2018-02

中国における#MeTooとキャンパスセクハラ反対運動

<目次>
一 北京航天航空大学卒業生の羅茜茜さん、#MeTooに触発され、在学時の陳小武教授のセクハラを実名で告発
 1 告発の内容と大学に訴えるまでの経過
 2 腰が重い大学、陳の圧力――実名での告発へ
 3 大学が陳の停職などを発表、それに対する懸念
 4 問題を否認する陳に対して他の女子学生の証言や録音も公開
二 さまざまな大学の卒業生と在学生が、各大学に対して、キャンパスセクハラ防止システム確立を実名の連署で訴え
 1 昨年から訴えていた何息さんが、西安外国語大学に対して
 2 広州新メディア女性ネットワークが、教育部と北京航空航天大学とに対して、キャンパスセクハラ防止のための規定の案を付して
 3 羅茜茜さんも、北京航空航天大学に対して
 4 半月余りの間に74大学で延べ8000人が署名
 5 大学当局の警戒、署名サイトは次々に削除
 6 削除されても続けられる運動、一部大学からは返答
 7 全国大学教員反セクハラ宣言
三 #MeTooに触発された女性記者・黄雪琴さんの「中国女性記者セクハラ状況調査」。黄さんと羅さん、万弁護士の協力
 1 黄雪琴さんの「中国女性記者セクハラ状況調査」
 2 黄雪琴さんと万淼淼弁護士が羅さんに協力
四 羅さんの告発は成果、教育部も対応
 1 北京航空航天大学、陳の教員資格取り消し、セクハラ防止システムの整備を表明
 2 全国の大学生が教育部にも要求
 3 教育部は、陳の「長江学者」称号取消、セクハラ防止システムの研究を表明
 4 フェミニスト活動家の教育部への要求
五 これまでのキャンパスセクハラ反対運動の積み重ね
 1 厦門大学のセクハラ事件をめぐる運動(2014年)
 2 中国の大学生のセクハラに遭遇状況調査(2017年)→今後は、全国的ネットワークの構築を呼びかける
六 さまざまな論評
 1 欧米のMeToo運動との相違
 (1)芸能界や政界ではなく、大学が中心
 (2)欧米に比べて困難な点――セクハラ防止のための制度のなさ、インターネット規制・社会的統制の強さ、フェミニズムの蓄積の短さ
 2 中国における変化――若者や女子学生と高等教育の家父長制との矛盾の顕在化、セクハラ認識の高まり
 3 「師徳師風」という枠組み、システムの整備だけでは不十分

[要旨]
 北京航天航空大学卒業生の羅茜茜さんは、今年1月1日、在学時に陳小武教授に受けたセクハラを実名で告発した。羅さんは、昨年10月から、アメリカでの#MeTooの呼びかけに触発されて、SNSで自らの被害を公表し、他の被害者たちとも話し合って、大学に陳を告発してきた。しかし、大学の動きは鈍く、陳が被害者に圧力をかけはじめたので、それに対抗するために、実名で告発したのだ。
 当日のうちに、大学は、この問題は調査中であり、陳をとりあえず停職にしたと発表した。しかし、大学は「セクハラ」の語を回避して「師徳師風」の問題として捉えていた。また、今まで他の大学では、調査の結果がうむやになったこともしばしばあった。陳も問題を否認した。そこで、羅さんらは、他の被害者の証言も発表し、セクハラの録音も公表した。
 また、羅さんを先頭に、さまざまな大学の卒業生と在校生が、各大学に対して、キャンパスセクハラ防止システム確立を実名の連署で訴える動きが起こった。この動きは、20日までに74大学、のべ8000人に広がった。しかし、多くの大学は、署名サイトを削除するなど、運動に対する警戒心をあらわにした対応をした。
 しかし、それにもめげず運動は続けられたし、きちんとした対応をした大学もあった。また、教員による宣言も出されたり、全国的ネットワークを呼びかける動きが起きたりもした。
 そして、羅さんの告発に対して、12日、北京航天航空大学は、陳の教員として資格を取消し、今後セクハラ防止システムを整備すると表明した。教育部もそうしたシステムを研究することを表明した。
 昨年11月に、やはり#MeTooに触発されて、自らの被害を訴えた女性記者・黄雪琴さんが「中国女性記者セクハラ状況調査」を開始していたのだが、今回の羅さんの告発には、その黄さんらも協力した。
 また、すでに2014年に、厦門大学などを中心に全国でセクハラについての学生や学者の運動が起きており、その際に作成された「高等教育学校セクシュアルハラスメント防止管理弁法」や「厦門大学セクシュアルハラスメント防止規範」は、今回の運動でも活用された。さらに、2017年、民間のグループが発表した中国の大学生のセクハラ遭遇状況調査も、今回の運動で活用された。
 今回の中国の運動について、欧米の#MeToo運動と比較すると、芸能界や政界ではなく、大学が中心であることが指摘されている。また、欧米に比べていくつも困難な点(セクハラ防止のための制度のなさ、インターネット規制・社会的統制の強さ、フェミニズムの蓄積の短さ)があることも指摘されている。しかし、同時に中国でも、若者や女子学生と高等教育の家父長制との矛盾が顕在化し、セクハラ認識の高まってきたことも、今回の運動の背景として指摘されている。

一 北京航天航空大学卒業生の羅茜茜さん、#MeTooに触発され、在学時の陳小武教授のセクハラを実名で告発

1 告発の内容と大学に訴えるまでの経過

2018年1月1日、羅茜茜さんは、インターネットの微博で、博士課程時代の副指導教官の陳小武教授が、自分在学中に、自分を含めた女子学生に対してセクハラをしていたことを告発した(1)

陳教授は、「長江学者」(中国の教育部が、国内外の優秀な学者を中国の高等教育機関に招致して、国際的にトップレベルの学術界のリーダーを養成することを目的とした「長江学者奨励計画」(2)によって招致された学者)の1人でもあった。

羅さんが微博に書いたのは、以下のような内容である。

羅さんは、2000年に北京航天航空大学に入学し、2004年には直接博士課程に入り、2011年に博士課程を卒業した。現在は、アメリカ在住である。

2017年10月15日、羅さんは、ハリウッドの大物プロデューサーのハーヴィー・ワインスタインが多くの女性にセクハラをしていたことが明るみに出た事件をめぐって、アリッサ・ミラノがツイッターで、性暴力の問題の巨大さを示すために自らの被害を公表する「#MeToo」の活動を呼びかけたことを知った。

そのとき、羅さんは心の中で「me too」と言った。羅さんは、北京航天航空大学の学友のグループチャットの中の「北航の陳小武先生をどう評価するか」というスレッドを開いてみた。

すると、ある匿名の女性が、陳小武から「あなたが数年間、私に一途になって、ボーイフレンドを作らず、私に対して絶対的な忠誠を誓ったら、ほしいものを何でもあげる」と言われ、今後の進路のことも言われて、ホテルに誘われたことを書いていた。それを断ったら、口をきいてくれなくなったという。また、別の匿名の女性は、2人きりのデートに誘われたことを書いていた。また、陳が女子学生に対しては軽薄なことを言って、ひどいからかいをするという投稿も、いくつも匿名でなされていた。

羅さんは呆然とするとともに、ついに立ち上がった人たちが出てきたことに感激した。

2日後、羅さんはそのスレッドに匿名で、今から12年前の2004年末~2005年初めに、自分が陳からセクハラを受けたことを、おおむね以下のように書き込んだ。

私が博士課程に進学したばかりのある日の午後、陳は私に「姉が外国に行って、姉の家の花の面倒を見る人がいなくなった。女子学生は生まれつきそういうことが上手だから、来てほしい」と言った。私は、「私は上手ではない」と言ったが、陳がどうしても、と言うので、陳の機嫌を損ねるのを恐れて、彼の姉の家に行った。陳は「妻との関係がうまくいっていない」「その原因は、妻が保守的すぎて、性生活が不調和だからだ」と言い、「あなたは知ってるか? 実際はとてもおもしろいんだ」と言って、性行為を強要しようとした。私はすっかり怖くなって、泣きながら「陳先生、やめてください。私はまだ処女です。私は何もわかりません」と言った。陳は私が処女だと聞いて少しためらったようで、その後も私はずっと泣き続けたので、ようやく諦めた。陳は、私を送って帰るとき、助手席に座らせて、手をなでながら、「今日起こったことは、誰にも言ってはならない」と口止めした。

これ以後、私は陳にずっと反発の気持ちを持つようになり、陳も私にずっと意地悪をした。その後出国する機会ができたら、私はすぐに出国した。それは彼の魔手から逃れるためだった。彼の下で勉強していた数年間は、私の人生の悪夢だった。なぜなら、陳にひどくいじめられて、出国前には、うつ病になって、幻聴や幻覚も出ていた。抗鬱剤を飲むことで、どうにかやってこられた。

私が知るところでは、現在少なくとも5人の女子学生が彼にセクハラを受けたことがあることが明確である。ますます多くの人が立ち上がるにしたがって、精神的被害者の人数は増えつつある。私は学位のために、長い間立ち上がる勇気がなかったことをずっと後悔してきた。もし立ち上がっていれば、その後これほど多くの被害者が出なかっただろう。私が最初のセクハラの被害者に違いない。姉妹たちに対して、私の告発が遅くなったことをおわびする。

以上の陳述には絶対に嘘はないことを私は保証する。もし今後必要になれば、私は実名で通報する。アメリカはセクハラについて非常に厳格な法規と通報システムがあるが、私たちの中国にはない。そのことこそが、このような恥知らずが無法の限りを尽くす機会を与えている。私は社会の関心を呼び起こして、このような学術の恥知らずを追放するとともに、女子大学院生という弱者たちを保護する措置を導入したい。

羅さんが自分の被害について訴えると、続々と以前同じ実験室にいた学友が羅さんに連絡を取ってきたという。

羅さんは、自分一人の証言だけでは不十分なので、陳にセクハラにあった女性の校友とともに「Hard Candy」というグループを作った。この名称は、少女が性犯罪者に報復をする映画からとったものだった。といっても、彼女たちは私的に陳に報復しようと思ったわけではない。当初はその後の行動についてまでは考えておらず、ただ事実を知りたかった。そのグループで女性たちは、自分がセクハラをされた経験について語り合った。

しかし、セクハラの被害について語るのは難しい。グループの中にも、以前陳にセクハラの被害に遭ったけれども、グループでは自分の被害について訴えずに沈黙を守った女性もいた。陳さんは、その女性の気持ちがわかった。

羅さん自身も、陳にセクハラの被害にあったときは、陳を告発できなかった。羅さんは父母にそのことを言ったのだが、保守的な父母は、それを不名誉なことだと思った。また、父母は、羅さんが勉学に努力して大学から推薦をもらっていたので、陳のセクハラを告発したら、陳に報復されて推薦を取り消されることを心配した。

「北航の陳小武先生をどう評価するか」というスレッドでの話は盛り上がり、ある卒業生からは、友人が「陳に大金を貸した。その金は、陳が女子学生を妊娠させて、家族に怒鳴りこまれたので、口止めをするための金だった」と言っているという情報も入ってきた。

また、グループの中のBさんは、陳のセクハラの証拠になる録音を提出してくれた。Bさんはセクハラをされていた2年間、自己防衛のために、陳の発言を録音していた。そこには、陳がBさんに「私の愛人になれ」、「同棲しよう」、「ホテルの部屋を取った」と言ったり、からかったりしていたことが記録されていた(3)

証言や証拠がそろったので、羅さんはこの男を徹底的に打倒するときだと思った。そこで、北航の校友会の会長に連絡をとって、北航の指導者に引き合わせるよう求め、陳を女子学生にセクハラをしたことを実名で通報したいと言った。

すると、すぐに北航の規律検査委員会の教員から陳さんに連絡があった。羅さんは北航の規律検査委員会に、陳のセクハラには、3つの証拠があると言った。1.私たち被害者の証言、2.女子学生Bの録音、3.陳が女子学生を妊娠させたとき、金を借りて口止め料を払った際の、その貸借過程を証明する第三者である。

2 腰が重い大学、陳の圧力――実名での告発へ

10月下旬に羅さんは実名で北航の規律検査委員会に通報したのだが、同委員会は、もっと多くの証拠が必要だとずっと言っていた。

規律検査委員会は、Bさんの録音について、陳の声と非常に似ていることは認めたが、まだ技術的な鑑定が必要だと言った。また、規律検査委員会は、陳を問いただしたときに、陳がさまざまな理由を見つけて、取り繕うことを心配した。たとえば、「これは、私がおしゃべりしているときの映画の中のセリフだ」とか「以前のガールフレンドと恋愛していた時のものだ」とか言うのではないかというのだ。

また、陳は、自分のセクハラについて書かれたスレッドを削除し始めた。

さらに、陳は、Bさんに電話をして圧力をかけた。Bさんは、今後、仕事の必要上、以前の指導教官だった陳の署名をもらわなければならなかったので、Bさんは、陳が、Bさんが大学から学位や学歴の証明をもらうことを妨害することを恐れた。Bさんは、また、陳が家族に報復するのではないかということも恐れた。

しかし、Bさんは、録音を弁護士に渡すことは同意した(4)

また、規律検査委員会は、被害者と面談したいと何度も言った。しかし、羅さんは、被害者の情報が漏れるのを警戒して、面談は断った。同委員会の調査にははっきりした進展はなかった。

その間に、以前は積極的に活動してきた1人のメンバーが、家族に心配され、反対されたために、グループから抜けるということも起きた。

そのため、羅さんは、これ以上待てないと思い、大学に催促をするために、ネット上で暴露することが必要だと考えた。「Hard Candy」グループは、みんなで投票するというやり方で、この決定を支持した(5)

3 北京航空航天大学が陳の停職などを発表、それに対する懸念

北京航空航天大学は、1日の午後7時に、以下の声明を出した(6)

大学はずっと最近のSNSの本学の教員の陳小武の師徳師風(教師としての道徳、態度)問題の評判と実名の通報を重視してきており、まず工作組を設立し、迅速に調査と事実確認をおこない、すでに陳小武をとりあえず停職にした。北京航空航天大学は、師徳師風に反する行為に対しては一切容認しない。事実であることを確認したら、断固として厳しく処分し、けっしていい加減にはしない。

しかし、この大学側の声明に関しては、以下の2点について、疑問や懸念が出た。

第一に、李钘瀅さんという人が「四年間に13件の大学教員のセクハラ事件が明るみに出ているが、その1/3は調査結果が不明である」という文章を発表し、今回もそれらと同様の結果にならないか、危惧の念を表明した(7)。北京航空航天大学以外の12件の事件の一覧は、以下である。

2014年
・5月、広西財経学院の女子学生が、論文の指導教官の容某の猥褻行為を警察に通報した→警察は容某を行政拘留5日にした。
・6~7月、新浪微博のIDが「汀洋」と「青春大蓬車」の2人が、厦門大学歴史系考古学専攻の博士課程指導教員の呉春明が女子学生にたびたびセクハラをしていたことをネット上で告発し、呉春明が半裸でホテルで熟睡している写真も公表した→厦門大学は、7月、呉春明の博士課程の指導教員の資格を停止し、10月には、党から除名、教員資格をはく奪する処分をした。しかし、2015年12月、呉は、中国考古学会新石器時代考古専門委員会の委員に当選した。
・10月、四川美術学院の副教授・王小箭が食事の時に、左右の女子学生に頬ずりしたり、手を握ったりしている写真がネットに掲載された。王は何度も2人の女性の身体に接触し、抵抗されてもやめなかった。→王は謝罪、四川美術学院は、王の教学・研究・学術活動への参加を禁止した。
・10月、北大国際関係学院の女性留学生が、同院の副教授・余万里が性暴力によって友人の女子学生を妊娠させたとネットで告発。北京大学にも微信の証拠を付けて告発。→北京大学、余万里を党から除名。

2015年
・6月、天津工業大学の女子学生が、同校の男性教員のセクハラと脅迫を微博で、微信の証拠付きで告発。→天津工業大学の公式微博が、事実調査がはっきりする以前は、教員の身分と関係するすべての仕事をとりあえず停止し、調査結果が出るのを待って、法律・法規に照らして処理すると回答。●この事件は、調査結果が不明である。
・8月、巣湖音楽学院の卒業生が、学生局の趙尚松局長が、卒業証を使って脅迫、言語によるセクハラをおこなったことを告発。微信のチャットの記録も付ける。→大学の党委員会が、趙を厳重警告処分にし、学生局局長を解任。

2016年
・8月、北京師範大学の学生が、同大学の某学院の副院長の教授が女子学生にセクハラをしていたことを暴露。→同大学は、すでに調査を始めたと表明。●しかし、この事件も、調査結果は不明である。
・5月、北京連合大学生物化学工程学院の卓球の代講教員が女子学生に対してセクハラをしている写真がネットで公表される。→同学院の微信、事件の調査処理の期間は、学院はその教員の授業停止にすると回答。●この事件も、調査結果が不明である。
・10月、南京師範大学教師教育学院の教授・李某がセクハラをしている微信がネットで暴露される。→同学院当局は、現在調査中であり、事実であることを確認したら、けっしていい加減にはしないと回答。●この事件も、調査結果が不明である。

2017年
・5月、北京映画学院の女子学生が、大学のクラス担任の父親に性暴力の被害を受け、そのことを訴えたら、逆に教師と学生に攻撃・排除されたと訴える。6月、あるアカウントが、宋靖・呉毅を頭目とする教授たちがしばしばセクハラをしてきたと通報。→●数日後、そのアカウントの内容は削除され、この事件もその後どうなったのか不明である。
・7月、「女権の声」の微博が、電子科学技術大学通信学院の張翼徳教員が、セクハラをし、たびたび、試験の成績や優秀な学生に対する大学院の試験免除制度を利用して、女子学生を脅してきた疑いがあるという情報を発信した。
・12月、南昌大学の卒業生が、同校の国学研究院副院長・周斌に性暴力を受けてきたことを大学に訴え、院長・程水金による事件揉み消しも通報。→南昌大学、程を院長から解任、周を副院長から解任するとともに、周の教学研究業務をとりあえず停止。

第二に、フェミニスト活動家の猪西西さん、張累累さん、waiting(韋婷婷)さんが、大学が陳小武の事件について「師徳師風の問題」と述べており、明確には「セクシュアルハラスメント」と言っていないことを批判した。彼女たちは1月4日に声明を出し、その中で、「私たちは、セクハラは先生の道徳や態度の問題ではなく、女性の権益に対する重大な侵害であり、教育環境の性差別と違法な犯罪であると考えている。私たちは、大学が、陳小武が女子学生を侵害した事件のセクシュアルハラスメントとしての性質を正視・承認し、『セクシュアルハラスメント』という言葉を回避しないよう希望する」と述べた(8)

4 問題を否認する陳教授。それに対して他の女子学生の証言や録音も公開

1月1日、『北京青年報』の記者が陳教授に連絡を取ると、陳教授は、「第一に、私はその(ネットで言われている)ことを知っているが、私は、私は違法なことや規律に反することはやったことがない。第二に、大学がすでにそのことを調査しており、具体的な状況は大学の調査結果を基準にする。第三に、このことは私個人の名誉に関わるのだから、私はすべての合法的権利を保留する」と述べた(9)

それに対して、1月3日には、記者の黄雪琴さん(後述)が「沈黙を打ち破る、羅茜茜は勇気を12年間蓄積した」という文章をネットに発表した。

黄さんの文章は、陳のセクハラについて、他のさまざまな女子学生による証言を詳しく伝えるものだった。

たとえば、大学院生のDさんによると、陳は女子学生を、出張や会議、食事などにつき合わせ、食事の席では、陳が注いだ焼酎を飲み干すよう強要していた。Dさん自身も、陳に呼び出され、罵倒されて、泣いたら、きつく抱きしめられた。ある先輩は、陳に罵られるのに耐えきれず、退学しようとしたら、みんなの前で、「亭主と勉強のどちらが重要なのか」「勉強を続けたいなら、離婚しろ」と言われたという。

さらに、この文章の中で、黄さんは、陳がBさんにセクハラをしている録音のファイルもネット上に公開した。

また、黄さんによると、羅さんがネットで告発をおこなった翌日、羅さんの父母の家に「陳の従姉」と称する見知らぬ人から電話がかかってきて、すぐに微博を削除するように言われたという。こうした陳のさまざまな圧力についても、黄さんは暴露した(10)

二 さまざまな大学の卒業生と在学生が、各大学に対して、キャンパスセクハラ防止システム確立を実名の連署で訴え

中国における#Me Too運動の特徴は、各大学におけるキャンパスセクハラ防止システム構築を求める運動が進められている点である。

1 昨年から訴えていた何息さんが、西安外国語大学に対して

まず、1月2日、西安外国語大学を2017年に卒業した何息さんという女性が、同大学に対して、キャンパスセクシュアルハラスメント防止システムを早く構築するように、「西安外国語大学ジェンダー平等促進会」の微信をつうじて訴えた。すると、2時間後には、王鉄軍学長から積極的な回答が返ってきた(11)

何さんが学長にそのように訴えたのは、これが初めてではない。昨年6月にも、何さんは、当時、学校の病院でセクハラの疑いのある事件があったので、キャンパスセクハラ防止システムを設立するように王学長にメールで訴えた。卒業の前日の7月4日にも、学長に同様のことを訴えていた。

今年1月1日、何息さんは羅茜茜さんの微博を見て、その時のことを思い出して、今回も学長に訴えたわけである(12)

2 広州新メディア女性ネットワークが、教育部と北京航空航天大学とに対して、キャンパスセクハラ防止のための規定の案を付して

1月3日、広州新メディア女性ネットワークも、教育部と北京航空航天大学に対して、キャンパスセクシュアルハラスメント防止システムを作るように建議の手紙を送った。教育部宛ての手紙には、「高等教育学校セクシュアルハラスメント防止弁法」(「弁法」は、「規則」というような意味)を付し、北京航空航天大学宛ての手紙には、「北京航空航天大学セクシュアルハラスメント防止規範」の試案をもした。

「高等教育学校セクシュアルハラスメント防止弁法」の内容を紹介すると、まず、第1章「総則」では、セクハラの定義などについて規定している。

第2章「校内セクシュアルハラスメント防止管理制度」では、大学に「セクシュアルハラスメント防止工作小組(委員会)」を設立することや、大学内のセクシュアルハラスメントに関する相談制度、通報制度、調査制度、処罰などについての制度、報復防止制度などについて規定している。

第3章「セクシュアルハラスメント事件校外処理制度」では、学内の制度は、訴訟や警察への訴えを妨げるものではないことなどを規定している。

第4章「セクシュアルハラスメント防止教育」では、教職員と学生に対するセクハラ防止教育について規定している。

第5章「責任および処罰」では、大学がセクハラ防止についての職責を果たさない場合は、教育部が命令を出したり、処罰したりすることを規定している。

「附則」では、義務教育や中等教育に関しては、別の弁法を制定することなどを規定している。

また、「北京航空航天大学セクシュアルハラスメント防止規範」は、個別の大学向けのものであり、より詳細なものである。

たとえば、セクハラなどに対処する「ジェンダー平等工作小組」は、日常の活動を3名の委員が担い、そのうち少なくとも2名は女性とし、少なくとも1名は女性の権利やジェンダーについての研究者にし、少なくとも1名は学外者にするなどとしている。また事件が起きたときは、9名のメンバーで構成する委員会を設立し、そのうち女性委員が少なくとも5名、男性委員が少なくとも3名、学外の委員が少なくとも3名とするなどとしている。

広州新メディア女性ネットワークは、上の「弁法」や「規範」を含めた手紙の全文を公開して、多くの人々が自分の母校に対して建議の手紙を送るように訴えた(13)

3 羅茜茜さんも、北京航空航天大学に対して

1月4日、羅茜茜さん自身が、北京航空航天大学に対して、以下のような公開書簡を出した(14)

北航への連名の手紙――私たちの勇気と期待を無にしないでください

尊敬する北航の指導部ご高覧:

2018年1月1日、卒業生の羅茜茜が実名で北京航天航空大学の陳小武教授が女子学生にセクハラをしていたことを通報していたことは、すぐにホットな話題になりました。この、最初に沈黙を打ち破り、実名で通報したことは、羅茜茜が12年間蓄積した勇気によるのです。また、陳小武にセクハラを受けていた他の女子学生も、学業、事業、家庭にマイナスの影響が生ずる危険を冒しています。しかし、彼女たちが道義上あとに引けず通報したのは、心の中では北航に対して深い愛情があるからであり、北航に健康で向上を目指す大学の気風を取り戻してほしいからです。

キャンパスセクシュアルハラスメントは、偶発的で低確率な事件ではありません。

2014年の某有名高等学府での「性暴力事件」の後、西華師範大学の李佳源副教授が四川・安徽の2つの大学の129名の女性院生に対しておこなった調査によると、女性院生の32.56%がセクハラを受けたことがありました。

2017年、広州ジェンダー教育センターが6592部の「中国の大学の在校生・卒業生がセクハラにあった状況調査」の結果を公表しました。調査の結果は、7割近い調査対象者が、程度はさまざまですが、セクハラにあったことがあることを示しています。なかでも女性がセクハラにあった比率は75%であり、セクハラをした者の9割が男性です。

全国113の211大学に情報公開申請をしておこなわれた調査もあり、各大学がセクハラに関する訴えや通報を受けたことがあるかどうかや、大学内でセクハラ防止の研修教育と処理システムがあるかどうかを尋ねています。受け取った回答によると、セクハラを処理する専門の部門またはプロセスがある大学は全国に1つもありませんでした。

反セクハラのシステムや信頼できる空間がないこと――これが、キャンパスセクハラが次から次へと尽きることのない最も根本的な原因です。このことも、私たちがなぜこの手紙を連名で書いたかという理由です。

何がセクハラなのか? どのようにしたらセクハラが起きる前に潜在的ハラッサーを震え上がらせることができるのか? どのようにしてセクハラをする者に対して勇敢にNOを言うのか? セクハラを受けたら、どのようにしたら傷をいやすことができるのか? 私たち広範な学生は、これらの知識を普及することを必要としています。

それゆえ、私たちは連名で、大学に対して、通報した学生の身分を秘密にするという前提の下で、できるだけはやく陳小武に対して調査をして、その結果を公表しすることと、有効なキャンパスセクハラ防止システムを打ち立てることをお願いするのです。

私たちは、以下のことを希望します。

1.大学はセクハラを防止する教員の行為準則を出して、教員は直接の権力関係がある学生と性的に親密な、恋愛関係になってはならないと明示すること。なった場合は状況に応じて処分する、あるいは教学のポストから離れさせること。

2.毎学期、定期的に反セクハラに関する講座、課程を開設し、予防と対応などの面について、教員と学生にそれぞれ研修をおこなうこと。

3.毎学期、定期的にインターネット上でキャンパスセクハラの研修とテストをおこない、学生がセクハラ・憂鬱・焦慮などの状況について、オンラインで匿名でフィードバックできるようにすること。

4.大学の指導部、職業的専門家、法律関係者などによって構成される教職員と学生の平等権益機構を設立し、セクハラの通報・訴え・調査・問責・懲戒などのシステムを打ち立て、教師と学生のセクハラの通報と訴えに責任を負う専門的機構を設立して、監督の力を強め、スムーズに通報・訴えができるようにし、セクハラの被害者に対して有効な援助を提供すること。

5.心理的援助をおこなう事務局を設立して、セクハラ被害者のための援助プロジェクトを導入すること。

6.セクハラ行為の訴えを受理する部門の責任者を明確にすること。

私たちは、キャンパスセクハラは「生活の態度」の小事でなく、ましてや個人の私事ではなくて、教育の「たましいの若死」であると信じています。私たちは、北航には厳格な教師としての道徳(師徳)の審査監督システムがあることは知っています。しかしながら、科学的なセクハラ防止と対応のメカニズムを打ち立てることは、教員の職業倫理に関わる公共の事務であり、教育の公平を保障し、権力の濫用を防止し、従業員と学生の権益を保障し、性差別を制止するために必要な手段です。私たちは、この事件を契機にして、セクハラに関する政策を出し、セクハラ防止のための制度を打ち立て、北航が、公正な気風の労働・教学・生活環境がある大学になることを望んでいます。

私たちは、北航が率先してキャンパスセクハラに防止し対応するシステムを作ることを期待しています。

北航は、私たちの勇気と期待を無にしないでください。私たちはもっと北航を誇りにしたいと思います。

北航の学生がたてまつる
2018年1月4日

連署人:
羅茜茜 6系2004級

姓名(    )
何か私たちに言いたいことがありますか(        )

4  半月余りの間に74大学以上で延べ8000人が署名

1月4日には、何息さんに賛同した西安外国語大学の校友も、同大学に対してキャンパスセクハラを防止することを求めて、セクハラ防止規定の草案を付した連名の手紙を発表して、署名を求めた(15)。他のさまざまな大学でも、同様の活動が始まる。

以下、私が読むことのできた公開書簡について、大学名と手紙の執筆者、連署人を列挙する。ここではスペースの関係で連署人については数字で示しているが、実名も公開されている。なお、日付は、その手紙のネットでの公開が確認された日であり、実際にはより以前に執筆、公表されていたものが多いと思われる。

また、以下の連名の署名人数は、ネットで公開された時点でのものであり、後述のように、その後集まった署名を合わせると、これよりはるかに多くの人が署名している。

1月4日
西安外国語大学←―2017年卒業・何息ら18人の連名

1月5日
南華大学←―2015年卒業・李雨景、連署人:2012年~2015年卒業・9人(16)
北京師範大学←―2017年卒業・趙梅星(17)

1月6日
山東大学←―1994年卒業・呂頻(18)
南京師範大学←―2013年入学・張雨欣(19)
西安培華学院大学←―2016年卒業・宋逸飛。連署人:2010年入学~2017年入学・14人(20)
長安大学←―2012年卒業・李婷婷(21)
湖北大学←―2011年卒業・宋小雨(22)
西南大学←―2015年修士卒業・邱汐羽(23)
北京郵電大学←―1994級学生・常立(24)

1月7日
西北大学←―2014年卒業・陳紅麗(25)
東北師範大学←―2014年卒業・鄧亜娟(26)
汕頭大学←―2013年~2017年入学・陳敏芝ら13人(27)

1月8日
北京大学←―2012年卒業・顧華盈、連署人:2011年入学~2017年入学・14人(28)
上海交通大学←―本科2001年入学で修士2005年入学・侯艶、連署人:1998年入学~2016年入学の36人(29)

1月9日
清華大学←―2017年修士入学・蒋家齢と2003年卒業・黄溢智、連署人:2002年~2017年入学・20人。伝言欄に2011年~2017年入学・99人の実名書き込み(30)
華南理工大学←―2014年入学・梁暁雯、2013年入学・劉憚(?)文(31)
広東外語外貿大学←―1970年入学~2012年入学の4人の連名(32)
厦門大学←―2013年度卒業生・劉新童、連署人:1月9日だけで、2011年入学~2017年入学の74人(33)
復旦大学←―校友151人、在学生176人、合計327人が実名で連署(34)

1月10日
遼寧師範大学←―2012年卒業・鄭熹(35)
山東財経大学←―2008年入学~2014年入学の4人の連名(36)
広東工業大学←―2007年入学~2017年入学の55人の連名(37)
四川大学←―2012入学・肖斯琦、連署人:2004年入学~2014年入学の25人(38)

1月11日
広州大学←―2017年入学・区媚婷(39)
信陽師範学院←―2010年入学・郭晶、連署人:2010年入学~2016年入学の4人(40)
天津商業大学←―2016年入学・劉輝(41)
江漢大学文理学院←―2016年卒業・甘雨辰ら3人(42)

1月12日
中国海洋大学←―2014年入学・謝瑞鑫(43)
大連理工大学←―2001年入学・陳紅偉、連署人:は1981年入学~2003年入学の8人(44)

1月16日
南京大学←―1996年入学~2017年入学の269人(45)

1月19日
中国政法大学←―2007年卒業~2017年卒業の197人(名前を出している人は (46)

私が原文を確認できたのは以上だが、この運動は、1月10日までに「全国45大学」(47)ないしは「47大学」(48)に広がり、1月12日に「61大学」(49)、1月17日までに「71大学」(50)、20日までに「74大学」(51)にまで広がっている。

また、署名したのは、20日までに「のべ8000人」(52)にのぼったという。

原文を確認できた手紙を見ると、その内容はさまざまではあるが、パターンとしては、以下のものが多い。

まず、自分の卒業年次とジェンダー平等に関心を持っていることを書く。

次に、羅茜茜の陳小武に対する告発について述べ、陳のような者は一人だけではないことを、2014年、厦門大学の女子学生が、指導教官の呉春明にセクハラを受けていたことを訴えた事件や、2017年、北京映画大学の女子学生が、多くの教授が女子学生にセクハラをしていたことを告発した事件を例にして述べる。しかも、それらの事件では、加害者がきちんと処分されていないことを指摘する。

さらに、2017年4月に広州大学ジェンダー研究センターが発表した調査結果によると、女子学生の75%がセクハラを受けたことがあるなど、セクハラはどこでも起きていることを述べる。

そのうえで、自分の大学の状況や自分の在学中の経験について述べている。

そして、大学に対して、以下の「5つの1」を提案する。

1.毎年、全学の各教職員に対して、1回、セクハラ防止に関する研修をすること。
2.各学生に、1回、反セクハラの授業を受けさせること。
3.毎学期に1回、セクハラのインターネット調査をして、学生がセクハラ、憂鬱、焦慮などの状況について匿名でフィードバックできるようにすること。
4.セクハラの通報・訴えを受け付けるルート(郵便箱、メールボックス、電話など)を1つ、設置すること。
5.セクハラ行為の訴えを受理する部門1つと、責任者1人を明確にすること。)

最後に、署名を求める。

最初に呼びかけたのは卒業生が多いが、連署人として名前を出したり、名前を書き込んだりしている人の中には在学生も非常に多い。

1月4日に羅茜茜さんが出した北京航空航天大学への建議の手紙は、同大学の学生でなくとも署名できるようにしたこともあり、翌5日までに、2000人近い署名が集まった(53)。署名をした人の中には、同大学の第1期の学生で、82歳になる金如山元教授もいた(54)

対象を各大学の在校生や卒業生に限定した署名でも、多数の署名が集まっている。

上記にも327人(復旦大学)、269人(南京大学)という数字があるが、南京大学では、1月16日に公表したところ、初日だけで350人の校友と在校生が署名し、翌日には、410名に達した。そのうち約180人は匿名だったが、約230人は公開だった。三日目には、教授からも署名が来た。1月19日に大学に提出する予定だという(55)

また、精華大学では出された翌日の午後4時42分までに358人が連署し(56)、四川大学では半日で270人を越えた(57)。北京大学でも、200人余りの署名が集まった(58)。さらに、中国政法大学では、19日までに851人の校友の署名が集まった(59)

5 署名サイトは次々に削除、大学当局の警戒

しかし、現在、多くの署名サイトはアクセスできなくなっている。個人の微信などで発信した場合は必ずしもそうではないが、署名を書き込むサイトのほとんどはアクセスできなくなっている。これは、大学当局が、運動の広がりを恐れていることを示していると言えよう。

そのことをはっきり示しているのが北京大学の事例である。

11日、北京大学からも返信は来た。しかし、それは、「大学はセクハラ防止システムに関する提案には留意する。皆さんの大学に対する関心と非常に感謝している」と述べたものの、その後は、「近年、大学は師徳師風を強化する制度建設にはたえず注意している」と言って、「師徳師風」に関する規定など、これまで大学がしてきたことを述べるだけの返信だった(60)

北京大学の学生が書いたと思われる「失望と憤怒:北京大学反キャンパスセクハラ提案の手紙その後」という一文によると、その後、大学側の態度として、以下のようなことがわかったという。[1]大学は、提案に対してもう別の回答はしない。なせなら、大学は、セクハラに関しては、すでにある制度によってすでにカバーしていると思っているからだ。[2]大学は、提案の手紙を支持した学友たちを、誰かに利用されていると思っている。というのも、多くの大学で同時にこうしたことをしているのは、(背後に)組織があるからだと考えているのだ。[3]大学は、教育部に出した反セクハラの手紙(後述)の中で、北京大学の名前が最初に書いてあるのは、故意に北京大学の名前を利用して、ことを起こそうとしているからだと思っている。

そうした大学の姿勢に対して、この文の筆者は、おおむね、以下のように反論している。[1]もし今ある制度でセクハラの問題がカバーできているのなら、なぜ学内でさまざまなセクハラが起きるのか? 制度に抜け穴や盲点があるからこそ、セクハラが起きるのだ。[2]まさか組織があったら何か問題があるというのではあるまい? ピクニックをするにも組織が必要なのに、制度建設には組織が必要ではないというのか? 1人や数人だけで声を上げても、大学はとりあってくれるのか? [3]すべての大学をピンイン順に並べた結果、北京大学の名前が最初になっているだけである。ピンイン順になっていることにも気が付かないほど、大学は、何を恐れ慌てているのか?(61)

「フェミニスト行動派」の微信がリンクを発信したものは、すべて削除されているとのことだ。4年前の厦門大学の呉春明のセクハラ事件のときは、フェミニストの連名の公開の建議の手紙(後述)が主流メディアにも争って報道されていたのと比べても、がっかりさせられる状態だという(62)

6 削除されても続けられる運動、一部大学からは返答

それでも、いちおう12校では、電子メールなどの形式で返答があったという(63)

なかでも、大連外国語大学の回答は最も積極的だった。同大学では、劉宏学長(女性)が、連署に参加した1人の在学生に連絡を取って会談をした。その際、大学側は、学長を含む5人の管理層の人が出席した。学長は「あなた方の『5つの1』については、私は非常によく書けていると思う」と言い、「『5つの1』で述べられている内容については、一部は責任者が大学にすでにいるが、もっと完全な制度あるいは措置にしなければならない」と述べて、学生たちの意識を肯定し、その活動を支持すると表明したという(64)

また、四川大学も、「あなたが手紙の中で述べている『キャンパスセクシュアルハラスメント防止システム』を構築することに関する建議は、建設的なものであり、母校は今後関連する活動の中で、取り入れ、参考にする」という回答をした(65)

また、1月8日には、南京師範大学から「あなたが提出した提案については、大学は専門家を招聘して、検討する」と返信があった(66)

復旦大学・北京林業大学・信陽師範大学も「すでに関係する制度を研究しているところである」と表明した(67)

また、やや特殊な例だが、1月8日、youthさん(仮名)は、北京師範大学・香港浸会大学連合国際学院に対して、公開の手紙を出した。すると学内の教員から電話がかかってきて、「大学にはすでに英文のセクハラ防止制度と処理プロセスがある」と言った。これは、同学院が香港の大学との合同の国際大学だから、ということのようだ。9日午後には、大学からyouthさんに連絡が来て、10日に面談をすることになった。もっとも、11日の朝になっても、その件での連絡がまだないというが(68)

また、注目したいのは、次々に削除されても、新しい大学で署名運動が開始されていることである。10日までに40数大学で署名が開始されたのに比べると、11日以降は若干勢いが衰えたとはいえ、5で述べたように、その後も30大学ほどの伸びを示している。

7 全国大学教員反セクハラ宣言

1月19日には、以下のような、「全国大学教員反セクハラ宣言」が発表されている(69)。これは、必ずしも全国規模のものではないが、教員からの声明として貴重である。

最近、北航長江学者・陳小武、南昌大学国学院副院長・周斌、対外経貿大学副教授・薛原が長期にわたって女子学生にセクハラをしてきたことが明るみに出た。私たちは大学教員として、これに対して強い怒りを感じ、彼らに対して最も厳しく譴責する。私たちの学生を保護し、類似の事件を予防するために、私たちは連署を出して、以下のように訴える。

私たちは訴える。教育部と各大学、各小中学校が、精緻で厳格な反セクハラの政策と規定を制定することを。

私たちは訴える。全国人民代表大会が、精緻で厳格な反セクハラの法律を制定し、セクハラ、とくに学生に対するセクハラを厳罰にすることを。

私たちは要求する。各大学と小中学校が毎年度、すべての学生と教員に対して、一時間、反セクハラの政策と規定についての講演をおこない、学校の指導者を含めた全員が必ず参加することを。

私たちは要求する。すべての系・院・校の指導者はセクハラの通報を受けたら、必ず上級へ報告し、学校によって真剣に調査をすること、そうしない各クラスの指導者は一律に解任することを。

私たちは要求する。セクハラが調査によって事実だとわかったら、セクハラをした者を必ず解雇し、教員の資格を取消し、教育部に通報し、大学内のインターネット、権威あるメディアに通告を出し、犯罪の疑いがある者は、必ず司法機関に引き渡すべきことを。

私たちは承諾する。私たちは、絶対に学生や同僚、部下に対してセクハラをしないことを。

私たちは承諾する。もしどの学生や同僚、部下が他の人にセクハラをされていても、私たちは直接大学の学長に通報することを。

私たちは承諾する。セクハラの被害者を断固としてサポート・保護し、セクハラ被害者・セクハラ通報者・セクハラ暴露者に報復する、いかなる行為及び機関、個人も暴露することを。

2018年1月19日

この宣言には、21日の時点で、武漢大学ジャーナリズムとコミュニケーション学院の教授ら12人と他のさまざまな大学の教授・副教授・講師ら32人が連名で名を連ねている。

新メディア女性ネットワークが取材したところでは、発起人は、武漢大学ジャーナリズムとコミュニケーション学院・特任教授の徐開彬さんである。彼は、アメリカで博士号を取って教員になったために、アメリカの大学のセクハラに関する制度・政策を体験していて、教員と学生との権力関係についても問題意識を持っていたことが、今回の宣言を出すことに結び付いたようだ(70)

三 #MeTooに触発された女性記者・黄雪琴さんの「中国女性記者セクハラ状況調査」。黄さんと羅さん、万弁護士の協力

1 黄雪琴さんの「中国女性記者セクハラ状況調査」

話は昨年にさかのぼるが、2017年11月20日、女性記者・黄雪琴さんも、#MeTooに触発されて自らや周囲の女性記者のセクハラ被害を微博・微信で発表した。これが、中国での#MeToo運動の最初の公然としたあらわれのようだ。

黄さんは、ずっと以前に、セクハラのために某有名メディアを辞職したが、その本当の辞職理由は誰にも言わなかった。黄さんは、周囲の女性記者たち(A~Eの仮名)もセクハラが原因で辞職していることを述べ、「今回、私は沈黙を破ることを決めた。たとえ自ら傷跡をさらしても、たとえ続いて荒れ狂う風雨がこようとも」と書いている(71)

さらに黄さんは、ネットでアンケートを取るという形で「中国女性記者セクハラ状況調査」を開始し(72)、1カ月で260通が集まった(73)

2 黄雪琴さんと万淼淼弁護士が羅さんに協力

羅茜茜さんも、黄さんと連絡を取った。

さらに、羅さんは国内の法律関係者にも積極的に相談をし、とくに万淼淼弁護士に援助してもらった。万弁護士は、中国の1990年代から現在までのセクハラ反対運動を整理しており、外国の法律や判例の比較もおこなっていた(74)。また、万弁護士は、長年DV被害を受けていた李彦さんが夫を殺した事件や、国内で初めて女児に対する性暴力について心理的リハビリの費用を含めた賠償を認めさせた事件を担当してきた(75)

羅茜茜さんは、黄雪琴さんに「私は実名で告発したい」と伝えたが(76)、羅さんが陳教授を告発した際には、黄雪琴さんや万淼淼弁護士も協力した。

たとえば、1月1日の羅茜茜さんの告発はもちろん羅さん自らが書いたものだが、黄さんは、羅さんの告発の中の細部に関して、女子学生や証人に手を尽くして取材し、告発が真実であるという裏付けをした。万淼淼弁護士は、法律面での詳細な提案や意見を出し、告発に虚構や曲解、他の人を傷つける内容が混じっていないかどうかをチェックした。

そのうえで、1月3日に、黄さんは、自らの文章として「沈黙を打ち破る、羅茜茜は勇気を12年間蓄積した」を発表した。

また、黄さんの「北航への連名の手紙――私たちの勇気と期待を無にしないでください」は、黄さんが羅さんと万弁護士の同意を得て初稿を書き、羅さんと万弁護士が補充や修正をした。そのうえで、黄さんが発起人・第一署名人になり、人々に署名を求めたのである(77)

四 羅さんの告発は成果、教育部も対応

1 北京航空航天大学、陳の教員資格取り消し、セクハラ防止システムの整備を表明

1月12日、北京航空航天大学は、微博で以下のように発表した(78)

最近の本学教員・陳小武についての実名の通報とメディアの報道について、本学は、非常に責任を持って、事実にもとづいて真相を明らかにするという態度で、調査・事実確認を真剣かつ綿密におこなった。調査の結果、陳小武が学生に対してセクハラ行為をしたことは現在すでに明らかになった。

陳小武の行為は、教師の職業道徳と行為規範にはなはだしく背いており、劣悪な社会的影響を与えた。国家と大学の規定にもとづいて検討した結果、陳小武の大学院常務副院長の職務を解任し、大学院生指導教官の資格を取り消し、教員の職務を解任し、教員の資格を取り消すことを決定した。

「徳才兼備・知行合一」が、北航の人間が追求する価値であり、大学は師徳師風に違反する行為に対して一貫して一切容認してこなかった。大学は、これを教訓にして、施行細則を制定し、関係するシステムを整備し、師徳師風の構築をいっそう強化し、人民が満足する教育をしっかりおこなうよう努力する。

この決定について広州新メディアネットワークの李思磐さんは、「厦門大学の事件と比べて、北航の処理には、2つの良い点がある。陳のしたことを『セクシュアルハラスメント』と規定していて、『正当でない関係』と規定して被害者に汚名を着せるようなことをしていないこと。セクハラ防止システムという事後の手立てを講じていることの2つである。1つ変わっていない点は、教員の資格を取消し、各種の職務を解任したが、まだ加害者を解雇していないことである。呉春明は、教員の資格を取り消された一年後に、公的な学会の委員になり、かつまだ学内で学術資源を掌握している」と指摘した(79)

2 全国の大学生が教育部にも要求

1月13日、上の北京航空航天大学の発表を受けて、44大学の53人の卒業生や在学生が実名で「キャンバスセクシュアルハラスメント防止システムを訴える教育部への公開の手紙」を発表した。

この手紙は、以下のことを要求している。

1.教育部は、陳小武の「長江学者」の称号を取消し、既に支給した奨励金の返還を求め、陳小武を事業編制から外すべきである。

2.教育部は、対外経貿大学が薛原のセクハラ疑惑事件に対して徹底的に調査し、被害者のプライバシーは保護するように督促すること。

3.教育部は、先頭に立ってキャンバスセクシュアルハラスメント防止実施弁法を制定・公布し、同時に各クラスの学校に実施を督促すること。

4.教育部は、キャンパスセクハラ防止活動を学校の審査の中に入れること(80)

3 教育部は、陳の「長江学者」称号取消、セクハラ防止システムの研究を表明

1月14日、教育部は、陳小武の「長江学者」の称号を取消し、奨励金の支給停止および既に支給した奨励金の返還を求めることを決定した。

教育部はさらに、関係部門と共同で大学でのセクシュアルハラスメントを防止する持続的システムの研究をするとも述べた(81)

4 フェミニスト活動家の教育部への要求

1月20日には、フェミニスト活動家として著名な25歳の張累累さんが、肖美麗さんとともに、教育部に宛てて公開の手紙を出した。

その手紙は、まず、この半月の間に非常に多くの大学の卒業生や在校生が各大学にセクハラ防止システムの整備を求めて署名に参加したこと、それは私たちの怒りの現れであることを述べている。次に、そうした動きに対して積極的な回答を寄せた大学もある一方で、少なくない大学が学生の声に耳を貸さなかった中、教育部が陳小武の「長江学者」の称号を取消し、セクハラ防止メカニズムを研究することを表明したことを歓迎の意を表している。そのうえで、以下の点を教育部に要求している。
 1)教育部は、キャンパスセクハラ防止システムの構築プロセスに、学生を十分に参加させること。
 2)教育部が先頭に立って、キャンパスセクハラ防止実施弁法を制定・公布し、同時に各レベルの学校に実施を督促すること。
 3)教育部は、キャンパスセクハラ防止活動を学校の審査の中に入れること(82)

今回のキャンパスセクハラ反対運動では、各大学における運動でも、猪西西、張累累、韋婷婷、李婷婷、呂頻、梁暁雯(梁小門)、郭晶、黄溢智(弁護士)といったフェミニスト女性が先頭に立っており、行動派に属するフェミニストが大きな役割を果たしていると言える。

また、陳小武は断罪されたが、中国の大学にはまだ多くの「陳小武」がいる。しかし、それを実名で公然とは告発できない状況もある。そこで、微博アカウント「@让性sao扰见光[https://www.weibo.com/u/6453223392](セクハラを明るみに出す。「性騒擾」の「騒」が「sao」となっているのは、当局の検索よけのためであろう)」が、全国各地から寄せられたセクハラの訴えを、匿名で発信する活動を始めた(83)

五 キャンパスセクハラ反対のためのこれまでの活動の積み重ね

もちろん中国でも、以前から性暴力やセクハラに対する取り組みはおこなわれてきた。さまざまな調査研究、セクハラに対する裁判、法制度についての提案、企業内の制度を確立するためのNGOの取り組みなどである。

また、2014年以後は、キャンパスセクハラについての運動が高まっており、そうした運動の到達点は、今回の事件にも生かされている。

1 厦門大学のセクハラ事件をめぐる運動(2014年)

そのきっかけになったのが、以上でもたびたび言及されている、厦門大学のセクハラ事件である。これは、2014年7月から8月にかけて、新浪微博のIDが「汀洋」と「青春大蓬車」の2人が、厦門大学歴史系考古学専攻の博士課程指導教官の呉春明が女子学生にたびたびセクハラをしていたことをネット上で告発したことに端を発する(84)

この際すでに(同年7月24日)、厦門大学の76名の在校生と卒業生が、大学に対して、キャンパスセクハラ防止規範の制定などを求める連名の手紙を学長に送っている(85)

さらに「教師の日」(9月10日)の前日の9月9日には、256名の学者や学生が、教育部に対して「高等教育学校セクシュアルハラスメント防止管理弁法」を制定するように連名で手紙を出し、厦門大学の学長に対しても、「厦門大学セクシュアルハラスメント防止規範」の制定を要請する手紙を出した(86)

この時の「高等教育学校セクシュアルハラスメント防止弁法」と「厦門大学セクシュアルハラスメント防止規範」は、今回、広州新メディア女性ネットワークが教育部に出した「高等教育学校セクシュアルハラスメント防止弁法」と各大学に出した「セクシュアルハラスメント防止規範」のほぼ同一である。すなわち、この時に、すでにそれらの「弁法」や「規範」が出来ていたからこそ、今回、羅茜茜さんが告発した際に、すばやく提案ができたと言えるだろう。

また、このときの256名の中には、王政、沈睿、蔡一平、馮媛といった著名なフェミニスト研究者や活躍しているフェミニスト活動家が入っている点も注目される。

さらに、「教師の日」には、10の大学(厦門大学・天津大学、東北師範大学・北京外国語大学・西北大学・武漢大学・西北師範大学など)の門前で、女子大学生たちが「赤ずきん」の扮装をして、キャンパスセクハラ防止を訴えるというパフォーマンスアートもおこなった。彼女たちは、全国116カ所の「211プロジェクト大学(1995年に教育部が、21世紀に向けて重点的に投資すると決めた約100大学)」の校長に、彼女たちが起草した「中国大学セクハラ防止規範」を提案する手紙も送った(87)

この時の「赤ずきん」は、右手に剣を、左手に盾を持ち、その盾には「自由と夜を女子学生に返せ」と書かれていた。なぜそうしたのかというと、この活動に参加した「小五」さんは、「伝統的な理解では、赤ずきんが狼に食べられたのは、彼女が警戒していなかったからだとされており、この物語は、家にいなければならず、どこにも行ってはならないことを教えているとされてきました。セクハラや性暴力の事件がおきるたびに、それは女子学生が警戒していなかったからだと言われてきました」、「私たちが赤ずきんの扮装をして、手に剣と盾を持ったのは、私たちは、家にいてどこにも出かけない人になるつもりはない、と言いたいからです」と述べた(88)

10月9日、教育部は「大学教員の健全な師徳建設を推進する長期的メカニズムに関する意見」を出し、その中で大学教員の「紅七条」の一つとして「学生に対してセクシュアルハラスメントをする、あるいは学生と正当でない関係になる」を挙げた(89)

10月14日、厦門大学は、以下のような発表をした(抜粋) (90)

呉春明は一名の女性大学院生とたびたび正当でない性関係を持ち、別の一名の女子大学院生に対してセクシュアルハラスメント行為をおこなった。

(このことは)教員が持つべき基本的職業道徳と態度に非常に背いており、師徳師風を損ない、教員の隊列全体のイメージを非常に損ない、学生の心身の健康に対してきわめて大きな損害を与え、劣悪な社会的影響を生じさせた。

呉春明を党から除名し、教員の資格を取り消す処分を決定した。

この処分について、広州新メディア女性ネットワーク代表の李思磐さんは、「厦門大学は、呉春明の教員の資格を取り消したけれども、解雇はしなかった。このことは、(呉が)間接的に学術的資源を掌握し続けるかもしないことを意味する」と批判した。

さらに、李思磐さんは、厦門大学が、呉春明が1人の当事者とは「正当でない関係を持ち」、別の1人の当事者に対しては「セクシュアルハラスメントをした」と認定している点に関しても、次のように批判した。「呉春明は、2人の当事者に対して、同じように、指導教官であり、学科のリーダーであるという公職の身分を利用して、非常に似た手段によって、支配し、接近し、セクハラをおこなった。違うのは結果だけで、1人は孤立無援な状況の下で呉と性関係を持ち、もう1人は、困難な中、抵抗し、幸いにしてそれを免れた。(……)こうした認定のロジックは、被害者に口をつぐませる効果を非常に強め、また、被害者に汚名を着せるものである」(91)

彼女の危惧は当たり、2015年12月、呉春明は、中国考古学会新石器時代考古専門委員会の委員に選出された(92)

こうした負の教訓も、今回の事件に際して生かされたと言えるのではないか。

2 中国の大学生のセクハラ遭遇状況調査(2017年)→今後は、全国的ネットワークの構築を呼びかける

その他にもさまざまな事件をめぐる活動があるが、調査として重要なのが、2017年3月8日に、民間団体である「広州ジェンダー研究センター」という小さなグループの韋婷婷さんらが発表した「中国の大学の在校生と卒業生がセクハラに遭遇した状況調査」である(93)。この調査も、上述のように、今回の運動で言及されている。

この調査は、2016年9月に始めたもので、6592部のアンケートと500人以上に対する取材をもとにしている。調査対象は約84%が女性である。学外であったセクハラも調査対象になっている。

その結果は、「北航への連名の手紙」などで記されたことのほか、以下のような点ものである。
・非異性愛者のほうが、異性愛者よりもセクハラにあう比率が高い。
・学生から遭ったことがある人が21.8%、大学の上級(教員など)から遭ったことがある人が5.2%。
・大半が黙っていたり、我慢したりしており、大学に報告・通報したのは4%未満。6割の人が「報告しても無駄だ」と考えている。
・被害者の12.4%は、人間関係や学業に重大な影響があり、鬱になったり、自殺などの状況もある。

韋婷婷さんは、2015年3月に公共交通でのセクハラ反対運動をめぐって刑事拘留されたフェミニスト五姉妹の一人でもある。

韋さんは、「広州ジェンダー教育センター」を設立した後、「セクハラと侵害予防ネットワーク」という小さなグループを作り、2017年1月にキャンパスセクシュアルハラスメントについての茶話会をした。その時に黄雪琴さんも来て、その後も彼女と交流を深め、陳小武の問題にもかかわっていった。

しかし、ある女子学生は羅茜茜さん同様に、男性の副教授にセクハラの被害に遭っていたが、彼女は彼を告発できないという話を韋さんは聞いた。その副教授も、陳同様に陳小武同様に何人もの女子学生にセクハラをしていながら、陳のように証拠を残していなからだ。つまり、「羅茜茜」以外に、多くの「羅茜茜」がいるのだ。

韋さんは言う。「Me Tooでは不十分だ。Everyone Inをしなければならない」。

また、次のようにも言う。「Me Tooは『声を上げる』ことしか解決しない。声を上げたのちに何をするのか、必要なのは、もっと多くの人がI’m Inすることだ」。

韋さんは、だから、今後、私たちは以下のようなことをしなければならないと言う。

その目標は大きく、下のようなものである。
 1.全国的な、セクハラを予防し、反対するために助け合う場を設立し、さまざまな都市でボランティアのサービスの場を提供し、お互いに交流する。
 2.心理的・法律的サービスを提供する。
 3.セクハラを予防するための研修を提供し、平等なジェンダー/セクシュアリティの意識を唱導する。
 4.反セクハラに関する教育、研修、予防メカニズムを呼びかけ訴える。

新しい年の目標としては、以下のことを掲げている。
 1.調査報告の中のすべての211大学に大学調査報告と建議の手紙を送る。
 2.このネットワークのクラウドファンディングのコーディネーター1人分の賃金。
 3.もっと多くの関心を持った仲間を募集し、一緒に仕事をする!

そのために、韋さんはクラウドファンディングを呼びかけている(94)

六 さまざまな論評

今回の運動については、さまざまな論評がなされている。呂頻さんの見解などを中心に、最後に、それらを見ていきたい。

1 欧米のMeToo運動との相違

(1)芸能界や政界ではなく、大学が中心

まず指摘されているのは、欧米の#MeToo運動は芸能界や政界が中心だったが、中国では反セクハラ運動は、まず大学で発生したということである。

この点について、呂頻さんは「それは、時期がまだ早いのかもしれない。なぜなら、中国の父権制にもとづく利益共同体はとても強固なので、現在はまだ周縁部分の、若い女性が声を上げているということかもしれない」と述べている(95)

(2)欧米に比べて困難な点――セクハラ防止のための制度のなさ、インターネット規制・社会的統制の強さ、フェミニズムの蓄積の短さ

また、中国では、欧米ほどにはMeToo運動が盛んにならないのではないかという指摘は何人もの人からなされている。その原因としては、以下のような点が挙げられている。

・セクハラ防止のための制度の有無

呂頻さんは、欧米でMeToo運動が盛んになった1つの背景として、欧米にはセクハラ防止制度がすでに存在していることを挙げている。「“MeToo”は(……)具体的な政策的訴えがない。これは、アメリカにはすでにセクハラ防止制度が存在するという社会的条件があるからである。しかし、その一方で、長い間存在している制度――体制内処理のシステムがいまだにセクハラをなくすことができていないので、強力で集団的な運動と公然とした告発によって、より有効に個別の事件を解決するとともに、社会全体を広範に教育している。」(96)

馮媛さんも、中国の女性が羅茜茜のように自分が性暴力にあったことを公にしようとしても、ハードルが高く、そのことは、制度的な欠陥を示していると指摘している。すなわち、国家の法律にも、大学や企業にも、セクハラ防止制度がなく、女性が訴えても梨のつぶてになるかもしれないというのである(97)

・インターネット規制・社会的統制の強弱、フェミニズムの蓄積の長短

また、呂頻さんは、欧米でMeToo運動が盛んになった背景として、他にも、「完全に開放的なインターネット」、「政治や会社における管理の相対的な透明性」、「1970年代の第二波フェミニズム以来、セクハラについて相対的に広範な認識の基礎」を挙げる(98)

呂頻さんは、「これを中国と対比すると、いくつかの点で中国はまだかなり不利ではないか? だから、北航事件は、インターネットの自発性に基づいているという類似性はあるとはいえ、“中国版MeToo”というラベルを貼れるかは不確かだ」(99)と言う。

Leta Hong Fincher(洪理達)さんも、中国におけるMeToo運動の障害として検閲を挙げる。彼女は、「もし公憤が一定程度に達したら、当局は『社会的不安定』とみなして、躊躇なく検閲をするだろう。」「アメリカのMeToo運動で引きずり降ろされた男の中には、政界の人物も少なくないが、中国共産党の指導者にとっては、これは非常に怖いことだ」と述べている。

彼女は、中国では近年フェミニズム運動を含めた社会運動が弾圧されていることについて、「さまざまな都市にはフェミニスト活動家がいて、彼女たちが互いに協力して、広範な支持を集めることを、中国当局は、政治的脅威とみなしている」と指摘している(100)

2 中国における変化――若者や女子学生と高等教育の家父長制との矛盾の顕在化、セクハラ認識の高まり

この点については、すでに本稿でも、五「キャンパスセクハラ反対のためのこれまでの活動の積み重ね」で触れたが、さらに呂頻さんは、今回の事件に至るまでの、中国の女性のソーシャルメディア上での活動に注目している。呂頻さんは、2017年5~6月の北京映画学院事件でも、教員の行為に対する広範で、強い憤りが示されたが、その背景には、高等教育の体制の中の父権的ないじめがあり、学校の教員の学生に対する暴力を庇護し隠蔽する官僚主義があるという。ソーシャルメディアの主なユーザーである若者は、そうした問題に敏感であると呂頻さんは述べている。

呂頻さんは、また、フェミニズムの視点から言えば、現在、中国の大学では女子学生の比率が50%に達している一方で、大学のほうはと言えば、教育部が女子学生の人数を規制したり、教授が性差別発言をしたりしているという状況を指摘する。すなわち、女子学生の成長と教育における家父長制との矛盾が、今回の反セクハラ運動の背景にあったということである(101)

また、中国でも、この数年、社会のセクハラに対する共通認識はすでにかなり高まってきた。セクハラの若干の基本理念、たとえばジェンダーにもとづく権力関係によるものであることや、被害者を責めてはならないことなどを多くの人が理解するようになってきた(102)。こうしたことも指摘されている。その一端は、本文で触れた「赤ずきん」のパフォーマンスアートにも現れているだろう。

そのうえで、呂頻さんは、MeTooのインパクトについて、「しかし、微博上の“MeToo”というタグはすでに450万アクセスあり、“MeToo”運動の情報が、中国においてセクハラというテーマの合法性と関心度を強めたし、中国の若者にさらに自信を与えた」と述べている。

また、「ただ、私たちの基盤は非常に限られている。だからこそ、中国の女性の知恵と勇気は讃嘆に値する」とも呂頻さんは指摘する(103)

インターネットの検閲に関しても、検閲からあるから諦めるのではなく、「私が見たところ、検閲によって、人々が話をするのを放棄したことはない」(呂頻)、「検閲に対しては、みんな多くの対策をしている。たとえば、生放送とか、火星文(一般の中国語とは異なるさまざまな文字の用法によって意味をあらわす)とか、文字を図版にするとか」(肖美麗)、「削除されても、人々の記憶には残る」(呂頻)といったことが指摘されている(104)

3 「師徳師風」という枠組み、システムの整備だけでは不十分

この点は、すでに猪西西さん、張累累さん、韋婷婷さんも指摘していたことだが、呂頻さんも、セクハラの問題を処理する政府側の枠組みが「師徳師風」になっていることを問題にしている。呂頻さんは、「この枠組みは、まず回避しているのは『性』である」と指摘し、また、「道徳の角度から、セクハラの原因を個人化することは、ちょうど完全で無辜の体制の中にいくつかネズミの糞があるようなものとして理解することになる」と批判している(105)

また、呂頻さんは、単にスクールセクハラ防止システムを整備するだけでは不十分であることも強調している。

「制度は必須だが、私たちに必要なのは条文のプロセスの官僚主義ではなく、陳情のような消耗と苦しみの迷宮ではない。(……)制度がユートピア的に機能することは不可能である。父権的ないじめに満ちた体制内では、『セクハラ投書郵便箱』をしても何の役にも立たない。たとえば、北航はたしかに調査を開始し、通報者が提供した陳小武の録音を受け取ったが、『陳はモノローグの公演の練習をしていたと言うかもしれない』という思考回路で対応した。/このような、誠意がない調査で明らかになったことは、男権的な個人と男権的なシステムが、再度結びついて、いっしょに責任を拒否することである。/私は、制度を作ることに意義がないと言っているのではなく、広範な抗争と監督の意義を軽視してはならないと言っている。」(106)

1月23日には、フォックスコンの女性労働者からも、反セクハラの声が上がった。

「大きな声でエロ話をし、体つきや容姿によって身近な女性の同僚をからかう。『仕事を指導する』という理由で、まったく必要がない身体の接触をする。工場の現場では、どこにもこのような『セクハラ文化』が存在している。未婚の女性労働者は、セクハラにとくによくあう。また、多くの人がこれを当然のことと考え、もし被害に遭った女性労働者が反抗したら、かえって『敏感すぎる』、『冗談が分からない』と責められる」

この女性労働者は、こうした文化だけでなく、制度も問題だとし、会社に対しても、作業現場にセクハラ防止の標語を貼る、組長や管理職、新入従業人にセクハラ防止研修を受けさせる、訴えを受け付けるチャンネルを設置するなどの対策を求めている(107)

こうした階層的な広がりを含めて、注目していきたい。

(1)我要实名举报北航教授、长江学者陈小武性骚扰女学生」cici小居士2018-01-01 08:16:22。以下、とくに典拠が明記していない一―1の記述は、これによる。
(2)長江学者奨励計画」高等教育の現状と動向 Science Portal China(科学技術振興機構)。
(3)この段落とその上の2つの段落については、「陈小武:你敢说没持续性骚扰女学生?没乱纪?」cici小居士2018-01-02 08:34:03。
(4)以上は、「陈小武:你敢说没持续性骚扰女学生?没乱纪?」cici小居士2018-01-02 08:34:03。
(5)以上は、张奕涵 邓晖「女博士讲述举报教授性骚扰始末:受害群体投票决定曝光」新媒体女性2018-01-05 10:52:46(首发于谷雨实验室(guyulab))。なお、「打破沉默,罗茜茜积累了12年的勇气」(2018-01-03 黄雪琴 ATSH)には、このとき他の人が羅さんの決断に賛意を表して挙手した微信のスクリーンショットが掲載されている。
(6)北京航空航天大学的微博1月1日 18:57
(7)四年内曝出13起高校教师性骚扰事件,1/3查无后续」2018-01-02 编辑组 NGOCN君。
(8)为北航点赞👍全世界都期待你的行动,请将性骚扰追查追责到底」猪西西爱吃鱼2018-01-04 17:30:32。
(9)北航教授回应举报性骚扰女学生:没做过违法的事」网易新闻2018-01-01 19:59:32(来源: 北京青年报)。
(10)打破沉默,罗茜茜积累了12年的勇气」2018-01-03 黄雪琴 ATSH。
(11)女权之声的微博1月3日 10:48
(12)以上は、「“#Me Too” 在中国的一次大范围流行:学姐学长们出手了」好奇心日报(魏倩)1月11日。
(13)建议母校建立反性骚扰机制,支持北航罗茜茜,第一枪已经打响!」新媒体女性1月3日 23:50(現在閲覧不能)。
(14)给北航的联名信—请别辜负我们的勇气和期待」2018年1月4日。(現在閲覧不能)→(転載)「给北航的联名信—请别辜负我们的勇气和期待」雪鸟-黄小懒人2018-01-04 11:16:32。
(15)建立预防校园性骚扰机制,让西安外国语大学变得更好」2018-01-04 西外校友 以何西言。
(16)「南华大学校友李雨景实名建议建立校园性骚扰防治机制的公开信」鱼里鱼闯江湖 2018-01-05 18:04:30(現在閲覧不能)。
(17)「北师大|北师大,希望你不要辜负我们的勇气和期待」2018-01-05 赵海星 女权行动派很好吃(現在閲覧不能)。
(18)山东大学校友吕频实名要求建立校园性骚扰防治机制的公开信」吕频的微博2018-01-06 17:24:21。
(19)「南京师范大学校友张雨欣实名要求建立校园性骚扰防治机制的公开信」妇女张的微博1月6日 18:15(現在閲覧不能)。
(20)「西安培华学院大学校友宋逸飞实名要求建立校园性骚扰防治机制的公开信」93趙雲的微博1月6日 18:36(現在閲覧不能)。
(21)【公开信】校友李婷婷实名呼吁长安大学建立防治性骚扰机制」麦子家2018-01-06 22:14:01。
(22)湖北大学校友宋小雨实名要求建立校园性骚扰防治机制的公开信」2018-01-06 宋小雨 我们与平权(現在閲覧不能)。
(23)致西南大学|实名建议母校建立校园性骚扰防治机制的公开信」(現在閲覧不能)。
(24)北京邮电大学校友常立实名建议母校建立校园性骚扰防治机制的公开信」2018-01-06 常立 嗓音(現在閲覧不能)。
(25)「致西北大学郭立宏校长的公开信」大栗子要不负时光的微博1月7日 11:20(現在閲覧不能)。
(26)「东北师范大学校友邓亚娟实名要求建立校园性骚扰防治机制的公开信」马户陪你打官司的微博1月7日 23:44(現在閲覧不能)。
(27)给母校汕头大学的公开信:为了那些可能正在默默忍受的学生」(現在閲覧不能)。
(28)联名信 | 北京大学学生实名要求建立校园性骚扰防治机制的公开信 」2018-01-08 PKU的北门静悄悄。
(29)上海交通大学校友实名倡议建立校园性骚扰防治机制的公开信」JaneHY2018-01-08 20:45:24。
(30)「清华大学学生、校友关于建立校园性骚扰防治机制的建议信」黄溢智律师的微博1月10日 14:29
(31)华南理工大学校友梁晓雯实名建议母校建立反性骚扰机制」梁小门_的微博2018-01-09 05:54:22。
(32)「广外校友实名要求建立校园性骚扰防治机制的公开信」小海豚在北极的微博1月9日 22:11
(33)「厦门大学校友刘新童实名呼吁建立校园性骚扰防治机制的公开信」「# Metoo | 厦门大学学生&校友致校长建议信」2018-01-10 厦门大学学生校友 厦大言炎。
(34)「复旦大学学生校友提议建立建立校园性骚扰防治机制的公开信」桃莉格日勒在路上的微博1月9日 22:24
(35)「辽宁师范大学校友郑熹实名要求建立校园性骚扰防治机制的公开信」猪西西爱吃鱼的微博2018-01-10 16 44(現在閲覧不能)。
(36)迟来的Me Too|实名呼吁山东财经大学建立校园性骚扰防治机制」网红社工2018-01-10 16:27:11。
(37)#Me Too丨广东工业大学校友关于“建立学校防治性骚扰机制”的倡议书」。
(38)「四川大学校友学生实名要求建立校园性骚扰防治机制的公开信」七隻小怪獸的微博【联名信有了一次有意义的修改】1月10日 15:37
(39)广大青年,这有封寄给校长的公开信,你一块儿吗?」。
(40)「信阳师范学院,反性骚扰,我们不能输!」社工郭晶的微博1月10日 11:27
(41)「天商人 不冷漠」(現在閲覧不能)。
(42)江汉大学文理学院校友实名要求建立校园性骚扰防治机制的公开信」。
(43)「中国海洋大学要求建立校园性骚扰防治机制的公开信」北京时间七点半的微博1月12日 22:43
(44)「大连理工大学校友陈红伟实名实名呼吁母校建立校园性骚扰防治机制的公开信」Nov0304的微博1月12日 09:39
(45)七隻小怪獸的微博1月16日 13:42、「南京大学校友、学生实名请求建立校园性骚扰防治机制的公开信」。
(46) YakiShare的微博1月19日 15:02、「呼吁中国政法大学建立校园性骚扰防治机制的联署」。
(47)「厦门大学校友刘新童实名呼吁建立校园性骚扰防治机制的公开信」「# Metoo | 厦门大学学生&校友致校长建议信」2018-01-10 厦门大学学生校友 厦大言炎。
(48)七隻小怪獸的微博【联名信有了一次有意义的修改】1月10日 15:37(「四川大学校友学生实名要求建立校园性骚扰防治机制的公开信」)。
(49)罗茜茜“赢”了,反性骚扰征途仍在继续」新媒体女性2018-01-12 20:15:22。
(50)在逆风中前进的反性骚扰行动者 」2018-01-17 李钘滢 李钘滢。
(51)万人致信母校反性骚扰发起人张累累给教育部的一封信」2018-01-20 张累累 削美丽。
(52)同上。
(53)校长亲启|中国Metoo在大学,母校能否承载罗茜茜们的勇气和期待?」2018-01-09 枣枣 女权之声。
(54)北航已与4名性骚扰举报者联系 82岁校友力挺罗茜茜」2018年01月09日 18:57:28来源:红星新闻。
(55)我也是蓝鲸灵的微博1月18日 13:55
(56)黄溢智律师的微博1月10日 14:29
(57)「四川大学校友学生实名要求建立校园性骚扰防治机制的公开信」七隻小怪獸的微博【联名信有了一次有意义的修改】1月10日 15:37
(58)“#Me Too” 在中国的一次大范围流行:学姐学长们出手了」好奇心日报(魏倩)1月11日。
(59) YakiShare的微博1月19日 15:02、「呼吁中国政法大学建立校园性骚扰防治机制的联署」。
(60)关于提议建立校园性骚扰防治机制的说明」校长信箱。
(61)「失望和愤怒:北大反校园性骚扰倡议信的后续」十六盈的微博1月17日 04:07
(62)罗茜茜“赢”了,反性骚扰征途仍在继续」新媒体女性2018-01-12 20:15:22。
(63)罗茜茜“赢”了,反性骚扰征途仍在继续」新媒体女性2018-01-12 20:15:22。
(64)校长亲启|中国Metoo在大学,母校能否承载罗茜茜们的勇气和期待?」2018-01-09 枣枣 女权之声。
(65)七隻小怪獸的微博汇报【川大校长办公室对呼吁建立高校性騷擾防治机制的邮件回复】1月17日 18:35
(66)妇女张的微博1月10日 10:59
(67)罗茜茜“赢”了,反性骚扰征途仍在继续」新媒体女性2018-01-12 20:15:22。
(68)“#Me Too” 在中国的一次大范围流行:学姐学长们出手了」好奇心日报(魏倩)1月11日。
(69)全国高校教师反性骚扰宣言:武大、浙大、中山、复旦等已加入 」2018-01-21 14:35。
(70)高校反性骚扰机制,教授们站出来了!」新媒体女性2018-01-22 15:07:31。
(71)我也被性骚扰过—中国女记者性骚扰调查」2017-11-20 黄雪琴 ATSH。
(72)中国记者性骚扰状况调查
(73)中国の記者も#MeToo セクハラ被害調査に260通」『朝日新聞』2017年12月24日。
(74)我要实名举报北航教授、长江学者陈小武性骚扰女学生」cici小居士2018-01-01 08:16:22。
(75)从北航性骚扰到校园反性骚扰机制:律师、专家和行动者怎么说」女权之声2018-01-03 17:02:54。心理的リハビリのための費用を含めた賠償を認めさせた事件については、「六旬教师48小时数次性侵13岁少女被判11年 法院:心理康复费3000」未来网2017-12-08 10:15:00(新京报などによる)参照。
(76)张奕涵 邓晖「女博士讲述举报教授性骚扰始末:受害群体投票决定曝光」新媒体女性2018-01-05 10:52:46(首发于谷雨实验室(guyulab))。
(77)以上は、「我们写联名信的动机」(現在閲覧不能)。
(78)北京航空航天大学的微博1月12日 23:05
(79)罗茜茜“赢”了,反性骚扰征途仍在继续」新媒体女性2018-01-12 20:15:22
(80)鱼里鱼闯江湖的微博1月13日 12:36
(81)教育部决定撤销陈小武“长江学者”称号,停发并追回已发奖金」澎湃新闻2018-01-14 18:01。
(82)万人致信母校反性骚扰发起人张累累给教育部的一封信 」2018-01-20 张累累 削美丽。
(83)“导师带我们去陪酒,想要读博就不能拒绝”| 陈小武的十八个分身」女权之声2018-01-16 11:25:54
(84)对话“青春大篷车”:我只想说出真相」、「举报人专访2:爆料者“汀洋”:6年的漫长缠斗」网易号2014年8月7日 18:28。
(85)新媒体女性的微博2014-7-24 10:36【76名校友联署呼吁厦门大学建立机制防治校园性骚扰】
(86)新媒体女性的微博【教师节256名学者致信教育部及厦大校长:建立高校性骚扰防范机制迫在眉睫2014-9-10 11:13
(87)女权之声的微博【“小红帽”现身大学 十地女大学生要求校长反性骚扰】2014年9月10日 11:27 、「十地女大学生起草性骚扰防治规范 致信百所“211”高校校长呼吁禁止“师生恋”」法制日报——法制网2014年9月10日。
(88)Group Urges Action Against Sexual Harassment on University Campuses,The New York Times,September 10, 2014→「与中国校园性骚扰斗争的“小红帽”」2014年9月11日。当時の「赤ずきん」を使ったパフォーマンスアートに関しては、本ブログの記事「広州で若い女性たちが公共交通の痴漢対策について交通管理委員会、地下鉄公司、警察、婦女連合会などと会談――各地で「赤ずきん」姿で痴漢・セクハラ反対活動」参照。
(89)新媒体女性的微博【教育部出台规定禁止高校教师性骚扰学生 厦门大学博导性骚扰案尚未公布处理结果】2014-10-11 09:34
(90)新媒体女性的微博【你对厦大事件“吴春明被开除党籍 撤销教师资格”的处理结果怎么看?】2014-10-15 08:30
(91)新媒体女性的微博【厦大性骚扰处理结果令人失望】2014-10-16 11:30
(92)吴春明满血复活出任中国考古学会委员 他们知道他性骚扰多名女学生吗」新媒体女性2015年12月23日 18:20。
(93)广州性别教育中心「调查显示:大学生中七成人曾被性骚扰」新媒体女性2017-03-08 19:37:45、「报告称高校性骚扰中过半的人选择沉默和忍耐」界面新闻2017/04/13 13:42。
(94)以上は、「【众筹】给高校寄性骚扰调查报告,筹建反性骚扰网络 」 2018-01-21 韦婷婷 广州性别中心。
(95)教育部表态“零容忍”,反校园性骚扰大功告成了吗?」2018-01-18 吕频、美丽、大兔 女权之声。
(96)吕频「中国式反性骚扰的新女性前途」女权之声的微博1月10日 11:08
(97)北航女博士举报教授性骚扰 能推动中国的#MeToo运动吗」BBC中文网2018年1月5日。
(98)95に同じ。
(99)96に同じ。
(100)97に同じ。
(101)96に同じ。
(102)95に同じ。
(103)96に同じ。
(104)95に同じ。
(105)95に同じ。
(106)96に同じ。
(107)尖椒部落的微博1月23日 18:10
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求人の男女差別に対する行政の管理監督責任を問う2件の裁判

<目次>
はじめに
1.「優秀な男性優先」という求人を処罰しなかった責任を問う裁判
2.「男性のみ」求人を通報によって是正させた後も求人の性差別を続ける企業を放置した責任を問う裁判
3.「深圳経済特区ジェンダー平等条例」の実質化と結びつけて
4.民間グループ「就職性差別監察大隊」の活動の一環
おわりに

はじめに

中国でも、2012年以来、就職の女性差別について、企業を相手取った裁判がおこなわれてきており、4件の勝訴判決を勝ち取っている(私のサイトのまとめ「雇用における男女差別について」など参照)。

今年は、就職の女性差別についての行政――具体的には、人力資源・社会保障局(人社局) の管理監督責任を問う裁判が2件起こされた。

1.「優秀な男性優先」という求人を処罰しなかった責任を問う裁判

2016年12月初め、山東省済南市の大学生・夏南さん(仮名)は、山東福聘自動車貿易有限公司(以下、福聘公司と略す)が「中華英才ネット」に出した財務責任者の求人の採用条件の中に、「優秀な男性優先」という項目があるのを見つけた。夏南さんは、この採用条件の性差別を、歴城区人力資源・社会保障局(人社局)に通報し、処罰を求めた。

同月19日、人社局から書面で回答が返ってきた。しかし、その回答は、「この企業の求人情報の中に『優秀な男性優先』という条件があったのは事実であるが、性差別が存在する見なすことは事実と法律の根拠を欠く」というものだった。人社局は、その理由として以下の5点を挙げた。

1.福聘公司の現在の財務責任者はすべて女性である。
2.福聘公司は、頻繁に出張できるなど、比較的きつい仕事ができる財務責任者を一名希望していた。また、優秀な女性がこの会社に入職することを拒絶したわけではない。
3.求人情報の職位の紹介欄には、明確に「性別:限定しない」と書かれている。
4. 福聘公司の女性従業員の比率は44%であり、半数近い。
5. 福聘公司は、すぐに「優秀な男性優先」という条件を削除するとともに、今後は性差別であることが疑われる求人情報を出さないと保証した。それゆえ、福聘公司は「性別を理由として女性の採用を拒否する、あるいは女性に対する採用基準を引き上げる」という規定には違反していない。

しかし、夏南さんは、この回答に対して以下のように考えた。
・理由の1と4は、「福聘公司が男性の採用を優先して、女性の採用基準を上げた」という事実を覆い隠すことはできない。
・理由の2は、以下の二つの点を証明している。第一に、女性は比較的きつい仕事には適さないと考えていること、第二に、男性は「優先」であるのに対して、女性は「拒絶しない」であって、両者は明らかに異なった採用基準であり、女性の採用基準は男性よりも高いこと。
・理由の3について言えば、「性別:限定しない」は、このサイトの固定された位置にある。それに対して、企業が自分で記入する「優秀な男性優先」という条件は、この会社の性差別的傾向をまさに反映している。
・理由の5については、「今後は性差別と疑われるような求人情報は出さないことを保証する」というのは、会社がこの職務の求人は性差別だと認めたことを示している。

そこで、2017年6月16日、夏南さんは、歴城区人力資源・社会保障局を、済南市歴城区人民法院に訴えた。この訴えの請求事項は、以下の2点だった。

1.原告の通報に対して被告が違法な処理をしたことを裁判所が確認すること。
2.被告が出した「山東福聘自動車貿易有限公司の求人の中に性差別が存在するという疑いに関する回答」を撤回して、被告に、原告がおこなった通報をあらためて処理させること。

夏南さんは、次のように言っている。「今はちょうど卒業の季節だが、まわりの多くの学生から、就職活動のときに性差別にあったと聞いている。たとえば、銀行が男女を分けて筆記試験をして、男性の合格ラインを女性よりずっと低くしたりとか、学校での企業説明会で履歴書を手渡すときに、企業が女子学生の履歴書を受け取らなかったりとか、私が大学に行ったとき、受け取った募集要項の中に、男性は大学の本科以上の学歴が条件になっているのに対して、女性は修士以上の学歴が必要だったりしている。」(1)

8月17日、この裁判の1回目の審理がおこなわれた。

ところが、裁判官は、しょっちゅう原告の王楽弁護士の発言をストップした。また、書記官を入廷させず記録を取らせなかった。

王楽弁護士は、この裁判官では公平・公正な審理ができないと考え、裁判長の忌避を申し立てた(2)

王楽弁護士は、裁判所に告発の手紙を書いて、裁判官に謝罪を要求するとともに、歴城区法院に対して(こうした問題を)訴えるシステムを整備するよう求めた。

しかし、数日後、忌避の申請は却下された。

けれども、次の9月18日の審理が終わったとき、歴城区法院の副院長と行政庭の裁判長が王楽弁護士のところにやってきて、「録音・録画などを調査したところ、王楽弁護士の告発の一部は事実であることがわかった」と述べて、裁判官の態度について謝罪をし、裁判所の訴えのシステムを整備することについても承諾した(3)

9月18日は、以下のような点が争点になった。

(1)夏南はその会社に応募していないから、その権利と義務には影響がないのか?

人社局は、以下のように主張した。「夏南はまだ福聘公司の求人に応募していないのだから、求人情報は夏南の権利と義務に実質的な影響を与えていない。また、人社局の回答も、夏南の権利と義務に影響を与えていない。それゆえ、夏南には訴えを起こす権利がない。」

それに対して、夏南さんの弁護士は以下のように反論した。

まず、夏南が求職の過程で福聘公司の女性差別的な疑いがある求人広告を見つけたことは、彼女がその後さらに求職をするか否かに対して直接的な影響を与えた。それと同時に、女性差別の疑いがある求人広告を通報することは公民の義務であって、夏南は自分の義務を果たしたのである。

また、「山東労働・社会保障監察条例」は、山東省の県クラス以上の労働・社会保障行政部門は、労働と社会保障に関する法律・法規に違反する行為を検挙または告発する職責があると規定している。このことは、人社局が夏南の通報を受理することが職責であり、夏南に対する回答も、その職責を履行する行政行為であることを示している。夏南が人社局の回答に対して不満があれば、当然、この行政行為に対して訴訟を起こす権利がある。

(2)「優秀な男性優先」は性差別か?

人社局は、「優秀な男性を優先する」とは、けっして優秀な女性を優先することを否定するものではなく、他の条件が同じなら男性を採用して女性を採用しないことというではけっしてないと強弁した。

それに対して、西南財経大学法学院副教授の何震さんは「わが国が署名したILO111号条約の差別の定義は、『人種、皮膚の色、性、宗教、政治的見解、国民的出身又は社会的出身に基いて行われるすべての差別、除外又は優先』であり、この会社は『優秀な』という言葉で限定しているが、やはり性別にもとづく区分である」と述べた(4)

「男性優先は、性差別ではない」という主張は、他の場でもされるようだ。

たとえば、今年5月、河南農業大学での企業説明会で、江門頂益食品有限公司が「男性優先」という求人広告を出した。同公司は「この仕事は環境が比較的劣悪だから、男子学生を優先している」と言い、それを批判されると「私たちは男性を優先しているだけだ。もし他のポスト、たとえば検査だったら、私たちは女子学生を優先するだろう。これはポストの要求である。たしかに、たとえば高温の環境の下であっても、に一部の女子学生はできるだろうが、しかし、ある角度から言えば、私たちは男女平等にすることは不可能であり、やはり『男性優先』と言い続けるだろう」と言った(5)

2.「男性のみ」求人を通報によって是正させた後も求人の性差別を続ける企業を放置した責任を問う裁判

2017年2月11日、今年卒業する女子大学生の周月さんが、「中華英才ネット」で求人情報を見ていたら、興百業公司が「不動産管理」の求人で「男性のみ」と書いていたので、深圳市光明区労働監察部門に通報の手紙を出した(6)

3月29日、周月さんは、人社局から「労働保障監察案件回答書」を受け取った。回答書には、「興百業公司はたしかに求人の際の性別の条件を付けるという違法行為をおこなった。しかし、是正するよう命じ、再度検査をおこなうことを通じて、興百業公司はすでに是正した。そのため、『広東省労働保障監察条例』第47条の規定にもとづき、企業が違法行為を是正したので、処罰しなくてもよくなったので、法により立件をとりやめた」と書かれていた。

周月さんも、当時は、「労働監察部門はよくやってくれたと思い、非常にうれしかった」と語っている。

しかし、数日後、周月さんがネットで興百業公司の求人広告を探すと、相変わらずいくつも性差別が見つかった(7)。すなわち、興百業公司は、「趕集ネット」「深圳ek人才ネット」などのサイトで、さまざまなポスト(警備、不動産管理、汚水処理など)の求人で「男性のみ」という条件を付けるなどの性差別をしていた(8)。すなわち、興百業公司は違法行為を是正していないのに、人社局はすでに是正したと言って、立件をやめて処罰をしなかったのである。

7月13日、周月さんは、深圳市塩田区法院に行き、深圳市人社局を職責失当の行為があったとして訴え、当日受理された(9)

10月25日、深圳市塩田区法院でこの事件の審理がおこなわれた。

深圳市人社局は、「周月さんの通報の手紙に書いてあった求人広告は是正させた。その企業の他のサイトでの差別的広告は、周月さんの通報の手紙には書かれていなかった。だから、人社局には、管理監督不足の行為はなく、職責失当ではない」と述べた。

それに対して、黄沙弁護士は、「『深圳市労働保障監察事件処理規則』第11条と『広東省労働保障監察条例』第3条には、労働監察部門は自発的に巡視して検査する責任があると明確に規定しているのに、明らかに深圳市人社局はそうしておらず、興百業公司に対する聴取の記録を見ても、他のサイトで性別の条件を付けているか否かを尋ねた記録はない。また、その企業が求人で違法行為をした後も、主体的に検査・処理をしなかったのは、失職行為に当たる」と述べた(10)

今、ネットで探すと、すぐに、深圳市で40余りの性差別的求人広告が見つかる。そこで、裁判の当日、裁判所の前で、2015年に就職の男女差別裁判で勝訴した馬戸さん(11)]が法廷の外で、それらの求人広告を大きな幕に貼り付けて、裁判所の入り口で掲げて通行人に見てもらってアピールした(12)

3.「深圳経済特区ジェンダー平等条例」の実質化と結びつけて

深圳市は、2012年6月、「深圳経済特区ジェンダー平等条例」を制定し、2013年1月施行した。この条例は、制定当時、さまざまな面で画期的だと言われたが、その後空文化してしまっている(「先進的と言われた「深圳経済特区ジェンダー平等促進条例」が空文化?」)。

黄沙弁護士は、この裁判を、この条例の活性化と結びつけている。すなわち、黄沙弁護士は、「深圳は2013年に『深圳経済特区ジェンダー平等条例』を施行したにもかかわらず、4年後の今日も依然として、管理監督部門がジェンダー平等の管理監督の職責を履行しない現象が存在している。それゆえ、この裁判の意義と価値は、このジェンダー平等条例を活性化し、現地の関係部門が実践の中でこの条例を応用することにある。また、それによって人社局などの関係部門のジェンダー意識を次第に高め、求人における性差別問題に対して重視させることにある」と述べている(13)

この裁判がおこなわれている最中の7月10日、以下のように、同条例に規定された「ジェンダー平等促進機構」が、婦女児童工作委員会に看板を付け加える形で、やっと設立された。

深圳市機構編制委員会の市婦児工委事務局に看板を加えることに関する批復(下級機関から報告または指示を求めてきたのに対して、意見または指示を書きつけて回答すること)

市婦連:
市婦連の深婦函[2017]26号文を受け取った。研究した結果、市の婦女児童工作委員会事務局に「市ジェンダー平等促進事務局」の看板を付け加えて、二枚の看板を掛け、一つの人員管理体制を実行することに同意する。この事務局は「深圳経済特区ジェンダー平等促進条例」の規定にもとづき、ジェンダー平等の促進に関する職能を持ち、それに対応するために副局級の指導職を1名増やす。

深圳政府事務局[2015]12号文書の精神に基づき執行すること。

深圳市機構編制委員会
2017年7月10日

しかし、実はこれも、黄沙弁護士が一年にわたって、各関係部門を転々として、調査・交渉・催促した結果である。すなわち、黄沙弁護士の努力によって、本来は4年前に設立するべき機構がようやく設立されたのである。黄沙弁護士は、機構の設立施行およびメカニズムの問題について、今後も催促し、フォローし続けるという(14)

4.民間グループ「就職性差別監察大隊」の活動の一環

「女権の声」の微博は、2017年2月15日に、「周さん」が、インターネットの求人広告に性差別の疑いがある10の深圳の企業を、深圳十区(福田区、羅湖区、南山区、塩田区、宝安区、竜崗区、竜華区、坪山区、光明新区、大鵬新区)の人社局に通報する手紙を出したことを伝えている。

彼女は、智聯招聘ネット、前程無憂ネット、中華英才ネット、58同城ネット、趕集ネット、深圳百姓ネットという6つのサイトの求人広告を、「男」などのキーワードで検索することによって、求人広告の中に「性別は男」とか「男性限定」といった条件が付いたものを見つけ出したという(15)

上の記事の「周さん」というのは、通報の手紙を出した時期や「周」という姓から見て、裁判を起こした周月さんのことであろう。

すなわち、周月さんが裁判を起こしたのは、たまたまではなく、彼女が系統的に調査して多くの企業の性差別的求人を通報する活動をした中でおこなったものであることがわかる。

このような活動は、ここ2、3年、系統的におこなわれてきた。

微博「就職性差別監察大隊」は、昨年3月末、「就職の性差別に対して宣戦する――就職性差別大体はあなたの通報を受け付ける!」という文章を微博で発表し、性差別的な求人広告を見つけたら通報するように呼びかけた。その文章には、以下のように述べている。

私たちは何をするのか:私たちは、各求人サイトや各自が見た求人広告を行き来して性差別を通報し、ときには裁判も起こす。差別的情報を芽のうちに摘み取ることによって、差別を、コストがかからない、責任を持たなくてもよい行為ではなくするのだ!

あなたがウェブサイトで見たり、求人に応募した時に遭遇したり、身の回りで起きたり[した就職の性差別を]……写真に撮ったり、画面を切り取ったりして、私たちに送ってほしい。私たちが通報する。

同時に、私たちはそれらの会社(企業、単位、機構)を晒し、企業に質問する過程を晒し、関係部門の回答も晒す。要するに、私たちはすべてを晒す。

もちろん、あなたが私たちの通報の隊列に加わってくれることも歓迎する。(16)

このグループは、とく大学の中での求人に注目しており、同じ昨年3月末に全国116か所の211大学(1995年に教育部が、21世紀に向けて重点的に投資すると決めた約100大学のこと。その後、数が増えた)に対して、以下の2点の情報公開請求をおこなっている。

1.大学内での求人の性差別に対する大学の予防と監督の措置
2.就職中に性差別を受けた学生に対する救済措置

回答をした大学は、質問した大学の52.6%だった。回答の中には、性差別的な求人広告を許さないという大学もあれば、形式的な回答しかしなかった大学もあった(17)

また、今年4月には、「学校での求人の場で明示的な就職の性差別をなくし、女性に公平な就職の環境を取り戻す」ことを目的にして、以下のような活動をすることを呼びかけている。

1.大学あるいは他の学校の求人の場で出ている性差別的な求人広告を探す。
2.現地の学校の求人の場に行って、性差別的な求人情報を集め、大学での就職差別の状況を調査する。
3.人社局にそれらの性差別的な求人情報を発表している企業とウェブサイトを通報する。
4.全国の大学に情報公開申請をおこない、教育部が大学での求人の性差別を禁止していることを徹底するよう求める。
5.調査状況にもとづいて、どのようにして学校での求人の中での性差別をなくすのか、教育部と大学に建議の手紙を出す(18)

おわりに

最初に述べたように、今回紹介したのは、いずれも、人力資源・社会保障局を相手取った裁判である。また、いずれのケースも、本人が応募したわけではない。

そして、いずれも、単に訴えた件を是正させるだけでよしとせず、より実効性のある措置を求めている。すなわち、夏南さんの裁判では、企業に対する処罰を求めており、周月さんの裁判では、人社局に告発した求人以外の同一企業の男女差別を是正させることを求めている。

また、前者に関しては、「優秀な」という限定を付けたり「優先」という言葉を使ったりすることによって性差別であることをごまかそうとしていることを訴えた裁判でもある。

後者の裁判は、深圳経済特区ジェンダー平等条例の活性化とも結びつけた活動である。

いずれも、行政相手の裁判であることから、勝訴には困難も予想されるが、どちらの裁判も、何重もの意味を持ったものだと言えよう。

そして、こうした活動が、単に個人がバラバラにおこなわれているのではなく、「就業性差別監察大隊」というグループ――もちろんごく小さなグルーブであろうが――としておこなわれていることも注目される。


(1)山东省就业性别歧视诉讼第一案昨日立案!」2017-06-17 就业性别歧视监察大队、@易明「山东性别歧视诉讼第一案:“优秀男士优先”也是性别歧视」公益服务网2017-06-20 17:55:49。
(2)就业性别歧视监察大队的微博8月17日 18:19
(3)“男士优先”职位招聘了女职工,这还是就业歧视吗?」就业性别歧视监察大队 2017-09-02。
(4)人社局对性别歧视监管不力,法官你管吗?」就业性别歧视监察大队2017-09-20 13:10:10。
(5)康师傅子公司:男性优先不是性别歧视」就业性别歧视监察大队2017-05-17 20:17:59。
(6)今日开庭――女大学生上告失职人社局」2017-10-25 就业性别歧视监察大队。
(7)既然人社局骗了我,我就告TA!」2017-07-14 就业性别歧视监察大队。
(8)(6)に同じ。
(9)(7)に同じ
(10)(6)に同じ。
(11)本ブログの記事「『男性のみ』募集を訴えた3件目の裁判――今回は翌日に受理、『男性向け』と思われがちな宅配便配達員での採用の性差別を問う」、「就職の男女差別で2件目の勝訴判決――今回は宅配便配達という男性職。コック見習い採用の男性のみ求人も提訴」参照。
(12)(7)に同じ
(13)(6)に同じ。
(14)邀请函|深圳市性别平等促进工作机构已挂牌成立,那就开始干活吧!!」2017-10-18 就业性别歧视监察大队。
(15)就业性别歧视监察大队「招聘限男性,人社局在哪里?」女权之声2017-02-17 17:12:43。
(16)向就业性别歧视宣战——就业性别歧视大队接受你的举报!」2016年3月31日 14:34。
(17)数说公开之禁止校园招聘中的性别歧视」就业性别歧视监察大队2016-05-28 12:50:27、「信息公开神回复,211高校哪家强?」2016年5月21日 22:28、「信息公开:校园招聘中性别歧视的预防和救济措施 」2016-06-14 就业性别歧视监察大队。
(18)招募|一起消除校园招聘性别歧视!」就业性别歧视监察大队 2017-04-11 12:49:03。
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ホモフォビア教科書是正運動の展開――出版社・編者に働きかけた成果、民事訴訟、「中国の精神障害の分類と診断基準(第三版)」の限界

<目次>
はじめに
一 47冊の教材の出版社や編者に働きかけ、20冊に是正を約束させる
二 教科書の出版社に対する民事訴訟
三 「中国の精神障害の分類と診断基準 (第3版)」の限界が露呈
おわりに

はじめに

中国では、2001年に中華精神病学会が決定した「中国の精神障害の分類と診断基準(第三版)」によって、同性愛は精神病とは見なされなくなり、「非病理化」されたと言われる。しかし、大学教科書においては、その変化が反映されているのは今なお一部にとどまり、多くの教科書が、同性愛を「障害」や「異常」として記している。中国の同性愛問題についての活動家は、それらの教科書を「ホモフォビア教科書 (恐同教科書)」として批判してきた。

秋白さんは、その点に関する教育部の責任を問う裁判を起こしたが、2016年9月、一審で敗訴したのに続き、2017年3月には二審(中国では最終審)でも敗訴した(本ブログの記事「ホモフォビア教科書を放置する教育部を訴えた裁判の紆余曲折とその敗訴」参照)。

一 出版社や編者に働きかけた教材47冊のうち、20冊に是正を約束させる

秋白さんはそれに屈せず、今度は、誤りがある教材の出版社や編者に直接に働きかける道を選んだ。秋白さんは裁判に敗訴したときは、すでに問題がある教材の目録を作成しており、今後、10人の編者に対して、教材から同性愛に汚名を着せる内容をなくすよう手紙を出して、その次には電話やメールで説得するつもりだった。

さらに、そうした活動を一緒にしてくれる人も募集した(1)。このアクションには、すでに出版社や編者への働きかけをしてきた西西さんも参加した(2)。秋白さんは、裁判中から、こうしたアクションなどにかかる費用として、教材の購入費、手紙の郵送料、交通費・宿泊費などを計算しており、カンパを求めてきた(3)

4月から6月にかけて、秋白さんらは、集まった仲間たちとともに、同性愛に対する誤った記述をしている全国の47冊の教材について、その出版社22社と編者79人に対して、速達や電子メールによって、99通の手紙を送った。

7月12日までに計29通の返事が届いた。教科書ごとに見ると、以下のような結果だった。

・教材の誤りを認め、修正を承諾した―――――――――20冊
・教材に誤りが存在することを否認した――――――――2冊
・中立。同性愛に対する認識に論争があることは認めた―3冊
・あいまいな態度。「事情を斟酌して考慮する」など―――4冊
・何の回答もまだ受け取っていない――――――――――18冊

修正を承諾した返事としては、たとえば『大学生心理健康』の編者の周春明さんは、「新版では変更をする。深くお詫びしたい。私たちは、大学生の心理的健康という科目を教えるすべての先生に、この章の内容について正しく話してもらって、学生が誤解しないように求める」というきちんとした回答をした。

また、『婚姻と相続法学(第5版)』を出版している中国政法大学出版社らは、「ちょうど本書の改訂をしているところなので、一週間以内に編者の先生に渡して確認する」という答えがかえってきた。続いて編者の夏吟蘭さんから「以前の私たちの同性愛についての認識は、たしかに伝統的観念の影響を受けていた。今後この教材を改訂するときは、必ずこの部分の内容について修正する。あなたが意見を出してくれたことに非常に感謝する」という返事がきた。

逆に、誤りを認めない返事としては、『現代青年心理学』の編者・張進輔さんの次のような返事があった。「同性愛は当然、性変態である。性変態は精神病と同じではない。変態は異常な変化の状態を指している」、「人が、もしある面が異常で、社会生活に適応が困難ならば、まず改めることを考えるべきである。同性愛者も自分の感覚や興味、習慣だけを考えるのではなく、親戚や友人の感覚や圧力についても気にかけなければならない」、「私たちは、多くの人が同性愛者にならないように、できるだけ早く、青少年の中の同性愛的傾向がある者を発見し、治療・矯正しなければならない」、「現在同性愛者が増加しているのは、ほかでもなく社会が管理を緩めた結果である」、「同性愛者は、自然の規定に背いた行為方式を選択した以上、さまざまな圧力と困難を受けるのが必然であり、伝統的社会や他の人の同性愛に対する態度と見方を変えようと試みることは、不必要かつ不可能である。」

秋白さんらは、こうした人に対しても、必死で冷静になってあらゆる方法で議論をしたが、うまくいかなかったという。

また、態度があいまいな回答としては、「あなたの観点と提案は価値があるので、私は非常に重視し、まじめに考慮する」、「あなたのメールを受け取った。私たちはまじめに対応する」といったものがあった(4)

しかし、いずれにせよ、出版社や編者の4割が訂正を承諾したことは相当の成果だと言えよう。

二 教科書の出版社に対する民事訴訟

7月6日、広州の大学生・西西さんは、ホモフォビア的記述のある張将星・曾慶編『大学生心健康教育』(2013年 曁南大学出版社)を出版している曁南大学出版社と同書を販売していた京東ネットを、同書の内容に誤りや誤解を招く箇所があるなど、明らかに同書の質に問題があることによって消費者に損害を与えたとして、江蘇省宿遷市宿豫区法院に訴えた。

同書のどのような記述が問題だったかというと、同書は、「よく見られる性心理障害」の中の一つに「同性愛」を挙げていた。また、「同性愛」について、「性愛の面での紊乱、あるいは性愛の対象の倒錯であると考えられる」と記していた。

2016年6月から、西西さんは、同書の編者や出版社の副編集長に対して、何度もメール送ったり、面談をしたり、300人以上による連名の手紙を手渡ししたりして、そうした記述を是正するように訴えてきた。しかし、編者は対話に応じなくなり、副編集長も西西さんの訴えを編者に転送する以上のことはしなかった(これまでの経過については、本ブログの記事「大学のホモフォビア教科書の編者・出版社に対する働きかけ」の参照)。

そこで、西西さんは、上記のように7月6日に、江蘇省宿遷市宿豫区法院に訴えを起こしたところ、17日に同法院がこの訴えを受理したという通知が来た(5)

しかし、曁南大学出版社のほうは、その件について記者に取材を受けた際、「すでに2017年3月に新版を出しており、その中では同性愛に関する部分を削除している」と述べた。

けれども、西西さんは編者からそのことを知らされていなかった。

また、西西さんが新版を購入して見てみたところ、教科書は一部、修正されていたが、「同性愛」を「性心理障害」の一つとして挙げている点には変わりがなかった。また、新版は「大学生は、不法なルートで性に関する音声・画像の製品・物品に接触するべきではない」と述べているのだが、その理由として「性的指向に偏りを引き起こす可能性がある」ことが書いてあった(6)

この裁判の審理は、10月31日の午前9時から裁判所の第二法廷でおこなわれることも決まった(7)

しかし、27日、裁判官がこの件についてはもっと多くの研究時間が必要だと述べ、開廷が延期されることになったと西西さんが伝えた(8)。このことは、裁判所が本気でこの裁判に取り組んでいることを示しているのだろうか? もしそうだとしたら、期待が持てるのだが‥‥。

三 「中国の精神障害の分類と診断基準 (第3版)」の限界が明らかに(9)

西西さんの注意を引いたのは、新版は、中国で同性愛を非病理化したと言われる「中国の精神障害の分類と診断基準(Chinese classification of mental disorders )(第3版)」(CCMD-3)を引用しつつ、同性愛は性心理障害であると述べている点だった。

といっても、CCMD-3は「同性愛は性心理障害である」とは書いていない。しかし、この教科書は、それ以外の箇所自体は、たしかにCCMD-3の中から引用していた。

なぜ、中国で同性愛を非病理化したと言われるCCMD-3が、同性愛は性心理障害であることの根拠に用いられたのか? 

CCMD-3は、「性的指向障害(性変態)」という概念はなくしていないのである。ただし、CCMD-3の言う「性的指向障害(性変態)」とは、「さまざまな性の発育と性の指向によって起きる障害を指し、性愛自身は必ずしも異常ではない。しかし、ある人が性の発育と性的指向が心理的障害を伴う、たとえば、そうであることを希望せず、あるいは躊躇して決められず、そのために、焦慮、憂鬱、内心の苦痛を感じ、ある者は治療によって変えようとする」というものである(10)

西西さんは、以下のように指摘している。

CCMD-3は、同性愛者の自己感覚が良好で、性的指向を変えたいと思っていないならば(自我調和的同性愛)、同性愛を異常だとはみなしてはならないと言っているが、そうでない同性愛(自我不調和的同性愛)については、異常だとみなしている。

これは、CCMD-3は、同性愛という性的指向自体は病気だとはみなしていないとはいえ、その同性愛の非病理化と脱スティグマ化が、けっして徹底したものではないことを意味している。

この点は、CCMD-3が制定された経過と関係していることが指摘されている。CCMD-3制定当時、専門家内部で激烈な議論があり、病理化と非病理化の両派が対峙して譲らなかった。しかし、社会のセクマイフレンドリーな人々との協力によって、同性愛は最終的には非病理化を実現した。しかしながら、CCMD-3には、「心理的障害」・「自我不調和的」という記述が残った。この残余は、まさに当時の両派の妥協の結果だという(11)

CCMD-3と異なり、世界保健機関の「国際疾病分類(International Classification of Diseases)第10版」(ICD-10)とアメリカ精神医学会の「精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)第5版」(DSM-5)は、それぞれ1990年と1973年に同性愛を完全に削除することによって、同性愛の徹底的な非病理化を実現している。

これに対して、CCMD-3は、「自我不調和」的同性愛を性心理障害とみなしており、実は国際基準から遅れている。

こうしたCCMD-3の記述には、以下のような問題がある。

(1)性的指向は、障害や心理的問題として見なしてはならない。同性愛者に「自我不調和」という心理的問題、すなわち焦慮、憂鬱、苦痛、治療による改変要求といったことが起きる原因は、けっして同性愛という性的指向自体にあるのではなく、社会の中の同性愛に対するスティグマ、差別、排斥によって自己を受け入れられなかったり、他人との交際の中での障害があったりすることなどがもたらす心理的問題である。

(2)CCMD-3の性的指向障害という情況は、もっぱら「自分を受け入れられない同性愛とバイセクシュアル」を指しており、異性愛には適用されない。CCMD-3が同性愛とバイセクシュアルだけを提示しているのは、実際は、異性愛だけを唯一の自然で、正統な、合法的な性的指向であり、その他は、区別して扱わなければならない、不正常で、非正統的ものだと仮定していることを意味している。

以上のようにCCMD-3が保守的で、立ち遅れていることは、同性愛の脱スティグマ化にとって、以下のような障害と困難をもたらしている。

【同性愛矯正治療にとって】CCMD-3に同性愛者に対する差別的な記述が存在しているうえに、中国の心理カウンセラーの訓練システムでは、多元的ジェンダーの知識が非常に欠けているために、本来の意図としては自分の性的指向を受け入れられない同性愛者の精神的健康のために「自我不調和」的同性愛を治療が必要な範疇にとどめたことが、同性愛の「矯正治療」に変わってしまうと同時に、利益を追い求める不良な動機の医療機関と心理カウンセラーにつけ込む隙を与えて、違法な性的指向の矯正治療をおこなわせた(12)

【「教材の脱スティグマ化」にとって】同性愛を病理化している教材の内容を修正するように編者や出版社を説得しているプロセスにおいて、以下のように、CCMD-3は編者が教材の修正を拒否する口実になっている。

1.ある編者は、その教材に誤りはないと言うために、CCMD-3もまだ同性愛を心理的障害として挙げているから、この言い方は、CCMD-3という基準に合致していると詭弁を弄した。

2.ある編集者たちは、教材の中でCCMD-3がまだ「自我不調和的同性愛」を性の心理のせいにしていることを理由にして、「同性愛という性的指向を矯正する」ことを「助けを求めるものを援助する」方法として述べている。

3.『大学生心理健康教育』の新版の改訂の時に出現した問題である。
 (1)いかなる性的指向自身も偏向や障害、心理的問題ではないので(異性愛、同性愛、バイセクシュアルを含めて)、「大学生は、不法なルートで性に関する音声・画像の製品・物品に接触するべきではない。なぜなら、その中から不適切あるいは誤った性の情報を得るかもかもしれず、さらに重大なことには、性的指向に偏向に出現させるかもしれない」という文の中の「性的指向に偏向が出現する」という言い方は誤っている。同時に、179頁の「性的指向に偏向が出現する」と178頁の性心理障害の同性愛の間には、間テキスト性(=テキストが相互に関連しているように読まれること、といった意味のようです)が存在しているので、「性的指向に偏差が出現する」の中の「性的指向」は、「同性愛」であると非常に理解されやすく、そのために誤解が生じやすい。
 (2)教材が、CCMD-3が「同性愛を性心理障害として挙げている」とし、それを「性的指向障害」に分類している。しかし、CCMD-3は「自我不調和的同性愛」だけを「性心理障害」とみなしており、同性愛を全体として性的指向障害には分類していない。それゆえ、教材の中のCCMD-3の記述は誤っている。
 同時に、『大学生心理健康教育』はCCMD-3の原文をそのままコピーペーストしていて、編者はCCMD-3に対してまったく解析をしておらず、そのうえCCMD-3の原文は曖昧さと誤解を招く点があるので、多元的ジェンダーの知識と専門の訓練を受けていない学生は、その中に引用した原文を、同性愛は心理的障害の一つなのだと理解してしまいやすい。
 (3)新版の教材はCCMD-3だけを引用しており、かつCCMD-3は2001年以来何ら更新されていないので、知識のレベルから見て、非常に立ち遅れている。それなのに、この教材はその他の権威ある基準であるICD-10とDSM-5のようなものを参考にしていないので、同性愛についての記述が非常に一面的である。

西西さんは、国内の心理学と精神医学の専門の教材の中では、銭銘怡『変態心理学』(2006年 北京大学出版社)が最も全面的かつ正確な教材だと評価している。その中ではCCMD、ICD、DSMの同性愛に対する見方を比較して、国内外の同性愛の脱病理化のプロセスを詳細に記述し、同時に「来訪者が自分の性的指向を受け入れるように援助する」ことを通じてその心理的問題を改善するよう提唱しているからである。

それゆえ、西西さんは「曁南大学出版社は、教材に修正をしたとはいえ、新版の教材にも誤り、誤解を招く記述、一面的な記述がある。だから、私は曁南大学出版社と京東に対する提訴を撤回せずに、『大学生心理健康教育』が一層の修正をするように求めてく」と述べている。

同時に、西西さんは、『大学生心理健康教育』の修正が不徹底であることは、自分に、以下のような問題を考えさせると述べている。

(1)同性愛がCCMD-3ではまだ徹底的な脱病理化がなされていないという情況の下で、私たちは、どのようにしたら出版社と編者を説得して、新版の『大学生心理健康教育』に出現したような問題を出現させないようにするか?

(2)結局、教材をどのように書けば、LGBTに対してフレンドリーで、かつ全面的になるのか?

(3)精神的疾病や心理的健康を中心とした教材の中で(たとえば変態心理学)、教材は同性愛を「性心理障害」という一節の中で論じる以外に、どのように扱えばいいのか? あるいは、新しい教学体系の中で、同性愛は「精神的疾病」という枠組みの中でだけ議論しないようにするのか?

(4)私たちはCCMD-3の「性的指向障害」および「同性愛」という項目における保守的な扱いをどのように理解すればいいのか? 精神的疾病の判定は純粋の科学的実証なのか、それとも道徳的判断が混じるか? 私たちはどのように理解すればいいのか?

おわりに

秋白さんらの働きかけによって出版社や編者に働きかけた教材47冊のうち、20冊に是正を約束させることができたのは、秋白さんらがこれまで運動を続けてきたことによって、教科書の問題点を指摘する主張に対する理解が広がってきたことの反映ではないかと思う。

西西さんが教科書の出版社に対する民事訴訟を起こしたことにも見られるように、ほんとうに粘り強いたたかいをしている。

CCMD-3の限界については、早くから批判が出されているが(13)、運動が発展したことによって、そのような限界に直面したことは、理論的批判とはまた別の意義があろう。

(1)以上は、「三诉教育部|败诉,终结还是开始?」2017-03-11 秋白 秋白的自由野。
(2)恐同教材就像巨石,她选择做一个推石头的人」NGOCN 2017-08-23 11:07:45。
(3)筹红包/祝福,支持秋白2017年改变10本毒教材! 」2017-01-31 秋白 秋白的自由野。
(4)以上は、陈秋颜「捷报|四成编者/出版社承诺修正教材中的“恐同”内容」知乎专栏2017年9月16日。
(5)-推石头的西西弗斯 「教材“恐同”,女大学生诉暨大出版社、京东在江苏获立案!」2017-09-04 19:58:05。
(6)-推石头的西西弗斯「分析|暨大出版社,你真的有诚意修改教材吗?! 」2017-09-04 20:27:16。
(7)-推石头的西西弗斯「国内首例“恐同”教材民事诉讼案,31日开庭!」2017-10-25 23:51:26。
(8)-推石头的西西弗斯 10月27日 12:27
(9)この節は、主に、-推石头的西西弗斯「分析|暨大出版社,你真的有诚意修改教材吗?! 」2017-09-04 20:27:16によっているが、節の中で注記した個所は、その注記に詳しい。
(10)CCMD—3 《中国精神障碍分类及诊断标准》
(11)大咪「在中国同性恋还是病吗?|CCMD-3和同性恋的那些事」知乎专栏。
(12)この点については、「同性恋在中国真的去病了吗?」2017-04-20 LGBT权促会。
(13)『桃紅満天下』増刊38期(2001年)「中国同性恋非病理化专辑」、童戈「中国同性性活动的历史沿革和现状」童戈ブログ(http://tongge2005.blog.sohu.com)2010年3月26日。
関連記事

トランスジェンダー団体が次々に設立、継続的に活動

<目次>
はじめに
1 トランスジェンダーセンター
 (1)「トランスジェンダーの声」――活動家を招いてオンラインで語り合い
 (2)広州以外にも広がる活動
 (3)トランスジェンダーに対するDVについての取り組み
 (4)センターの現在――「トランスジェンダー」の定義と3つのグループ
 (5)h.cさんの話
2 トランスチャイナ
3 トランスジェンダーシェルター
4 トランスジェンダー生活社
5 他のLGBT団体のトランスジェンダー問題への取り組み
 (1)北京LGBTセンター
 (2)同語
おわりに

はじめに

前回は、2016年に提訴されたトランスジェンダーの就職差別裁判についてご紹介した(「トランスジェンダーの就職差別、労働紛争訴訟と人格権訴訟の両方で勝訴」)。こうしたトランスジェンダーの活動が、最近、活発化しているように思う。

この1、2年、組織の面においても、トランスジェンダー独自の団体が次々に設立され、継続的に活動している。

トランスジェンダーに関しては、2006年ごろ、「トランス中国」(この名称になるのは2008年だが)という団体ができ、電話相談もおこなった。また、LGBT関係の組織の中でトランスジェンダーをテーマにした集いがおこなわれることもあった。2009年3月には、北京LGBTセンターの中に、バイセクシュアルやトランスジェンダーのための「無界限小組」が設立された(「各地のセクシュアル・マイノリティのサイト(4)──トランスジェンダーの状況・サイト・思想」)。しかし、そうした動きは、数年前まではあまり目立たなかったように思う。

以下、最近のトランスジェンダー団体の活動を、団体ごとに見てみよう。

1 トランスジェンダーセンター

2016年5月、F女権小組(1)の中核メンバーであるトランスジェンダーレズビアンのh.cさんらが、広州に「トランスジェンダーセンター」を設立した(2)。h.cさんが「別の2人のフェミニストの若者といっしょにトランスジェンダーセンターを設立した」と記している記事もあることから見ても(3)、少なくとも当初はフェミニストが主導して設立したと言えそうだ。

トランスジェンダーセンターは、トランスジェンダーに交友の場を提供したり、集会・サロン・映画鑑賞会・読書会などをおこなうとしている(4)

具体的には、同センターの微博を見ると、まず2016年6月5日に、「広州トランスジェンダー顔合わせパーティー」をおこなうと書かれている(5)

また、トランスジェンダーセンターは、金曜日に定期的に活動をしているようだ。たとえば、2017年3月3日には、「トランスジェンダーをテーマにした軽いゲームの夜」を広州でおこなうと書かれている。この日は、ゲームをしたのちに、参加者がジェンダーアイデンティティと関係がある家庭での話をしたり、テーマを決めた弁論(この日は、「すでに成年になっていて、一定の経済的能力のある人も、父母の許可が得られなければ手術ができないか?」など)をしたりするという(6)

また、同年11月11日-13日には、北京LGBTセンターとトランスジェンダーセンターが主催して、広州で、カウンセラー・教師・ソーシャルワーカー・医師など、セクシュアル・マイノリティに接する人々のために、セクシュアル・マイノリティにフレンドリーなカウンセリングをするための研修を実施している。その研修は、3日間にわたるもので、具体的には、7人のジェンダー/セクシュアリティに関する研究者やカウンセリング指導者を招いて、7つのワークショップをしたり、L・G・B・Tそれぞれの代表をゲストとして招いて参加者との交流をおこなったりしている(7)

(1)「トランスジェンダーの声」――活動家を招いてオンラインで語り合い

2017年の元旦、トランスジェンダーセンターは、今年1年のうちに、国内の10人のトランスジェンダーの先駆者らを集めて、9回、「トランスジェンダーの声」というオンライン上の分享会(シェアリングをする会)を開くことを発表した。以下が、それぞれの会のテーマとゲストである(8)

第一期・上 菜食主義クィアフェミニストとトランスジェンダーレズビアン
1月14日
 小雲:トランスジェンダーレズビアン。南京・北京・東北を行き来するフェミニストで、レズビアン運動の参加者。2013年にレズビアン文化やそのコミュニティに接し、その後、菜食主義フェミニズムとレズビアンサブカルチャーに関心を持つ。トランスジェンダー女性という自らのアイデンティティにもとづいて、フェミニズムとジェンダーの探求は、単なる知識の学習ではなく、生活方式の探求であることに確信を持っている。
 h.c:菜食主義クィアフェミニスト、トランスジェンダーレズビアン。トランスジェンダーセンター現代表。

第一期・下 トランスジェンダーのカミングアウト指南
1月15日
 皮皮:トランスジェンダー女性、パンセクシュアル。現在は主にトランスジェンダーに関する相談の活動に従事している。トランスジェンダー生活社と北京LGBTセンターでボランティアをしている。

第二期・上 第三のジェンダーのトランス――非二元的なジェンダー区分
1月22日
 方羽然:トランスジェンダーの第三のジェンダーのパンセクシュアル。本当に男と女だけなのか? 何故に男と女なのか~。

第二期・下 《陰道欲言》 (《ヴァギナ・モノローグス》の中国版の一つ) から、トランスジェンダー女性と就職差別を語る
 然然:トランスジェンダー女性で、ホルモン剤を服用して3年。蘇州LES GO公益小組(豆瓣微博)のメンバーとして、蘇州とその周辺のフェミニズム運動とLGBTグループの発展と交流に尽力している。2015年と2016年に《陰道欲言》の編集と演出をする。2015年には、その中の〈トランスジェンダー〉の脚本を書いて出演もし、2016年にはその中の〈就職差別〉の脚本を書いて出演した。

第三期・上 トランスジェンダーの医療における権利侵害事件での権利擁護
 雪小霖:調香師、トランスジェンダー女性。「トランスジェンダー危機援助と相談公益グループ」(=後述の「トランスジェンダーシェルター」を運営しているグループであろう)の創始者・運営者として、トランスジェンダーのための緊急保護やフレンドリーな医療のリソースの提案をしたり、トランスジェンダーの法律上の性別変更の提案などをするサービスプロジェクトをおこなっている。

第四期 下 トランスジェンダーの婚姻・子ども・父母家庭
 A哥:「同性愛者の親と友人の会(同性恋親友会)」の中核的ボランティアで、トランスジェンダーセンターの中核メンバーの1人で、レインボー医療(彩虹医療[LGBTiBaby])創始者。トランスジェンダー男性(FtM)。

第五期 学校はいかにしてトランスジェンダーフレンドリーな政策を発表するか
 絲絲:2014年に性別適合手術をし、証書類も変更した。トランスジェンダーキリスト教徒で、《陰道説》(《ヴァギナ・モノローグス》の中国版の一つ)の出演者。新浪ブログは、丝丝公主(http://blog.sina.com.cn/investigatecosmos)。2015年に整形医療で事故にあい、左目の末梢神経が壊死。弁護士を頼んで、数か月後、示談で解決。

第三期・下 トランスジェンダー男性と服薬の安全
 Top:トランスジェンダー男性。今年4月からホルモンの服用を開始。今月中旬、兄弟(=トランスジェンダー男性を指す思われる)微信グループを設立した。その目的は、第一にみんなを集めること、第二に、市場の薬品は偽薬が氾濫していて、価格もばらばらなので、みんなに薬の正確な価格を知らせて、だまされないようにすること。

第四期・上 トランスジェンダー男性・トランスジェンダー女性の手術紹介
 Hitomi:トランスジェンダー男性。北京LGBTセンターのトランスジェンダープロジェクトのコーディネーター。主な活動はトランスジェンダーホットライン。2016年には合計170件の相談を受けた。

ただし、「第一期・上」に関しては、その後の予告では、「フェミニストトランスジェンダーのジェンダー宣言」というタイトルになっており、以下のような文言が書かれている(9)

私たちトランスジェンダーは、性別を間違って生まれたのではない
「セックス(生理性別)」は、生まれつきではなく、人為的な設定である
間違っているのは、粗暴な性別指定制度である

私たちトランスジェンダーの外見は、誰にも判定される必要はない
人の身体は多元的で美しいものだ
強壮さや繊細さは、性別とは無関係だ

私たちトランスジェンダーは、性別を鑑定される必要はない
性別は生まれつきのものではなく、人が選択するものだ
すべての人は、自分に適合した性別を選択する権利がある

トランスジェンダーは、性別のステロタイプなイメージの再生産を拒否する
トランスジェンダー女性は、必ずしもセクシーで美しくなくてもよい
トランスジェンダー男性は、異性愛男性の女性蔑視を基準にする必要はない

私たちトランスジェンダーは、手術をしたか否かで判定することを拒否する
人の身体は性別とは関係ない
身体の改変の有無とジェンダーアイデンティティとは関係がない

私たちはトランスジェンダーだ‥‥

そして、当日のテーマについても若干変更されて、「クィアフェミニズムをテーマにし、フェミニズムを基本的なジェンダー理論として基礎に置いて、2人のフェミニストトランスジェンダーレズビアンが参加者に語る自らの生活体験と観点によって、トランスジェンダーのジェンダー宣言をし、あわせて、各自の菜食主義観についても討論する」となっている。

(2)広州以外にも広がる活動

2017年3月25日には、トランスジェンダーセンターと武漢同行同志センターとの共催で「トランスジェンダー集会+トランスジェンダー互助団準備会」というものがおこなわれている。「トランスジェンダー互助団(跨性别互助团)」とは、武漢同行同志センターに属する、「Trance for Trance」をモットーにしたトランスジェンダーどうしの互助団体だということだ(10)

さらに、4月29日には、トランスジェンダーセンター深圳分部を設立した。トランスジェンダーセンターが国内に設立した初の分部である。Agender(エイジェンダー)パンセクシュアルのVybeさんが執行主任を担当しているという。

その頃すでに、トランスジェンダーセンターは、広州・寧波・成都・武漢・東莞などの都市で公衆に対してトランスジェンダーの経験を伝え、広州・長沙・武漢などの都市の大学と中学(=日本で言う中学と高校の両方を含めた語)の教室でトランスジェンダーの経験を伝えていた(11)

(3)トランスジェンダーに対するDVについての取り組み

2017年5月、トランスジェンダーセンターは、反DVグループ(反家暴小組、Anti-domestic Violence Groupe)を設立する準備を開始した(12)

トランスジェンダーホットラインも、月~金の15:00~17:30に設けた(13)

トランスジェンダーセンターの考えでは、大陸のトランスジェンダーの直面している最も直接的で、最も深刻な暴力は、家庭内暴力、とくに未成年や経済的に独立していないトランスジェンダーの人々の身に起こる家庭内暴力であるという。「最も深刻」だというのは、暴力が発生したとき、しばしば以下の3つの状況に直面するからだ。
(1)家族に殺すと脅される/殺される。
(2)家族に監禁される。
(3)家族に家から追い出される――この場合、追い出されたトランスジェンダーは、いい就職の機会がみつからなければ、自殺する可能性もある。

2016年8月~2017年5月の10ヶ月間にトランスジェンダーセンターがぶつかった11件のトランスジェンダーDV事件のうち、
5件は、トランスジェンダーの未成年者に対するもので、
5件は、当事者が自殺を試みており、
1件は、殺すと脅され、
1件は、殺人未遂であり、
10件は、家族が経済的サポートをやめた後の就職問題と関係しており、
2件は、明白な就職差別と関係しており、
1件は、[この報告が書かれた]昨日(5月29日)起きた。

こうした状況に対して、トランスジェンダーセンターの活動家のh.cさんとL.xさんは、トランスジェンダーセンター反DVグループを設立して、トランスジェンダーをDVやDVの脅しから解放されるよう援助することを決めた。グループ長の一人のL.xさん自身が、典型的なトランスジェンダーによるDV被害者であり、さらに就職問題と就職差別に遭遇している。

L.xさん(17歳、トランスジェンダー女性、高校生)――学校をやめさせられ、差別によって就職もできない

L.xさんは、家族にカミングアウトしたら、家族によって強制的に学校をやめさせられた。L.xさんは、仕事を探しに広州に来て、14歳のトランスジェンダー女性のCZさん(現在家族に監禁されている)と知り合って、トランスジェンダーセンターを紹介された。L.xの仕事を見つけなければならない圧力を緩和するために、センターは、L.xさんにセンターでアルバイトをしながら仕事を探してもらっている。

L.xさんは、CZさんが家族に監禁されているのを知った後、すぐに応急グループを作って、CZさんに関する情報を積極的に探し集めた。このグループがトランスジェンダーセンターの反DVグループの前身である。

L.xは、センターで仕事をしながら(ホットラインの応対、組織活動、反DV救援)、仕事を探していると、フルタイムの仕事が見つかり、面接試験も通った。

しかし、出勤初日に、経営者に身分証のコピーを提出するよう求められた。L.xさんの身分証の性別は元のままだったため、性差別にあい、経営者にすぐ解雇された。

現行の規定とL.xさんの現状では、L.xさんは彼女の身分証の性別を改めるのはほとんど不可能である(L.xさんの外観は、明らかに社会の主流が理解する女性の外観である)。また、高校を中退していて、未成年であるので、L.xさんに主流の社会で仕事を見つけることは至難の業であり、またあらゆるところで性差別にあう(14)

芳さん(14歳、トランスジェンダー女性、中学生)――暴力を振るわれ、家から追い出され、友人の家に身を寄せてアルバイト

また、14歳の中学生のトランスジェンダー女性の芳さんの場合は、さらに困難な状況だった。芳さんは、勇気を出して母親にカミングアウトした。しかし、その後、母親は、たえず芳さんを「変態」と罵るようになった。3か月後には父親もそのことを知り、芳さんを殴るようになった。芳さんは、ほとんど窒息するまで首を絞められ、芳さんの助けを求める声を聞いた隣の家の人が駆けつけて助けられたこともあった。芳さんの父母は「私にはあんたのような子はいない」と言って、わずか14歳の芳さんを家から追い出した。

芳さんがトランスジェンダーセンターに来たが、しばらくすると父母が連れて帰った。トランスジェンダーセンターのh.cさんは、その際に父母に理解してもらうようにしたが、芳さんが家に帰ると、芳さんはまた父親に暴力を振るわれて、追い出されたので、芳さんは他の都市の友人のところに行くしかなかった。h.cさんは、芳さんに弁護士を付けて生活費を父母に出させることも考えたが、芳さんは、自分の父母と裁判をすることに同意しなかった。芳さんはあちこちを転々として、現在は福建の友人の家に間借りして、昼はアルバイトをして生活費を稼いでいる。

最近もまた家から追い出された中学生が2人来たが、その2人も父母を訴えることを拒否した。すなわち、「父母が子どもを殺してしまおうとしても、子どもは肉親の情ゆえに父母を訴えたくない」という情況があるという。だから、h.cさんは、「トランスジェンダー児童反DV」活動を推進しようと固く決意したという。h.cさんの構想では、この反DVプロジェクトは、緊急の救助だけでなく、法律意識の養成も含むもので、トランスジェンダーの児童に自分の正当な権利を擁護することを理解してもらうものにしたいという。

いったん家から追い出されて、もし援助が得られなかったら、トランスジェンダーの児童はあちこちを流浪するしかなく、たとえトランスジェンダーのコミュニティの援助が得られても、小さな子は、児童労働をして自らを養うしかない。社会的差別があるから、たとえ成人で卒業証書を持っていても、きちんとした安定した仕事は見つけにくいのである。h.cさんは、トランスジェンダーの子どもが「安全」に、「尊厳をもって」成長できるようにしたいと思っている(15)

さて、2017年8月末の時点での累計をみると、さらに活動が積み重ねられるとともに、DVの深刻さや未成年者に対するDVの問題が明らかになっている。

直接または間接に接触したトランスジェンダーのDV事件は、のべ26人であり、そのうちのべ11人がトランスジェンダーの未成年者に対するものであり、のべ8人はトランスジェンダーが自殺しようとした(そのうちのべ4人はトランスジェンダーの未成年者)、のべ3人は保護者がトランスジェンダーを殺すと脅しており、1人は、保護者のトランスジェンダーの息子に対する殺人未遂であった(16)

もちろんトランスジェンダーセンターは、DVだけに反対しているのでも、トランスジェンダーに対する暴力にだけ反対しているのでもない。

2016年6月12日のオーランド銃乱射事件の際には、トランスジェンダーセンターのメンバーがそれぞれ「Transgenders Stand with Orlando」と書いた紙を持っている写真を公表して、連帯を表明している☆。(17)

(4)センターの現在――「トランスジェンダー」の定義と3つのグループ

「トランスジェンダー」の定義

現在のトランスジェンダーセンターの「トランスジェンダー」の定義は、広義かつ開放的な「トランスジェンダー(英語のTrans)」であり、過去の狭義の「トランスジェンダー(英語のTransgender)」ではないという。

広義かつ開放的な「トランスジェンダー」とは、個人のジェンダーアイデンティティと社会から貼られたレッテルとが一致しないことだという。すなわち、伝統的な意味であるトランスジェンダー女性(Trans women)、トランスジェンダー男性(Trans men)のほかに、ジェンダー・ノンバイナリー(Gender non-binary)、ジェンダー・ノンコンフォーミング(Gender non-conforming)、ジェンダークィア(Gender queer)などを含み、ジェンダーの自主的定義権を認め、貼られたジェンダーのレッテルを認めないすべての人々を開放的に包括し受け入れる。広義で開放的な「トランスジェンダー」には、限りなく絶えず添加されるジェンダーのレッテルが含まれる、とする。

現在、トランスジェンダーセンターは、3つのグループに分かれて、以下のような活動をしているようだ。

服務グループ[小組]
 トランスジェンダーたちとその親戚・友人に関心を寄せ、リソースにつなぎ、問題に関与する行動をおこなう。現在の服務グループが関心を払っているテーマは主に反DVであるが、将来はその他のテーマにも取り組んでいく。

トランスジェンダーセンターの反DV事件に対応するときの主な手法は、以下のようなものだという:トランスジェンダーの当事者に対して安全と解決のための提案をし、全国のトランスジェンダーたちのネットワークと全国のLGBT組織のネットワークを使って、さまざまな都市の当事者に対して実地のサポートをし、弁護士、ソーシャルワーク団体、シェルター、全国の反DV民間団体につなぐなど。

活動グループ
 トランスジェンダーの人々とトランスジェンダーではない人々とをつなぎ、トランスジェンダーの人々とトランスジェンダーではない公衆との溝をなくし、差別のない未来を推進する。活動グループは、活動の設計、準備、挙行、記録に責任を持つ。活動にはオンラインの活動とオフラインの活動がある。

宣伝唱導グループ
 トランスジェンダーセンターおよびトランスジェンダーたち(トランスジェンダーとその親戚・友人・パートナー)、トランスジェンダーに関する問題を人々に知らせ、トランスジェンダーセンター‐トランスジェンダーたち‐社会の間の交流を促進し、トランスジェンダーに関する議題を推進し、社会文化と法律制度の改善を促進して、トランスジェンダーたちの生活・仕事の環境と質を改善する。

トランスジェンダーセンターの現在の宣伝唱導の主な手法は、セルフメディアでの宣伝唱導、微信による教室、オフライン活動、トランスジェンダーの経験の記録と伝達、相談報告、調査報告、研究報告、フォーラムと交流会に参加するなどである。

8月末に、この三つのグループにボランティアを募集している。服務グループに3人、活動グループに4人、宣伝唱導グループに4人募集しているのだから、いっそう活動を広げていこうということであろう(18)

(5)h.cさんの話

以下では、トランスジェンダーセンターの創設者のh.cさんがセンターを創設するまでと、創設後の経験について見てみたい(19)

トランスジェンダーセンター創設まで

h.cさんは、小さいころ、家族から「人妖(化け物。ふたなり、ゲイボーイの意味もある)」だと呼ばれてきた。h.cさんは、無理やり男らしい軍人のような格好をさせられ、頭髪が少し伸びたら無理やり刈られた。

大学に入って、はじめて頭髪の自主権を得て、他人にも女子学生だと見られるようになって、言い表せないほど気が晴れたという。

h.cさんは、友人の紹介で学校のジェンダー課程の修習を始めるとともに、フェミニズム運動に参加した。演劇(=中国版《ヴァギナ・モノローグス》と推察される)を手段とする、あるジェンダー教育機構の中で、h.cさんは、暴力の被害女性に接し、レズビアンに接し、多くの力のあるフェミニストに接した。彼女は、自分がレズビアンという身分に強烈な帰属感を持っていることを発見し、だんだんと自分を理解していった(20)

h.cさんとフェミニズム機構は、暴力の被害女性を取材して、反DVの演劇の稽古をし、いくつかの学校にG Spotグループ(G点小組。広州の大学でジェンダー/セクシュアリティ問題に取り組むグループ(21))を設立して、LBTIとフェミニズムの活動に集中した(22)

トランスジェンダーセンター創設――多くのトランスジェンダーの結集、弾圧

ある休業中の実習の後、h.cさんはトランスジェンダーセンターを設立する決意を固めた。h.cさんによると、そのときは「多くのトランスジェンダーの人が周囲の都市から駆けつけてきて、ついにトランスジェンダーの機構ができた。私が知っている多くのトランスジェンダーが、私に『あなたは私が初めて知り合いになったトランスジェンダーだ』と言ってくれた」。

その一方、ずっとおとなしかった大学の補導員がh.cさんに訓話をしに来て、彼女のますます女性化してきた外観と「道徳に背いた」思想とを嘲笑した。大学も、ジェンダーグループの活動を弾圧し、h.cさんを危険人物とみなしたという。

出会ったトランスジェンダーの悩み――ホルモン剤や手術のこと

トランスジェンダーセンターを創設したのち、h.cさんはますます多くのトランスジェンダーの友人と知り合いになった。

その第1回目の活動で、h.cさんは、ホルモンによって性徴を変えようとしているトランスジェンダーに出会った。ネットの掲示板は、トランスジェンダーが多く集まるところで、ホルモン使用についての書き込みが多いが、どのように薬を飲んだらいいのかがみんなが非常に関心を持っている問題である。各自が使っている薬はさまざまで、用量もさまざまであり、国内には何の規範もない。

また、性別適合手術も、衛生部の「性転換手術管理規範(試行)」は、性転換者は未婚で、手術前に心理的・精神的治療を1年以上続けて効果がなくて、性転換への要求少なくとも5年以上持続し、思い直さないなどの条件が必須であると規定している。h.cさんは、中国のこうした規定は、実際にはきわめて不合理だと指摘する。「当時、ある友人を心理の医者に治療に行かせたが、医者はどのように治療したらわからないと言った。なぜなら、医者たちの知識の範囲では、それは全く病気ではないからだ」。実際、WHOの呼びかけによって、トランスジェンダーは、世界各地の精神病の分類から取り消されつつある。また、「性転換手術管理規範(試行)」は、心理学的に性的指向が異性であることの証明も必要としているが、「これは、制度面から、トランスジェンダーの同性愛の存在を許さないことである」。しかし、トランスジェンダーの中には、h.cさんのようなトランスジェンダーレズビアンがたくさんいる☆。

このように性別適合手術が困難であるため、2017年4月5日、17歳のトランスジェンダー女性の凌雪が3月31日、自ら手術を試みた。しかし失敗し、中山大学付属第六病院で緊急手術をしたのだが、その時の写真や資料を同病院が本人に無断で微信で公開、各マスコミも転載したという事件が起きた。それに対して、トランスジェンダーセンターは厳しく抗議している(23)

2 トランスチャイナ(環跨中国、TRNASCHINA)

2016年6月9日には、「トランスチャイナ(環跨中国、TRNASCHINA)」(http://transchina.org.cn/)という団体が設立された。

その呼びかけ人には、Joanne Leung (トランスジェンダーレズビアン、香港トランスジェンダーリソースセンター主席)とCさん(前回ご紹介したトランスジェンダー就職差別訴訟の原告)とが共同でなっている。

その趣旨などについては、以下のように書かれている。
・趣旨――中国のそれぞれの地区でトランスジェンダーの声を聞こえるようにすること。
・目的――映像・物語・事例などの方法でトランスジェンダーの経験を分かち合い、それによって一人ひとりが生命を再認識して尊重し、より多くの人の生活をより良くする。
・活動内容――巡回講演、話のシェアリング、ドキュメンタリー撮影、個人の経験の収集、各地の組織と現地のトランスジェンダーのゲストとを結びつなげる、など。
・組織の名前の意味――「環跨」の二文字は、中国の異なる地区をまたがり越える、という意味だが、それと同時に、ここでの「跨」という字は「トランスジェンダー」をも意味する。英語名称の中の「Trans」も同様に、「またがり越える」という意味と「トランスジェンダー」という意味に解される(24)

具体的活動としては、ウェブサイトを見るかぎり、以下のような講演が中心のようである。

環跨・北京站第一講
・日時:2016年11月12日
・場所:706青年空間
・主催:環跨中国
・共催:706青年空間、同語、北京LGBTセンター、レインボー暴力終結所
・ゲスト
 超小米:流性人
 絲絲:トランスジェンダー女性、キリスト教徒、《陰道説》出演者(25)

環跨・北京站第二講
・日時:2016年11月16日
・場所:北京LGBTセンター
・ゲスト
 Bobbie Huthaart:トランスジェンダー
 Cさん
 小妖:バイセクシュアル、北京LGBTセンタートランスジェンダープロジェクト主管、ソーシャルワーカー、LGBTの精神領域の完全な非病理化に尽力(26)

環跨中国・全国巡講第二站-上海
・日時:2016年6月25日
・共催:上海女愛、上海青艾
・ゲスト
 Joanne
 Cさん
 然然(上海で活動している姉妹[MtFの意?]) (27)

環跨・蘇州站
・日時:2017年1月16日 公益と私、1月17日 ジェンダーとは何か
・ゲスト
 卡醤
 天外

杭州站
ボランティア研修
・日時:2017年1月20日
・場所:杭州LGBTセンター
公衆に対する巡講
・日時:2017年1月21日
・場所:THE OOPENコーヒーハウス

さらに予定として以下のような日程がウェブサイトに書かれている。
2017年1月 南京、蘇州、杭州、上海
2017年2月 成都、長沙
2017年3月 広州、昆明、大理
各地の協力組織:南京self公益小組、蘇州LESGO公益小組、向陽花開-杭州LGBT、上海女愛、成都les愛心小組、成都米尓克[ミルク]、平等家庭ネット、トランスジェンダーセンター、雲南同話舎、大理エイズ防止相談センター(28)

上の記載からは、トランスチャイナが各地のLGBT団体と協力して巡回公演をすすめていることがわかる。予定された集会の具体的内容についても、広州站についてはわかる。

環跨・広州站│一連三場:
・日時
 2017年3月8日 トランスジェンダー優先の場
 2017年3月9日 公衆の場
 2017年3月10日 大学の場
・主催:トランスチャイナ、トランスジェンダーセンター
・共催:中山大学レインボーグループ(彩虹小組)
・テーマ:トランスジェンダーの権益、どのようにトランスジェンダーと付き合うか
・ゲスト:
 Cさん/トランスジェンダー男性
 熊猫/貴州黔程工作組運営主管。トランスジェンダーの仲間。
 狐狸/向陽花開-杭州LGBTプロジェクト主管。トランスジェンダーの友人。
 h.c/トランスジェンダーレズビアン。トランスジェンダーセンター執行主任。
 A哥/トランスジェンダー男性。トランスジェンダーセンターの中核メンバーの一人。レインボー医療(彩虹医療[LGBTiBaby])創始者。(29)

厦門站
 上記の予定には書かれていないが、2017年3月におこなわれた厦門站についても、以下のような内容が報告されている(30)
・ゲストは、貴州黔程の運営主管・熊猫さんで、トランスジェンダーのパートナーである。熊猫さんの話によって、みんなはトランスジェンダーの異性愛のパートナーは、実は同性愛のパートナーとは異なることを理解した。
・部屋の中が人でいっぱいだった。
・討論は熱の入ったものになり、アメリカでとくにホットな話題になっているトランスジェンダーのトイレの問題にも議論は及んだという。

なお、現在トランスチャイナのウェブサイトには、巡講の足跡として(巡讲足迹)、北京、南京、蘇州、上海、杭州、長沙、厦門、広州、成都、貴陽、昆明、大理の12都市が書かれている。

3 トランスジェンダーシェルター

2016年12月、霖霖(雪小霖)さんは「トランスジェンダーシェルター」を設立した。

香港のトランスジェンダーリソースセンター主席のJoanneさんが、2017年7月、霖霖さんにインタビューをしているので、それをご紹介しよう(31)

トランスジェンダーシェルターは、この時点で、すでに計6人に住む場所を提供したという。

Joanneさんが「なぜトランスジェンダーシェルターなのか?」と質問したのに対して、霖霖さんは「トランスジェンダーがDVや就職差別を受けたとき、しばらく部屋を借りる金がなかったり、臨時に過ごす場所がなかったりするから」だと答えている。

「なぜシェルターを開設したのか?」という質問に対しては、霖霖さんは、当時、何人かに家から追い出されて、自分のところに臨時に住まわせてくれと言われて、何人かを助けたので、ぜひそうした場所が必要だと感じた、と述べている。また、ロサンゼルスLGBTセンターや台湾にはシェルターがあるが、国内でもトランスジェンダー、とくにMtFに対するDVが特に深刻だということも述べている。

霖霖さんによると、DVは、具体的には、家でカミングアウトしたときに、身体的な暴力や言語による暴力を受ける場合が多い。ホルモン剤を捨てられたり、むりやり頭髪を刈られたりすることもあるという。殴られることは非常によくあり、最後には家から追い出されたり、家の中に軟禁されて、夜、こっそり逃げ出したりするそうだ。また、仕事を探すとき、自分の性別と身分証の性別が一致していないために、壁にぶつかり、金もなく、家にも頼れないので、しばらく霖霖さんのところで過ごす人もいる。

彼/彼女たちは、一般に1カ月前後滞在し、霖霖さんは、彼/彼女に仕事を探すように促す。

しかし、シェルターの運営資金は不足しており、現在の資金では3、4か月しか維持できないという。

霖霖さんは、現在、それぞれの都市にレズビアンかゲイの民間団体があるが、トランスジェンダーのグループは非常に少ないことや、トランスジェンダーはとくに弱い立場に置かれており、セクシュアル・マイノリティの中でもDVを受ける比率が高いということを訴えている。

トランスジェンダーシェルターは、クラウドファンディングなどをして、多くの人から家賃や設備の費用を集めているが(32)、2017年2月末以後の毎月の残金を見ると、1万1786元→8919元→1万0005.92元→1万1397.5元→8632.28元→3201.48元→5789.08元となっている(33)

現在、「海外の勢力の資金援助を受けられない中で、私たちはずっと国内(少し海外の友人)の人々の中から資金援助を得ているが、9か月運営してきて、寄付が可能なメンバーはすでに1回は寄付をしていただいている(苦笑)」(34)という情況のようだ。

4 トランスジェンダー生活社

2015年1月24日には、16人のトランスジェンダーによって「トランスジェンダー生活社」というものも結成されている(サイト微博)。

トランスジェンダー生活社は「ジェンダー教育・サービス機構」であるとして、以下の2つの目標を掲げている。
・トランスジェンダーの健康と法律の知識を伝え、公衆にトランスジェンダーに対する理解を増進させることによって、トランスジェンダーがフレンドリーに対応されることを促進する。
・多くの性に対するプロジェクトを提供し、トランスジェンダーの積極的な自己認識を援助し、トランスジェンダーの心理と生理の両方の健康水準を向上させる。

また、「生活社は、同時に、トランスジェンダーたちに、多くのサービスをおこなう。その中には、証明書の性別の変更の援助、職場の研修、社会に溶け込むための相談などによって、トランスジェンダーがよりよく社会に適応できるよう援助する」、「私たちは、トランスジェンダーにたゆみなく貢献し、社会大衆のトランスジェンダーに対する誤った認識を是正することによって、国内のトランスジェンダーの生活の境遇を改善することを望む」とも述べている(35)

ただ、ネット上での発信を見るかぎり、今のところ、やっていることとして具体的に確認できるのは、2015年6月18日から「トランスジェンダー生活」という微信(メッセンジャーアプリ。「LINE」に近い)の発信することである。開始以来、一年間に157号を出し、376篇の文章を掲載したとのことである(36)

また、ウェブサイトにも、トランスジェンダーについての認識を深めるための文章などを掲載している。

5 他のLGBT団体でのトランスジェンダー問題についての取り組み

また、他のLGBT団体でのトランスジェンダー問題についての取り組みも積極的になっている。先述のようにトランスジェンダーセンターやトランスチャイナとイベントを共催するほかに、主要なLGBT団体も、以下のような取り組みをしている。

(1)北京LGBTセンター

2015年11月24日、北京LGBTセンターは、「トランスジェンダーホットライン」を開始した。

「トランスジェンダーホットライン」とは、単に電話を一本引いただけではなく、インターネット上で、QQ、スカイプ、微信のどれでもOKで、1人60分相談できる。北京LGBTセンターの相談室でも、1人90分相談を受け付ける(37)

2017年2月には、「トランスジェンダープロジェクト」担当者を募集している。

正確には「北京LGBTセンター性別無界プロジェクト」担当者で、条件としてトランスジェンダーであることが必須だが、「この職位はフルタイムの仕事であり、毎週の労働時間は40時間である」というのだから、相当力を入れていると言えよう。

また、その職責については、「性別無界プロジェクトの実習生とボランティアを管理し、本プロジェクトの実習生とボランティアの研修に責任を持ち、激励と評価をする」とも記されており、担当者一人が作業をするような体制ではない(38)

実際、9月には「トランスジェンダー部門実習助手」を募集している。この助手もトランスジェンダーであることが条件の一つだが、「毎週の労働時間が20時間以上」であり、かなりの時間をトランスジェンダーのための取り組みに使うことになる(39)

(2)同語

「同語」は、トランスジェンダーに対する就職差別訴訟を起こしたCさんを金銭的に支援していることは前回ご紹介したが、2017年4月9日 (14:00-17:00)にこの件についての「模擬法廷」をおこなった。Cさん、王永梅弁護士、劉明輝弁護士を招いて、北京LGBTセンターとの共催である(40)

「同語」では、2014年12月から、トランスジェンダー(MtF)の文軍さんという人が、運営管理主任をつとめているようだ(41)

中国を代表する上の2つのセクシュアル・マイノリティ組織が、トランスジェンダーの問題を位置づけているということは、重要なように思う。

おわりに

以上見てきたように、2016年ごろ、中国ではトランスジェンダーの独立した団体が4団体、設立された。トランスジェンダーセンターが最も活動が活発のように見えるが、トランスチャイナもさまざまな都市で活動しており、他の団体も、何らかの形で定期的に活動をしている。

トランスジェンダーが直面する問題として、DV(とくに子どもに対するDV)が非常に深刻な問題としてとらえられている。また、他にもホルモン剤や性別適合手術など、トランスジェンダー特有の重要な問題がある。

前回ご紹介したCさんの経験にもあるように、トランスジェンダーはセクシュアル・マイノリティの中でも孤立しがちだが、トランスチャイナの巡回公演活動に見られるように、トランスジェンダー団体と他のLGBT団体との連携も進みつつある。また、北京LGBTセンターなどはトランスジェンダー問題に力を入れていると言える。

また、フェミニストであるトランスジェンダーの活動も目につく。中国版《ヴァギナ・モノローグス》上演運動と結びついている場合があることも、その一つの現れだろう。

ただ、トランスジェンダー団体は、政策提言活動のようなことは、まだあまりおこなっていないように見える。

また、2016年6月に「境外NGO境内活動管理法」が制定され、国外のNGOからの資金獲得が困難になっていることもあり、トランスジェンダーシェルターのような資金を要する活動に関しては、資金不足の問題がついて回っている。

なお、《有性無別(Gender in Bias Out)》というトランスジェンダーに取材したドキュメンタリー作品が制作されており、その中には、ヴァギナ・モノローグスの中国版の一つである《陰道説》のトランスジェンダー女性の出演者である絲絲、トランスジェンダーの調香師である雪小霖、トランスジェンダーセンターのh.cが登場している(「跨性别纪录片:《有性无别》上下集+跨性别中心单独版 」2016-12-23 跨性别中心)。

(1) F女権小組とは、「広州の最も酷(クール)で婊(bitch)なフェミニストグループ」を自称しており、「FとはFeministであり、FとはFuckである」という(F女权小组「广州最酷婊的女权小组要招新啦~」女权之声的微博2016年9月12日)。F女権小組は、最初は、2015年10月に、肖美麗さんがメンバーを募集して作ったようだ。その際には、「F女権小組」は「主に演劇と文化活動をつうじて、ジェンダー理念を伝達し、自我の成長といささかの変革の実現を望むフェミニズムグループである」(「一个神秘的女权小组开始招人啦! 」2015-10-22 F女权小组 削美丽)と述べられおり、ヴァギナ・モノローグスの中国版《陰道之道》の上演活動をしたり、広州の地下鉄に痴漢に反対する公益広告を出す運動をおこなったりしてきた(本ブログの記事「中国版《ヴァギナ・モノローグス》上演運動の展開――2003年~2016年――」「広州地下鉄にクラウドファンディングによって痴漢反対ポスターを掲示する試みなど――2016年の女性たちの公共交通での痴漢反対運動」など参照)。
(2)跨性别中心招人啦~坐标广州,这可能是最有趣的跨性别组织」跨性别中心2016年5月12日 15:50。F女権小組の中核メンバーであるh.cらが設立したという点については、跨性别中心的微博2016-10-18 03:17参照。
(3)新年上线|跨性别之声:系列深入有观点的线上分享」2017-01-01 h.c. 跨性别中心(現在閲覧不能)、「跨性别之声 | 第一期·上:女权跨性别者之性别宣言」2017-01-11 h.c 猫 跨性别中心。
(4)跨性别中心招人啦~坐标广州,这可能是最有趣的跨性别组织」跨性别中心2016年5月12日 15:50。
(5)派对 | 哇哇哇!广州跨性别大见面!! 」2016-06-01 跨性别中心
(6)周五定期活动·明晚:跨性别主题轻游戏之夜 |广州」跨性别中心2017-03-02 19:22:38
(7)广州|培训如何为性少数提供友好的心理咨询」2016-10-21 跨性别中心
(8)新年上线|跨性别之声:系列深入有观点的线上分享」2017-01-01 h.c. 跨性别中心(現在閲覧不能)、「今晚!跨性别之声 | 第一期·下:出柜者的必修课」2017-01-15 h.c 猫 跨性别中心。
(9)跨性别之声 | 第一期·上:女权跨性别者之性别宣言」2017-01-11 h.c 猫 跨性别中心。
(10)武汉·周六 | 跨性别聚会+跨性别互助团预备会 」2017-03-23 Trans Center 跨性别中心
(11)以上は、「跨性别中心深圳分部简介」跨性别中心2017-05-03 17:32:39
(12)跨性别中心反家暴小组招募志愿者啦!截止:5月26日」跨性别中心2017-05-24 13:49:29
(13)跨性别中心反家暴」跨性别中心2017-06-2317:33:50
(14)支持我们!我们在怼针对跨性别人士的最严重暴力!」2017-05-30 TransCenter 跨性别中心
(15)小歪「一个跨性别女权主义者的反家暴之道|国际跨性别纪念日」破土工作室2016-11-20
(16) h.c「跨性别中心三小组招志愿者,加入我们吗!」跨性别中心2017-08-29 12:30:37
(17)全国跨性别者拍照撑奥兰多 反对针对性少数的暴力」2016-06-14 Trans Center 跨性别中心(現在閲覧不能)
(18) h.c「跨性别中心三小组招志愿者,加入我们吗!」跨性别中心2017-08-29 12:30:37
(19)小歪「一个跨性别女权主义者的反家暴之道|国际跨性别纪念日」破土工作室2016-11-20
(20)この点について、別の資料では、h.cさんは、2015年6月にシスジェンダーの反DV活動に参加して、性/別(≒ジェンダー/セクシュアリティ)の民間活動に参加する人生を歩むようになったと書かれている(「约起来|其实我很讨厌“跨性别”这个词」豆瓣同城)。なお、中国における《ヴァギナ・モノローグス》上演に関しては、本ブログの記事「中国版《ヴァギナ・モノローグス》上演運動の展開――2003年~2016年――」とともに、村田晶子・弓削尚子編『なぜジェンダー教育を大学でおこなうのか 日本と海外との比較から考える』(青弓社 2017年)の第3章の柯倩婷(熱田敬子訳)「グループを育て、社会とつなげる――大学でのジェンダー教育を活性化する新しい試み」、熱田敬子「『まんこ語り』が育むフェミニズム・アクション」参照のこと。
(21)「大学のジェンダー/セクシュアリティグループであり、半開放的な場でフェミニズムとジェンダー多元のテーマを研究し、それと関連する一連のオフライン活動と行動によるアドボカシーをおこなう」(「G点×女友组:拉拉初次性体验故事有酬征稿(截至4.29)」@兔子走丢了 2016-04-22 10:33) とか、「広州市の大学城に出没する神出鬼没のジェンダー公正グループであり、不定期にオフライン活動をする」(「G点×Yummy×女友组|韦婷婷双性恋微课」2016-01-06 GSpot小组)と自らを紹介している。上の2つの注記にも書かれているように、女友組(広州のレズビアングループ)とともに活動をしている。また、広州大学で、学長にトイレの男女比率の是正を求める手紙を書いて、要求を実現している(「女权青年在行动:一封信,让男厕变女厕!」新媒体女性的博客2016-05-25 16:21:37)。
(22)この点について、別の資料では、h.cさんは、2015年末に同じ学校の学生と、大学に性/別グループを設立して、シスジェンダーのテーマのほかに、LGBTI+のテーマに関心を持つようになり、ジェンダーアイデンティティを「クィア」から「女性」に変え、自分を「トランスジェンダーレズビアン」と考えるようになったと書かれている(「约起来|其实我很讨厌“跨性别”这个词」豆瓣同城)。
(23) h.c&夜子(2017-04-06)「愤怒!中山六院擅曝手术照片谑辱跨性别!」跨性别中心2017-04-07 00:49::07
(24)关于环跨中国」环跨中国2016年6月9日
(25)环跨中国北京站第一讲 」环跨中国2016年11月10日。
(26)环跨中国巡讲北京站第二讲 」环跨中国2016年11月11日。
(27)[环跨中国]全国巡讲第二站-上海总结 」2016-06-29 C先生 贵州黔程C先生。
(28)以上は、「关于环跨中国」ウェブサイトより。
(29)环跨·广州站 | 一连三场:跨性别权益&如何与跨性别相处」跨性别中心2017-03-06 19:10:28
(30)关于环跨中国」ウェブサイトより。
(31)【影片】【環跨中國】南京站:跨性別避難所創辦人霖霖專訪|跨性別資源中心」G點電視2017-07-08
(32)【众筹】跨性别避难所以及危机救助」知乎专栏、「跨性别避难所11月财务公示」知乎专栏。
(33)跨性别危机援助与咨询2017年3月收支明细」知乎专栏、「跨性别危机援助与咨询2017年5月收支明细」知乎专栏、「跨性别危机援助与咨询2017年6月收支明细」知乎专栏、「跨性别危机援助与咨询2017年8月收支明细」知乎专栏。
(34)跨性别危机援助与咨询2017年8月收支明细
(35)About Us」05 12月, 2016
(36)《跨性别生活》一岁了! 」2016-06-18 雨雪霏霏 跨性别生活
(37)北京同志中心的微博2015-12-17 09:56
(38)跨性别项目官员招募 | 成长的烦恼,谁来和我一起面对」2017-02-09 北京同志中心 北京同志中心
(39)北京同志中心的微博9月18日 18:51
(40)模拟法庭|当跨性别遇上就业歧视」2017-04-07 钟灵毓卿 同语
(41)李银河事件 | 跨性别者在中国」南方人物周刊2015-01-03
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トランスジェンダーの就職差別、労働紛争訴訟と人格権訴訟の両方で勝訴

<目次>
はじめに
1 労働人事仲裁委員会の調停は失敗
2 労働人事仲裁委員会の裁定、Cさんの訴えを認めず
3 裁判でCさん勝訴――違法な解雇と認定、トランスジェンダー差別とは認定せず
4 人格権訴訟も起こす
5 この裁判でも Cさん勝訴――平等な就業権を侵害したと認定
6 書面による謝罪は認められず、控訴
7 Cさんのこと――子どもの頃からのいじめ、提訴への無理解、自分の性別への模索
おわりに

はじめに

ここ2年ほど、中国でもトランスジェンダーの運動が活発化している。

まず今回は、トランスジェンダーに対する解雇裁判についてご紹介したい。この裁判は、解雇の違法性と平等な就業権の侵害を認めさせた裁判である。

2015年4月、トランスジェンダー男性(FtM)のCさん(1)は、貴陽慈銘健康診断センター有限公司(以下、慈銘と記す)に就職したが、7日後、もう来なくていいと通知された。

Cさんがその原因を会社に尋ねたら、「男装は、会社の要求に合致しない」と言われた(2)

最初Cさんが会社の人力資源部主任に面接を受けたとき、その主任はCさんを見て、妙な気がして、同性愛者ではないかと思ったという。その主任は、「私たちは健康診断に従事している会社なのに、もし職員が不健康だったら、なんで顧客にサービスできるのか」とも言った。

Cさんはその時の会話を録音していて、のちに裁判で証拠として提出することになるのだが、主任に対して、Cさんは、「私はトランスジェンダーであり、同性愛者ではない。また、絶対に健康に問題はない」と言った。しかし、無駄だった。

1 労働人事仲裁委員会の調停は失敗

2016年3月7日、Cさんは、この件について、貴陽市雲岩区労働人事仲裁委員会に労働仲裁を申請して、慈銘に対して、賃金と賠償金の支払いと公開での謝罪を求めた。14日、Cさんの訴えは受理された(3)

3月30日、調停がおこなわれた。慈銘は、試用期間中の賃金を支払うことには同意したが、公開での謝罪と経済的賠償を拒否したため、調停は失敗に終わった。

レズビアンなどの団体である「同語」の代表の徐玢さんは「セクシュアル・マイノリティの中の、少なからぬ人が就職差別を受けているが、トランスジェンダーの場合はより顕著だ。なぜなら、隠すことが難しいので、いったん見つかったら、解雇される可能性が極めて高いからだ」と述べている(4)

2 労働人事仲裁委員会の裁決も、Cさんの訴え認めず

調停が失敗したので、4月11日、労働人事争議仲裁委員会は、仲裁法廷を開いて審理をおこなった。

慈銘は、Cさんが制服を着なかったことが辞めさせた主な原因であると言った。さらに、Cさんは仕事を学び始めたばかりであり、本当に出勤したと言えるのは二、三日であるとも主張した。

それに対してCさんの弁護士は、制服は、慈銘が支給しなかったことを述べた。また、Cさんはすでに9日間、仕事をしており、試用期間は過ぎていると主張した。そして、慈銘がCさんをやめさせたのは、トランスジェンダーに対する差別であるとして、その証拠になる録音を提出した(5)

しかし、5月9日の労働人事仲裁委員会の裁決は、Cさんの訴えを証拠不十分として退けるものだった。

3 Cさん勝訴――違法な解雇と認定、トランスジェンダー差別とは認定せず

Cさんは、仲裁の結果を不服として、貴陽市雲岩区法院に訴訟を起こし、慈銘に対して7日分の賃金と経済的賠償を求めた。

6月17日、貴陽市雲岩区法院は、この事件を審理した。

慈銘は、Cさんの「試用職員の仕事の評価表」と「労働組合小組の会議の決議」を提出して、それによって、Cさんの仕事ぶりは採用基準に合致していないことを証明しようとした(6)

しかし、Cさんとその弁護士は、会社は、上記の2つの文書を仲裁の際には提出していないことから見て、訴訟が始まった後で捏造した疑いがあると主張して、文書の鑑定を要求した。そのため審理は中断されたが、裁判所が指定した西南政法大学司法鑑定センターでは、文書の真偽は確定できなかった(7)

次の12月14日の審理では、Cさんとその弁護士は、慈銘がCさんをやめさせた手続きが合法であることを主張するために持ち出した「労働組合小組の会議の決議」は、労働組合の構成が違法だから、無効だと指摘した。なぜなら、「『貴州省労働組合条例』の規定によると、労働組合の主席は、会社の人事責任者であってはならないにもかかわらず、慈銘の労働組合主席は、会社の人事責任者の金某である」からだ。

また、Cさんは、「慈銘が提出した証拠は他の従業員の試用期間は2か月であることを示しているというが、私の試用期間の評価表は、明確に試用期間は4日であると書いている。だから、私は辞めされたときには正式の従業員だった」と主張した(8)

さらに、この日の法廷には、「中国反就業差別法(専門家意見稿)」(9)の起草者である中国政法大学・劉小楠教授をCさんが招いて、専門家として証人になってもらった(10)

12月30日、Cさんは、貴陽市雲岩区法院が民事判決書(作成日は12月18日)を受け取った。判決は、慈銘がCさんとの労働関係を解除したのは違法だと認定し、慈銘に対して、Cさんに賃金438元のほか、賠償金1500元を支払うよう命じるもので、Cさんの勝訴だった。

判決は、原告と被告との争点を以下の3点だとした。
(1)双方の労働紛争が起きたのは、試用期間なのか、契約期間なのか?
(2)被告は原告との労働関係を解除したのは、違法か否か?
(3)被告が原告との労働関係を解除したのは、トランスジェンダーという身分に対する就職差別なのか否か?

裁判所は、それぞれの争点に関して、以下のような判断を下した。

(1)労働契約法は、試用期間を決めるためには、双方が書面の労働契約に署名しなければならないと規定している。ところが、慈銘はCと書面で労働契約を締結していないので、本裁判所は、Cは2015年4月21日に慈銘に入職し、労働関係を打ち立てたと認定する。したがって、双方の労働紛争が起きたのは、契約期間内である。

(2)慈銘は「試用期間の職員の仕事の評価表」と「労働組合グループの会議の決議」にもとづいて、Cが一日、無断欠勤したと言っているが、出勤記録を提出していない以上、慈銘が提出した証拠からは、契約が解除可能な状況だったとは認定できない。慈銘は労働契約法の規定に違反してCさんとの労働関係を解除したと言えるのであり、経済補償金の2倍を原告に対して賠償金と経済的補償として支払わなければならない。

(3) Cが提出した録音によると、Cと慈銘の職員の楊某との会話はCがトランスジェンダーであることにも触れている。しかし、楊某は被告の企業の一般職員であり、その言論は企業の意見を代表しているとは言えないので、原告が「被告は原告との労働関係を解除したのは、慈銘のトランスジェンダーという身分に対する差別だ」と主張している点は、認定することができない(11)

勝訴は画期的だが、人事の責任者を「一般職員」とみなしていいのかは疑問だ。

また、原告の弁護士の黄沙さんは、賠償金額についても、「この事件は、企業の法律違反のコストが非常に低いことを示している。だから現在の就職差別の状況が非常によくないのだ」と指摘した(12)

4 人格権訴訟も起こす

Cさんは、今回の訴訟を起こした最初の日から「私は金のためにこの裁判を起こしたのではない」と言ってきた。実際、Cさんは、この訴訟において、終始、被告の会社に謝罪を求めてきた。

Cさんは、もしも会社が「私たちは多元的ジェンダーの人々を差別せず、すべての人の性的指向、ジェンダー表現、ジェンダー・アイデンティティを尊重し、彼/彼女らに平等な就業権を与える」と公に声明したら、訴訟を撤回してもいいと思っていたほどだ。しかし、会社は、今に至るまで、自分が誤りを犯したことや差別の事実を認めていない(13)

だから、2017年2月9日、Cさんは、裁判所に、この事件を一般人格権事件としても審理するよう申請した(14)

なぜ「一般人格権訴訟」にしたのかというと、中国の現行の法律の枠組みには、「就職差別」という訴因がないので、就職差別という権利侵害については、一般人格権紛争として訴えるしかないからだという。「一般人格権」とは、人格の独立、人格の自由、人格の尊厳を主な内容とする人格的利益のことである(15)

2017年4月20日、その裁判の法廷が開かれた。20名あまりの傍聴者が来たが、法廷が狭かったため、傍聴者の半数は法廷の外で待たざるをえなかった(16)

Cさんは、慈銘は平等な就業権と人格の尊厳を侵犯したので、書面での謝罪と慰謝料5万元を支払うように求めた(17)

この日は、王永梅弁護士、劉明輝弁護士(劉明輝弁護士は、中華女子学院法学院教授でもある)が訴訟代理人として出廷した。

それだけでなく、西南財経大学法学院副教授で、国務院とILOのプロジェクトである「中国のILO111号条約実施を促進する専門家委員会」でも専門委員をつとめた何霞さんが、専門家補助人と出廷し、多元的なジェンダーと法律について裁判官に詳しく説明した。

何さんは、まず、「性別アイデンティティ(性別認同)」、「性別表現(性別表達)」などの一般的概念について説明した。そのうえで、「性別」概念というのは、男女両性に限られたものではなく、多元的性別という内容を包括したものであることを指摘した。そして最後に、「性別アイデンティティと性別表現による差別も、性差別にあたる」と述べた。この何さんの証言は、この事件の判決の中に、「労働法」と「就業促進法」の中の性差別禁止に関する条項を適用するための学理的基礎を提供するものだった(18)

裁判では、証人として心理カウンセラーも出廷し、Cさんが仕事を辞めさせられたために、心身に損害をもたらしたことを立証した(19)

その一方、慈銘は、Cさんを辞めさせたのは、試用期間に会社の基準と条件に合致しなかったためであり、会社には従業員を選択する自由があると主張した。慈銘は、Cさんが自分は差別されたと言っているのは、一方的な憶測にすぎないと述べた(20)

5 この裁判でも Cさん勝訴――平等な就業権を侵害したと認定

7月26日、貴陽市雲岩区法院は、被告の慈銘が原告のCさんの平等な就業権を侵犯したことを認定し、正当な理由なくCさんに対する労働契約を解除したことに対して、被告に対して慰謝料2000元を支払うよう命じる判決を下した。

判決は、慈銘が労働契約を解除した本当の原因は慈銘自身にしかわからないとした。しかし、慈銘がCさんとの労働契約を解除することが可能だったのはCさんが任に堪えない場合のみであるにもかかわらず、慈銘は証拠を示してそれを立証できなかったと指摘した。判決は、この案件において、Cさんは支配される地位に置かれているのだから、もしその立証責任をCさんに押し付けるならば、事実上立証は不可能になって、労働者が自分の権利を守る際に障害を置くことになり、労働者の権益を保護するのに不利であり、社会の進歩に不利であると述べた。

判決は、それゆえ、慈銘が合理的理由なしにCさんとの労働契約を解除したことは、Cさんの平等な就業の権利を侵犯したことであり、Cさんの自信を失わせ、気持ちを落ち込ませ、自己を否定させるなど、Cさんの精神に一定の損害を与えたと認定した。判決は、この案件の実際の状況を総合すると、慈銘のCさんに対する慰謝料は2000元であるとした(21)

6 書面による謝罪は認められず、控訴

ただし、判決は、Cさんが慈銘に謝罪を求めたことに関しては、「原告が被告に要求した、公開の書面の形での謝罪の請求は、根拠が不足しており、本裁判所は支持しない」と述べた。

この点について、劉明輝弁護士は、以下のような批判をしている。

「中華人民共和国権利侵害責任法」第15条には、「権利侵害責任を引き受ける方法」の一つとして「謝罪」が規定されている。最高人民法院の「民事権利侵害・精神的損害賠償責任の若干の問題に関する解釈」(法釈[2001]7号)第8条も、「この司法解釈が列挙する各項の権利と利益の侵害については、被害者は謝罪を請求することができる」と規定している。

裁判所は慈銘がCさんの権利を侵害したと認定しており、「権利侵害責任法」の規定は「謝罪」の法律的根拠を提供している。「根拠が不足している」という結論は、どこから来たのか?

このことは、よくある次のようなシーンを連想させる。強者が弱者を傷つけたにもかかわらず、謝罪を拒否し、弱者に紙幣を投げつけて、大手を振って去っていく。このような慣性的な思考は根が深い。金によって片を付ければいいと考えて、被害者がその紙幣から、強者の弱者の人格的尊厳に対する二次的侮辱を感じることは考慮しない。裁判所が謝罪の請求を支持しないことは、人格の尊厳に対する軽視と金によって片をつけるという慣性的な考え方を感じさせる。

わずか2000元は被告の会社にとっては些末な金額であり、まったくとるに足りないものである。就職差別をなくし、セクシュアル・マイノリティを含めた一人ひとりの平等権を尊重するという戦略的意義から見て、この裁判が本来もたらすことができる社会的効果は、謝罪の要求を認めないことによって大きく損なわれた。

劉弁護士は、2016年9月、高暁さんがコック見習い募集において女性であることを理由にして不採用を訴えた裁判の二審判決が会社側に謝罪も命じたこと(本ブログの記事「就職の男女差別裁判で、会社の謝罪も命じる初の判決」参照)も引き合いに出して、謝罪も命じた判決を出す必要性を説いている(22)

Cさんは、謝罪の請求が認められなかったため、貴陽市中級人民法院に控訴した(23)

7 Cさんのこと――子どもの頃からのいじめ、提訴への無理解、自分の性別への模索など

この事件については、『ニューヨークタイムス』も報道したが、その『ニューヨークタイムス』の中国語ネットがCさんにインタビューしているので、以下、その内容の一部をご紹介したい(小見出しは私が付けました)。

Cさんのこれまで

Cさんは、生理的には女性だが、自分は男性だと認識している。Cさんは、髪型や服装は男性の装いをしてきていて、女性であることを示すものを身に着けることを嫌ってきた。

そのため、Cさんは、かつて、長年学校で同級生に殴られたり罵られたりされてきて、以前は父母とも喧嘩をしていた。

10年前、大学に通っていたときに、Cさんは「貴州黔程工作組」(微博博客)を設立し、貴州のセクシュアル・マイノリティに心理カウンセリングや宣伝活動をしてきた。経費はどこからも出ないし、活動の場所もなかったが、自腹を切って長年活動を続けてきた。

今は、Cさんは、北京の「同語」という多元的なジェンダーに関心を寄せる団体(もともとはレズビアン団体)に経費を申請して、毎月約2500元の活動資金と賃金をもらっている。Cさんの希望は、正規の部門が彼の事業をサポートすることで、最終的には商工登記を申請して、法律で認められたNGOを作ることだ。

提訴に対する社会やLGBTコミュニティからの圧力

2016年2月、Cさんが法律の学習会に参加したときに、自分の職場での経験を話したところ、反就業差別法の専門家である劉小楠先生に、「それは、道理から言えば、法律に違反している。このことで裁判をしてみる気はないか」と言われた。それがきっかけでCさんは今回の裁判を起こした。

当時、Cさんの提訴を報じた新聞のタイトルは、「装いが個性的すぎるので、女子が会社を辞めさせられた」(24)とか「貴陽の28歳の女子が『外観がセクシーすぎるので』会社を辞めさせられた」(25)といったものだった。

また、当時付いたコメントも、すべてCさんを罵るものだった。「この写真は明らかに男なのに、なんで女なのか」とか、「もし女がこんな格好で我々の会社に来たら、私は絶対やめさせる」とかいうものだった。

LGBTコミュニティの中でも、Cさんは悪く言われた。「Cさんのような行為が私たちを誤解させる。あなた一人によって私たちみんなが悪影響を受けた」と言われたのだ。同じ「兄弟」(FtMのトランスジェンダー)たちからも、こんなことは止めてくれと言われたという。なぜなら、多くのトランスジェンダーは、おとなしくして、自分がそうした人だということを他人に知られたくないようにしていたからだ。

トランスジェンダーの中には金星(著名なダンサー。男性から女性への性別適合手術を受けた)のような人はほとんどいない。また、金星は自分をトランスジェンダーだとは言っておらず、性転換者であり、女だと言っていた。

Cさんには、コミュニティの中からも悪く言われたことが特につらかった。当時、Cさんには仕事がなく、生活を支える金がなかった。会社側からも圧力を受け、コミュニティからも圧力を受け、社会からも圧力を受け、親戚友人からも圧力を受けて、まわりはすべて真っ暗のように思った。Cさんは自分が死んで終わりできたら、と思った。

黒龍江の男装しているレズビアンから共感の声

しかし、北京の「同語」など若干のコミュニティ団体の代表が支えてくれた。

Cさんは、最初は記者の取材も断っていたが、支援している先生方に「あなたのこの裁判はもともと世論を動かすためのものなのに、記者の取材を断るとは……」と言われて、記者の取材に対しても、率直に誠実に話をするようにした。

また、裁判を起こした後、あるときモザイクをかけ忘れて、連絡先を公開してしまったら、黒龍江の男装しているレズビアンが、Cさんに、「私もあなたと同じような目にあった。あなたの裁判を知ったとき、私は光を見たような思いがした。私もあなたと同じようにできることを知って、希望を与えてくれた」と言ってくれた。彼女がそう話してくれたことによって、Cさんはこの裁判の意義の大きさがわかった(26)

Cさんの自分の性別に関する模索

Cさんは、子どものときから小さいときからいじめられてきた。男子生徒の服装をしていたからだ。Cさんは、自分で髪を切って、男の子と同じ髪型にして、服も男の子のものを着ていた。Cさんは道を歩くときも、前を見ずに下を向いて歩き、いつも同級生に殴られたり、罵られたりした。女子生徒にも、男子生徒にもいじめられた。

いじめられていること父母も話さなかった。中高生のときには、薬を飲んだり、手首を切ったり、飛び降りたりして自殺をしようとしたこともある。ブラジャーをせずに、布を巻いていたので、「同性愛だ」「人妖(化け物。ゲイボーイ、ふたなりなどの意味でも使う)だ」と罵られたりした。

しかし、Cさんも、大学に入学すると、自分のことを知らない人ばかりだったので、いじめられなくなったので、やりたいことができるようになった。

Cさんは、自分がトランスジェンダーであることを知ったのは2009年だった。それまでは、自分は同性愛だと思っていた。自分の身分証は女で、女が好きだからだ。しかし、後に、自分は小さいころから自分は女子学生にはなりたいとは思っていないことに気づいた。2009年に「トランスジェンダー」という語を知ってから、Cさんは、自分を探求するようになった。

Cさんは香港トランスジェンダーリソースセンター(香港跨性別資源中心)主席のJoanneさんと知り合いになった。Joanneさんは手術をしたトランスジェンダーで、MtFだった。CさんはJoanneさんの話を聞いて、世界の大門が開けたような気がした(27)

おわりに

LGBTの中でもトランスジェンダーには独自の困難がある。Cさんのケースを見ても、外見だけからわるので、たえずいじめや就職差別の標的にされてきた。また、自らがトランスジェンダーだと認識することも、当時はけっして簡単ではなかった。裁判をしても、LGBTコミュニティの中でさえ理解をあまり得られなかった。それらの困難によって、Cさんは自殺をしようとしたほどだった。

Cさんは、それを乗り越えて法的解決を求めて立ち上がった。最初の労働人事仲裁委員会では訴えが認められず、裁判をせざるをえなかった。裁判においても、労働裁判特有の会社側の事実の歪曲や立証責任の問題に直面した。裁判は、労働紛争と人格権の2つを起こさなければならなかった。

しかし、そうした闘いの結果、解雇の不当性と平等な就業権の侵害とを認めさせた。まだ謝罪は実現していないので、さらに控訴して、それを求めている。

このようなトランスジェンダー独自のたたかいが中国で出現したことの意味は大きいと思う。もちろん、それには、裁判でCさんを支えたNGOや裁判での証人になった学者のように、トランスジェンダーのたたかいに協力する人々が出現したことを含めて述べている。

(1) Cさんは、ネット上で「Mr.C」と名乗っていたので、中国語では「C先生」(先生=男性への敬称)と記されているというが(「贵阳跨性别青年“爱穿男装”被单位辞退,申请劳动仲裁获受理」澎湃新闻2016-03-15)、ここでは「Cさん」と記す。
(2)贵阳28岁女子因“外形太性感”遭公司开除人民网2016年03月10日(来源:贵阳网—贵阳晚报)。
(3)以上は、“Job Discrimination Case Raises Questions of Transgender Rights in China”,APRIL 11,2016→「中国跨性别就业歧视第一案启动仲裁」纽约时报中文网(VANESSA PIAO)2016年4月12日。
(4)贵阳跨性别就业歧视案调解失败,即将开庭审理」澎湃新闻2016-03-31。
(5)贵阳跨性别就业歧视案开庭,公司辩称辞退该员工因不穿工装」澎湃新闻2016-04-11。
(6)以上は、「贵阳跨性别就业歧视案宣判:被告属违法辞退,但不认定是歧视」澎湃新闻2016-12-31。
(7)Transgender Man Was Unfairly Fired, but Bias Not Proved, Chinese Court Says, JAN. 2, 2017→「中国跨性别者被解雇,法院:无歧视证据」纽约时报中文网(VANESSA PIAO)2017年1月3日。
(8)贵阳跨性别就业歧视案宣判:被告属违法辞退,但不认定是歧视」澎湃新闻2016-12-31。
(9)少なくとも2009年には、全国人民代表大会に提出するために作成されており、第2条で性的指向による差別にも触れている(「中华人民共和国反就业歧视法(专家建议稿)」知乎专栏2016年4月19日)。
(10)跨性别C先生的微博【国内首例:就业歧视案邀请专家证人出庭】2016-12-14 23:40
(11)贵阳跨性别就业歧视案宣判:被告属违法辞退,但不认定是歧视」澎湃新闻2016-12-31。判決の原文は、跨性别C先生的微博【国内首例胜诉的多元性别就业歧视案:法院判决确认用人单位违法解除并支付赔偿金!!】2016-12-30 16:16に掲載されている。
(12)“Transgender Man Was Unfairly Fired, but Bias Not Proved, Chinese Court Says”, JAN. 2, 2017→「中国跨性别者被解雇,法院:无歧视证据」纽约时报中文网(VANESSA PIAO)2017年1月3日。
(13)全国首例跨性别就业歧视案人格权诉讼开庭」2017-04-25 C先生 同语。
(14)跨性别C先生2月10日 00:55
(15)同语说法 | 深度解读——全国首例跨性别就业歧视案一般人格权胜诉判决(上篇)」2017-07-27 K总 同语。
(16)同语说法 | 深度解读——全国首例跨性别就业歧视案一般人格权胜诉判决(下篇)」2017-07-28 K总 同语。
(17)同语说法 | 深度解读——全国首例跨性别就业歧视案一般人格权胜诉判决(上篇)」2017-07-27 K总 同语。
(18)同语说法 | 深度解读——全国首例跨性别就业歧视案一般人格权胜诉判决(下篇)」2017-07-28 K总 同语。
(19)刘明辉「你给我钱,但我只想要道歉:跨性别就业歧视第一案胜诉背后」橙雨伞公益21 八月 2017 - 10:08。
(20)因“爱穿男装”被辞退?公司被判赔偿精神抚慰金」成都商报2017年8月1日。
(21)因“爱穿男装”被辞退?公司被判赔偿精神抚慰金」成都商报2017年8月1日。
(22)刘明辉「你给我钱,但我只想要道歉:跨性别就业歧视第一案胜诉背后」橙雨伞公益21 八月 2017 - 10:08。
(23)跨性别C先生8月17日 20:48
(24)贵阳28岁女子因“外形太性感”遭公司开除人民网2016年03月10日(来源:贵阳网—贵阳晚报)。
(25)打扮太个性 女子遭单位辞退:已提请劳动仲裁」贵阳网—贵阳晚报 2016-03-10。
(26)跨性别者C先生(上):我为何告诉中国我是直男」纽约时报中文网(王媛)2017年3月22日。
(27)跨性别者C先生(中):我不想不男不女」纽约时报中文网(王媛)2017年3月22日。
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