なステップアップである」(『女声』誌)という点が指摘されています。

興味本意で裸の写真を拡散させてもあまり意味がないわけですから、それだけで十二分の意義があったように私は思いますし、私自身も教えられました。

3.署名を全人代や婦連に直接手渡すことはできず、郵送で提出(13)

1月21日の早朝、朱西西さん(武漢の女子大学生)、梁小門さん(広州の某大学の法学院の女子学生)、白菲さん(上海の女子大学生)の3人が、いよいよ1万2000筆余りの署名を全国人民代表大会法制工作委員会(以下、「全人代法工委」と略す)と中華全国婦女連合会(以下、「全国婦連」と略す)に手渡すために、北京に集まりました。

彼女たちは、午前8時から午後2時まで、あちこちを駆け回りましたが、署名を手渡すことには成功しませんでした。まず、全人代法工委の事務局に持って行くと、「応対できない」と言われました。次に国家来信来訪(苦情処理)局の来訪応接所[信访局来访接待司]に行って、長い間行列を作って順番を待ったのですが、職員に、それは我々の管轄ではないので、全人代法工委に郵送するように言われました。次に、全国婦連に電話をして尋ねたところ、そこの職員は、婦連の来訪接待所に届けるように言いました。しかし、婦連の来訪接待所は、立法の提案のようなことは婦連の権益部に渡すべきだと言いました。婦連の権益部は、郵送するように言いました。

彼女たちは自分たちの思いを直接訴えたかったのに、たらい回しにされたあげく、どこにも直接応対してもらえなかったわけです。「続けざまに門前払いにあった」と写真入りで報じた新聞(14)もあります。彼女たちは、やむなく署名を全人代と婦連に郵送によって提出しました。

さぞ無念だったことと思いますが、彼女たちが駆け回ったことによって、全人代や全国婦連のこうした対応の問題点を含めて、ごく一部のメディアにですが、今回の署名について再度報道させたことは成果だと言えると思います。

(1)最近出版された李妍焱『中国の市民社会――動き出す草の根NGO』(2012年 岩波書店)も、「草の根NGOの戦略」の1つとして、「NGOの力を束ねて大きく見せる」こと、具体的には「連名で声明」「連名で抗議」することが挙げています(p.68-73)。
(2)この節は、主に、『女声』130期:2012“十六日”特别报道: 敦促反家暴立法联署万人目标已近[word]に依拠して書いています。
(3)「李陽をボイコットし、DV被害者に声援を送る活動」(本ブログの記事「クレイジー・イングリッシュの李陽のDVと離婚裁判、フェミニズム運動」参照)の署名は、2012年8月9日の李陽離婚事件の第3回法廷の前に1200人に達し、最終的には3000人余りに達したことと比べても多いと指摘されています(注(2)と同じ)。
(4)北京同志中心“十六日校园活动”简报」北京同志中心ブログ2012年12月5日。
(5)三名女大学生为反家暴发声携万人签名信送递全国人大」金羊網2013年1月22日(来源:羊城晩報)。
(6)この節については、注記がない個所は、『女声』131期:身体政治在线:“裸照反家暴”活动述评[word](2012.12.17-2012.12.23)にもとづく。
(7)この「ネット上での非難、批判」で述べた個所のここまでは、「湖南女孩裸体反家暴 被骂“这么不要脸”」(『三湘都市報』2013年1月27日)によっています。
(8)『女声』131期:身体政治在线:“裸照反家暴”活动述评[word](2012.12.17-2012.12.23)。
(9)湖南女孩裸体反家暴 被骂“这么不要脸”」『三湘都市報』2013年1月27日。
(10)同上。
(11)『女声』131期:身体政治在线:“裸照反家暴”活动述评[word](2012.12.17-2012.12.23)。
(12)橙色行动:停止暴力,女人受够了!」網易女人、「女性裸体抗议家暴 "平胸光荣 家暴可耻"惹争议」凤凰时尚综合2012年11月29日。
(13)この節については、「三名女大学生为反家暴发声携万人签名信送递全国人大」金羊網2013年1月22日(来源:羊城晩報)、「三地女大学生赴京送信呼吁反家暴立法公开透明化」(『雲南信息報』2013年1月22日)による。
(14)三地女大学生赴京送信呼吁反家暴立法公开透明化」雲南信息報2013年1月22日。

DV防止法の制定プロセスと内容に民間の関与など求める1万人署名運動

いま中国でもDV防止法の制定が日程に上っていますが、それに対して要請をおこなう署名運動がこの11月5日から始まっています。

全国人民代表大会への連名の手紙に1万人の署名を集める運動

この署名は、簡単に言えば、立法のプロセスと内容に民間の参与を求め、実効性のある立法にするよう要請する署名です。従来の運動に比べて、立法への事前の介入を積極的に求めていること、かなり多数の署名を集めることを志していることに特徴があると思います。

この署名運動は、具体的には、以下に示す「反家庭内暴力立法についての全国人民代表大会への連名の手紙」(1)に名を連ねてもらう形ですすめられています。

全国人民代表大会常務委員会法制工作委員会:

私たちは家庭内暴力問題に関心を持っているネットユーザーのグループです。私たちは、メディアによって、反家庭内暴力立法がすでに今年の全国人民代表大会の立法活動の計画に入ったこと、また、早くも2011年2月から、法制工作委員会と全国婦連は、一連の立法調査・研究・論証活動をおこなってきたことを知っています。最近は、家庭内暴力事件が頻発して、社会の反家庭内暴力立法を求める声はしだいに高まっています。けれど、家庭内暴力に反対する立法については、長い間情報が伝えられていません。私たちが手紙を書いたのは、次のことを知りたいからです。「反家庭内暴力法」の立法の進みぐあいはどうなのでしょうか? この法律は具体的にどのように実施されるのでしょうか? その中には民間の監督のメカニズムはあるのでしょうか?

(中略)

現在、わが国の憲法・婚姻法・婦女権益保障法などの法律は、明確に家庭内暴力を禁止しています。全国28の省・市・自治区も、家庭内暴力を予防・制止する地方性法規または政策を制定しています。全国婦連・最高人民法院・検察院・公安部などの7つの部・委員会も、「家庭内暴力の予防と制止に関する若干の意見」を出しています。けれども、それらの家庭内暴力に関する規定は、さまざまな法律・法規の中にばらばらにあって、つながりに乏しく、内容も完全でないために、警告する働きがあるだけで、実際の効力は限られています。そのため、国家レベルの反家庭内暴力法を制定することが、家庭内暴力を予防・制止し、被害者の権利を守り、現行の法律の不十分点を解決するために、差し迫って必要になっているのです。

現在家庭内暴力事件は相変わらず頻発しており、立法のプロセスを速め、立法の透明度を増すことが緊急に必要になっています。私たちは、「反家庭内暴力法」の立法の進展を知りたいのです。

家庭内暴力に対する関与は、行政の関与、司法の関与、社会の関与が共同で構成するものでなければならず、その主体は広範で多元的で、相互につながり、補充しあう全体的な枠組みでなければなりません。民間、とくに女性の立法と執法に対する参与は非常に重要であり、有効な民間の監督メカニズム築くことを立法に組み入れることを考慮しなければなりません。それゆえ、私たちは、次のことを提案いたします。

 1、立法の過程において、広範に民間の意見を聴取し、民間の参与と監督を奨励すること。
 2、法律の中に、責任部門の問責のメカニズムを明記すること。
 3、法律の中に、国家は民間の家庭内暴力反対活動にリソースを与えて、サポートしなければならないことを明記すること。

(中略)

貴委員会の1日も早い回答をお待ちしています!

一万名の反家庭内立法に関心を持つ公民

2012/11/05


署名運動の趣旨説明――実効性ある法律にするためには、草案が発表されてからでは遅すぎる。1万集めるのは難しいが、大衆的な訴えであることを示すにはそれが必要

この署名運動の趣旨は上記の文でも簡単に触れられていますが、呂頻さんが、以下のように詳しく説明しています(2)

まず、【なぜ家庭内暴力防止法を督促しなければならないのか】という点に関しては、呂頻さんは、「今に至るまで立法の過程が不透明であり、私たちがどのような法律を手にすることができるのか、はっきりしない」こと、「いまなお立法者はこの法律についての幅広い相談と討論の窓口を開いていない」ことを挙げています。呂頻さんは、「これまでの教訓では、立法者が法律の草案を発表して公衆の討論に供する時には、おおよそのところは既に決まっていて、短いパブリックコメントの募集期間に強烈な提案が集まっても、必ずしも最後の成案を変えることはできない。また、私たちは、何度も、公示的な規定だけあって、実効性のある規定はない法律がたくさん出来て、権利の保障に対する承諾が骨抜きになったという情況を見てきた」と述べています。

だから、呂頻さんは、私たちは【情報を知り、参与し、監督】したい、知らされるのを待っているだけではだめで、【主体的に問う】ことをしなければならないのだ、と言っています。

【なぜ1万人の署名が必要なのか】という点に関しては、「中国は大きいので、1万人は多いとは言えない。もしこの規模に達しなければ、私たちは、訴えが無視されることを心配する。」「その一方、1万人はじゅうぶん多く、大衆的な声を形成したことになるので、重視に値する。だから、要するに、1万人が最低ラインであり、1万人なければ、家庭内暴力防止法に対する多くの人の期待に釣り合わない」と述べています。

【なぜあなたの助けが必要なのか】という点に関しては、「市民の力はまだ非常に発達していない」から「一万人の署名をする民間の活動は決して多くない」、「民間組織が懸命に努力して、一つの組織が数十名、百名のボランティアを集めるだけでも、少なくないと言えるのであって、1万人という動員目標は、きわめて大きな挑戦である」。だから「あなたにはもっと多くの人に働きかけてほしい」と述べています。

上半身裸の写真で訴え――女性の身体に対する支配などを問う

この署名運動のもう一つの特徴は、何人もの女性が、インターネットに上半身裸の写真を掲載して、署名を呼びかけていることです。彼女たちは、写真といっしょにさまざまなメッセージを寄せています(3)

上半身裸で訴えることの意味が直接書かれているメッセージは、以下のようなものでしょうか。

@Foxdian:男の裸の上半身はどこにでもあるのに、なぜ女の裸は人に見られたら恥ずかしがらなければならないのか? DVと裸体は無関係に見えるが、身体と権力とは密接な関係がある。女性の身体に対する汚名も暴力でないことがあろうか?――身体に罪はなく、暴力を恥ずべきだ![身体无罪,暴力可耻!]

麦子家:DVは恥ずべきであり、裸の胸に罪はない[家暴可耻,裸胸无罪]

肖美膩:平らな胸は光栄だ。DVは恥ずべきだ[平胸光荣,家暴可耻](と自分の胸に直接書いてある)。


肖美膩さんは、新聞の取材に答えて、「女性の身体は、長い間スティグマ化されてきており、また人に見られてはいけないもので、見ることは良くないことで、恥ずかしいことだとされてきた」、けれど、その一方で、女性の身体はポルノや車体広告などの商業広告では大手を振っていても「何とも思われない」と語っています(4)

香港のSouth China Morning Post(南華早報)も、Xiong Jing[=熊婧?]さん(24歳のジェンダー研究の学士号取得者)の発言として、「私は、人々にDVと裸体の関係について考えてほしい」「私は『身体は戦場だ』と言うことが好きだ。私は、この方法によって、私の女性に対する支持を示し、女性に対する暴力への関心を引きたい」というものを伝えています(5)

以下のような訴えもあります。

@白亦初:私の身体を愛している。身体を傷つけてはならない。

@pinerpiner[=呂頻]:どれだけの鮮血が流れれば、目覚めるのか?!(裸の上半身に鮮血[のような塗料]を流した写真を掲載して)


pinerpinerさんは、自らの微博では、「わき毛には愛がある。DVには罪がある[腋毛有爱 家暴有罪]」という文字を上半身に書いた写真も出しておられます(6)

トランスジェンダーやレズビアンが上半身裸になって訴えている写真もあります。

@灰烬ashWang:“暴力はなくさなければならず、性別は解放しなければならない”。今日はちょうどジェンダー暴力に反対する16日アクションの最初の日である。女性やトランスジェンダーたちは、ジェンダー暴力の被害者である。大部分のDVはジェンダーにもとづく暴力である。私は、ふだんは束胸(注:胸のふくらみを押さえるシャツ、ナベシャツ)を身につけているトランスジェンダーである。私はジェンダー平等を促進することによってこそ根本的にジェンダー暴力をなくすことができると考え、署名した。DV反対は私から始める。

@済南Les工作社公式微博:反DV立法を促進するために、済南Les工作社は署名に応ずる


肖美膩さんの「平らな胸は光栄だ。DVは恥ずべきだ[平胸光荣,家暴可耻]」という訴えに対しては、次のような議論がネットで出たことが報じられています。

1.DVは実際は平らな胸のロジックと一致しており、どちらも男性の女性の身体に対する支配権を示している。前者は赤裸々であり、後者は非常に隠蔽されており、また、女性を、暴力をふるう対象・客体から、身体が支配されることを内面化した「主体意識」にするプロセスを完成させている。女性の身体は戦場であり、身体の自主権はDV反対に体現されているだけでなく、平らな胸を自ら誇りにすることにも体現されている。

2.男性の暴力は文化的な構築であって、単純な物理的存在ではけっしてなく、女性が賦与された記号的な意味も、そのほかの物理的存在をはるかに超えている。二者は同一の男権の記号システムの統一されたロジックの中のコードである。しかし、肖美膩の裸体と平らな胸はこのロジックと矛盾しており、積み重ねた卵を崩れ落ちさせている。これは、一般的なフェミニズムアートと比べて、先走りすぎている。

フェミニストの中でも、裸の胸を出した写真については両論あるということのようです。

ただし、インターネット投票では、やはり否定的な意見が多いようで、上の2つの意見を掲載しているようなフェミニズム的な記事の中でのネット投票でも、12月7日現在の投票結果を見ると、「ただの炒作[私はこの言葉のニュアンスがよくわからないのですが、「大げさな宣伝」「売名」といった意味のようです]だ。抗議は他のやり方でやるべきだ」という回答が6割以上で、「勇敢な行為だ。型破りなことをやってこそ、注目を集めることができる」は3割弱です(7)。――といっても、3割近い肯定的意見があることにむしろ注目すべきかもしれませんが。

裸の写真は、最初は微博の管理者によって削除されたそうですが、のちに多くの女性が参加するようになると検閲はストップされたと呂頻さんは言っています。

また、全国人民代表大会への連名の手紙には、すでに5千人の署名が集まっているとのことです(8)

(1)「反家暴16日行动的号角已经吹响,就反家暴法立法致全国人大的联名信」社会性別与発展在中国サイト2012年11月7日=「就反家暴立法致全国人大的联名信」。
(2)呂頻「为什么要一万人?需要你的支持,一个都不能少」社会性別与発展在中国サイト2012年11月9日(来源:邮件组)。
(3)万人签名促反家暴法立裸胸行动专题报道」社会性別与発展在中国サイト2012年11月28日。当初はミニブログで発信されたもののようですが、写真とメッセージは、ここでまとめて見られます。以下、枠で囲ってある発言は、このサイトからのものです。
(4)裸体反家暴,征万人签名推动立法」南都網2012年12月3日(来源:南方都市報)。
(5)Mimi Lau “ Chinese women post nude photos online to fight domestic violence ” South China Morning Post2102.12.4→(抄訳)「中国女性网上发裸照反家暴」新华网2012年12月5日(来源: 新华国际)。
(6)腋毛有爱 家暴有罪」pinerpiner新浪微博11月16日。
(7)以上は、「女性裸体抗议家暴 "平胸光荣 家暴可耻"惹争议」凤凰网2012年11月29日(来源:凤凰时尚综合)。
(8)以上は、(5)に同じ。

さまざまな都市でDV反対を訴える「傷を負った新婦」パフォーマンスアート

11月25日は「女性に対する暴力撤廃の国際デー」でした(1)。国連は、この日から12月10日の「人権デー」までの16日間を、「ジェンダーにもとづく暴力反対のために行動する16日間」に指定し、世界中の個人や団体に女性と女児へのあらゆる暴力を根絶するために行動を起こすよう呼びかけています(2)

この期間に、中国のさまざまな都市で、若い女性たちが、DV反対を訴える「傷を負った新婦」パフォーマンスアートをおこないました。彼女たちは、殴られて怪我をしたかのような化粧をし、血で染まったように見えるウェディングドレスを着て、通行人に向かって、親密な関係における暴力をなくすために、ビラをまいて訴えました。

この「傷を負った新婦」パフォーマンスアートは、すでに今年2月14日のバレンタインデーにも、李麦子さんら3人の女子大学生が北京の前門でおこなっています(本ブログの記事「女子大学生の『男子トイレを占拠する』アクション」の5「今回のアクションと中国のフェミニズム」参照)。今回は、国連のキャンペーンにあわせて、それを集中的におこなったということです。

11月25日の「女性に対する暴力撤廃の国際デー」に武漢で

まず、11月25日の「女性に対する暴力撤廃の国際デー」には、武漢市の漢口の江漢区の民政局の入口の大通りの前で、午前10時に、葉さん、華さん、王さんという3人の若い女性が、殴られて顔に怪我をしたかのような化粧をし、「血染めのウェディングドレス」を着て、「暴力が身近にあるのに、相変わらず黙っているの?」「DV[家暴]は家庭内部の問題[家事]ではない、DVは違法である」と書いたプラカードを掲げ、通行人にチラシをまいて、親密な関係の中での暴力をなくすように訴えました。

葉さんは、「みんなは、DVは私領域の問題、家庭内部の問題だから、第三者には口を出す権利がないと思っています。しかし、実際は、暴力は公民の人身の安全を侵犯する行為であり、法律によって制裁されなければなりませんし、親密な関係の中の暴力はもっと許してはならないのです」と語りました(3)

別の報道では、「樹葉」さんが組織者であること、樹葉さんは同級生たちと募金を集めて、3着のウェディングドレスを買ったとも報じられています(4)

樹葉さんは、華中師範大学文学院の大学院生として、世界トイレの日(11月19日)に、同大学の学長に女子トイレ増設を要望する手紙を出した人であり(本ブログの記事「全国の12師範大学で女子学生が各学長に女子トイレ増設求める手紙」参照)、9月16日に武漢大学の門前でおこなわれた、花瓶を叩き壊してミスコンに抗議するパフォーマンスアートの発起人でもあります(本ブログの記事「ミスキャンパスコンテストに対する抗議行動」参照)。

12月2日には5都市でいっせいに

12月2日には、杭州・上海・広州・西安・東莞という5つの都市で、いっせいに、あわせて数十名の若い女性が街頭で「傷を負った新婦」のパフォーマンスアートをおこないました。以下、各市の具体的な状況をまとめました。

杭州市

浙江大学社会学系2年生の陳芳さん(仮名)と張晴さん(仮名)が、午前10時、朱墨で赤く染めた「血染めのウェディングドレス」を着て、「傷を負った」かのような化粧をして、他の2人の仲間とともに杭州市の武林の繁華街にやってきました。彼女たちは、ある大きな百貨店の入口で、「殴るのは親しさではなく、罵るのは愛ではない」「DVをいっさい容認しない」と書いたプラカードを掲げ、宣伝ビラをまきました。

彼女たちは、記者に対して、自分たちはずっと女性の権利に関心を持ってきたこと、親密な関係における暴力が中国では深刻だから、全社会が重視する必要があると述べました(5)

広州市

広州市番禺区の繁華街では、鄭楚然さんと梁小門さんが、血の色の染料で染めたウェディングドレスを身にまとい、顔が痣だらけになって腫れ上がったかのような化粧をして、「彼女が被害に遭っていたとき、あなたがたはどこにいたの?」「彼女が自衛するのを待っていてはならない。夫を殺したときになって、たびたびDVの被害にあっていたのを知ることになる」と書いたプラカードを掲げました。彼女たちは、寒風と小雨の中、DVに反対するスローガンを大きな声で叫びつつ、親密な関係における暴力に反対するビラを配りました。

数分もしないうちに、彼女たちの周りには数十名の人垣ができました。けれど、彼女たちの訴えに対して、ある男性は「もし女房がひどいことをしたり、怠けていたり、ばくち好きだったりしたら、絶対殴らないといけない」と言い、ある通行人の男性は「自分は妻や子どもは殴らないけれど、他人が女房を殴るのを見ても他人の家の中の問題だと思うから、干渉すべきじゃない」と言うといった具合で、同意しない人も多かったとのことです(6)(けれど、無視されるのではなく、このように議論になっただけでも、すごいとも言えると思います)。

西安市

西安市の雁塔区育才路の陝西省婦女連合会の前でも、格蕾さんら2人の女子大学生が、顔に殴られて青いあざができた化粧をし、血に染めたウェディングドレスを着て、DV反対のパフォーマンスアートをしました。彼女たちとこの活動の組織者の黄文さん(男性のようです)とは、「殴るのは親しさではなく、罵るのは愛ではない」「暴力が身近にあるのに、相変わらず黙っているの?」と書いたプラカードを掲げて、道行く人に訴えました。

格蕾さんは、「私たちが婦女連合会の門の前の街頭このような活動をしたのは、多くの大衆と市民に、親密な関係の暴力を含めた家庭内暴力は、実際は私たちの身のまわりに存在していることを知ってもらって、みんなに黙ったままでいてはならないことを訴えるためです」と語りました(7)

下が、このパフォーマンスアートのテレビ報道のビデオです。
视频:女大学生穿“染血婚纱” 行为艺术反对家庭暴力

東莞市

東莞市では、中堂鎮センターの前の広場で、「丸子」「小玉」「大雁」と名乗る3人の女子学生が、「暴力は身近にあるのに、どうして黙り続けていられるだろうか?!」「愛のために声を上げよう 愛のために暴力を禁止しよう」と書いたプラカードを掲げてDV反対を訴えました。写真を見ると、ウェディングドレスを着ているのは1人だけですが、3人とも、顔に赤い血の跡や青いあざができきているような化粧をしています(8)

「青年女性実践とジェンダー平等」秋令営で決定

以上のように一斉にパフォーマンスアートがおこなわれたのは、もちろん偶然の一致ではありません。

11月23日から26日まで、武漢で「青年女性実践とジェンダー平等」秋令営(オータムキャンプ、合宿)が開催され、中国の中部地区の、ジェンダー問題に関心を持つ青年活動家35名(女性30名、男性5名)が参加しました。そのとき、パフォーマンスアートの計画についても話し合われたのですが、11月25日は「女性に対する暴力撤廃の国際デー」であることから、いくつかの候補の中から、「傷を負った新婦」パフォーマンスアートなどが選ばれたのです。

もちろん女性に対する暴力やDVに対する反対運動は、パフォーマンスアートという形でだけおこなわれているのではなく、DV防止法についての署名運動などもおこなわれています。それについては、次回ご紹介したいと思います。

(1)その起源は、「ドミニカ共和国がトルヒーヨ独裁時代に反対運動をしていたミラバル3姉妹が、投獄されていた夫たちに面会に行った帰りにトルヒーヨ政権の放った男たちにより殺害されました。当局側はそれにより反政府運動が鎮静化すると考えていましたが、逆に民衆の怒りを買い、半年後にトルヒーヨ自身の暗殺へと結びつくことになりました。国連は1999年、彼女らの活動を称賛し、女性への暴力に抗議するため彼女らが暗殺された11月25日を『女性に対する暴力撤廃国際デー』として採択しました」というものだそうです(「女性に対する暴力撤廃国際デー」国連情報誌SUNブログ対応版)。
(2)女性に対する暴力撤廃デー」UN Women 日本事務所公式サイト。
(3)以上は、「武汉3名女青年化身“受伤新娘” 街头反对家暴」荆楚网2012年11月26日(来源:楚天都市报)。
(4)武汉3女子穿带血婚纱缠绷带宣传反对家暴」荆楚网2012年11月26日。
(5)以上は、「五城市女青年穿“染血的婚纱”演行为艺术反家暴」新華網浙江頻道2012年12月2日。
(6)以上は、「5城市数10名女青年街头穿染血婚纱宣传反家暴」中国新聞網2012年12月3日(来源:羊城晚报)。
(7)以上は、「西安女大学生穿"染血婚纱" 呼吁别对家暴沉默」西部網2012年12月2日。
(8)东莞年轻女子身穿"血"婚纱 宣传反家暴」東莞陽光網2012年12月3日。
(9)嵘嵘「武汉青年社会参与与性别平等主体秋令营培训公报」google group性别平等计划2012年12月3日。

クレイジー・イングリッシュの李陽のDVと離婚裁判、フェミニズム運動

李陽さんは、「クレイジー・イングリッシュ(疯狂英语)」という、恥かしさを捨てさせ、大声を張り上げて体を動かして英語を叫ばせる英語学習法の創始者です。これまでに彼の講座を何千万もの人々が受講し、彼の英語学習に関する著書は百冊以上あるといいます。彼が各地で講演するありさまは、「クレイジー・イングリッシュ」という映画にもなりました(アマゾンのページ)。

ところが、彼が妻のキム・リー(Kim Lee)さんに対して暴力をふるっていたことが昨年明らかになり、大きな騒ぎになりました。キムさんは李陽さんに離婚裁判を起こしました。また、DVに対して反省のない李陽さんに対して、若いフェミニストたちが何度も抗議活動をおこなっています。裁判の判決ももうすぐ出ると思いますが、今回はこれまでの動きをまとめてみました。李陽さんのDVに関する新聞・雑誌記事は膨大にありますので、私も到底すべてを丁寧に読むことはできませんでしたが、以下でだいたいの流れはおわかりいただけると思います。とくにフェミニズム運動の側の動きに注目してまとめました(以下、李陽さん、キム・リーさんについては、敬称を略させていただきます)。

[目次]
(2011年)
9月 李陽のDVの発覚と一時的な謝罪
10月 マスコミ報道の問題点について民間女性10団体が声明
9月末~ キムの反撃
12月 離婚裁判・第1回法廷――DVの認定、財産分割、子どもの養育権などが争点に
(2012年)
3月 第2回法廷――李陽はDVを否認、李陽の財産が明らかに
4~5月 李陽の脅迫とキムの帰国
6月 李陽の南京での講演会場内外で若い女性たちが抗議活動
6月 広州のクレイジー・イングリッシュの総本部に女子大学生らが抗議活動
7月 李陽が山東省棗荘市の観光英語顧問になることに反対する申し入れ
8月 第3回法廷の裁判所前でも若い女性たちが抗議・宣伝活動
8月 第3回法廷――財産分割・養育権についての議論が具体化、李陽はまだDVを否認
おわりに

2011年

9月 李陽のDVの発覚と一時的な謝罪

2011年9月2日、「@丽娜华的Mom」(=李陽の妻のキムとのちに判明)の微博(中国版ツイッター)に、「李陽、あなたには助けが必要だ。子どもが見ている前で私を殴らないで」というメッセージと頭に大きなこぶができた写真、「あなたが[暴力をふるった日に]きちんとした服装でテレビに出ている姿を病院で見たのは、あなたが私の頭を床板にぶつけたことより、もっと苦痛だった」という英文が掲載されていることをある人が見つけ(キムの発信したのは8月31日)、李陽がDVをしているのではないかとネットで話題になりました(1)

キムは、同月5日、DVの情況についてより詳しく、「あなた[李陽]は私を殴り倒し、私の背中の上に座って、両手を使って私の首を押さえつけ、そのあと私の頭を床にぶつけた。私があなたの手を引きはがそうとすると、あなたは私の髪の毛をつかんで、私の頭を続けて10回あまりも床板にぶつけた!」「女児のリディアは驚いて声を張り上げて叫び、あなたの腕をつかんであなたを阻止しようとした」と書きました。これが李陽のキムに対する初めての暴力だったのではけっしてなく、キムはこれまでも何度も李陽に[DVをなくすための]補導を受けるように求めてきたそうです。

ネット上では、李陽に対する非難が強まっていきました。

10日、李陽は、微博に、「私はキムに正式にお詫びをする。私は彼女にDV[家庭暴力]をして、身体と精神に重大な傷を負わせ、子どもに対しても良くない影響を与えた。私はすべての人にお詫びをする。私は自分の行為を深く反省する」と書きました。キムが李陽のDVを派出所に届けていたこともあって、前日の9日に、派出所で、李陽はキムに次のような取り決めをしたということです。1.二度と暴力を振るわないと約束する。2.微博で公に謝罪する。3.心理カウンセラーの所に行く。4.紅楓女性心理相談センターに1000元を寄付して、より多くの人の相談に役立ててもらう。

その後、李陽はメディアの取材を受け始めました。それはいいのですが、その中で李陽は自画自賛をし、自分は「反暴力の指導者にならなければならぬ」とまで言うようになりました。

こうした彼の態度に不信感を抱く人もいました。また、李陽が「私たちは心理カウンセラーの専門的援助を受けている」と言ったことに関しては、「北京DV被害女性サポートグループ(北京受暴妇女支持小组)」のボランティアから、「李陽のような加害者は心理的障害の患者ではない。李が妻を殴るのは妻を支配しようとしているからであり、夫婦が共同で受ける心理的カウンセリングは、夫婦双方に責任を求める理論に基づいており、DVに対しては有害無益である」と指摘しました(2)。もっとも、後に明らかになったところでは、李陽は、2時間カウンセリングを受けただけで、それ以上治療を続けることを拒否したそうです。そうしたカウンセリングさえ李陽は嫌がったからもしれませんし、紅楓女性心理相談センターのカウンセリングは、北京DV被害女性サポートグループのボランティアが批判しているような質のものではなかったからかもしれません。

以上の事態については、その表面的な経過はさまざまなメディアが報道していますが(3)、李陽のDVの発覚以来、最も丁寧に事態を分析してきたのは、私が見るかぎり、NGOの「女性メディアウォッチネットワーク(妇女传媒监测网络)」の『女声』誌でした。その意味で、この時点から民間女性運動の役割は明らかだったように思います(4)

10月 マスコミ報道の問題点について民間女性10団体が声明

さて、危惧されたとおり、李陽の反省は口先だけのものであることが明らかになっていきます。李陽は、メディアで、自分の誤りを認めつつも、自分の行為を弁解し、暗に妻を責める発言をしました(5)。たとえば、『新京報』に掲載された李陽のインタビューでは、自分のDVの原因として、「アメリカ人は怒りっぽくて、暴力的な傾向がある」と言ったりしており(6)、同紙にも、李陽のそうした発言を批判する評論が掲載されたほどです(7)。また、李陽のクレイジー・イングリッシュは近年落ち目になっているから、李陽がメディアに出ることは、自分の汚名をそそぐだけでなく、客観的にはクレイジー・イングリッシュの広告になっていると指摘する人も多くいました(8)

しかし、マスコミは、全体として見ると、李陽の言い分を垂れ流す傾向が非常に強かったようです。『女声』誌は、こうした傾向について、李陽のような比較的権力を持った人に対して、十分な専門的能力や明確な立場を持っていない人が取材したから、インタビューが取材される側の独擅場になったのだと指摘しました。

また、『女声』誌は、メディアでは何度も「女性はどのようにDVから自分を保護するか?」といったテーマで討論がおこなわれているが、こうした討論は、被害者を責めることになる場合があることや「男性がどうすべきか」「男の子の教育をどうすべきか」という問題が忘れられていることも指摘しました(9)

李陽は、さらに、その後、自分の誤りは彼女が激怒したことを「無限に容認」しなかったことだけであり、双方の誤りは「半々」であるとまで発言するようになりました(10)。10月8日には、李陽は、自分が暴力をふるったのは妻の「精神的暴力」に「がまん」できなかったからだと発言し、テレビで彼を批判した女性に対しては、「殴るぞ」と言って脅かしました(11)

また、李陽は、「自分が妻と結婚したのは、中国とアメリカの家庭教育を研究するための実験だった」「3人の女児は実験品にすぎない」とも言いました(12)

こうした李陽の発言に対しては、さすがに世論やメディアでの批判も高まってきましたが(13)、李陽がさまざまな記事や番組に出て、言いたい放題だったのは事実のようです。

こうした状況に対して、10月中旬、10の民間女性団体(DV反対ネットワーク/北京帆葆、女性メディアウォッチネットワーク、北京天津ジェンダーと発展協作者グループ、中国におけるジェンダーと発展ネットワーク、北京紅楓女性心理相談サービスセンター、北京衆沢女性法律相談サービスセンター、広州ニューメディア女性ネットワーク、中華女子学院ジェンダー研究情報センター、北京農家女文化発展センター)が、李陽のDVの報道のあり方に注文を付けるアピールを出しました。

「誰のために問い、どのように責任を負うのか――民間の女性たちが李陽のDV事件についてメディアに送る」と題するそのアピール(14)は、メディアが李陽のDVを迅速に報道し、DVを批判していることは評価しつつも、報道の中に、以下のような情況が存在していることを批判しています(原文を箇条書きに改めています)。

・被害者や暴力を目の当たりにした子どもの体験・利益を軽視している。
・意識的・無意識的に、女性、とくに被害者の女性に対する先入観と偏見を再生産・強化しており、自覚的・無自覚的に被害者の女性に二次被害を与えている。
・ジェンダー暴力という現象および暴力の文化的根源、とくに構造的根源に対して考察や整理をしておらず、現象自体についてしか論じていない。
・政府・関連機構・社会のDV防止における職責と役割についての検討が欠けており、当事者個人がどう対応するかというレベルにとどまっていることが多い。
・一部の報道は、加害者が道理に合わないことを強弁したり、弁解したり、世論を誤って導く言論の空間になっており、暴力行為と暴力文化のためにお先棒を担ぐ傾向さえある。


9月末~ キムの反撃

キムのほうは、メディアの取材に対しては、初めのころは、子どものことを考えてその多くを断っていました(15)

ただし、中国中央テレビの柴静さんが主宰していた番組には、柴静さん(の秘書)に、河北の監獄にはDV被害を受けたために夫を殺した受刑者が多くいることを書いた資料を見せられて、取材を受けました(16)。9月25日に放映されたその番組の最後は、次のようなキムのショートメールで締めくくられました(17)

李陽はずっとDV[家庭暴力]は文化だと言ってきた。そうした態度のために、多くの女は沈黙を選択し、自分の身を危険にさらしてきた。私もかつてはそうだった。けれど、今回、私は、はっきりと「暴力を我慢しない」と言うことを選択した。このことを言うことは、沈黙の中で傷ついているすべての女のためであり、私の女児の未来のためである。


また、キムは、主に英語で書いている微博では、李陽にずばり反論しました。その微博には、さまざまな立場の人が意見を寄せましたが、キムは、消耗することを避けるために、個々の意見に直接応答することは避けました。しかし、自分を支持する人々に対しては、ときどき感謝の念を伝え、反対する人々には、証拠を提出することによって事実を示すという方法で応対しました(18)

さらに、10月中旬ごろから、DV反対ネットワーク/北京帆葆が、キムから来たメールを、本人の了解を得た上で公表しはじめます。その中で、キムは、DVとDV文化を譴責し、中国の被害者の女性を援助することを自分の仕事にすると表明しています。キムはまた、警察などで二次被害を受けたと感じたことや離婚訴訟を起こす決意についても語りました(19)

10月18日には、キムは『中国婦女報』でも文を発表します。その内容は、キムの上記のDV反対ネットワーク/北京帆葆宛てのメールですでに書かれていることですが、以下は、その文(「沈黙は、私の家庭を守ることはできない」)(20)からの抜粋です。

「家庭の調和[和諧]」の名の下にDVを無視することは、次の世代の家庭生活に同じ苦痛を与えることにしかならない。私の頭が3歳の女児の前で床板にひどくぶつけられたとき、私にはそのことがわかった。

自分が沈黙していては、家庭を傷害から守ることはできず、女児が成長した後に幸福な家庭を持つ可能性を壊すことにしかならないと私はわかった。

私は公衆に対して真相を話した。けれど、私の夫は、2時間補導を受けただけで治療を続けることを拒否し、言論とテレビ出演によって私の家庭を傷つけ続けている。彼は、家族を傷つけることを自分の宣伝の手段にしている。これは、なんと悲惨なことだろうか。

(中略)もし私が公衆の観念上の誤りを正すことを助けることができるとしたら、それは、光栄なことであり、私はやらなければならない。

DV立法が適切で有効な手段であることは疑いない。しかし、法律がないとき、最も有力な反撃は、公衆がDVを容認することを拒絶し、下の共通認識を達成することである。

DVは文化ではない。DVは違法な犯罪である。


11月7日には、キムは、自分がDVで負わされた傷跡の写真をふたたび公開しました。その理由について、キムは、もう李陽が自分の責任と向き合うことは期待できないこと、李陽があたかも自分のしたことを忘れているかのようであることを挙げています。キムは、「私は善良な性格だが、意気地なしではない!」と言いました(21)

12月 離婚裁判・第1回法廷――DVの認定、財産分割、子どもの養育権などが争点に

10月24日、キムは離婚訴訟を起こしました。キムは、訴えの中で、DVなどを理由とする李陽との離婚、共有財産の分割、3人の子どもの養育権などを求めました(22)

12月15日、北京市朝陽区法院オリンピック村法廷で、離婚裁判の第1回目の審理がおこなわれました。李陽の側が「プライバシーの問題に関わるから」という理由で、非公開での審理を求めたため、非公開になりました(第2回以降も同じ)。ですから、以下で紹介することは、双方の当事者や弁護士が、法廷の外で、新聞などの取材に対して述べたことです。

両者は全面的に対決

キム側は、裁判所に以下の5項目を求めました。
1)婚姻関係を解消する。
2)3人の女児の養育権を要求する。
3)法律にもとづいて夫婦の共有財産を分割する。
4)被告の李陽が訴訟費と調査費を負担する。
5)李陽が子どもの養育費を支払う。

それに対して、李陽の側は、以下の6項目の請求と声明を出しました。
1)3人の女児の養育権を要求する。
2)キムが子どもの養育費を支払う。
3)キムとの間の婚姻の合法性を否認する。
4)李陽には、何らの財産あるいは金銭はない。
5)李陽はDVをしていない。
6)キムとの間の3人の子どもは中国の公民で、アメリカの公民ではない。

要するに、両者の側は全面的に対決したわけですが、キムから見ると、李陽側の6項目は彼女を「地獄に突き落とす」ものに見えました(23)

上の事項のうち、当日、当事者や弁護士が中心的に語ったのは、李陽の行為がDVであるか否かという点や財産分割についてです。

DVの認定について

李陽は、DVとは、家族の一員が他の家族の一員に「持続的」に暴力を振るうことであって、キムとの間には2回大きな「衝突」があったが、「私はそれをDVだとは思っていない」と述べました(24)

財産分割について

キムは、アメリカで英語の先生をしていたのですが、1999年に中国に来て、李陽と恋愛をし、2000年末から李陽と生活を共にし始めたのですが、それと同時に、李陽が創設・経営していたクレイジー・イングリッシュの事業で編集責任者の仕事をするようになりました。キムは、1999年から2011年までの11年間に、クレイジー・イングリッシュの事業のために、多くの書籍を執筆し、音響教材も作成し、学生の訓練にも参与しました。また、李陽は1月に1、2回しか家に帰ってこなかったので、3人の子どもの世話はすべてキムがしていました(25)。つまり、キムは、結婚生活において、公私にわたって夫婦の財産形成に大きく寄与していたと言えると思います。実際、キムは、「もし私がいなければ、李陽には売る本はなく、英語を教えることしかできなかった」と語っています(26)

しかし、キムは李陽と結婚してから12年にもなるのに、ずっと李陽から「経済封鎖」をされてきたと語っています。キムによると、李陽はキムに毎月、日常生活に必要な費用を与えるだけで、女児の学費などの大きな支出については、キムが李陽の助手か李陽の妹に申請して出してもらわなければならなかったとのことです。キムが言うには、李陽はクレイジー・イングリッシュのすべての収入を管理していて、妻にも明らかにしておらず、結婚している期間の収入によって他人名義で大量の不動産を購入したりもしているとのことです。李陽は多くの建物を持っているけれども、その名義は李陽か李陽の妹になっているそうです(27)。キムは、「私は、クレイジー・イングリッシュのために12年仕事をしてきたのに、10年間は自分の銀行口座さえなかった」と話しています(28)

上のような状況は、それ自体が「経済的支配」というDVの一つの形態ではないかと思いますが、財産分割の際にも、妻のキムにとって非常に不利な状況を引き起こしています。李陽は、自分には「家はなく、車もなく、金もない」と言ったようですが、上のような状況では、本当の財産はどれほどあるのかがわかりません。とくに弁護士が心配したのは、離婚問題が起きてから、李陽が、自分の財産を他の人に転売・譲渡していることです(29)

ですから、キム側は、李陽の財産の状況を明らかにするために、裁判所に李陽の財産を調査するように申請しました。

その他

李陽側が言っている「キムとの間の婚姻の合法性を否認する」というのは、アメリカでの結婚手続きは簡単すぎるという理由によるもののようですが、キム側は、実際は複雑だと反論しています(30)。また、李陽側の「キムとの間の3人の子どもは中国の公民で、アメリカの公民ではない」という主張に対しては、「中国は計画出産だから、子どもを3人も産めない。また、この3人の子どもはみなアメリカの出生証明を持っている」と反論しています(31)

2012年

3月 第2回法廷――李陽はDVを否認、李陽の財産が明らかに

2012年3月22日、第2回の審理がおこなわれました。

キムの弁護士によると、すでに李陽も、離婚をすること自体については、基本的に同意したそうで(32)、この日も、李陽の行為がDVであったか否かや財産分割の問題が議論になりました。

DVの認定について

李陽の弁護士は、第1回目の法廷の際と同様に、「私たちは一貫してこれがDVであるとは認めていない。家庭内部の衝突である」と述べました。李陽の弁護士は「DVとは、重大な結果を引き起こしたもの、経常的なものでなければならない」と述べ、「裁判の実践から見て、李陽の行為はDVには当たらない」と言いました。

それに対して、キムは、その件については「もうこれ以上論ずる必要はない。李陽は派出所でも、取材の際にも、DVをしたと認めている。病院に行かなければならなかったことが2回あった。そのほかに何度も小さな暴力があった」と言いました。

キムの弁護士も、「わが国の婚姻法の司法解釈(一)の第1条の規定によれば、被告の行為は明確にDVである。殴る、縄で縛るなどの方法で他の人の身体を傷つけることはDVになるのであり、関係する法律は『持続的な行為でなければDVにはならない』とは言っていない」と述べました(33)。「経常的で持続的な」DVは、「虐待」(罪)になるのであり、これは、別の民法上のカテゴリーだということです(34)

夫婦の共有財産の分割について

キムの弁護士によると、「DV行為は誤った行為であり、『離婚の夫婦の共有財産の分割は、過ちのなかった方に配慮する』という原則にもとづき、過ちのあった方には夫婦の共有財産を少ししか分割しないことができる」という理由から、キムは夫婦の共有財産の50%以上を分割することを申請する、とのことです(35)

キムの弁護士によると、すでに裁判所の調査によって李陽が21軒の不動産を持っていることが明らかになったそうです。李陽が自ら申請した2軒と合わせると、李は、合計23の不動産を持っていることが明らかになりました(36)。裁判所の調査では、さらに李陽が新しい不動産を持っている手がかりも見つけたのですが、キムは、長々と裁判をしたくなかったので、いつまでも調べ続けることは望んでおらず、その23の不動産の分割を要求していくかもしれないと述べました(37)

4~6月 李陽の脅迫とキムの帰国

4月12日、李陽は、キムに対して、「もしおまえがアメリカにいるのなら、おまえは夫に銃殺されるだろう」(「Kill You」と報じている記事も幾つもある)というショートメールを出して、脅迫をしました(38)

6月、キムは、「私が繰り返し派出所に行っている(李陽の脅迫のショートメールを通報しに)という情況の下でも、李陽は相変わらず自由に学校や子どもたちのために講演をしている。こうした事態は、いかなる理知的な人の想像も超えるものだ。裁判所や警察、法律がDVに対してかくも無力であることは、中国社会における女性の地位がまだ高くないことを確かに反映している(……)だから私は自分の祖国に帰る準備をしているが、中国の女性にはこのような機会はない」というメールをDV反対ネットワークに送って、アメリカに帰りました(39)

6月 李陽の南京での講演会場内外で若い女性たちが抗議活動

6月17日、李陽は、南京大行宮会堂で講演をおこないました。それに対して、3人のDV反対のボランティア(「志愿者」と記されているので、一応こう訳しましたが、「(自発的な)活動家」というくらいの意味でしょうか)が、会場の入口で李陽に「本当に悔い改めるまでは、口を噤め」と呼びかけるビラを撒くとともに、プラカードを掲げました。プラカードには「李陽、英語之技は学びやすいが、DVの痛みは消えにくい!」「李陽、DVをやめて、心から謝ってほしい」といった抗議の言葉が書かれていました。

それに対して、クレイジー・イングリッシュのスタッフの5、6人の男が、DVに反対する人々を小突き、追い出し、ビラを破り、プラカードを壊しました。

DV反対の活動家や野次馬はその様子を携帯電話で撮影しましたが、李陽はスタッフの男たちに「携帯を奪ってきて、壊せ!」と大声で言いました。活動家たちが逃げると、李陽は「彼らのプラカードはみんな壊してしまえ!」と叫びました。活動家らが配布したビラも、会場の入り口で回収されました。

しかし、李陽の講演が始まって約30分後、会場内でも2人(数人と報じているメディアもある)の女性が立って、「李陽、英語の技は学びやすいが、DVの痛みは消えにくい!」と書いてあるプラカードを掲げて抗議しました。しかし、李陽のスタッフに追い出され、プラカードは壊されました(40)


下が、当日の模様を報道したニュースのビデオです。
视频:李阳南京演讲遭抗议 与反家暴志愿者发生冲突

活動家らが配布したビラには、「李陽ボイコット宣言(41)が印刷されていました。以下がその内容です。

李陽よ 本当に悔い改めるまでは、口をつぐめ!

2011年9月、クレイジー・イングリッシュの創始者・李陽がキムを殴っていた事実が明るみに出て、李陽も暴力をふるった事実をすでに認めた。しかし、各メディアの取材を受けて李陽がしゃべったことは、弁解と逆襲に満ちていて、「反暴力の指導者になる」とまで言っており、謝罪はウソで、本当は繰り返し宣伝をしたのだ。その後、キムは離婚訴訟を起こした。しかし、李陽は、自分には「家がなく、車はなく、金はない」と言い張っている。さらに、直接脅迫をして、キムの人身の安全を脅かした。キムは北京の家を離れざるをえなかった。李陽は暴力をふるったのに何の処罰も受けずに、まだ全国各地で授業を続け、大いに「思いやり」「楽しみ」「恩に感謝すること」を語っている(42)[訳注]。李陽のDVは、身体的暴力だけでなく、精神的暴力、経済的暴力(経済的搾取と支配)などの暴力の形態も含んでいる。「人を殴るのは道理があり、DVに罪はなく」・「加害者は増長し、被害者は災いを被る」のか? 私たちには受け入れられない。李陽の誤った言行をただし、反暴力の正義を広めるために、私たちはこのたび李陽をボイコットする行動を起こす。訴えは3つある。

1.李陽が自分の行為を心からお詫びをするまで、李陽とそのカリキュラムを集団でボイコットしよう。

李陽はなお、さまざまなやり方でキムを傷つけ続け、暴力を漂白するさまざまな言論を拡散させている。誤った言行に対する深い反省と誠実な謝罪をしていないのに、彼にまた人の手本になる何らかの資格があるのか? 私たち若者は、未来の社会の中堅として、李陽の主な顧客として、最初に行動を起こす責任も能力もある。クレージー李陽にいっしょに抵抗しよう!

2.被害者に対する中傷を集団で制止し、DVに反対するコンセンサスを作りあげよう。

李陽は何度も「キムに問題がある」と強調し、一部の評論も「片手だけでは拍手することはできない」などと言っているが、このような言い方は、DVが権利侵害であり違法であるという本質を無視している。私たちはキムに対する李陽の中傷に反対し、社会の各界に対して、暴力の口実を探し求めることを共に拒絶し、DVに断固として反対するコンセンサスを作り上げるよう呼びかける。

3.できるだけ早く専門の反DV法を制定して、加害者に法律的制裁を受けさせよう。

李陽が暴力をふるった後もこのように増長している原因の一つは、法律の厳しい制裁を受けていないことにある。法律は「DVを禁止する」と言うだけでは不十分であり、法律を執行する行為を規範化して、被害者のニーズから出発して作成した、もっと的確な規定を作らなけばならない。私たちは、DVに反対する法律をできるだけ早く制定して、被害者の権利の保障が実現することを待ち望んでいる。

暴力のない家庭のために、いっさいの暴力を容認しない社会のために、私たちには、あなたが一緒に行動することが必要だ。私たちと一緒に叫ぼう: 李陽よ! 本当に悔い改めるまでは、口をつぐめ!


また、6月17日には、李陽の講演がおこなわれたすぐ近くで、抗議活動をおこなった人も加わって、夕方の7時から、次のような会合がもたれています(43)

南京ジェンダー平等サロン:李陽はなぜ謝罪しないのか

場所:南京Yoann珈琲館

スピーカー
・海味:大学生 、「李陽ボイコット」活動発起人
・石燕: 社会学博士、曉荘師範学院講師
・武嶸嶸: NGO活動家、ジェンダー平等訓練師


南京での抗議行動の準備について

新聞報道では、「李陽ボイコット活動の発起人の梁さん[さん=小姐。梁小門さん?]によると、このたびのDVボイコット活動は五月末に着手しはじめ、最初はある女性就業フォーラムで呼びかけた」(44)とのことです。また、反DVのボランティアで26歳の武さん[小姐。武嶸嶸さん?]は、「このたびの反DV抗議活動は、数名のネットユーザーが自発的に組織したものだ。その目的は、第一に李陽が公然と誤りを認めてアメリカ籍のキムに謝罪すること、第二に、もうキムにハラスメントをしないことだ」と語っています(45)

実際、5月24日、Google Groupの「ジェンダー平等唱導計画」フォーラムで、「反李陽DVアクション」が「大兔」さん[=鄭楚然さんと思われる(46)]によって提起されており、そこでは、以下のような役割分担が提案されています(47)(下のカッコ内に書いてあることは、ごく簡単な摘要です)。

●総協調(コーディネーター)――海味
 (各プロジェクトの進度の調整、時間や人員の割り振りなど。)

1 微博アクション――麦子
 (DV問題や現場のアクションの宣伝など)

2 現場でのボイコットアクション――大兔
 (3回以上やる、といったことも書かれています)

3 ボイコット文書&署名――小鉄
 (「李陽ボイコット宣言」を、女性メディアウォッチネットワークか、ジェンダーと発展ネットワークの人に書いてもらい、署名を集める)

4 オフラインアクション――鳥
 (通行人にDV反対を宣伝、パフォーマンスアートなど)

4(5の誤記?)提案の手紙、政策への関与――小門
 (DV防止法の提案。署名を婦女連合会などの政府の部門に送る。国外のDV法を収集するなど)

*法律の専門家に相談――小門
 (李陽に対する批判[攻撃]の方法や現場でのアクションが法律に引っかからないようにするなど)


6月8日には、「海味」さんからも投稿があり、「反DVグループ」という名前でおこなうことや、「6月17日」という日程、アクションの具体的な内容についても提案されています(48)

そのほか、親指を立てるポーズが提案されていたのに対しては、「下品だ」(呂頻さん)、「平和で非暴力的な方法」で理念を広めなければならない(武嶸嶸さん)という忠告があったり、「ボイコット」という言葉について、わかりにくいという意見が出るなど、いろいろ議論をして提案を修正し、練り上げていったようです(49)

以上は、ネット上で公開されている情報=オープンに話し合われたことでしかありません。もちろん内部では、より綿密な話し合いが重ねられたことでしょう。

6月 広州のクレイジー・イングリッシュの総本部に女子大学生らが抗議

6月20日には、広州市にある李陽のクレイジー・イングリッシュの総本部に、10名近い女子大学生たちがやって来て、马歇尔•卢森堡(阮胤華訳)『非暴力沟通』(華夏出版社 2009年)[マーシャル・ローゼンバーグ(Marshall B. Rosenberg)『非暴力的コミュニケーション(Nonviolent Communication: A Language of Life)』の訳。日本語訳は、小川敏子訳『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』日本経済新聞出版社 2012年]と「家暴零容忍[DVゼロトラレンス]」と書かれたTシャツと李陽への手紙を大きな封筒に入れて、クレイジー・イングリッシュの事務員に渡して、李陽本人に手渡すように頼もうとしました。

今回の活動に参加した陽さん[小陽]によると、このアクションは、主に6月17日に南京でおこなわれた抗議活動に声援を送るためのものだということです。

ところが、クレイジー・イングリッシュのスタッフは、彼女たちをたらい回しにしたあげく、「李陽先生は、毎日24時間中国の教育のために奔走している。あなたがたは何をしているのか? こんなことで社会が進歩するのか? 国家が成り立つのか?」と怒鳴るありさまでした。

彼女たちは、総本部の正門前に集まって、自分たちで編曲した「早爱老婆(好心分手の替え歌)[歌詞はここを参照]」「伤不起[歌詞はこの『女声』121期のp.14を参照]」などの歌を歌って、李陽らに抗議をしました。

下が、以上で述べた状況を映したビデオです(制作:大兎紙)。
视频:投诉合唱团-李阳请非暴力沟通-工作人员爆笑回应

彼女たちは、回りで見ていた観衆にも、宣伝ビラをまいて、李陽のDVや南京で抗議した人々に暴力をふるった事件について訴えました。

20歳の女子大学生の門さん[小門]は、広州の大学の2年生だそうですが、取材に対して、「街頭で人を殴れば、警察を呼ばれるのに、家庭の中ではそうではない。多くの人が『DVは他の人の家庭の問題だ』と考えているけれども、人権の問題である」(大意)といったことを話しました(50)

7月 李陽が山東省棗荘市の観光英語顧問になることに反対する署名・手紙

7月初め、李陽が山東省棗荘市の観光英語顧問として招聘されたこと、棗荘市のその件の責任者は「有名人にも過ちはあるのだから、一撃でやつけてしまうべきではない」などと言っていることが報道されました(51)

それに対して、Google Groupの「ジェンダー平等唱導計画」フォーラム(だけではないと思いますが)は、棗荘市政府と観光局に対して、1)李陽はDV事件で全国を騒がせており、自分の過ちを深く反省していないだけでなく、妻を脅迫するなど、社会的イメージが非常に悪く、そうした者を招聘することは都市のイメージにとってマイナスになる、2)教師は知らず知らずのうちにその思想を学生に伝えるので、サービスの態度に影響する、3)他の暴力的傾向がある夫に良くない手本を示すことになる、だから、李陽は解雇して、彼がDVについて深く反省して、誠実なお詫びをするまでは再び招聘しないように訴える署名を集めました(52)

また、6月17日に李陽に暴力を振るわれた人々も、李陽の招聘に反対する手紙を出しました(53)

8月 第3回法廷・裁判所前でも若い女性たちが抗議・宣伝活動

8月10日、離婚裁判の第3回の審理がありました。

メディアの報道によると、この日は、まずキムが法廷にやってきましたが、彼女は10人ほどの若い女性に取り囲まれていました。キムは、「彼女たちは、反DVのボランティアです。声援を送りに来てくれました」と言いました。彼女たちは、あたかもDVに遭って顔を赤く腫らしたかのような化粧をしており、7人は、背中に、それぞれ、「家」「庭」「暴」「力」「零」「容」「忍」(DVゼロトラレンス)という1文字ずつを貼りつけた黒いTシャツを着ていました。彼女たちは、さらに、「DV[家暴]はいっさい許してはならない――誰でも次のDVの被害者になりうる」と書かれた横断幕を広げました。また、4メートル余りの長さの「反対DV 支持Kim 推進法治」というスローガンが書いてある巻物には、1200人あまりの署名が書かれており、彼女たちはそれを広げてみんなに見せました。彼女たちは、キムには、その1200人あまりの署名が付いた裁判官宛ての手紙を手渡し、裁判官に渡すように頼みました(54)

そこに、李陽がやって来て、「こんな画策をするな。裁判は裁判だ、意味はない」と言いました。さらに、またもや「私はDVはやっていない。この言葉は私には当てはまらない」と言い、キムとの間にたしかに「衝突」はあったが、「DV(家暴)にはあたらない」と述べました。そして、「私は自分のイメージを犠牲にしても、勇敢に反面教師になって、DV反対を宣伝している。けれども、私は自分にDVの行為があったとは考えない」と言いました(55)

ボランティアたちが、李陽に対して、「なぜ、あなたはキムを殴ったのに、それをDVだとは認めないのか?」と質問すると、李陽は、キムとの間に「肢体の衝突」はあったことを認めつつも、「あなたは幼稚すぎる。あなたの父母は言い争いをしなかったのか?」、「あなたは中国人か? 子どもの時から両親はあなたを一度も殴らなかったのか?」と述べました(56)

キムと李陽が法廷に入ると、ボランティアたちは裁判所の門の前で、踊りを踊りながら「傷不起(Violence is unbearable)」などの歌を歌いました。当日の報道によると、この活動の参加者は、ネット上で自発的に組織したボランティアで、キムの知り合いではなく、DV加害者を告発し、被害者に声援を送り、関係機関にDVの立法と法律執行を推進するために来たと語っています(57)。梁小門さんは、「このアクションは、彼女のためであり、すべてのその他のDV被害者のためでもある」と語りました(58)

以上の状況についての運動の側(ボランティア)自身が記録した動画は、下です(女声 womenvoice)。
视频:李阳案开庭 志愿者高唱伤不起」(中国語字幕[一部のみ])
视频:李阳案开庭 志愿者高唱伤不起」(英語字幕[全編])。

署名の文面は、以下のとおりです(署名の呼びかけのページより)(59)

尊敬する裁判官:

こんにちは!(以下、「2011年9月、クレイジー・イングリッシュの創始者・李陽が」~「李陽のDVは、身体的暴力だけでなく、経済的暴力(経済的搾取と支配)などの暴力の形態も含んでいる」までは、「李陽ボイコット宣言」とほぼ同文です。ただし、下の2点が新たに指摘されています。
・李陽が、「財産を譲渡している[隠蔽している]」こと
・李陽が「山東省棗荘市の観光英語顧問として招聘されてさえいる」こと)

現在すでに847名(署名は不断に更新中)[注:提出時には1200名あまりになっていたことは上述のとおりです]のボランティアが、李陽に自分のDV行為の責任を取らせることを支持する署名をしている。裁判官がこの事件を裁決するとき、李陽のDVという犯罪の事実、および民衆のDV反対についての関心を考慮してくださるようお願いする。

私たちは法律が正義を広め、暴力をふるう者にしかるべき懲罰を受けさせることができると信じている。私たちは裁判官に共同で署名した手紙をお渡しするので、次の点を考慮していだたきたい。
1.裁判所の判決では、李陽のDVという情状を認定すること。
2.李陽は有責者の側として、財産の分割と子どもの養育の問題において、相応の責任を取ること。

一群の反DVボランティア
2012年8月10日


当日は、DV反対ネットワークの馮媛さんもやって来て、「なぜ多くのDV被害者の女性は立ち上がれないのか? それは、彼女たちが家庭内のいざこざを外に出したくないからではなく、関係機関・女性団体が追いついていなくて、彼女たちを援助できないからだ。私たちはこの面の立法と執法をできるだけ早く整備しなければならない」と述べました(60)

8月 第3回法廷――財産分割・養育権についての議論が具体化、李陽はまだDVを否認

財産分割について

李陽側の弁護士は、李陽とキムの婚姻は2010年7月に中国で婚姻登記をしたときに始まったけれども、李陽の大部分の財産は2000年と2003年に取得したものなので、大半の財産は、結婚前から持っていた財産(婚前財産)だと主張しました。

それに対して、キム側の弁護士は、両者の婚姻の起算点は、2010年7月に中国で婚姻登記をしたときでも、2005年4月にアメリカでアメリカの結婚証を受け取った時でもなく、2000年に同居を開始したときであると主張しました。その理由は、婚姻法の関連の規定によると、婚姻関係の効力は、双方が婚姻法に規定された婚姻の実質的要件を満たした時から始まるとされているからだと言います(61)

第2回法廷で明らかになったように、李陽は合計23の不動産を持っていましたが、その多くを売り払って、現在彼の名義になっているのは8か所だけでした。

そのほか株の問題もあったようですが、李陽の会社の株主の権利の収益を調べるのは非常に大変で、時間がかかりすぎるし、キムは、これ以上裁判を長引かせたくないので、そちらの面の権利については、とりあえず放棄しました。また、不動産についても、8か所についてだけを要求することにしました。ただし、北京の家は2007年に李陽が他の人に転売したので、その賠償金180万元あまりも要求しました。また、個人の貯金については、400万元余り、さらに、精神的損害賠償5万元を追加しました(62)

養育権・養育費について

子どもの養育権に関しては、李陽は、「子どもは3人とも中国が好きで、北京で生活することを望んでいる」と述べました。けれど、キムは、3人の子どもは「父親が家に帰ってくるのを怖がっている」と言いました(63)。もっとも、李陽のほうは、「私も女児たちと電話したばかりだが、彼女たちは『愛している。会いたい。いつ会えるのか』と言っていた」と話しています(64)

ただし、李陽も、「離婚後、かたき同士のようにならずに、双方が子どもの教育と成長について一緒に相談したい」と述べており(65)、キムも「子どもには父母の愛が必要だから、父親と子どものコミュニケーションは保持できるよう望んでいる」と語っています(66)

養育費の面では進展がありました。李陽は当初は養育費の支払いを拒否していたので、3月の法廷後に、キムが、李陽に子どもの学費の30万元を支払わせるように裁判所に申請したところ、7月に裁判所がそれを認めたため、李陽はすでに30万元を裁判所に収めたとのことです(67)

李陽のDVに関する認識

李陽は、今回の事件について、「実際はこれは家庭の小事なのに、私の身に起きために、比較的大きなことになった」と述べました。また、「過去に発生したことをずっと追及するのは正しいのか? 愚昧ではないのか?」と言い、記者がこのことを繰り返しぐだぐだ言っていると述べて、「中国の智慧がない」と批判したりしました(68)。この点の認識は本当に相変わらずです。

●おわりに

裁判支援にも、若い一般の女性のアクション

今回の李陽のDV問題に対しても、最初に見たように、NGO諸団体はマスコミに対するアピールを出したり、シンポジウムを開いたりしています。

しかし、それだけでなく、今年になってからは、他の問題についても行われてきたように、女子大学生をはじめとした若い女性たちが現場でパフォーマンスをすることを通じて主張を訴えるアクションが、さまざまな場面でおこなわれました。『女声』誌は、この点について、「中国のDV反対の民間行動は、すでにこれらの若者の直接行動によって、新たなページを開いた」と述べています(69)

また、中国では、従来、少なくとも女性問題に関しては、日本でおこわれてきたような、一般の人々が参加する裁判支援運動というのはなかったように思います。

といっても、もちろんDVやセクハラなどの被害者の裁判に対する支援そのものがおこなわれてこなかったわけではありません。たとえば、NGOの北京大学女性法律研究・サービスセンターは、従来から、被害者が裁判を起こす際に、センターのメンバーである弁護士が代理人になったり、事件をテーマにしたシンポジウムを開催したり、政策的な提言をしたりする活動をしてきました。ただ、こうした支援活動は、主に弁護士や学者、ジャーナリストといった専門家によって担われてきたように思います。

一般の人々が裁判について署名を集め、チラシをまき、横断幕やプラカードを掲げ、歌や踊りで訴えをするということは、中国における裁判支援のあり方としても新しいと言えるのではないでしょうか?

もちろん今回の事件の場合、李陽が有名人であり、マスコミが事件をそれなりに大きく取り上げているという特殊性は指摘できるかもしれません。また、現場でアクションをおこなう若い女性の人数はだいたい10人程度で、多くの場合、李麦子さん、梁小門さん、鄭楚然さんといった比較的常連の人が重要な役割を果たしているという点も、ある意味では限界であろうと思います。また、ペンネームを使っている方が多いという点は、中国における運動の困難さと関係があるのかもしれません。

といっても、発起人は必ずしも常連の方々ではないように思いますし(ペンネームが多いのでこの点は十分確認できないのですが)、また、多くの方々がカメラの前に顔をさらしておられます。若い女性がイニシアを取っているという点も、日本の運動から見れば新鮮に見えます。

キム自身が果たした役割

キムは、裁判に至るまでも、裁判においても、果敢に闘いました。しかも、キムは「私の生活とクレイジー・イングリッシュは同じところにありました。私の友人の多くは私の同僚でもありました。彼らは私を助けてはくれませんでした」(70)とあるように、必ずも条件には恵まれていなかったと思います。

この事件は、本ブログでも紹介した「『第4回(2011年)セックス/ジェンダー事件批評』」で「10大事件」の一つに選ばれていますが、そのタイトルが「李陽の妻が反家庭内暴力のために立ち上がった」であることを見てもわかるように、キム本人の意思と力というものが果たした役割も大きかったと言えます。

「クレイジー・イングリッシュ」と李陽のDV

「クレイジー・イングリッシュ」の特徴としてよく挙げられるのは、英語を「金もうけの手段」として捉えていること、「愛国」的なことです。たとえば日本の新聞記事も、李陽が「英語を学ぶ目的はただ一つ、金もうけだ」と叫ぶと、聴衆が「メイク・マネー」と叫ぶなど、英語をテコにして豊かさを追求している状況に注目していますし(71)、李陽が「英語は金もうけの道具だ。たった26文字の劣った言語だ。漢字のある中国語にかなうわけないだろ」とか、「英語を学んで国を豊かにすることは愛国的行為」と言って「愛国心」を鼓舞していることにも注目しています(72)

李陽のDVに抗議する人々の中には、こうした「クレイジー・イングリッシュ」のあり方に批判の目を向けている人もいます。6月20日の広州での抗議行動に参加した「STEPHENIE」さんは、「英語の勉強は金もうけのため」というのは、「些か人間性を喪失した、あるいは人間性の弱点を大きく利用した精神的方法」であり、「私たちが今日のアクションで反対しなければならなかった根本的な思惟である」と述べています(73)。キム自身も、「私は彼が英語を教える時に、『英語を身につければ、私たちは日本人・アメリカ人を打ち負かせる』と言うことには絶対に反対です。これは、自卑的な人の心理です。」(74)と言っています。また、「中国」を強調することによって、DVを正当化しようとする発言も目につきます(日本にも、バンクーバーでDVで逮捕されて、「女房を家で殴るのは日本の文化だ」と言ったと報道された総領事がいましたが(75))。

もちろん李陽の英語学習法やその思想と彼のDVとを短絡的に結びつけることは危険です。しかし、その一方で、対等なコミュニケーションよりも、競争や勝利に価値を置く「男性」的な思考法という点において、何らかのつながりを見出すことも可能ではないか、という気もいたします。

(1)「“疯狂英语”李阳被指家暴」『女声』第94期(2011.8.29-9.4)[word]。
(2)以上は、「家暴终道歉 李阳能否自救」『女声』第95期(2011.9.5-9.12)[word]。
(3)李阳外籍妻曝家暴细节:抓我头猛击地板超10次!」新華網2011年9月7日(来源:広州日報)、「发微博向公众道歉,正在接受心理咨询 李阳:通过我的事,让更多人为家暴反省」(『中国婦女報』2011年9月13日)など。
(4)この事件に関する初期の民間女性団体の対応をまとめた文として、「民间妇女组织回应李阳家暴事件」『女声』第100期(2011.10.17-.11.6)
(5)「“洗白式访谈”当止――郭美美与李阳之例」『女声』第96期(2011.9.13-9.18)[word]。
(6)疯狂英语创始人李阳自称系家庭暴力反面教材」新浪網2011年9月12日(来源:新京報)。
(7)劉昌海「李阳的道歉就四个字:家暴有理」『新京報』2011年9月13日。
(8)「“洗白式访谈”当止――郭美美与李阳之例」『女声』第96期(2011.9.13-9.18)[word]。
(9)同上。
(10)「李阳继续危机公关露出真面目」『女声』第97期(2011.9.19-9.25)[word]。
(11)「李阳,闭嘴!――抗议媒体的太少了」『女声』第98期(2011.9.26—10.9)[word]。
(12)李阳拿家庭和女儿做实验品 疯狂还是悲哀」新浪女性2011年9月26日(来源:荊楚網)。
(13)『クレイジー英語』のカリスマ教師李陽 DV事件の釈明で四面楚歌?」Insight China2011年11月30日。
(14)为谁追问如何担当――民间妇女群体就李阳家暴事件致媒体」社会性別与発展在中国サイト2011年10月19日。
(15)「Kim为何疏远大众媒体」『女声』第101期[word]。
(16)李阳妻子:中国法律没能保护我」網易新聞2012年5月10日。
(17)「李阳继续危机公关露出真面目」『女声』第97期(2011.9.19-9.25)[word]。
(18)「Kim为何疏远大众媒体」『女声』第101期[word]。
(19)「多视角看“李阳家暴案”」『妇女观察电子月报』第77期
(20)丽娜华「李阳:请闭嘴!」『中国婦女報』2011年10月18日。
(21)李阳妻子再发家暴照片  称绝不懦弱将抗争到底」人民網2011年11月8日。
(22)李阳离婚案本周四开庭」『新京報』2011年12月12日。
(23)以上は、「李阳妻子看到的婚姻 经历家暴,冷酷的离婚诉讼,媒体的追逐」『時代周報』161期(2011年12月29日)。
(24)李阳离婚案开庭 夫妻庭外争执遭媒体围观」中国新聞網2011年12月15日(来源:人民網)。
(25)李阳妻子起诉离婚案开庭 财产问题成焦点 」『中国婦女報』2011年12月16日。
(26)李阳被曝有23套房数百万存款 与妻离婚称无财产」騰訊網2012年3月23日(来源:北京晨報)。
(27)(25)および「李阳妻子谈反家暴遭经济封锁用女儿学费请律师」新華網2011年11月25日(来源:北京晨報)。
(28)Kim与家政工谈儿童教育和家庭暴力」女声網2012年10月8日。
(29)李阳妻子看到的婚姻 经历家暴,冷酷的离婚诉讼,媒体的追逐」『時代周報』161期(2011年12月29日)、「李阳妻子谈反家暴遭经济封锁用女儿学费请律师」新華網2011年11月25日(来源:北京晨報)。
(30)李阳妻子:中国法律没能保护我」網易新聞2012年5月10日。
(31)李阳妻子看到的婚姻 经历家暴,冷酷的离婚诉讼,媒体的追逐」『時代周報』161期(2011年12月29日)。
(32)李阳离婚案再次开庭 律师始终否认李阳进行家暴」中国広播網2012年3月22日。
(33)以上は、「二次开庭审理 离婚无争议  李阳离婚案家庭暴力认定存分歧 」『中国婦女報』2012年3月23日。
(34)李阳妻子:中国法律没能保护我」網易新聞2012年5月10日。
(35)二次开庭审理 离婚无争议  李阳离婚案家庭暴力认定存分歧 」『中国婦女報』2012年3月23日。
(36)李阳离婚案再次开庭 律师始终否认李阳进行家暴」中国広播網2012年3月22日。
(37)李阳被曝有23套房数百万存款 与妻离婚称无财产」騰訊網2012年3月23日(来源:北京晨報)。第2回目の法廷については、他にも、「李阳离婚案明日重审 家暴、财产将再成焦点」騰訊網2012年3月21日、「李阳家暴致离婚案再开庭 主要审理孩子抚养权问题」中国広播網2012年3月22日などの記事が出ています。
(38)李阳拿"枪杀"恐吓妻子 Kim坚强称不会做牺牲品 」中国新聞網2012年4月13日(来源:海峡導報)。
(39)「李阳案开庭志愿者“快闪”《伤不起》」『女声』第121期(2012.8.6-8.12) [word]。
(40)以上は、「李阳南京演讲遭抗议 发飙:把他们牌子砸了」人民網江蘇視窗2012年6月17日、「李阳南京演讲遭反家暴者抗议险挨打」新浪網2012年6月18日(来源:現代快報)、「李阳南京演讲 反家暴志愿者举牌子要求其道歉」中国新聞網2012年6月18日(来源:法制晩報)、「“疯狂英语”李阳演讲遇尴尬 反家暴团体举牌踢馆」中国新聞網2012年6月18日(来源:中国江蘇網)、「李阳南京演讲遭遇反家暴抗议 双方起冲突险动手」華訊財経2012年6月18日(来源:東方衛報)、「讲演遭杯葛,李阳更疯狂」『女声』第115期(2012.6.11-.6.17)
(41)杯葛李阳宣言」社会性別与発展在中国サイト2012年6月19日(来源:邮件组)。ただし、「集体抵制李阳宣言 征集签名」(Google Groupe“青年女权主义行动派”2012年6月17日→女権在線サイトにも転載:「李阳:在你真正悔改之前,闭嘴! 」では、「ボイコット(集団抵抗)宣言[杯葛(集体抵制)宣言]」というタイトルになっています。
(42)『読売新聞』によると、李陽の講演では、終盤になると、李陽が「君たちが毎日成長するにつれ、両親は老いていく」、「英語がどんなに難しくても、両親が君たちを育てることより困難ではない」という話をして、生徒たちにも両親・教師への感謝の言葉を述べさせて、生徒が次々に号泣する――という光景が繰り広げられるそうです。こうしたことは、教職員・保護者の評判も良く、共産主義理論の権威・北京大・鄧小平理論研究センターの趙存生主任も「李氏が説く親に仕える道は、中国の伝統的な道徳教育の中で非常に重要な部分だ。親孝行がないと愛国も難しい」と評価している、とのことです(「[中国疾走]五輪の陰で(1) 不安の時代、神々復活」『読売新聞』2008年1月29日東京朝刊)。
(43)南京性别平等沙龙:李阳为什么要道歉」社会性別与発展在中国サイト2012年6月14日(来源:邮件组)。
(44)李阳南京演讲遭抗议 发飙:把他们牌子砸了」人民網江蘇視窗2012年6月17日。
(45)李阳南京演讲遭遇反家暴抗议 双方起冲突险动手」華訊財経2012年6月18日(来源:東方衛報)。
(46)6月20日に広州のクレイジー・イングリッシュ総本部でのアクションに参加した人の一文に「大兔鄭楚然」という署名があります(「【志愿者大兔】为什么我们要给李阳送本书」反家暴在行动ブログ2012年6月21日)。
(47)大兔「反李阳家暴行动」Google Groups性别平等倡导计划2012年5月24日。
(48)海味「欢迎大家加入反李阳家暴行动」Google Groups性别平等倡导计划2012年6月8日。
(49)上記の2件の提案に対するレスポンス参照。そのほか、6月8日の海味さんの投稿では、「李陽のクレイジーDV訓練キャンプにようこそ」というスローガンがあったのですが、私が見たかぎりでは、当日は用いられていないようです。このスローガンは、李陽の英語合宿を皮肉ったものだと思いますが、参加者の気持ちに配慮して用いないようにしたのであろうと思います。
(50)以上は、「志愿者在李阳疯狂英语总部,高唱自编歌曲」網易女人2012年6月20日、「广州反家暴学生送书 李阳为其唱爱老婆歌」網易女人2012年6月20日、「"拇指妹"向李阳"送大礼" 呼吁反对家庭暴力」大洋網2012年6月20日、「广州拇指妹“送礼”李阳 劝其不要再施家暴」南方網2012年6月21日(来源: 羊城晚报网络版)。なお、このアクションに参加した女性たちは、広州の「反家暴在行動」ブログなどに、いくつか文章を書いています。以下で、おおよそ、どんなような内容が書かれているかをメモしておきました。
 ・「【来自亲历行动的志愿者刘亭亭】给学英语的孩子们(写得自己泪流了...)」反家暴在行动ブログ2012年6月20日――休憩時間に出てきた英語を習っている子どもたちが、李陽のDVについて「知っているけど、私と何の関係があるの?」「ずっと以前のことなのに、まだ問題にして、何をするの?」と言っていたので、その子どもたちに語りかけるようにして書いた文章。
 ・「【志愿者大兔】为什么我们要给李阳送本书」反家暴在行动ブログ2012年6月21日――李陽は教師であるのに、DVをやり、李陽に抗議する人々に暴力的対応をしているから、李陽に『非暴力的コミュニケーション』という本を送ったと述べる。また、クレイジー・イングリッシュのスタッフの発言に対しては、「社会の進歩は経済・教育の発展だけを指すのではない」と指摘。
 ・「【亲历志愿者】来自STEPHENIE的感想:李阳家暴」反家暴在行动ブログ2012年6月21日――「英語を学ぶのは金のため」という李陽の教育方法に遡って批判する。クレイジー・イングリッシュのスタッフの発言を批判。
 ・「我为何参加针对李阳的反家暴投诉合唱团活动」乌字加一点的博客2012年6月21日――李陽のDV問題は、世論の圧力によってきちんと解決されると思っていたけれども、その後李陽はキムを脅したり、DV反対活動家に暴力的振る舞いをしているのに、李陽を支持する人の目には、DVは取るに足りない問題だと思われている。ここには民衆のDVに対する認識不足がある。だから、私は声を上げた。
(51)“疯狂英语”李阳受聘旅游顾问引争议」新華網2012年7月3日(来源:人民日报海外版)、「李阳受聘枣庄旅游顾问 官员称有错不能一棍打死 」中国新聞網2012年7月3日(来源:人民日报海外版)。
(52)致山东省枣庄市旅游发展委员会的建议信」Google Groups性别平等倡导计划2012年7月4日。
(53)大家行动起来! 致信枣庄市政府、旅发委,反对其聘用李阳做旅游顾问」反対家庭暴力網2012年7月5日。
(54)李阳离婚案"三审" 反家暴志愿者高唱"伤不起" 」人民網2012年8月10日(来源:北京晩報)、「李阳离婚案再开庭 志愿者现场打标语反家暴」騰訊娯楽2012年8月10日、「李阳离婚案三审 志愿者庭外打条幅声援李阳妻子」人民網2012年8月11日(来源:新京報)。
(55)李阳否认家暴 妻子要分割8套房加5万赔偿」秀美網2012年8月12日。
(56)同上および「李阳离婚案第三次开庭,否认自己是施暴者,反家暴专家指出――李阳家暴事件是一个很好的教材 」『中国婦女報』2012年8月13日。
(57)李阳否认家暴 妻子要分割8套房加5万赔偿」秀美網2012年8月12日。
(58)「李阳案开庭志愿者“快闪”《伤不起》」『女声』第121期(2012.8.6-8.12) [word]。
(59)KIm诉李阳家暴离婚案开庭倒计时!」反対家庭暴力網2012年8月9日、「【志愿者致信李阳离婚案法官 反家暴签名收集最后一天】(付签名地址)目前已有847人签名!」反対家庭暴力網2012年8月9日。
(60)李阳离婚案"三审" 反家暴志愿者高唱"伤不起" 」人民網2012年8月10日(来源:北京晩報)。
(61)李阳离婚案三审 志愿者庭外打条幅声援李阳妻子」人民網2012年8月11日(来源:新京報)、「李阳离婚案第三次开庭,否认自己是施暴者,反家暴专家指出――李阳家暴事件是一个很好的教材 」『中国婦女報』2012年8月13日。
(62)李阳否认家暴 妻子要分割8套房加5万赔偿」秀美網2012年8月12日。
(63)李阳离婚案第三次开庭,否认自己是施暴者,反家暴专家指出――李阳家暴事件是一个很好的教材 」『中国婦女報』2012年8月13日。
(64)李阳离婚案第三次开庭 KIM追偿492万存款」人民網2012年8月12日(来源:北京晨報)。
(65)同上。
(66)李阳离婚案第三次开庭,否认自己是施暴者,反家暴专家指出――李阳家暴事件是一个很好的教材 」『中国婦女報』2012年8月13日。
(67)李阳离婚案"三审" 反家暴志愿者高唱"伤不起" 」人民網2012年8月10日(来源:北京晩報)。
(68)李阳离婚案第三次开庭,否认自己是施暴者,反家暴专家指出――李阳家暴事件是一个很好的教材 」『中国婦女報』2012年8月13日。
(69)「李阳案开庭志愿者“快闪”《伤不起》」『女声』第121期(2012.8.6-8.12) [word]。
(70)李阳妻子:中国法律没能保护我」網易新聞2012年5月10日。
(71)「豊かさと英語力と」『朝日新聞』2000年4月15日朝刊。
(72)「(英語:1)中国、国を挙げて教育 話せばカネになる」『朝日新聞』2005年6月7日朝刊。
(73)我为何参加针对李阳的反家暴投诉合唱团活动」乌字加一点的博客2012年6月21日。
(74)李阳妻子:中国法律没能保护我」網易新聞2012年5月10日。
(75)下荒地 修二 カナダ『DVは日本の文化』発言???」なんだかなぁ2011年12月18日。

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