環境衛生労働者の苦難
中国の「環境衛生労働者(環衛工)」は、暑い日も寒い日も、夜が明けないうちに道路の清掃をしています。雪が降れば、睡眠時間を削って、道路の雪かきをします。環境衛生労働者は「都市の美容師」とも称されますが、その仕事は、「都市の中の最も汚く、最も苦しく、最もきつい職業」だとも言われています(1)。
彼女たちは、毎日、朝の3、4時から働き始め、晩の8、9時に家に帰るという生活で、1日に10時間以上働き、休日もほとんどありません。臨時労働者や契約労働者であることが多く、そうした場合は最低賃金程度の収入しかなく、社会保障もありません(2)。労働契約も、きちんとなされていないことが少なくないようです(3)。
環境衛生労働者は、40歳から50歳の女性が多く、彼女たちの多くは、リストラされた人や農村からの出稼ぎに来た人です(4)。長沙市には、環境衛生の一線の労働者が6370人いるそうですが、そのうち農民労働者が5691人で、全体の89.3%を占めています(5)。
彼女たちの健康状態は、よくありません。西安市の蓮湖区で、環境衛生の女性労働者の健康診断をしたところ、その9割が病気にかかっていました(婦人病、貧血、胆嚢結石、腎臓結石、胆嚢炎など)。ある専門家によると、彼女たちの仕事は、時間の制限がきつく、労働強度が大きく、仕事の環境も悪くて、大多数の人は朝食を食べるどころではなくて、飲食が不規則であり、暑さ寒さの変化も激しいので、肝臓・腎臓・肺・胃・婦人科の病気にかかりやすいということです。また、通風や、腰の筋肉を疲労で損なうなどの、骨格や筋肉を損傷する疾病にもなりやすいそうです。しかし、彼女たちは低収入であるため、なかなか医者に行かないので、しばしば大病になってしまいます(6)。
また、交通事故にあう人も多いです。たとえば長沙市では、2005年1月から2006年7月までの間に、環境衛生部門で交通事故が165件発生し、182人が負傷して、5人が死亡しました(7)。交通事故のあうのは深夜や早朝ですが、こうした時間帯こそ、彼女たちが道路の掃除をする主な時間帯なのです。彼女たちは、傷害保険に入っていないので、いったん事故に遭うと、経済的な負担も重くなります(8)。
そのため、「朝晩の出退勤のときや車の流れがピークに達したときは、環境衛生労働者に大通りの清掃をさせないようにすべきだ」とか、「運転手に対する教育を強めるべきだ」という声が上がっています。もちろん、「傷害保険に入れるように関係部門が援助すべきだ」という声や、「政府がお金をかけて、大通りの清掃をもっと機械化すべきだ」という声もあります(9)。
このように大変な仕事をしている環境衛生労働者ですが、彼女たちはけっして人々に尊重されているとはいえず、彼女たちが殴られる事件もしばしば起きています(10)。
そうした状況ですから、今年の春の地方の人民代表大会や政治協商会議でも、環境衛生労働者の権益が話題になりました。河南省の人民代表大会では、11名の代表が、環境衛生労働者が保険に加入できるように政府が措置を取ることを提案しました。武漢市の政治協商会議では、ある委員が、政府が環境衛生労働者の仕事や福利、手当などに関して指導的な意見を出すことや、財政支出をおこなって彼女たちの賃金を引き上げることを提案をしました(11)。
(1)「城市美容師需要的不僅是尊重」『中国婦女報』2008年2月18日。
(2)「城市環衛工負担重流失多」『新華日報』2006年6月7日、「頻頻被打皆因瑣事 環衛工人的権益誰来保護?(3)」(新華網2007年5月21日)。
(3)「労動合同缺失令環衛女工失業」『中国婦女報』2005年5月21日。
(4) (1)に同じ。
(5)「請給農民環衛工更多関懐」『湖南日報』2006年10月24日。
(6)「“城市美容師”健康堪憂 西安蓮湖区環衛女工九成患病」『中国婦女報』2006年4月12日。「呼市近七成環衛工人患多種疾病」(『中国婦女報』2005年6月29日)という記事もあります。
(7) (5)に同じ。「城市美容師何日享有安全−瀋陽環衛女工惨死車輪下引起全社会関注」『中国婦女報』2002年8月21日。
(8)「誰来保障環衛工人的安全?」『中国婦女報』2006年8月19日。
(9)同上。
(10)「頻頻被打皆因瑣事 環衛工人的権益誰来保護?」、「頻頻被打皆因瑣事 環衛工人的権益誰来保護?(2)」、「頻頻被打皆因瑣事 環衛工人的権益誰来保護?(3)」(いずれも新華網2007年5月21日)、「司機叫環衛女工譲路遭拒 両度将其暴打」(広州網2008年03月28日)、「武漢一環衛女工制止店主乱掃圾拉 遭当街暴打」(人民網2008年3月5日)など。
(11) (1)に同じ。
彼女たちは、毎日、朝の3、4時から働き始め、晩の8、9時に家に帰るという生活で、1日に10時間以上働き、休日もほとんどありません。臨時労働者や契約労働者であることが多く、そうした場合は最低賃金程度の収入しかなく、社会保障もありません(2)。労働契約も、きちんとなされていないことが少なくないようです(3)。
環境衛生労働者は、40歳から50歳の女性が多く、彼女たちの多くは、リストラされた人や農村からの出稼ぎに来た人です(4)。長沙市には、環境衛生の一線の労働者が6370人いるそうですが、そのうち農民労働者が5691人で、全体の89.3%を占めています(5)。
彼女たちの健康状態は、よくありません。西安市の蓮湖区で、環境衛生の女性労働者の健康診断をしたところ、その9割が病気にかかっていました(婦人病、貧血、胆嚢結石、腎臓結石、胆嚢炎など)。ある専門家によると、彼女たちの仕事は、時間の制限がきつく、労働強度が大きく、仕事の環境も悪くて、大多数の人は朝食を食べるどころではなくて、飲食が不規則であり、暑さ寒さの変化も激しいので、肝臓・腎臓・肺・胃・婦人科の病気にかかりやすいということです。また、通風や、腰の筋肉を疲労で損なうなどの、骨格や筋肉を損傷する疾病にもなりやすいそうです。しかし、彼女たちは低収入であるため、なかなか医者に行かないので、しばしば大病になってしまいます(6)。
また、交通事故にあう人も多いです。たとえば長沙市では、2005年1月から2006年7月までの間に、環境衛生部門で交通事故が165件発生し、182人が負傷して、5人が死亡しました(7)。交通事故のあうのは深夜や早朝ですが、こうした時間帯こそ、彼女たちが道路の掃除をする主な時間帯なのです。彼女たちは、傷害保険に入っていないので、いったん事故に遭うと、経済的な負担も重くなります(8)。
そのため、「朝晩の出退勤のときや車の流れがピークに達したときは、環境衛生労働者に大通りの清掃をさせないようにすべきだ」とか、「運転手に対する教育を強めるべきだ」という声が上がっています。もちろん、「傷害保険に入れるように関係部門が援助すべきだ」という声や、「政府がお金をかけて、大通りの清掃をもっと機械化すべきだ」という声もあります(9)。
このように大変な仕事をしている環境衛生労働者ですが、彼女たちはけっして人々に尊重されているとはいえず、彼女たちが殴られる事件もしばしば起きています(10)。
そうした状況ですから、今年の春の地方の人民代表大会や政治協商会議でも、環境衛生労働者の権益が話題になりました。河南省の人民代表大会では、11名の代表が、環境衛生労働者が保険に加入できるように政府が措置を取ることを提案しました。武漢市の政治協商会議では、ある委員が、政府が環境衛生労働者の仕事や福利、手当などに関して指導的な意見を出すことや、財政支出をおこなって彼女たちの賃金を引き上げることを提案をしました(11)。
(1)「城市美容師需要的不僅是尊重」『中国婦女報』2008年2月18日。
(2)「城市環衛工負担重流失多」『新華日報』2006年6月7日、「頻頻被打皆因瑣事 環衛工人的権益誰来保護?(3)」(新華網2007年5月21日)。
(3)「労動合同缺失令環衛女工失業」『中国婦女報』2005年5月21日。
(4) (1)に同じ。
(5)「請給農民環衛工更多関懐」『湖南日報』2006年10月24日。
(6)「“城市美容師”健康堪憂 西安蓮湖区環衛女工九成患病」『中国婦女報』2006年4月12日。「呼市近七成環衛工人患多種疾病」(『中国婦女報』2005年6月29日)という記事もあります。
(7) (5)に同じ。「城市美容師何日享有安全−瀋陽環衛女工惨死車輪下引起全社会関注」『中国婦女報』2002年8月21日。
(8)「誰来保障環衛工人的安全?」『中国婦女報』2006年8月19日。
(9)同上。
(10)「頻頻被打皆因瑣事 環衛工人的権益誰来保護?」、「頻頻被打皆因瑣事 環衛工人的権益誰来保護?(2)」、「頻頻被打皆因瑣事 環衛工人的権益誰来保護?(3)」(いずれも新華網2007年5月21日)、「司機叫環衛女工譲路遭拒 両度将其暴打」(広州網2008年03月28日)、「武漢一環衛女工制止店主乱掃圾拉 遭当街暴打」(人民網2008年3月5日)など。
(11) (1)に同じ。
『中国の農村女性の状況調査』出版
今年2月、甄硯主編『中国の農村女性の状況調査(中国農村婦女状況調査)』(社会科学文献出版社 2008年)(ネット書店「書虫」の「書虫データベース」のこの本のデータ)が出版されました。
この本には、以下の1〜3の3つの調査が収められています。いずれも、党の指導の下にある、中国唯一の全国的女性団体である中華全国婦女連合会(婦連)の下におこなわれた調査です。そのため、類似の調査と比べて、以下の特色があるように思います。
・いずれも大規模な調査である。
・一般の調査よりも明るい面が強調されている傾向が若干ある。また、直接、性差別について問うような質問は少ない。
・婦連の活動に関する調査が含まれている。下の1の調査に関しては、新農村建設、2の調査に関しては、西部大開発、3の調査に関しては、農民労働者支援をめぐる婦連の活動を改善する点にこれらの調査の大きな狙いがある。そのため、これらの調査報告には、婦連の活動などに対する提案も含まれている。
調査の具体的な内容については、多すぎて書ききれませんが、以下、私がメモした中からいくつかの点を紹介してみます(ただし、婦連の活動に関する調査については、あまり書けていません)。
1.一万名の農村女性の新農村建設参与アンケート調査
この調査は、2006年に、10の省(河北・吉林・江蘇・浙江・江西・河南・湖南・四川・雲南・甘粛)の村の女性に対しておこなった。東部・中部・西部の各地域をカバーしていることが特色である。
「農作業は主に誰がしているか?」という問いに対しては、どの省でも、「夫婦で共同でしている」という回答が最も多く、全体の54.0%を占めている。ただし、「夫」という回答(14.0%)よりも、「自分(妻)」という回答(20.7%)のほうが多い。「自分(妻)」という回答は、とくに甘粛(32.4%)や四川(33.0%)で多く、男性が都市に出稼ぎに行っていることを示している。
「家事は主に誰がしているか?」という問いに対しては、「自分(妻)」という回答が最も多く、49.2%である(「夫」は3.2%、「夫婦で共同」は40.4%)。この点に関しては、東・中・西部という経済発展の水準とは無関係だと指摘されている。ここからは、女性が、農作業も家事もやっているという状況が浮かび上がると思います。
テレビの普及率は98.5%、洗濯機は74.1%、冷蔵庫は46.4%。テレビは、どの省でも97%を上回っている。しかし、洗濯機に関しては地域差が大きく、甘粛・湖南・吉林・江西の各省は60%程度しか普及していない。冷蔵庫は、甘粛・吉林で20%程度、雲南で30%程度、河南で37.6%、四川で44.7%しか普及していない。
食事のための燃料は、柴(たきぎ)が47.1%、ガス23.5%、石炭21.6%、メタンガス6.2%。ガスが4割を越えているのは、浙江(49.0%)と江蘇(44.2%)だけである。
家庭用水は、水道が54.8%、自家の井戸が39.3%、外で水を汲むが5.3%。水道は、江蘇(99.1%)、河北(92.5%)、浙江(87.0%)でよく普及している。外で水を汲む人が多いのは、甘粛(25.9%)、湖南(11.8%)。
「現在の一番心配」は(多項選択)、「家族の病気」が62.7%、「子どもの教育費が高すぎる」が49.6%、「収入の保障がない」が41.3%、などとなっている。「出稼ぎに行ったことがある」人は、35.9%である。出稼ぎに行ったことがない人に、その理由を聞くと、「行きたいけれども、年寄りや子どもの世話をしなければならないので、行けない」が31.7%と最も多い。
「農民のために政府に何をしてほしいか?」(多項選択)については、「農民も医療・養老保険に入れるようにする」が53.5%、「大学に合格した農村の子どもに、もっと学費の減免と優待政策をする」が42.0%、「農民のために、質が良くて安価な医療サービスをする」が38.6%。
2.西部の5000名の農村女性の発展状況アンケート調査
この調査は、2007年に、西部(内蒙古・広西・重慶・四川・貴州・雲南・陝西・甘粛・青海・寧夏)の村でおこなわれた。
調査対象者は26〜46歳に集中しているが(79.8%)、平均就学年数は7年(4割あまりが小卒、5割弱が中卒、1割弱が高卒)。出稼ぎに行ったことのある人は、43.7%で東部よりも多い。
一年の家庭の粗収入は12212.2元で、東部地区が23748.5元であるのと比べて、約半分である。女性の個人収入は1825.3元で、東部地区が5537.6元であるのに対して、非常に格差が大きい。また、67.6%の家庭には貯蓄がなく、57.7%の家庭に借金がある(原因は、家を建てた、子どもの進学、病気の治療など)。
食事を作る燃料は、薪(43.8%)、石炭(22.7%)、ガスまたはメタンガス(18.2%)の順。水は、水道(60.7%)、自家の井戸(28.0%)、川や谷川の水を汲む(5.8%)の順。固定電話がある家は61.1%。
98.2%の回答者が、家庭の経済状況に不満足である。経済状況が良くない原因は、「資金がない」「生産技術がない」「市場の情報がない」「家の中に病人がいる」「労働力が足りない」である。
彼女たちが持ってる技術は、農作業(66.2%)中心。学んだのは、自学(55.0%)、家の中の年長者(46.9%)。生産における困難は、「資金がない」「生産技術がない」「良いアイデアがない」。
ここには書ききれませんけれども、この調査には、とくに婦連の政策に関する質問が多いです。また、この調査の報告は、以上の調査結果をもとに、女性に対する資金の提供、科学技術・職業訓練についてさまざまな提案をしています。また、出稼ぎには行きにくい女性のために地元の産業を振興することなども提案しています。それらの提案は、みな、女性の要求の独自性に注目した提案ではあるのですが、男性と女性とのトータルな関係を変えるという意味での「ジェンダー」視点のある提案は乏しいように思います。
3.都市に行って働いている1千名の女性のアンケート調査
この調査は、2006年に、北京・上海・南京・厦門・成都・石家荘・瀋陽・鄭州・紹興・東莞の10都市で、農村から来た女性労働者を対象におこなったものである。
調査対象者の年齢は、30歳以下が63.2%である。学歴は、初級中学以上が48.7%で、高級中学以上も38%おり、小学校以下は13.4%だけであり、農村女性にしては高いと指摘されている。未婚が49.7%で、既婚が47.3%である。既婚の場合、78%は夫と一緒に生活している。
職業は以下のとおり。
・54.8%がサービス業の従業員で、そのうち飲食サービス業の服務員が22%、酒場や旅館の服務員が13.6%、清掃労働者が12.1%、美容業の服務員が11.7%。
・23.6%が工場の労働者で、そのうち衣服の加工が34.5%で、玩具の加工が33.6%。
・野菜や果物を売ったり、小さな食堂をしたりなど、その他の職業の人が12.1%。
・会社の職員や管理者になっている人も、それぞれ8.4%、10.3%。
月収は、800元程度が最も多く(500元以下が25.2%、501〜700元が23.4%、701〜900元が23.1%、901〜1100元が13.2%、1100元以上が15.1%)、平均は926元(収入がない人と10000元以上の人を除いて計算)。配偶者の月収は1000元程度が最も多く、平均は1750元。
出稼ぎの動機は、「家では金を稼げないから」(36.9%)、「個人の発展に有利だから」(26%)、「世間を知りたい」(24%)など。後二者の動機は、若い世代に多い。故郷に仕送りをしている人が52%(していない人も32%いるが、もともと一家で都市にいる人が17%)で、1年に2000元程度する人が最も多い。モノを故郷に送っている人は73%(カラーテレビ、携帯電話、冷蔵庫など)。
毎日の労働時間は、8時間以下は35.2%、9〜10時間が40.0%、11〜12時間が15.1%、12時間以上が9.7%。しかし、法定の割増賃金をもらえているのは28%だけ。休暇は、月に4日が34.2%、2日が19.7%、1日もない人が17.5%、3日が8.2%、1日が7.8%。会社と労働契約をしているのは、48.2%にとどまる。
何の社会保険にも入っていない人が49.1%。基本的医療保険に入っている人が22.3%、基本的養老保険(日本で言う年金)に入っている人が18.8%、失業保険は15.8%、労災保険は15.4%。出産保険は0.8%。産休中は基本賃金を下げられたり、無給の人が30.1%で、妊娠や出産で辞めさせられる人が21.0%。
職場が食・住の面倒をみている人が56.2%で、特に工場の労働者の場合は75.1%に達する。その場合、2人か3人で同じ部屋に住むことが一般的だが、5人以上の場合も37.5%、10人以上が3.7%。
余暇の過ごし方は、テレビを見る(72.8%)、睡眠(70.5%)、街をぶらつく(60.5%)、世間話をする(50.5%)、本や新聞・雑誌を読む(50.7%)である。「睡眠」が多いことに労働のきつさ、労働時間の長さが反映している。
病気になった場合、「まず我慢する」が26.5%、「自分で薬を買って飲む」が36.9%、「診療を受ける」が36.6%(そのうち「正規の病院に行く」は24.8%)。医療費の問題が大きい。
ただし、都市に来て自分の生活が「ずっと良くなった」という人が28.5%、「いくらか良くなった」という人が58.2%である。具体的には「知識・教養を学んだ」(44.4%)や「世間を知った」(42.4%)という精神的な面が多く、それに次いで、「金を稼げた」(38.2%)である(この点については、調査対象に30歳以下の若い人が多かったこととも関係があると推定されている)。また、自分を「幸福」、「わりあい幸福」と感じている人が50.2%で、「ふつう」が42.4%である。ここらへんは、故郷の農村の貧しさの反映という面もあるでしょうが。
生活に対する(精神的な)圧力について尋ねると、「収入が少なく、保障がない」(62.5%)、「都市に家がなくて、気持ちが落ち着かない」(54.5%)、「学歴が低く、技術がない」(54.4%)、「仕事がきつすぎる」(50.2%)、「仕事が良くない、あるいは不安定」(49.8%)という答えが多い。「都市に家がなくて、気持ちが落ち着かない」という答えは、25歳以上で多い。
一番心配していることは、「仕事が不安定」(77.3%)、「病気になる」(69.9%)、「賃金のピンはね、遅配欠配」(43.6%)、「子どもが正規の学校に入学できない」(38.3%)である。
85.3%は婦連を訪問したことがない。ただし、訪ねたことのある人の中では、都市に行った後に訪ねた人が多い(9.2%)。政府への希望としては、「都市と農村の戸籍の区別をなくす」(85.3%)、「都市で仕事をする女性に職業訓練をする」(68.1%)、「都市に行って仕事をする者の権利の保護を助ける専門の機構を作る」(62.2%)、「都市に出て仕事をする女性を社会保険に入れるよう使用者を監督する」(61.3%)が多い。
以上、農村女性がさまざまな困難を抱えていることや、同じ農村でも地区による格差が大きいこと、政府の農民に対する医療や教育、社会保障政策の問題点などがわかります。なお、この本には、出稼ぎ女性31名に対するインタビューも、60ページ近くにわたって収録されています。
この本には、以下の1〜3の3つの調査が収められています。いずれも、党の指導の下にある、中国唯一の全国的女性団体である中華全国婦女連合会(婦連)の下におこなわれた調査です。そのため、類似の調査と比べて、以下の特色があるように思います。
・いずれも大規模な調査である。
・一般の調査よりも明るい面が強調されている傾向が若干ある。また、直接、性差別について問うような質問は少ない。
・婦連の活動に関する調査が含まれている。下の1の調査に関しては、新農村建設、2の調査に関しては、西部大開発、3の調査に関しては、農民労働者支援をめぐる婦連の活動を改善する点にこれらの調査の大きな狙いがある。そのため、これらの調査報告には、婦連の活動などに対する提案も含まれている。
調査の具体的な内容については、多すぎて書ききれませんが、以下、私がメモした中からいくつかの点を紹介してみます(ただし、婦連の活動に関する調査については、あまり書けていません)。
1.一万名の農村女性の新農村建設参与アンケート調査
この調査は、2006年に、10の省(河北・吉林・江蘇・浙江・江西・河南・湖南・四川・雲南・甘粛)の村の女性に対しておこなった。東部・中部・西部の各地域をカバーしていることが特色である。
「農作業は主に誰がしているか?」という問いに対しては、どの省でも、「夫婦で共同でしている」という回答が最も多く、全体の54.0%を占めている。ただし、「夫」という回答(14.0%)よりも、「自分(妻)」という回答(20.7%)のほうが多い。「自分(妻)」という回答は、とくに甘粛(32.4%)や四川(33.0%)で多く、男性が都市に出稼ぎに行っていることを示している。
「家事は主に誰がしているか?」という問いに対しては、「自分(妻)」という回答が最も多く、49.2%である(「夫」は3.2%、「夫婦で共同」は40.4%)。この点に関しては、東・中・西部という経済発展の水準とは無関係だと指摘されている。ここからは、女性が、農作業も家事もやっているという状況が浮かび上がると思います。
テレビの普及率は98.5%、洗濯機は74.1%、冷蔵庫は46.4%。テレビは、どの省でも97%を上回っている。しかし、洗濯機に関しては地域差が大きく、甘粛・湖南・吉林・江西の各省は60%程度しか普及していない。冷蔵庫は、甘粛・吉林で20%程度、雲南で30%程度、河南で37.6%、四川で44.7%しか普及していない。
食事のための燃料は、柴(たきぎ)が47.1%、ガス23.5%、石炭21.6%、メタンガス6.2%。ガスが4割を越えているのは、浙江(49.0%)と江蘇(44.2%)だけである。
家庭用水は、水道が54.8%、自家の井戸が39.3%、外で水を汲むが5.3%。水道は、江蘇(99.1%)、河北(92.5%)、浙江(87.0%)でよく普及している。外で水を汲む人が多いのは、甘粛(25.9%)、湖南(11.8%)。
「現在の一番心配」は(多項選択)、「家族の病気」が62.7%、「子どもの教育費が高すぎる」が49.6%、「収入の保障がない」が41.3%、などとなっている。「出稼ぎに行ったことがある」人は、35.9%である。出稼ぎに行ったことがない人に、その理由を聞くと、「行きたいけれども、年寄りや子どもの世話をしなければならないので、行けない」が31.7%と最も多い。
「農民のために政府に何をしてほしいか?」(多項選択)については、「農民も医療・養老保険に入れるようにする」が53.5%、「大学に合格した農村の子どもに、もっと学費の減免と優待政策をする」が42.0%、「農民のために、質が良くて安価な医療サービスをする」が38.6%。
2.西部の5000名の農村女性の発展状況アンケート調査
この調査は、2007年に、西部(内蒙古・広西・重慶・四川・貴州・雲南・陝西・甘粛・青海・寧夏)の村でおこなわれた。
調査対象者は26〜46歳に集中しているが(79.8%)、平均就学年数は7年(4割あまりが小卒、5割弱が中卒、1割弱が高卒)。出稼ぎに行ったことのある人は、43.7%で東部よりも多い。
一年の家庭の粗収入は12212.2元で、東部地区が23748.5元であるのと比べて、約半分である。女性の個人収入は1825.3元で、東部地区が5537.6元であるのに対して、非常に格差が大きい。また、67.6%の家庭には貯蓄がなく、57.7%の家庭に借金がある(原因は、家を建てた、子どもの進学、病気の治療など)。
食事を作る燃料は、薪(43.8%)、石炭(22.7%)、ガスまたはメタンガス(18.2%)の順。水は、水道(60.7%)、自家の井戸(28.0%)、川や谷川の水を汲む(5.8%)の順。固定電話がある家は61.1%。
98.2%の回答者が、家庭の経済状況に不満足である。経済状況が良くない原因は、「資金がない」「生産技術がない」「市場の情報がない」「家の中に病人がいる」「労働力が足りない」である。
彼女たちが持ってる技術は、農作業(66.2%)中心。学んだのは、自学(55.0%)、家の中の年長者(46.9%)。生産における困難は、「資金がない」「生産技術がない」「良いアイデアがない」。
ここには書ききれませんけれども、この調査には、とくに婦連の政策に関する質問が多いです。また、この調査の報告は、以上の調査結果をもとに、女性に対する資金の提供、科学技術・職業訓練についてさまざまな提案をしています。また、出稼ぎには行きにくい女性のために地元の産業を振興することなども提案しています。それらの提案は、みな、女性の要求の独自性に注目した提案ではあるのですが、男性と女性とのトータルな関係を変えるという意味での「ジェンダー」視点のある提案は乏しいように思います。
3.都市に行って働いている1千名の女性のアンケート調査
この調査は、2006年に、北京・上海・南京・厦門・成都・石家荘・瀋陽・鄭州・紹興・東莞の10都市で、農村から来た女性労働者を対象におこなったものである。
調査対象者の年齢は、30歳以下が63.2%である。学歴は、初級中学以上が48.7%で、高級中学以上も38%おり、小学校以下は13.4%だけであり、農村女性にしては高いと指摘されている。未婚が49.7%で、既婚が47.3%である。既婚の場合、78%は夫と一緒に生活している。
職業は以下のとおり。
・54.8%がサービス業の従業員で、そのうち飲食サービス業の服務員が22%、酒場や旅館の服務員が13.6%、清掃労働者が12.1%、美容業の服務員が11.7%。
・23.6%が工場の労働者で、そのうち衣服の加工が34.5%で、玩具の加工が33.6%。
・野菜や果物を売ったり、小さな食堂をしたりなど、その他の職業の人が12.1%。
・会社の職員や管理者になっている人も、それぞれ8.4%、10.3%。
月収は、800元程度が最も多く(500元以下が25.2%、501〜700元が23.4%、701〜900元が23.1%、901〜1100元が13.2%、1100元以上が15.1%)、平均は926元(収入がない人と10000元以上の人を除いて計算)。配偶者の月収は1000元程度が最も多く、平均は1750元。
出稼ぎの動機は、「家では金を稼げないから」(36.9%)、「個人の発展に有利だから」(26%)、「世間を知りたい」(24%)など。後二者の動機は、若い世代に多い。故郷に仕送りをしている人が52%(していない人も32%いるが、もともと一家で都市にいる人が17%)で、1年に2000元程度する人が最も多い。モノを故郷に送っている人は73%(カラーテレビ、携帯電話、冷蔵庫など)。
毎日の労働時間は、8時間以下は35.2%、9〜10時間が40.0%、11〜12時間が15.1%、12時間以上が9.7%。しかし、法定の割増賃金をもらえているのは28%だけ。休暇は、月に4日が34.2%、2日が19.7%、1日もない人が17.5%、3日が8.2%、1日が7.8%。会社と労働契約をしているのは、48.2%にとどまる。
何の社会保険にも入っていない人が49.1%。基本的医療保険に入っている人が22.3%、基本的養老保険(日本で言う年金)に入っている人が18.8%、失業保険は15.8%、労災保険は15.4%。出産保険は0.8%。産休中は基本賃金を下げられたり、無給の人が30.1%で、妊娠や出産で辞めさせられる人が21.0%。
職場が食・住の面倒をみている人が56.2%で、特に工場の労働者の場合は75.1%に達する。その場合、2人か3人で同じ部屋に住むことが一般的だが、5人以上の場合も37.5%、10人以上が3.7%。
余暇の過ごし方は、テレビを見る(72.8%)、睡眠(70.5%)、街をぶらつく(60.5%)、世間話をする(50.5%)、本や新聞・雑誌を読む(50.7%)である。「睡眠」が多いことに労働のきつさ、労働時間の長さが反映している。
病気になった場合、「まず我慢する」が26.5%、「自分で薬を買って飲む」が36.9%、「診療を受ける」が36.6%(そのうち「正規の病院に行く」は24.8%)。医療費の問題が大きい。
ただし、都市に来て自分の生活が「ずっと良くなった」という人が28.5%、「いくらか良くなった」という人が58.2%である。具体的には「知識・教養を学んだ」(44.4%)や「世間を知った」(42.4%)という精神的な面が多く、それに次いで、「金を稼げた」(38.2%)である(この点については、調査対象に30歳以下の若い人が多かったこととも関係があると推定されている)。また、自分を「幸福」、「わりあい幸福」と感じている人が50.2%で、「ふつう」が42.4%である。ここらへんは、故郷の農村の貧しさの反映という面もあるでしょうが。
生活に対する(精神的な)圧力について尋ねると、「収入が少なく、保障がない」(62.5%)、「都市に家がなくて、気持ちが落ち着かない」(54.5%)、「学歴が低く、技術がない」(54.4%)、「仕事がきつすぎる」(50.2%)、「仕事が良くない、あるいは不安定」(49.8%)という答えが多い。「都市に家がなくて、気持ちが落ち着かない」という答えは、25歳以上で多い。
一番心配していることは、「仕事が不安定」(77.3%)、「病気になる」(69.9%)、「賃金のピンはね、遅配欠配」(43.6%)、「子どもが正規の学校に入学できない」(38.3%)である。
85.3%は婦連を訪問したことがない。ただし、訪ねたことのある人の中では、都市に行った後に訪ねた人が多い(9.2%)。政府への希望としては、「都市と農村の戸籍の区別をなくす」(85.3%)、「都市で仕事をする女性に職業訓練をする」(68.1%)、「都市に行って仕事をする者の権利の保護を助ける専門の機構を作る」(62.2%)、「都市に出て仕事をする女性を社会保険に入れるよう使用者を監督する」(61.3%)が多い。
以上、農村女性がさまざまな困難を抱えていることや、同じ農村でも地区による格差が大きいこと、政府の農民に対する医療や教育、社会保障政策の問題点などがわかります。なお、この本には、出稼ぎ女性31名に対するインタビューも、60ページ近くにわたって収録されています。
看護ヘルパーの劣悪な労働条件
先日の記事でも書いたように、中国では看護師が不足しているため、患者の日常の世話は家族や看護ヘルパー(護工、護理工)に頼っています。しかし、 看護ヘルパーの労働条件は劣悪です。
今年初め、上海市の婦連が「上海女性看護ヘルパー現状調査報告」(上海女性護理工現状調査報告)を発表したことが報じられました。この調査報告は、2006年5月から上海市女性学学会、復旦大学女性研究センター、上海交通大学医学院女性研究センターが共同で、30の病院の900人あまりの看護ヘルパーを調査したものです。
この調査によると、看護ヘルパーは、36歳から50歳までの中年の女性が78.9%を占めていました。大部分の看護ヘルパーは(農村などからやってきた)外来の人で、84.9%を占めています。学歴は、初級中学以下の人が88.8%でした。
労働時間は長く、1日の労働時間は、30.9%の人が9─12時間、5.9%の人が13─18時間、52.7%の人が19─24時間でした(=ずっと付き添って寝起きしているということだと思います)。しかも、73.3%の人が残業手当をもらっていませんでした。
このような重労働なのに、賃金は安いです。同時期の上海の一人当たりの平均月収は1869元だったのに、看護ヘルパーは、500元から1000元の人が59.9%を占めていました。上海の最低賃金の基準は750元なので、その前後にすぎません。また、77.7%の人が労働契約を締結していませんでした。また、84.2%の人が社会保険に加入していませんでした(1)。
北京でも、2004年にNGO「打工妹の家」が病院の看護ヘルパーについて調査をおこなったことがありますが、ほぼ同じような問題が指摘されていました(2)。
たとえば北京の調査では、賃金は、日給で平均で29.15元でした。毎月26.38日働いているので、平均月収は768.98元です。ウルムチでも調査がおこなわていますが、「看護の仕事はとても繁雑で重いのに、月収はふつう600−900元の間である」と述べられていたので(3)、どこでもだいたいこんな金額なのでしょう。
北京での調査は、休日についても調べていますが、1ヶ月に8日とか4日休めるのはごく少数で(3.1%と10.3%)、2日休める人も18.0%だけで、まったく休日がない人が33.5%もいました。休暇を取れる人も、有給である人は19.8%だけでした。
「打工妹の家」の「非正規就業農民労働者権益保護」課題グループの郭慧玲さんによると、もともとは看護ヘルパーは、病院の看護部か後方勤務部門が管理していました。しかし、近年、経済効率を追求するため、多くの病院では、看護ヘルパー業務を看護部から切り離したり、後方勤務部門を社会化・会社化して、病院に下属した「ヘルパーセンター」にしたりしました。さらには直接民間の会社に外注するようにしたそうです。すなわち、正規雇用から非正規雇用にしたわけです。だから不安定であるうえ、中間搾取もある。現在の中国の雇用の非正規化の問題や農民労働者([農]民工)の問題は、病院にも現れていると言えそうです。
本来なら看護師がするべき生活看護のかなりの部分を、看護師不足のために、事前にほとんど訓練されていない看護ヘルパーがやっている状況なので、この点も問題です。ですから、北京では、昨年から9つの病院が、看護ヘルパーはなくして、あらかじめ3ヶ月間の技能訓練を経た「看護員(看護補助業務をおこなう者、看護助手)」が身の回りの世話をするという試みを開始しました。
問題は、コストが増加することです。現在決められている看護料が安いので、看護員の賃金を病院が支払うと、病院が損をすることになるようです。だから、政策的な対処が必要だと指摘されています(4)。
(1)「上海九成女護理工工作時間超法定限度」『中国婦女報』2008年1月3日。なお、この調査報告については、すでに「護理工亟待納入職業労動管理」(『中国婦女報』2007年8月30日)でも報じられていますので、適宜、後者の記事からも数値などを補いました。
(2)「就業“臨時化”帯来新的貧困 京城医院護工保潔工生存状況堪憂」『中国青年報』2004年11月2日。
(3)「烏魯木斉護工現状調査」『中国婦女報』2004年7月5日。
(4)「護理員将逐歩替代護工」『現代護理報』2007年8月30日、「護理員真的能代替護工嗎」『健康報』2007年8月31日、「護理員逐歩取代護工是喜是憂?」『現代護理報』2007年10月9日、「護工,会从医院消失嗎」『人民日報』2007年9月20日。
ほかに、「医院護工現状調査:上崗多没合同 収費憑経験定」(『北京晨報』2007年8月29日)も、記者が独自に取材をしています。
今年初め、上海市の婦連が「上海女性看護ヘルパー現状調査報告」(上海女性護理工現状調査報告)を発表したことが報じられました。この調査報告は、2006年5月から上海市女性学学会、復旦大学女性研究センター、上海交通大学医学院女性研究センターが共同で、30の病院の900人あまりの看護ヘルパーを調査したものです。
この調査によると、看護ヘルパーは、36歳から50歳までの中年の女性が78.9%を占めていました。大部分の看護ヘルパーは(農村などからやってきた)外来の人で、84.9%を占めています。学歴は、初級中学以下の人が88.8%でした。
労働時間は長く、1日の労働時間は、30.9%の人が9─12時間、5.9%の人が13─18時間、52.7%の人が19─24時間でした(=ずっと付き添って寝起きしているということだと思います)。しかも、73.3%の人が残業手当をもらっていませんでした。
このような重労働なのに、賃金は安いです。同時期の上海の一人当たりの平均月収は1869元だったのに、看護ヘルパーは、500元から1000元の人が59.9%を占めていました。上海の最低賃金の基準は750元なので、その前後にすぎません。また、77.7%の人が労働契約を締結していませんでした。また、84.2%の人が社会保険に加入していませんでした(1)。
北京でも、2004年にNGO「打工妹の家」が病院の看護ヘルパーについて調査をおこなったことがありますが、ほぼ同じような問題が指摘されていました(2)。
たとえば北京の調査では、賃金は、日給で平均で29.15元でした。毎月26.38日働いているので、平均月収は768.98元です。ウルムチでも調査がおこなわていますが、「看護の仕事はとても繁雑で重いのに、月収はふつう600−900元の間である」と述べられていたので(3)、どこでもだいたいこんな金額なのでしょう。
北京での調査は、休日についても調べていますが、1ヶ月に8日とか4日休めるのはごく少数で(3.1%と10.3%)、2日休める人も18.0%だけで、まったく休日がない人が33.5%もいました。休暇を取れる人も、有給である人は19.8%だけでした。
「打工妹の家」の「非正規就業農民労働者権益保護」課題グループの郭慧玲さんによると、もともとは看護ヘルパーは、病院の看護部か後方勤務部門が管理していました。しかし、近年、経済効率を追求するため、多くの病院では、看護ヘルパー業務を看護部から切り離したり、後方勤務部門を社会化・会社化して、病院に下属した「ヘルパーセンター」にしたりしました。さらには直接民間の会社に外注するようにしたそうです。すなわち、正規雇用から非正規雇用にしたわけです。だから不安定であるうえ、中間搾取もある。現在の中国の雇用の非正規化の問題や農民労働者([農]民工)の問題は、病院にも現れていると言えそうです。
本来なら看護師がするべき生活看護のかなりの部分を、看護師不足のために、事前にほとんど訓練されていない看護ヘルパーがやっている状況なので、この点も問題です。ですから、北京では、昨年から9つの病院が、看護ヘルパーはなくして、あらかじめ3ヶ月間の技能訓練を経た「看護員(看護補助業務をおこなう者、看護助手)」が身の回りの世話をするという試みを開始しました。
問題は、コストが増加することです。現在決められている看護料が安いので、看護員の賃金を病院が支払うと、病院が損をすることになるようです。だから、政策的な対処が必要だと指摘されています(4)。
(1)「上海九成女護理工工作時間超法定限度」『中国婦女報』2008年1月3日。なお、この調査報告については、すでに「護理工亟待納入職業労動管理」(『中国婦女報』2007年8月30日)でも報じられていますので、適宜、後者の記事からも数値などを補いました。
(2)「就業“臨時化”帯来新的貧困 京城医院護工保潔工生存状況堪憂」『中国青年報』2004年11月2日。
(3)「烏魯木斉護工現状調査」『中国婦女報』2004年7月5日。
(4)「護理員将逐歩替代護工」『現代護理報』2007年8月30日、「護理員真的能代替護工嗎」『健康報』2007年8月31日、「護理員逐歩取代護工是喜是憂?」『現代護理報』2007年10月9日、「護工,会从医院消失嗎」『人民日報』2007年9月20日。
ほかに、「医院護工現状調査:上崗多没合同 収費憑経験定」(『北京晨報』2007年8月29日)も、記者が独自に取材をしています。
スポーツ用品産業労働者の搾取・虐待の解消めざす「プレイフェア2008」キャンペーン
いま、北京オリンピックに向けて、「プレイフェア2008」キャンペーンがおこなわています。このキャンペーンは、オリンピックの「フェアプレイ」原則が働く現場にまで及ぶよう、オリンピックを陰で支えている世界のスポーツ用品産業で働く労働者の権利尊重を求めるものです(「プレイフェア2008」のサイト[日本語、英語、中国語])。このキャンペーは、クリーン・クローズ・キャンペーン(CCC)、国際労働組合総連合(ITUC)、国際繊維被服皮革労組同盟(ITGLWF)がコーディネイターになっておこなわれています。他にも、多くの労働団体やNGOがサポーターになっています(日本の「連合」もサポーターです)。
私は、このキャンペーンのことを、先日送られてきた『CAWネットニュース』(CAWネットジャパン発行。CAW=アジア女性労働者委員会)23号の記事で知りました。その記事は、「スポーツウェア産業を実際に支えているのは、開発途上国の衣料労働者であり、その多くは女性であることを忘れるわけにはいけません。衣料労働者は、多国籍スポーツウェア会社を頂点として、途上国の製造業者、下請工場、孫受け工場、家内労働者に至るまで、数多くのサプライ・チェーンに組み込まれ、過酷な労働条件で働いています」と述べたうえで、クリーン・クローズ・キャンペーンの機関紙に掲載されていた“Beijing Olympics Here we come”(CCCnewsletter 24,Oct 2007)という文章の翻訳を掲載したものでした(中村洋子訳)。
その記事にも書かれていたことですが、この「プレイフェア2008」キャンペーンは、以下の組織が、労働者の権利を保障するためにそれぞれの役割を果たすよう求めています。
1.国際オリンピック委員会(IOC)
2.国内オリンピック委員会とオリンピック組織委員会
3.スポーツウェアブランド
4.スポーツウェア、スポーツシューズ、五輪ロゴ商品を供給する企業(サプライヤー)
5.政府
6.とくに中国政府
7.投資家
(詳しくは、それぞれをクリックしてみてください)
昨年6月には、この「プレイフェア2008」は、北京オリンピックのライセンス商品を供給している中国の工場で、労働者の権利が非常に侵害されていることを指摘した調査報告書(No medal for the Olympics on Labour Rights(英語版)|奥運労権零奨牌:奥林匹克標志生産工作環境調査報告(中国語版)[ともにPDFファイル])を発表しました。
この調査報告書は、中国の4つの工場で、次のような実態があることを明らかにしています。
・最低賃金を下回る給与
・長時間労働、強制的残業
・不合理な罰金や賃金カット
・安全衛生上の問題
・労働契約がないこと
・法律で認められた産休の欠如
・社会保障がない
・労働組合がない
・児童労働
・査察のための検査官を欺くための偽の給与明細の作成
(4つの工場とは、いずれも広東省にある、東莞市の利奇文教用品有限公司、深圳市の裕栄昌軽工製品有限公司、東莞市の意高皮革製品有限公司、深圳市の飛達帽業控股有限公司です)
この調査報告書に対して、北京オリンピック組織委員会と中国政府は、指摘された4つの工場のうち、3つの工場では時間外労働が横行していること、残りの1つの工場では児童労働の事実があったことを認める声明を出し、これらの企業との契約を停止ないし破棄すると述べました。
「プレイフェア2008」は、北京オリンピック組織委員会と中国政府が調査報告書にもとづく対応をとったことは評価しました。しかし、「プレイフェア2008」は、企業との契約を破棄することは労働者をさらに窮地に追い込むだけであり、労働団体とも協力して労働条件を改善することこそが求められていると指摘しました。
また、北京オリンピック組織委員会の声明は、しかるべき賃金が支払われていなかった労働者に対する保障や救済について触れておらず、この点に関しても「プレイフェア2008」は失望を表明しました。
また、北京オリンピック組織委員会の声明は、企業の社会的責任(CSR)の問題に重点が置かれていて、労働者自身を中心にすえる視点がありませんでした。「プレイフェア2008」は「全世界のサプライチェーンにおける持続可能な改善は、労働者が自分たちの意思で選択した団体、すなわち自主的な労働組合を通じ、自由に自分たちの利益を代表することができるようになってはじめて達成できる」と指摘して、中国政府に結社の自由と団体交渉権を認めるよう求めました(以上は、「北京オリンピック組織委員会の声明に対する返答」より)。
こうした問題に関しては、国際オリンピック委員会(IOC)のイニシアチブも必要なのですが、IOCもきちんとした対応をしませんでした。「プレイフェア2008」は、この点についても批判をしています(「『IOCはプレイの質を上げるべき』、Playfair2008」)。
「プレイフェア2008」のサイトでは、IOCのロゲ会長に、オリンピック関連商品の生産をしている労働者の権利侵害に対して、IOCとしても責任を持って対処するように要望するメッセージを送ることができるようになっています(「フェアプレイをするようIOCに伝えよう!」)。私も送りました。
なお、今号の『CAWネットニュース』には、「プレイフェア2008」についての記事だけでなく、CAWネットジャパンとワーキング・ウィメンズ・タマリバの女性たちが香港の家事労働者組合を訪問した記事や、「衣服をつくる女性たち ジェンダー・世界の衣料産業・女性たちの運動」という連載の[3]「女性たちの疲労と病気1 衣料労働者の健康に及ぼす性別役割の影響」という記事も掲載されていて、興味深いです。
私は、多くの方にCAWネットジャパンにもご加入いただいて、こうした問題を知っていただいたり、解決する行動をしていただきたいと思います(CAWネットジャパンの紹介)。
私は、このキャンペーンのことを、先日送られてきた『CAWネットニュース』(CAWネットジャパン発行。CAW=アジア女性労働者委員会)23号の記事で知りました。その記事は、「スポーツウェア産業を実際に支えているのは、開発途上国の衣料労働者であり、その多くは女性であることを忘れるわけにはいけません。衣料労働者は、多国籍スポーツウェア会社を頂点として、途上国の製造業者、下請工場、孫受け工場、家内労働者に至るまで、数多くのサプライ・チェーンに組み込まれ、過酷な労働条件で働いています」と述べたうえで、クリーン・クローズ・キャンペーンの機関紙に掲載されていた“Beijing Olympics Here we come”(CCCnewsletter 24,Oct 2007)という文章の翻訳を掲載したものでした(中村洋子訳)。
その記事にも書かれていたことですが、この「プレイフェア2008」キャンペーンは、以下の組織が、労働者の権利を保障するためにそれぞれの役割を果たすよう求めています。
1.国際オリンピック委員会(IOC)
2.国内オリンピック委員会とオリンピック組織委員会
3.スポーツウェアブランド
4.スポーツウェア、スポーツシューズ、五輪ロゴ商品を供給する企業(サプライヤー)
5.政府
6.とくに中国政府
7.投資家
(詳しくは、それぞれをクリックしてみてください)
昨年6月には、この「プレイフェア2008」は、北京オリンピックのライセンス商品を供給している中国の工場で、労働者の権利が非常に侵害されていることを指摘した調査報告書(No medal for the Olympics on Labour Rights(英語版)|奥運労権零奨牌:奥林匹克標志生産工作環境調査報告(中国語版)[ともにPDFファイル])を発表しました。
この調査報告書は、中国の4つの工場で、次のような実態があることを明らかにしています。
・最低賃金を下回る給与
・長時間労働、強制的残業
・不合理な罰金や賃金カット
・安全衛生上の問題
・労働契約がないこと
・法律で認められた産休の欠如
・社会保障がない
・労働組合がない
・児童労働
・査察のための検査官を欺くための偽の給与明細の作成
(4つの工場とは、いずれも広東省にある、東莞市の利奇文教用品有限公司、深圳市の裕栄昌軽工製品有限公司、東莞市の意高皮革製品有限公司、深圳市の飛達帽業控股有限公司です)
この調査報告書に対して、北京オリンピック組織委員会と中国政府は、指摘された4つの工場のうち、3つの工場では時間外労働が横行していること、残りの1つの工場では児童労働の事実があったことを認める声明を出し、これらの企業との契約を停止ないし破棄すると述べました。
「プレイフェア2008」は、北京オリンピック組織委員会と中国政府が調査報告書にもとづく対応をとったことは評価しました。しかし、「プレイフェア2008」は、企業との契約を破棄することは労働者をさらに窮地に追い込むだけであり、労働団体とも協力して労働条件を改善することこそが求められていると指摘しました。
また、北京オリンピック組織委員会の声明は、しかるべき賃金が支払われていなかった労働者に対する保障や救済について触れておらず、この点に関しても「プレイフェア2008」は失望を表明しました。
また、北京オリンピック組織委員会の声明は、企業の社会的責任(CSR)の問題に重点が置かれていて、労働者自身を中心にすえる視点がありませんでした。「プレイフェア2008」は「全世界のサプライチェーンにおける持続可能な改善は、労働者が自分たちの意思で選択した団体、すなわち自主的な労働組合を通じ、自由に自分たちの利益を代表することができるようになってはじめて達成できる」と指摘して、中国政府に結社の自由と団体交渉権を認めるよう求めました(以上は、「北京オリンピック組織委員会の声明に対する返答」より)。
こうした問題に関しては、国際オリンピック委員会(IOC)のイニシアチブも必要なのですが、IOCもきちんとした対応をしませんでした。「プレイフェア2008」は、この点についても批判をしています(「『IOCはプレイの質を上げるべき』、Playfair2008」)。
「プレイフェア2008」のサイトでは、IOCのロゲ会長に、オリンピック関連商品の生産をしている労働者の権利侵害に対して、IOCとしても責任を持って対処するように要望するメッセージを送ることができるようになっています(「フェアプレイをするようIOCに伝えよう!」)。私も送りました。
なお、今号の『CAWネットニュース』には、「プレイフェア2008」についての記事だけでなく、CAWネットジャパンとワーキング・ウィメンズ・タマリバの女性たちが香港の家事労働者組合を訪問した記事や、「衣服をつくる女性たち ジェンダー・世界の衣料産業・女性たちの運動」という連載の[3]「女性たちの疲労と病気1 衣料労働者の健康に及ぼす性別役割の影響」という記事も掲載されていて、興味深いです。
私は、多くの方にCAWネットジャパンにもご加入いただいて、こうした問題を知っていただいたり、解決する行動をしていただきたいと思います(CAWネットジャパンの紹介)。
北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター、家政婦の労働保護条例を提案
中国の都市の豊かな家庭では、しばしば家政婦(家政労働者・家事労働者、メイド。中国語では「保姆」「家政服務員」「家政工」などと言う)が働いています。家政婦は、農村から来た若い出稼ぎの女性(打工妹と言う)であることが多いですが、リストラにあった中高年の女性もいます。通いの場合もありますが、住み込みの場合が多いです。
彼女たちの低賃金・長時間労働、社会保障がないこと、セクハラなどは大きな問題です。
こうした問題に対しては、北京のNGO「打工妹の家」が「家政服務員互助小組」なども設けてエンパワメントや権利擁護の活動をおこなっていますが、この7月、同じくNGOの北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターが、家事労働者労働保護条例(家政工労動保護条例)の建議稿を発表しました。
この建議稿は、家政婦の労働時間や賃金について、以下のように規定しています。
(労働時間)
・家政婦の1日の労働時間は10時間を超えてはならない。
・残業は、家政婦の同意を得なければならず、1日に2時間を越えてはならず、1週に15時間を越えてはならない。
・夜の10時から翌日の6時までは仕事をさせてはならない。もし夜に仕事をさせることが必要ならば、家政婦と相談し、昼に8時間の連続した睡眠時間を保証しなければならない。
・毎週1日は休日とする。
・働いて満1年で、有給休暇を与えなければならない。
(賃金)
・残業時間には、150%の賃金を支払わなければならない。法定休日の場合は、200%支払わなければならない。
・最低賃金の保障を定め、それを当地の最低賃金の基準とリンクさせる(1)。
ごくつつましやかな基準です。もちろんその背景には、現在の家政婦の劣悪な労働条件があるのですが、さらにその背景には、都市と農村との格差のほか、いまの中国では、家庭に私的に雇われた家政婦は労働法の適用外になっているということもあります。
さて、同センターのメンバーは、7月、広州で、国連女性発展基金(United Nations Development Fund for Women)と国連ジェンダーテーマグループ(United Nations Theme Group on Gender)の資金援助による「家事労働者労働権益プロジェクト(家政工労動権益項目)」の一環として、300名あまりの女性家事労働者に憲法や労働法、婦女権益保障法、女性差別撤廃条約などについての教育をおこないました。その際に、同センターは、家事労働者自身からも、権益保護についての意見や提案を聞きました。
同センターは、それだけでなく、雇い主や家政公司とおこなった「家政業法律規制座談会」や関係政府機関との座談会でも、この条例を提示し、それに対する意見を求めました。こうした座談会では、家事労働者の労働時間、研修、保険、紛争解決のメカニズムなどに関して、非常に激しい議論になったようです。
さらに、広東省の人民代表大会の代表や政治協商会議の委員の一部とも意見交換をして、広東省でこの条例が制定できる可能性やその障害についても議論しました(2)。
この条例には、家政業界の人の一部からも支持があるようです。たとえば、ある人は、この条例について「一部の市民には受け入れ難いかもしれないが、労働法に比べれば大幅に割り引かれている(注:中国の労働法では、1日8時間労働、残業は通常1日1時間まで、特殊な理由がある場合でも3時間まで、1ヶ月36時間までと定めている)。家政労働者の権益をきちんと保護してこそ、高い資質の人を吸収できる」と言います。
しかし、新聞記者の取材に応じた一般市民の中からは、こんな反発もありました。「家政婦の労働時間は弾力的であるべきだ。家政婦に仕事をしてほしいときに、家政婦が割増賃金を要求したり、休日に雇い主が休息したいときに、家政婦も休みを要求するのでは、家政婦を雇う意義はどこにあるのか? このような規定ができたら、市民は家政婦を雇わなくなって、家政婦の市場が萎縮したり、規制を受けない『ヤミの家政婦』が横行したりするかもしれない。」
また、広東省婦連の法律サービスセンターの弁護士の陳秋鵬さんは、次のように言います。「この案は、出発点は良い。けれど、職業の数は多いのに、家事労働者だけについて立法をするのは疑問である。また、この案は、家事労働者を『労働関係』と見なしているけれども、現在のわが国ではまだ『雇用(雇い入れる)関係』であって、労働法の調整を受けない。省の人民代表大会がそんなに画期的な立法をすることができるだろうか?」(1)
やはり、こうした条例を作るには、まださまざまな困難があるようです。
なお、中国の農村からの出稼ぎの家政婦の状況については、艾美玲(Mei-Ling Ellerman)さんの 「中国外来家政女工的性別与権益研究報告(Gender and Rights Research Report on Chinese Female Migrnt Domestic Workers)」という、50ページほどある大論文(中国語と英語の両方で書かれています)が今年4月に発表され、ダウンロードできるようになっています。
(1)「保姆毎日幹活禁10小時? 一項立法建議惹激辯」『羊城晩報』2007年7月24日、「律師質疑公平性 “保姆保護法”熱烈◇醸中」『信息時報』2007年7月24日。
(2)「2007年7月22日至26日,中心成員赴広州執行家政工労動権益項目」2007-07-31(写真あり。北京大学法学院婦女法律研究与服務中心HP)
彼女たちの低賃金・長時間労働、社会保障がないこと、セクハラなどは大きな問題です。
こうした問題に対しては、北京のNGO「打工妹の家」が「家政服務員互助小組」なども設けてエンパワメントや権利擁護の活動をおこなっていますが、この7月、同じくNGOの北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターが、家事労働者労働保護条例(家政工労動保護条例)の建議稿を発表しました。
この建議稿は、家政婦の労働時間や賃金について、以下のように規定しています。
(労働時間)
・家政婦の1日の労働時間は10時間を超えてはならない。
・残業は、家政婦の同意を得なければならず、1日に2時間を越えてはならず、1週に15時間を越えてはならない。
・夜の10時から翌日の6時までは仕事をさせてはならない。もし夜に仕事をさせることが必要ならば、家政婦と相談し、昼に8時間の連続した睡眠時間を保証しなければならない。
・毎週1日は休日とする。
・働いて満1年で、有給休暇を与えなければならない。
(賃金)
・残業時間には、150%の賃金を支払わなければならない。法定休日の場合は、200%支払わなければならない。
・最低賃金の保障を定め、それを当地の最低賃金の基準とリンクさせる(1)。
ごくつつましやかな基準です。もちろんその背景には、現在の家政婦の劣悪な労働条件があるのですが、さらにその背景には、都市と農村との格差のほか、いまの中国では、家庭に私的に雇われた家政婦は労働法の適用外になっているということもあります。
さて、同センターのメンバーは、7月、広州で、国連女性発展基金(United Nations Development Fund for Women)と国連ジェンダーテーマグループ(United Nations Theme Group on Gender)の資金援助による「家事労働者労働権益プロジェクト(家政工労動権益項目)」の一環として、300名あまりの女性家事労働者に憲法や労働法、婦女権益保障法、女性差別撤廃条約などについての教育をおこないました。その際に、同センターは、家事労働者自身からも、権益保護についての意見や提案を聞きました。
同センターは、それだけでなく、雇い主や家政公司とおこなった「家政業法律規制座談会」や関係政府機関との座談会でも、この条例を提示し、それに対する意見を求めました。こうした座談会では、家事労働者の労働時間、研修、保険、紛争解決のメカニズムなどに関して、非常に激しい議論になったようです。
さらに、広東省の人民代表大会の代表や政治協商会議の委員の一部とも意見交換をして、広東省でこの条例が制定できる可能性やその障害についても議論しました(2)。
この条例には、家政業界の人の一部からも支持があるようです。たとえば、ある人は、この条例について「一部の市民には受け入れ難いかもしれないが、労働法に比べれば大幅に割り引かれている(注:中国の労働法では、1日8時間労働、残業は通常1日1時間まで、特殊な理由がある場合でも3時間まで、1ヶ月36時間までと定めている)。家政労働者の権益をきちんと保護してこそ、高い資質の人を吸収できる」と言います。
しかし、新聞記者の取材に応じた一般市民の中からは、こんな反発もありました。「家政婦の労働時間は弾力的であるべきだ。家政婦に仕事をしてほしいときに、家政婦が割増賃金を要求したり、休日に雇い主が休息したいときに、家政婦も休みを要求するのでは、家政婦を雇う意義はどこにあるのか? このような規定ができたら、市民は家政婦を雇わなくなって、家政婦の市場が萎縮したり、規制を受けない『ヤミの家政婦』が横行したりするかもしれない。」
また、広東省婦連の法律サービスセンターの弁護士の陳秋鵬さんは、次のように言います。「この案は、出発点は良い。けれど、職業の数は多いのに、家事労働者だけについて立法をするのは疑問である。また、この案は、家事労働者を『労働関係』と見なしているけれども、現在のわが国ではまだ『雇用(雇い入れる)関係』であって、労働法の調整を受けない。省の人民代表大会がそんなに画期的な立法をすることができるだろうか?」(1)
やはり、こうした条例を作るには、まださまざまな困難があるようです。
なお、中国の農村からの出稼ぎの家政婦の状況については、艾美玲(Mei-Ling Ellerman)さんの 「中国外来家政女工的性別与権益研究報告(Gender and Rights Research Report on Chinese Female Migrnt Domestic Workers)」という、50ページほどある大論文(中国語と英語の両方で書かれています)が今年4月に発表され、ダウンロードできるようになっています。
(1)「保姆毎日幹活禁10小時? 一項立法建議惹激辯」『羊城晩報』2007年7月24日、「律師質疑公平性 “保姆保護法”熱烈◇醸中」『信息時報』2007年7月24日。
(2)「2007年7月22日至26日,中心成員赴広州執行家政工労動権益項目」2007-07-31(写真あり。北京大学法学院婦女法律研究与服務中心HP)
「中国における企業の社会的責任(CSR)」報告書
海外事業活動関連協議会(Council for Better Corporate Citizenship:CBCC)は、このところ、毎年、「中国における企業の社会的責任(CSR)」についての報告書を以下のように出しています。
海外事業活動関連協議会とは、「海外で事業活動をおこなう日系企業が、進出先社会から『良き企業市民』として受けいられれるよう、ステークホルダーズとの良好な関係作りを支援するため、経団連(現 日本経団連)により1989年に設立された団体」だとのことです(ホームページ)。
・『CBCC対話ミッション「中国における企業の社会的責任(CSR)」報告書』(2005年1月)
・『CBCC中国シンポジウム代表団報告書』(2006年4月)
・『CBCC対話ミッション「中国における企業の社会的責任(CSR)」報告書』(2007年3月)
(詳しくはホームページの「報告書」のコーナー参照。「団長所見」もPDFファイルで読めます。)
いずれの報告書も、以下の2点がテーマです。
(1)中国におけるCSRについて
(2)日系企業や海外事業活動関連協議会の今後の課題について
(1)の点も興味深いのですが、私はとくに(2)の点に注目しました。
なぜなら、中国の農村からの出稼ぎの女性労働者は、低賃金・長時間労働という劣悪な労働条件で働いているのですが、そうした女性労働者はしばしば外資系の企業やそのサプライヤー(下請け)の生産ラインの労働者だからです。すなわち、その労働条件に関しては、日本を含めた外資系の企業も責任を負っているのです。
実際、このブログでも取り上げた、ユニデンの中国工場における若い女性の出稼ぎ労働者ら1万数千人のストライキ(2004年12月発生。詳細)に関しては、日本総研の創発戦略センターによる「CSR Archves」のニュースレターでも、「中国における日系企業のCSRリスク」として取り上げられています。
さて、上記の海外事業活動関連協議会の2005年の報告書では、以下のように、サプライ・チェーン・マネジメントの取り組みを急ぐ必要性を提起しています。
「欧米企業では‥‥各社が世界共通の行動規範に基づき、関連会社及びサプライヤーへの‥‥定期的監査を実施している。監査の方法は業種により異なるが、各社のプログラムに基づき、社内外の監査チームが自社の定める行動規範に即して、サプライヤーにおける職場環境、労働基準などについて監査を行っている。‥‥これに対し、日本企業は、サプライ・チェーン・マネジメントへの取り組みはまだ始まったばかりであり、体制の整備やCSR担当者の任命などが急がれる」
また、今年3月の報告書では、NGOとの協力の必要性について触れています。
「欧米系企業は、欧米系NGOや中国の草の根NGOとの間に良好な協力関係を築き、社会貢献活動の推進に活用している。‥‥日系企業も‥‥長期的な視野から中国におけるNGOへの支援や協力を検討すべき時期に来ている」
欧米系企業のサプライ・チェーン・マネジメントやNGOとの協力は、極めて不十分とはいえ、出稼ぎの女性労働者の労働条件改善に若干の成果を挙げています。ですから、日本の財界系の団体も、そうした取り組みの必要性を指摘したことは重要だと考えます。
ただし、上で挙げた3つの報告書は、基本的には、海外事業活動関連協議会の代表団が、各地で中国や欧米のCSR関係団体や日本企業と意見交換をした記録にすぎません。けっして日本企業の取り組みについて詳しく述べた報告書ではないのです。出稼ぎの女性労働者の話もほとんど出てきません。
また、2年前に指摘された「サプライ・チェーン・マネジメントへの取り組み」も、まだ具体化されたという話は聞きません。
日系企業が中国におけるCSR活動に本気で取り組むためには、市民団体や労働組合がこうした問題に対する取り組みを強めて、企業を監視することが必要なのではないかと思います。
海外事業活動関連協議会とは、「海外で事業活動をおこなう日系企業が、進出先社会から『良き企業市民』として受けいられれるよう、ステークホルダーズとの良好な関係作りを支援するため、経団連(現 日本経団連)により1989年に設立された団体」だとのことです(ホームページ)。
・『CBCC対話ミッション「中国における企業の社会的責任(CSR)」報告書』(2005年1月)
・『CBCC中国シンポジウム代表団報告書』(2006年4月)
・『CBCC対話ミッション「中国における企業の社会的責任(CSR)」報告書』(2007年3月)
(詳しくはホームページの「報告書」のコーナー参照。「団長所見」もPDFファイルで読めます。)
いずれの報告書も、以下の2点がテーマです。
(1)中国におけるCSRについて
(2)日系企業や海外事業活動関連協議会の今後の課題について
(1)の点も興味深いのですが、私はとくに(2)の点に注目しました。
なぜなら、中国の農村からの出稼ぎの女性労働者は、低賃金・長時間労働という劣悪な労働条件で働いているのですが、そうした女性労働者はしばしば外資系の企業やそのサプライヤー(下請け)の生産ラインの労働者だからです。すなわち、その労働条件に関しては、日本を含めた外資系の企業も責任を負っているのです。
実際、このブログでも取り上げた、ユニデンの中国工場における若い女性の出稼ぎ労働者ら1万数千人のストライキ(2004年12月発生。詳細)に関しては、日本総研の創発戦略センターによる「CSR Archves」のニュースレターでも、「中国における日系企業のCSRリスク」として取り上げられています。
さて、上記の海外事業活動関連協議会の2005年の報告書では、以下のように、サプライ・チェーン・マネジメントの取り組みを急ぐ必要性を提起しています。
「欧米企業では‥‥各社が世界共通の行動規範に基づき、関連会社及びサプライヤーへの‥‥定期的監査を実施している。監査の方法は業種により異なるが、各社のプログラムに基づき、社内外の監査チームが自社の定める行動規範に即して、サプライヤーにおける職場環境、労働基準などについて監査を行っている。‥‥これに対し、日本企業は、サプライ・チェーン・マネジメントへの取り組みはまだ始まったばかりであり、体制の整備やCSR担当者の任命などが急がれる」
また、今年3月の報告書では、NGOとの協力の必要性について触れています。
「欧米系企業は、欧米系NGOや中国の草の根NGOとの間に良好な協力関係を築き、社会貢献活動の推進に活用している。‥‥日系企業も‥‥長期的な視野から中国におけるNGOへの支援や協力を検討すべき時期に来ている」
欧米系企業のサプライ・チェーン・マネジメントやNGOとの協力は、極めて不十分とはいえ、出稼ぎの女性労働者の労働条件改善に若干の成果を挙げています。ですから、日本の財界系の団体も、そうした取り組みの必要性を指摘したことは重要だと考えます。
ただし、上で挙げた3つの報告書は、基本的には、海外事業活動関連協議会の代表団が、各地で中国や欧米のCSR関係団体や日本企業と意見交換をした記録にすぎません。けっして日本企業の取り組みについて詳しく述べた報告書ではないのです。出稼ぎの女性労働者の話もほとんど出てきません。
また、2年前に指摘された「サプライ・チェーン・マネジメントへの取り組み」も、まだ具体化されたという話は聞きません。
日系企業が中国におけるCSR活動に本気で取り組むためには、市民団体や労働組合がこうした問題に対する取り組みを強めて、企業を監視することが必要なのではないかと思います。
農村女性の土地経営請負権をめぐる裁判
先日ご紹介した『中国婦女報』の「郷土中国」欄で「2006年の『三農(=農業・農村・農民)』女性ニュース」の一つとしてとりあげられていた、嫁に行った女性(出嫁女)28名が村民委員会を訴えた裁判を簡単に紹介します。
嫁に行った女性(出嫁女)に対する差別
徐冬梅ら28人の女性は、内モンゴル自治区のフフホト市賽罕区西把柵郷沙梁村で生まれ、結婚した夫はよその土地の人でしたけれど、戸籍はずっとこの村にあり、夫婦で一緒にこの村に住みました。
しかし、1999年から2000年にかけて、第2回目の土地請負(中国では改革開放後、それまでの農業の集団化をやめて、農民に土地を請け負わせる制度を始めた。その第1回目の土地請負が満期になったことにより第2回目の土地請負をした)に際して、村民委員会は、この村で生まれた未婚の女性には土地を分配しないと決めました。
また、2002年、村は、住宅用の建物と商用の建物を建てたのですが、村民代表大会は、この村で生まれた娘は、結婚後に村で済み続けるか否かにかかわらず、(よその土地から来た彼女の夫も含めて)それらの建物を分配される資格はないと決めました。
2002年6月の協定
彼女たちは、この問題を上級の関係部門(各クラスの党委員会・政府・人民代表大会・婦連)に繰り返し訴えました。その結果、2002年6月、彼女たちは村民委員会と、土地請負の権利を認めさせる協定を結ぶことができました。しかし、その協定の第4条の第1項では、嫁に行った女性には住宅用建物と商用建物は与えられないことが決められました。
しかも、その与えられた土地も、2004年には、住宅用建物と商用建物の建設用地として回収されてしまい、彼女たちの家庭は窮地に陥ります。
裁判へ。勝訴
そこで、2006年1月、彼女たちは村民委員会を相手取って、協定の第4条第1項が無効であることの確認を求めてフフホト市中級人民法院(裁判所)に裁判を起こしました。
女性に対して法律的援助をするNGOである北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターの弁護士と内モンゴルの弁護士が、彼女たち原告の代理人になりました。
裁判では、村民委員会の主任は「このような現象は、私たちの村だけでなく、全市・全内蒙古・全国に存在している」と言いました。フフホト市中級人民法院のある指導者も、「これに似た案件は多くて、以前は、人民法院は原告の請求を却下した。現在では裁判をするけれども、判決の際は心配が多い。村民委員会のやり方が違法なのは明らかだが、この事件を勝訴させたら、何百・何千もの女性が訴えるかもしれない。そうなったら執行するのが大変だ」と言ったとのことです(1)。
しかし、6月30日、フフホト市中級人民法院は「2002年6月の取り決めの第4条第1項は無効であり、被告の村民委員会はそれぞれの原告に男性と同等に住宅を与えよ」という判決を下しました(2)。
判決に従わない村民委員会、女性たちの座り込み、強制執行
村民委員会は以前から「判決には従う」と言っており、控訴もしませんでした。しかし8月5日、突然前言をくつがえし、「多数の村民は判決に同意していない」と言って、判決を執行しないと表明します。
原告の女性28人は怒り、同日、ある6階建の建物の屋根に登って集団で座り込みをし、村民委員会に判決を執行するよう要求しました。8日にフフホト市賽罕区政府の説得によって屋根から下りるまで、彼女たちは78時間も座り込みをしました(この座り込みは『中国婦女報』にも「過激だ」と批判されます)(3)。
次に彼女たちは、8月14日、フフホト市中級人民法院に強制執行を申請しました。けれど、村民委員会は8月31日、人民法院に再審請求までして抵抗します。
しかし、9月初め、法院は村民委員会の請求を棄却します。法院は9月18日には、村民委員会に15日以内に判決を履行するよう要求し、さもなければ強制執行の手段をとると通知しました。
けれど、村の党支部の書記は、「判決の後、この28名と同様の経歴を持つ数百名の女性が私たちにも建物をくれと言ってきた。けれども村にはそんなに多くの財産はない」などと言って渋ったようです(4)。
しかし、ついに11月22日、フフホト市中級人民法院の執行局の手によって、建物は28名の女性の手に渡されました(5)。
以上で述べたことからもわかるように、同様の問題は同じ村にも、他の村にも、全国各地にもあります。今年1月にも同じような問題が報道されていました(6)。また、判決の執行が難しいことも特徴です。こうした背景には、女性は結婚したら夫の宗族に入るという伝統的な家族制度の存在があります。
しかし、そうした困難を乗り越える女性たちの闘い(彼女たちの家庭全体の利益を代表している面もあると思いますが)がおこっていることにも注目すべきかと思います。
(1)以上は、「為争取和男性村民一様的待遇──呼市28位出嫁女与村委会対簿公堂」『中国婦女報』2006年5月16日。
なお、農村女性の土地請負経営権と従来の裁判に関してはいろいろ複雑な問題がありますが、その点については、何燕侠「中国農村女性の土地請負経営権をめぐる諸問題」『中国女性史研究』第10号(のち何燕侠『現代中国の法とジェンダー──女性の特別保護を問う』尚学社、2005年、第5章「農村女性の土地請負経営権とその実態」として収録)に詳しく書かれています。また、中山大学女性・ジェンダー研究センターによるサイト「農村婦女維権網――中国外嫁女経済法律文化研究網絡」も、こうした問題を取り上げています。
(2)「出嫁女勝訴,要回土地承包権」『中国婦女報』2006年7月3日。判決の詳細については、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターのサイトの「典型案例」コーナーに「内蒙古自治区徐某等28位出嫁女訴某村土地補償款案」として述べられています。
(3)「28位出嫁女“楼頂”討権引熱議 大多数人認為此行為過激」『中国婦女報』2006年8月12日。
(4)「呼市“出嫁女”案或可強制執行 不少村民反対執行,理由是同様遭遇的婦女還有200多名」『中国婦女報』2006年9月27日。
(5)「呼和浩特:28名出嫁女5年維権終討回公道」『北方新報』2006年11月23日。
(6)たとえば、今年も「又見出嫁女遭遇村規民約」(『中国婦女報』2007年1月18日)という記事が出ています。
嫁に行った女性(出嫁女)に対する差別
徐冬梅ら28人の女性は、内モンゴル自治区のフフホト市賽罕区西把柵郷沙梁村で生まれ、結婚した夫はよその土地の人でしたけれど、戸籍はずっとこの村にあり、夫婦で一緒にこの村に住みました。
しかし、1999年から2000年にかけて、第2回目の土地請負(中国では改革開放後、それまでの農業の集団化をやめて、農民に土地を請け負わせる制度を始めた。その第1回目の土地請負が満期になったことにより第2回目の土地請負をした)に際して、村民委員会は、この村で生まれた未婚の女性には土地を分配しないと決めました。
また、2002年、村は、住宅用の建物と商用の建物を建てたのですが、村民代表大会は、この村で生まれた娘は、結婚後に村で済み続けるか否かにかかわらず、(よその土地から来た彼女の夫も含めて)それらの建物を分配される資格はないと決めました。
2002年6月の協定
彼女たちは、この問題を上級の関係部門(各クラスの党委員会・政府・人民代表大会・婦連)に繰り返し訴えました。その結果、2002年6月、彼女たちは村民委員会と、土地請負の権利を認めさせる協定を結ぶことができました。しかし、その協定の第4条の第1項では、嫁に行った女性には住宅用建物と商用建物は与えられないことが決められました。
しかも、その与えられた土地も、2004年には、住宅用建物と商用建物の建設用地として回収されてしまい、彼女たちの家庭は窮地に陥ります。
裁判へ。勝訴
そこで、2006年1月、彼女たちは村民委員会を相手取って、協定の第4条第1項が無効であることの確認を求めてフフホト市中級人民法院(裁判所)に裁判を起こしました。
女性に対して法律的援助をするNGOである北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターの弁護士と内モンゴルの弁護士が、彼女たち原告の代理人になりました。
裁判では、村民委員会の主任は「このような現象は、私たちの村だけでなく、全市・全内蒙古・全国に存在している」と言いました。フフホト市中級人民法院のある指導者も、「これに似た案件は多くて、以前は、人民法院は原告の請求を却下した。現在では裁判をするけれども、判決の際は心配が多い。村民委員会のやり方が違法なのは明らかだが、この事件を勝訴させたら、何百・何千もの女性が訴えるかもしれない。そうなったら執行するのが大変だ」と言ったとのことです(1)。
しかし、6月30日、フフホト市中級人民法院は「2002年6月の取り決めの第4条第1項は無効であり、被告の村民委員会はそれぞれの原告に男性と同等に住宅を与えよ」という判決を下しました(2)。
判決に従わない村民委員会、女性たちの座り込み、強制執行
村民委員会は以前から「判決には従う」と言っており、控訴もしませんでした。しかし8月5日、突然前言をくつがえし、「多数の村民は判決に同意していない」と言って、判決を執行しないと表明します。
原告の女性28人は怒り、同日、ある6階建の建物の屋根に登って集団で座り込みをし、村民委員会に判決を執行するよう要求しました。8日にフフホト市賽罕区政府の説得によって屋根から下りるまで、彼女たちは78時間も座り込みをしました(この座り込みは『中国婦女報』にも「過激だ」と批判されます)(3)。
次に彼女たちは、8月14日、フフホト市中級人民法院に強制執行を申請しました。けれど、村民委員会は8月31日、人民法院に再審請求までして抵抗します。
しかし、9月初め、法院は村民委員会の請求を棄却します。法院は9月18日には、村民委員会に15日以内に判決を履行するよう要求し、さもなければ強制執行の手段をとると通知しました。
けれど、村の党支部の書記は、「判決の後、この28名と同様の経歴を持つ数百名の女性が私たちにも建物をくれと言ってきた。けれども村にはそんなに多くの財産はない」などと言って渋ったようです(4)。
しかし、ついに11月22日、フフホト市中級人民法院の執行局の手によって、建物は28名の女性の手に渡されました(5)。
以上で述べたことからもわかるように、同様の問題は同じ村にも、他の村にも、全国各地にもあります。今年1月にも同じような問題が報道されていました(6)。また、判決の執行が難しいことも特徴です。こうした背景には、女性は結婚したら夫の宗族に入るという伝統的な家族制度の存在があります。
しかし、そうした困難を乗り越える女性たちの闘い(彼女たちの家庭全体の利益を代表している面もあると思いますが)がおこっていることにも注目すべきかと思います。
(1)以上は、「為争取和男性村民一様的待遇──呼市28位出嫁女与村委会対簿公堂」『中国婦女報』2006年5月16日。
なお、農村女性の土地請負経営権と従来の裁判に関してはいろいろ複雑な問題がありますが、その点については、何燕侠「中国農村女性の土地請負経営権をめぐる諸問題」『中国女性史研究』第10号(のち何燕侠『現代中国の法とジェンダー──女性の特別保護を問う』尚学社、2005年、第5章「農村女性の土地請負経営権とその実態」として収録)に詳しく書かれています。また、中山大学女性・ジェンダー研究センターによるサイト「農村婦女維権網――中国外嫁女経済法律文化研究網絡」も、こうした問題を取り上げています。
(2)「出嫁女勝訴,要回土地承包権」『中国婦女報』2006年7月3日。判決の詳細については、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターのサイトの「典型案例」コーナーに「内蒙古自治区徐某等28位出嫁女訴某村土地補償款案」として述べられています。
(3)「28位出嫁女“楼頂”討権引熱議 大多数人認為此行為過激」『中国婦女報』2006年8月12日。
(4)「呼市“出嫁女”案或可強制執行 不少村民反対執行,理由是同様遭遇的婦女還有200多名」『中国婦女報』2006年9月27日。
(5)「呼和浩特:28名出嫁女5年維権終討回公道」『北方新報』2006年11月23日。
(6)たとえば、今年も「又見出嫁女遭遇村規民約」(『中国婦女報』2007年1月18日)という記事が出ています。
今年から『中国婦女報』に農民女性を扱う「郷土中国」欄
中華全国婦女連合会の機関紙『中国婦女報』は、今年1月から紙面の構成をかなり変えました。
『中国婦女報』は現在、週6日刊で、8面からなる新聞です。
その後半の4面は特定のテーマに当てられる場合が多く、そのテーマは曜日ごとに決まっています。
1月の紙面変更でかなり目立つのは、毎週土曜日の後半の4つの面が、農村女性をテーマにした「郷土中国」になったことです。
「郷土中国」刊行開始にあたっては、「中国女性の80%は農村女性であり、中国農村の60%以上の労働力は女性である」と述べられています。読者としては、農村の末端の婦連幹部や農村女性が念頭に置かれているようです。
誰が「郷土中国」の責任者なのかな? と思って見ると、「郷土中国」という題字の下に、「全国農村女性『双学双比(=基礎的教養を学び、科学技術を学び、発展を比べ、貢献を比べる)』指導グループ、全国農村巾幗(=女性)建功指導グループの指導」とあります。この点から見ると、全体としては農業生産に対する女性の貢献というテーマが重視されるのでしょう。
ただし、編集長[主編]は宋美婭さんというフェミニスト的色彩が強い人です。実際、女性の人権という観点も少しは盛り込まれるようです。
「郷土中国」の構成は以下のようになっています。
第1面(『中国婦女報』全体で数えれば第5面)は「要聞・新事」と題して、女性に関するニュースや調査などを紹介しています。
第2面は「興業・致富」であり、女性が農業生産によって富を実現することがテーマ、
第3面は「議事・説法」であり、農村や農民をめぐるさまざまなトラブルを論じ、法を説くことがテーマ、
第4面は「千家・万戸」であり、実際にあったいろいろなストーリーを紹介するようです。
1月6日付け紙面から、記事を二つ紹介してみます。
第1面は、「郷土中国」刊行開始に当たっての婦連の幹部の挨拶がメインですが、左下にやや小さいながら、「2006年の『三農(=農業・農村・農民)』女性ニュース」(1)という記事がありました。そこでは、以下の4件のニュースが挙げられています。
1.「一万名の農村女性の新農村建設参与アンケート調査」
2.「村の外に嫁に出た娘(出嫁女)28名が村民委員会を訴える」
3.「湖南の『女村官』プロジェクトが地方政府創新賞を獲得」
4.「江永の女書が初めて、非物質的な文化遺産に入る」
1の「新農村建設」というのは、中国政府が三農問題を解決するために打ち出した構想のことですが、後に述べる第2面に関連記事があります。
2.は、村民委員会が「未婚の娘は結婚して村の外に出るから、彼女たちには土地を与えない」という決定などをしたことをめぐる裁判で、次回、紹介します。
3.は、村民委員会の委員に女性を多く送り込むプロジェクトが湖南省でかなりの成功を収めた話で、次の1月13日付一面で詳しく報じられていました(村民委員会の委員の30%を女性が占めたそうです。女性委員の地位や待遇は男性よりまだ低いなど、問題は残っているようですが)(2)。
4.は、日本では遠藤織枝さんが詳しく研究しておられる、女書(女文字)(遠藤氏のサイト「女書世界」)のことです。
第2面には、「農村女性に10の願いがある」(3)という記事があります。
「10の願い」とは、だいたい以下のような内容です。
(1)農業生産発展のための資金や技術、プロジェクト(農村女性の最大の困難は、資金がないこと)
(2)生産や販売のための実用的な情報や技術指導
(3)その土地で、農業でない職業につくこと(家族をかかえているために、出稼ぎには行けない女性が多い)
(4)良い家を建てること
(5)子どもの教育費が安くなること
(6)政府が合作医療と養老保険の問題を解決すること(農村の女性には金がなくて医者にかかれない人が多い)
(7)政府が栽培や養殖のための技術訓練を提供すること
(8)政府が農村の「汚い・乱れている・悪い」を処理すること(生活環境の改善)
(9)婦連の組織が、富を実現する情報を提供すること
(10)婦連の組織が法律的援助(女性の権利やDVに関して)を提供すること
この記事は、上の1.で挙げた「新しい農村建設」をテーマにしたアンケート調査の中の質問をもとにしています。ですから、この記事にもそうした方向のバイアスがかかっているようにも見えます。しかしそれなりに実態を反映している面もあると思いました。
第3面と第4面は、1月13日付け紙面から紹介します。
第3面には、出稼ぎの農民労働者が、賃金の未払いに対して大変な苦労をして賃金を取り戻す話が出ています。
編者は、この話は「農民労働者に対するわが国の司法手続きと一部の法律執行人員の軽視と冷たさ」を示しているとコメントしています(4)。
第4面には、農民がブログを作っているということで、戴向陽(男性)の「農民の声」というブログが取り上げられています(5)。
『中国婦女報』は、少なくともこれまで農民の読者はほとんどおらず、農村関係の記事もあまり多いとは言えなかったと思います。
今回、週刊「郷土中国」が開設されたことは、中国共産党が「三農問題の重視」を唱えていることや、農業労働力の多くが女性になったことと関係しているのでしょう。
ただし、まだまだ農民女性の記事は多いとはいえませんし、また、『中国婦女報』なのですから、もう少し女性の独自の権利についての記事を増やしてもよいのではないかとも感じますが‥‥。
なお、今年から『中国婦女報』の「女界報道」面(月〜金曜の第3面)に、小さいながら時々「NGO」コーナーが開設されたことも、目につきました(もちろんこれまでも、NGOについての記事は掲載されてきましたが)。
(1)「2006─“三農”婦女新聞」『中国婦女報』2007年1月6日。
(2)「99.3%:湖南女村官比例居全国之首」『中国婦女報』2007年1月13日。
(3)「農村婦女有十盼」『中国婦女報』2007年1月6日。
(4)「討薪路上,跑細腿傷透心」『中国婦女報』2007年1月13日。
(5)「農民博客 農民説」『中国婦女報』2007年1月13日。
『中国婦女報』は現在、週6日刊で、8面からなる新聞です。
その後半の4面は特定のテーマに当てられる場合が多く、そのテーマは曜日ごとに決まっています。
1月の紙面変更でかなり目立つのは、毎週土曜日の後半の4つの面が、農村女性をテーマにした「郷土中国」になったことです。
「郷土中国」刊行開始にあたっては、「中国女性の80%は農村女性であり、中国農村の60%以上の労働力は女性である」と述べられています。読者としては、農村の末端の婦連幹部や農村女性が念頭に置かれているようです。
誰が「郷土中国」の責任者なのかな? と思って見ると、「郷土中国」という題字の下に、「全国農村女性『双学双比(=基礎的教養を学び、科学技術を学び、発展を比べ、貢献を比べる)』指導グループ、全国農村巾幗(=女性)建功指導グループの指導」とあります。この点から見ると、全体としては農業生産に対する女性の貢献というテーマが重視されるのでしょう。
ただし、編集長[主編]は宋美婭さんというフェミニスト的色彩が強い人です。実際、女性の人権という観点も少しは盛り込まれるようです。
「郷土中国」の構成は以下のようになっています。
第1面(『中国婦女報』全体で数えれば第5面)は「要聞・新事」と題して、女性に関するニュースや調査などを紹介しています。
第2面は「興業・致富」であり、女性が農業生産によって富を実現することがテーマ、
第3面は「議事・説法」であり、農村や農民をめぐるさまざまなトラブルを論じ、法を説くことがテーマ、
第4面は「千家・万戸」であり、実際にあったいろいろなストーリーを紹介するようです。
1月6日付け紙面から、記事を二つ紹介してみます。
第1面は、「郷土中国」刊行開始に当たっての婦連の幹部の挨拶がメインですが、左下にやや小さいながら、「2006年の『三農(=農業・農村・農民)』女性ニュース」(1)という記事がありました。そこでは、以下の4件のニュースが挙げられています。
1.「一万名の農村女性の新農村建設参与アンケート調査」
2.「村の外に嫁に出た娘(出嫁女)28名が村民委員会を訴える」
3.「湖南の『女村官』プロジェクトが地方政府創新賞を獲得」
4.「江永の女書が初めて、非物質的な文化遺産に入る」
1の「新農村建設」というのは、中国政府が三農問題を解決するために打ち出した構想のことですが、後に述べる第2面に関連記事があります。
2.は、村民委員会が「未婚の娘は結婚して村の外に出るから、彼女たちには土地を与えない」という決定などをしたことをめぐる裁判で、次回、紹介します。
3.は、村民委員会の委員に女性を多く送り込むプロジェクトが湖南省でかなりの成功を収めた話で、次の1月13日付一面で詳しく報じられていました(村民委員会の委員の30%を女性が占めたそうです。女性委員の地位や待遇は男性よりまだ低いなど、問題は残っているようですが)(2)。
4.は、日本では遠藤織枝さんが詳しく研究しておられる、女書(女文字)(遠藤氏のサイト「女書世界」)のことです。
第2面には、「農村女性に10の願いがある」(3)という記事があります。
「10の願い」とは、だいたい以下のような内容です。
(1)農業生産発展のための資金や技術、プロジェクト(農村女性の最大の困難は、資金がないこと)
(2)生産や販売のための実用的な情報や技術指導
(3)その土地で、農業でない職業につくこと(家族をかかえているために、出稼ぎには行けない女性が多い)
(4)良い家を建てること
(5)子どもの教育費が安くなること
(6)政府が合作医療と養老保険の問題を解決すること(農村の女性には金がなくて医者にかかれない人が多い)
(7)政府が栽培や養殖のための技術訓練を提供すること
(8)政府が農村の「汚い・乱れている・悪い」を処理すること(生活環境の改善)
(9)婦連の組織が、富を実現する情報を提供すること
(10)婦連の組織が法律的援助(女性の権利やDVに関して)を提供すること
この記事は、上の1.で挙げた「新しい農村建設」をテーマにしたアンケート調査の中の質問をもとにしています。ですから、この記事にもそうした方向のバイアスがかかっているようにも見えます。しかしそれなりに実態を反映している面もあると思いました。
第3面と第4面は、1月13日付け紙面から紹介します。
第3面には、出稼ぎの農民労働者が、賃金の未払いに対して大変な苦労をして賃金を取り戻す話が出ています。
編者は、この話は「農民労働者に対するわが国の司法手続きと一部の法律執行人員の軽視と冷たさ」を示しているとコメントしています(4)。
第4面には、農民がブログを作っているということで、戴向陽(男性)の「農民の声」というブログが取り上げられています(5)。
『中国婦女報』は、少なくともこれまで農民の読者はほとんどおらず、農村関係の記事もあまり多いとは言えなかったと思います。
今回、週刊「郷土中国」が開設されたことは、中国共産党が「三農問題の重視」を唱えていることや、農業労働力の多くが女性になったことと関係しているのでしょう。
ただし、まだまだ農民女性の記事は多いとはいえませんし、また、『中国婦女報』なのですから、もう少し女性の独自の権利についての記事を増やしてもよいのではないかとも感じますが‥‥。
なお、今年から『中国婦女報』の「女界報道」面(月〜金曜の第3面)に、小さいながら時々「NGO」コーナーが開設されたことも、目につきました(もちろんこれまでも、NGOについての記事は掲載されてきましたが)。
(1)「2006─“三農”婦女新聞」『中国婦女報』2007年1月6日。
(2)「99.3%:湖南女村官比例居全国之首」『中国婦女報』2007年1月13日。
(3)「農村婦女有十盼」『中国婦女報』2007年1月6日。
(4)「討薪路上,跑細腿傷透心」『中国婦女報』2007年1月13日。
(5)「農民博客 農民説」『中国婦女報』2007年1月13日。
農村に残された「留守女性」(2)
三、「農業の女性化」「留守女性」とジェンダー
前回の(1)の続きです。
「留守女性」という現象は昨日今日に始まったことではなく、1990年代から「農業の女性化」「男工女耕」という形では、中国で女性問題研究者たちに注目されてきました。
たとえば、金一虹さんはすでに1990年に、既婚女性は家事育児の負担があるために農村を離れられないので、農業労働力の女性化が進んでいることを指摘しています。また金さんは、農村の労働力は「社会の工業労働力全体の貯水池」だが、農村の女性は「貯水池の中の貯水池」、すなわち「二級の貯水池」であるとも言っています(1)。
また、農村女性が「農業・副業生産のあまりに重い負担を一人で担い、くわえて多くて重い家事労働と子どもの教育など‥‥が女性の身体の健康に影響を与える」ことも、つとに気付かれていました(2)。
ただし、「留守女性」という言葉自体がよく聞かれるようになるのは割合最近のことのように思います。このことは出稼ぎの広がりを意味しているのかもしれません。
いずれにしろ、こうした「農業の女性化」「留守女性」という現象には、ジェンダーの視点から見て以下のような問題があると指摘されています。
第一の問題は、女性が農業にしかつけないことは、男女の収入の格差を拡大させるということです。
高小賢さんはすでに1993年に「農業の女性化は女性の地位の向上に明らかに不利である。それは、女性の家庭の収入と社会的総生産額における女性労働の比重を相対的に下降させる」と述べています。なぜなら、「社会の総生産額に占める農業生産額の相対的比重は低下している」からです(3)。
2000年におこなわれた第2回中国女性の社会的地位調査では、農村女性の収入は男性の59.6%にとどまりました。10年前と比べて19.4%も格差が拡大しました。この調査をおこなったグループも、「農業労働の女性化という趨勢が、農村の女性の収入が男性より少ない主な原因である」と指摘しています(4)。
第二の問題は、「農村の女性が農業労働の主要な参与者であることは、けっして彼女たちに、所有者と管理者の身分を賦与しない」ことです(5)。
所有という面では、「責任田は、観念上・習慣法上は夫のものである」ということがあります(6)。
また、管理という面では、「現段階の農村労動力の非農産業への転移は往往にして兼業性を帯びており、転移した男性労動力が依然として家庭の農作業の管理者であるほか、責任田に何をどれほど植えるのか、売りに出すのかどうかなどを決定する」という指摘があります(7)。
また、「農業労働に新たな性別分業のモデルが出現している」ことも指摘されています。すなわち「農業労働を技術的構成の高い労働と非技術的な労働に分けると、前者の機械耕作・電気潅漑・植物保護などに従事しているのは男性であり、後者の日常的な耕作地の管理は多く女性が引き受けている」というのです(8)。
実際、家庭の農業生産を主に妻がになっている場合でも、無錫県(錫山市)の堰橋鎮の姑亭廟における調査で、農民女性に対して「あなたの夫が農業以外の仕事に従事し、あなたが家庭の農業生産を主に引き受けたとき、あなたの家の中での地位にどんな変化が発生しましたか?」と質問すると、複数回答可の質問であるにもかかわらず、「私が家の中で話す分量が増した」という回答は8.06%、「私が以前より多く決定をできるようになった」は11.37%、「私が家族の支出を決定する権力が増した」は3.79%、「夫が以前より私の面倒を見るようになった」は4.74%、「夫が以前より家事をするようになった」は6.16%にとどまっており、68.57%の人は「基本的に変化がなかった」と答えています(9)。
もっとも、責任田の管理や農業労働における性別分業という点は、夫が農村から離れた土地に出稼ぎに行くと、さすがに様相が変わってくるようです。つまり、女性が農業労働の主力になることによって、「自主的意識」や「独立した生存能力」「独立した人格」が形成される面があるとも言われます(10)。
ただしその分、次の問題、すなわち前回から述べてきた点──
第三の問題として、女性の二重負担、三重負担が深刻になるようです。
この点も、もちろん女性の発展・発達にマイナスです。前回述べたように、性犯罪の問題もあります。
結局、大きな目で見ると、夫が出稼ぎに行ってしまう場合を含めて、農業の女性化は「『男は外をつかさどり、女は内をつかさどる』という考えの、現在の社会における表現形態であり、それは、相変わらず『女は家の中でじっとし,男は世界に向かって歩む』ということを体現している」と言わざるをえないようです(10)。
(1)金一虹「経済改革中的農村婦女現状与出路」李小江・譚深主編『中国婦女分層研究』(河南人民出版社 1990年)33-40頁。
(2)任青雲・董琳「農民身份与性別角色──中原農村“男工女耕”現象考察」李小江主編『平等与発展』(生活・読書・新知三聯書店 1997年)184-185頁。
(3)高小賢「経済改革与農村婦女」『中国婦女与発展──地位 健康 就業』(河南人民出版社 1993年)116-117頁。
(4)第二期中国婦女社会地位調査課題組「第二期中国婦女社会地位抽様調査主要数据報告」『婦女研究論叢』2001年第5期。
(5)佟新・尤彦「反思与重構──対中国労動性別分工研究的回顧」『複印報刊資料 婦女研究』2002年第6期(原載は『浙江学刊』2002年4期)40頁。
(6)同上。
(7)高小賢、前掲論文
(8)金一虹「農村婦女発展的資源約束与支持」『複印報刊資料 婦女研究』2001年第1期(原載は『浙江学刊』2000年6期)29頁。
(9)笑冬『站在国家与男人之間──中国農村工業化的性別推動力』(中国物資出版社 2002年)95-98頁。
(10)任青雲・董琳、前掲論文、185頁。
その他、最近発表された孫瓊如「農村留守妻子家庭地位的性別考察」(『中華女子学院山東分院学報』2006年2期)が、以上のような問題をきれいにまとめているように思います(ただし、この論文は典拠がしっかり書かれていない)。
前回の(1)の続きです。
「留守女性」という現象は昨日今日に始まったことではなく、1990年代から「農業の女性化」「男工女耕」という形では、中国で女性問題研究者たちに注目されてきました。
たとえば、金一虹さんはすでに1990年に、既婚女性は家事育児の負担があるために農村を離れられないので、農業労働力の女性化が進んでいることを指摘しています。また金さんは、農村の労働力は「社会の工業労働力全体の貯水池」だが、農村の女性は「貯水池の中の貯水池」、すなわち「二級の貯水池」であるとも言っています(1)。
また、農村女性が「農業・副業生産のあまりに重い負担を一人で担い、くわえて多くて重い家事労働と子どもの教育など‥‥が女性の身体の健康に影響を与える」ことも、つとに気付かれていました(2)。
ただし、「留守女性」という言葉自体がよく聞かれるようになるのは割合最近のことのように思います。このことは出稼ぎの広がりを意味しているのかもしれません。
いずれにしろ、こうした「農業の女性化」「留守女性」という現象には、ジェンダーの視点から見て以下のような問題があると指摘されています。
第一の問題は、女性が農業にしかつけないことは、男女の収入の格差を拡大させるということです。
高小賢さんはすでに1993年に「農業の女性化は女性の地位の向上に明らかに不利である。それは、女性の家庭の収入と社会的総生産額における女性労働の比重を相対的に下降させる」と述べています。なぜなら、「社会の総生産額に占める農業生産額の相対的比重は低下している」からです(3)。
2000年におこなわれた第2回中国女性の社会的地位調査では、農村女性の収入は男性の59.6%にとどまりました。10年前と比べて19.4%も格差が拡大しました。この調査をおこなったグループも、「農業労働の女性化という趨勢が、農村の女性の収入が男性より少ない主な原因である」と指摘しています(4)。
第二の問題は、「農村の女性が農業労働の主要な参与者であることは、けっして彼女たちに、所有者と管理者の身分を賦与しない」ことです(5)。
所有という面では、「責任田は、観念上・習慣法上は夫のものである」ということがあります(6)。
また、管理という面では、「現段階の農村労動力の非農産業への転移は往往にして兼業性を帯びており、転移した男性労動力が依然として家庭の農作業の管理者であるほか、責任田に何をどれほど植えるのか、売りに出すのかどうかなどを決定する」という指摘があります(7)。
また、「農業労働に新たな性別分業のモデルが出現している」ことも指摘されています。すなわち「農業労働を技術的構成の高い労働と非技術的な労働に分けると、前者の機械耕作・電気潅漑・植物保護などに従事しているのは男性であり、後者の日常的な耕作地の管理は多く女性が引き受けている」というのです(8)。
実際、家庭の農業生産を主に妻がになっている場合でも、無錫県(錫山市)の堰橋鎮の姑亭廟における調査で、農民女性に対して「あなたの夫が農業以外の仕事に従事し、あなたが家庭の農業生産を主に引き受けたとき、あなたの家の中での地位にどんな変化が発生しましたか?」と質問すると、複数回答可の質問であるにもかかわらず、「私が家の中で話す分量が増した」という回答は8.06%、「私が以前より多く決定をできるようになった」は11.37%、「私が家族の支出を決定する権力が増した」は3.79%、「夫が以前より私の面倒を見るようになった」は4.74%、「夫が以前より家事をするようになった」は6.16%にとどまっており、68.57%の人は「基本的に変化がなかった」と答えています(9)。
もっとも、責任田の管理や農業労働における性別分業という点は、夫が農村から離れた土地に出稼ぎに行くと、さすがに様相が変わってくるようです。つまり、女性が農業労働の主力になることによって、「自主的意識」や「独立した生存能力」「独立した人格」が形成される面があるとも言われます(10)。
ただしその分、次の問題、すなわち前回から述べてきた点──
第三の問題として、女性の二重負担、三重負担が深刻になるようです。
この点も、もちろん女性の発展・発達にマイナスです。前回述べたように、性犯罪の問題もあります。
結局、大きな目で見ると、夫が出稼ぎに行ってしまう場合を含めて、農業の女性化は「『男は外をつかさどり、女は内をつかさどる』という考えの、現在の社会における表現形態であり、それは、相変わらず『女は家の中でじっとし,男は世界に向かって歩む』ということを体現している」と言わざるをえないようです(10)。
(1)金一虹「経済改革中的農村婦女現状与出路」李小江・譚深主編『中国婦女分層研究』(河南人民出版社 1990年)33-40頁。
(2)任青雲・董琳「農民身份与性別角色──中原農村“男工女耕”現象考察」李小江主編『平等与発展』(生活・読書・新知三聯書店 1997年)184-185頁。
(3)高小賢「経済改革与農村婦女」『中国婦女与発展──地位 健康 就業』(河南人民出版社 1993年)116-117頁。
(4)第二期中国婦女社会地位調査課題組「第二期中国婦女社会地位抽様調査主要数据報告」『婦女研究論叢』2001年第5期。
(5)佟新・尤彦「反思与重構──対中国労動性別分工研究的回顧」『複印報刊資料 婦女研究』2002年第6期(原載は『浙江学刊』2002年4期)40頁。
(6)同上。
(7)高小賢、前掲論文
(8)金一虹「農村婦女発展的資源約束与支持」『複印報刊資料 婦女研究』2001年第1期(原載は『浙江学刊』2000年6期)29頁。
(9)笑冬『站在国家与男人之間──中国農村工業化的性別推動力』(中国物資出版社 2002年)95-98頁。
(10)任青雲・董琳、前掲論文、185頁。
その他、最近発表された孫瓊如「農村留守妻子家庭地位的性別考察」(『中華女子学院山東分院学報』2006年2期)が、以上のような問題をきれいにまとめているように思います(ただし、この論文は典拠がしっかり書かれていない)。
