2017-08

インターネットのフェミニズム組織の試み

 前回の記事でも述べたように、今年3月28日と29日、「女性/ジェンダー学学科発展ネットワーク」の第1回学術研究討論会が武漢で開催されました。

 この会で発表された論文について、蔡虹さん(華中科学技術大学ジェンダー研究センター)は、「学科建設研究」、「人文科学研究」(歴史学、文学など)、「現実問題研究」(婚姻家族問題、産育問題、農村問題、就業問題)、「文化研究」の4つに分けて、その概要を報告しています(1)

 蔡虹さんの分類では「学科建設研究」に分類されていますが、陳亜亜さん(上海社会科学院文学研究所、写真ブログ)の報告は、フェミニズムのインターネット活用を取り上げた異色のものでした。

 その報告は、「インターネットのフェミニズム組織の発展の潜在力と障害──『女権在線[フェミニズム・オンラインの意]』サイトを例にして」(2)というもので、陳さんらが創設した「女権在線」サイトについて述べたものです。当日のパワーポイントもアップされていますので(網絡女性主義組織発展潜力和阻害以──“女権在線”網站為例)、その内容をかいつまんで見てみます。

 まず、陳さんは、「女権在線」サイトを創設した背景として、以下の2点を挙げています。

 国内外のフェミニズムの発展状況
 ・ベル・フックス:「20世紀の70年代末に比較的大きな転換があり、女性研究は次第に大学の学問分野として受け入れられるようになった(……)女性研究の教室が、何の拘束もないコンシャスネス・レイジンググループの活動に取って代わった。(……)フェミニズム運動は大衆的基礎の潜在能力を失った。」(3)
 ・中国でも「20世紀の90年代以来、女性研究の学術化の趨勢が相対的に明確になってきた。このほかに若干の関連のNGO組織がある。」

 インターネット空間の中のフェミニズム
 「現在のネット上のフェミニズムに関する討論は、大部分はハラバラで、こまごましており、マイナスの情報が少なくない。」(現在の中国のフェミニズムサイトについては、陳さんはすでに昨年の論文で詳細に検討し、さまざまな問題点を指摘しています(4))。

 以上のような情況に対して、「女性意識の向上を目的とし、一定の組織的構造を持ち、主にインターネットを通じて活動をする民間のフェミニズム組織」として、「女権在線」サイトや「中国民間女権網」(中国民間女権工作室)が登場したというわけです。

 陳さんは、「女権在線」(2006年2月創設。前身の「女権中国」は2005年1月創設)について、以下のように述べています。

サイトの趣旨と内容
 ・趣旨
 「フェミニズム関連の学術資料と情報を収集・整理・発表し、(……)学者・活動家・関心がある人に、交流の場と資源情報サービスを提供し、同時に弱者集団の権益を擁護し勝ち取る行動に力を入れて、フェミニズムの学術的成果を実践に導入する」
 ・現在のコーナー
 学術園地(学術研究)、天南地北(ニュース)、信息交流(会議やフォーラムのお知らせ)、専題行動(サイトが参加している活動)、学人専欄(個人のコーナー)、lesbian、酷児文化(クィア文化)、観点争鳴(論争)、極速心霊(心理的な問題)、辺縁話題(弱者集団[農村女性、セックスワーカーなど])、漫歩人生(生活雑感)。

サイトの2つの特徴
 1.独立・自由・開放
 いかなる組織の資金援助も受けたことがない。ユーザー参加の面で、サイトは制限を設けず、ユーザーは評論や投稿、フォーラムでの発言、メールなどの各種の方式で討論ができ[ただし、掲示板への書き込みなどを除いて、一般のユーザーによる文章は、管理者が審査した後にサイトに掲載するようです(5)]、個人コーナーの開設も申請できる。
 2.弱者集団に重きを置く
 主流のフェミニズム組織が軽視している性の弱者集団、たとえば同性愛(とくに女性同性愛)に多くの関心を払っており、そのために、サイトに「lesbian」「クィア文化」の2つのコーナーを置いている。

多元的な、対話型の方式
 ・Email:メーリングリストを設置する予定である。
 ・チャットグループ:2008年にサイトにmsn群とqq群[注:私はよく知らないのですが、両者とも、参加者を限定したソーシャル・ネットワーキング・サービスだと思います]を設置した。
 ・フォーラム:2008年にフォーラム[公開の掲示板]を増設した。
 ・オフラインのサロン:2009年1月、公開のサロンを開催した(討論のテーマは、「女性の感情と財産管理」)。

ネットの社会的集団の主な特徴
 1.メンバーの所在区域が分散しているので、組織構造がバーチャル化する。→長所:空間的な制限を受けずに、どのレベルのユーザーでも、直接、中心的な管理者と交流できる。
 2.メンバーの流動性が大きいので、組織構造が弾力的になる。→弊害:たとえば、管理者の任命が慌ただしすぎて、いくらかの協力関係が了解不十分なままに不用意に進行して、組織の発展にマイナスの効果をもたらす可能性がある。

ネット上のフェミニズム組織の発展の見通し
 ・「筆者が考えるに、中国のフェミニズム運動は、国外とは逆に、『学術を行動に転化する』という路線を歩むべきである。この過程は、大量の普通の民衆の参与が必要であり、それゆえ公衆の意識を高めなければならない。」
 ・「女権在線は、フェミニズムの理論と観点を宣伝し、ユーザーに交流の場を提供するなどの方式をつうじて、中産階層のフェミニズム意識をだんだんと引き上げることに努力する。それによって、学界の精鋭の理念と観点を広げて、公衆に対して影響を与えることができるかもしれない」

女権在線の発展計画
 1.テーマを決めた討論を強化する
 2.オフラインのサロンの活動を強化する
 3.関連するメディアとの連係を強化する
 4.関連する組織との協力を強化する

現在の発展の障害
 1.中核的凝集力が欠乏していて、関心がある点が分散している
 ネットユーザーの差異が大きく、みんなが関心を持つ話題を見つけるのが容易でない(6)。→取ろうとしている方法:一つか二つの話題に焦点を当てる。
 2.資金と資源のサポートが欠乏している
 組織をまだ登録せず、また、広告を設置せず、経営プロジェクトもやっていないために、資金の出所と活動の展開の上で、一定の困難が存在しており、現在は、サイトの基本的運営を維持することしかできない。→考慮している方向:身分を合法化し、プロジェクトを申請することによって資金援助を獲得しなければならないか? あるいは公告を設置するなどの方式で、一定の活動経費を集めるか?

 陳さんの報告は以上のような内容です。

 私は、まず、現在、以下のような点が課題になっているということは、日本(や欧米?)とも共通しているように思います。
 ・学問研究と社会や運動との結びつきが課題になっていること。インターネットの世界ではフェミニズムが弱いので、フェミニズムの発信力を高める必要があること。
 ・ネット上での双方向的な対話・交流。
 ・女性の中の弱者集団、たとえばセクシュアル・マイノリティやセックスワーカーと既成のフェミニズム組織(サイト)との連係(日本の方がいくらかは状況は良いように思いますが)。

 もちろん、中国の場合、日本や欧米よりずっと困難な問題もあると思います。 
 ・中国では社会的な運動することが政治的に難しい。そのため、中国では「まず学問の世界で女性研究に市民権を得させる」ことに力が入れられたのであろうし、現在も、フェミニズムは研究者以外への広がりが(日本に比べても)乏しいようだ。さらに、陳さんが、「公衆(中産階級)の意識を高める」とか、「学界のエリートの関連する理念と観点を広げて、公衆に対して影響を与える」と述べるなど、公衆への啓蒙のようなことを重視しているのも、公衆レベルでの自律的な社会運動が困難であることと関係しているのかもしれない。
 ・中国ではネットが日本や欧米ほどには普及していない。陳さんが、性的な意味での弱者集団は重視しつつも、階層的には「中産階級」に的を絞っているのは、そうしたネットの現状とも関係があろう。

 いずれにせよ、「女権在線」の試みはユニークであり、実際、興味深い文が比較的多いので、私もぼ毎日チェックしています。日本にも、こうした特徴を持ったサイトはないように思います。ただし、陳さんが目指すところがどれほど達成されているのかは、もう少し詳しく見てみないとわかりませんが……。

 それから、陳さんの報告を読んで、私自身のブログやサイトでの発信の仕方も、もっと工夫した方がいいかもしれないと思いました。

(1)彙聚 対話 成長――婦女/社会性別学科発展網絡全国第一届学術研討会会議綜述(ワードファイル)」(2009/6/27)(婦女社会性別学学科発展網絡HP、『婦女研究論叢』2009年第3期にも収録)。
(2)「網絡女性主義」は「サイバーフェミニズム」と訳すべきかもしれませんが、一般的な用語ではないので、「ネット上のフェミニズム」と訳しました。
(3)胡克斯(沈睿訳)『激情的政治:人人都能読懂的女権主義』(金城出版社、2008年)より。原著は、bell hooks, Feminism is for Everybody: Passionate Politics(2000)。日本語訳は、ベル・フックス(堀田碧訳)『フェミニズムはみんなのもの―情熱の政治学』(新水社 2003年)(未読です)。
(4)陳亜亜さんは、論文「インターネットの力:フェミニストの境界を越えた協力の新しいルート(網絡的力量:女性主義者跨界合作的新途径)」(2008-9-8 麓山楓HP)の中で、現在のインターネット上でのフェミニストの活動の障害・不十分点として、おおむね以下のような5つの点を指摘しています。
1.数字上のギャップが依然として存在している
 女性がネットを利用する技術は、かなり大きな地域的差異が存在しており、国内の貧困地区のネット利用は、まだ普及にはほど遠い。
 フェミニズム関係のサイトの半数以上は北京にあり、その他も各大都市に分散していて、西部にはほとんどない。
 「女性/ジェンダー学学科発展ネットワーク」のネットワーク会員には、河北・内蒙古・遼寧・山東・海南・四川・貴州・チベット・甘粛・青海・寧夏などの人はいない。
2.領域の分割が露呈している
 早期に注目を集めたフェミニストは、文学・史学出身の人が多く、のちに社会学が主流になった。「女性/ジェンダー学学科発展ネットワーク」の個人会員も、専門が社会学の人が28.57%を占めており、自然科学のメンバーはほとんどいない。フェミニズムのサイトも、自然科学関係のものはほとんどない。
3.学者と大衆との溝
 フェミニズムサイトの建設・参与者の多くは都市で生活する知識女性であり、中産階級の知識女性の権益に関心を持っている。そのことの現れは、次のような点である。・参与者の多くは学生・学者か、それと関係する安定した仕事についている女性である。・討論の内容は、研究に偏重していて、実践を軽視している。・権利保護関係のサイトは、権利の保護を必要としている主体が欠けている。
 ネット上での具体的な現れは、これらのサイトの大多数はweb1.0状態(情報の送り手と受け手が固定されている状態)にとどまっていて、フォーラムを設置していないか、フォーラムがほとんど使われていないことにある。少数の普通のネットワーカーが建設した民間のサイトは、多くの人を引き付けるためにフォーラムを重視しているけれども、研究機構が設置したサイトは、多くの場合、参与者が同じ世界の人間だけで、大衆の中ではほとんど影響がない。
4.周縁と主流との遊離
 国内の主流フェミニストの視野の中では、周縁の女性集団は一貫して軽視されてきた。ここで言う周縁女性とは、主にセックスワーカーと女性同性愛者、トランスジェンダーである。一部のサイトにはセックスワーカーの情報はあるが、現在、セックスワーカーが主体になったネットワークの場はまだ出現していない。
 女性同性愛のサイトは若干状況が良く、北京の「レズビアンサロン(拉拉沙龍)」と上海の「花開く場(花開的地方)」(2005年閉鎖)などは、学界や関連機構とも繋がりがあるが、フェミニストの彼女たちに対する関心は高くない。トランスジェンダーのサイトはさらに少なく、比較的有名な「ミス夏世蓮の宿(夏世蓮小姐客棧)」は、主に性転換した姉妹のために交流の場を提供しているが、このサイトとフェミニストのサイトとの繋がりは基本的になく、同性愛者のサイトとも相対的に疎遠で、異性装者のサイトとの交流が相対的に多い。
 この2つの種類のサイトの多くはフォーラム形式が主で、情感の交流に重きを置き、あわせて情報の伝達・発表をしている。現実における彼女たちの地位の低さのために、サイトの大半は少数化する傾向を持っており、厳格な認証がなければ入れないものもあって、開放度が明らかに不足しており、分散し、互いに孤立した状態にある。
5.男性の参与の明らかな不足
 フェミニストが構築したネットワークには、男性の参与度が非常に低い。「女性/ジェンダー学学科発展ネットワーク」の個人会員の94.56%は女性で、男性よりはるかに多い。
 現在、フェミニズムと関連する男性のフォーラムは、2005年に方剛が開設した「男性解放」サロンだけであり、女性の参加者も少なくないが、現在、ほとんどほったらかしになっている。
(5)向本站提交您撰写的文章」女権在線HP
(6)陳さんは、後日にも、「[サイトに]吸引されてくる人の関心が分散しているので、実践的なプロジェクトをしようとするとき、凝集力が欠けている」(陳亜亜「武漢会議之后」2009-04-26 女権在線HP)と述べています。

女性/ジェンダー学学科発展ネットワーク第1回会員代表大会

 7月24日から26日まで、広西チワン族自治区の南寧市で、「女性/ジェンダー学学科発展ネットワーク(婦女与社会性別学学科発展網絡)」の第1回会員代表大会がおこなわれました。

 「女性/ジェンダー学学科発展ネットワーク」は、2006年8月、女性/ジェンダー学領域の大学教員や研究者によって結成され(本ブログの記事。この際にも「会員大会」が開催されていて、今回の大会との違いがどうもよくわかりませんが)、その後3年間にわたって女性/ジェンダー学の学科の建設と発展のために力を尽くしてきました。現在、同ネットワークには、テーマごとに15のサブネットワーク(子網絡)があり、会員は計1273人に達しています(ただし、団体会員が26あり、個人会員は265人です)(1)

 大会では、活動報告や財務報告がおこなわれるとともに、新しい規約も提案され(婦女/社会性別学学科発展網絡章程[ワードファイル])、審議されました(2)

役員の選出

 大会では、理事を選出し、以下の方々が理事になりました(得票順)(3)(リンクは本人のサイト・ブログ・専欄)。
〇王金玲(女、浙江省社会科学院)→理事長に
〇黄約(女、壮族、広西財経大学)→副理事長に
〇張建(女、中華女子学院)→副理事長に
〇楊国才(女、白族、雲南民族大学)
 王宏維(女、華南師範大学)
駱曉戈(女、湖南商学院)
〇趙瑩(女、東北師範大学)
 金一虹(女、南京師範大学)
 暢引婷(女、山西師範大学)
〇夏増民(男、華中科技大学)
 荒林(女、首都師範大学)
〇石紅梅(女、厦門大学)
 金花善(女、朝鮮族、延辺大学)
 沈奕斐(女、復旦大学)
柯倩婷(女、中山大学)
 黄筱娜(女、広西婦女幹部学校)
 胡曉紅(女、東北師範大学)

 理事会では、常務理事を選出し、上で〇を付けた人が常務理事になりました(4)

 常務理事会では、理事長と副理事長を選出しました。上に書いたとおり、理事長には王金玲さんが、副理事長には、黄約さんと張建さんがなりました(5)

サブ・ネットワークからの報告

 大会では、また、各サブ・ネットワークがこの一年間の活動や今後の課題、目標について報告し、お互いの交流をおこないました。

 当日の報告の内容はわかりませんが、各サブ・ネットワークは、大会の前に報告書を提出しています。たとえば、「女性・ジェンダー史サブ・ネットワーク」の報告書を見ると、以下のような問題に力を入れてきたことが述べられています(6)
 1.女性史研究の本土化に関する問題……単に西洋のフェミニズム理論を導入するだけではなく、中国本土のジェンダー文化・制度を研究することが必要である。杜芳琴・金一虹、宋少鵬、白路らは、いま、中国本土の「家父長制(父権制)」の発生および運行のメカニズムを研究している。
 2.女性史研究の理論化に関する問題……具体的研究の中から理論的な抽象をしたり、その理論によって人文・社会科学全体に影響を与えたりするのは難しいが、この点では、全国の大学の学報の編集者が、その条件を利用して、女性学や女性史の学際性を実現していくことができる。
 3.女性史研究の現実性に関する問題……歴史研究を現実の課題とを結び付けていくことが必要である。最近、杜芳琴・梁軍・金一虹らは、研究の過程で、中国の「家父長制(父権制)」の理論や運行のメカニズムを、計画生育の推進と農村の伝統的な「代々血統を継ぐ」父権制観念の改変と結びつけている。

 他にも、民族学、社会学、メディア、教育などのサブネットワークから報告書が出ています。また、このネットワークは、女性/ジェンダー学の学科の建設のために、課程の建設、教員の研修、教材の作成などに力を入れていますから、そうしたテーマのサブネットワークもあります。おそらく、当日も、そうしたさまざまな報告をもとに議論がなされたのではないでしょうか?

 今回の大会は、「女性/ジェンダー学の研究発表の場」という色彩は薄いものでした。それは、一つには、このネットワークが純粋の「学会」というより、学科の建設に重点を置いているからでしょうが、一番の原因は、この3月に、武漢で、すでにネットワークの「第1回全国学術研究討論会」(7)がおこなわれていたからだと思います。この研究討論会での報告には興味深いものがありましたので、次回、ご紹介します。

(1)網絡第一届会員代表大会在南寧隆重召開」(2009/7/24)婦女社会性別学学科発展網絡HP、「婦女社会性別学学科発展網絡代表大会召開」(2009/7/30)中山大学性別教育論壇HP、「婦女/社会性別学科発展網絡代表大会在南寧召開」『中国婦女報』2009年7月29日。
(2)大会審議協委会提交的工作報告和財務報告」(2009/7/25)婦女社会性別学学科発展網絡HP
(3)網絡第一届会員代表大会第三号公告(2009年7月28日)」(2009/8/14)婦女社会性別学学科発展網絡HP
(4)網絡第一届理事会第一号公告(2009年7月28日)」(2009/8/14)婦女社会性別学学科発展網絡HP
(5)網絡第一届常務理事会第一号公告(2009年7月28日)」(2009/8/14)婦女社会性別学学科発展網絡HP
(6)中国婦女/社会性別学学科発展網絡子網絡申報書(ワードファイル)」婦女社会性別学学科発展網絡HP
(7)学科発展網絡第一届全国学術研討会在武漢熱烈召開!」(2009/3/29)(婦女社会性別学学科発展網絡HP)。蔡虹「彙聚 対話 成長――婦女/社会性別学科発展網絡全国第一届学術研討会会議綜述(ワードファイル)」(2009/6/27)(婦女社会性別学学科発展網絡HP→のちに『婦女研究論叢』2009年第3期に収録)を読むと、3月の研究討論会は、学科建設の研究も一つの柱にはなっていますが、多くの報告は、一般的な女性学・ジェンダー学の研究だったことがわかります。なお、参加者の感想は、「本網絡第一届全国学術研討会参会者体集錦(一)」(2009/5/27)、「(二)」(2009/5/29)、「(三)」(2009/6/3)(いずれも婦女社会性別学学科発展網絡HP)参照。

女性・ジェンダー研究の新しいサイト、資料の新しいアップロード

 1993年1月に設立された「天津師範大学女性研究センター(天津師範大学婦女研究中心)」は、中国の大学に設立された女性(学)研究センターとしては、比較的古いものの一つです(なお、一番最初に設立されたのは、1987年5月に李小江が設立した「鄭州大学女性学研究センター(鄭州大学婦女学研究中心)」)。このセンターのサイトは情報量豊富で、まだ生きています。
 しかし、このセンターは、2006年10月、「天津師範大学ジェンダーと社会発展研究センター(天津師範大学社会性別与社会発展研究中心)」と改称し、最近、下の新しいサイトを設立しました。
 婦女与社会性別知識社区網

 上の新しいサイトは、開設されたばかりのせいか、まだあまり多くの文献を収録していません。
 けれど、センターの簡単な紹介(「天津師範大学性別与社会発展研究中心簡介」)のほか、このセンターの方々が出版している『ジェンダー(社会性別)』(年刊。2004年~)の最新号の目次などがわかります。
 また、センターが今年9月に開催した「民族主義とフェミニズム」に関する学術交流活動の報告なども収録しています(「民族主義与女性主義論題綜述」)。

 1986年6月に設立された「陝西省女性理論婚姻家庭研究会(陝西省婦女理論婚姻家庭研究会)」は、中国で最初のころに設立された民間の女性(学)研究会のうちの一つだと思います(一番最初に設立されたのは、1985年4月にやはり李小江が設立した「河南省未来研究会女性学会」)。
 最近、このサイトの次のページから、同研究会の機関誌『関注』(季刊。2000年─2004年)が全文ダウンロードできるようになりました。
 《関注》(全集)

 たとえば『関注』の2000年第1期を見てみると、この号は、同研究会が1998年~1999年におこなったDVに関する調査研究についての特集号です。この特集には、さまざまな調査報告や考察のほか、研究会の人々が中心になって作成・提案した「陝西省反家庭暴力条例(建議稿)」(実際に陝西省で制定されたものと比較すると興味深い)も全文収録されています。

 なお、似たような名称の雑誌として、中華女子学院ジェンダー研究情報センター(中華女子学院性別研究信息中心)が出している『思考与関注』(隔月刊。2006年~)というものもあり、こちらも全文が女性/ジェンダー学学科発展ネットワークの当該ページからダウンロードできます。ただし、こちらの雑誌は、さまざまなサイトからジェンダー問題に関連した重要記事をピックアップした情報誌です。

 それから、これは研究とは直接関係ありませんが、今月、人民網と全国婦連宣伝部とが共同で「中国婦連ニュース」というサイトを開設しました。これは、婦連などの公的機関の最近の動きを知るには役に立つようです。

中国社会学学会に女性/ジェンダー社会学専門委員会設立

 今年9月16日、中国社会学学会の女性/ジェンダー社会学専門委員会理事会の設立会議が開催されました(1)
 2006年8月に、全国の社会科学院や大学の10名の学者が連名で、社会学学会の理事会に「女性/ジェンダー社会学専門委員会」の設立を申請しました。この申請は承認され、その後、彼女たちは準備委員会を作って準備をすすめてきました。

 今回の会議では、以下のように、この「女性/ジェンダー社会学専門委員会」の位置づけや今後の方向性について議論されました(2)
1.社会学領域におけるジェンダー主流化の拡大・強化について
 中国社会学会の年次総会では、すでに2回、「女性とジェンダーフォーラム」を開催している。しかし、他のフォーラムにはジェンダーの視点が乏しいので、他のフォーラムにもジェンダー視点を入れていく必要がある。
2.「学科を越えた発展」VS「専門領域の対話の拡大・深化」
 ある学者は、「学科を越えた発展をめざす」という方向性を主張した。それに対して、「まず、社会学の専門領域の中での対話を拡大・深化させるべきだ」という意見も出た。
3.女性/ジェンダー社会学専門委員会の職責について
 みな、この委員会の職責は、「国内外の学会との交流をすすめる、情報交流の場の構築、学術的サポートの提供、専門の訓練をおこなう、他の学会やネットワークとの協力、内部の通訊や電子刊行物の発行、教材の作成」などであると考えた。

 また、会議では、以下の常任理事[常務理事]を選出しました。
 馮小双(中国社会科学院《中国社会科学》編集部)、高小賢(陝西省婦連婦女婚姻家庭研究会)、郭虹(四川社会科学院社会学所)、賈応生(西北師範大学社会学系,男)、蒋永萍(全国婦連婦女研究所)、金一虹(南京金陵女子学院社会保障系)、李慧英(中央党校社科部)、李明歓(厦門大学公共管理学院)、李銀河(中国社会科学院社会学所)、譚琳(全国婦連婦女研究所)、譚深(中国社会科学院社会学所)、佟新(北京大学社会学系)、王愛麗(黒龍江社会科学院社会学所)、王金玲(浙江省社会科学院社会学所)、向平(武漢大学社会学系,男)、徐安(上海社会科学院社会学所)、楊国才(雲南民族大学学報編集部,白族)、張李璽(中華女子学院)、張宛麗(中国社会科学院社会学所)、鄭丹丹(華中科技大学社会学系,代表婦女/社会性別学学科発展網絡社会学子網絡)、周偉文(河北社会科学院社会発展所)
 常任理事会の主任には、王金玲、副主任には、佟新、楊国才、向平、張宛麗の各氏が選ばれました。

(1)「中国社会学学会婦女/性別社会学専業委員会理事会成立」(全国婦連婦女研究所HP)。
(2)「中国社会学学会婦女/性別社会学専業委員会理事会成立会議紀要」(ワードファイル)

近年の中国女性学を論じた3つの論文

 昨年から今年初めにかけて、近年の中国の女性学を論じた以下の三本の論文や報告が相次いで発表されました。

大浜慶子「中国における女性学制度化の歩み─北京世界女性会議以後の新動向─」日本女子大学教育学科の会『人間研究』第43号(2007年)89-99頁。
 〈構成〉
一、中国の女性学・ジェンダー研究推進の新体制
 1.女性学vsマルクス主義女性論
 2.北京女性会議以後、女性政策におけるジェンダー視点の導入
二、大学における女性学制度化の二つの経験と戦略
 1.共学大学の戦略
 2.女子学院・女子大学の戦略
三、独立学科をめざして―北京大学と中華女子学院のケース
 1.北京大学のケース
 2.中華女子学院のケース
おわりに─中国女性学の課題

秋山洋子「〈北京+10〉中国女性学のいま」『女性学』14号(2007年)90-95頁。
 〈構成〉
北京会議+10年
「近二十年華人社会ジェンダー研究」シンポジウム
女性学の再編成と過去の消去
女性学における新しい動き、そして今後……

李小江(秋山洋子訳)「グローバル化のもとでの中国女性学と国際開発プロジェクト─あわせて本土の資源と『本土化』の問題を語る─」『季刊ピープルズ・プラン』34号(2006年春号)20-34頁。
 〈構成〉
グローバル化のもとでの中国女性学
女性と国際開発プロジェクト
 (1)「開発」の由来
 (2)女性が国際開発プロジェクトに入ったいきさつ
 (3)中国女性の発展問題
 (4)中国女性はいかに世界と軌道を接するか
 (5)国際社会の援助はどのように中国(と中国女性)に「進入」してきたか
グローバル化の動きの中での「本土」問題

 大浜慶子さんは、1995年から北京を拠点にして研究活動をしてこられました。今回の論文「中国における女性学制度化の歩み─北京世界女性会議以後の新動向─」は、そうした自らの実体験や観察を生かして書いておられます。
 この論文は、中国の女性学研究者たちがネットワークを作り、女性学を制度化してきた状況を非常に丁寧にあとづけ、分析しています。
 大学に関して、共学大学についてだけでなく、これまで研究されてこなかった女子学院・女子大学における女性学推進の流れを考察していることも大きな特色です。北京大学の魏国英氏や中華女子学院の韓賀南氏ら、女性学関係者への取材もなさっていて、貴重です。大量の情報を整理しており、北京会議以後の中国女性学の発展(とくに制度化)を知るうえでの必読文献であるように思いました。
 大浜さんは、最後に、中国の女子大学における女性学発展の経験は、女子大学の存在意義という世界共通の問いへの一つの回答にもなっていると述べておられます。また、中国女性学の固有の課題として、中国の女性学は、社会運動によらず最初から研究として導入されたために、社会一般には受容されておらず、大学の研究者が、中国社会の格差や現実の女性問題に対してつながる必要性を説いています(なお、こうした課題は、日本の女性学にも共通の部分はあるので、この点に関する日中の比較なども可能なように思いました)。

 秋山洋子さんの報告「〈北京+10〉中国女性学のいま」は、短いものですが、北京会議十周年にあたる2005年における、中国の女性学事情全般を論じておられます。秋山さんは、中国の女性学の現状を、大浜さんより少し否定的に捉えておられます(もちろん大浜さんも秋山さんも、全面肯定でも全面否定でもないのですが)。とくに、李小江らによる1980年代の自主的な女性学創設の歴史が、現在、消去されかねない状況になっていることを危惧しておられます。秋山さんは、李小江らのネットワークが創ろうとした自由な討論の空間は、現在は、荒林主催の「中国女性主義文化サロン」などが提供していると論じています。
 大浜さんと同じ事実や資料を論じながら、異なった評価をしている箇所もあります(1999年設立の中国婦女研究会、魏国英論文)。研究者のネットワークについての捉え方も異なるようです。もちろんお2人は、対立しているというよりも、それぞれ異なった側面に注目しておられるのだと思います。しかし、2つの論文を併せて読むと、読者は、中国婦女研究会や魏国英論文、研究者のネットワークなどについて自分自身でも調べてみたいという気になるのではないでしょうか? そうした点でも興味深いです。

 秋山さんが翻訳なさった李小江さんの論文「グローバル化のもとでの中国女性学と国際開発プロジェクト」は、国際開発プロジェクトの中国への流入が中国の女性学に与えた影響について批判的に論じています。
 中国国内でも、日本でも、こうした点について論じたものはほとんどなく、これも非常に貴重な論文だと思いました。

 以上の簡単な紹介からだけでも、どの論文も、とおりいっぺんの現状報告ではなく、それぞれが異なった独自の視点から、近年の中国女性学を論じていることがおわかりいただけると思います。

大学生の女性学の社団のサイト

 最近、湖南理工学院大学生女性学学会のサイトができました(「湖南理工学院大学生女性学学会」)。学生の女性学の社団としては、初めてのサイトのように思います。

 この学会は、2004年9月に設立され、万瓊華教授と鄭美琴博士を指導教官としています。学会の主旨は「ジェンダー意識を啓発し、ジェンダー公平を唱導する」ことであり、その目的は「女性の独立・自主・自尊・自信・自強の精神を養成する」こと、そのスローガンは「女性の視点で世界を見る」ことだそうです。
 「啓発」とか、「~の精神を養成する」とかという文言を見ると、おとなしくて行儀がよい感じですが(社会変革的な感じではない)、恐らくその点は現在の中国の条件ゆえのことであって、女性解放の視点は明確な感じです。
 また、詳しい状況はわかりませんが、指導教官がいるとはいえ、なにより学生が主体である点に意義があると思います。

 具体的には、以下のような活動に取り組んだとのことです。
 ・読書会(『第二の性』『女性の神秘』などの古典)。
 ・女性を題材とした進歩的映画の上演(『陰道独白(サイトでは『*独白』と表記されているが)』など)。
 ・女性学やジェンダー論に関する講演・講座(万瓊華・藍懐恩駱曉戈劉秀麗ら)
 ・「反DV・ホワイトリボン」運動への参加(『中国婦女報』でも、2004年11月29日付で「請你戴上白絲帯 広東湖南大学校園開展消除性別暴力活動」として報道されている)
 ・機関紙『女性之音(Voice of Women)』の刊行

 また、会員の学生の声を掲載したサイトを別に作っています(「性別和諧倶楽部」

 会員は、当初の70名あまりから、現在では250名にまでなったということです。

本年の動向8―女性学専攻の学部生を初めて募集

 4月 中華女子学院、全国で初めて女性学の本科生を募集。

 今年の4月25日、中華女子学院は今年度の学生募集計画を発表しましたが、その中で初めて女性学専攻の本科生(正式の学部生)を25人募集しました。

 中華女子学院は、1949年8月に「新中国女性職業学校」として設立されました。その後は中国共産党の指導の下にある中華全国婦女連合会の幹部を送り出す役割などを担ってきましたが、最近はフェミニズムがある程度の力を持ってきているようです。

 中華女子学院は、1984年に女性学(当時は「婦女学」と呼ばれていた)課程を設置し、2001年9月には、全国で初めて女性学部を設立しました。けれども女性学は、学院の学生の補習課程であり、学部としては学生を募集していませんでした。

 昨年10月、中華女子学院は、教育部(日本の文部科学省)に女性学専攻を申請し、今年、教育部は、高等教育で新しく増やす25の専攻の一つに「女性学」を入れました。このことは「女性学がわが国の高等教育に正式に入ったことを意味する」と言われています。

 女性学専攻で開設される課程は、女性学理論、女性史、女性運動史、女性と発展、女性とNGO組織、社会学理論、社会政策と制度分析、社会科学研究法、法学概論、管理学と行政管理学、教育学概論、社会心理学などだそうです。

資料:「女性学正式進入我国高等教育之列,中華女子学院首批将招女性学本科生25人」『中国婦女報』2006年4月12日。

女性/ジェンダー学学科発展ネットワーク結成

 この8月、中国の大学の教師、科学研究所の研究員、「ジェンダーと発展」領域の活動家によって、「女性/ジェンダー学学科発展ネットワーク」が結成されました。
 2002年から機関誌『ネットワーク通訊』などを出して活動していたのですが、8月16日から19日まで大会を開き、正式に発足しました。
 女性/ジェンダー学の全国的ネットワークであり、規約によると、団体会員と個人会員があるようです。
 コーディネイトをする協調委員会の委員には王金玲さんら8人が名を連ねており、全員が女性です。

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