2017-10

反痴漢アクションに対する弾圧強化の一方で、公的機関による反痴漢ポスター登場

<目次>
はじめに
一 反痴漢アクションの呼びかけ人らに対する警察の執拗な広州からの引っ越し強要
二 北京での警察の痴漢取締り活動が報じられる
 1.各紙が痴漢取締り活動を報道
 2.警察の対応の問題点に対する批判
三 被害者が痴漢に重傷を負わされる事件
 1.北京でバスの中の痴漢が、反抗した被害者に重傷を負わせる
 2.フェミニスト団体の反応
四 公的機関などによる、痴漢に警告するポスターが各地に登場
 1.上海 2.北京 3.成都 4.深圳
おわりに

はじめに

広州市を中心にした中国の行動派フェミニストたちは、2014年から、公共交通(バス・地下鉄)の痴漢問題に対して、交通管理委員会や地下鉄会社に、痴漢反対ポスターを掲示するなどの痴漢対策を要求する運動をしてきた。

しかし、2015年3月、バスの中で痴漢反対ステッカーを配布しようとしたフェミニスト活動家の五女性(女権五姉妹=フェミニスト・ファイブ・シスターズと呼ばれる)が刑事拘留されるという事件が起きるなど、当局は、彼女たちの運動に対する弾圧を強めてきた。

そうした中でも、張累累さんらは、広州の地下鉄に掲示するための痴漢反対ポスターを制作して、広州市交通管理委員会にポスターを出すように要請した。彼女たちは、そのポスターの製作費や広告料をクラウドファンディングまで集めたのだが、掲示は許可されなかった(本ブログの記事「広州で若い女性たちが公共交通の痴漢対策について交通管理委員会、地下鉄公司、警察、婦女連合会などと会談――各地で『赤ずきん』姿で痴漢・セクハラ反対活動」「広州地下鉄にクラウドファンディングによって痴漢反対ポスターを掲示する試みなど――2016年の女性たちの公共交通での痴漢反対運動」参照)。

そこで、今年5月1日から、張累累さんらが呼びかけて、全国各地の街頭、大学、電車、バス、駅の中で、合計100人近い若い女性のフェミニストたちが、それぞれの場で、掲示を断られた痴漢反対ポスターを貼った掲示板を身につけて歩いて、痴漢防止措置をするようアピールした 。

一 反痴漢アクションの呼びかけ人らに対する警察の執拗な広州からの引っ越し強要

しかし、5月17日、張累累さんの家に警官がやってきて、「あなたが呼びかけたこの反痴漢アクションを止めさせなさい」「広州では今年後半にフォーチュン・グローバルフォーラム(全球財富論壇)があるから、引っ越して、広州から出ていきなさい」と要求した。これは、累さんがこの一年間で求められた3回目の引っ越し要求だったという。かくしてこのアクションは中止に追い込まれた(「自作の痴漢反対ポスターを身につけて街頭や地下鉄・バス内で見せる全国各地のフェミニストのアクション」参照)。

当時、張累累さんと肖美麗さん(北京から広州までの性暴力反対の「フェミニズム・ウォーク」をしたことで有名)、鄭楚然さん(女権五姉妹の一人)は、広州で家を借りていっしょに住んでいたのだが、6月22日には、大家が電話をしてきて、「あなたがたは!必ず!3日から7日以内に!引越しなさい! 警察はあなた方には問題があると言っている 良くない文字を印刷した服(=痴漢反対ポスターを印刷したTシャツ)を持っていると! 私は大家だ!あなた方に引越しを要求する権力を持っている!!!! 警察が引っ越さなくていいと言わないかぎりは!」と言った。

鄭楚然さんが、大家の言った警察の電話番号に電話をかけてみると、警官が「張累累と肖美麗があなた方を巻き添えにしている。彼女たちは過激で騒いでいる。あなた方はまあいい、それほどひどくない」と言った(1)

けれど、引越ししなればならない理由を説明するよう求めると、自分に道理がないことがわかっていたのか、私たちが住み続けてもいいと妥協して言ったという(2)

そこで、3人は、家主にも警察に問い合わせるように言うと、家主の娘が電話をしてきて「警察は『赤色の髪と青色の髪をした2人は、地下鉄やバスで国家に不利なものを配布したから、家にいさせてはならない』と言った」という。張累累さんは髪を赤く染めており、肖美麗さんは髪を青く染めていたので、警察はやはり張累累さんと肖美麗さんを追い出したがっていたということだ。

しかし、鄭楚然さんは、張累累さんや肖美麗さんと絶交しろという警察の要求を拒否し、「共通の価値観を持った友情は、人生の中で非常に価値のある財産であり、フォーチュン・グローバル・フォーラムよりも重要だ」と述べた。

さらに鄭楚然さんは「今後わが家に遊びに来る人は、必ず青色か赤色の鬘をかぶらなければならない!」と宣言した(3)

6月27日には、朝9時に、郭晶さんと鄭楚然さん、熊仔さんが住んでいる家(上記の家と同一か否かはわからない)に、家主と制服を着た人がやってきた。この制服を着た人は、海珠区公安分局の陳剣陶という輔警(補助警官)であり、「消防検査をしなければならない」と言った。しかし、彼は家に上がると、「印刷機を持っているか」と尋ねたり、床に置いた服をひっくり返したりした。しかし、何の問題も発見できなかった。後に来た警官と輔警も、捜査をする合法的な理由を何も言わなかった。

しかし、家主は、また、借家契約を無視して、かたくなに、7月20日までに引っ越すように言った。警察がここ数日ずっと家主に電話してきて、よく眠ることさえできないのだという。

警官の大きなパトカーもやってきて、住宅地の入り口に12時近くまで停まっていた。警察は、型どおりの検査だと言ったが、郭晶さんたちの家だけを検査して、隣近所は検査しなかった。

郭晶さんは「女性がバスの中で痴漢に会ったとき、あなた方はどこにいるのか? 女性がDVの被害にあったとき、あなた方はどこにいるのか? あなた方は、良い人を弾圧するのに時間を使っているから、そんなときは登場しないのだ」と怒りを表明している(4)

その日にやってきたのは4人で、派出所から来たと言い、彼女たちを「警務室」(という小さな一階建ての建物)に連れて行った。

彼らは、自分のはっきりした身分を言わなかった。

警官たちは「あなた方がやったことは、彼女たち五人の娘がやったことと実際は本質的な区別はないではないか?」、「あなた方がやったことはそれよりもっと大きい。もしこれが北京だったら、とっくに彼女たちと同じことになった」と言った。

警官たちは、張累累さんらのインターネット上の活動を非難して、「(張累累を指して)毎日、あんなにたくさん写真に出てはいけない」と言ったり、「毎日、お互いにリアクションしている」と言ったしたりした。

それに対して、肖美麗さんは、「あなた方がそう言うなら、なぜ私たちを捕まえないのか?」と尋ねると、警官は「ここに座って話をして解決できるならば、私たちはその以外の方法で解決したくない。この解決方法は、あなた方にとっても私たちにとっても、有利な点だけがあり、欠点はない」と言った。

肖美麗さんは「もし私たちが違法なことをしたのなら、直接捕まえることができるはずだ」と言った。

つまり警察は、彼女たちがしているのは違法行為でないのに止めさせようとしているわけだ。本当は、かつて五姉妹のように拘留したいのだろうが、そのときのような国際的批判を浴びるようなことはやりにくいのだろう。

張累累さんは警官に、「私がこの活動をしているのは、私が[反痴漢広告のためにクラウドファンディングで]集めた4万元を使えないためだから、もしあなたが私にこの4万元を使う[って反痴漢広告を出す]のを助けてくれたら、私はこんなことをしなくてもよくなる」と言ってみたら、警官は「広告はだめ。」「女性の問題については、婦女連合会に言えばいい」などと言ったので、張累累さんは「私たちは婦連にも、直接電話した」と答えた。

警官は、「婦連も女性の権利を守っている。実はあなた方のやっていることも同じだ。しかし、あなた方の現在の主体がこのようなことをするのはふさわしくない」と言った。肖美麗さんが「私たち自身はこの活動には何の問題もないと思っている。だからこそやっている」と言うと、警官は「若干のことは、同じことをやっても、異なる人がやるなら、異なる。主体の身分が重要だ」と述べた。

つまり、女性の権利を守る活動も、官制の団体がやるのはよくて、民間の女性がやるのはよくないというわけだ。

そして、警官たちは、執拗に彼女たちに広州から引っ越すように要求した。

警官たちは、「引っ越したときは、微博で一言、言ってほしい。『私たちはもう広州から引っ越しました』と。微博で一言言ってくれれば、私たちは指導者に知らせる」、「警察のことは言ってはいけない。あいまいに言いなさい」、「ある人がハラスメントをしたと言ってもいいが、警察のことを言ってはならない」と厚かましい要求をした(5)

二 北京での警察の痴漢取締り活動が報道される

1.各紙が痴漢取締り活動を報道

7月ごろから、北京の警察が地下鉄で痴漢取り締まり活動をおこなっていることが報じられた。

7月8日、『北京青年報』が、北京の警察が地下鉄で痴漢取り締まり活動をおこなっていることを報じた。具体的に言えば、北京市公安局公共交通総隊の四恵駅派出所がそのためのチームを作って、6月16日から、20日あまりで、22人を捕まえたという(6)

8月3日付『北京晨報』の記事によると、四恵駅派出所では、私服警官が、毎日朝夕のラッシュアワーのときに地下鉄をパトロールしたという。この記事では、男女1組の警官が、怪しい行動をしている男を監視して痴漢行為に及んだところを捕まえようとしたことが記されている。

隊員は最初10人くらいだったが、隊員が痴漢を捕まえると、周囲の人たちが喝采をおくったり、微博で賞賛されたりするので、活動に熱が入り、隊員もしだいに増えたという。

隊員は、痴漢を捕まえても、自分が痴漢行為をしたとはっきり認める人はほとんどいないといった苦労もあると語っている(7)

8月7日付『北京晩報』も、この四恵駅派出所の痴漢取締り活動について報じた(8)

報じられているのがすべて四恵駅派出所の活動であるのは、北京での痴漢取締り活動のすべてを公にしないためであるのかもしれないが、他の派出所ではしていないからなのかのかもしれない。

ある記事は、「夏になって以後、北京では気温の高い日が続き、人々のだんだん薄着になった」(9)ことと痴漢とを結び付けているので、夏だけの活動である可能性もある。

けれど、こうした活動が開始された(ひょっとしたら以前からやっていたことが報道されるようになっただけかもしれないが)背景には、フェミニストたちの痴漢反対運動の影響があるのかもしれない。

2.警察の対応の問題点に対する批判

しかし、その一方、7月11日、北京の地下鉄で、自分で痴漢を捕まえて警察に通報したのに、警察の対応がまったく不十分だったことを批判する記事が「橙雨傘公益」という女性に対する暴力に反対する団体の微博に同月18日に掲載されている。

その女性は、やってきた警官に、警察に行って調書を作成することを求めたにもかかわらず、警官は、監視ビデオを見るなどして証拠を集めるのは大変だ、などと言い訳をしたり、「何か賠償をさせたいのか」と尋ねたりした。女性が「何もいらない! 私は彼に前科をつけて、再犯させないようにしたいのだ」と言うと、やっと痴漢を警察に連行した。警察に行った後も、警官は、手で口を隠して笑いながら、「その男はどのようにして尻を触ったのか」と尋ねたりしたという(10)

三 被害者が痴漢に重傷を負わされる事件

1.北京でバスの中の痴漢が、反抗した被害者に重傷を負わせる

7月17日、バスで痴漢の被害にあった女性が痴漢を平手打ちしたら、刃物で刺されて重症を負うという事件が起きた。

その日の8時ごろ、北京のバスの中で、通勤中の女性が、年上の男に痴漢をされて、すぐさま相手を平手打ちした。すると、その男が果物ナイフでその女性を刺した。その男はその場で運転手と乗客に取り押さえられたが、その女性は救急車で病院に運ばれた。彼女は、出血多量で意識を失っており、手術後ただちにICUに運ばれた。医師の診断によると、頚部の静脈と付近の神経が切断されていて、背中を4回刺されており、傷は肺に達していたという(11)

2.フェミニズム団体などの反応

この事件は、さまざまなメディアが報じ、痴漢の凶暴さをに知らしめ、それ対する怒りを巻き起こした(12)

フェミニズム団体「新メディア女性ネットワーク」の微博は、この事件について、「私たちは何度も女の子たちに『痴漢にあったときは黙って我慢するのではなく、勇敢に立ち上がらなければいけない』と言っているが、それはけっして、このような一幕を見るためではない」と言った(13)

フェミニズム団体「女権の声」のサイトは、痴漢にあったある女性の経験を掲載した。彼女は、痴漢にあったとき、大声で叫ぶようなことはできず、逃げるのが精いっぱいで、まわりの人も関わろうとしなかったことを記した。地下鉄の職員には、警察に通報するかどうかを聞かれたが、職員は、もし警察に通報しないのならば、痴漢を捕まえても、痴漢に説教するだけだと言った。また、監視カメラを見るように訴えても、警察でなければ権限がないと言われた(14)

「女権の声」の微博は、「痴漢がこんなに猛威を振るっているのに、公共交通の痴漢防止宣伝はまだ不十分だ。いつになったら北京地下鉄は自分で反痴漢広告を出すのか」と述べた(15)

後述の『中国婦女報』の記事もこの事件に言及しているところを見ると、この事件も下の反痴漢広告の出現に少し影響を与えたのかもしれない。

四 公的機関などによる、痴漢に警告するポスターが各地に登場

6月以後、いくつかの都市の地下鉄に、公的機関による痴漢に警告する広告が登場した。

1.上海

以前のべたように、6月14日、上海地下鉄に痴漢に警告する広告が掲示されたことが、微博アカウントで報じられた。それは、「今日の咸猪手(口語で痴漢の意)は、明日にはブタの頭になる」という文字が大きく書かれて、鳥がブタを食べようとしているように見える漫画が描かれていたものである。広告を出したのは「看看新聞」であり、上海テレビ・ラジオ局傘下のメディアなので、中国では公的機関であり、公的機関による初の痴漢に警告する広告だと言える(「自作の痴漢反対ポスターを身につけて街頭や地下鉄・バス内で見せる全国各地のフェミニストのアクション」の)。

2.北京

8月3日、北京市婦連が地下鉄に反痴漢広告を出していることを李麦子さんが微博で伝えた。その広告は、「痴漢を防止するために、共に声を上げよう」「沈黙した子羊にはならない 冷淡な見物人にはならない」というスローガンが書かれたものだった(16)。この広告には、伸ばした手を、何人もの手がつかんでいる写真も添えられていた。これは、痴漢行為を何人もの人が止めようとしているありさまを示しているのだろう。

このデザインは、2016年4月にフェミニストたちが作成した、痴漢の手を女性の手がつかみ、周りの者たちが「やめろ!」「やめろ!」「やめろ!」と声を上げているものと似ているように思う(写真→「广州公共交通工具应加强反性骚扰宣传」2016-04-29 01:48:25 来源: 新快报(广州))。

北京市婦連によると、この広告は、北京地下鉄の1、2、5、6、7、10号線と八通線、亦荘線の計8路線に出したという。この広告は、8月1日から14日まで出すという(17)

張累累さんは「とてもすばらしい! 北京婦連が痴漢反対のために立ち上がった。フェミニストの行動がついに政府当局部門を促して反痴漢広告を出させた」と述べた(18)。鄭楚然さんも、「北京婦連は張累累が呼びかけた地下鉄の反痴漢広告アクションに積極的に応えた」と述べた(19)

武嶸嶸(女権五姉妹の一人)さんも、「すばらしい、今の苦しみは無駄ではなかった。これは、涙と汗の積み重ねの2年間だ」と述べた(20)

張累累さんは、「全国各地がみな学んでほしい」とも訴えた(21)

ただし、張累累さんは「しかし、期間は8月1日-14日だけだという。なんで反痴漢広告がずっとあったらいけないか?」という疑問も呈した(22)

また、肖美麗さんは微博アカウント「@広州公安」に対して、「提唱者に無理やり引越しさせることしか知らないようではだめだ」と言って、痴漢反対ポスターの提唱者をむしろ弾圧している広州の警察を批判した(23)

3.成都

8月10日、成都地下鉄もポスターを掲示していることが微博アカウント「@古敏怡」によって伝えられた。そのポスターは、「この地には『痴漢』はいない」というスローガンが書かれた下に、パンダの姿をした女の子とブタの手を禁止するマークの絵を描いて、「マナーを守った外出 地下鉄はあなたとともに」と書いてあるものだった(24)

郭晶さんは「張累累が呼びかけた反痴漢広告のクラウドファンディングと掲示板を持って歩く反痴漢の活動は、巨大な進歩を勝ち取った。北京地下鉄に反痴漢広告が出現した後、成都の地下鉄にも出現した。広告の中のブタの手は、張累累の広告のブタの手にそっくりだ。@広州市婦連と@広州地下鉄は行動しなさい!」と微博で述べた(25)。李思磐さんも「累累の広告が元になっているように見える」と微博で指摘した(26)

韋婷婷(女権五姉妹の一人)さんは、「女性車両を設置した広州と深圳はしっかり学ぶべきだ」と述べて、女性車両という手段を使った広州と深圳の地下鉄を批判した(27)(女性専用車両批判については、本ブログの記事「中国における女性専用車両導入とフェミニストによる批判」参照)。

4.深圳

8月20日、深圳の購物公園駅に、ゲーム会社「テンセント(騰訊)」がその人気ゲーム「王者栄耀」のキャラクターになった花木蘭を使った反痴漢広告を出したことを微博アカウント「@反性別歧視(反性差別)」が伝えた。それは、花木蘭が刀を抜いて「女は男に及ばないと誰が言ったのか? また痴漢をするなら、みておれ」と言っているものだった(28)

張累累さんは、「王者農薬(王者栄耀の別名)の反痴漢広告はとてもすばらしい! 痴漢反対の宣伝はますます増えている。商業でも、政府でも、フェミニストたちの行動と努力はたえず見られている」と述べた(29)

肖美麗は、再び、「@広州公安」に対して、「他の人の善意を悪意とみなしてはならない。つまらぬことにびくびくすることは本当に不必要だ」と言った(30)

おわりに

以上、フェミニストたちが痴漢反対ポスターの掲示などを要求した運動への弾圧が強化される一方で、公的機関によって、痴漢に警告するポスターが上海、北京、成都などで掲示されたことがわかる。

全国的な反痴漢アクションが5月におこなわれた後の、6月以降になって公的機関による痴漢に警告するポスターが各地に登場したというタイミングから見ても、北京市婦連や成都地下鉄が掲示したポスターがフェミニストたちのポスターと似ているという点から見ても、フェミニストたちの活動が公的機関の痴漢対策に一定の影響を与えたことは明らかだろう。

一方で運動を弾圧しつつ、一方でその主張を取り入れるという手法は、フェミニストたちが公共トイレの男女比の是正を要求した運動に対して、運動自体は弾圧しつつ、その要求はある程度とりいれたということにも見られた。

こうしたことは、フェミニストたちの運動の意義や影響力を示しているともいえるし、いかに民間の運動の要求が正当でも、中国当局は民間の下からの運動はあくまで否定していることを示しているともいえるだろう。

また、フェミニストの痴漢反対運動に対する弾圧が、彼女たちをいきなり逮捕せずに引っ越しを要求するという形をとっているのは、彼女たちがしていることは違法行為でないのに弾圧しようとしているという面でも、かつてのように刑事拘留をして国際的批判を浴びることを避けようとしているという面でも、巧妙かつ卑劣なものだといえよう。

(1)大兔纸啦啦啦「我宣布,以后来我家玩必须佩戴红蓝色假发」大兔纸啦啦啦的微博2017-06-23 12:13-04。
(2)社工郭晶的微博6月27日 17:59
(3)大兔纸啦啦啦「我宣布,以后来我家玩必须佩戴红蓝色假发」大兔纸啦啦啦的微博2017-06-23 12:13-04。
(4)社工郭晶的微博6月27日 17:59
(5)肖美腻的微博6月30日 09:59
(6)北京开展大规模打击地铁“色狼”行动 便衣藏客流中」中国新聞網2017年7月8日 05:41(来源:北京青年报)。
(7)晨报记者直击便衣地铁擒狼」『北京晨报』2017年8月3日。
(8)北京“猎狼行动小组”成立 民警地铁擒色狼」新华网2017-08-07 20:01:18(来源:北京晚报)。
(9)北京开展大规模打击地铁“色狼”行动 便衣藏客流中」中国新聞網2017年7月8日 05:41(来源:北京青年报)。
(10)我在北京地铁上亲手抓了一个咸猪手还报了警,但这根本不够」橙雨伞公益2017/07/17 15:49(界面新聞)→「我在北京地铁上亲手抓了一个咸猪手还报了警,但这根本不够」2017-08-03 Zoe 橙雨伞。
(11)北京女子掌掴“公交色狼”被割颈,失血过多送进ICU 」李阳煜/法制晚报2017-07-18 18:13。
(12)北京一女子掌掴“公交色狼”竟遭对方割颈,咸猪手已经这么猖狂了?」捜狐2017-07-19(北京青年报)、「公交上反击色狼 北京女乘客反被刺伤」联合早报2017年7月20日。
(13)新媒体女性的微博7月19日 15:07
(14)“下一次,我绝不放过你!”|记我的一次地铁被性骚扰经历」女权之声 2017-07-19 11:22:26。
(15)女权之声的微博【反抗公交性骚扰有风险?】后续 7月19日 11:47
(16)麦子家的微博【北京惊现反性骚扰广告,系北京妇联推动】8月3日 09:50
(17)以上は、中国妇女报的微博【防止性骚扰,共同发声!一一北京8条地铁线现反性骚扰拉手】8月3日 17:42(写真あり)→「北京地铁八条线路现反性骚扰拉手 北京市妇联呼吁:不做沉默羔羊 不做冷漠看客」『中国婦女報』2017年8月4日(写真あり)。なお、この広告を報じたこれらの記事には、先に述べた通州区の事件に言及して、「これに対して、北京の市・区の2つのクラスの婦連組織は、緊急に関係部門と連絡を取って、事件の状況を知り、態度を表明し、終始被害者の状況と事件の進展状況に関心を寄せ、随時援助を提供した」とも書いてあった。なお、より大きな写真が、大魔宙的微博8月4日 11:51に掲載されている。
(18)张累累累累的微博8月4日 16:21
(19)大兔纸啦啦啦的微博8月4日 17:51
(20)小社工大社会嵘嵘的微博8月4日 16:22
(21)张累累累累的微博8月4日 16:39
(22)同上。
(23)肖美腻的微博8月4日 17:52
(24)古敏怡的微博8月10日 13:18
(25)社工郭晶的微博8月10日 17:12
(26)李思磐的微博8月17日 17:25
(27)韦婷婷waiting的微博8月18日 08:21
(28)我遭遇了性别歧视的微博8月20日 17:21
(29)张累累累累8月20日 17:35
(30)肖美腻的微博8月20日 23:02
関連記事

中国における女性専用車両導入とフェミニストによる批判

<目次>
一 女性専用車両に対するフェミニストの批判
1.女性専用車両導入の提案とその実施
2.女性専用車両を導入の発想について
 (1)痴漢防止のためというより、「女性を思いやり、女性を尊重する」ため
 (2)強制ではなく「提唱」
3.全体的には賛成が多数
4.「新メディア女性ネットワーク」の調査に回答した3000人以上の女性は、不支持が圧倒的
5.「女権の声」の女性専用車両批判
6.他のフェミニストの論説
7.日本の「女性専用車両」をどう見ているか?
8.主流メディアにもフェミニストの意見
9.まとめ
二 女性車両の実施状況
1.深圳――宣伝が不徹底で誘導もなく、有名無実
2.広州――かなり実施されているが、不徹底
3.まとめ

中国の若いフェミニストたちは、地下鉄・バスにおける痴漢の問題に対して、2012年以後、さまざまな運動をおこなってきた。2015年以後は5人の活動家が刑事拘留されるなど、彼女たちの運動に対する弾圧が強まるが、そうした中でも、地下鉄・バス内に痴漢反対ポスターを掲示することを求めるなど、会社や政府に痴漢防止措置を要求してきた(本ブログの記事「痴漢を女性の服装のせいにする上海地下鉄ブログに対する、ネット内外での女性たちの抗議のうねり」「各地の弁護士・市民が地下鉄会社に対して痴漢防止策の建議・署名運動」「広州で若い女性たちが公共交通の痴漢対策について交通管理委員会、地下鉄公司、警察、婦女連合会などと会談――各地で『赤ずきん』姿で痴漢・セクハラ反対活動」「広州地下鉄にクラウドファンディングによって痴漢反対ポスターを掲示する試みなど――2016年の女性たちの公共交通での痴漢反対運動」参照)。

しかし、そうした要求に対して、地下鉄やバスの会社、政府は応えようとしなかった。

そのため、今年5月には、全国各地の街頭、大学、電車、バス、駅の中で、合計100人近い若い女性のフェミニストたちが、それぞれの場で、自作の痴漢反対ポスターを張った掲示板を身につけて歩いて、ポスターなどによる痴漢防止措置を取る要求をアピールした 。けれども、警察は、この活動を中止させてしまった(「自作の痴漢反対ポスターを身につけて街頭や地下鉄・バス内で見せる全国各地のフェミニストのアクション」参照)。

しかし、さすがに彼女たちの要求自体を無視できなかったからだろうか、6月から、中国でも女性専用車両が導入されたり、痴漢反対ポスターが電車内に掲示されるようになったりした。

今回は、そのうち、女性専用車両をめぐる動向、とくにそれに対するフェミニストの批判と女性専用車両導入後の状況の2点について述べたい。

一 女性専用車両に対するフェミニストの批判

最近、日本のネット上で、イギリスにおける女性専用車両導入案に対する批判が話題になった(「「女性専用車両の存在は性犯罪を認めることと同じ行為? 女性議員が導入案に猛反発 英国」(ZUU online 2017.8.29、「女性専用車両導入は敗北?英国で国民的議論に 日本で乗車経験のある記者は賛成」NewSphere2015.8.31)。

中国のフェミニストも、女性専用車両に対して同様の批判をしている。

1.女性専用車両導入の提案とその実施

2017年1月、広東省政治協商会議11期5回会議で、委員の蘇忠陽さんは、「広州地下鉄に女性専用車両を設置することに関する提案」をした。

蘇さんのその提案は、「広州の夏は猛暑が長く続くので、女性はみな涼しい身なりをするから、『地下鉄の痴漢』によって、女性が地下鉄に乗って外出するときに非常に困惑する」ので、「ヒューマナイズな管理を強化し、女性に対する保護と尊重をより体現するために」、列車の先頭や最後尾に「女性専用車両」を設置して、女性に安心して乗車してもらう、というものだった。

6月7日、広東省政治協商会議の主席・王栄さんが同会議の調査研究グループとともに、広州地下鉄グループ、深圳地下鉄グループに行って、蘇さんの提案について調査研究活動をおこなった(1)

6月23日、広州地下鉄は、6月28日から広州地下鉄1号線で、平日の7:30~9:30と17:00~19:00に、広州東駅方面行きの最後尾の車両と西朗方面行きの先頭車両を「女性車両」にすると発表した(2)

6月26日には、深圳地下鉄が、1・3・4・5号線の計4路線で「女性優先車両」の試験的実施を開始した。深圳の場合も、女性優先車両の位置は列車の先頭や最後であるのは同じだった。しかし、広州ではラッシュアワーのときだけ女性専用車両を設置したのとは異なり、深圳では、時間の制限はなく、一日中実行する(3)

私は、この時期に女性専用車両の導入が具体化した背景には、5月にフェミニストグループが公共交通の痴漢問題についてのポスターを身に着けて見せて回る活動を全国各地で展開したことがあるのではないかと思う。

2.女性専用車両を導入の発想について

(1)痴漢防止のためというより、「女性を思いやり、女性を尊重する」ため

6月7日、上述のように広東省政治協商会議の委員たちが広州と深圳の地下鉄公司グループに行って調査研究をした際、以下のような疑問が出された。

(1)広州地下鉄公司:「痴漢は一部の現象にすぎない」
(2)広州地下鉄公司と深圳地下鉄の部門の責任者:「女性車両の特定の集団のためだけのものだから、運輸能力の浪費にならないか?」、「他の車両が混雑するので、地下鉄の正常な運営にマイナスになる」
(3)ある政治協商会議の委員:「女性専用車両の設置は、新たな男女不平等を生み出して、男性乗客の不満を引き起こすかもしれない」(4)

私は、どの疑問の根底にも、痴漢問題に対する軽視があるように思う。しかし、それに対してきちんとした反論がなされたとはとても言えない。

すなわち、(1)の疑問に対しては、当日、委員たちは、「痴漢問題は女性専用車両設置の最も重要な理由ではない」と述べて批判をかわしており(5)、後日、蘇さんは、その点について、「実際は『女性専用車両』の設置は、ヒューマニスティックな思いやり――すなわち、女性に対する思いやり、レディーファーストである。一部のメディアが世論を間違った方向に導いて、焦点を、女性に対する思いやりではなく、痴漢と性差別に当てているが、実際はまったく逆で、これらのことは、女性に対する思いやりであり、性差別とは無関係だ」と言っている。もっとも、蘇さんも、「痴漢防止も『女性専用車両』設置の重要な要素である」とは言っているのだが、その際、「広東の夏はたまらなく暑いために、女子学生はしばしば薄着になり、多くの女子学生がスカートをはくので、混雑したときは具合が悪い」と女性の服装との関係を述べている(6)

広州地下鉄が女性専用車両を導入した公式の理由も、「広州の都市文明の窓口として、広州地下鉄は(……)女性車両の設置を通じて、『女性を思いやり、女性を尊重する』という文明的理念を不断に発揚することを希望する」というものだった(7)

(2)強制ではなく「提唱」

また、(2)の「運輸能力の浪費になる」「他の車両が混雑する」といった疑問に対しては、6月7日には、蘇さんは、「私がしているのは提唱であって、強制ではなく、完全に男性を入れなくするのではない」と反論した(8)

広州地下鉄も、女性車両導入を発表したときの公式のQ&Aで、「女性車両は、女性専用という性格のものか?」という質問に対して、「公共交通において異なる乗客に対して強制的に区別して対応することには、現在はまだ法律的根拠はない。また、女性専用にすると、男女が連れ立ったり、年寄りと若者や家族が連れ立ったりして外出するという実際の状況に合わない。だから、女性車両は『提唱する』という性格のものである」(9)と答えている。

ネーミング自体も、深圳では、女性専用車両ではなく、「女性優先車両」となっている。また、広州では、「女性車両」と表記されている。

2.全体的には賛成が多数

世論の動向はどうかというと、『南方都市報』のネット調査によると、女性専用車両の設置に対して、67%の市民が「賛成」と答え、「反対」は16%、「どちらでもない」も16%であった。男女別に見ると、「賛成」は、その74%が女性で、26%は男性だった。また、「反対」は、その34%が女性、男性が66%であった(10)

この調査の回答者は女性が多かったようだが、回答者の2/3、女性に限定すればそれ以上が女性専用車両に賛成していたと言える。

4.「新メディア女性ネットワーク」の調査に回答した3000人以上の女性は、不支持が圧倒的

しかし、広州のフェミニスト団体「新メディア女性ネットワーク」の微博アカウント「@新媒体女性」も、6月8日の夕方、「深圳地下鉄が女性専用車両を設置しようとしているが、あなたは支持するか?」という質問をしたのに対して回答を寄せた人々は、まったく異なる傾向を示した。

この調査では、1日たらずの間に3000名以上の人から回答を得ている。この点がまず注目される。

そして、回答者のうち、女性で賛成した人は479人(全体の13.8%)だけで、不賛成だった人が2854人(82%)を占めた。つまり、大半の女性が賛成しなかったのだ。なお、男性の比率はごくわずかだが、賛成44人(1.3%)に対して、不賛成は104人(3%)であり、女性ほどではないが、やはり不賛成が多い。

不賛成の理由としては、以下のような点が述べられていた。

(1)やり方が難しい――ex.「一本の列車の一両だけを女性車両にするのか。半分ずつにするのか。もし女性が非女性車両で痴漢に遭ってもかまわないのか」、「設置するなら比率を半分ずつにすべきだ。すべての女性が一両に乗るのなら、豚積車のようにならないか?」

(2)女性車両に行かない女性が責められる――ex.「女性が『普通の』車両で痴漢にあったら、『わざとあった』『なぜ女性専用車両に行かないのか』と責められないか?」

(3)方法が間違っている。解決すべきは痴漢である――ex.「犬が人を咬むことの解決方法として、人を籠に閉じ込める(ようなものだ)」

(4)女性のスペースを圧迫する――ex.「断固として支持しない、生存空間をさらに縮めるだけである」

(5)隔離と差別を招く――ex.「すでに『保護』の名の下に隔離をして女性の職場空間を縮小しているのに、同じ理屈で女性の社会空間を縮小するとは、人種差別のときに『黒人車両』を設置したようなものだ。隔離を打破すべきときに、あわてて囲いを築いている」

(6)文化的偏見を強める――ex.「断固不同意であり、不支持である!!!! なぜ女性が第二の性にならなければならないのか? 特殊な保護は、すなわち隠れた性差別である!!!」、「もし本当にそのような車両を設置したら、女性は『特殊』で、彼女たちは『保護』が必要だと思われるようになる」

(7)明らかにもっと良い方法がある――ex.「反痴漢広告をネットに上げさせず、呼びかけ人を広州から追い出し、その後で女性車両を設置して女を囲い込むとは、本当に痴漢を解決するいい方法だ!」、「1/3の車両を男性専用車両にして、すべての男性をそれらの車両に押し込めて、もし押し込められなければ、次の車両を待たせても、他の車両には乗せにないようにする」、「正しい方法は、各車両にたくさんライブカメラを設置して、痴漢事件をいったん確認したら、犯罪者に対する処罰を強め、拘留および多額の罰金を課して、痴漢を骨の髄まで痛めつけてこそ、恥知らずな痴漢は減る」(11)

これらは、今回報道されたイギリスでの女性専用車両導入反対論とほぼ同じだといえるだろう。

注目すべきは、ごく一部の理論家や小さなフェミニズム団体のメンバーだけが反対しているのではなく、何千もの女性たちがこの問題に回答を寄せて、反対の意を表明したことであろう。これは、それまでに、そうした発想が受け入れられるような活動が展開されていたからであろう。

5.「女権の声」の女性専用車両批判の論説

6月26日、別のフェミニズム団体「女権の声」(「女性メディアモニターネットワーク」)が「『女性車両』は、地下鉄の痴漢を防止できるのか?」という論説を発表した(以下の小見出しは、遠山によるもの)。

この論説は、「女性車両は応急処置であり、根本的な治療ではない『絆創膏』である」と言う。すなわち、「一面では、女性だけが入ることができる空間は、たしかに多くの女性に安全だと感じさせるし、彼女たちも歓迎する」と述べつつも、「その一面で、多くの人が納得できずに、『女性車両』の現実性とその背後のロジックに疑問を呈している」と言う。

(1)現実性――女性を収容しきれないし、トランスジェンダーや男にも女にも見えない人はどうするのか

まず「現実性」という点については、「2016年の公衆の地下鉄の一日あたりの平均の乗客は延べ701.7万人である。その混雑の程度から見て、女性専用車両は、すべての女性乗客を収容するにはまったく足りないから、実際に解決するのは難しい。それに、男性の家族と一緒に出かける女性はどうするのか? またトランスジェンダーの人、あるいは伝統的な性別ではない姿をしていて、見たところ『男でも女でもない』人はどうするのか?」と述べる。

(2)背後のロジック――「女性を思いやり、女性を尊重しよう」

また「その背後のロジック」について言えば、広州地下鉄が、「女性専用車両の設置をとおして『女性を思いやり、女性を尊重しよう』という文明的理念を発揚しよう」と言っていることなどに対して、この論説は、こうした議論は「たとえ主観的には善意によるものだとしても、『女性車両』は依然として女性を保護される弱者の位置に固定するものであり、真に痴漢問題を解決しないだけでなく、痴漢に対抗する女性の意識と能力を養成することもない」と批判している。

そして、「この『試験的措置』の考え方から見て、このような解決法は典型的な『保護的平等、すなわち保護するように見えて、実際には制限する措置によって女性が遭う権力的侵害に対処するものであり、侵害自体には対処せず、女性が不利な境遇を根本的には変えようとしないものだ』」と述べる。

(3)「女性車両」を設置している国は、女性の地位が低い

また、「女性車両」の提案が国外の経験を援用していることに対しては、この論説は、まず、「女性車両」を設置している都市は多くなく、それらの国の女性の地位は低いことを指摘する。

具体的には、まず、世界に200近くある軌道交通を有する都市のうち、「女性車両」を設置している都市はけっして多くなく、日本、インド、エジプト、イラン、ブラジル、インドネシア、フィリピン、マレーシア、アラブ首長国連邦などの国に分布していること、その主な理由は、宗教的理由による性別隔離と痴漢防止であることを述べる。

この論説は、「ジェンダー平等の角度から見ると、これらの国の状況は良くない」と指摘する。「世界経済フォーラム」が発表した「2016年グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」の順位から見ると、フィリピンを除いて、これらの国はみな70位より下で、大多数は100位より下だからだ。

(4)ニューヨーク地下鉄の経験

次に、2014年にトムソン・ロイター財団が世界16都市の交通機関に安全状況について各都市400人の女性のアンケートによって調査した結果をもとにして、最も安全だと女性が感じたニューヨークの地下鉄はいかにしてそうなったのか? について以下のように述べる。

1990年代には、ニューヨークの地下鉄は、駅は暗くて危険で、犯罪率は高かった。状況が変わったのは、地下鉄の管理者であるニューヨーク運輸管理局(MTA)が、一連の有効な措置をとったからである。具体的には、監視ビデオを多数設置する、パトロールをおこなう警官を増やす、反痴漢教育の広告(痴漢は犯罪である、混雑は不当な接触の口実にはならない、など)や助けを求めるための広告(痴漢にあったら、許さずに、恐れず職員や警官に言おう、など)を出す、随所に助けを求めるための通話機を設置する、および地下鉄職員と警官に対して反痴漢教育をおこなうことである。

また、運輸管理局のウェブサイトの中に、専門のページを設けて、乗客に対して、どのような行為がセクハラであるかや、安全のための戦略、助けを求めるリソース、および、目撃者はどのようにすれば安全に介入できるかや、乗客はネット上でも匿名で痴漢を報告することもできることなどが述べられている。

この論説は、結論として、「公共交通での痴漢の問題を解決するために最も良い方法は、性別隔離のきらいがある「女性車両」を設置することではまったくなく、痴漢防止措置を強めるとともに、公衆教育を強めて、社会全体に痴漢防止問題をもっと重視させるようすることである。暴力との対抗のプロセスにおいては、積極的な行動が最もよい措置である」と述べて、これまでのフェミニストたちの痴漢反対のさまざまな活動を振り返っている(12)

6.他のフェミニストの論説

他にも、フェミニストは女性車両の設置を批判する論説を発表しているので、以上と重複もあるが、少し挙げてみよう。

たとえば、「澎湃新聞」という上海のニュースサイトに掲載されたある論説は、女性専用車両に対して批判として、以下のような点を述べている。

・女性専用車両は、「男性の欲望は猛獣のようなもので、制御できない」、「女性は生まれつきの弱者であり、自分を保護できない。男性と一緒にいないと女性は危険である」といった女性と男性のステロタイプなイメージを強化する。

・「女性専用車両は、痴漢の被害者は永遠に女性であると仮定しているが、この見方は事実に合致しない」、すなわち被害者には男性もいる。

・さらに重要な点は、トランスジェンダーに対する考慮が欠けていることである(13)

また、中山大学社会学・ソーシャルワーク系の副教授・丁瑜さんは、蘇さんが提案の中で「広東の夏は長いので、女性は涼しい服装をする」ことを強調していることに対して、「実際の痴漢の発生理由はけっしてそうではない。このような言い方は、痴漢を『客観的』な原因によるものとすることになり、また責任を女性に押し付けており、不適切だ」と批判している(14)

ただし、もちろん、「女性車両は、それが必ずしも完全なものではなくとも、女性にとって一定の積極性を持っている」と述べる論説もある。その論説は、以下の2つの事実を考慮すべきだとする。第一に、「中国の大都市で地下鉄に乗ることは、けっして楽で愉快なことではなく、とくにラッシュアワーのときはそうである」こと、第二に、「中国の都市の家庭の共働き比率は全世界で最高であり、とくに深圳のような移民都市では、大量の職業女性が地下鉄で通勤している」ことである。

しかし、その論説の筆者も、反対する者の懸念も理解できると言う。

といっても、「男性に対する差別であるという類」の反対意見は、「一笑にも値しない」とする。なぜなら「このような懸念は、過酷な税を取り立てている富豪階層が、赤貧の者に対する手当てを『金持ちに対する差別だ』と言うようなものであり、こっけいすぎる」からだ。

けれど、筆者は「反対する者の懸念が一概に根拠がないとは言えない」とも指摘する。「なぜなら、中国は典型的な男権社会なので(……) 『女性車両』の設置が、『女性車両』に乗ることができない女性の乗客に対して不利な副作用をもたらす可能性がある」からだとする。それが、普通の車両に乗っている女性の乗客が痴漢にあった場合、「なぜ女性車両に行かないのか」と責められるという状況だとする。

また、「『女性車両』の設置が社会の管理者と法律執行者に『政策的怠慢』の口実にされるかもしれない」ことも問題だという。「地下鉄でのセクハラ・性暴力は、『女性車両』の設置によってなくせるものではない」のに、である。

それゆえ、筆者は「たとえ『女性車両』の設置が論駁できない積極的意義を持っているとしても(……)、私は、多元的な観点がぶつかることによってこそ、『女性車両』を隠れ蓑に堕させず、その政策的副作用を防ぐことができると思う」と述べる(15)

7.日本の「女性専用車両」をどう見ているか?

女性専用車両に批判的な女性たちは、日本が「女性専用車両」を導入していることをどう見ているのかについては、以下の3点にまとめられるようだ。

(1)日本の女性の地位の低さを示している。
(2)日本はラッシュアワーの混雑が非常にひどいので痴漢防止が難しい。
(3)日本では、反痴漢広告を掲示していたり、警察が取り締まりに力を入れている点が中国とは異なることを強調する。

(1)の点は先述の「女権の声」が述べていた点だが、別の論説も、「女性専用車両」がある国の女性の地位がいかに低いかを説いている。挙げられているのは、日本、インド、イラン、アラブ首長国連邦、エジプト、サウジアラビアである(16)

(2)と(3)の点を主張しているのは、女性車両反対の論陣を張っている新メディア女性ネットワークの微博に掲載された論説で、以下のように述べている。

日本の女性専用車両は、実際はやむをえない措置である。これは日本の鉄道運輸の混雑、繁忙さと大きな関係がある。日本の軌道交通は世界的にも発達していることで有名だが、一部の路線は、ラッシュアワーのときは超満員で、そのように混雑している車両の中では痴漢を捕まえるのは難しい。犯人は混雑している状況を利用して逃げやすく、逆に被害者の近くにいる無辜の男性が痴漢だと誤認される可能性もある。

1980年代から、公共交通の痴漢問題が重視され始め、日本の警察は痴漢に対する処罰に力を入れるようになり、各大鉄道会社(現在日本の鉄道の多くは私営である)は、車両内に反痴漢広告を出している(…)。しかし、これらの措置の効果はわずかで、痴漢がはびこっている状況を阻止できていない。このような特殊な状況の下で、日本の鉄道運営者は女性専用車両あるいは専用席を設けて、公共交通の痴漢を減らしている。

中国の類似した政策に対する啓示として言えることは、以下のことである。
・日本の鉄道が極めて混雑しているという現実の下では、公共交通の痴漢問題は他の方法では解決が難しいことが、女性専用車両を導入した主な理由である。
・日本政府(ここでは警察)と社会はすでにその他の面から痴漢反対の努力をしている(反痴漢広告)(17)

この論説は以上のように述べているのだが、私(遠山)は、中国も世界経済フォーラムの指数では女性の地位は世界99位であり、地下鉄やバスが超満員であることもよく言われるので、中国における女性専用車両の有効性自体は否定できないと思う。

8.主流メディアもフェミニストの意見を取り上げる

メジャーなサイトでもフェミニストの声は取り上げられ、一定の影響を及ぼしている。

たとえば、鳳凰網に掲載され、中国網という中国を代表するニュースサイトに転載されたある論説は、「ネットユーザーが女性車両の設置についておこなった討論と論争の主要点」として、1. 女性車両は、痴漢問題に対するその場限りの対処であり、根治ではないのか? 2.痴漢をする人に新たな口実を与えて、さらなる問題を引き起こすか? 3.女性についてのステロタイプなイメージと差別をさらに深刻化するか? 4.無辜の男性に対して不公平さと差別を引き起こすか? を挙げている。

この論説の筆者は、結論としては、痴漢にあった女性の経験などをもとにして、女性車両の設置は女性にとって良い点もあると述べているが、1~3の論点について、フェミニストの主張を詳しく紹介している(18)

中国共産主義青年団の機関紙『中国青年報』にも、「張国」という人が、「普通の車両に乗った女性は、痴漢にあってあたりまえなのか?」、「『レディーファースト』は実は危険な言葉である。それは『女性は弱くて小さい性別だ』というステロタイプなイメージを強める可能性がある」、「差別は、通常無知かステロタイプな印象がもたらす偏見から生じる」など、フェミニズムの観点にもとづいて女性優先車両を論じている(19)

しかし、さすがに、中国の国営通信社である新華社のサイト「新華網」に掲載された「常江」という人の論説は、フェミニストの批判に否定的であり、「性別の強者である男性が女性に対して礼儀を尽くして女性に譲ることは、どの文化でも尊重に値する公序良俗である。広州と深圳の地下鉄が設置した女性専用車両には(……)十分な必要性と合理性があり、疑いなく二つの都市の文明の程度のメルクマールである」と述べている(20)

強くフェミニストの主張に反論している論説もある。たとえば、『新快報』に掲載されたある論説は、「このヒューマニスティックな思いやりにもとづく措置を『性差別』と関係付けるのは牽強付会である。私たちはずっと社会に女性と子どもを尊重し愛護する文明的な気風を作り上げるよう呼びかけてきた。地下鉄・バスなどの公共のリソースに女性車両を設置するのは、女性を思いやる具体的な行動である」、「女性車両を設置した初心は、『男性の体臭を避ける』『痴漢を防止する』というような『せまい意味』や『俗っぽいこと』とだけ理解してはならない」と述べている(21)

しかし、こうした論説も、フェミニストの批判を一つの主張として取り上げている点は、その影響力が無視できないことをあらわしている。

9.まとめ

中国のフェミニストの女性専用車両批判は、だいたい以下のようにまとめられるだろう。
・問題は痴漢なのに、女性のほうを女性専用車両に閉じ込めるのはおかしい。女性の空間がさらに圧迫される。
・女性車両以外で痴漢にあった女性は、女性専用車両に乗らなかったことを責められることになる危険がある。
・「男性の性欲は抑制できないものであり、女性は保護される存在だ」というステレオタイプを強める。
・被害者には男性もいる。また、トランスジェンダーなどの存在を無視している。
・女性専用車両を設置しているのは、イスラム諸国や日本など、女性の地位が低い国々だ。


以上に見られるようなフェミニズムの立場からの女性専用車両批判は、イギリスにもあった。また、女性専用車両がすでに導入されているブラジルやエジプトでも、同様のフェミニズムの立場からの女性専用車両批判はある(22)

日本では、「一笑にも値しない」レベルの女性専用車両反対論が多く、フェミニズムの視点からの女性専用車両に対する批判はそれほど表には出ていない。

しかし、そうした日本でも、たとえば、2007年に堀井光俊氏がおこなった女性専用車両についてのアンケートに対して、「女性に対して不公平」だから女性専用車両の導入拡大を望まないと述べた意見があったという。それは、「痴漢をしているのは男性なのに、なぜ被害者の女性が何かをしなければいけないのか」、「行動を改めるべきは男性であり、被害者に女性専用車両まで歩かせるような不便を強いるべきではない」というものだったという(23)

また、「性暴力を許さない女の会」も、2008年に、大阪府立大学大学院の研究グループによるインタビューに対して、「会として女性専用車両の導入を直接鉄道会社に要求したことはない」、その理由として「会の中で意見が分かれていた(根本的な解決にはならないのではという反対意見があった)こと」や「女性専用車両に乗らない女性が責められてしまうのではという懸念もあった」ということを述べている。

ただし、同会は、「現在、会の中で女性専用車両に反対するメンバーはいない。もちろん女性専用車両の必要がない世の中が一番いいが、現状としては必要である。女性専用車両のお陰で出歩けるようになったという性暴力サバイバーの声も多く聞く」という(24)

上野千鶴子氏は、女性専用車両は「後ろ向き」の対策であると表現している(25)

また、中国の場合、フェミニストに、女性車両の設置に批判の声が強い理由として、以下のような点も挙げられるだろう。

第一に、当局側が女性専用車両を導入した理由が、痴漢対策それ自体よりも、「女性に対する思いやり、女性の尊重」「レディーファースト」といったものだったことである。

第二に、中国のフェミニストの痴漢反対の活動
が、2012年に上海地下鉄内で1人の女性が全身を黒いベールで覆って、「涼しさは欲しいけど、痴漢はいらない」と書いたパネルを持ち、もう1人の女性が、乳房の形をした金属の器を二つ胸に付けて、「私はふしだらでもいいが、あんたのセクハラは許さない」と書いたパネルを持つパフォーマンスアートをおこなったことに始まったことに見られるように、女性の自由を拘束するような発想を拒否してきからであろう。

今回の女性専用車両を取り上げた記事の中にも、「『私はふしだらでもいいが、あんたのセクハラは許さない』というフェミニズム運動の名言は、いくらか偏見と独断があるとはいえ、地下鉄に女性車両の設置に適用すれば、風を通さない長衣で車両の中の女性を包んでしまうように見える」と述べられているところである(26)

第三に、すでに述べているように、この時点では、政府当局が、反痴漢ポスターを車両内に掲示することを拒否し続けてきており(6月14日ごろ、上海で掲示されたのが最初である)、そうしたフェミニストの活動を弾圧する一方で、女性専用車両を導入したからであろう。

ただ、中国でも、今後、日本の「性暴力を許さない女の会」が紹介しているような「女性専用車両のお陰で出歩けるようになったという性暴力サバイバーの声」がフェミニストの元に届くようになれば、若干、見解が変わっていくのかもしれない。

二 女性(優先)車両の実施状況

さて、女性(優先)車両が導入はうまくいっただろうか?

1.深圳――宣伝が不徹底で誘導もなく、有名無実

○6月26日(初日)

6月26日から、深圳地下鉄が女性優先車両の試験的実施を開始したが、広州の地下鉄とは異なり、深圳では、公式のインターネットや公式の微博では事前の通知がされなかった。これは、深圳の場合、あくまで「女性優先車両」だったからかもしれない。

それでも、プラットホームのホームドアや車両内にピンク色の「女性優先車両」という標識を貼ることによって、女性優先を示した。

しかし、少なくとも導入初日は、「女性優先車両」について、ネットで「少なくない男性が見て見ぬふりをしており、何の区別もしてない」とか、「車両の中の6割が男性だという」とかいう状況だったという(27)

実際に、午前11時、ある人が、4号線の女性優先車両に乗ってみると、車両内の乗客は、男性9人、女性8人だった。通過する各駅のプラットホームを見ても、ラッシュアワー時も、ラッシュアワーでない時も、「女性優先車両」の標識の前で待っている乗客の男女比は、他と変わらなかった。

その原因として述べられているのは、「『女性優先車両』という案内が多くないので、乗客は、最初はその存在に気づきにくい」(市民・張さん[女])ことだった。「みんな乗ってからその変化に気づいた」(市民・馬さん[男])とか、「ラッシュアワーのときは人が多すぎて、放送も聞こえなかったし、プラットホームの標識も見えなかった」(市民・李さん[女])とか言われている(28)

○6月28日(3日目)

導入3日目の6月28日にも、ある人が、広州地下鉄四号線の始発駅に女性優先車両の情況を見に行っている。

その人は、女性車両が停車するホームドアには「女性優先車両」という掲示の前で「張り込み」をした。

しかし、1分たち、2分たち、3分たっても、その車両に入る女性はいなかった。というのも、女性車両は一番前と後ろにあるので、みんなそこまで行くのが面倒だったのだ。

地下鉄に乗り込む人が増えて、はじめて女性車両にも人が乗るようになった。しかし、女性だけでなく男性も乗り込むようになり、一般の車両と変わらない状態になった。みんなは、あたかも「女性優先車両」という掲示と放送を無視しているかのようだった。しかし、車両の中の掲示自体、目につきにくく、顔を上げなければわからないかもしれないものだった(29)

その後の状況については、報じた記事が見当たらない。

しかし、少なくとも女性優先車両の設置初期の段階においては、深圳の場合、事前の告知もなく、掲示も目に付きにくく、職員の誘導もないために、有名無実だったいえよう。

2.広州

広州は、深圳といささか様子が違う。

○6月28日(初日)

広州で女性車両が設置された初日の6月28日、地下鉄の職員たちは、女性車両の前に並んでいる男性に声をかけて普通の車両の前に誘導した。また、プラットホームで宣伝チラシを配布している職員もいた(30)

ただし、けっしてすべての乗客が「女性優先車両」を理解したわけではなかった。おじさんが職員に対して「女には配慮して、老人には配慮しないとは、そんな馬鹿な話はない」と怒鳴ったりしたようだ(31)

この日、女性車両の停車位置で待っている乗客や女性車両内の乗客の男女比は、2:8だったという(32)

○6月30日(3日目)

3日目の6月30日、『南方周末』の記者が乗車したときも、地下鉄の職員が、女性車両の乗車位置に並んでいる男性に対して「これは女性車両です」と声をかけていた(33)

○7月4日(1週間後)

女性車両設置1週間後の7月4日、『羊城晩報』の記者が報じたところでは、現場の職員とボランティアの努力によって、大多数の男性乗客は女性車両ではなく、普通の車両の場所で電車を待ち、乗車するようになっていたという。

午前8時のラッシュアワーのときに記者が取材すると、乗客が多い公園前駅でも、女性車両に乗り込む男性はほとんどおらず、間違って女性車両の停車位置に並んでいた人も、職員に促されて他の車両に乗り込んでおり、女性車両に乗り込んだのは8名だけだったという。体育西路駅では、普通の車両と隣接したホームドアに1、2名男の乗客がいたのを除いて、女性車両の前で行列していたのは、みな女性だった。特に子ども連れで外出している女性と妊娠している女性は、女性車両が来るのを待っている人も少なくなかった。

体育西路駅で、西朗のほうに行く列車の女性車両を数えてみると、男性は4名だけで、楊箕駅では6名だった。東山口駅では、乗客が増加するのに従って、男性も15名に増えた。

夕方のラッシュアワーのときの状況も比較的似ていた。18時に記者が、体育西路駅と楊箕駅に行ってみると、プラットホームの職員とボランティアが、階段の入り口のところから、男性は普通車両を待つように誘導を始めていた。

女性車両の内部でも、女性の乗客が大多数を占めており、18時から西朗方面行きの3本の列車の女性車両内の男性は、平均5人以下だった。広州東駅方面行きの3本の列車では、それぞれ4人、8人、11人だった(34)

この記事では、大多数の男性は理解していることが強調されているが、客観的な数値を見ると、必ずしも徹底されているとはいえない。

○7月19日(3週間後)

『広州日報』の記者によると、7月19日の午前8時半、広州地下鉄1号線の楊箕駅の女性車両を待つ場所で待っているのは女性が主で、車両内でも女性が9割以上を占めていたという。

ただし、地下鉄が混み始めると、少数の男性が女性車両にも乗ってきて、楊箕駅でも先に乗ろうとした男性が、女性に車両から降ろされて、ばつが悪い思いをしたという。

広州と深圳を行き来しているある男性は、深圳の地下鉄は「女性優先車両」と書いてあるが、広州では、「女性車両」と書かれているので、女性専用か否かがはっきりわからないと言っている(35)

また、同日、『羊城晩報』の記者は、午後5時30分、楊箕駅では、女性車両に「混入した」男の乗客は「少数ではなかった」と報じている。車両内でも、並んで待つ乗客も、女性車両の男女比率は、他の車両とはっきりした差はなかったという。

記者は、その原因として、女性車両の隣の車両が女性車両より混雑しているという点を挙げている(36)

広州では、全体としてみれば、職員の誘導などがあるために、女性車両がある程度定着しているといえそうだ。しかし、まだまだ徹底しているとは言えないし、時間が経過すれば徹底するというものでもないようだ。

3.まとめ

以上、深圳と広州で大きな違いがあることは明らかであり、広州の場合は女性車両がある程度実質化しているといえそうだ。

ただし、まだ広州の場合も、まだ不徹底である。

その背景には、一で述べたように、女性専用車両は、「強制」ではなく、あくまで「提唱」だという姿勢があるのかもしれない。さらにその背景には、フェミニストが批判したように、女性車両の理念が「女性の尊重」や「レディーファースト」にとどまっている問題があるのかもしれないと思う。その意味では、この一と二の問題はつながっているのかもしれない。

さらに言えば、広州の地下鉄が女性車両の導入理由として「広州の都市文明の窓口として、『女性を思いやり、女性を尊重する』という文明的理念」を提唱してることと、広州の警察が、フェミニストたちの痴漢反対アクションの呼びかけ人の張累累さんに対して「広州では今年後半にフォーチュン・グローバルフォーラムがあるから、引っ越して広州から出ていきなさい」と言ったことは、広州の「文明的」な体面を重視するという意味で、どこかつながっているのかもしれないとも思う。

(1)以上は、「地铁要不要设女性专用车厢? 针对省政协委员提出“地铁设女性专用车厢”提案,“南都马上问”记者随省政协调研组赴广深调研」『南方都市報』2017年6月8日。
(2)6月28日起,广州地铁一号线试点女性车厢」广州地铁2017-06-23。
(3)深圳女性优先车厢,女性并不优先???」新媒体女性2017-06-26 13:50:33。
(4)(1)に同じ。
(5)同上。
(6)深圳地铁将设女性车厢 广东省政协委员苏忠阳:出发点是关爱无关性...」界面(作者:梁宙) 2017-06-16 18:04:00。
(7)(2)に同じ。
(8)(1)に同じ。
(9)(2)に同じ。
(10)(1)に同じ。
(11)以上は、「“关爱”女性的女专厢,居然遭到八成女性反对!」新媒体女性的微博2017-06-09 18:14:59。
(12)以上は、「“女性车厢”能治地铁性骚扰吗?」女权之声的微博2017-06-26 14:15:43。
(13)广州地铁设女性专用车厢:性别隔离能创造“安全空间”吗?」澎湃新闻2017-06-28 11:23:00。
(14)保护女性还是浪费资源:女性车厢防得住咸猪手吗?」中国网(作者:敏)2017-06-23 09:58:06。また、丁瑜さんも、「痴漢に遭うかもしれない人々を『閉じ込める』ことになりかねないやり方は、根本的な解決法ではない。痴漢をなくす最も根本的な方法は、市民に公共の場での性暴力について理解させることである。女性車両は、痴漢を男女両性の間のもので、男が女にするものと考えている。しかし、実際には、男と男の間、女と女の間、成人の子どもにおこなうものなど、もっと多くの状況がある」ことを指摘している。
(15)人民性 | 女性车厢不是遮羞布,也不是稻草人」唐映红 晒爱思PsyEyes 2017-07-07
(16)小寒Eirene「女性需要保护吗?——有“女性专用车厢”的国家,那里的女性都生活得怎么样?」小寒Eirene的微博2017-06-09
(17)日本有女性专用车厢,也有反性骚扰的法律和广告」新媒体女性(作者:@蒲公英的小白伞)2017-06-24 21:22:45。
(18)地铁开设女性车厢 只是打击性骚扰最不坏的第一步」中国网 2017-06-28 14:45 (来源:凤凰网)。
(19)中青报:设女士优先车厢是以保护名义行歧视之实」2017年07月05日 07:04 来源:中国青年报。
(20)我们争论女性车厢时,我们在争什么」新华网2017-07-07 08:38:36。
(21)地铁女性车厢:用试验回应争议」新快网2017-06-26 01:44(来源:新快报)。
(22)居永正宏 川端多津子 寺野朱美 橋爪由紀『女性専用車両の学際的研究 性暴力としての痴漢犯罪とアクセス権の保障』(大阪府立大学大学院人間社会学研究科人間科学専攻発行 2008年)47頁(寺野朱美執筆部分)。
(23)堀井光俊『女性専用車両の社会学』(秀明出版会 2009年)、32-33頁。
(24)居永正宏ほか前掲書、95-96頁。同会も、「痴漢対策として理想的なのは、やはり取り締まりのための人員(特に女性)の増加を行い、痴漢発生防止とともに、痴漢犯罪が起こった時に被害者が声を上げやすい環境を作ることである」と述べている。
(25)『朝日新聞』2005 年5 月9 日。ただし、原文は未見で、Wikipediaによる。
(26)地铁设女性车厢,为什么阿伯和姑娘都跑过来吐槽」『中国青年报』(作者:王钟的) 2017-06-29 18:09:00。
(27)深圳女性优先车厢,女性并不优先???」新媒体女性2017-06-26 13:50:33。
(28)尴尬了!地铁首开“女性车厢”结果塞满了男乘客」 凤凰网视频2017-06-29 14:43:00 2017年06月29日11:15。
(29)震惊!“女性优先车厢”很可能不是为了反性骚扰!」尖椒部落的微博2017-06-28 18:06:16。
(30)广州地铁女性车厢首日男女比例2:8」奥一网2017-06-29 08:11来源:南方都市报。
(31)广州地铁试行女性车厢,老伯被阻后大骂:照顾女人不照顾老人」 澎湃新闻2017-06-28 17:03(微信公号“中新社广东发布”)。
(32)(30)に同じ。
(33)广州地铁“女性车厢”体验记」『南方周末』(作者:关丽明) 2017-07-04 13:00:26。
(34)广州地铁试点女性车厢首周 女性车厢男士真的少了很多」『羊城晚报』(作者:李佳文) 2017-07-06 07:13:00。
(35)广州地铁女性车厢:一位男士把另一位女士挤下车」中国新闻网2017年07月22日 10:51 来源:广州日报。
(36)广州地铁女性车厢试设三周 仍是“混装”」金羊网2017-07-20 13:25 来源:金羊网。
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自作の痴漢反対ポスターを身につけて街頭や地下鉄・バス内で見せる全国各地のフェミニストのアクション

<目次>
はじめに
一 今年も公共交通での痴漢防止対策を求めて人民代表大会の議員に提案
二 なぜ作成した反痴漢ポスターが掲示されないのか?――「市民のパニックを引き起こす」「公益広告は政府しか出せない」
三 全国各地で一人ひとりが反痴漢広告の掲示板になる活動

 1.道行く人にポスターを見せる張累累さんの発想と活動 /2.「百人が反痴漢広告の掲示板になる」活動 /3. 全国各地の街頭、大学、電車・バスや駅の中で /4.通行人にポスターといっしょに写真に写ってもらう、賛同署名を集める /5.多い大学内での活動 /6.アンケートや取材も /7.グループとしての取り組み /8.ポスターを使った動画 /9.当局からの監視の目 /10.大型の固定掲示板よりは効果が低いが、それでも多くの人にアピールする活動として /11. 小括――運動の広がり、若い女性、多くは1人で
四 警察が呼びかけ人に中止を命令
五 上海地下鉄に反痴漢広告が登場
おわりに


はじめに

広州市では、地下鉄での痴漢(中国語では鉄道内のセクハラについても「セクハラ(性騒擾)」の語を使うが、本文では原則として「痴漢」という日本語訳を使う)の問題について、2012年9月、若い女性が広州地下鉄に痴漢防止措置を求める署名を利用者から集める運動をしたり、柯倩婷さん(中山大学中文系副教授)が広州市交通管理委員会と広州地下鉄総公司に対して、痴漢防止措置について情報公開申請や建議をおこなったりした(本ブログの記事「各地の弁護士・市民が地下鉄会社に対して痴漢防止策の建議・署名運動」参照)。

2014年11月には、中山大学の女子学生と市民が2人で、広州市交通管理委員会に行って、「公共交通でのセクシュアル・ハラスメントの防止についての建議の手紙」を手渡した(これは、前年の柯倩婷さんの建議の内容とほぼ同じだとのことだ)。12月には、その2人を含む5人が、広州市の交通管理委員会、地下鉄総公司、旅客輸送管理処、公安局(地下鉄分局・公共交通分局)と会談し、職員の研修などの点で前向きの回答を得た。その中で、万欽(万青)さんらの「痴漢防止の宣伝を強化する」という提案については、市の交通管理委員会と市の旅客輸送管理処の代表が、「もし婦女連合会が宣伝活動を主導して、ポスターや標語、ビデオ広告などの宣伝材料も提供してくれるなら、宣伝スペースを提供したい」と述べた(以上は、本ブログの記事「広州で若い女性たちが公共交通の痴漢対策について交通管理委員会、地下鉄公司、警察、婦女連合会などと会談――各地で『赤ずきん』姿で痴漢・セクハラ反対活動」参照)。

2016年の3~4月には、張累累さんらが設立した「F女権小組」が、広州の地下鉄に痴漢に反対する公益広告を出すためのクラウドファンディングをおこなった。「F女権小組」とは、広州で《陰道之道》(ヴァギナ・モノローグスの中国語版)の上演活動などをしてきたグループである。

4月28日、3人の青年が広州市交通管理委員会陳情事務局に行って、広州の公共交通でセクハラ反対の宣伝をするよう要求し、公共交通の中にセクハラ防止システムを作ること、ジェンダー平等意識を有する公益広告を出すよう申し入れた(13)

彼女たちは、自分たちが作成したポスターのパネルを持って行った。それは、痴漢の手を女性の手がつかみ、周りの者たちが「やめろ!」「やめろ!」「やめろ!」と声を上げている絵の右に、「誘惑は言い訳にならない。痴漢をやめろ」というスローガンが書かれたものだった(以上は、本ブログの記事「広州地下鉄にクラウドファンディングによって痴漢反対ポスターを掲示する試みなど――2016年の女性たちの公共交通での痴漢反対運動」参照)

一 今年も公共交通での痴漢防止対策を求めて人民代表大会の議員に提案

2017年1月12日、張累累さんは、今年は広東省の人民代表大会の代表[議員のこと]325人に対して、公共交通の痴漢防止システムを整備する提案をするように要望する手紙を送った。これまでも、3年続けて、フェミニスト行動派は、人民代表大会の代表に両会(全人代と全国政協)に公共交通の痴漢防止システムを整備することを求める建議の手紙を送ってきたが、今年は、広東省の人民代表大会の代表に要請したのである。

その具体的内容は、以下のとおりである。

1. 交通部門は、公共交通関連部門にセクハラ防止工作制度を制定するよう督促すること。この制度は以下の点を含む。防止の原則、訴えへの対応、職責の分担、処置のプロセス、監督・審査など。また、この制度を、下級の会社の従業員の研修と審査に組み込むこと。

2.交通部門は、公共交通関連部門に従業員のセクハラ防止研修をおこなうよう督促すること。研修の中では、次のことをおこなう。・会社にはセクハラを防止する法定の義務があり、従業員は会社を代表してこの義務を履行することが自分の仕事の責任であることを知らせる。・セクハラに関する認識の誤りを正す(「露出が多いとセクハラが増える」など、研究や証拠によって誤りが証明されている、いわゆる「常識」を正すことを含む)。・従業員のセクハラ防止業務の分担とプロセスを明確にする。・セクハラ事件に応対する具体的な方法を訓練する。

3. 公共の場所、公共交通の乗り物に、セクハラの訴えの方法を設置・公表する。たとえば、ホットラインを設置し、処理の責任者を公表して、それを地下鉄の目立つ場所に貼る。

4. 簡単に証拠をつかむ手段を設置する。現在、わが国の大多数の公共の場所と公共交通の乗り物には監視カメラがあり、痴漢が発生したら重要な証拠を提供できる。被害者が録画を調べる必要があるときには、責任者が簡単に証拠をつかむ手段を提供すること。

5. セクハラ防止の宣伝を強化する。地下鉄の中に不法分子を震え上がらせるスローガンを貼ると同時に、市民に主体的に制止あるいは通報することを呼びかける、たとえば、「セクハラは違法行為です、制止と通報にご協力ください」などと。

6. セクハラの「首問責任制 (最初に対応した職員が最後まで責任を持って対応すること)」を実行する。職員はセクハラの訴えを受けたら、直ちに制止して、加害者を取り押さえ、証拠を固め、すぐに警察に通報して、被害者にその他の必要な援助を提供しなければならない。

7. 微博(中国版ツイッター)のセクハラ防止の宣伝窓口としての機能を強化する。微博でセクハラ防止の訴えの方法を公表し、積極的に回答をし、微博上でのセクハラの訴えを処理する。被害者を責めたり、乗客の私的言論を暴露したりすることを杜絶し、公衆の監督を誠実に受け入れる。

8. 先進国・地域の公共の場でのセクハラ防止に関する合理的なシステムを参照する。

9. 公安部門と交通部門が協力して、公共運輸関連部門にセクハラ防止措置の整備を急がせること。(1)

2016年2月にも、全国8の省・市のフェミニストらが、10あまりの省の郵便局から合計一千通余りの公共交通の痴漢防止システムを作る提案を提出してもらうよう人民代表大会の代表と政治協商会議の委員に建議の手紙を出したが、上はその提案の内容とほぼ同じである。

なぜ作成した反痴漢ポスターが掲示されないのか?――「市民のパニックを引き起こす」、「公益広告は政府しか出せない」

広告会社は「商工審査部門は、この広告は『市民のパニックを引き起こす』と言っている」と述べた。何度も問いただすと、広告会社は彼らが修正したバージョンを出してきた。

そのバージョンは、「やめろ!」「やめろ!」「やめろ!」というセリフは同じだった。しかし、次の点が異なっていた。
(1)痴漢しようとする男の手を女の手が掴んでいる絵はなくなり、その代わりに、握りこぶしが2つ並んでいるだけの絵に変えられていた。
(2)「誘惑は言い訳にならない。痴漢をやめろ」というスローガンは、「誘惑は言い訳にならない。マナーを守った乗車を」に変えられていた。

これでは、痴漢の問題についての広告であることがわからない。ポスターに近づいて子細に観察すると、非常に小さな字で下の方に、これは痴漢問題について言っていることが書かれているが、パッと見た場合は全然わからない。

F女権小組は、修正するなら自分たちでやりたいと述べ、いくつかのバージョンを作った。たとえば、以下のようなバージョンである。
(a)絵は握りこぶしの絵に変えたが、スローガンは元通り「誘惑は言い訳にならない。痴漢をやめろ」のままにしたもの。
(b)絵は、元通り痴漢しようとする男の手を女の手が掴んでいる絵にしたが、スローガンを「痴漢を制止しよう 安全はみんなの力で」に変えたもの。

長い間待った後に、商工部門からの回答が帰ってきたが、それは「公益広告は、政府しか出せない」というものであった。すなわち、商業広告として出すしかないが「商業広告で出すのなら、画面を変えなければならない。こぶしの絵は、比較的デリケートであり、政府が出すとしてもきつすぎる。商業広告ならばもっと厳しい」と広告会社は言った。「どのように修正すればいいか」と尋ねると、広告会社は「こぶしや身体の部位はダメで、画面をもう少し柔らかくする(修正をする)」と言った。

そこで、F女権小組は、身体の部位の絵はやめて、可愛い小動物の絵にすることにした。

すなわち、豚の手を、猫が押さえて「NO!」と言い、周りの犬や馬たちが見つめている絵の右に「誘惑は言い訳にならない。痴漢をやめろ」というスローガンを書いたポスターにした。「為平女性サポートホットライン」の電話番号も入れた。

広告会社は、このポスターならばOKだと言ったが、その前提は政府部門か類似の機関の名前を広告の上に入れることであり、そうしないと政府が監督する公益広告にならないと述べた。

しかし、文化局はF女権小組の要求を拒否した。ある女性協会もF女権小組の要求を拒否した(2)

三 全国各地で一人ひとりが反痴漢広告の掲示板になる活動

 1.張累累さんの道行く人にポスターを見せる発想と活動

張累累さん(以下、累さん)が自分に何ができるのかを考えていたとき、突然、次のことを思い出した。去年、累さんが広州市交通管理委員会に行ったとき、広告のポスターを印刷して持って行った。その帰り道、そのポスターを持って人ごみの中を歩き、地下鉄に乗ったとき、累さんは、ポスターが非常に多くの人の目を引いていることに気づいた。

累さんは、そのことを思い出して、一人ひとりが掲示板になることを思いついた。「私たちは毎日多くの人とすれちがう。もしポスターを身につけていたら、多くの人が見るだろう!」と。

それから一カ月、累さんは、外出するときには、中国初の反痴漢ポスターになるはずだったポスターを身につけるようになった。「私はポスターを身につけて、出かけ、地下鉄に乗り、バスに乗り、活動に参加し、食事をし、酒を飲み、集会に参加し、散歩をし、服を買い、他の都市にも行った」。30日間、累さんは、毎日、それを微博に書いて、自分の一日の経験を写真と文字で伝えた。

 2.「百人が反痴漢広告の掲示板になる」活動

累さんは、もっと多くの人にそれをやってほしくなった。

5月1日、累さんは、NGO「広州新メディア女性ネットワーク」の微博である「@新媒体女性」とともに、「百人が反痴漢広告の掲示板になる」活動を呼びかけた。その具体的な進め方は、以以下のとおりだ。

1 参加希望者は、まず@新媒体女性の微博が今回の活動を呼びかけたエントリをリツイートするか、またはそのエントリを引用してコメントをする。次に、自分の住所と今回の活動に申請する理由や、ポスターを受け取ったら何をするかといった「申請理由」を一言書いて、私信で@新媒体女性に参加を申請する。

2 .@新媒体女性は、申請者の中から抽選で100人を選んで、ポスターを貼ったボードを発送する。多くの都市で活動をおこなうために、一つの都市の定員は5人までとする。

3. ポスターを貼ったボードを受け取った参加者は、それを身につけた自分といっしょに自分の都市を象徴するような建築物の前か公共交通機関に中で撮った写真を微博で発信する。その際には、「#私が掲示板だ。歩く反痴漢#」というハッシュタグを付ける。

この活動の最終的な目的は、1カ月後、つまり6月1日までに、集まったすべての写真と各人の活動、累さんが書いた政策の建議の手紙を、広州市交通委員会、広州市の地下鉄・バス会社に送ることだった。それらは同時に国の交通運輸部にも送り、政府部門が主導して全国に反痴漢広告を出すよう提案する(とくに広州で反痴漢広告を先行して掲示し、全国の先駆けにするように要望する)予定だった(3)

翌日の5月2日夕方には、申し込みをした人は50人を越え、全国の27市に及んだ(4)

5月3日には、申し込みが100人に達したので、ポスターを貼ったボードの提供を打ち切った。申し込みがあった都市は、北京・唐山・青島・ハルピン・ウルムチ・上海・成都・重慶・深圳・長沙・南京・西安・広州・仏山・蘇州・福州・武漢などだった。しかし、申し込みはまだ続いていたため、新メディア女性ネットワークは、申し込みが来たら、その人にポスターの原版を提供して、プリントアウトしてもらえるようにした(5)

さらに、ポスターの絵を描いたTシャツの注文の受け付けも開始した。送料込みで38元(≒600円)である(6)

なお、累さんは、女性たちの痴漢被害の経験――「いつ、どこで痴漢に遭ったか」「何が起こったか」「どのように感じたか」――を集めたエントリも書いて、女性たちが経験を分かち合えるようにした(7)

 3.全国各地の街頭、大学、電車・バスや駅の中で

累さんの微博(张累累累累)の中や「#私が掲示板だ。歩く反痴漢#」のハッシュタグの下に、5月2日から17日まで連日、さまざまな人が全国各地の街頭や電車・バス・駅の中、大学、ショッピングセンターなどでポスターを貼った掲示板(以下、基本的に「ポスター」と略す)を身に着けて歩いたり、手に持ってアピールしたりしている微博のエントリが掲載された。以下、それらのエントリをすべて見ていく(以下は、中国大陸内にかぎる(8))。

(なお日時については、その行動がおこなわれた日が微博の中に記されているものは、その日を記し、行動した日が記されていない記述については、微博で発信された日を記して、「(微博)」と付記する。ただし、微博は携帯電話などから手軽に発信するものであり、また、その日の夕方から夜にかけての発信が多いので、行動がおこなわれたその当日に発信されているケースが多いと思われるため、以下の記述ではその両者をあまり区別しない。)

浙江省の杭州では、5月2日、ある男性がポスターを貼ったボードを背中に付けたり、ときに手に持ったりしながら、大学を出発して、バスに乗り、宝石山に登り、西湖・保俶塔にも行った。ポスターは路上で振り返られる率がとても高かったという(微博)(9)。同日、別のある女性も、杭州で、掲示板を背中に付けて、バス停でバスを待ち、バスに乗り、あちこちの街頭を歩いた写真を微博に掲載している(10)

同日、別のある女性は、広東省の広州市の地下鉄の鷺江駅やゲームセンターでポスターを掲げた。彼女は、子どもの頃、多くの友だちがゲームセンターで痴漢に遭ったのに、どうしてよいかわからず、教師や親にも話せなかったので、小学教育からセクハラ問題を正視すべきであると記した(微博)(11)

5月2日には、内蒙古自治区の包頭でも、ある女性が、ポスターを商業施設らしき建物の駐車場で掲げた(微博)(12)

5月4日にも、広州市で、ある女性が、観光バスが走っているような街頭でポスターを掲げたところ、多くの人に周りから見られたと記した(微博)(13)

5月5日、江蘇省の無錫で、ある女性が、映画を見た後、映画館で広告を掲げた。残念だったのは、一緒にやってくれる人かなかったことだという(微博)(14)

同日、江蘇省の南京でも、ある女性が、他の方と2人で、ポスターを身につけて、南京大学から地下鉄二号線を回った(微博)(15)

5月5日には、広東省の恵州でも、ある女性がポスターを背中につけて、恵州学院から、恵州西湖、恵州商業歩行街、華貿天地に行った(微博)(16)

5月6日、上海で、ある女性がポスターを持って、人民広場に行き、喜茶(カフェの名称)の行列に並び、地下鉄8号線と1号線、2号線に乗った(微博)(17)。。

5月6日には、深圳でも、ある女性がポスターを掲げて、平安金融センター、地王大廈(別名は信興広場で、超高層ビル)、京基100(超高層ビル)、市民センター、kkmall(深南東路)、鄧小平の画像という新旧の名所に行った。彼女は地下鉄で写真を取っているとき、職員に阻止された。しかし、多く人が写真を撮り、これは何の活動かと問い、それに答えると、多く人が支持してくれたという(18)。深圳では、5月3日にも、別の女性が信興広場前で、ポスターを掲げている(19)

5月6日、江西省の南昌でも、複数の女性が、八一館~万寿宮~八一大橋~銅鑼湾広場を回った(微博)(20)

5月6日、長沙市で、ある女性は、ポスターを掲げてあちこちを回った。太平街では、ポスターを掲げて中を歩いてはならないと警告されたが、見ていないところで掲げようと、地下鉄に乗って、五一広場、黄興広場、7UPビルに行って掲げた(21)

5月6日、吉林省長春市で、ある男性が中東市場のブタの像の前にポスターを置いた(微博)(22)

5月7日、広州で、ある女性がポスターを持って、地下鉄、バス、映画館など人が密集している場所に行ったら、多く人の目を引いたという(微博)(23)

5月7日、南京の新模範馬路で2人の女性が、ポスターを掲げている写真を微博にそれぞれ掲載した(微博)(24)

5月8日、湖南省長沙市で、ある女性が、地下鉄の中を含めた通学路で、ポスターを掲げて歩いたところ、見知らぬ人が何人も写真に撮ってくれて、長沙はけっして思ったほどひどく保守的ではなかったと述べている(微博)(25)

5月8日、新疆ウイグル自治区のウルムチでも、ある女性が、ショッピングセンターの中でポスターを背中に掲げて回った(微博)(26)

5月9日、湖北省の宜昌市でも、ある女性がポスターを身につけてバスに乗って、多くの人の目を引きつけた。ただ、乗客には小さい字は読めないので、大学内では人が多い場所にポスターを置いておいて自由に見てもらい、最後は教学楼の壁に張った(微博)(27)

5月12日、武漢で、ある女性がバスの中や地下鉄の駅などでポスターを掲げたところ、見た人はさまざまな表情を浮かべ、写真に撮る人もいて、楽しかったという(28)

5月12日、広東省の仏山で、ある女性が、同僚といっしょに、万達広場(中国の大都市にあるショッピングセンター)と千灯湖公園に行ってポスターを掲げた(29)

 4.通行人にポスターといっしょに写真に写ってもらう、賛同署名を集める

単にポスターを身につけて歩くだけでなく、通行人や友人にポスターといっしょに写真に写ってもらったり、ポスターを貼っているボードの裏に署名をしてもらったりすることによって、ポスターに賛同の意を表明してもらったりした人も多い。以下では、そうした活動を報告している微博を紹介したい。

ある女性は、5月5日から北京で3日間行動した。1日目は北京大学のキャンパスで活動した。彼女は、自分は「社交恐怖症の患者」だが、勇気を振り絞って行動したという。すると、ある学友が駆け寄ってきて、ポスターといっしょの写真を撮影させてくれて、心が温まったという。微博のエントリに添付されている写真の中には、本人がポスターを背負って構内を歩いている写真とともに、さまざまな人と本人とがポスターと一緒に写っている写真が10枚近くある
(30)。。

2日目は、誰か2人で活動したようだ。た。その人はポスターを付けた掲示板を背負って映画を見に行った。本人は地下鉄に行ったところ、ラッシュアワーに間に合ったので、多くの人に写真を撮られて、とても楽しかったという。映画館やデパートの入り口でも、多くの人の目を引いた。ただ、昨日と異なって、いっしょに写真に写ったり、署名をしてくれたりする人はいなかった(31)

3日目は、ポスターを付けた掲示板を背負って地下鉄や街頭に出かけて、署名や写真撮影などを求めた。そうして撮ったのであろう、街の人がポスターを前に掲げた記念写真も掲載されている。しかし、34回目の拒絶にあったときには、街頭で号泣したくなったという。「けれども、スーパーマーケット、街頭、地下鉄、バスの停留所で、私たちのポスターが多く人に見られさえすれば、私は勇気を奮い起して続ける」とその女性は書いている。なお、午後にはBCome小組(後述)のワークショップに出席したとのことであり、その写真も掲載されている(32)

山西省の太原では、大学生らしき女性が少なくとも7日間連続して行動している。微博で報告されているのは初日と7日目だけだが、初日は教室にポスターを持って行き、7日目には、街頭で、署名やポスターと一緒に写真に写ってもらうことをお願いしたようだ。拒絶されたことも多かったが、激励や支持をもらうことも少なくなかったとのことだ(33)

5月13日、ある女性が、浙江省の寧波のショッピングモールである天一広場でポスターを掲げて歩いたところ、多く人がこの活動を支持して一緒に写真に写ってくれて、感激した(34)

著名な活動家の中では、5月7日、李麦子さんが、北京の西壩河で活動して、さまざまな人がポスターを掲げている写真を撮った(微博)(35)

5月2日、猪西西さんも、杭州の小中学校補習センターで子どもたちにポスターを掲げてもらった写真を微博で発信した(36)

 5.多い大学内での活動

学生が多いのだろうか、これまでも触れてきたように、大学内での活動が目立つ。以下では、もっぱら大学内で活動した微博の報告を挙げていこう。

5月2日、広州大学城(大学関係者のニーズにもとづいて形成された町・地区)で、ある女性が、さまざまな場でポスターを掲げた写真を微博で発表した(37)。同日、別の女性も、広州大学城で、別の男性と協力して、ポスターと風景が一緒に写った写真を撮影して回っている(38)

5月3日、ある女性は、長沙市の大学(湖南女子学院と思われる)の図書館やバス停、街頭で本人や他の人がポスターを手に持ったり背中に付けたりしている写真を微博で発表した。教室に集まった学生たち26人が、ポスターを前にして腕でバッテンを作って痴漢にノーの意を表明している写真もある(39)

その女性は、5月5日も、同じ長沙市の中南林業科技大学に遊びに行ったとき、背中にポスターを貼ったボードを背負って歩いた。そのグラウンドに行ったときには、多くの人が見に来て、多くの人に活動が知られてうれしかったという(微博)(40)

5月8日には、湖南女子学院の社団連合会大会に持って行ったら、教室いっぱいの60人程度が手でバッテンを作って、セクハラにノーの意を表してくれた(41)。また、屋外の授業では、先生が音頭をとって、40人近くが手でバッテンを作った(42)。こうしたことが起きるのは、女性学教育が盛んな湖南女子学院だからだろうか。

また、5月4日には、杭州のある女性セクシュアルマイノリティが、浙江大学紫金港校区を、ポスターをバイクの後ろに付けた写真を微博で発表している(微博)(43)

5月6日には、山西省の太原市でも、ある女性が、ポスターを持って学校に行き、帰りは汾河公園に行って、夜になるまであちこちでポスターを掲げた(微博)(44)

同日、広東省の汕頭大学の学生の女性も、ポスターを背負って大学を一周した(微博)(45)

5月9日には、安徽省の馬鞍山市のある女子学生が、ポスターを教室に持って行ったところ、先生が話す時間をくれ、多くの学友も自分の意見や経験について話してくれて、感動したそうだ(微博)(46)

5月9日には、先述の、5月5日に恵州学院からポスターを背中に付けて外に出かけた女子学生が、学内でもその格好で授業に出たら、多くの学友が支持してくれて(署名が40筆ほど集まっている)とても感激したという(47)

5月9日には、福建省の漳州の大学地区でも、ある女性がポスターを掲げて回り、他の人にもポスターを掲げてもらった(微博)(48)

5月11日には、河北省唐山市の華北理工大学で、ある女性が、学校内を、ポスターを掲げて歩いた。多く学友が見てくれて、「それは何か」と問う人もいたので、私は「これはパフォーマンスアートだ」と答えた。しかし、ある女子学生が「あの人は病気だ」と言ったのは嫌だったという(49)

5月第2週の週末、ある女性が、ポスターを広東省広州市の広東培正学院で持って歩くと、学友たちがみんな支持してくれて、ポスターと一緒に写真に写ってくれて、広州のバスや地下鉄駅でも掲示してほしいと言われた(50)

写真を見るかぎり、今回の活動を全国でおこなった人のほとんどは若い女性である。また、大学生と思われる人も多い。

大学内では、そうした女性たちに人間的つながりがあったり、ときにはフェミニズムに好意的な教員がいたりするせいか、比較的好意的反応が集まりやすいようだ。あるいは、大学には年齢的にとくに痴漢被害に遭いやすい若い女性が多いという要因もあるのかもしれない。

 6.アンケートや取材も

今回の活動をした中には、アンケート用紙を自分で作って通行人からアンケートを集めながら、その場で話をした人もいた。上海のある女性は、5月7日の日曜日には、一日中ポスターを身につけて街を歩き回って人々の視線を集めた。そして、翌週の日曜の14日には、60人を目標にアンケート調査をして、26部集め、そのアンケート結果は累さんに送るとのことだ。体力的にも心理的にも大変だったが,通行人がポスターと一緒に写真を撮るなどしてくれたことに励まされたと記している(51)

5月7日、西安でも、ある女性が、広告ボードを掲げて、街頭や地下鉄の車内・構内で注目を集めて宣伝しながら、取材もした(微博)(52)

5月10日、広東省の東莞では、ある女性が、バスの運転手に痴漢への対応を取材した(微博)(53)

 7.グループとしての取り組み

5月13日、武漢で、ある女性が、仲間たちと一緒に1日に二万歩歩いて、武漢大学、中南財経政法大学、武漢科学技術館、武漢美術館、戸部巷、公園などに行って、ポスターの裏に署名を集めたり、ポスターと一緒に写真に写ってもらったりした(54)

このように仲間たちとともに活動した女性たちもいる。グループとして取り組んだことが微博でわかるのは、以下の団体である。
・「BCome小組(@BCome小组)」――『ヴァギナ・モノーグス』の中国版である『陰道之道』を上演してきた北京の劇団。
・「PLUS青年空間」――西安でジェンダー/セクシュアリティの問題に取り組んでいる団体。
・「蘇州大学青春同伴教育社(蘇大青同社)(@苏大青同社)」――以前は、「蘇州大学ジェンダー性的指向平等促進協会」と称していた団体。
・恵州反セクハラグループ
・「トランスジェンダーセンター(@跨性别中心)」――2016年5月に、広州にF女権小組のh.cらによって設立された団体。
・雲南大学ジェンダー平等促進グループ

5月7日、Bcome小組のメンバーは、ポスターを手に持って北京の各地を駆け回って、通行人に私たちへの支持を呼びかけた(55)。そうすると、子どもからも署名が集まったり、年上の女性が痴漢の被害者を責めることに強く反対する意見を述べたりした。また、最初は「性教育は子どもとお母さんの問題だ」と言っていたお父さんもいたが、彼も説得して自らの責任を感じてもらったりした(56)

5月8日には、西安で「PLUS青年空間」のメンバーとボランティア5人が、西安培華学院、陝西師範大学、西安郵電大学、西安政法大学、西安財経学院、西京学院と付近の繁華街やバスステーションを回った。西安地下鉄2号線では、多くの駅で車両を行き来して、ポスターを掲げ、大きな声で「セクハラに反対する! 痴漢をやめろ! 勇気を持ってNOを言おう!」というスローガンを叫んだ。後ろで嘲笑する人もいれば、拍手する乗客もいた。大学では「キャンパスはこんなにきれいなのに、セクハラがあるのか?」と尋ねられることもあれば、うなずいて賞賛され、好意的に見られることもあった(57)

5月11日にも、PLUS青年空間の満文雅さんという女性が、西安の曲江文化聚集地~西安欧亜学院~城南バスステーション~地下鉄の三爻駅~地下鉄の南稍門駅~西安ホテル~飛行場バス~咸陽国際飛行場~東大街と回って、ポスターを掲げた(58)

5月15日には、PLUS青年空間の満三順(=満文雅?)さん、在如さん,アメリカから来たDevidyal(雅心)さん、Beth Gulleyさんがいっしょに西安で、ポスターを持って歩いた。当日のルートは、小寨、鐘楼、ショッピングセンター(賽格、金莎、世紀金花付近)、地下鉄(スタジアム~南稍門~鐘楼駅),回民街(イスラム人街)だった(59)

江蘇省の蘇州大学青春同伴教育社は、5月13日に蘇州地下鉄の車両内や、蘇州の街頭・広場で宣伝活動をする計画を立て(60)、当日、少なくとも地下鉄1、2、4号線とその駅で、5人が宣伝をしたことが記されている(61)

広東省の恵州でも、セクハラ反対の小さなグループの6人ほどが、さまざまな場所でポスターを掲げた(62)

5月2日、広州のトランスジェンダーセンターも、屋外での活動は確認できなかったが、メンバーがポスターを持った写真を微博に掲載した(微博)(63)

5月7日、雲南大学ジェンダー平等促進グループが、ポスターを前に持ってみんなの写真を写した(微博)(64)

また、各大学から来た大学生の競歩のトレーニングキャンプが、5月7日、福建省の福州大学でおこなわれたが、それに同大学から参加したある女子学生が、ポスターを背中に掲げて参加した。彼女は、ポスターの由来を説明して、参加者に宣伝に協力してくれよう頼み、15人が、ポスターを前に置いて、手でバッテンを作って痴漢に「ノー」の意を示した。そうした事例も生まれている(65)

 8.ポスターを使った動画

数人で、歌と踊りを交えて、ポスターを使って痴漢反対を訴える動画を作成した人々もいる。羅志祥の曲「你干嘛(何するの?)」の替歌だそうだ(動画→「【反性骚扰MV之你干嘛?!】」九拾一个人工作室2017年6月1日)。

 9.当局からの監視の目

広州市従化区のある女性は、ポスターを持って外出すると「特別な安全感を感じる」と言っている(66)。セクハラに「NO!」を言う意思が周囲に伝わるので、セクハラに遭いにくい感じがあるのだろう。

しかし、その一方、警備員や警官から監視や追跡を受けた女性たちもいる。

5月13日、ある女性は、北京の三里屯で若い仲間といっしょにポスターを掲げた。彼女たちは噴水の中央に立って、周りの多くの通行人から注目されたが、ショッピングンセンターの警備員と私服警官にもじっと見られていた。彼らは、「ショッピングンセンターでプラカードを掲げて写真を撮ってはいけない」と言った。彼女たちが歩くと、虎視眈々と見ていた(67)

さらに、5月6日、成都で活動したある女性は、「プラカードを掲げて街を歩かなれければ、国家の女性に対する『関心』はわからないし、なぜ反痴漢広告が封殺されているかもわからない。私たちが広告ボードを持って通りを行くと、あちこちに警備員が虎視眈々と見ていて、駆け寄ってくる警備員や、付いてきて観察する警備員もいて、本当に怖かった」(68)と述べている。

 10.大型の固定掲示板よりは効果が低いが、それでも多くの人にアピールする活動として

武漢の武漢大学や万林芸術博物館でポスターを掲げたある男性は、「このポスターは小さすぎて、歩いていても、あまり関心を持つ人がおらず、社会的影響は比較的小さい。今後はそれぞれ都市のバスステーションと地下鉄の駅にみな、痴漢反対の大型の固定掲示板を設けてほしい」とのべており(69)、この意見に対しては累さんも同意している(70)

しかし、まだ公の場でポスターが掲示できない状況の下では、そうした影響力の比較的低い宣伝であっても、全国各地で様々な女性たちが取り組んだのである。

蘇州大学青春同伴社も、「街頭宣伝の影響力は結局限られているけれども『最も難しいことだが、やる人は必ず必要だ』。一面では、私たちは街頭活動を放棄するべきではない。大規模なデモがない社会では、当然手段を尽くして目立つ方法で私たちは大衆の目に入るようにしなければならない」と指摘している。

ただし、蘇州大学青春同伴教育社が、それに続けて、「もう一方で、私たちは意識を育てることも放棄してはならず、対談会・講座・ワークショップ・社会的サービスなどを組織することを通じて、私たちの理念をその中に入れ、知らず知らずのうちに影響を与えて、一人ひとりの公民の素養を高めなければならない」(71)と述べているように、街頭以外での活動も重視しているのは当然である。

 11.小括――運動の広がり、若い女性、多くは1人で

この活動の参加者は、微博で活動を発信したことが確認できる人数だけで50人以上にのぼっている。その中には、グループとしての活動を報告している人もいるので、そうしたグループの一人ひとりを含めれば、70人程度はいるように思われる。

ポスターを見せて歩くと注目を浴びた場合が多いことは、さまざまな人が述べている。すなわち、現場でポスターを目にした人数も、相当に多い。

また、活動の参加者は、道行く人や友人にポスターとともに写真に写ってもらったり、ポスターの裏に署名をしてもらったりすることによって、賛同の意思表明も、かなり集めている。もちろん、それを断った人も大勢いるだろうから、働きかけた人数はかなりの数になると思われる。

活動に参加した人は、写真で見るかぎり、大半が若い女性である。先述のように、大学内での活動が多く、学生の比率もかなり高いようだ。

この活動をグループでおこなったケースもあることは、運動として重要だ。ただし、全体としては、1人でやっているケースが目立つ。1人でやるのはとくに勇気が必要だっただろう。

もっとも、微博の中には、周りに人が写っていない場所で建物とポスターを写した写真を掲載している例もわりあいある。そのケースでも微博に掲載することで広く発表しいることにはなるので、それなりの意義もあり、勇気も必要だと思われる。

いずれにしても、中国の場合、日本に比べても権力からの監視が強いし、露骨なのだから。

地域としては、北京市、河北省唐山市、山西省太原市、内蒙古自治区包頭市、吉林省長春市、上海市、江蘇省の南京市、無錫市、蘇州市、浙江省の杭州市、寧波市、安徽省馬鞍山市、江西省南昌市、湖北省の武漢市、宜昌市、長沙市、広東省の広州市、東莞市、恵州市、仏山市、汕頭市、深圳市、福建省の福州市、漳州市、陝西省西安市、新疆ウイグル自治区ウルムチ市、四川省成都市、雲南省雲南市の27市に及んでいる。

多いのは、広州市、杭州市、北京市、長沙市などフェミニズムの活動が盛んな地域であるが、先述のように、より多くの都市でおこなうために、ボードの提供は1都市5人以内にしたので、さほど特定の都市が突出しているわけではない。

四 警察が呼びかけ人に中止を命令

5月17日、張累累さんの家に彼ら(と書かれているが、警官であることが後述されている)がやってきて、次のように言った。
「あなたが呼びかけたこの反痴漢アクションを止めさせなさい」
「広州では今年後半にフォーチュン・グローバルフォーラムがあるから、引っ越して広州から出ていきなさい。仏山の千灯湖に行けばいい。近いし、にぎやかだ」

これは、累さんがこの一年間で求められた3回目の引っ越し要求だった。

彼らは言った。
「あなたのこの活動は、影響が大きくなりすぎた。必ず止めるように」
「女権五姉妹が反痴漢のアクションで捕まったが(2015年3~4月、フェミニスト活動家の五女性が刑事拘留されたことを指す(72))、あなたのこの行動の性質は、彼女たちとどこが違うのか? あなたはそう思わないのか?」

累さんには警官が言うことがわからなかった。
「私にはわからない。彼女たち[女権五姉妹]は乗客に反痴漢の宣伝をして、その後、乗客が望んだら、反痴漢のステッカーを身につけてもらおうとした。なぜそれが捕まえられるようなことなのか? もし彼女たちが捕まえられなくても、あなたは法を犯していると言うのか?」
「私にはわからない。なぜ、もう金を集めて作ってある反痴漢広告を出すのがこんなに難しいのか? なぜ、最後には私たちの身体をメディアにして出したこの広告も、阻止されるのか?」

累さんは、正式に「私は反セクハラ広告ボードのアクションから手を引く」と宣言し、その後、全国の動きもストップした(21日に、先述の汕頭大学の女子学生がポスターを付けた掲示板を背中に付けて何かの「サロン」に行き、そのサロンの仲間が室内で自分の前に掲げたくらいである(73))。

しかし、張さんは、セクハラの被害にあったことがあるのは自分一人ではないし、多くの女性が被害にあっても、「あなたは悪くない」と言ってもらえず、サポートされない状況があると述べる。

だから、累さんは、「今日、外出する前、しばらく躊躇したが、私は反痴漢のTシャツを着た。私は広告ボードを身につけて外出しないけれども、私は何を着るかを決めることができる」と言っている。

累さんは、「この1年間に、私は3回、引っ越しするように迫られた。去年の6月初め、関係部門は私たちに3日以内に引っ越しするよう要求した。11月には、また協警(治安維持のために半職業的な警察業務の協力者)の暴力的な法律執行にあって、片警(地区を担当する警官)は家主に私たちのことをバラした。それを公開して訴えたため、どうにか引っ越しをしなくて済んだ。今回、彼らはまた、広州を代表して、私を歓迎しないと言って、私と肖美麗を仏山か他の都市に引っ越すよう言った。私は自分が路頭に迷わないかどうかわからない。みんなに注目してほしい」と言っている(74)

なお、その後、この中止命令について述べた記事と、二で記した広告会社との交渉について述べた記事は、いずれも閲覧できなくなった。

六 上海地下鉄に反痴漢広告が登場

上海地下鉄に「今天咸猪手 明天变猪头」という広告が掲示されたことが6月14日、「女権の声(フェミニズムの声)」と「女権行動派(フェミニスト行動派)」の微博アカウントで報じられた(75)。私は中国語のニュアンスはよくわからないが、「今日の咸猪手(口語で痴漢の意)は、明日にはブタの頭になる」という文字が大きく書かれており、鳥がブタを食べようとしているように見える漫画が描かれている。

広告を出したのは「看看新聞」であり、上海テレビ・ラジオ局傘下のメディアなので、中国では公的機関だと言えるだろう。

「女権の声」の微博のエントリは、460を越える「いいね」が付き、50回以上転載され、「女権行動派」の微博のエントリは、280を越える「いいね」が付き、550回以上転載されているので、かなりの反響があったといえよう。

「女権の声」の微博は、このポスターについて、「人を驚かせ、喜ばせるものだと言える。張累累#私が掲示板だ。歩く反痴漢#活動に啓発されたものかどうかはわからない」と述べ、「この広告の言葉について、どう思うか」と問うた。

それに対しては、このエントリを転載しつつ、歓迎するコメント(「良い」「悪くない」「進歩だ」「上海は国際都市に恥じない」)をする人々がいたとともに、以下のような注文を付けるコメントもあった。
・「明日ではなく、今日」でなければならない。
・「もっとはっきり書くと良くなる。婉曲すぎる」

「女権行動派」の微博は「痴漢に反対するもっと多くの広告を」と書いた。

このエントリについては、張累累さんが転載しつつ、「ああ、ついに反痴漢広告が登場した。少し感激している」とコメントした。

こちらの方では、「地下鉄の痴漢ホットラインも設ければ一番いい」といった注文がついた。

おわりに

これだけ全国各地で多数のフェミニストが街頭行動をしたことは、少なくとも女権五姉妹事件以後はなかった。いや、参加者数と広がりにおいては、2012年のフェミニスト行動派の活動開始以後すべての活動の中でも、有数のものではないか。

もってとも、マスコミが報道しなかったので、広く知られなかったと思う。また、ポスターはそれほど大きいものではなかったし、スローガンを叫ぶような音の出る活動は少なかったようなので、現場でも、あまり大きなインパクトは与えなかったかもしれない。

しかし、警官が「あなたのこの活動は、影響が大きくなりすぎた」と述べたように、多くの人が参加した広がりがある活動だったからこそ、警察の弾圧を引き起こしたという面は見ておかなくてはならない。

そして、一部で要求が実現した! 下からの活動は禁止しつつ、要求は一部取り入れるというのは、当局が下からの活動をいかに忌避しているかを示しているそれと同時に、曲がりなりにも要求が一部実現したのは、運動が大きく広がった成果であろう。

活動への弾圧という点だけ見ると、「中国はひどい」とも言える。弾圧については、見過ごせまない。

しかし、かたや日本でも、牧野雅子氏らが明らかにしているように、鉄道に掲示されている痴漢防止ポスターには、本当に女性の立場に立ったものはほとんどなく、マスコミにも電車内での痴漢問題の深刻さを伝える記事や痴漢の加害をなくすための考察はほとんどないのだから、「五十歩百歩」の状況だと言えよう。

むしろそうした中で、中国でも、ある意味日本以上に勇敢に、この問題について活動がおこなわれていることにこそ、注目しなければならないと思う。

(1)以上は、「我们要反性骚扰广告!要在公共空间安全出行的自由!」女权之声2017-01-13(女权行动派很好吃 [ID:genderequality ]の微信からの転載)。
(2)以上は、「中国第一支反性骚扰广告为何历时一年人无法上架?」2017-03-15 F小组 F女权小组(現在閲覧不能)
(3)以上は、累/新媒体女性「行动!这个女孩将成为中国首个反性骚扰肉身广告牌」新媒体女性2017-05-01 14:27:05。
(4)累/新媒体女性「加入反性骚扰百人计划,改变你的城!」新媒体女性2017-05-02 16:09:36
(5)新媒体女性的微博【#我是广告牌,行走反骚扰#百人征集活动报名已截止】【没申到?别着急,求原图和T恤的看下文 】5月3日 18:00
(6)炒鸡可爱反性骚扰t恤【38包邮!】
(7)张累累累累「短故事征集|关于性骚扰,每个女人都有一些事情要分享」新媒体女性2017-05-08 20:59:04。なお、張累累さんは、この文で、女性専用車両の類については、「こうしたやり方は、女性は弱いから保護が必要で、男性全体を潜在的加害者と見なすステロタイプなイメージにもとづいて、女をある空間に入れるものである。もし女性がそれに従わずに痴漢にあったら、非難される。管理者は明らかに安全の責任を女性の乗車の自由を束縛する権力に転化している」と述べている。これは、いささか単純な考え方のようにも思うが、女性専用車両の類の限界や問題点を明らかにした原則的な発想だとは言えると思う。
(8)Eveeeeeen 的微博5月5日 07:21、dvd二号机的微博5月5日 13:02は、カナダのバンクーバーでの活動を報告し、明燚feminist5月7日 19:47は、香港での活動を報告している。
(9)Owen-Zhang1995 的微博5月2日 15:25
(10)老年人_哆啦A英的微博5月2日 21:30
(11)嘛都不董斯拉特國際的微博5月2日 16:01
(12)牛田地主家的天海祐世 的微博5月2日 12:09
(13)夶棋的微博5月4日 19:39
(14)LP____萍的微博5月5日 23:50
(15)Brainy-TheNewSexy的微博5月5日 20:26
(16)GVHY的微博5月5日 23:02
(17)希姫_荣安的微博5月6日 14:50
(18)PePper_GrAss的微博5月6日 20:46
(19)AnnaChung0206的微博5月3日 19:17
(20)小姬顿时大喜的微博5月6日 14:59
(21)彭慧玉是个坏小孩的微博5月6日 20:19
(22)娘才女貌的微博5月6日 16:03
(23)東尼瀧谷神父的微博5月7日 00:31
(24)花绮妍是花花也是发发的微博5月7日 10:11、汰渍想立白的微博5月7日 15:18
(25)嚼梦_ 的微博5月8日 20:22
(26)justfymm的微博5月8日 18:12
(27)骄傲的雯雯酱的微博5月9日 09:13
(28)腿毛該刮了的迷之少女_的微博5月12日 16:14
(29)迷踪疯子的微博5月13日 10:47
(30)一坨的一坨世界的微博5月5日 19:32
(31)一坨的一坨世界的微博5月6日 20:50
(32)一坨的一坨世界的微博5月7日 21:11
(33)探夏aube 的微博5月8日 22:58 、探夏aube的微博5月14日 23:07
(34)车轱辘同志的微博5月13日 20:43
(35)麦子家的微博5月7日 18:28
(36)猪西西爱吃鱼的微博5月2日 20:22
(37)2791639x的微博5月2日 16:49
(38)FatFat1的微博5月2日 20:03
(39)不减肥就不买衣服的羊不羁的微博5月3日 05:55
(40)不减肥就不买衣服的羊不羁的微博5月5日 23:15
(41)不减肥就不买衣服的羊不羁的微博5月8日 14:12
(42)不减肥就不买衣服的羊不羁的微博5月8日 16:09
(43)阿园是比利提斯的女儿的微博5月4日 14:57
(44)然并卵菇凉的微博5月6日 22:26
(45)生命的意义在于静止x的微博 5月6日 22:51
(46)Echova的微博5月9日 21:13
(47)GVHY的微博5月9日 22:25
(48)何宝荣sage 的微博5月9日 21:54
(49)柯基不是狗的微博5月11日 09:11
(50)大牛benben的微博5月13日 23:43
(51)总有刁民想上我松潤的微博5月7日 22:47、总有刁民想上我松潤的微博5月14日 19:08
(52)小旗lilililian的微博5月7日 15:14
(53)萱娇女爵1979的微博5月10日 23:38
(54)碳酸烧酒粥的微博5月13日 21:47
(55)Bcome小组的微博5月7日 21:02
(56)Bcome小组的微博5月7日 21:14
(57)满文雅的微博 5月9日 22:44
(58)满文雅的微博5月11日 00:26
(59)满文雅的微博5月16日 03:02
(60) #我是广告牌,行走反骚扰# 」苏大青同社2017-05-12 02:19:01
(61)苏大青同社的微博5月14日 11:29
(62)Jane_雯雯的微博 5月7日 00:22
(63)跨性别中心的微博5月2日 16:09
(64)susie629的微博5月7日 19:55
(65)停止咸猪手,我们不仅仅在跑步 」2017-05-07 大学生跑步训练营 大学生跑步俱乐部
(66)拒绝炮灰iii的微博5月6日 14:08
(67)爱吃玉米的兔子君的微博5月15日 13:47
(68)古敏怡的微博5月6日 17:53
(69)呼吸困难生存更困难的微博5月6日 16:08
(70)张累累累累的微博5月6日 16:11
(71)苏大青同社的微博5月14日 11:29
(72)本ブログの記事「国際女性デー直前に中国の若いフェミニスト活動家10人逮捕、5人が今も釈放されず」「拘留中のフェミニスト活動家5女性の状況、国内外の支援運動、弾圧の背景など」「フェミニスト活動家5女性の釈放とその後の困難、闘い、弁護士によるセクハラ」参照。
(73)生命的意义在于静止x的微博5月21日 00:04
(74)以上は、「他们说:你必须叫停你发起的反性骚扰行动」张累累累累2017-05-18 23:30:14(現在閲覧不能)
(75)女权之声的微博6月14日 07:42 、女权行动派吃不完的微博6月14日 07:53
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先進的と言われた「深圳経済特区ジェンダー平等促進条例」が空文化?

目次
はじめに――制定当時高く評価された「深圳経済特区ジェンダー平等促進条例」
一 施行に責任を持つ「ジェンダー平等促進工作機構」が施行後4年たっても設立されず
二 条例に規定されている、就職の性差別に対する是正命令も、それに反した時の罰金徴収も、1回もおこなわれず
おわりに――社会運動がなければ空文化は必然

はじめに――制定当時高く評価された「深圳経済特区ジェンダー平等促進条例」

2009年、「深圳経済特区ジェンダー平等促進条例」の「意見募集稿」が発表された。この意見募集稿は、いつも中国の女性政策に厳しい論評をしているフェミニスト電子雑誌『女声』誌も高く評価した。当時、私は、この起草グループの代表が国際人権法・反差別法の研究で著名な李薇薇教授であることが、この意見募集稿に多くの画期的内容が含まれていることにつながっているのではないかということや、しかし他市(北京市など)のケースから見て、この意見募集稿がそのまま成立するか否か不安であることなどを述べた(本ブログの記事「『深圳経済特区ジェンダー平等促進条例』の意見募集稿は画期的だが……」)。

2012年6月、「深圳経済特区ジェンダー平等促進条例(深圳经济特区性别平等促进条例)」は深圳市人民代表大会の常務委員会で正式に採択され、2013年1月から施行された。やはり、採択・施行された条例は「意見募集稿」より後退している点が多かった。しかし、それでも「ジェンダー平等促進工作機構」を軸にしてジェンダー主流化をめざすなど画期的な部分を持っていたし、当時中国のマスメディアには高く評価された(「『深圳経済特区ジェンダー平等促進条例』制定――ジェンダー主流化のシステムを作ったが、具体的な規定は草案より大きく後退」)。

しかし、その後、この条例は期待されたような役割を発揮しているのか?

施行から4年が経過した今、法律業務従事者の沙沙さんがこの点について調査をおこない、その執行状況を具体的に検証した。それは「深圳経済特区ジェンダー平等促進条例実施状況モニタリング報告」としてまとめられた(1)

以下、沙沙さんのこの報告について、ご紹介したい。

一 施行に責任を持つ「ジェンダー平等促進工作機構」が施行後4年たっても設立されず

沙沙さんは、「『条例』の中の多くの規定は実現していない。とくに重要なのは、設立されることになっている『ジェンダー平等促進工作機構』が法規施行4年後もまだ設立されていないことだ」と指摘している。

以下をご覧になれば、この条例では、「ジェンダー平等促進工作機構」が、ジェンダー平等促進、ジェンダー主流化のためのカナメの役割を果たすものとして位置づけられていたことが理解されよう。

第6条 本条例は市のジェンダー平等促進工作機構が責任を持って施行の手はずをする。具体的な機構の編制事項は、市の機構編制部門が別に確定する。

第7条 市のジェンダー平等促進工作機構は、以下の職責を履行する。
 (1)全市のジェンダー平等工作の情況を定期的にモニタリング・評価し、モニタリング・評価報告を発表する。
 (2)関係部門と協調して、ジェンダー予算・ジェンダー監査・ジェンダー統計を実施する。
 (3)本市のジェンダー平等にかかわる法規・規則・規範的文書について、ジェンダー分析をおこなう、または関係単位が分析をするのを指導する。
 (4)性差別を撤廃する政策を立案する。
 (5)関係する訴えを受理し、規定にしたがって処理する。
 (6)法律・法規が規定したその他の職責。

 第8条 市の人民政府(以下、「市政府」と略称する)が国民経済と社会発展計画を制定するとき、ジェンダー平等を促進する目標と戦略を明確にしなければならない。市のジェンダー平等促進機構は、全市のジェンダー平等発展計画を作成・制定し、市の政府の批准を経たのちに発表し、実施を案配する。

 第9条 本市の労働就業・社会保障・衛生保健・文化教育・計画建設・民政福利・組織人事・婚姻家庭などの面の法規・規則の草案がジェンダー平等と関係する内容であるときは、起草単位は市のジェンダー平等促進機構の意見を求めなければならず、市のジェンダー平等促進機構はその法規・規則の草案のジェンダー平等促進に対する影響を研究分析し、性別の影響の分析報告を作成しなければならない。
 起草単位は、性別の影響についての分析報告の受け入れ状況について、書面で市のジェンダー平等促進機構に回答しなければならない。
 市政府の法制工作機構が、市政府の各部門の規範的文書を審査するとき、市のジェンダー平等促進機構にその文書を渡して、性別の影響の分析をさせ、性別の影響の分析報告を作成させることができる。

 第10条 本市の法規・規則及び規範的文書が施行された後、市のジェンダー平等促進機構は、そのジェンダー平等促進に対する影響についての評価をおこなうことができる。
 評価で問題を発見したときは、市のジェンダー平等促進機構は、関係部門に対して改正の提案を出さなければならない。

 第11条 ジェンダー[性別]の影響の分析・評価は、以下の主要な面を含まなければならない。
 (1)男女両性が平等に利益を得て、一方の性別の特殊なニーズにも配慮している。
 (2)一方の性別に不利な差別的対応、制限、排斥をもたらす可能性がある。
 (3)性差別の解消を推進するために取ることができる直接的または間接的措置。
 (4)市のジェンダー平等促進工作機構が必要と認めたその他の内容。

 第17条 ジェンダー予算制度を打ち立て、推進する。
 市のジェンダー平等促進工作機構は、市の財政部門と共同でジェンダー予算指導意見を決定・発表し、各予算単位にジェンダー予算工作をおこなうよう指導しなければならない。

 第18条 市・区の各予算単位はジェンダー予算指導意見にもとづいて、その部門の年度のジェンダー平等促進工作の目標・方式を十分に考慮し、それに応じた予算の割り振りをしなければならない。

 第19条 市・区の監査部門は、各予算単位の年度のジェンダー平等促進予算の執行状況について監査をして、監査意見を出さなければならない。監査で発見した問題については、処理意見と改善提案を提出し、関係部門に是正を督促しなければならない。

 第20条 ジェンダー統計制度を作り、完全なものにする。
 市の統計部門は市のジェンダー平等促進工作機構と共同でジェンダー統計報告表制度を作らなければならない。
 市の統計部門は市のジェンダー平等促進工作機構と共同で年度のジェンダー統計報告を発表しなければならない。

 第22条 市のジェンダー平等促進工作機構は、定期的にセクシュアル・ハラスメント行為防止指南を発表して、国家機関、企業・事業単位、社会団体その他の組織がセクシュアル・ハラスメントを予防・制止する指導をしなければならない。

 第25条 市のジェンダー平等促進工作機構は、必要にもとづいて、市の公安・司法行政、衛生、民政、婦女連合会などの関係単位と共同で、工作調整メカニズムを打ち立て、保護を受けている[家庭内暴力の]被害者のために、法律的援助・医療措置、心理カウンセリングなどのサービスをしなければならない。

 第26条 国家機関、企業・事業単位、社会団体その他の組織が本条例の規定する職責を履行していないときは、市のジェンダー平等促進工作機構は、改善意見を提出することができる。もし改めないときは、市のジェンダー平等促進工作機構は、その単位の職責履行の状況について社会に対して公表することができる。

 第27条 市・区の政府あるいは政府部門に栄誉称号の授与を申請している、あるいは既に獲得した単位で、本条例の規定に違反して情状が悪い者については、市のジェンダー平等促進工作機構は、主管部門にその栄誉称号の申請の却下・撤回を具申することができる。

 第28条 性差別であるか否かで争いが起きた時は、当事者は市のジェンダー平等促進機構に申請をすることができ、市のジェンダー平等促進機構は、性差別である否かの意見を出さなければならない。

この肝心の「ジェンダー平等促進工作機構」が設立されていないのである。

上の条文で挙げられている具体的事項に関しても、沙沙さんは、下で述べる家庭内暴力防止、ジェンダー評価、ジェンダー統計の点以外は、実現していないことを指摘している。

・反DVに関しては、2016年3月に施行された全国的な「反家庭内暴力法」によって、家庭内暴力防止活動がおこなわれている。

・ジェンダー評価に関しては、「深圳市地方法規ジェンダー平等評価委員会」が、ジェンダー平等促進機構のかわりに、一部のジェンダー平等評価をおこなった。

・同様に、ジェンダー統計に関しては、深圳市婦女児童工作委員会が、深圳市の統計局と協力して上の「深圳市ジェンダー統計報告表制度」「深圳市ジェンダー統計指標体系」「2015年深圳市ジェンダー統計報告」を作成した。これらのジェンダー統計を作成する職責は、「条例」では、「ジェンダー平等促進工作機構」の職権だと規定されているにもかかわらず、である。

沙沙さんが、「さらに奇妙なことがまだある」として、次のことを述べる。沙沙さんは、深圳市婦女児童工作委員会事務局と深圳市統計局とに対して、それぞれ、「深圳市ジェンダー統計報告表制度」「深圳市ジェンダー統計指標体系」「2015年深圳市ジェンダー統計報告」の3つの文書の内容の情報公開を申請した。すると、深圳市統計局は、「深圳市婦女児童工作委員会が作成の主体だから、深圳市婦女児童工作委員会に頼むべきであり、公開できない」と回答し、深圳市婦女児童工作委員会は、「深圳市婦女児童工作委員会は、作成の主体ではないから、公開できない」と回答した。

沙沙さんは、「深圳市のジェンダー平等促進機構がずっと設立されていないために、深圳市地方法規ジェンダー平等評価委員会と深圳市婦女児童工作委員会が、市のジェンダー平等促進工作機構の一部の工作を肩代わりしているが、三者の境界は曖昧であり、その結果、お互いに責任を押し付けあうことになっている」と指摘している。

沙沙さんは「市のジェンダー平等促進工作機構の編制は結局どうなったのか?」という点について、以下のように述べている。

「条例」の正式施行前は、メディアは褒める記事ばかりだった。しかし、正式に施行された後は、『羊城晩報』が2014年1月2日付けで、「深圳ジェンダー平等条例は、施行満1年の今なお空中の楼閣のごとし」(2)という記事を掲載しただけである。

その記事には、「編制が凍結されたので、ジェンダー平等促進工作機構はずっと設立されていない(……)深圳市編制事務局の責任者によると、2013年3月から、広東全省において機構の編制が凍結されており、全市的に、新しい機構を増やしていないという。その責任者は、深圳市ジェンダー平等促進工作機構の設立は、今年(2014年)上半期に全市の編制の凍結が解除された後に、継続して展開できる予定だと述べた」とある。

現在はどうなっているのか? 沙沙さんが深圳市編制委員会の事務局に、なぜ市のジェンダー平等促進工作機構が設立されていないのかを質問したところ、以下のような書面での回答が得られた。

「条例」を実施するために、2015年3月、当事務局は、市の婦女連合会内の機構を適正化する調整をおこなった。市のジェンダー平等促進工作機構と市の婦女児童工作委員会の工作内容にはある程度関連があり、工作方法も似ているので(どちらも、政策と計画にもとづく、立案・調整・督促・指導を主としている)、関連する工作を統一的に計画案配するために、当事務局は、市の婦女児童工作委員会が「『深圳経済特区ジェンダー平等促進条例』を推進・実施する」職責を担うことを明確した。

市の婦女連合会の公式ウェブサイトの「部門の職責(部门职责)」の中にも、「市の婦女児童工作委員会の事務局が『深圳経済特区ジェンダー平等促進条例』を推進・実施する」と書かれている。

このような状況に対して沙沙さんは次のように述べている。

市の婦女児童工作委員会に、条例の中のジェンダー平等促進工作機構がすることをできると言うのだろうか? しかし、深圳市婦女連合会にさらに尋ねて得た返信には、「深圳経済特区ジェンダー平等促進条例第7条が規定している市のジェンダー平等促進工作機構の職能・権限と市の婦女児童工作委員会の職能はけっして同じではない」とある。

編制に関しては、2012年7月6日、当時の婦女連合会主席の蔡立は、『中国新聞週刊』の取材を受けたときには(3)、2つの方法を述べていた:一つはまったく新しい独立した機構を設立することである。もう一つは、婦女児童工作委員会事務局と編制を統合し、職能を調整することである。「婦女児童工作委員会は、議事を調整する機構にすぎず、主要な職能は、組織・調整・監督であり、職能は比較的抽象的で、強制力がない。もし新しい機構と統合できれば、もっと多くの適切な職能を賦与されるだろう。」

以上から見ると、現在は、結局、権限が弱い婦女児童工作委員会の体制のままになっている可能性が濃厚だと言えよう。沙沙さんは、より慎重に(ただし厳しく)次のように述べている。

現在の状況は、市の婦女児童工作委員会が市のジェンダー平等促進工作機構の編制と統合したということだろうか? 市のジェンダー平等促進工作機構が今まで4年間設立されていない結局の原因は何だろうか? 責任は誰にあるのだろうか? まさか「条例」の公布は行政上の実績づくりのためで、実行するつもりはなかったというのではあるまい?


二 条例に規定されている、就職の性差別に対する期限を切った是正命令も、それに反した時の罰金徴収も、1回もおこなわれず

次に、沙沙さんは、具体的に就職の性差別禁止規定について調査した。

「深圳経済特区ジェンダー平等促進条例」第16条は、以下のように規定している。

雇用単位が人員を招聘・採用するとき、国家の法律で規定されている場合を除いて、性別の要求をしてはならず、性別・婚姻・出産などを理由として、ある性別の採用を拒否したり、ある性別に対して採用基準を上げたりしてはならない。ただし、性別の比率のバランスについての指導意見、および関係する法律・法規の規定に基づく性別に対する優先・優待措置を除く。

前項の規定に違反したときは、人力資源と社会保障部門が期限を切って命令を下し、責任をもって改めさせる。期限が過ぎても改めないときは、3千元以上3万元以下の罰金に処す。

沙沙さんは、この規定について「条例が施行されてからすでに4年たったが、期限を切って改めさせたり、罰金を科したりした前例はあるのだろうか?」と思い、調査をした結果、以下のことがわかった。

深圳市人力資源と社会保障局の回答によると、深圳市の労働監察の法律執行の職権はすでに各区に移譲しており、企業が「条例」第16条に違反した行為に対する立件・調査、是正、行政処罰などの法律執行の業務は、違法行為が発生した地区の人力資源部門が担っているという。

そこで、沙沙さんが深圳市の10の区の人力資源局または(新区の場合は)社会建設局に、期限を切って改めさせたり、罰金を科したりした前例について尋ねたところ、どの区からも、そうした前例はないという回答が書面で寄せられた(この情報は、主に2017年1月ごろ、情報公開申請によって集めたものである)。すなわち、2013年1月1日に条例が施行されてから、今までに処罰された事例は1つもない。

ところが、沙沙さんが深圳市における求人広告を見てみたら、男性に限定した求人広告があちこちで見つかった。

そこで、沙沙さんは、深圳市の数区の労働監察の電話相談に電話をして、そうした求人広告を通報した。ところが、龍崗区の人力資源局と羅湖区の人力資源局は、就職の性差別の通報は処理のしようがないと言い、さらには「企業には採用の自主権があるから、企業は法規に違反していない」とさえ言った。反応が比較的良かったのは、福田区の労働監察であり、最初に自分から「これは就職の性差別の問題だ」と言って、「問題があれば、資料を送って意見を出してほしい」と述べた。

沙沙さんは、以下のように言う。

たとえ条例が「就職の性差別があったときには、各労働監察大隊は、法規に違反した企業に対して期限を切って改めさせたり、罰金を科したりする」と明確に規定していても、各労働監察大隊には就職の性差別に対する意識が足りないために、主体的に企業の就職の性差別行為を是正することはせず、通報人から完全な資料を手渡されるのを待っているだけで、資料を渡されてからやっと事実を確認する。このような消極的な法執行の態度こそが、深圳で現在、就職の性差別状況があまり改善されていない原因である。

沙沙さんは「『条例』は、起草から誕生までの間は広く注目され、各政府部門、各階層の市民、各地方の学者、各大小のメディアがみな多くの賞賛と期待をした。誰もこの『条例』が空文になるとは思わなかっただろう」と述べている。

おわりに――社会運動がなければ空文化は必然

私は、施行された「条例」が草案より大きく後退したとき、「中国では大衆的な運動に対する政治的制約が大きいので、後退を食い止めることも日本よりいっそう難しい」(「『深圳経済特区ジェンダー平等促進条例』制定――ジェンダー主流化のシステムを作ったが、具体的な規定は草案より大きく後退」)と述べたが、施行後においても、社会的な運動がなければ、空文化するのが必然であろう。深圳には女性農民工を支援する団体はあっても、大学のような若い活動家の拠点もなく、運動が展開しにくいという地域的事情もありそうだ。

もうひとつ、沙沙さんが指摘しているように、メディアが、「条例」の施行前はその意義について報道したが、施行後はその施行状況についてほとんど報道しなくなったという問題もあろう。すなわち、施行状況に対してメディアがチェックし、監視する機能が乏しいのである。以前、最初に触れた『女声』誌が、各地の法規のセクハラに関する条項について、「各地のセクハラに関する定義はみな熱い議論を引き起こしたけれども、法律が出来た後は、情報がなくなってしまう」(4)と指摘したことがあるように、このような状況は、しばしば見られる。

この点もある意味、運動の弱さと関係があり、それと関連する政治体制の問題でもあろうが、注意すべき点のように思う。

(1)深圳性别平等促进条例:反性别歧视制度先锋,如今竟成一纸空文?」归来的女神221 2017年3月21日 11:59:41
(2)深圳性别平等条例实施满 1 年至今仍如空中楼阁」『羊城晚报』2014年1月1日。
(3)深圳立法促进性别平等」中国新闻周刊2012年7月9日。
(4)「中国的法律为什么不好用──从反性骚扰说起」『女声』第3期(試刊)[word](2009年9月28日)。
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マラソン大会への集団的参加や国際反ホモフォビアデーのサイクリングでLGBTをアピール――パレードはできなくとも、パレードのように

目次
はじめに
一 国際反ホモフォビアデーのレインボーサイクリング
 1.北京などでの活動
 2.杭州での活動
二 マラソンに集団として参加 (レインボーマラソン)
 1.杭州での活動
 2.他の地区での活動
おわりに

はじめに

2012年11月、湖南省長沙市で、中国大陸初のLGBTパレード(同志游行)が2~30人でおこなわれた。2013年の国際反ホモフォビアデー(5月17日)(*)にも、同じ長沙市でパレードがおこなわれ、このときは約100人が14省から集まった。しかし、2013年のパレードの主催者の向小寒(仮名、ゲイ)は、警察の許可を得ずにデモをしたという理由で行政拘留12日に処せられた。翌2014年の国際反ホモフォビアデーにも、向はパレードを計画したが、事前に警察に呼ばれて圧力をかけられたため、レインボーフラッグを掲げてスローガンを叫びながら山道を行くイベントに変更せざるをえなかった(「長沙市で中国大陸初のLGBTパレード」「長沙で100人余りのLGBTパレード、しかし発起人は行政拘留12日に」「BLサイト弾圧に対する抗議のパフォーマンス、情報公開申請、声明など 」の四)。
(*)正確には、2009年からは「国際反ホモフォビア・トランスフォビアデー」となり、2015年からは「国際反ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアデー」となっているが、以下では「国際反ホモフォビアデー」と略させていただく。

これ以後、中国ではLGBTパレード(同志游行)と名付けたものはおこなわれていない。すなわち、LGBTの人々が街頭において集団で行進するする自由は封じ込められたように見える。

しかし、それに近いもの、ないしは代わりになるものとして、以下の2つがおこなわれている。

(1)国際反ホモフォビアデーのレインボーサイクリング

これは、毎年、国際反ホモフォビアデーを記念して、5月17日前後の土曜日か日曜日に、集団で、反ホモフォビアを示すTシャツを着て、レインボーフラッグを持つなどして、スローガンを叫びながら、自転車に乗って、各地でホモフォビア反対のアピールや宣伝をする活動である。観光地を回る場合と、大学を回る場合とがある。

これは、2009年に北京でおこなわれたのが最初で、その後各地に広がっており、「レインボーサイクリング(彩虹騎行)」などと呼ばれている。

(2)国際マラソン大会の短距離のマラソンに集団的に参加してアピール(レインボーマラソン)

これは、マラソン大会、特にその非常に短距離のマラソンに集団として参加して、みんなで大きなレインボーフラッグを広げたり、各自がレインボーフラッグを持ったりしながら走る活動である。走りながらスローガンを叫ぶときもある。走っている間だけでなく、スタート地点やゴール地点でアピールすることや、レインボーフラッグやLGBTの権利をアピールする横断幕を掲げて選手を応援することにも力が入れられている。

これは、主に2011年から毎年11月の杭州国際マラソンでおこなわれている。ただし、他の国際マラソンでも見られ、「レインボー[プライド]マラソン(彩虹[驕傲]馬拉松)」などと呼ばれる。

レインボーサイクリングの場合は、途中で停車して資料の配布や対話が可能であるという利点がある。その一方、レインボーマラソンの場合は、多人数でレインボーフラッグを手に持って広げたまま運ぶなど、パレードと同様のことができるという利点がある。

ここでは、レインボーサイクリングとマラソンの両方を毎年おこなってきた杭州の事例を中心にご紹介する。ただし、レインボーサイクリングについては、杭州が最も早いわけでも大規模なわけでもないので、北京などの事例を先にご紹介する。

一 国際反ホモフォビアデーのレインボーサイクリング

1.北京などでの活動

・2009年・北京

本ブログでも当時紹介したが、2009年、北京で、16名の大学生が自転車隊を作って、国際反ホモフォビアデーの宣伝活動をした。彼らは、「同愛無国界(Love Knows No Border、同性愛に国境はない)」という字句が書かれた揃いのTシャツを身にまとい、レインボーフラッグを掲げて、北京の7カ所の大学を回った(本ブログの記事「中国各地で反ホモフォビア・トランスフォビア・デーの活動」)。

この活動のきっかけは、レズビアングループ「同語」のkarenさんが、「愛白」という中国のLGBT団体のロサンゼルスのセンターに実習に行ったとき、「AIDS Life Cycle」という、毎年、数千人がサンフランシスコからロサンゼルスまでサイクリングして、その沿道でエイズ防止のための募金やLGBTの文化活動をしていることを知ったことである。karenさんは、そこから発想を得て、2009年初め、同語の国際反ホモフォビアデーの活動計画を立てる会議で、大学生が自転車で大学を回る活動を組織することを提起した(1)

・2011年・北京

2011年は、北京では、5月15日に、20人が、さまざまなデザインやスローガンを書いたTシャツを着て、「レインボー自転車隊」を結成して、北京の多くの観光地をめぐって、「国際反ホモフォビアデー」の宣伝をした。

15日におこなった理由は、「みんなの時間を合わせるためと、影響力を高めるため」だった。この点は15日が日曜日だったことと関係していよう。

Tシャツにも、「良い同志」「私は同志だ、私は誇りを持っている」「私は異性愛を差別しない」「ホモフォビアノー」「私を治すな、私は病ではない」「どこにも同性愛はある。あなたには見えないだけだ」などのスローガンを書いた。

自転車隊は、午前9時に出発して、天壇、天安門、景山、北海、鼓楼などの北京の有名な観光地を回り、それぞれの建築物の前で、みんなで記念写真を撮るとともに、「私は同志(LGBT)だ、私は誇りを持っている」「ホモフォビアは恥ずべきだ」「私は私だ」「5.17国際反ホモフォビアデー」などと書いた宣伝物を配布した。

天壇では、みんなで声を揃えて「同性愛、私は誇りを持っている」というスローガンを叫び、その場にいた百人以上の観光客の注目を引き、その後、宣伝物を配布したり、国際反ホモフォビアデーの意義を語ったりした(2)

このような自転車を使った宣伝は「流動するレインボー」とも呼ばれ、2011年には、17地区の22のLGBTグループがこうした活動をした(3)

・2012年・北京

2012年には、北京では、5月20日の日曜日に国際反ホモフォビアデーの活動がおこなわれた。自転車隊の人々は、午前中から、「ホモフォビア ゼロトラレンス(恐同零容忍)」と書いたお揃いのTシャツを着て、レインボーフラッグを持ってサイクリングをおこなった。LGBTに対する偏見や差別をなくすために、途中で通行人に宣伝資料も配布した。昼には2組に分かれて、午後も宣伝をおこなった(4)

北京LGBTセンターと同語の5名は、午後は、中国人民大学、北京大学、中国農業大学を回った。彼/彼女らは、1日で合計13㎞を7時間かけて走り、80部あまりの宣伝物を配布し、100人以上と交流をした(5)

・2014年・西安

2014年に西安では、30名近い人々がこの活動をおこなった。午前10時に長安大学を出発して、6大学を回り、学生に宣伝資料を配布して、セクシュアル・マイノリティについての基本的知識を普及した。活動は夕方6時までおこなわれた。

この活動では、ある人に「同性愛は病気だ。ぼくが誘惑されて、汚されるのがこわい」と言われるなど、参加者が気落ちするようなことも何度もあった。しかし、その一方、子どもを抱いた老人に「同性愛はまったく病気ではない。君たちの活動は非常に良い」と言われるなど、さらに大きな喜びや感動もあったという(6)

2.杭州での活動

杭州での国際反ホモフォビアデーのレインボーサイクリングは、2010年に結成された民間団体「向陽花開(ヒマワリの花が開く)‐杭州LGBT」(7)が主におこなっている。

・2011年

杭州では、2011年に最初のレインボーサイクリングがおこなわれた。この年は、5月22日の日曜日の午前8時~10時におこなう予定が立てられている。まず、午前8時に岳廟(西湖の北にある、岳飛を祭った廟)の貸自転車所に集合して、宣伝カードを分配したり、レインボーの印を付けたりするなどの準備をする。8時半に正式に出発して、通行人に国際反ホモフォビアデーのカードや宣伝材料を配布したり、記念写真を撮ったりしつつ、「白堤」(西湖を分ける堤)を通って少年宮(少年少女の文化活動のための施設)まで行くことが予定された(8)。主に西湖の観光地を回るコースのようである。

当日この予定通りおこなわれたかは不明だが、6人がレインボーのマークを付けたTシャツを着て、レインボーフラッグを手に持って自転車を湖畔に停めている写真(9)や、8人が大小のレインボーフラッグを前に掲げて、白堤にある「断橋」という橋で撮った記念写真(10)が微博で発表されている。

・2013年

2013年には、5月25日の土曜日に「Born This Way 私は誇りを持つ」というテーマでおこなわれた。

この年は、9:30-17:00という長時間をかけて、「下沙」という多くの大学が集まっている地区を回った。下沙を回った理由は、この時期は卒業の季節なので、多くの大学の今年度卒業生が4年間生活した大学にもう一度行くことを希望したためだという(11)

この年の参加人数は36人と記されており、大きく増えたように思われる。参加者は各自が「同愛無国界」と書いた揃いのTシャツを着て、手にレインボーのペイントをし、レインボーフラッグを持って出発した。

午前は、浙江メディア学院(9:30-10:00)、杭州職業技術学院(10:00-10:20)、中国計量学院(10:30-11:20)、浙江理工大学(11:30-12:30)を回り、午後は、浙江経済職業技術学院、浙江経貿職業技術学院、浙江金融職業技術学院、浙江財経大学、杭州師範大学、浙江工商大学を回って、合計10大学を回った。

多くの大学では、正門の脇の大学名が大きく記された箇所のそばで、みんなで記念撮影をしている。その際には、後ろに大きなレインボーフラッグを掲げて、前には、「同愛無国界」と書いた横断幕を広げている。

揃いのTシャツを着て、レインボーフラッグを持って隊列を組んでいるためであろうか、多くの大学で、大学に入るときに警備員との攻防戦があったが、それをくぐりぬけて、スローガンを叫んだり、宣伝活動をしたりしている。以下、それぞれの大学での状況を記しておく。

浙江メディア学院では、警備員に侵入を阻止された。そこで、レインボーフラッグをたたみ、正門の50メートル手前で、スローガンを叫ぶのもストップし、分かれて正門に入った。

杭州職業技術学院では、警備員に何をしているのかを聞かれたので、この活動の背景を大いに説明し、意義を大いに説明し、規模を大いに説明したら、解放してくれた。

意気上がった参加者たちは、中国計量学院に行く道でも、「同愛無国界、真愛無性別(同性愛に国境はない、真の愛に性別はない)」というスローガンや、「家家都有同性恋、只你們看不見(どこにも同性愛はある。あなたには見えないだけだ)」というスローガンを叫んだ。

中国計量学院に入るときは、警備員の近くを通る際には、学術問題を議論しているかのように装って学校に入った。図書館前で、卒業生がクラスで卒業写真を撮っていたので、卒業生たちに向けて、「同愛無国界、真愛無性別」とスローガンを叫んだりした。

浙江理工大学では、20分間、国際反ホモフォビアデーやLGBTについての宣伝を、通行人に宣伝物を配布しつつおこなった。

浙江経済職業技術学院では、警備員がじっと見ていたので、自転車から降りざるをえなかった。学院の正門のそばの「浙江経済職業技術学院」という文字も、バスの陰に隠れていたので、別の門のところで記念撮影をせざるをえなかった。

しかし、ちょうどその頃、人通りが多い時間帯になったため、みんなの情熱が戻ってきて、「同愛無国界、真愛無性別」とスローガンを叫びながら自転車で移動し、浙江経貿職業技術学院との正門前での記念撮影をすませ、浙江金融職業技術学院の正門前では「同愛無国界、真愛無性別」というスローガンも叫んだ。

浙江財経大学でも撮影をし、通行人が多かったので、「同愛無国界、真愛無性別」と叫んだ。

杭州師範大学では、管理が厳しかったので、小旗をしまったり、外套を羽織ったりして、校内に入った。また、写真を撮っているとき、警備員が近づいてきたので、そそくさと撮影をすませ、すぐさま退散した。

しかし、杭州師範大学の門の前の通りには、非常に多くの学生がいたので、思わず「家家都有同性恋、只你們看不見(どこにも同性愛はある。あなたには見えないだけだ)」というスローガンを叫んだら、周りの人に注目されて、うれしかったという(12)

・2014年

この年は、西湖と下沙を1日ずつかけて回るという、これまでにない規模の予定が立てられている。具体的には、まず、5月17日(土)の8:30‐16:30に西湖の観光地の白堤、岳廟、蘇堤、長橋、呉山を回り、5月25日(日)の8:00‐13:00、15:00‐18:00には、下沙の11大学を回るのである。ただし、この年は、大学の中には入らないとされている(13)

・2015年

この年は5月17日の日曜日に、10:30から西湖の観光地を回るコースでおこなわれた(14)。大学方面には行っていないようだが、60人あまりが参加しており、人数としては、少なくとも2013 年よりは増えている(15)

・2016年

この年は5月15日の日曜日に、以下のように、午前中だけ、やはり西湖の観光地を回るコースでおこなっている。

9:00~9:30 ボランティア集合
9:30~10:00 参加者受付、ペイント、バザー
10:00~11:30 編隊を組んで自転車ツアー(10.2㎞)
11:30~13:00 みんなで食事、バザー(16)

参加者も、40数人と、それほど多くはない。

ただし、この年は、エイズ問題の活動と結び付けておこなわれたことに特徴がある。

5月15日は5月の第三日曜日だが、この日は、エイズで死亡した人を追悼する「国際エイズ・キャンドルライト・メモリアル(International AIDS Candlelight Memorial)」の日でもある。

また、長い間、「同性愛」も「エイズ」も、社会によって汚名を着させられてきたという共通点がある。

そして、ちょうどこのとき、江西省南昌市から「伴艾騎行」という、エイズ問題についての自転車ツアーをしてきた人々(北京まで行く予定だという)が来たたこともあり、彼らといっしょに自転車ツアーをおこなった。

この年も例年同様、頬にレインボーのペイントをして、レインボーフラッグをマントのように翻したり、レインボーフラッグを片手で掲げたりしている写真や、道行く人に資料を渡して説明している写真がネットに掲載されている。

スローガンとしては、以下のようなことが叫ばれている。
「家家都有同性恋、只你們看不見」
「撑同志、反歧視(LGBTを支え、差別に反対しよう)」
「不男不女不一様、又男又女又怎様(男でも女でもなく、いろいろある。男でも女でもあっても、どうだというのか)」
「好基友、一輩子」(よい同性愛の友人は、一生のものだ)

終了後はパーティーもおこなわれた(17)

二 マラソンに集団として参加 (レインボーマラソン)

1.杭州での活動

「向陽花開‐杭州LGBT」は、杭州国際マラソンへの参加も組織している。

・2011年

「向陽花開‐杭州」のメンバーが初めて集団として参加したのは、2011年11月6日の杭州国際マラソンである。メンバーらは、六色のレインボーフラッグを手に持って、フルマラソン、ショートマラソン、ミニマラソンに参加した。さらに、別の多くのメンバーが「レインボー応援団」を作り、「同志愛生活(同志は生活を愛する)」と書いたレインボー色の横断幕を広げて、参加者を応援した。

写真を見ると、このとき既に、顔に小さなレインボーのペイントをした4人がそれぞれレインボーフラッグの4隅を持って広げて手に持ち、肩や頭上に掲げながら走っており、あたかもLGBTパレードのようである。他に、顔にレインボーのペイントをして、小さなレインボーフラッグを持ちながら走っていたり、選手の応援をしたりしている光景もある。出発前なのか終了後なのかわからないが、「同志愛生活」と書いた長大なレインボーフラッグを前に掲げて15人ほどが記念撮影をしている写真もある(18)

・2012年

2012年の杭州国際マラソンは11月18日におこなわれたが、この年は、事前のプランもネット上で発表している。そこには、以下のようなことが書かれている。

・杭州国際マラソンには、「フルマラソン(42.195キロ)」「ハーフマラソン(21.0975キロ)」「ショートマラソン(13キロ)」「小マラソン(6.8キロ)」があるが、「向陽花開‐杭州」は、主に「小マラソン」に重点を置いて活動を組織する。ただし、他のコースに申し込んでもよい。小マラソンの参加者は、8人一組のグループに分かれて出発して、スローガンなどを唱える。他のコースの参加者については、統一的な割りふりはしない。

・参加者はレインボーの印を付けた物品を身につけてマラソンに参加し、スタート前とゴールイン後には、一緒に記念写真を撮る。当日は、参加者は、出発前に、浙江図書館の入り口に集まって、顔にレインボーを描いてもらうほかに、レインボーのスカーフ、サポーター、スウェットバンドを身につけたり、レインボーフラッグやスローガンを書いたプラカードを受け取ったりする(19)

当日の写真を見ると、まず出発前に、15人ほどでレインボーフラッグを前に持って記念撮影をしている(20)。スタート後も、4人で大きなレインボーフラッグを持って走ったり、レインボーフラッグを両手で掲げたりしながら走っている人がいて、非常に目立っている(21)。その他、ミニチュアのレインボーフラッグを持って走っている人、「同志は生活を愛する」という横断幕の後ろで、おおぜいで応援している人々、レインボーフラッグを持って男どうしでキスをしている人など、多くの写真が発表されている(22)

動画もあり、それを見ると、レインボーフラッグを広げてスローガンを叫びながら走ったり、ゴール後に「同志愛生活」と書いた大きなレインボーの横断幕を広げて、「家家都有同性恋、只你們看不見(どこにでも同性愛はある。あなたには見えないだけだ)」と何度も叫んで注目を集めたりしている (→「【搜狐拍客】杭州马拉松赛场现同性恋高呼“同志爱生活”」)

また、マラソンの前の10月5日と11月3日には、事前に参加者がマラソンの距離や体力の消耗に適応できるようにするためと、参加者の意志と団結を強めるために、みんなでゆっくり走ったり、コーヒーショップで集いをしたりするイベントも設定されている(23)

・2013年

この年の杭州国際マラソンは11月3日におこなわれたが、この年は、「向陽花開‐杭州LGBT」のテーマが、前年のマラソンや同年5月の反ホモフォビアデーまでの「Born This Way 私は誇りを持つ」から「Run This Way 私は私の道を走る」に変わっている。「生まれつき」であることを強調しなくなったということだろうか。

また、この年のプランには、選手とは別に、ボランティアの仕事も書かれている。それは、参加の受付、グッズの分配、バザーでの収入の統計、途中で沿道の観衆に宣伝をおこなうこと、写真や動画の撮影、微博によってリアルタイムで選手と周辺の人々の写真と交流の内容を発信することなどである。

また、小マラソンの選手は8人一組ではなく、7人一組になるなど、少し変わった点もある。また、終了したら、みんなで一緒に食事できることなども書かれている(24)

・2014年

この年の杭州国際マラソンは11月2日におこなわれた。この年のスローガンは「同志(LGBT)たちは立ち上がって、大きな声であなたの愛を語ろう」となっている。

また、この年は、「向陽花開‐杭州」が小マラソンを担当するほかに、「クィアフォーラム」がショートマラソンを担当する計画になっている(25)

参加人数も、また新記録を作ったと書かれている(26)。正確な数字は不明ながら、67人が参加し、そのうち選手が49人、ボランティアが18人だったようだ。性的指向は、ゲイが21人、レズビアンが19人、バイセクシュアルが6人、Questioningが4人、異性愛が10人という。最初の年は20人余りだったのが、70人近くになったと書かれている(27)

また、この年は、多数の大きな写真と比較的長い時間の動画が発表されている。まず、多くの写真を掲載した記事(→「彩虹马拉松,让我们明年,不见不散!」2014-11-11 向阳花开 向阳花开杭州LGBT)を見ると、6時30分に、浙江図書館前に、参加者たちが集まって、受付をし、レインボーの目印になるグッズを受け取り、レインボーのペイントをし、談笑したり、お互いに一緒に写真を撮ったりしていることや、8時から9時30分までは、黄龍体育館で、レインボーフラッグ、バイセクシュアルフラッグ(ピンクとロイヤルブルーの間にラベンダー色がある旗)、向陽花開の旗をはためかせており、スタート後は、大きなレインボーフラッグを複数、横に広げ、大きなレインボーフラッグや向陽花開の旗を旗竿にさしてみんなで軽く走っている情景、終了後は、ゴール地点でしばらく休憩した後、おおぜいで歩いて、バートンコーヒー館に行き、大きなピザを食べて、みんなで楽しくおしゃべりをしたことが書かれている。

上で書かれているように、この年からバイセクシュアルの旗が登場したようだ。

動画(→「向阳花开14年马拉松」)では、レインボーフラッグを持って走ったり、ときに歩いたりしていることがわかる。とくにゴール地点では、全員が集まって、レインボーフラッグを何枚も掲げつつ、スローガンを叫んでいて、しっかりとアピールをしているようすが収録されている。

なお、この年もマラソンの準備活動をしており、10月18日と10月26日に、それぞれ西湖の北にある宝俶山と九曜山に登っている(28)

・2015年

2015年は、杭州国際マラソンは11月1日におこなわれたが、その報告は、次のような書き出しで始まる。

家家都有同性恋、只你們看不見(どこにも同性愛はある。あなたには見えないだけだ)」、11月1日、このスローガンが西湖の湖畔に響き渡った。2日前に台北で挙行されたLGBT大パレードで、変わった服装をし、自分を誇り、レインボーが通りを埋め尽くしたことに羨望や嫉妬をしているのか? いま、私たちはそのすべてをやった。(29)

この年は、前夜、杭州LGBTセンターで「面基大会(「面基」とは、ネット上でのゲイの友人[基友]が実際に顔を合わせることであり、現在では広くネット上での知り合いが実際に顔を合わせること全般も指している)をおこなった。若い仲間たちが4、50人集まって、30㎡あまりの部屋は満員になった。大会では、最後に阿妹(アーメイ。台湾の歌手)の《彩虹(レインボー)》を合唱した。

当日の11月1日は、かなりの雨が降っていて、参加者が集まるかどうか心配されたが、五、六十人の人が集合地点である図書館の玄関に集まり、ペイントやバザー、準備運動をした。

この年も、「同志們站出来 大声説出你の愛(LGBTたちは立ち上がって、大きな声であなたの愛を語ろう)」と書いたレインボーの背景を付けたプラカード(「の」は日本語で書いてある)が掲げられている(30)

この年は、8mの長さの巨大なレインボーフラッグを広げたまま、十数人のランナーが持って走った。そのレインボーフラッグは、官制のメディア「浙江在線(オンライン)」が段橋を走るマラソンの空撮をした写真にも大きく写った。

また、向陽花開の旗を持って半裸にマントを背負った、スパルタの勇士の扮装をした男性が登場し、多くの人の目を引いた。これは、フランス7月革命を題材にしたドラクロアの絵画「民衆を導く自由(の女神)」を模したもののようだ(31)

マラソンでは、「家家都有同性恋、只你們看不見」「不男不女不一様、又男又女又怎様」「撑同志、反歧視(LGBTを支え、差別に反対しよう)」というスローガンが響き渡り、以下の文言を書いた6枚のボードが高く掲げられた。
・「李双双(1962年の映画『李双双』のヒロインで、生産労働に参加し、夫から自立する):台所を出て、人民公社に行こう」
・「同性パートナー:婚姻という束縛は、私たちも選択する権利がある」(「たとえ婚姻が束縛だとしても、私たちも自分が選択する権利がほしい」という意味のようだ(32))
・「白素貞(民間説話『白蛇伝』に登場するヒロインで、その正体は白蛇の精):妖怪も恋愛を談じたい」
・「女:社会の果実を、私たちも半分ほしい」
・「経血は恥ずべきではなく、DVこそ恥ずべきだ」
・「祝英台(民間説話『梁山伯と祝英台』のヒロインで、男装をしている):不男不女不一様、又男又女又怎様」

6枚のうち、3枚がフェミニズムのプラカードであることが目立つ。

ゴールした後は、暖かいコーヒー館の地下室に行ってゲームをし、最後は、自分のことを語り合った(33)

こうした状況についても、大きな写真が多数アップされている(→「彩虹马拉松丨雨中的彩虹色 依旧躁起来的我们!」2015-11-02 向阳花开 向阳花开杭州LGBT、「向阳花开2015杭州彩虹骄傲马拉松小结」花开•杭州 2015-11-03 15:14:24)。

・2016年

この年の杭州国際マラソンは11月6日に開催されたが、この年は、以下のようなスローガンを一斉に叫びつつ走った。
・「家家都有性少数、社会需要包容度(どこにもセクシュアル・マイノリティはいる。社会が包容することが必要だ)」
・「不男不女不一様、又男又女又怎様」
・「撑同志、反歧視」
・「愛情不分性別、同性一様和諧」
・「家家都有同性恋、只你們看不見」
・「不止能頂半辺天、婦女能頂整片天(女性は天の半分を支えることができるだけじゃない。天を全部支えることができる)」
・「打非親、罵非愛、告別暴力和傷害(殴るのは親しさではなく、罵るのは愛ではない。暴力と傷害にさよならしよう)」
・「杭州因多元而美麗(杭州は多元的だから美しい)」

この年も、おおぜいの手によって長いレインボーフラッグが運ばれて、多くの人が一人ひとり大きな旗を掲げた。

この年の状況については、参加者の「零下50°」さんが、次のように書いている。

私たちのスローガンは、セクシュアル・マイノリティ、フェミニズム、反暴力などに及ぶ。私たちは、断橋、楼外楼、西冷橋、岳廟、黄龍体育館では、しばらくストップした。道行く人にレインボーフラッグの意味を問われたときには、ボランティアが熱心に説明した。

レインボーフラッグ以外にも、バイセクシュアル、トランスジェンダーなど、セクシュアル・マイノリティの旗を数枚掲げた。これは、向陽花開は、同性愛だけでなく、いかなる集団の権益も尊重されなければならないと考えているからだ。筆者はかつてイギリス映画《Pride》を見たことがあるが、そこでは、同性愛たちと労働者たちが、偏見から包容へ、誤解から連盟へと変わったという話が語られていた。いかにしてすべてのマイノリティ集団を連合させて、ともに権利の平等を勝ち取るかが、国内の平等な権利運動の次の突破口になるかもしれない。

少なくない友人が、私たちの組織の活動に参加することを通じて、自己肯定の面で大きな進歩があったと語っている。最初は恐怖で奥に引っ込んでいたが、カミングアウトして自分の権利のために努力するようになったという。ある人は、「同性愛者の家族と友人の会」のお母さんたちも来て、私たちの活動を支持してくれたことに心から感動した、なぜなら家族の承認と支持こそが私たちが渇望しているものだから、と述べた。ある人は、レインボーマラソンを通じて、志を同じくする良い仲間たちと知り合いになり、ここで、自分の愛情さえ見つけたと述べた。また、ある人は、来年もつづけてレインボーマラソンに参加したい、このような、みんなといっしょに公の場で権利の主張をすることはとても気持ちいいと言った。

注意すべきなのは、路上でも、少なくない異性愛のおじさん・おばさんが親指を立てて、私たちを励まし、支持してくれたことだ。私たちはずっと異性愛者たちにも、セクシュアル・マイノリティ団体に入るよう呼びかけてきたが、多くの人にはその理由がわからない。なぜなら、みんなは、そうした団体はセクシュアル・マイノリティたちの内部のお祭り騒ぎをしていると思っているからだ。実際はそうではなく、フェミニズムと同じように、多元的セクシュアリティも、一人ひとり利益と関わっている。(‥‥)多元性を主張し、セクシュアル・マイノリティの権利を支持することは、けっしてLGBT+内部のお祭り騒ぎではなく、公衆が主張し、支持することが必要なことなのである。

(34)

2.他の地区での活動

こうしたマラソンへの集団参加によるアピールは、他のマラソンでもおこなわれている。

以下はネット検索によって調べたもので、網羅的な調査ではないが、以下のような事例がある。

・2011年・北京

2011年10月16日の北京国際マラソンでは、ハーフマラソンにレズビアンの大京さんが選手として出場した。大京さんは、服の上に「私は私」「ホモフォビアは恥ずべきだ」というスローガンを貼り、レインボーフラッグを掲げて走りながら、2時間を切る成績をおさめた。

彼女を応援するために、十数人がレインボーフラッグを振り、「頑張れ同志、愛のためにスパート」と書いた横断幕を掲げ、スローガンを叫んで声援を送った(動画→「Rainbow Marathon 彩虹马拉松」)。これは、レズビアン団体「同語」が呼びかけた活動だった(35)

・2013年・太原

計画どおり行われたか否か不明だが、2013年の太原国際マラソンでも、ミニマラソン(4.2195㎞)に重点を置いた、同年の杭州国際マラソンと類似した活動が計画された(36)

・2016年・石家荘

2016年11月13日の石家荘国際マラソンでも、十数人が長大なレインボーフラッグを広げて走ったり、横断幕を数人で掲げたり、プラカードやレインボーフラッグを持って走るなどして、多くの人の目を引いた(37)

おわりに

(1)時期的な変化

参加者数は、杭州の場合、明確に数字として書かれたものを見ると、
・レインボーサイクリングは、(2013年)36人→(2015年)60人余り→(2016年)40数人
・レインボーマラソンは、(2011年)20人余り→(2014年)67人→(2015年)(集合地点で)5~60人
となっており、2014、5年ごろまでは明確に増加しており、その後はそうではないが、さほど減っているとも言い難い。写真を見ても、全体としての増加傾向が感じられる。

また、レインボーマラソンにおいては、2014年ころから、フェミニズムとのつながりやセクマイ内部の多元性(バイセクシュアル、トランスジェンダー)が表現されるようになってきたという変化もある。

レインボーマラソンのプラカードやスローガンの中の「経血は恥ずべきではなく、DVこそ恥ずべきだ」(2015年)とか「殴るのは親しさではなく、罵るのは愛ではない」(2016年)というのは、もともとは行動派フェミニストが提出したスローガンである。また、2014年のレインボーマラソンで、活動当日の「ボランティア管理」を担当した人の名は「麦子」となっているが(38)、これは行動派フェミニストのリーダーの1人である李麦子さんのことではないか。こうした点からは、行動派とのつながりが感じられる。

(2)諸外国のLGBTパレードと中国のレインボーサイクリング、レインボーマラソン

2015年のレインボーマラソンに参加したある大学生は、次のように述べている。「私が見るところ、この活動の意義は、セクシュアル・マイノリティたちの自分のアイデンティティを強めるだけでなく、彼らの公共領域における可視度を強め、人々にセクシュアル・マイノリティという集団に関心を持たせ、LGBTQが身近に存在していることを知らせることにある。」(39)

先述の「零下50°」さんの感想でも述べられていたことだが、レインボーマラソンは、自己のアイデンティティを確立し、仲間を作るとともに、公の場でLGBTの存在や権利を主張する役割を果たしている。こうした意義は、諸外国でおこなわれているLGBTパレードと共通であろう。

2015年の杭州国際マラソンの報告の冒頭を見てもわかるように、中国のレインボーマラソンは、台湾のLGBTパレードを明確に意識している。

また、もし誰かが、長大なレインボーフラッグを運んでいる中国のレインボーマラソンの写真を見たとしたら、多くの場合、これはLGBTパレードの写真ではないかと思うのではないか。

私は昨年の論文で、中国の行動派フェミニストは、地方政府や共産党委員会の前で示威行動をしたり、巨大な政治的横断幕を広げたりすることはせずに、官庁前では、パフォーマンスアートとそれに付随したプラカードなどの掲示をするにとどめることによって弾圧を回避したり、マスメディアにも運動を取り上げやすくさせてきたこと、けれども、行動派フェミニストのそうした活動を写真として視覚的に見ると、官庁や企業に女性たちが要求をしていることを示している点では、弾圧されがちな運動形態と類似したアピール効果を持っていることを述べた。また行動派とも交流がある女性農民工支援団体が、「集会」や「デモ」とは称さずに、写真や動画で見ると集会やデモに見えるような、自らの主張を力強くアピールする活動をしていることも述べた(40)。レインボーマラソンも、こうした運動と同様かそれ以上に、弾圧を回避しつつも、それを写真として見る人には、諸外国のLGBTパレードと同様の視覚的効果を持った運動だと言えるのではないかと思う。

しかし、それでもレインボーマラソンは、他国でおこなわれているパレードとは異なる苦労がある。まず、歩くのでなく、走らなければならない。そのため、ある参加者は「7キロ走ると、ほとんどの人が、履いている靴まで含めて、全身汗びっしょりになった。私はそのために長い間風邪にかかった」(41)と言っている。また、走る速度についても、速すぎれば、沿道の人々にアピールが目に止まらず、逆に「走るのが遅すぎる」(42)と参加者に感じられることもある。

レインボーサイクリングにおいても、大学内に入るに際して、相当の苦労があった。

LGBTパレードはできなくとも、それに近いものを、こうした困難にもめげずやってゆく。そうした姿勢が中国のレインボーサイクリングやレインボーマラソンからは感じられる。

(1)“流动的彩虹”——国际不再恐同日行动(pdf)」同語。
(2)以上は、「国际不再恐同日活动 志愿者彩虹车队京城骑行」淡蓝网2011-05-16。
(3)(1)に同じ。
(4)歧视零容忍:淡蓝网志愿者参与反恐同骑行活动」淡蓝网2012-05-21。
(5)517国际不再恐同日——彩虹骑行见闻」北京同志中心2012-05-22。
(6)同爱无界:西安彩虹骑行呼吁平等」淡蓝网2014-05-19。
(7)ヒマワリの名があるのは、積極的に向上して、陽の光を追い、LGBT内部で積極的で健康的な生活様式を提唱して、自らに誇り持つということと、社会にLGBTの真実の姿を知らせ、人々のLGBTへの偏見を変えて、未来の社会をヒマワリのような暖かさに満ちた、多元的で平等で調和のある社会を作り出すことに努力するということからであるという(向阳花开_杭州LGBT的微博2014-9-25 18:19)。
(8)骑行活动报名!」2011-05-17 22:19:05
(9)言Ada 的微博2011-5-26 14:13
(10)向阳花开_杭州LGBT的微博2011-5-22 09:50
(11)以上は、「向阳花开@下沙008 5.25高校彩虹骑行」。
(12)2013年5月25日【向阳花开@下沙】008高校彩虹骑行活动小结」。
(13)向阳花开034•同志爱骑行•西湖&下沙」、「【转】5月17日•西湖 +5月25下沙•彩虹骑行 」。
(14)517国际不再恐同日 彩虹骑行杭州站」彩虹城市2015-05-12 08:45:12。
(15)国际不再恐同日,中国在行动!」同语桔子报特刊:5.17 国际不再恐同日专题 续。
(16)5.15骄傲骑行 | 老阿姨喊你来过节了」2016-05-10 向阳花开 向阳花开杭州LGBT。
(17)以上は、「伴艾同行 消除污名丨你来彩虹骄傲骑行嗨了吗?」2016-05-16 向阳花开 向阳花开杭州LGBT。
(18)以上は、「杭州同志社团参加国际马拉松大赛(组图)」淡蓝网2011-11-07。
(19)以上は、「向阳花开021•Born This Way杭州彩虹马拉松
(20)向阳花开_杭州LGBT的微博2012-11-18 08:47
(21)向阳花开_杭州LGBT的微博2012-11-18 08:51
(22)酷儿论坛的微博2012-11-19 11:23、向阳花开_杭州LGBT2012-11-18 10:34
(23)向阳花开020•断桥“同”行」、「向阳花开•断桥“同”行•03-Born This Way 杭州彩虹马拉松热身活动」。
(24)向阳花开_杭州LGBT的微博2013-10-1 19:07
(25)以上は、向阳花开_杭州LGBT的微博2014-9-25 18:19
(26)彩虹马拉松,让我们明年,不见不散!」2014-11-11 向阳花开 向阳花开杭州LGBT。
(27)向阳花开037•2014杭州彩虹同志骄傲马拉松小结(图片待补充)」向阳花开•杭州 2014-11-19 00:26:59。
(28)同上。
(29)彩虹马拉松丨雨中的彩虹色 依旧躁起来的我们!」2015-11-02 向阳花开 向阳花开杭州LGBT。
(30)この一文は、彩虹马拉松丨雨中的彩虹色 依旧躁起来的我们!」2015-11-02 向阳花开 向阳花开杭州LGBT。
(31)同上。
(32)この一文は、「5.15骄傲骑行 | 老阿姨喊你来过节了」2016-05-10 向阳花开 向阳花开杭州LGBT。
(33)以上は、「向阳花开2015杭州彩虹骄傲马拉松小结」花开•杭州 2015-11-03 15:14:24、「向阳花开•杭州的相册-10.31彩虹马拉松面基大会」。
(34)2016彩虹马拉松 | 今天,杭州因多元而美丽」零下50° 2016-11-07 10:31:36。
(35)同志亮相北京国际马拉松,彩虹旗飞扬天安门广场」爱白(同语より転載)2011-10-17。
(36)同志爱运动-彩虹马拉松 2013太原国际马拉松赛运动员征集令」山西蓝典2013-08-31 21:29:08。
(37)石家庄国际马拉松赛上的彩虹旗:骄傲做同志」资讯频道2016/11/15 7:37:11、淡蓝同志新闻【石家庄国际马拉松赛上的彩虹旗:骄傲做同志】2016-11-14 15:10
(38)向阳花开037•2014杭州彩虹同志骄傲马拉松小结(图片待补充)」向阳花开•杭州 2014-11-19 00:26:59。
(39)彩虹跑回忆录•一 | 热血青年阿园的第一次彩虹马拉松。」2016-09-25 阿园 向阳花开杭州LGBT。
(40)遠山日出也「行動派フェミニストの街頭パフォ―マンスアート――図像を中心に――」(中国女性史研究会編『中国のメディア・表象とジェンダー』研文出版 2016年)268-274頁。
(41)(38)に同じ。
(42)【彩虹跑回忆录•三】历届运动员们的回忆」2016-11-01 向阳花开杭州LGBT。
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